僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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脱獄

 王宮には七人の騎士がいた。国家騎士と言われる騎士の中でも上位の位に立つ騎士達だ。

 今、ここに居るのはカヲール二世から急な召集がかかったからである。

「いや、急な呼び出しで悪かったね。」

 カヲール二世はそう言うものの、美味しそうにカツ丼を食べている。二年経ってもこういうところはまったく変わっていない。と言うより、一生この性格は直らないのかもしれない。

「あの、私達を呼んだ理由はなんですか陛下?」

 国家騎士達の中でも一番真面目そうな小山友香が自分たちを呼び出した理由を問う。

「ああ。ちょっと面倒なことが起きてね…」

 カヲール二世はハア溜め息をつく。その場にいる七人全員が何だ?と顔を見合わせている。

「前任の第一国家騎士、根本恭二って居ただろ?」

 すると、全員がコクリと頷く。全員がその名を知っていた。

 何故なら彼は以前国家騎士であるにも関わらず同じ仲間である国家騎士達を襲撃していた。

 今、第一国家騎士に立つ明久でさえ根本との戦いにはかなり苦戦を強いられた。だが、黒い剣を召喚したことで状況は明久が有利になり、彼はギリギリではあったが根元に勝つことが出来た。

 そして、根本は当然重罪人。彼は最下層の牢獄、『無間』に入れられる。

「んで、そのクソヤローがどうしたんだよ?」

 土方は毒舌っぽく聞く。

「ああ。脱走した」

 すると、その場の空気が沈黙に包まれる。

「は…?」

「いや…ちょ…今、何て言った?」

「あん?脱走した。」

 カヲール二世はカツ丼をガツガツと頬張りながら言う。ちなみにもう19杯目だ。

「いや、ちょっと待ってください。かなり緊急事態じゃないですか、それ…。」

 清水美春はかなり焦った様子で言う。

「陛下、暢気にカツ丼を食べている場合でないのでは…?」

 久保も少し困ったように言う。

「雄二…」

「あん?」

「王ってもっと頭良いのかと思ったよ」

「気にするな。明久。この国はちょっとイレギュラーなだけだ。」

 確かにこの王都はイレギュラーであった。下級騎士の明久がこの二年間で国家騎士に上りつめたくらいだ。相当イレギュラーなのかもしれないが、その点に関しては明久は何も言えないハズなのだが、本人はそれに気付いていないらしい。

「まあ、そんなわけでだ。根本追跡の任務は土方、お前に任せる。」

「は?オレだけ?」

「大事な国家騎士を全員追跡させてどうする?ここはお前に任せたよ」

「しょうがねぇな」

 土方はため息交じりに言う。何と言うかかなり態度が悪い気がする。

「んで、俺達はどうすりゃいい?」

 雄二はカヲール二世に聞く。当然、こんなことが起きては残された六人も何もしないという訳にはいかない。

「お前たちはいつも通り町の巡回を。ただいつも以上に念入りに巡回しろ。」

 特にこれと言った特別な任務ではなかったが、確かに町の安全を考えれば、重要な任務である。

 全員、「はい」と返事をし、それぞれの任務に赴く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あ。明久さん」

 扉を開けたすぐそこには優衣が居た。

「ああ。優衣ちゃん。待たせたね。」

「いえ。これも従者の務めなので。」

 真面目そうな口調で優衣は言う。こういうところは本当に姉の優子と似てるなぁと思わせられる部分だった。

「優衣ちゃん。こんなのに従うって大変だろ?」

 からかうように口を挟んできたのは雄二だった。この友人は何年経とうが自分の悪口を減らす努力は一切しない。何か言い返しても、この友人は頭が良いので結局、明久が切羽詰る状況となる。

「ええ。慣れましたけど」

 優衣はキッパリと言う。明久は二人から視線を逸らし、ふてくされたような表情を浮かべる。

「ホント、お前の面倒見れるのは優衣ちゃんだけなんじゃねえの?」

「え…いや。そんなこと…。」

 優衣は少しだけ頬を染める。しかし、明久は、

「何をバカなこと言ってるのさ。僕は自分のことくらい自分で…いッッ!?」

「いつも世話になっておいていい身分ですね…」

 優衣は明久の足を思いっきり踏みつける。小さい足の割に踏みつける力は尋常じゃない。

「吉井君、君の世話なら僕が喜んでしよう」

 目をキラキラと輝かせ、話に割り込んできたのは第四国家騎士の久保だった。太陽のように眩しい眼差し。しかし、それは何処か寒気を感じる怪しい視線でもあった。

「え…と、久保君」

「な、何だろう?吉井君」

 久保の息遣いは荒い。運動したみたく「ハァ、ハァ」と、もうとにかく危険なオーラを出していた。明らかに変態だ。

「ちょっと気持ち悪い。」

「ええっ!?」

 久保はかなり衝撃を受けたようだった。そして下を向いたまましゃがみこんでしまう。

「ありゃ、言い過ぎたかな」

 明久は少し申し訳なさそうに言う。

「いえ、でも事実ですし。」

「ああ、顔面の一発くらいは殴っても罪にはならないと思うぞ。」

 しかし、二人もどうやら同じことを考えていたらしい。雄二に関しては明久以上に傷つけるようなことを考えていたらしい。いくらなんでも顔面を殴るのは行きすぎな気もする。

 すると、優衣は話を切り替えるようにして、

「それよりも明久さん、陛下に何て言われたんですか?」

「ああ、そうだったね。実はとんでもないことが起きたらしくてね。」

「は?とんでもないこと?」

「うん。根本恭二の脱走。」

「え…!?」

 優衣の表情は驚愕に包まれる。それも当然だ。根本は数ある牢獄の中でも最下層にあると言われる『無間』という脱獄不可の牢獄に入れられていた。

「あの牢獄を抜けるなんて…」

 優衣は眉間にしわを寄せる。ひと時も気を抜けない、そんな表情だ。

「で、任務の方は?」

「ん、いつも通り町の巡回。」

 明久は少し気の抜けたように言う。

「え?こんな時に暢気に巡回ですか?」

「いや、こんな時だからこそだよ」

 口を挟んだのは雄二だった。雄二も明久と同じでそこまで真剣そうな表情ではなかった。ただ、自分に出来る務めを果たすだけ、そう言いたげな表情だった。

「それに根本の追跡に関しては土方君に言い渡されてるしね…」

 そう、第七国家騎士の土方だけ追跡任務が言い渡され、他は普段通りの巡回。こんなことなら、他の上級騎士あたりにでも任務を言い渡した方が良いような気もするが、相手は元国家騎士で、その中でも頂点に立っていた男。そう考えれば、国家騎士の一人と他の上級騎士二人くらいは必要となる。

 かといって、国家騎士全員で出れば、王都の守りが手薄となり、襲撃を受けた際に堪えることが出来ない。

「ま、じゃあいつも通り巡回してくか」

 明久は手首を伸ばしながら言う。

「そうですね…。」

 優衣もそれに同意する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 土方は解散した後、すぐに追跡任務を開始するために従者である近藤、あと従者ではないのだが、沖田、山崎も商店街に呼ぶ。

「トシ。任務ってのは?」

「ああ。根本恭二の追跡だ。」

 近藤の質問に土方はタバコを吸いながら答える。たまたま通りかかった中年女性が「まぁクサい」と言ってくるが、聞かなかったことにする。今は任務の説明をするのが優先だ。

「ありゃ、あのクソヤローは脱獄したんですかい?」

「ああ。それで俺らは今回ババアから追跡の命令を出された。場合によっては殺す許可も出されている。」

 それを聞いた沖田は服のポケットから何かを出そうとする。そこから出てきたのは、

「土方さん。どうです?このパンツをはいてみては?」

 そのパンツには『必勝』という文字が描かれていた。

「おい、コラ。お前任務を何だと思ってんだ?てか、何に必勝する気だ?」

 すると、沖田はがっかりした表情で、「ありゃ、ノリが悪いな。土方さん。」などと言う。

 何がどうノリが悪い?と突っ込もうとしたとき、急に三人はその場でズボンを脱ぎ始める。

「ちょ、おい。お前ら何をやって…!?」

「すごいでしょ?この必勝の文字。三人ともお揃いのパンツなんですよ。土方さんもどうです?」

「どうです?じゃねぇッ!ズボンはけよッ!」

 土方は怒声を放つ。この三人のする行動はいつも異常なため、突っ込まざるを得ない。そのため、身体的疲労よりも精神的疲労の方が大きい。

「ねぇねぇ、何であの人たち裸なの?」

「見ちゃいけません。アレは露出狂という変態魔の一種です。」

 後ろからはそんな親子の会話が聞こえてくる。土方は疲れたように掌を頭に当て、「ハァ」と溜め息つく。

 もう少し変態呼ばわりにされるこっちに身にもなってくれ…それが彼の心の中の声だった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 商店街はとにかく騒がしかった。一つはいきなりズボンを下ろし、必勝パンツを見せる四人組。

 そして、そこから少し離れたところでは…。

「お姉様ーーーーーッ!」

「え…ちょ、み、美春!?」

 第五国家騎士の清水美春は従者である島田美波のまな板に近いような胸に飛び込んでくる。

「ちょ…こんな人前で…とにかく離れなさい!」

「いいえ、影でこっそりお姉様のペッタンコを堪能するなんて我慢出来ませんッ!そのためなら私は羞恥心を捨て…」

「捨てるなーーーー!」

 羞恥心を捨てると言おうとした美春の言葉を美波は途中遮る。

「ねえ、お母さん。なんであの人たち女同士で抱き合ってるの?」

「見ちゃいけません。あれは同性愛というヤツです。」

 後ろからはそんな親子の会話が聞こえる。

 羞恥心を捨てた美春は何ともないのだろうが、美波にとってこの状況はかなり堪えがたい。

「キャアァアアアアアアアアアアアアッ!」

 そんな悲鳴が商店街中に響き渡る。

 

 

  **************

 

 

「で?私達はいつも通り巡回をしてればいい訳ね?」

 美波は美春に質問する。

 美春の頬は赤くはれ上がっていた。その理由は美波に打たれたからだ。自業自得ではあるが…。

「あう…。はい」

「じゃあ、さっさと行くわよ。」

「あ、ちょっとお待ちください、お姉様」

 ようやく二人の巡回任務が始まる。

 

 


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