拠点の近くのお花畑。そこでアーシアは妖精たちと遊んでいた。
「お、アーシアこんなとこにいたのか」
「あ、イッセーさん」
イッセーを見つけたアーシアは妖精たちに挨拶してイッセーに走り寄った。
「ご苦労様です。お仕事は終わりですか?」
「ああ。僕のするべきことは全部終わった。あとはほかの部署に任せるよ」
「そうですか…」
アーシアは少しうつむいた。
「…どうしたの?」
「・・・イッセーさん、私…聞いてしまったんです。・・・今まで教会が何をしてきたのかも・・・そして、主が死んだのも・・・」
「・・・・・・そうか」
イッセーはそれだけ言った。
彼は慰めの言葉もかけない。ただ一言だけこぼし、
「…正直な話、僕はアーシアを100%庇う気はない。君は力を自分の意志ではなく、聖書の神にゆだねた。自分から自分で力をどう使うか考えるのを放棄して、神に全部丸投げしたんだ。だから、君は教会に利用された。・・・それでも教会がクソなことに変わりないんだけどね」
「・・・はい。分かってます。私、今までこの力について真剣に考えてなかったかもしれません。ただ力を与えられたから使っていた。…そんな感じがします」
「けど、これからは違います。私、困っている人や傷ついてる人を助けたいからこの力を使います。主とか天使さまとか関係ありません。私は、私が助けたいからこの力を使います」
「……」
だが今日からは違う。そんないい加減な、バイト感覚ではない。私は困った人を助けるためにこの力を使う。
その目にはもう迷いはない。ただ自分の道をまっすぐ見ていた。
「けどこれって主に逆らっていることになるんですよね。…やっぱり私は悪い子ですね」
舌を出して言うアーシア。イッセーはそれを見てため息をついた。まるで馬鹿を見るかのように。
「・・・何か言いたそうな顔ですね?」
「何も。僕はアーシアのことを簡単に神を信じる頭の軽いビッチとか、簡単に轡替えする尻軽なんてこれっぽっちも思ってないよ」
「おもっきり口に出してるじゃないですか!!」
「ハハハッ。冗談だよ」
イッセーはアーシアのグルグルパンチを避けながら答えた。
「別にいいんじゃないの?悪い子で」
「…はい?」
「僕は教会のいい子ちゃん共が嫌いだ。神のいうことをはいはい聞いて、何の疑いもなく妄信的に動くあいつらが大っきらいだ」
「…そ、そうですか……」
少し前までいい子ちゃんだったアーシアは顔を引きつらせながらもイッセーの話を肯定する。
「あいつらはセラフや教会上層部を全く疑おうとしない。神は正義、間違うはずがない。そう信じきって奴らは力を振るう責任から逃れようとしている。自分で考えようとしない奴隷だ」
「だから利用される。主以外の神を異教徒と断じて殺す。要は使い勝手のいい駒なんだよ。それに比べたら悪い子のほうが万倍マシだ」
「……」
心当たりがあまりにもありすぎる。アーシアは気まずそうに黙った。
しかし、たとえはアレでもその心は伝わった。
「じゃ、そのための一歩だ。今日はみっちり勉強だよ。まさか、何もせずに願いが叶うなんて思ってないよね?」
「分かってます!覚悟は出来てます!」
アーシアを引き連れながら、イッセーは笑った。
「じゃあ最初にレイナーレたちと会ってもらう。自分を殺そうとした相手と会うのは苦痛だと思うけど、彼女も一員になった以上君と顔を合わせることになる。……耐えられるか?」
『…あいつらのことを奴隷とか言わなかったか?』
「うるさい。あれは少し興奮して大げさに言ってしまっただけだ」
話の腰を折ろうとするドライグを黙らせて、元に戻す。
たしかにレイナーレたちを捕らえて強制的に働かせてはいるが、一応福利厚生は保証してある。
彼女たちはイッセーと敵対していた上に、勝手な行動をしたせいで追放されている。居場所があるだけまだマシだろう。どこかの白龍皇からは甘いと言われそうだが。
「そんなの大丈夫です。さ、行きましょう」
「……そうか」