「どう?少し落ち着いた?」
「うん、まぁ…」
明久はスペースマウンテンを乗り終えて気絶していたため二人は近くのベンチで少し休んでいたところだった。
明久はノリノリで如月ハイランドに来たのだが、どうやらアトラクションが苦手らしい。その証拠に顔が真っ青である。
「私、何か飲み物買ってくるね」
優子はそのまま近くの自販機へと向かう。
「ハァ~」
明久は今まで遊園地に行ったことがなかったので、ジェットコースターの浮遊感がどれほどのものかよく理解してなかった。多少恐怖を感じる程度だと思っていたのだが、実際乗ってみると、その恐怖は想像以上だった。
「ウェップ…。」
まだダメージが抜けきれていない様である。
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「何かアレだな…。アイツがアトラクションダメだったなんてな」
「ホントに意外じゃな」
「…(コクリ)…」
暗いモニタールームで雄二は明久がアトラクションが苦手なのを意外そうな目で見る。秀吉、ムッツリーニもそれに頷く。
明久のあの性格にジェットコースターに恐怖する要素なんて一つも感じられないせいなのかもしれない。
「う~ん。さっきから何かこう…カップルっぽいこと一つもしてない気がするんだけど…。」
愛子は少しつまらなそうに言う。
「じゃあ、此処ならどうだ?」
雄二はマップのある地点に指を指す。雄二が指差したのはお化け屋敷の『最恐戦慄迷宮』(さいきょうせんりつめいきゅう)だった。
「成程…お化け屋敷か…」
「なら、次の作戦を開始しよう」
どうやら次はお化け屋敷を舞台とするらしい。
「次はオレが作戦を実行する番だったな」
そう言い、雄二は暗いモニタールームから出る。
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「はい、飲み物」
「ああ、うん。ありがとう」
優子は明久に缶ジュースを手渡す。缶ジュースの名前は『ヤシの実サイダー』。名前的に少し「飲んでも大丈夫なのか?コレ」という警戒感がある。優子の飲み物も『黒豆サイダー』。見るからに怪しい飲み物だが、優子はそれを気にせず、そのままそれを口に含んでく。
「次、何処に回ろうか…?」
優子はニコリ微笑んで聞いてくる。
それにしても不思議である。普段ピリピリてる優子が普段より柔らかさがある。一体何があったんだと思いながらも、
「う~ん。ど、どうしよう」
何処を回るか考える。
考えるとは言っても明久はジェットコースター系は乗れない。そう考えると、乗れるアトラクションは限られてくる。
すると、優子は少し照れくさそうに、
「じゃ、じゃあ、観覧車はどうかな…?」
少し、もじもじとした態度で聞いてくる。
「あ~…」
観覧車なら、先程の『スペースマウンテン』みたく異様な浮遊感を感じることもない。明久が顔を青くすることもないだろう。
「じゃあ、そこにしようか」
明久は優子の意見に賛成する。
「うん。」
優子も嬉しそうに頷く。
その時だった-――――――。
「イヤイヤ、君達…。そんな観覧車なんてヌルイ乗り物なんて乗らないでさ、ここはお化け屋敷で楽しんで行こうよ」
やや背のある赤髪の髭を生やした中年くらいの男性が現れる。恐らく店員だ。彼の右手に持ってる看板には『最恐戦慄迷宮』(さいきょうせんりつめいきゅう)と書かれている。
「…何か何処かで見たような…」
確かに中年の男性ではあるのだが、何処か普段見るような顔にも見えた。何処か親しげのある感じだ。
「いえいえ、気のせいだってば」
「そうかな…」
少し気になりはしたが、詮索するのはやめておく。
「優子さん、どうする?お化け屋敷も寄ってく?」
「え…お化け…屋敷…」
優子は何故か表情を固くするが、暫くして、「いいわ。行きましょ。」と言う。
「よし、じゃあご案内しまーす」
店員は明久達をお化け屋敷『最恐戦慄迷宮』(さいきょうせんりつめいきゅう)に案内する。
――――――――――――――――――――――――――――――
深い闇―――――。
此処では視覚は機能しない。目に映るのはただ闇だけである。
歩行距離は約900m。正直、ホラー系が苦手な人にとってかなりある距離だ。
それが『最恐戦慄迷宮』…。正確には『最恐戦慄迷宮・暗黒病棟』。つまり、病院が舞台となっている。
「………」
多少緊張する物はあるが明久はそこまで怯えたような感じではない。
しかし、隣にいた優子はブルブルと震えていた。
「あ、あの、木下さん?」
「ヒッ!?」
優子は恐怖したような声を上げる。
「び、ビックリさせないでよ!」
「ああ、うん。ゴメン」
先程は明久が顔を青くさせてたが、今は優子の方が顔色が悪い。立場が逆転している。
「木下さん、手握ってあげようか?」
明久は優子に手を差し出す。流石にここまで恐怖している女の子を見るとこうしたくなる気持ちも分かる。
優子はその言葉に少しキョトンとしていたがしばらくして頬を染めて、
「あ、ありがと…。」
小さく、小声だが感謝の気持ちを述べる。
そして、しばらくその状態で歩いていると…。
「ヴヴァアアアアアアアアアアヴぇッ!」
急に病棟の患者が現れる。患者とは言ってもとても人間の姿とは言えない、そんな姿だった。
「きゃあああああああああああああああああッ!」
その患者が出ると共に優子は恐怖の叫びを上げる。その叫び声のせいだろう。優子の手は先程よりもギュッと握りしめられる。
(相当怖いんだな~)
そんな風に暢気に考えてた明久。だが次の瞬間―――。
ボキリ…と何か嫌な音の響きが耳に入ってくる。コレは病棟の患者の仕業ではない。上下左右見てもそんな音をする原因のものなんて見当たらない。
じゃあ、何処から――――?
「…っ」
すると、優子の手を握ってる明久の右手にかすかだが痛みを感じる。
「アレ?」
微かな痛みだと思ったが、その痛みは次第に強くなっていく。
(痛ぁああああぁああああああああああぁッ!?)
次第に右手に感覚がなくなっていく。どうやら優子の握力で骨折したらしい。思いっきり叫び声を上げたいが、叫び声を上げると余計右手を握る力が強くなると思ったので、痛みを何とかこらえ、腹の底から叫びたい気持ちを殺す。
ガタンッ!ガタガタガタッ!
今度は壁を叩きつけるような音が聞こえる。
「キャアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
ボッキンッ!
『bdさjkふぁえghねghれいwgひぼwhrッ!!』
再び激痛が明久を襲う。思いっきり叫び声を上げたいがその気持ちを何とか声にならない叫びに留める。
今度は恐怖におびえた優子が無意識に明久の脛の部分を思いっきり蹴ったのだ。そこでまた骨折。
明久は悟る。このままでは確実に命を取られると…。
店員に勧誘された時に素直に断っていれば良かったのだ。だが、その判断を誤ったせいで今、二か所の骨が折れている。
このお化け屋敷で何とか生き残ること。それが明久の今の目標だ。
(生き残るぞ、絶対に――――!!)
――――――――――――――――――――――――――――――
その晩―――。
明久は入院することになった。原因は数か所の骨折だ。
「だ、大丈夫?吉井君」
「ああ、うん。まぁ…」
明久は骨折の痛みに堪えながら答える。何とか生きて帰って来られたが、今の明久に歩く力などない。
一番怖いのは優子が自分で骨を折ったという自覚がないことだ。その為、優子はどうして明久がこんなにボロボロなのかを知らない。
普段ピリピリとしたオーラを纏う優子も怖いが、恐怖におびえた優子はもっと怖い。
そんな優子の側面に気づく明久だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな明久と優子の姿を病室のドアの隙間から眺めている者達がいた。
「おいおい。結局、カップルらしい行為なんて一つもしてないよな、コレ」
「うん、まぁそうだね…。」
雄二と愛子は「やれやれ」と言いたそうな表情を浮かべる。
「でも、少し安心した。」
「安心?」
ニコリと微笑む愛子を見て雄二は不思議そうな表情を浮かべる。
「私は優子と付き合いが長いから分かるんだけど…。あの子、いつもいつもピリピリしててこう近づきにくいものがあるのよね。私はすぐに慣れたけど、それが原因で優子から距離を置く人も少なくない。国家騎士になったら一段とそのオーラは強くなってったわ。まるで騎士と言う重荷を背負わされてるような…ね。」
「ウム…。それは分かるの」
弟である秀吉には愛子の言いたいことが何となく分かる。
「でもね、昨日、久々に会ったらそのピリピリしたオーラは少しだけど柔らかくなってた感じがした。何だろうと思ったら、あの子が変えてるんだね、優子を」
「明久じゃな」
「うん。」
普通の人が見ればそんなに大したことはないのだろうが、愛子にはそれが不思議だった。
「吉井君の前では、あの子はこの国を代表する国家騎士ではない。ただの女の子になる。不思議ね…。あんなに楽しそうな優子、初めて見る…。」
愛子は嬉しそうだった。
騎士ではない。優子が普通の女の子として居られるのを心の底から願っているのだ。
(ありがとう、吉井君。)
『スペースマウンテン』はディズニーランドのアトラクション
『最恐戦慄迷宮 暗黒病棟』は富士急ハイランドのお化け屋敷です。