僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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ヒメージ三世

「吉井君、何をしているのかしら?」

「き、木下さん!?」

 優子は今までにない満面の笑みを浮かべている。しかし、表情とは裏腹に殺気を感じる。

(マズイ、とんでもないところを見られた…。)

 監視役である優子に下手な嘘をついて言い逃れは出来ない。そこで明久は考える。

(言い逃れが出来ないということは言葉では逃れることが出来ないということ…なら…!)

 明久は自分に抱き付くピンク髪の少女を振り払い、部屋を抜ける。

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 優子は明久を止めようとするが既に明久の姿はなかった。明久はすでに訓練所の外に出ていた。

(言葉で逃れることが出来ないなら、体使って逃げるしかない…!)

 つまり、逃亡である。明久はそのまま家に帰ろうとするが…。

「吉井…。」

 後ろから野太い声が聞こえる。

「こ…この声は…」

 ゆっくり後ろを向く。そこには鬼のような形相で西村教官が立っていた。

「て…鉄人…ッ!」

「トイレ汚した次は無断で早退か…?」

 西村教官はポキポキと指の関節を慣らしている。間違いない。戦闘モードに入りかかっている。こんな状態で「はい、早退します」なんて言える状況ではない。かと言って「いいえ、違います」と言っても否定材料が思いつかない…なら…。

「さらばだ、鉄人。卒業式にまた会おう。」

 ちょっとキザっぽく言ってみる。

(さーて、帰って新しく買ったエロ本でも読もうかな…)

 と鼻を鳴らしながら歩くと…。

 

 ドドドドドドドドドドドドドッ!

 

 後ろから物凄い騒音が聞こえる。まるでマシンガンの弾丸がこちらに近づいているような音だ。

「吉井ィーーーーーーーーーーッ!!」

「ぎゃあああああああああッ!化け物ォオオォッ!」

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 二時間後――――。

 明久は体中ボロボロの状態で正座をさせられていた。服はビリビリに破け、上半身はほぼ裸に近い状態に、下半身は尻が丸出しの状態である。この恰好は極めて変態に近い―――。というより変態だ。

「その、ホントすみませんでした。」

 明久は目の前に立つ西村教官と優子に土下座する。

「吉井、貴様にはとっておきのプレゼントを与えなくてはな…。」

「……」

 明久は鉄人から目を背ける。こんなことを言うということは間違いなく鬼の補習を受けることになるのだろう…。

 すると、明久は優子と目が合う。

「本来ならアナタには罰を受けてもらうところなんだけど…。」

 優子は戸惑いの表情を見せる。何か言いにくそうな感じだ。

「あそこにいるピンク髪の子、みえるでしょ?」

「あ~、うん。」

「実はあの方はカヲール二世の娘のヒメージ三世よ。」

「……は?」

 明久は呆けたような声を出す。

(ちょっと待てよ、あんな可愛い娘の母親があんな戦国時代に生きてそうな老いぼれだって!?)

 明久は何かの間違いだ、と考える。

「とにかく、アナタには私と一緒にヒメージ三世を王宮に返すのを手伝ってほしいのよ。」

「えー…」

(何で僕が…)

 しかし、口答えしたら間違いなく粛清されると思い、渋々承諾する。

 

 ――――――――――――――――――

 

「雄二…」

「しょ…翔子…な、なんでお前が此処にィイイィ!?」

 雄二はいきなり証拠に顔を掴まれる。流石、国家騎士と言うべきか…。握力がとんでもなく強い。

「雄二、しばらく会ってない間に浮気…してない?」

「してないとも言い切れない。」

 すると、翔子の顔は鬼のようになり、

「何時、何処で、誰と…!?」

「してね…ェえええええッ!ちょっと見栄を張っただけだ!」

「それなら良いけど…。」

 翔子はパッと雄二の顔を解放する。

「し、死ぬかと思った…。」

 雄二が息を荒くさせながら言う。翔子には冗談が通じないと嘆息する。

 すると、近くにいた美波が

「坂本って霧島さんと知り合いだったの?」

「ああ、まあな…」

 雄二と翔子は幼い頃から知り合いである。翔子は何でも出来る秀才な上に容姿端麗とこの上ない魅力的な女性なのだが、雄二が他の女子と仲良くすると、嫉妬するせいか雄二に折檻するというような行為に出る。彼女のそんな行為に雄二は昔から悩まされていた。

「それよりも、この子をどうするんだ?翔子。お前の知り合いか?」

「うん、カヲール二世の娘…姫君のヒメージ三世…。」

 すると、その場にいた雄二、美波、ムッツリーニ、秀吉は

「ええええええええッ!?」

 と声を上げる。

「ど、そうするのじゃ?」

「イヤ、そもそも何でこんな所に…。」

「…緊急事態…」

「このまま放っておいたらヤバくない?」

 四人は真剣に事態は深刻と判断する。しかし、ヒメージ三世はそんな四人の考えも知らずに、

「何のお話をしているんですか?」

 と暢気そうに聞いてくる。本人は今自分が置かれている状況を理解していない。

 そんなとき、明久と優子の姿が見える。

「あ、吉井君ッ!」

 ヒメージ三世は明久の方へ駆ける。すると、明久の手を取り、何処か他の場へと移動しようとする。

 そんな姫君の姿を見た優子は、

「あ、姫様。陛下は姫様を心配してらしてました。早く王宮に戻られ下さい。」

 しかし、ヒメージ三世は必死に説得しようとする優子を無視し、明久を連れて何処かに行ってしまう。

「行っちまったぞ…?」

「……」

「あ、姉上…?」

 優子は怒り抑え込むように拳を握りしめる。

(なんで私が親子喧嘩のためにここまでしなきゃいけないのよ!?)

「あのバカ姫を追うわ…。」

 優子の表情があまりにも怖かったのか一同、無言で頷く。すると…

「何してるの…?あなた達も来るのよ。」

「ゆ…優子。」

 優子の態度に戸惑いを見せる翔子。それに続き秀吉が、

「姉上、ワシらはまだ次の時間も講習が…」

「問答無用ッ!」

 優子の仕事に全員付き合わされることになる。

 

 ―――――――――――――――

 

「ちょっと、君、どこに行く気?王宮に戻らないとババ…じゃない、お母さん悲しむよ…」

 明久は自分の手を引っ張る少女、ヒメージ三世に問いかけるが、

「あんなところ帰りたくはありません。」

 と素っ気なく答える。

(たしか木下さんが言うにはババアがこの子の分のご飯を勝手に食べて怒った彼女は家出したとか…)

 しかし、そんな程度で家出するなんて…と明久はヒメージ三世に疑いの目を向ける。その視線に気づいたヒメージ三世は、

「どうかしましたか?」

 と、少し戸惑いの顔で明久の顔を覗き込む。

「い、イヤ…。その…何で家出したのかな…って…」

 明久は「何で家出なんてしたの?」とストレートに聞くのは良くないと思い、敢えて間接的に質問する。

 ヒメージ三世は下を俯き、

「私だってホントはこんなことするのは良くないって分かってます」

「そうだね…。」

 そんなことは小さい子供でも分かりそうなことだね、と明久は頷く。

「でも、どうしても確かめたかったんです。」

「何を…?」

「お母さんがホントに私を大切に思ってくれてるかです…。」

 すると、明久は「え?」と声を上げる。

「そ、それは思ってくれてるんじゃないかな?母親なんだし…」

 明久は彼女の質問にどう答えればいいか分からず曖昧に答える。

「私だってそう思いたいです。でも、あの人はいつも仕事ばかりで…。それは分かってます。フミヅキを代表する王女だから、忙しい…っていうのも…。でも、お母様は今まで私に真面に目を傾けてくれませんでした。だから、こうして家を出れば、多少は心配してくれるのかと思ったんですけど…。そうでもないみたいですね…。」

 明久は彼女に何をどう言い返せばいいのか分からなかった。

 明久は幼いころに両親を失い、それからは姉が母親代わりとなり明久を育てた。しかし、その姉ももういない。だから、家族というモノが何なのかよく分からない明久には彼女の悩みを解消させる言葉がない。

「……」

 明久はただ彼女の横顔をジッと見つめることしかできなかった。

 何か言って元気づけたくても、自分にそんな力は…と非力ささえ感じてしまう。


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