レーティングゲームの翌日、僕は優雅にコーヒータイムを楽しんでいた。
あの後、ライザーが僕の罠に掛かってくれたので本当に助かった。
罠の内容は簡単。前回と同じガスだ。校舎中に神経ガスを出す植物を植えこんで、通る度に毒ガスを浴びる使用になっている。
最初は微々たる量だから気づかないし、大した効果もない。だけど塵も積もればなんとやら。理科室につく頃には動きを制限するほどの毒が蓄積されていた。
おそらく本人は興奮して気づかなかったんだろうね。戦場という異常な空間では痛覚や恐怖などの感覚が鈍ってしまう。通常ならそれでもいいのだろうけど、僕みたいな非力な小市民はそういったとこを突くんだよ。
話を戻す。ライザーが理科室に入ったと同時に集団リンチ。神経毒で普段よりも動きが鈍り、集中力が散漫してうまく炎を使えないライザーをボコって心を折ってやった。
木場裕斗が剣で何度も串刺しにして、姫島朱乃が電撃を流して麻痺させ、僕が毒を流し込んでさらに苦痛を与える。今思えば彼に悪いことをしたと罪悪感を覚えるよ。それでも僕の判断は間違ってないと思うけどね。
こうして僕は試合に勝った。あの時はリアス・グレモリーも大喜びしてくれたよ。全員が僕に抱きついてきたり、胴上げしたり…。お祭り状態だった。
とまあ、これで万事解決だ。
「さて、あとは報告を待つばかり」
家の近くに気配を感じたのでコーヒーカップを机に置く。さて、朗報を聞くとするか。
「助けてイッセーくん!またピンチになった!!」
・・・・・・・・・は?
「…なるほど。つまり僕がやりすぎたっていことか」
木場裕斗の話を聞くとこうだ。僕が敵を倒しすぎたせいでリアス・グレモリーの評価が全く出来なかったらしい。
何よりも、小道具を多く使いすぎたのがいけなかたらしい。旧校舎を燃やすために用意した可燃性の分泌液を出す植物、電気トラップを用意するために使った薬剤、ライザーを罠にかけるため用意した毒ガス。これらをルール違反だと運営は判断した。
ライザーは何も道具を用意してないのに、こちらは道具を多く用いた。それを不公平だと運営はほざいているのだ。
・・・数でも経験でも劣るんだから、それぐらいのハンデはつけろと言いたい。まあ、旧校舎全焼は僕もやりすぎたと反省しているが。
結果、僕というバランスブレイカーを呼んだことでグレモリーは反則のような扱いを受けてもう一度対戦。今度はライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの一対一の対決になったという。
・・・うん、悪魔すっげー汚い。
「つまり眷属でもない人間である僕が調子に乗ったのが気に食わないと。そういうこと?」
「・・・・・・・・・・・・・ごめん」
「君が謝ってどうするんだよ」
僕はため息をついて今後のことを考えた。
「まあいい。たしかに出しゃばったのは事実だし、何も手がないわけじゃない」
「なんだって!それは本当かい!?」
「・・・木場だからってそのネタ使っていいと思ってるの?君ホースオルフェノクなの?それともカイザ?」
「? イッセー君って時々よくわからないこと言うね」
首をかしげる木場。
だって君、苗字が木場だし、剣を使うのもそっくりじゃん。木場勇治と一つ文字違いじゃん。絶対パクリだよコレ。
話を戻す。実はさっき宛先不明の小包が届いたのだ。それを開けるとビックリ、なんと中には結婚を邪魔するためのセットがあったのだ。
「じゃあ、僕はさっそく行ってくるよ」
僕はセットのうちの一つ、結婚式場に繋がる魔法陣を取り出した。
結婚式会場の広々とした空間。そこに多くの関係者や来賓が訪れていた。貴族や上級悪魔がグラスを満たすワインや料理を口にしながら、嬉嬉として語り合う。
今日は目出度い日、なんと今日、冥界でも有名なライザー・フェニックスとリアス・グレモリーが結婚するのだ。今日を祝わずしていつ祝うのだ。そういった雰囲気に押し流され、大して祝う気のない者までがとりあえず祝うことにした。
彼らは豪華な酒と料理を楽しみながら、新郎新婦の登場を待っていた。
そしてついに来る。式の時間が。
合図が鳴ると同時に、檀上からフェニックス家の魔法陣が現れた。
そこから転移されたのはもちろん主役の一人。ライザー・フェニックスである。
「お集まりの皆様方、本日は私ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの結婚式にお越しいただき、誠に有難うございます」
「それでは時間もいい所で、本日の主役であり私の花嫁、リアス・グレモリーの登場です!」
ライザーの言葉と共に花嫁衣装のリアスが現れる。
冥界でも美しいと称されるリアス・グレモリー。その花嫁衣裳を一目眺めようと、一斉に視線を向ける。誰もがリアスの晴れ舞台姿を期待していた。
しかし、そんな願望はほんのちょっとしたことでかき消された。
「こ…この魔力は……!」
「…重い……。冷たい……!」
突然、会場の空気がガラリと変わった。
お祝いムードは冷気をかけられたかのように氷点下へと沈んでいく。突然氷を背中に突っ込まれたかのような寒気と恐怖に襲われた。
本能レベルで何かを感じ取っている。しかし大半の者は全く理解出来ず、殺気を向けられたことに気付いたのはほんの僅かだった。
そう、この冷気の正体は殺気のこもった魔力。それが会場を包み込み、空気を氷点下にまで下げたのだ。
「へえ~。悪魔でも人間と同じことしてるんだ。……なんかガッカリ」
突然声が聞こえた。穏やかそうな声とは裏腹に、込められた殺気のような感覚。殺しを楽しみ、今か今かと狩りの合図を待つ狩人の声。声の主は退屈そうに言った。
「迎えに来たよ、僕の愛しい人」
ゆっくりと扉が開かれる。まるで扉自身が主を迎えるかのように。誰も手を付けてないはずの扉が開かれた。
開かれた先から現れたのは一人の少年。柔和な笑顔を浮かべ、目には氷のように冷たい殺意を宿した、異端な少年だった。
悪魔とはまた違う異質な魔力。それは貴族平民を問わず本能に呼びかけていた。動くなと。動けば貴様を血祭りに上げると。
見た目とは裏腹に凶悪過ぎる殺意。その異様な光景に来客は凍り付いた。
あんな優しそうな微笑みを浮かべながら、こんな冷たい殺意を放つことが出来るのか。なぜ楽しそうに殺意を放つことが出来る。一体どんな生き方をすれば、そんな顔で殺意を出せる。
理解不能。不条理。そんな言葉が会場にいる悪魔たちの頭に過った。
イッセーがゆっくりと息を吐く。瞬間、式場の空気が少し緩んだ。
来客たちは一瞬安堵の息をつくがすぐに気を張り詰めさせる。
いきなりこんな殺気を放ってきたのだ。これで終わるはずがない。来客たちは次の行動に注目した。
耳を傾け、視線をイッセーにやる。彼の次の行動を今か今かと待った。
「…ねえライザー、インチキで勝ち取った勝利はうれしい?」
「い…インチキだと!?俺のどこがインチキだってんだ!?」
「だってそうじゃん。あんな不備だらけの勝負、どっからどう見たってインチキじゃん」
不備。その言葉に会場がザワついた。
「不備…だと?何をいい加減なことを言っている」
「それをこれから言うんだよ。だからあんまし怒鳴らないで。……じゃないと殺すよ?」
「!!?」
僕は殺戮が大好きな問題児、グラシャラボラスの殺気を拝借して悪魔共を脅した。
…待って、彼ら生贄じゃないから。え?俺の力を借りたからには血を用意しろと?・・・こんなちょっとで要求するのは図々しいぞ!レバーで我慢しろ!!
「今回のゲーム、明らかにリアス・グレモリー様に不利な仕様になっております。リアス様は自分を足して五人に対し、ライザー様は16人。三倍以上も人数に差があります」
「だ…だがそっちには神器使いが二人もいるだろ!中でもお前は強力な神器使い、リアスの駒8個以上だと聞く!」
「ええそうです。ですがそれだけです。それだけで、3倍以上という数字を覆すことなんて出来ません。もし出来るとするなら愚図が率いる愚図の集団のみです。……貴方たちは愚図集団なのですか?」
数の差というものはそう簡単には覆すことが出来ない。最低でも3倍以上の力の差は必要だ。これがどれだけバカげた数字か理解できるだろうか。
一応いっておくけど、三倍というものはかなりでかいぞ。ブーステッド・ギアなんて馬鹿げたチート神器を持っているから時折忘れるが、1.2や1.3倍とかでもかなり大きな数字だ。現在のサラリーマンが営業数値を血反吐で上げようとする努力を見ればわかることだろう。
話を戻す。彼はプロであるのに対し、僕たちは素人。その上僕は人間だ。なのに僕たちがライザーの眷属よりも3倍以上強いなんて彼が認められるだろうか。プライドのクソ高い貴族のボンボンが。・・・無理に決まっている。
だから認めざるを得ないのだ。このゲームが破たんしていることを。
「違うでしょ?あなたはプロです。決して愚図集団ではない。ならばむしろ貴方たちが5人で私たちが16人でも良かったはず。なのに貴方は人数を減らさなかった。……これでマトモなゲームができますか?」
「し・・・しかしこちらは10日間の」
「ほう、たかが10日間の基礎訓練だけで超えられるなんて。それでレーティングゲームのプロ3位という称号を、そして5対16という数字を覆すことが出来るのですか?・・・貴方の積み上げた功績とういうものはそんな軽く、そして貴方たちは雑魚なのですか?」
「ぐ・・・うぅ・・・・・・」
往生際が悪いよライザーくん。君がこのゲームがちゃんと成立していると証明するには、自分が愚図と認めるしかないんだよ。さあ、言ってみて。自分は素人に数の差で押しつぶさなくては勝てない似非プロです。3位という数字もマグレなんですって。
「…まあこれ以上の追及はやめて、次の話にしましょう」
ふっちゃけ、ゲームのルールについては今更とやかく言う気はない。だって当人が決める時間があったのにも関わらず、その当人は特に何も言うことなく進めて負けたのだから。
第一こういういのはもっと早く言うべきなんだよ。
とまあ、この話についてはもういい。次の話に切り替えるために僕は懐からカメラのような機能のある器具を取り出した。
「こちらの器具には、当日のレーティングゲームの様子が記録されております」
無理やり起動させて、会場の空間に巨大な映像が投映される。
最初に映し出されたのは、二人のクイーンの一騎打ち。画面の八割ほどを爆発と稲妻が彩り、激しくも、華やかな戦いを繰り広げている。
そして、ついさっきまで爆発の華を咲かせていたライザーの女王が雷の一撃を貰い、地へと落ちていく寸前。そこで映像が止まる。
「ここでライザー様の女王、ユーベルーナ様がフェニックスの涙を使用しています」
再び、空中に映像が映し出され再生するすと、フェニックスの涙を使って回復するも、背後から僕に刺されるライザーの女王。・・・後ろから攻撃するなど卑怯という声があるのだけど、あんたらそれでも悪魔なの?
そこはいいんだよ。ここで重要なのは、フェニックスの涙を使ったという事。
「このように、ライザー様の眷属には回復アイテムがあります」
「それがなんだというんだね?」
そう聞いたのは、一人の男性。この顔立ち、声色からしてライザーの父親、フェニックス家の当主だろう。
僕は彼に振り返って当たり前のことを言った。
「おおいにあります。……プロであり人数でも大きく有利な彼らが道具を使って、何故リアス様は許されないのですか?」
場の空気が、明確に変わった。来賓の貴族達の間でどよめきが広がる。
「(…おいおい、こんな簡単なことにも気づかないのか?)」
僕は少し呆れるも演説風の言葉を続ける。
「このようにライザー・フェニックスは数にも質にも経験にも差があるというのにも関わらず、フェニックスの涙という貴重な回復アイテムを使いました。なのに何故リアス様にはそれを許可しないのでしょうか?
たしかにあのゲームでは大分グレーゾーンが多いと感じましたが、それを超えてこそプロというもの。そもそもプロである彼が有利なのに、多少の逸脱を咎めることは出来ましょうか?なぜリアス様ばかり責められなくてはならないのでしょうか?」
パイモンの力で少しズルしながら演説をする。みんな興味津々に僕の言葉に耳を貸して、うんうんと頷いてくれている。これは勝ったな。
「よって、あのゲームは有効だとここに宣言します!!」
僕が言い切ると会場から拍手が聞こえてきた。
「ま…待て!お前の使った罠でこちは半分がやられた挙句、俺は力が使えなかったんだぞ!あんな姑息な罠のせいでな!!」
「ほう、たかが人間の用意した姑息な罠の小道具がフェニックスの涙に匹敵すると?貴方たちの看板商品とは、そんな安物なのでしょうか?」
「うぐ…!」
僕がそういうと言葉に詰まるライザー。やれやれ、こんな簡単なことにも気づかないのかな、この鳥頭は。
「数の差は三倍以上、その上第三位という称号があるのっですよ?それを覆すために罠を張るのは当然でしょ。・・・貴方たちはどう思いますか?」
ここで周囲の賛同を求める。
僕たちは何も言い争いたいわけではない。成果がほしいのだ。だからライザーに僕が正しいと言い聞かせる必要などない。
成果のために必要なのは空気だ。ライザーが悪いという空気。だから最初から君なんて眼中にないんだよ。
それに感情的になっている相手に正論を言っても無駄だ。むしろ火に油を注ぐ行為になってしまう。余計に怒り狂って余計にこじれてしまう。だから仲介人のようなものがいるんだ。当人だけで話合って解決するなら、裁判所なんて存在しないんだよ。
「もっとも、何年もレーティングゲームの経験を積み重ねている熟練者が罠の一つや二つ見抜けると私は思うのですが…。それとも貴方は何年もやっておいて、未だに罠に引っかかる愚図なのですか?」
「この・・・言わせておけば!!」
感情的になって切れたな。・・・これで君の負けは決定だよ。
「静粛に」
…チッ。邪魔が入ったか。
今更ですが、イッセーの使役する魔神と悪魔の力は全くの別物です。ソロモンの魔神の名前が出てますが、リアスたち貴族悪魔は全く関係ありません。……いや、全くは言いすぎでしょうか。
とにかく、悪魔たちは魔神の存在を知りませんし、彼らが悪魔に牙をむいていることも知りません。
では魔神がなぜイッセーに力を貸すか、なぜ悪魔を殺したがるかは後程出します。