僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

54 / 58
阿修羅

 剣と剣が激しく響き渡る。

 一つは竹原の剣『ガラチン』。円卓の騎士の一人、ガウェインの名剣だ。

 そしてもう一つは高城の持つ『竜殺しの聖剣』(バルムンク)、『魔剣グラム』だ。

 剣術の腕はほぼ互角。圧倒的な力の持ち主である高城の攻撃も竹原は軽々回避し、攻めていく。

「フ…。流石…と言っておきましょうか。」

 高城はそれでも窮地に立たされているわけではなかった。高城もまた竹原の攻撃を片方の剣で防ぎ、もう片方で攻撃を詰めていく。

「流石…ね。それでも、オレはお前の実力は知ってるつもりだ」

 竹原はニッと笑った。何かを企んでいる、そんな笑み。

 高城はそれに気づかなかった。その企みは既に高城の後ろに迫っているにも拘らずだ。

「ォオオオオオオォオオオオォオオオオォッッ」

 重い拳が高城の頬に触れる。高城は口元、鼻穴から鮮血を噴きだし、一キロメートル先へと吹っ飛んだ。常人が持つ腕力ではなかった。

 常人離れした腕力の持ち主―――西村宗一だ。

「助かったよ。西村」

 素直に感謝の気持ちを述べる竹原。

「いいえ。まだ安心するのは早い。彼はまだ生きているはずだ」

 西村は眉間に皺をよせ、拳を強く握る。

「ああ、今のはとても良い一撃だ。流石は人間を上回った人種とでもいいますか…。西村宗一」

 顔中血にまみれながらも、笑みを絶やさない高城。西村の常人離れした拳は外見的な傷だけではない、内面的―――つまり、内臓にも相当負荷が掛かる筈なのだ。なのに、この反応はある意味化け物だ。

 そして、高城は二人に襲いかかる。

 だが、高城の動きは遅かった。今の西村の攻撃が相当効いたみたいだ。

 竹原も動く。速度は高城より速かった。そして、頭上には高城の剣が迫っていた。

 そこで竹原は柔軟を活かしてその攻撃を回避。そして彼の右腕を斬りおとした。

「…な…」

 しかし、まだ左腕にも剣を握っていた。その残った左腕に全霊を降り注いで竹原に斬りかかる。

 しかし、後方に西村の攻撃が迫ってるとも知らずに彼は再び西村の拳に触れる。

「ぐぁアアァアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアッッ」

 高城は絶叫する。彼が此処まで追い詰められたのは恐らくこれが初めてかもしれない。

 それは恐らく竹原だけでも彼を追い詰めることは出来なかった。そして超人という常人から外れた力を持つ西村だけでも彼は倒せない。

 二人いたから追い詰めることが出来た。

 そして、二人に追い詰められた高城は地面にめり込まれた状態で、起き上がることが出来なかった。

「…ハ…ハ。僕の負け…か。」

 高城は悟ったように言う。そんな高城に竹原は見下したように言った。

「ああ。お前の負けだ。これでフミヅキは平穏を取り戻せる」

 すると、高城は、

「ハ…ハハハハハハ。平穏?何を馬鹿な…」

 何かを言いかけようとしたところで高城は竹原の剣により胸を突き刺される。

「…終わったな」

「はい」

 竹原の言葉に西村は頷いた。

 そう、これで全て終わった。この世界を混乱に招いた大罪人は死んだ。

「ですが、妙ですね…」

 西村は言う。

「何がだ?」

「俺達がずっと打倒を目標とした高城がこんなにも呆気なくやられるなんて…」

「…あれだよ、雑魚だったんだよ。」

 竹原の頭の中は既に自分が高城を倒した英雄化され、浮かれていた。そのため、もう高城が強い、弱いというのは大した問題ではなかった。

 だが、そこで声が聞こえた。それも有り得ないところから。

 先ほど、竹原と西村が倒した高城の遺体から声が聞こえた。

「…確かに終わりました。」

 高城の口は動いていた。それは本当に有り得ないことだった。彼は胸を剣で貫かれているのだ。

「《人》としての僕は死にました」

 高城はさらに口を動かした。

「此処からは《神》として戦闘を望もう。この『修羅界の王』が。」

 すると起き上がれない筈の体を野良猫のようにムクリと起こし、立ち上がる。

「さあ。戦おう。修羅こそが僕の生きる世界。」

 高城の姿が形を変えていく。『人』から『神』へ。

 高城の髪は白銀へ変わり、瞳は真紅に輝く。そして獣のような牙。

 そして何よりも人間らしさを見せない部分は六本の腕が生えていた。

「お前は…何者だ…?」

 竹原は息を飲んで問う。そして、高城は答える。

「…高城雅春なんて言う名は本当に仮の名に過ぎない」

 そして高城は言う。

「僕の本当の名は『阿修羅』(あしゅら)だ」

 彼は不気味ともいえる笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 下の方から地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界、声聞界、縁覚界、菩薩界、仏界という十にもわたる世界が存在する。これ等全ての世界を『十界』と言う。

 人間はこの地獄界から天上界までの世界を繰り返していると言われている。いわゆる六道輪廻というものだ。

 その中で修羅界という世界。そこはまさしく戦の世界。争いの堪えない世界だ。

 そこには神が居た。戦闘神ともいえる神。その神の名こそ『阿修羅』(あしゅら)。

 彼は帝釈天、そして四天王といった神々に幾度も戦いを挑んだ。

 理由は彼の娘である舎脂(シャチー)を帝釈天の妻にしようとしたのだが、帝釈天はそれに待ちきれず、遂には阿修羅から奪ってしまった。

 それに当然、阿修羅は怒った。

 しかし、舎脂は帝釈天を愛した。そのことに阿修羅はさらに怒った。そして戦いを挑んだ。しかし、彼には勝つことが出来なかった。

 だが、彼は滅び修羅界の主になったとされるが、彼は何度滅んでも何度でも甦り、何度でも帝釈天と戦い続けるとも言われている。

「つまり、お前は…人ではない?」

 竹原は恐る恐る訊いた。

「ええ。この六本の腕、真紅の瞳、白銀の髪、獣のように鋭い牙が証拠でしょう」

 高城雅春と呼ばれた男―――阿修羅は答える。

「う…オオオオオオオオオオォオオオオォオオオオォッッ」

 西村は拳を振るう。

 だが、高城は表情を変えない。高城の攻撃を素手で止めた。

「…確かに君の力は脅威です。人間からすればね。ですが、神にはこの程度は攻撃とは言わない。」

 すると、高城は手刀で西村の腹部を斬り裂いた。

「が……っ」

 西村はゆっくり倒れる。人間よりもはるかに強い肉体、生命力を持つ西村だが、神の前ではこうも脆い。

 そんな姿を竹原はただ茫然と眺めていた。

 これは人間では勝てない…人である限り永遠に勝つことが不可能なのを悟る。

「後ろ…。ガラ空きですよ」

 高城は手刀で竹原に襲いかかる。

 だが、目の前に人影が現れる。その影は――――。

「へ、陛下ッ!」

 カヲール二世は『天叢雲剣』を向けるが手刀により弾かれる。

 そして手刀は真っ直ぐ、カヲール二世と竹原を襲う。

「ぐ……はぁッ」

「ご……ぁ」

 二人は倒れた。

「ハハハハハハハハ。君達は良くやったと思います。ただ相手が悪かったんですよ。ああ、それと君たちの剣は僕が頂きましょう。」

 そう言い、高城の姿は消えていく。

「陛下…。申し訳ない。」

「いいや。誰のせいでもない。これ…は本当に文月が崩壊するかもねぇ」

 いつになく弱気になるカヲール二世。

 そして、傷口からは血が止まらない。地面に沁み込むように流れ込んでくる。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 木下優子の姿をした少女―――アリスは町の外れにいた。

 そこは死霊兵による被害で死体しかなかった。彼女はその死体を見つめた。

 アリスとなる前―――。つまり前世でも争いは幾度となくあった。それどころかアリスは騎士達を指揮する王だった。

 騎士達は皆彼女についていき、そして数々の戦場を潜り抜けた。

 そして、彼女も迷うことなく剣を振るった。彼女の伝説は後世にまで伝説を残し、語られていった。

 だが、その為に何人もの騎士達が名誉だの栄誉だので命を落とした。彼女はそれを間違いなく自分のせいだと思っている。

 自分を信じ、ついて行ったがために命を落とした。

 自分は恐らく狂っていた。王でありながらも、普通の町娘のような生活を心の何処かで憧れた。

 しかし、そんな思考は許されない。自分を信じついてきた者達がたくさんついてきた者がいる。死んだ者がいる。

 自分だけ幸せになることは許されない。

 しかし、どんなに自分を攻め続けてもやはり会いたかった―――。彼に。

 自分を騎士でも王でもない、ただの女として接してくれた彼に―――。

 

 

 そのとき声が聞こえた。聞き間違いではなかった。自分を呼んでくれる彼の声が―――。

 

 

「アリス……。」

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 明久は町中を走り回っていた。

 避難出来た人達も居たのだが、死霊兵の襲撃により命を落とす者も多数いた。

 町には血と死体の匂いが漂っていた。

「……ッ」

 明久は唇を噛みしめた。

 この全ての元凶は恐らく高城の仕業だ。しかし、そこにはアリスも彼に協力している。

 当然、彼女が望んで高城に協力してるわけではないことも分かっていた。

 しかし、それでもやはり思う。これだけの人が命を落としている。彼女は一体どんな気持ちでその光景を目にしているのか…?

「「あああああああああああああああああああああああああああああああ」」

 死霊兵が攻めかかった来た。

 明久は黒い剣を召喚し、斬り裂いていく。数は先程よりも少ない。しかし、数百体はいる。

 明久は死霊兵の攻撃を上手く躱し、斬り裂いていく。だが、それでも数は多い。

 だが、明久の斬撃、そして速さ、回避能力といった力が格段に上昇していく。

 黒い闘気を全身に纏わせたのだ。それによって急激な身体強化が発動したのである。

「ォオオオオオオォッッ!」

 明久は次々と斬っていく。しかし、そこで死霊兵の動きはピタリと止まる。そして何故か後退していく。

「…?」

 明久はその理由が分からず、彼らの後を追いていく。もしかしたら何か分かるかもしれない。

 そして死霊兵の行き着いた先は――――。

「……!」

 そこには腰まで伸びる長い髪の少女がいた。木下優子だ。

 しかし、今、彼女の中には二つの精神がある。彼女自身の精神、そして、アリスという少女の精神。

 そして今目の前にいる少女は恐らく―――。

 

 

「アリス――――。」

 

 

 明久はその少女の名を呼んだ。

 すると、その少女は妖艶の様に美しい笑みでこちらに振り向いた。

 これは悪魔でも明久の勘ではあったが、これがアリスとの最後の戦いだ。明久は彼女を助けられるのか―――?最悪の場合、ここで明久が死ぬのか、アリスが死ぬのか、もしくは両方死ぬか―――。

 

 

 二人は再び刃を交える――――。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。