第15話
「イッセー、私の処女をもらって」
「・・・は?」
深夜の寝床。僕は夢の世界で植物学の勉強をしていたというのに、痴女が突如乱入して俺の勉強を邪魔しやがった。
「寝起きのとこ悪いけど時間ないの。早くして」
「・・・ねえ、僕に色仕掛けが通じないって前言ったろ?」
俺の話を聞くことなく服を脱ごうとする。
ねえなんで悪魔ってこうも人の話を聞かず、一方的に事情を押し付けてくるの?もしかして僕のこと家来か何かと勘違いしてるのかな?
人の家にいきなり上がり込んできて、中学生でも妄想しないような痴女発言して、その上こちらの意志はお構いなしか。まさか自分みたいな美女は振られないと、少し色目を使えば堕ちると……自分は特別だとか思ってるのか?
……やばいキレそう。そろそろテメエの傲慢な態度をぶち壊そうと思ってたとこなんだよね~。ここ実行でしちゃう?
「来たれ。偉大なる炎の侯爵よ。地獄の計り知れぬ者よ。
我は求む。我が・・・」
『(待て相棒!流石にアモン本人の召喚はまずい!)』
「(邪魔するなドライグ!俺はこの売女を生贄にしてアモンとの契約を遂行する!)」
ドライグがいらない配慮をして、頭の中に直接語り掛けてきた。
やだなあドライグ。たしかにいつもは契約した魔神の名前を明かさないよう言ってるけど、殺すときは別だって言ってるじゃん。
『だから!この間オベロンに勝手な行動を慎めと言われていたろ!また昔みたいなあたりめったら噛みつく阿呆犬に戻りたいのか!?』
「……チッ!」
その言葉で冷静になった僕は召喚を中断。代わりにあの女を思いっきり睨んだ。
『(全く。それにしてもまさかここで禁手化とかではなく生贄の呪文を選択するか。なんというか、冷静さをなくしても損得計算は忘れないようだな。損得の基準はおかしくなるが)』
「(…ノーコメントだ)」
ドライグの言葉を無視して再び赤髪を睨む。
この女、まだいやがったのか。たしかに見てくれはいいが、折角いい夢を見てたのだ。それを中断された今では性欲どころか殺意しか沸かない
「(…それにしても妙だな。いくら痴女のコイツでもいきなりこんな行為になるなんて…)」
少し冷静になると違和感に気づいた。
いくら痴女のコイツでも、いきなり処女を奪ってなんてエロ中学男子も考えつかないようなアホエロ展開なんてやらないはずだ。
まあ、今までの経歴を考えたらそうでもないとドライグが囁いているのだが。
しかしこの慌てようはおかしい。一体何があった?
「……僕は寝ているとこを大した用もないのに起こされるのが一番嫌いなんだ。後にしてくれ」
まあ僕には関係ないけどね。
「そ…そう言わずに私と寝ない?貴方なら優しくしてくれると思って……」
「この状況で優しく出来るとでも?」
「そ…それはそうだけど…。けど今は急いでるの!」
「(ああ、やっぱ俺の事情はお構いなしか)」
やはりこの女は度し難い。もう実力でどうにかしようとした途端、突如また別の魔法陣が床に展開された。
また厄介ごとを持ち込まれたら堪ったものではない。結界を張って追い出そうとするのだが、ドライグがそれをキャンセルさせた。
『(やめておけ。ソレを使えばまた面倒になるぞ。もしかしたらこのバカ姫を回収しにきた業者かもしれん)』
「(……それもそうだね。ありがとうドライグ)」
『(全く。相棒は普段クールぶってるのにすぐ頭に血が上る。これではいつまで経っても一流の策士にはなれんぞ)』
「(うっさい!)」
そんなやりとりをしているうちに転移が終了。魔法陣から現れたのは銀髪の爆乳メイドだった。
「…こんな下賤な輩に貞操を捧げに来たのですか?」
「…ブーメランって知ってる? いきなり人の家に土足で侵入した挙句、住居人に暴言を吐くのが貴方方の礼儀なの? 下賤な悪魔さん」
ムカついた僕はつい憎まれ口をたたいてしまった。いつもならこんな失態は犯さないというのに。…後で後悔することになってしまった。
「…どうやら礼儀のなってない人間ですね。本当にこんな方と対等な契約をしているのですか?」
「へえ~。君たちの言う礼儀っていうのは悪魔に無条件で媚びへつらう奴隷を指すのかな?それは不勉強だったよ~」
「「・・・」」
僕たちはおいににらみ合う。
なあに、殺しはしない。少し痛い目にあって人間の凄さってものを教えるんだよ。
この血の匂いはおそらくルキフグス。たしか冥界では最強の女悪魔の一角だったけ?
なるほど、確かに強そうだ。僕一人の力では遠く及ばない。
けど僕には契約した魔神たちがいる。個人の強さなど集団の力で軽く踏み潰してやる。
「待ってグレイフィア!これは私が悪いの!いきなり起こしたせいで彼機嫌が悪いの!!・・・それとグレイフィア、靴」
「…こ、これは申し訳ございません!私も気が動転しておりました!」
リアス・グレモリーに注意されると、グレイフィアと呼ばれたメイドは靴を脱いでお辞儀をした。
どうやらやっと自分が何をしたか理解したらしい。・・・まあ僕も反省する点あるけど。
「申し訳ございませんでした兵藤一誠様。緊急時とは言え、貴方様の住居を侵入した無礼をどうかお許しください」
「・・・何かわけがありそうだね」
「ええ。ですがこれはあくまでもグレモリー家の問題。部外者である貴方を巻き込んだことを心よりお詫びします」
お辞儀を続けながらそういうグレイフィア。どうやらここから先はお家問題だから部外者の僕は関わるなと言いたいようだ。
「…そう。じゃあそいつ運んで消えて」
自分でも底冷えするほどの冷たい声を二人にかける。すると二人共ただ謝罪して転移した。
「…また何かありそうだな」
再びベッドの横になって目を閉じる。あの様子じゃ、また僕を巻き込むのは目に見えている。さて、どうするべきか…。
そういえば転移する瞬間、あのバカ姫が何か言ってたけど何だろう?
「ちょっといいかな?」
「・・・はい?」
翌日の昼頃、いつもどおりご飯を食べてると、いきなり木場裕斗が僕の席に来た。
言っておくが僕はコイツと仲良しになった記憶などない。なら一体何の用だ?
けどこのまま無視しても周囲がうるさい。それは嫌なので僕は渋々彼に付いていった。
「それで話って何?」
連れてかれた先は校舎裏。僕は壁にもたれかけて彼の返事を待った。
・・・おい、もじもじするな気持ち悪い。お前は告白する女子高生か。
そういえばここ、告白スポットだと女子たちが噂してたな。あと、木場裕斗は実を言うとソッチの気があるとか・・・まさか!?
『(大丈夫だ相棒。歴代の中では両方のハーレムを築いた猛者が何人もいる。そもそも男女のみに固執するのはキリスト教圏、日本でも19世紀に入ってからだぞ。何も恥じる必要はない)』
「(そういう余計な情報いらないから!)」
どうでもいいんだよ歴代の性癖なんて! これから顔合わせづらくなるからやめて!
ドライグのどうでもいいやりとり数秒後、やっと決心がついたのか、木場裕斗は話を切り出した。
「君って意外と弁が立つでしょ?だから部長を弁護してやってほしいんだ」
「・・・は?」
彼の言葉に僕は『は?』以外の答えが見つからなかった。
何を言ってるんだコイツは?誰が誰を弁護するだって?冗談も大概にしてほしいよ。
だってアレ、お家問題でしょ?人間の僕が出るのは筋違いじゃない?
「いや、それがそうでもない。なんでも君の成績と評判を見て特別に弁護が許されたらしいんだ」
「・・・へ~」
すっごく嬉しくない情報。そういえば確か去年の弁論大会で先輩を丸め込んだことあったな。内容はもう忘れたけど。
けど許されたって何?僕は君たちに許されるつもりなんてこれっぽっちもないんだけど?まさか俺たちに許されて光栄に思って働けとかそういうこと? なら絶対やらないから。
「やだ。何の報酬もなしに受けるわけないじゃん」
「そう言うと思って報酬はちゃんと用意するよ。受けてくれるだけで無理の無い程度に君の望むものを叶えてくれるって」
「・・・望むもの?」
随分曖昧な上に太っ腹じゃないか。じゃあ、アレ頼んじゃおうか。…いや、ここは恩を売って奥深くに潜り込むべきだろうね。
いいだろう。このチャンス、存分に活かしてやる。もう二度と傷物の成果しか出せないなんて言わせてなるものか。
「わかった。じゃあ協力させてもらうよ」
僕は来る途中、木場裕斗から大まかな情報を聞いてため息をついた。
「結婚話ねえ…。まあ貴族なら逃げられない話だよね。結婚は貴族の義務だし」
「そ…そんなのはわかってるけどあんなのは嫌よ!!」
「だったら自分で婚約者見つけろよ。親のが嫌だからって一方的に拒否するとか…。あんた貴族舐めてるの?」
「・・・」
まとめるとこうだ。リアス・グレモリーは婚約期間がまだ先の相手に無理やり結婚させられかけている。そのための回避策をこうやって考えているらしい。
お家の事情による結婚という話は貴族とか華族のないこの時代でもある。やっぱり権力や金のあるお上の社会ではこういうものはどうしてもそういうのが残ってしまう。だからそれ自体は悪いものとは思えないのだ。
僕自身それは悪いとは思わない。たしかに恋愛感情とかその人の相性とかも大事だとは思うけど、それはあくまで“一つの要素”だ。全てではない。
実際、結婚する人って恋愛感情よりも相性やお金の話が先立つはずなんだよね。一時の感情に任せて結婚なんてしたら、即離婚することなんて目に見えている。結婚というものは恋愛ごっこだけで決めるものではないのだ。
だからお家間の結婚も悪くないと思う。それでお家間の関係か強固されてともに発展できるなら、結婚も十分メリットのある手法だ。
最初は気のりしなくても意外と相性がいいかもしれないし、お金があるなら愛人を作って恋愛ごっこを楽しむのもいい。ルールを守れば家庭も恋愛ごっこも両立できるはずだ。
「けど、約束破りする家とそんな関係を築けるとは思えないね」
「そうよね!」
けどそれはともに成長できると決められるお家のみだ。足を引っ張るような家とは結婚など認められない。するとしたら離縁したときぐらいだろうか。
「ねえリアス部長、そのライザーという男には何かプレゼントとかを貰ったり、デートに行ったりとかした?」
「…そんなのあるわけないじゃない。あの男とはほぼ接触してないわ」
「・・・君たちの両親は正気?婿養子の分際で何の礼儀も通さない男を婚約者にするなんて…。ふつうなら即解約だよ?」
「え?どういうことですの?」
「だって、婿養子ってことはそのライザーという男がグレモリーの家に来るんでしょ?つまりグレモリー家がライザーを迎えてやっている立場になる。なのにさもグレモリー家が自分の領土のように振る舞うなんて、とても歴史ある家に振る舞う態度とは思えない」
相性最悪、結婚相手とコミュニケーションしない、立場も弁えないような礼儀知らず。リアス・グレモリーの話を要約すると、ライザーフェニックスの人物像はこういうことになる。
ただ金があるだけの成金と結婚なんて、いくら痴女とはいえかわいそうだ。少しぐらいは協力してやろう。恩も売れるし。
「わかってくれる!?やっぱり貴方は最高の下僕よ!・・・って、なんで逃げるのよ!?」
お前の外見だけはタイプだけど中身は受け付けないんだよ。僕は感情に正直な女の子は好きだけど、感情でしか動かない女は嫌いだ。貴族という責任ある立場なら尚更だ。
「まずは情報だ。この男についてまとめた資料を至急見せてくれ」
「え?そんなのないわよ」
「ん?じゃあ貴女はどうやってこのライザーと婚約したの?」
「両親が決めたのよ。私は関与してないわ」
「・・・」
「イタイイタイイタイ!!」
僕は無言でこのバカの頭にアイアンクローした。
「この間抜けが!貴族なら婚約者の素行調査なり交友関係なり調査しろ!!お家の明日を決める重要な要素だぞ!!」
「そ…そんなこといっても週刊誌とか・・・」
「あんなのアテになるか!週刊誌ってのはな、いかに面白可笑しく脱却するかを第一に考えるパパラッチ共だぞ!全部とは言わないけど、そこに書いてるのは嘘だと思え!!」
「・・・イッセーさんジャーナリストに恨みでもあるのですか?」
塔城が少し同情した目で僕を見る。
なに、大したことはない。ただ、昔書いた論文について色々と…ね。
「・・・まいったな。これじゃあ弁論の仕様がないぞ。武器が揃わなくては戦えない」
いや、そもそも無理な話なのだ。短時間で情報をそろえるなんて不可能だし、それを短時間で使いこなせる自信もない。
武器がなくても気合があれば何とかなるとか、そういった蛮勇と勇気をはき違えたことは言うなよ。あと、僕この女のためにそこまでやる気はない。
そんなことを考えていると、転移用の魔力が繋がるのを感知。邪魔されたくない僕はちょっとしたイタズラを仕掛けた。
「・・・仕方ない。あの手法でやるか。少しリアス・グレモリーを借りるぞ」
「え?それっていったい・・・」
やれやれ。なんで僕にこんな面倒な役ばかりなのか。けど、一石三鳥の作戦だから仕方ないか。
僕は自前の睡眠薬で依頼主を眠らせ、米俵のように肩に担ぐ。これからするのは少し難しいからね。みっちり叩き込んでやろう。
「ちょっとリアスを拉致らないでよ!!」
はいはい。ムシムシ。
私が執筆中の別の拙作ではリアスが悪いことになってますが、この拙作では原作りにライザーが勝手に婚姻を進めたことにしてます。
婚約は確かに家が決めるものですが、ある程度は当事者が決めるものです。なのに当事者を放っておいていきなり約束を破って結婚させるのはルール違反、契約を順守する悪魔なら尚更かと。
あとライザーの態度。あれは入婿がする態度ではありません。
婚約者であるならプレゼントを送ったり、ラブレターを書く、デートに誘うなどのアプローチをとって関係を良好にするべきです。ライザーは入婿なので、リアス以上に積極的にする必要があります。なのにそういったことをせず、いきなり俺と結婚しろなんて言われたら、ふざけんなって返したくなります。
そして初登場にリアスに取ったあの態度。入婿の分際でこの家は全て俺のものだという態度。グレモリー家の一員になるどころか、家を乗っ取る気満々じゃないですか。私がリアスと同じ立場でライザーがリアス並みの美人でも、家の権利を横取りしに来た外敵として婚約を即破棄してます。
よってこの拙作では、原作どおりライザーを悪役にしました。
・・・まあ、婚約者探しを怠って両親に丸投げしたリアスも悪いといえば悪いのですが。文句を言うならライザー以上にいい婚約者探しをしろ。