禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第26話

 リアスをボロクソ言った後、部隊を編制させて見回りを強化することにした。

 今回は天使と堕天使が同時に敵対、しかも戦場はこの町全土だ。なので用心するよう言ったのだが、今度は木場が勝手な行動をしだした。

 

「まて木場。どこに行く気だ?」

「……いいでしょ別に」

「よくない。今回は危険な仕事なんだ。勝手な行動は許さない」

「……偉そうに。君に一体何の権限があるんだ」

 

 妙にイラついた様子で木場は言った?どうした、生理か?……いや、コイツ男だから。

 

「僕はリアス・グレモリーから指揮権を譲渡されているんだ。だから君たちを動かす権利はある」

「……そう。なら僕ははぐれにでもなります。……これ以上ごっこ遊びはごめんです」

「……おい木場裕斗」

「なんです……うッ!!?」

 

 いい加減僕はむかついたので、彼の首をつかんで締め上げた。

 感情に正直なのはいいが、時と場所を選べ。今から命のやり取りするというのに、勝手な真似は許さないからな。

 

 戦いで最も怖いのは敵ではなく無能な味方や勝手なことするバカだ。こういう奴が一人でもいると、作戦が台無しになってしまう。だから荒っぽいことをしてでも躾ける必要がある。

 まあ一番はそんなバカがいないことだけどね。

 

「調子に乗るなよ。まだ自分の力も満足に使えない雑魚の分際で。テメエごときいつでも処分できるんだぜ。……これでもまだはぐれになって生き残れると本気で思ってるのか?」

「はぁ……はぁ……」

 

 手を放して地面に尻餅をつく木場。

 

「………君の言うことは正しい。けど、僕は止まることが出来ないんだ!!」

「知ってるよ。たしか聖剣計画の生き残りだってね」

「!!?」

 

 君の情報は既に知っている。グレモリー眷属の過去はつい先日全て調査済みだ。

 木場の過去には同情すると同時に教会を糾弾したい衝動に駆られる。今まで教会に尽くしてきたというのに、用がなくなれば殺処分。鬼畜の所業とはまさしくこのことだ。

 許せるはずなどない。企画者だけではない。実験の内容を知っていながら許可と援助を行った教会上層部も、知っていながら止めもせず、責任を取らない天使共も。全てを衆目に晒した上で確固たる責任を絶対に取らせる。最優の赤龍帝であるこの俺が、必ずコイツらに相応しい終わりを見せてやろう。

 僕でさえ激情に飲み込まれそうなのだ。当事者である彼の憎悪と悲しみは比べものにならないだろう。

 

 けどだからといって木場の行いの全てを許す気はない。彼は組織に属しているのだ。個人の感情だけで動いていいはずがない。

 だから………

 

 

 

「君の生い立ちは凄まじい。同情に値するよ。……けどそれだけだ。君の復讐を全肯定するわけにはいかない。……だから、僕は君に復讐の大儀を与えよう」

「……え?」

 

 こういうのはちゃんと大義名分を用意しないと。

 

 

 

 

 

「勝手に入ってきたのは向こうだ。ならば壊してしまっても文句は言えないだろ?」

「!!? そ…それって……」

 

 どうやら僕の言いたいことを、裏の意味を察してくれたらしい。

 

「木場裕斗、聖剣をも超える魔剣を創造する君に、この町を荒らす聖剣使いを始末する仕事を与えたい。……引き受けてくれるか?」

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー所長、シトリー様に例の報告終わりました」

 

 オカルト部で重要書類を片していると、突如転移した朱乃が経過報告をしてきた。

 

「分かった。それで、彼女は僕たちの協力を引き受けてくれた?」

「ええ。通常はリアスと私たちのみで行いますが、今回は緊急事態ですので。ですから快く引き受けてくれました」

「そうか。それで、主導権は僕たちにあること、そして僕たちの指令通りにこの町を警護することに何か異論はあった?」

「……それが……………」

「あったんだね」

 

 仕事を全て終えたので、終了用の入れ物に資料や書類を入れておく。

 

「ええ。彼女たちは自分たちでこの町を守ると……」

「……馬鹿だねえ。司令塔が二つもあったら混乱するじゃん」

 

 一つの部隊に頭は一つ。これは兵法でも基本中の基本だ。だって、二つも命令する立場の奴がいると、食い違った指示が出て部隊に混乱を招いてしまう。

 あと連携を取るのに報告し合うのがいちいち面倒。細かい経過報告を交換して、どう動くか決めて、トラブルとかもあったらお互いのスケジュールとかを確認しながら直す必要がある。

 面倒なことこの上ないが、これを怠れば部隊に混乱を生んでしまう。……ね、非効率でしょ?

 だから部隊は出来るだけ一纏めに、そして命令出来る立場の人間も可能な限り少ない方が良いのだ。現在のマキャベリスト、ルルーシュさんがそう言ってた。

 

 そう言えばルルーシュで思い出したけど、ヴァーリの禁手化ってどう見たってランスロット・アルビオンだよね。あれは丸々パクリすぎでしょ。君はウザクのファンか何か?

 

「僕はリアス・グレモリー様から指揮権を承ったんだ。だから最後まで仕事を全うする義務がある」

「………奪ったの間違いでは?」

 

 うっさい。だってあいつ仕事しねえんだもん。

 

「まあいいだろう。あいつら馬鹿だから事実上の指揮権を奪うのも簡単っぽいし」

「……そうは言いますけど、あの方は偏差値の高い駒王学園でもトップの成績の持ち主ですわよ」

「それを言うなら僕は博士号取ってる大天才だよ。それに、貴族なんてどうせリアスみたいなのばっかでしょ。なら楽勝だ」

 

 あんなのでもルイン・プリンセスなんてご立派な二つ名を貰った上、グレモリー家の才女とか言われてるんでしょ。なら悪魔の世界なんて程度が知れている。リアスより少し賢い程度なら楽勝だ。

 

「あと、教会からの使いが面談を求めています」

「教会が?今更何の用だ?」

 

 本当に身勝手な連中だ。今まで何の連絡も寄越さず、無許可で領地に侵入して、暴れまくって今更面会かよ。

 順序が逆だろうが。普通は面談して許可貰ってからだろうが。それが無理でも領地に入るとかいう知らせぐらいは送れよボケが。無礼にもほどがあるぞ。

 ……いや、この場合リアスがなめられすぎているだけか?

 

「……たぶん今回の件で悪魔は首を突っ込むなって言う気なのでしょう。あと捕虜の返還も求めています」

「………どれだけ身勝手な連中なんだ?」

 

 奴らの身勝手さは理解しているが、間近に感じると本当にぶっ飛ばしたくなるほどムカつくな。

 普通は謝罪した上で手を引くか、畏まった態度で探索の許可をお願いする立場というのに、何の悪びれもせず、一方的に要求するというのか?……なめるのも大概にしろよ劣等種族の分際で。

 

 あの無能を見下すのはいい。実際能力もないし、あいつの場合能力以前の問題だ。だから根拠のないこと以外はボロクソ言われたとこで僕は何も言わない。

 しかしこの町を汚すことは許さない。ここはお前たちの属地ではないのだ。悪魔の土地でもないが、事実上僕が支配しているからそこは今更強く言わない。いずれは本当に悪魔から支配権を奪うのだから。

 この町は僕が管理している。だからそれを妨げようとする馬鹿、そして土足で汚そうとする敵は何が何でも排除する。

 別に戦うつもりはないが、下手に出る気はもっとない。だから……

 

「わかった。それで、いつ来るんだ?」

「明日よ」

 

 もし僕と敵対するのなら退場してもらうよ。妄信的な奴隷共はさっさと神のお膝元で眠るがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりイッセーくん!」

「……」

 

 家に帰ると、10年前ほどこの街から引っ越した知り合い、紫藤イリナがリビングにいた。

 久々の再開だというのに、僕にはうれしさといったものは一切感じられない。なぜなら……

 

「なんでこの野蛮な女を家に入れたんだよ母さん?」

「や…野蛮って何よ!?」

「うるさい!幼稚園でみんなの育てたチューリップを全部引っこ抜いた野蛮人め!!」

 

 そう、この女は昔、ヒーローごっこで花壇を荒らし、皆がかんばって育てたチューリップを無茶苦茶にしやがった暴れん坊なのだ。

 チューリップだけじゃない。この女はごっこ遊びで近所の犬をいじめたり、公園で遊んでいた年上の子どもをごっこ遊びに巻き込んで泣かせたり、野球で近所のおじさん家の窓ガラス割った時一目散に逃げたり……碌な思い出がない!

 

「いいじゃん別に!ちゃんとイッセーくんが解決してくれたんだから!」

「押し付けてるだけじゃん! 特にチューリップの植え直し!傷ついた彼らを死なさずに直すのがどれだけ大変だったか……!」

 

 まだ神器も覚醒しておらず、最低限の知識もない中、僕は必死に直そうとした。泣きながら植えなおしたあの苦い涙の味は忘れない!

 

「そんな邪見に扱わないのイッセー。イリナちゃんは友達でしょ」

「やだ。僕コイツ嫌い」

 

 ごめん母さん、僕はこんな野蛮人を友達にすることなんて出来ないよ。コイツ友達にするなら、もう一人でいい。ぼっちの方が100倍マシ。

 

「出てけ。ここは僕のお気に入りの植物がいるんだ。君の二酸化炭素で光合成してほしくない」

「どういう意味よそれ!?」

 

 言葉通りの意味だ。ここでは彼らの生成した酸素を吸うことも許されない。分かったらその薄汚い口と鼻を閉じて呼吸を辞め、ここから出て行ってくれ。

 

「はいはい出てった出てった」

「ちょっと押さないでよ!久しぶりにあった幼馴染だよ!?」

「うっさい。幼馴染で興奮するのは、実際にそういう子がいない人だけだから。現実の幼馴染なんて何の価値もないから」

 

 幼馴染なんて、ただ小さい頃一緒に遊んだだけの他人のようなものだ。たとえ当時は友達でも、時の流れによって縁は風化していく。それで再開した頃には他人に逆戻りするものだ。

 ギャルゲーのように幼馴染と結婚するなんてほんの一握り。いや、今は幼馴染はかませ犬ポジか? いや、ギャルゲーのことはどうでもいいか。

 

 第一、幼馴染とか言うけど、お前が勝手に僕の周りウロチョロしてただけだから。というか僕にとってはただのいじめっ子だから。僕の邪魔するお邪魔虫以外何者でもないから。

 

「いいわよ!だったら出てってやる!」

「うん、二度と来ないで」

 

 僕はあの馬鹿が庭の植物をいじらないか監視。植物たちの無事を確認したとこで僕は家の中に戻った。

 

「…ちょっとイッセー、折角イリナちゃんが来たのにあれはないんじゃないの?お友達だったんでしょ?」

「いや、本当に僕あいつのこと嫌いなんだけど。女子とはいえ僕のこといじめてた奴なんて友達になりたくないよ」

「……え?」

「……ん?」

 

 どうやら親と子の間で大きな齟齬があるらしい。僕は迷惑がってたけど、どうやら大人から見たら僕は楽しそうに遊んでいたというのだ。

 ……父さんと母さんの目が節穴なのか、それとも大人と子供の認識とは元来そんなものなのか………。

 

「とにかく、僕はあいつと今更縁がないことを願うよ」

「そうは言ってもね、もう昔のことじゃない。許してあげたら?」

「やだよ。あの女からは狂犬の匂いがする。絶対に関わりたくないタイプだ」

「そんな……。お母さん心配だわ。だってイッセー、女の子に興味なさそうだし。ちゃんとお嫁さん作れるのかしら」

「……そんな当分先のことを今悩む?」

 

 高校生で結婚とか考えるわけないじゃん。何先走りしてるんだ両親達は。

 ……まあ、僕の場合結婚出来なさそうだね。見た目はどストライクの女子供が集まるんだけど、中身がどうも受け付けない。

 

 

 それに、僕には夢がある。それを叶えるために僕は歩みを止める気はない。

 

 

 

「しっかしあの女が使者とはね……。世も末だ」

 

 あいつが腕に巻いているあのミサンガ。あれ擬態の聖剣だった。おそらくあの女が教会が送り込んだ使いなのだろう。

 

「…ああ、なんでこうも面倒なことが次から次へと……」

 

 僕はトラブルの原因、ドライグを少し恨んだ。




別に復讐そのものは否定しないけど、そのための大義名分は工夫した方がいいと思う。
それを考えるのも上司の仕事じゃね? そもそもバルパー自体追放されてるから復讐しても、何の問題もない。むしろ称賛される可能性だってある。
なのになんでリアスは否定するのだろうか。
というか、自分の領地で起きたことだからあの時も介入できたはず。いや領地の管理者として介入しなければならなかった。
上記のことから、私はリアスが木場裕斗という人形が自分の意にそぐわない負の面を隠そうとしているように見えました。

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