「な…なんですかその動き!?」
「ロックアウェーだ。相手の攻撃タイミングに合わせてスウェー(上体を後ろへ逸らすことで避けるボクシングの防御方法)して、カウンターを叩き込む」
木場裕斗をボコりすぎて訓練中止を余儀なくされた翌日。僕は塔城小猫とバトっていた。
どうやら彼が頑張ってるのを見て自分も何かしなくてはと動いたらしい。それで僕と組み手をすることになっている。
僕に頼んだ以上、ポーズだけでは終わらせない。せめて体育学校並みの訓練は積んでもらうよ。
「総合格闘技か。君の攻撃を見る限り、組技はブラジリアン柔術、他はレスリングか。打撃にはぽつぽつボクシング入ってるけど、半端なレベルで止まっている。
それにしても正直な動きだねえ。まるで格闘技の教科書を読んでいるみたいだ。もっと野蛮に来いよ!!」
「うぐ……!」
ガードをすり抜けて、左ストレートを外角から叩き込む。駄目だよ、拳が常に真正面から飛んでくるとは限らない。ちゃんと防がないと。
「駄目だよ。君の打撃はあくまで崩し。これでは決定打には程遠い。打撃はこんな風にやるんだよ!!」
「あぐッ!!」
バーで彼女の拳を弾き、腕を掴んでバランスを崩したとこで顔に膝蹴りを入れる。
これ、総合格闘技でも禁止技だけど、今は戦闘の訓練をしている。この程度では終わらない。
更に僕は塔城小猫の背中を踏みつけ、両腕を掴んで引っ張る。この技なんて言うんだっけ?……まあいいや。
「一度戦いの流れを取られたら逆転は並大抵じゃ無理だ。次からは気を付けろ」
「……はい」
「噛んだり引っ掻いたりってアリなの?」
「え?」
塔城小猫の治療をしながら質問する。一応僕は医学にも興味はあるから応急処置は出来る。……言っておくけど決してエロイことしないよ
「実を言うと打撃とかよりも噛んだり引っ掻いたりする方がダメージを蓄積させることが出来るんだ。昔は爪や歯に毒を塗って戦う武人もいたらしい」
「…そうなんですか。では何故格闘技にはそういった技がないのですか?」
「君は噛んだり引っ掻いたりする野蛮な戦いを見て楽しいと思う?」
「……そういうことですか。なるほど理解しました」
動物は大抵噛む。それは4本脚だからという理由もあるが、一番は噛むという攻撃手段が最も強力だからだと思う。
人間も人の噛む力はその人の体重程度だと言われている。例えば、小学五年生の女子の平均体重は34.2キロ。それがあの硬い歯に集中することになる。
つまり弱点に噛みつけることが可能ならば、噛み殺すことも可能なのだ。……まず届かないので相手のバランスを崩したりする必要はあるが。
「僕も喧嘩のときは打撃を中心にして、寝技に入ると噛みつきをよくした。鰐のデスロールを真似すると、意外と食いちぎれるものなんだ」
「……な、なかなか野蛮な」
「そんなものだよ中学のガキなんて」
僕がそう言うと、塔城小猫は若干引いた動作をした。まあ、他人のくだらない喧嘩自慢聞くとそういう反応しちゃうよね。
「引っ掻きも同様だ。君の爪はかなり良い。頑丈な爪は普通巻いてくるんだけど、君の爪はこんなに硬いのに、まっすぐ伸びている。……まるでネコ科動物のようだ」
「……」
「結論を言う。君は格闘技なんて人間の技術を使うより、飛びかかりや引っ掻きとかの動物的な技の方が向いている。……だって君、ネコ科動物でしょ?」
「!!?……何を根拠に言ってるのですか?」
「ふん、そんなのは決まってる」
一瞬驚いた顔をするも、すぐに表情を繕う。
僕が彼女の正体を見破った要因はいたって簡単。聞いたら誰もが呆れるほどシンプルだ。
「僕の動物センサーが動物を逃すなんてありえないんだよ!」
「……もしかしてイッセーさんはバカなんですか?」
「バカとは失敬な。僕はこの町の猫を撫でつくした。僕のモフってない猫はこの町にはいない」
「………どうしよう。思った以上にこの人アホっぽいです」
アホとは失敬な。
「それで、なんでいつも人間の姿してるの?」
「……驚かないんですね」
「悪魔やドラゴンがいるんだ。猫型の妖怪が人間に化けても今更だよ」
「……それもそうですね……では話します」
僕はふざけるのをやめて、黙って彼女の話を聞いた。
「なるほど」
僕は塔城小猫から事情を聴いた。
なるほど、情報通りの話だ。彼女は捻じ曲げられた情報を教えられてそれを信じ切っている。…もっとお姉さんのこと信じてやれよ。
それにしても、随分素直に教えてくれるね。もう少し信頼値を稼がなきゃいけないと思ってたけど…。もしかしてこのチョロイン?
『(相棒は竜のオーラを極めたんだ。赤龍帝であるこの俺の力をだ。だから寄って来る女の数も質もかなり上だし、難易度も合った瞬間に即合体レベルだ)』
「(なにそのイージーなギャルゲー。僕の人生ってクソビッチしかいないエロゲーなの?)
『(いいじゃないか別に。すでに龍の力は相棒の物。累積した努力の結果だ)』
「(……別にモテるために鍛えたわけじゃない)」
僕はドライグを解放するという契約をしている。だからいつまでも赤龍帝の力に頼るわけにはいかないので、龍の力を馴染ませ、自分の物にする訓練をしていた。
そして僕は物にした。たとえドライグがブーステッド・ギアから出て行っても、僕は赤龍帝の力を使うことが出来るのだ。
それだけではない。龍の力を使えるし、倍化する力も更に増大している。本来ブーステッド・ギアって龍の力を倍化させるものだから、当然の結果らしい。悪魔の力である魔力を倍化させるのは二次的なものらしい。……龍の力じゃなくて悪魔の力を最初に使う赤龍帝は力の使い方を理解してないバカってことだ。
ま、赤龍帝の力が増えたせいで寄ってくる強敵も美女も増えたけどね!! 襲い掛かる災厄や面倒事も!!
話を戻そう。今は塔城についてだ。
「……それはおかしいね」
「……どういうことですか?」
「言葉通りだよ。……君の話すお姉さんがそんな恐ろしいことをするとは思えない」
「!!?」
僕がそういうと、塔城小猫は驚いた顔をした。
ねえ本当に君お姉さんのこと好きなの?マジ信用してやれよ君の姉を。今まで君を守ってくれた唯一の肉親でしょ。何かお姉さんに恨みあるの?
「……貴方になにがわかるんですか!?」
突然感情的になって怒鳴る塔城。
「これは僕の勝手なイメージだ。君のお姉さんは今まで君の傍にずっといてくれて、君を守るために眷属になったんでしょ?そして眷属になった後も君のことを想ってくれた。……そんな優しそうな姉が簡単に力に溺れるのかな?」
「そ…そんなこと貴方にわかるわけがないじゃないですか!!」
「なら思い出してみて。君のお姉さんは力に溺れるような弱い猫だった?」
「そ…それは………」
「それに力を求めたのは君を守るためじゃないのかな?……僕には分かる、守りたいもののために自分を犠牲にしても力を求める気持ちがね」
「………」
自分を犠牲にしてでも力がほしい。たとえ人間性を失っても、魂を売っても、化け物になってでも成し遂げたい。……そう思ったから僕は悪魔の力に、そして禁術に手を伸ばした。
その場の勢いなんかじゃない。感情任せに、ガキの癇癪みたいに、後先考えず突っ走るバカみたいに軽く手を伸ばした気は一切ない。
僕は本気で願った。失う覚悟もした。リスクを承知の上で、恐怖を乗り越えて手にしたんだ。
だから理解できる。君の姉の気持ちが。何かを捨ててでも成し遂げようとする意志が。
「…もし、本当にお姉さんが暴走したなら、彼女は何のために力を求めたんだろうね」
「………」
僕はそれだけ言って、その場から去った。
あとは君の問題だ塔城小猫。与えられた偽の情報を信じ切って真実から目を背けるか、それとも姉を信じて真実を探求するか。どの道に進むかは君が決めろ。誰でもなく君自身が決めなくちゃいけない。
もし後者を選ぶならば僕たちも協力を惜しまない。主に背いて戦う勇気と姉と一緒にどこまでも行く覚悟があるなら、僕たちは君を歓迎しよう。
小猫もパワータイプというより、単に力頼りなだけだと思う。
今までは雑魚が相手だったからよかったけど、身体能力がマジで高い相手、例えばサイラオーグとかではボコボコにされると思う。
だから猫又の力を使えとは言わなくても、せめて猫としての戦い方ぐらいのアレンジはしたほうが彼女に合ってる気がする。だって元々ネコ科なんだし。