禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第17話

「・・・失敗だと?」

「・・・・・・・・・うん」

 

 あの話し合いから三日後、結果を楽しみにしてオカルト部に行くと、木場裕斗からまさかの敗北を言い渡された。

 正直、僕は成功という結果しか視野に入ってなかった。この僕があんな際どい真似をして手に入れた結果なのだから、勝利しかないと。

 だが、僕の結果はあっさり裏切られた。

 

「ど・・・どういうこと?あの流れじゃライザーとの婚姻は先延ばしになり、関係の良好化になるはずなのに・・・」

「そ・・・それが・・・」

 

 動揺を抑えつつ聞くも、木場裕斗もまた動揺している様子で話せる様子ではなかった。

 

「私がすべて説明します。実は・・・」

 

 木場裕斗を見かねて姫島朱乃が代わりに話してくれた。

 要約するとこうだ、リアス・グレモリーはなんと婚約の延期だけではなく、破棄まで要求してしまったのだ。

 

「・・・い、一応聞くが・・・婚約を取り消すための条件はちゃんとあるの?たとえば・・・他の婚約者を見つけたとか」

「え?そんなのあるわけないじゃない」

「・・・」

 

 待て。落ち着け僕。ここで怒ったら折角作った恩が台無しだ。ゆっくりと関係を修復する手段を考えなくては…。

 

「あとイッセー!絶縁ってどういうことよ!?私は家を継ぐ気はあるのよ!!何を勝手な」

 

 それを聞いた僕はこのボケアマを無言で蹴り飛ばした。

 

「…おいこのボケ女、お前マジでライザーとの縁談を壊す気あんのか?てか本気で貴族として生きるあんのか?」

「い…痛い!放して・・・。佑斗たちもなんとかしてよ!!」

 

 リアス・グレモリーを無視して僕は僕で勝手に話を進める。いや、これは話なんて上等なものではなくただの文句だ。今の僕には話し合いができるような理性は残っていなかった。

 

「テメエはバカか!!? 交渉というものはこちらがカードを持っていて初めて成立するものなんだ!!なのに何の材料もなしに望みを叶えようとするなんて・・・テメーは貴族失格だ!!」

「そ・・・そこまで言わなくても・・・」

「黙れ!自分を通すには相応の強さがいる!何も持ってない、何も成さない、何の力もない雑魚が己の夢を語るな!!」

 

 己を通すには相応の物がいる。暴力、金、美貌・・・なんでもいい。相手を動かすことができるのならば、それは一つの力だ。

 しかしコイツはそれを使おうともしない。

 

 何が貴族だ。貴き一族とは相応の義務を果たしてこそ、貴い成果を残してこそ名乗るものだ。

 だがコイツはどうだ?何もしてないではないか。領地は荒らされ放題、犠牲になった人の存在を躊躇なく消す、外敵の対策は一切しない。・・・貴族の仕事を一切してないではないか。

 

 

 その癖に権利だけは主張するか。義務を果たさないくせに権利だけは主張するか。・・・ふざけんな!!

 

 

 僕は力を振るうために、赤龍帝を名乗るのに相応しい男になるため修行した。そして、俺は修行とは学びにあると答えを出した。

 魔力が少ないから気功術や龍のオーラの使い方を学んだ。倍化した力を使いこなすため、趣味で学んだ学問を参考にして技を開発した。魔力を増やすために禁術にも手を出した。

 使役魔法の本質は雇用関係。より良い関係を築き、より貢献してもらうために交渉術を学んだ。感情的になっては交渉など出来ない。だから感情をコントロールする術を学んだ。

 

 今の俺は様々なことを学び、力に変えた。よって胸を張って言える。この僕こそが赤龍帝だと。この僕こそが最優の赤龍帝だと。

 

 だからコイツを見ているムカつく。貴族になると言いながらその義務を果たさないコイツが。ルイン・プリンセスと呼ばれながら相応の力を持ってないコイツが。そして何も学ばないコイツが!!

 

「お前を見ていると中学の頃の自分を見ているようでイライラする!何の材料も無い癖に自分の要求だけ通そうとして、通らなかったら駄々を捏ねる!!・・・本当に吐き気がする」

 

 本当にイライラする。・・・未だに感情をコントロール出来ない僕自身も。

 

「クソが!!」

 

 僕はいてもたってもいられず、衝動のままに飛び出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………なんて?」

「え~と………その…………」

 

 翌日、廊下を歩いていると木場裕斗に冗談を言われた。

 笑えない冗談だ。もし本気で言っているなら君のセンスを疑うよ。

 

「もう一度聞く。君は僕に『レーティングゲームの参加と訓練の指導』を頼んだものかな?」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 僕が聞くと、木場裕斗は俯きながら答えた。・・・本当に冗談だったらいいのに。

 

「……ごめん。だけど契約が…………」

「・・・わかってるよ」

 

 僕はリアス・グレモリーと契約を結んでいる。一応立場は対等のはずなんだけど、向こうはそう思ってなさそうだな…。

 けどまあいい。前回僕は失態を犯して感情的になってしまった。だから今回はその挽回のチャンスだ。

 

「…いいよ。付き合ってあげる」

「・・・え?いいの?」

「ああ。けど相応の報酬は貰うよ。それと前回の謝罪も」

「そ、それは当たり前だけど…。けど本当にいいの・・・?」

 

 木場裕斗は少し申し訳なさそうに言う。

 

「たしかに折角徹夜したのに台無しにされたのはムカつくけど……説明しなかった僕にも非があるからね」

「い・・・イッセーくん・・・・・・」

 

 何か感動しながら木場裕斗が近づく。おい、そんなに近づくな。利害関係を繋ぐ気はあるけど、仲良しごっこする気はないんだよ。

 言っておくけど僕はそんなこと一切思ってないよ。僕には僕の目的があり、それを達成するため恩を売ってるんだ。じゃなきゃ、誰があんなわがまま姫のために働くか。ただ偶然いい家に生まれただけで、偶然美しい姿に生まれただけの無能なんかに。

 

「(…こんな無能姫のために振り回されるなんて、下僕もかわいそうだね)」

 

 今の僕は冷たい目をしているだろう。だから僕は目をそらした。

 

 最初は利害関係を築いて信用を勝ち取る気だったけど、少し変更するか。思っていた以上にあの無能姫は無能すぎる。これではまっとうな利害関係を築けそうにない。

 冥界では才能溢れるとか、ルイン・プリンセスとか言われているが、冥界の悪魔共の目は節穴なのか? ただ感情に喚くだけのガキじゃないか。

 

 

 

 

 

 けど、だからコイツは使える。

 

 

 

 

 

 これで利用方法と取り入る作戦は大体思いついた。あとは近づくのみ。ま、せいぜい利用させてもらうよ、無能さん。

 

「君たちとは“有効”な関係を築きたい。だから協力は惜しまないよ」

「うん。“友好”な関係を築こう!」

 

 握手をするも、僕の目は一切笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場裕斗に連れられて、僕はオカルト部のソファに座った。

 

「…ごめんなさい。あの時は少し冷静さをなくしてしまったわ。貴方は私のためにがんばってくれたのに・・・」

「こっちこそごめん。前もっての事情説明を怠っていたよ(どこが少しだよ。終始感情任せに怒鳴ってたじゃないか)」

 

 僕は本心を隠しながら当たり障りのない、思ってもない謝罪をする。

 表情筋と感情を完全にコントロール出来るほど僕は出来た人間じゃない。けど、ある程度なら隠すことが出来る。

 

 僕なんて大したことない。貴族の子供たちの方がよっぽどうまい。何せ彼らは交渉事と情報で飯を食っているのだから、幼少の頃からそういった訓練をしている。ただ教師が優秀だから成功しているだけさ。

 むしろ、僕以下の奴がバカなんだよ。貴族が僕よりも交渉事が下手なんてあり得ない。趣味で料理するサラリーマンにプロの料理人が負けるようなものだよ。もしそんなのがいたら貴族失格だね。

 だから僕から見てこの無能は貴族失格。僕よりもバカな時点で貴族になるなんて夢の中の夢だ。お家柄がいいだけで、学ばないバカな無能は乗っ取られるのがオチだよ。

 

「そう、じゃあよろしく頼むわ」

「うん。勝手な行動は慎むよ」

 

 でも安心して。乗っ取るのは僕だから、悪いようにはしないよ。・・・まあ君のご家族の保証まではしないけどね。

 

「(特にサーゼクス・ルシファー。彼なんて生贄にはピッタリなんだよねえ。あとつまみ食いするのも悪くないし)」




リアスがアンチされる理由は能力そのものではなく、主としてのあり方と、彼女を妄信する世界観のせいではないでしょうか。

たとえ能力がなくて領地内部の人間が死んでも、それを悔やんだり、犠牲者の存在を消すことに疑問等を抱けば、たとえ出し抜かれてもここまでアンチされることはないと私は考えます。
パトロールを下僕や使い魔にさせる等の、簡単なことでも堕天使やはぐれ対策をすればリアス仕事してるなと思われるかもしれません。
ライザー戦やコカビエル戦での反省点をちゃんとおさえて対策したり新技を出せば、たとえどれだけ杜撰でも、むしろ『頑張れリアス!』て応援されるキャラになると思うんですよね。

しかし原作では人が死ねば躊躇なく存在を消し、はぐれや堕天使が人殺してるというのに優雅なティータイムいてるし、前回は格上にボコられたというのに何の解決策も考えてない。貴族らしいことはしてないのです。この態度が『お家だけはご立派な癖に何もしないし出来ない無能おじょうさま』って思われると私は考えます。

その上、原作ではリアスの失態は問題になるどころか、逆にリアスをマンセーします。手柄の大半、というか全部イッセーの物だったり、明らかに彼女の物ではないのに、リアスは褒められます。
これで内心リアスが悩んでいたりすれば問題ありません。むしろ『周囲の過度な期待に耐える健気なヒロイン』として成功すると思います。
しかしリアス自身は自分が有能だと思っている節があります。自分は何もしてないというのに。貴族としての義務を果たしてないのに家を継ぐ気でいます。
それが原因で『無能のくせに手柄をでっち上げる最低な貴族』だと思われます。

以上のことがっても、本人に貴族になる気がなければ仕方ありません。それなら『貴族をさせられてる哀れなヒロイン』になります。
しかし彼女は貴族を継ぐ気です。彼女は貴族としての仕事をしてないくせに、貴族になる気です。
権利を乱用して、本来なら成人した悪魔が統治するはずの駒王町を統治してます。そのくせ働いてません。
よって貴族として義務を果たさないくせに貴族になりたがる『権利だけを主張するして乱用しまくるクソ貴族』だと思う人が出るかもしれません。

最後に、リアスを否定するものは誰もいません。もしいてもイッセーたちにぶっ飛ばされます。
たとえ正論でも倒されてなかったことにされます。
その有様が『下僕を使って都合の悪いことはもみ消す典型的な最底辺の貴族』と思われます。

以上のことから四重に悪感情が相乗してより苛烈なアンチが出るのでは?

要は、リアスの能力そのものはどうでもいいんですよ。
低くても文句は言いません。まだ未成年ですから、これから成長すればいい。実際、彼女自身には伸び代も可能性もあると思いますし、その過程を楽しむのが作り話の楽しみ方です。

なのに彼女を変に持ち上げたり、リアス自身が傲慢だったり、変に取り繕ったり隠そうとするからアンチが出るのではと私は愚考しております。

あと最後に思ったのですが、原作者自身リアスそんなに好きじゃないのでは?

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