禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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旧校舎のディアボロス
第1話


 昔々。二体の龍は祖国を守るために戦った。

赤い龍は赤土の国を守るため。白い龍は飢えた民を救うため。

 

 しかしまた別の戦場、三大種族がまた別の戦いを繰り広げていた。彼らも己の未来を決める戦いをしていたのだ。

 最初は赤い龍も白い龍も関わらなかった。彼らは自分たちの戦いで精一杯だったから。

 しかし、三大種族は戦火を広げ、二天龍たちの民にまでその被害が及んだ。

 

 

 よって二天龍は言った。冥界でやれと。

 

 

 二天龍は三大種族に牙を剥いた。ここはお前たちの土地ではない。俺たちの民の土地だ。故に出て行け。

 三大種族たちは抵抗した。私たちの存続を決する神聖な戦いに首を突っ込むなと。人間の土地など知ったことか。お前たち下賤なドラゴンが邪魔をするな。

 

 激戦の末、二天龍は破れた。赤い龍は籠手に封印され、白い龍は光の翼に封印され、人間界にばら撒かれた。

 

 そのうちの一つは動植物を愛する少年に、もう一つは武道を愛する少年に宿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい良い子の皆さん見てらっしゃ~い♪」

 

 天気の良い昼間の公園。大らかな顔つきの男性が紙芝居をしていた。

 彼の周りには既に子供たちが集まっており、楽しそうに彼の話を聞いている。その内容は・・・

 

「桃太郎はトリカブトを塗った刀で鬼をばったばったと倒しました」

「せんせ~トリカブトって何?鳥の形をしているかぶなの?」

「違うよ~。トリカブトっているのは怖い毒を持っている植物のことだよ。日本では日本三大有毒植物っていうほどすごい毒なんだよ」

「「「へ~」」」

「すごい毒なんだけど、意外と近くにあるんだよ。もしかしたら君たちのお家の庭にもあるかもしれないから探して見てね」

 

 昔話を元にした植物の話だった。トリカブトの写真と生息地を載せた地図を子供たちに見せている。

 

「犬は仲間を呼んでボス鬼を囲んで吠えました。犬の狩りは獲物を囲んで吠えることで獲物を弱らせるんだよ」

「「「へ~」」」

 

 薬だけの話だけではない。動物の話もしている。

 ページをめくると、犬の基礎的なデータと戦闘能力が書かれていた。

 

 この紙芝居のお兄さんはこうして子供達に昔話を話したり、科学の話をしてくれるのだ。

 

 え?おっぱいの話をする紙芝居じいさん?・・・さあ?どっかに消えちゃいました。

そういえば、お兄さんと入れ替わるように消えちゃったけど…関係ないよね!

 

「はい、明日は『雲と蜘蛛ってどう違うの?』をやりますよ~」

「「「は~い!」」」

 

 

 

「(へえ~。トリカブトか。じゃあ今度捕まえたヒョウモンダコの毒とかけ合わせてみようかな?)」

 

 紙芝居のお兄さんの話を聞きながら少年、イッセーは新しい毒薬のつくり方を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十年後

 

 

 

「ふふんふ~ん♪」

 

 まだ日が昇っていない早朝。とある一軒家の庭。一人の少年が庭の手入れをしていた。手入れしている花の種類は様々。バラやコスモスのような観賞用の花から茄子や大豆のような食用まで。中にはドクセリのような毒草まで。いろんな種類の植物をガーデニングしている。

 

 彼の名は兵藤一誠。何処にでもいる普通の高校生。趣味はガーデニングと動物との触れ合い。園芸部に所属している。

 そんな彼だが、一つだけ他の高校生とは違う点がある。それは・・・

 

「じゃ、ドライグよろしくね」

『ああ。理解している。

 ブーステッドギアギフト!』

 

 彼は赤龍帝なのである。イッセーはブーステッドギアで植物たちの養分を倍化させた。

 

『やれやれ。今代の相棒は平和的な力の使い方ばかりするな』

 

 登校途中、イッセーの左手の甲が、緑色に発光しながら声が流れた。

 声の主は赤龍帝ドライグ。彼に宿る神器、赤龍帝の籠手に封印されたドラゴンだ

 封印されてからは神器として人間と共に時間を過ごし、ある目的のために力を貸してくれる。

 

「いいじゃん別に。むしろ僕はこんなに素晴らしい力を暴力にしか使えない野蛮な奴がどうかと思うよ」

『……耳が痛いな』

 

 悔しそうな声が手の甲から響く。

 

「別にそこまで気にしなくてもいいと思うよ。自分の才能や力のほかの使い方なんて、自分だけではあまり見えない」

『…そういってもらえると助かる』

 

 イッセーの言葉に安らぎを覚え、礼を言う。

 この少年は優しい言葉をかけてくれる。相手の心が弱った時や落ち込んだ時などを見抜き、支えるかのような言葉をくれるのだ。

 

 ドライグはそんな彼の相棒になれたことを誇らしく思う。

 彼は今までの赤龍帝とは違い、暴力や破壊だけにしか目を向けない者とは違う。自分をただの力の器に使い、変態行為にしか使わない愚か者とも違う。

 それどころか、彼は自分の力を使うために取引を持ち掛けてくれたのだ。ドライグの力を使う代わりに、ドライグの欲しいものを用意する。そう契約してくれたのだ。

 故にドライグは思う。イッセーは自分と対等に接してくれる最高の使い手だと。

 

「・・・ねえドライグ、早速悪いけど力を貸してもらうね」

『フン、そんなこと言わずとも俺は既にお前の物だ。黙って使えばいい』

 

 口ではそう言うも、ドライグは道具扱いしない彼をうれしく思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある廃屋。ここにはぐれ悪魔の気配がしたので僕は中に入った。

 

 人間たちには知られてないが、この世界には悪魔や天使、そして妖怪などの化け物が存在する。普段はあれらは異世界にいるんだけど、人間を捕食したり契約するために人間界に来ることがあるんだ。

 その中でも悪魔は厄介だ。あいつらはなんと他種族を悪魔に変えてしまう道具、イービルピースというものがある。これでどんな種族も悪魔に転生することができるという夢のアイテムだ。

 この駒によって悪魔になった悪魔たちは転生悪魔と呼ばれ、駒の持ち主に管理される。けど中には何らかの理由で主を殺したり脱走するものが出ることがあるのだ。

 この脱走兵のことを僕たちや悪魔は“はぐれ悪魔”と呼んでいる。

 

「…旨そうな匂いがするぞ。花のように甘い香りだ。うまいのかな?それとも毒があるのかな?」

 

 早速はぐれがご登場してくれた。

 全長は5mほど、上半身は裸の美女で下半身はまるで熊の胴体みたいだ。両腕には電柱のように太く長い槍が握られている。

 悪魔は変化自由自在というわけではないけど、その気になれば姿を変えることが出来る。この姿ははぐれ本人が望んだのか、それとも力を求めた結果至ったのか。まあ僕にはどうでもいいけどね。

 

「君がはぐれ悪魔のバイザーだね?話に聞くとアガレス家の傘下の上級悪魔から逃げたってあるけど。もしかして何かやられたの?」

「フン、そんなことを聞いて何になる?お前も私のことを知っているっていうことは私を処刑しに来たのだろ?」

 

 はぐれは一言でいえば脱走兵のようなもの。だから理由の如何を問わずに処刑される。

 ……たとえ冤罪でもね。

 

「君を退治する?・・・とんでもない。僕は君と取引するために来たんだよ」

「・・・なに?」

 

 あまりにも予想外な回答だったんだろう。バイザーは呆けた顔で3秒ほど硬直した。

 そんなに驚かなくてもいいのにね。ていうか、僕が嘘ついてたら君はもう既に死んでるよ?

 

「もし行先がないなら僕のとこに来ない?幸い君はまだ人を殺してないようだから、問題なく匿えるよ」

「………本気で言っているのか?」

「もちろん」

 

 真剣な表情で答えるバイザーに、笑顔で答える僕。こういう時はつられて真剣な顔をするのもアリだけど、相手を安心させる必要がある。だから決してふざけてるわけではないよ。

 

「だけど僕たちの組織のルールは守ってもらうよ。はい、これ契約書。ここに全部記しているから」

「……そんなこと言って、どうせあの悪魔みたいに裏切る気だろ?」

 

 疑いの視線を向けるバイザー。その眼はもう騙されないぞ、騙そうとしても無駄だぞと語っていた。

 なるほど。この人は転生する際に何かしらの契約を主になる悪魔としていたようだ。けど契約を反故にされたと。そういう経緯があってはぐれになったのか。

 

 最近のはぐれ事情を聴いてるとこんなのばっかだ。契約する前は優しそうな顔して、一度契約すると手のひらを反す。

 契約順守を聞いて本当に呆れるよ。何が悪魔の美学だ。

 

「信じてくれないならそれでいい。けどね、君行く先ある?」

「・・・」

「ないでしょ?ならここは騙されて一度入ってみなよ。気に食わなかったらやめていいからさ」

「・・・いいのか?」

「うん。種族を変えるわけでも重要機密に触れさせるわけじゃないし。それに命賭けてるからね。強制はできないよ」

 

 これからは戦地で背中を預ける仲になるのだ。高圧的に接して妙な軋轢を生み、嫌悪や恨みを買って後ろから撃たれるなど間抜け以外何者でもない。

だから僕たちはたとえ下っ端でも決して高圧的に接することはない。武器に細工されたり食べ物に毒を盛られたら戦いどころじゃなくなるからね。

 

「そういうことだ。僕たちは外部の敵より内部の裏切り者や虐げられている者が一番怖いことを知っている。だから悪魔みたいに虐げたり見下すことはないよ」

「・・・私はもう悪魔だぞ。差別されるのは目に見えている」

「大丈夫。僕の仲間は種族バラバラだし、僕の仲間もめっちゃ少ないんだ。むしろ増えてくれて嬉しいよ」

「・・・・・・僕の仲間?もしかしてお前も!?」

 

 バイザーは二度目の驚きの表情を晒す。

 どうやら彼女は僕の正体に気づいてなかったらしい。仕方ない。この翼はあまり好きじゃないけど大サービスだ。

 

 

 

 

 

 

 

「僕たちは君を歓迎するよ。禍の団、妖精派へ」

 

 僕は悪魔の翼を広げて契約書を彼女に渡した。


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