禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第28話

「…ねえ、なんでここで剣で戦うことになってるのかな?」

 

 誰もいないグランド。そこで僕と木場はあの教会二人組と向き合うことになっている。

 事の発端はこのバカだ。あのまま丁重にお帰り願おうとしたのに、このバカが喧嘩を売ったのが原因だ。

 

 ただケンカを売るだけなら止めるのだが、コイツは本当にこのバカ女二人がコカビエルに勝てるのかどうか、任務を達成できるかどうかを判断するための試験という名目でこの勝負を仕掛けたのだ。

 無論僕は却下したのだが、木場が教会からの使者を断る以上、具体的な理由がないと難しいと言ってきたので、渋々受けることにした。

 

 僕の相手は擬態の聖剣を使うイリナ。彼女は既にミサンガを刀に変えて戦闘態勢を取っている。

 さて、あいつはムカツクけど一応顔見知りだ。昔の好で加減してやるか。

 

「ああ!まさか幼馴染が悪魔と契約する罪人になるなんて!なんたる悲劇、これも主からの試練なのかしら」

 

 やっぱやめよう。あいつ絶対ぶちのめす。

 何あの自演? 何が悲劇だ。何が主からの試練だ。本当にふざけている。

 神こそ絶対、神の行動はどんなことでも正しい。しかし神以外がするならば悪。神に敵対するものは無条件で悪、たとえ事情があろうが知ったことではない、敵の正論は暴力とご都合で潰す。お前らは我らの信仰する神の教えを黙って受け入れろ。無条件で神を敬え。そして神の信徒である私たちは神同様に正義。神のためならばどんなことしても許される。しかし我ら以外がすることは許さない。

 ……まるでマンセーしかないラノベ主人公とそのハーレムみたいだな。反吐が出る。

 

 苦手な女とはいえ、ここまで堕ちてしまえば逆に哀れみのようなものまで感じてしまう。……まあ、僕に出来ることはないし、する気もないけどね。

 

「…マルコシアス」

 

 魔神の力を借りてスピードと剣の技術を上げる。あいつは二刀流だけど僕は刀一本でやるのが好みなんだよねぇ。ま、そこは文句言っても仕方ないけど。

 腰に差した木場から借りた剣を引き抜き、超スピードで接近。そのまま刺突を繰り出した。

 

「ほれほれほれ!どうした、防戦一方か?」

「ちょ…調子に乗らないで!」

 

 イリナは刀を横に振るう。僕は跳んで避け、ヒットアンドウェイに切り替えた。僕は剣を鞭のようにしならせ、斬撃を繰り出す。……いや、マジで剣が鞭のように伸びていた。

 

「な…これって魔剣!?」

「そうだ。伸縮自在の魔剣だ。君の擬態の聖剣に対抗して作ってもらったんだ」

 

 僕は武器に関してはてんで素人だ。ただの剣で打ち合えば、武器でも経験でも勝る彼女に負けてしまう。そう思って武器だけは劣らないものを選んだのだ。 

 けど、どうやら僕の心配は杞憂に終わったようだ。この女も以前の木場同様、武器に頼るだけの素人。むしろ戦いの腕だけなら僕の方が上だと断言できる。

 

「……クッ! なめないで!たかが量産された魔剣が聖剣に勝てるわけないでしょ!!」

「それはどうかな?悔しかったら君も聖剣をもっと使いこなしてみなよ」

 

 たしかに僕の使っている伸縮の魔剣は擬態の聖剣に性能面でも応用性でも大きく劣る。こちらのは伸びたり縮んだりするだけなのに対し、君のはあらゆるものに化けることが出来るのだから。

 その上この魔剣は偽物。なので性能も強度も本物と比べると大幅に劣化している。武器は君が断然有利だ。

 

 しかしそれは使い手が完全に使いこなしてこそ現実となる。

 

「ほらほらどうした?さっきから本当に防戦一方じゃん。こんなありふれた魔剣、エクスカリバーさまなら簡単に破壊できるよね?」

「こ…この!! さっきから馬鹿にして!!」

 

 僕の挑発に乗って更に剣を振るスピードを上げるイリナ。しかし彼女は擬態の能力を使うことはなかった。

 この女、どうやら聖剣の力をマジで使いこなしてないらしい。擬態の聖剣はその名の通りあらゆるものに化ける力を持つ聖剣だ。特殊な能力のある他の聖剣や魔槍に化けてもその能力を使えることはないが、形状による効果ならいくらでも使える。

 例えばソードブレイカーに化けて敵の剣を折ったり、ファルシオンに化けて敵を叩き切ったり、ナイフに化けて小回りを良くしたり、蛇腹剣に化けて鞭のように敵を切断したり。中には剣だけでなく槍や銃などの武器に化けて使った猛者もいるらしい。

 そんな風にあらゆる剣に化け、その特性を活用することこそ擬態の聖剣の神髄なのだ。よって擬態の聖剣を使いこなすにはあらゆる武器に精通する使い手でなくてはならない。

 

 しかしこの女は聖剣の形状を一向に変えようとしない。もし刀がこの状況に適しており、使いこなしているなら話は別なのだが、そうでもない。一体なんのつもりだ?

 

「……どうした?何故聖剣の能力をもっと有効に使わない?」

「黙りなさい!あんたなんかに聖剣の何が分かるの!?」

「……」

 

 ああ、わかった。こいつマジで使いこなせてないんだわ。

 もし本当に使いこなせるなら、様々な形状に変えてもっとトリッキーな戦いが出来るはず。なのにこの女はさっきからワンパターンな攻撃しかしてこない。

 ……ねえなんでこんなのが聖剣握ってるの? もっと相応しい使い手いるでしょ。もしかしてその可愛い顔といやらしい身体で上層部を誑し込んで手に入れたの?

 

「……もういい。飽きてきた」

「何を言って……きゃあ!!?」

 

 左手にナイフを掴んで振り下ろす。それを防がせ、囮に使う。イリナがそれに意識を向けている間に、もう片方の魔剣を足に巻き付けてバランスを崩す。

 片足を取られたことにイリナは混乱する。その隙をついて聖剣を握る手も魔剣を巻き付かせて聖剣を封じた。

 無論これだけでは終わらない。僕は体重をかけてイリナの身体を振り回した。つかみ合いになれば、軽い方が重い方に振り回される喧嘩では常識だ。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 イリナは聖剣を放しなら遠くに吹っ飛んでいった。ま、こんなものだろう。

 

「さて、向こうはどうなってるか……あの馬鹿」

 

 擬態の聖剣を回収しながら木場の方へ向く。なんとあいつは素直に正面からぶつかって力比べをしていた。

 お前マジで馬鹿か。ヒットアンドウェイはどうした。明らかアイツパワー型じゃん。何弱そうな魔剣で二刀流で戦ってるの?もっとでかい剣使えよ。教えたことも訓練したことも無駄になってるじゃん。

 

 このままでは木場が負けてしまう。それはまずい。もしあいつが負けたらこの二人を町で調査することを許さなくてはいけなくなる。それだけは嫌だ。

 あいつらを町にうろつかせたくない僕は聖剣を構えて乱入することにした。誰も乱入しちゃいけないなんてルール決めてないからいいよね!

 

「……いいよ、食べても」

 

 さあ、擬態の聖剣よ。僕の龍力を貸してやる。ずっと薄い力ばかり食べて飽きたでしょ。今日ぐらいはお腹いっぱい食わせてやる。

 

「…ウィップ」

 

 力を込めながら聖剣を振るう。すると擬態の聖剣は赤いオーラを纏いながら蛇のように襲い掛かり、彼女の聖剣に巻き付いた。

 よし、これであの脳筋女の動きを止められる。今のうちにやるんだ!

 

「今だ!!」

「余計なことするな!!」

 

 ……え~。僕サポートしてやったのに何その言い草。邪魔されたくなかったら相応の働きをしてよこの口先だけ野郎。

 

 このまま放してしまったら木場の負けは目に見えている。なので僕は魔神の力を使うことなく、直接力を流し込んでダメージを与えた。

 

「ぐわあああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ゼノヴィアは悲鳴を上げて倒れた。僕は彼女の持つ聖剣も回収しながら、彼女に近づく。そして倒れている彼女に聖剣を向けた。

 

「チェックだ」

「……チッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあの無様な戦い?」

「……」

 

 イリナたちとの戦闘が終わり、無事町の外に追放した後、イッセーは木場に説教をしていた。

 

 イッセーの怒りの原因。それは木場がゼノヴィアとの戦闘に見せた醜態だ。

 彼女の持つ聖剣は破壊の力で敵を叩き潰すタイプ。木場のようなチマチマした戦闘をする者にとっては天敵のような存在だ。よって木場がする行動は一つ。正面から攻撃をせずに、逃げながらチクチク攻撃すること。

 彼女の聖剣はその大きさ故小回りが利かない。故に動き回ったり攪乱用の魔剣を創って相手のペースを乱す。攪乱することで相手に攻撃する隙を与えず、防御する暇も潰す。これこそ木場裕斗の戦い方だ。

 しかし彼は本来天敵である彼女に正面から打ち合った。最も苦手なパワーによる戦い方を自分から仕掛けたのだ。

 故にイッセーはブチキレしている。なんて無様な醜態を晒したのだと。

 

「お前のバトルスタイルは何だ?お前の得意分野はなんだ?逆に苦手分野は何だ?」

「……ヒットアンドウェイ。スピードを活かした攻撃。パワーによる特攻」

「そうだ。けどあの時、君は力押しをしてたよね?」

「…………ごめんなさい」

 

 木場の謝罪を聞いてイッセーはため息をついた。

 

「木場、怒りに身を任せたいのは痛いほどよくわかった。……けど、単細胞に突っ込んでも、何も成せないぞ」

「…………はい」

「さあ、分かったら早速今回はどうやったら勝てたか、そしでどうやったら聖剣を事故に見せかけて破壊出来たか話し合ってみるか」

「…………うん」

 

 イッセーはそう言うと木場に肩を貸して保健室に向かう。

 先ほどの戦闘で木場は少しだが負傷してしまった。拙作ではアーシアがリアス眷属ではないので、治療班がいないのだ。こういう時いかにアーシアが彼らを支えていたのかやっとわかる。

 

「……すごいわねあの子。すでに裕斗と信頼関係を作ってる上、コントロールも完璧だわ」

「ええ。リアスには反発してたのにね」

「…うっさいわよ」

 

 木場が勝手に何処かへ行こうとした際、最初に止めたのはリアスだった。私の眷属なら勝手なことはするなと。復讐なんて許さないと。そう裕斗に言い聞かせた。

 しかし木場はリアスに反発。はぐれになってでも聖剣を破壊すると言い出した。

 だがイッセーには従順。リアスにはあれほど反発していたのに、イッセーのいうことは素直に聞いているのだ。

 

「イッセーくんは裕斗君の復讐を肯定も否定もしない。ただ大義名分を、裕斗君にチャンスを与えているだけ。そして裕斗にアドバイスをしてくれる。……その違いなんでしょうか?」

 

 リアスに聞こえない声で朱乃は呟いた。




聖剣使いは二人とも聖剣を全く使いこなしてないと思う。
擬態の聖剣は様々な剣に化けることができるのだから、もっと別の武器に化けたりして戦えよ。なんで日本刀ばっかりなんだよ。せっかく応用性のある聖剣なのにワンパターンすぎるんだよ。
破壊の聖剣もただのでかい鉄の塊にしか使えてないじゃん。衝撃波出すなりしろよ。てかそのでかい剣とまき散らすオーラのせいで連携取れないんだよ。
結果、二人はただ聖剣の性能に頼るだけの素人、聖剣をおもちゃのように扱う子供のような印象でした。
皆さんはどうですか?

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