禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第30話

 とある廃坑。そこで木場たちは堕天使軍団と聖剣を振るうフリードと戦っていた。……いや、それを戦いと呼べるかは疑問であった。

 

「……もう終わりか」

 

 フリードは二つの聖剣を肩に担いでため息をついた。

 ほんの数分前、イリナたちは堕天使の気配を感知し、はぐれエクソシストや堕天使と戦闘を開始。遅れて木場も参戦した。

 堕天使とはぐれたちは何とか倒すことが出来たのだが、フリードが単身で突っ込んだことで戦況は逆転。フリード一人にいいようにやられて今に当たる。

 

「なんていうかさ~、お前たち激弱すぎっしょ。スペックはいいんだけど全く使いこなせてない。これじゃあ聖剣泣いちゃうよ」

 

 コツコツと、靴音を立てて二人に接近する。

 

「ゼノヴィアだっけ?お前は力に頼りすぎ。パワータイプと力に頼る戦い方は全く違えぞ」

「うわッ!?」

 

 ゼノヴィアの聖剣を二刀流で受け止め、そのパワーを利用してゼノヴィアの剣を打ち上げる。そして、無防備になったゼノヴィアの腹を蹴り飛ばした。

 

「いや、お前力に頼るどころか大振りすぎなんだよ。その戦い方、人間相手にはオーバーだぜ。的の小さい相手じゃ簡単に避けられる」

「だ…黙れ! 私がこの剣を使いこなせてないと言うか!?」

「それ以下だ。お前、剣を使いこなすどころか長所をダメにしてる。大振りの剣が邪魔で数の利を潰してんだよ。それどころか、剣の余波で味方を巻き込んじまう。完全に周囲を見てない脳筋だ。集団戦では一番足引っ張るタイプ」

「な、何を言って…ぐあッ!?」

 

 フリードは聖剣の柄で彼女を殴り、気絶させた。

 

「次にお前。擬態の聖剣は様々な武器になることが出来るんだぜ? なのになんでずっと日本刀なの?もっと別の武器に変形させろよ。もっといろんな武器を使いこなせよ。正規の聖剣使いじゃない俺でさえ天閃の聖剣の能力をガンガン使ってるのに……」

「きゃあ!」

 

 フリードはイリナを蹴り飛ばして無効化した。

 

「……はあ~。なんでこんな雑魚に聖剣を持たせた上、奪還任務なんてやらせに行ったん?教会はマジで俺がいたころよりもバカになったん?」

 

 フリードは頭が痛いとばかりにため息を吐いた。

 破壊を撒き散らして足を引っ張る脳筋と、聖剣をただの切れる鉄の棒として使う馬鹿。この程度の剣士が使い手になってしまうことができるというのだから、伝説の聖剣エクスカリバーも堕ちたものだ。

 

「で、お前なんだけど……なんでもっと神器の力使わんの?」

 

 フリードは聖剣の力を使って速度を上げ、木場の猛攻を捌きながら聞いた。

 

「まさか僕にもあの二人同様に説教する気?」

「いや、お前はバトルスタイル合ってるからいんだよ。スピードを活かしたヒットアンドアウェイ。攻撃力のなさを魔剣で補ってる。剣筋が正直すぎるが、あの二人に比べちゃ数段優秀だ。ただ……」

 

 フリードはもう片方の聖剣の力、透明の聖剣の力を使って木場を押しのけた。

 

「……ただ、神器を使いこなせてない」

「………」

 

 木場は心当たりがあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも反論しなかった。

 

「………同じことを頭のいいバカな友達にいわれたよ」

「その友達正論だぜ。手前の神器は魔剣創造。あらゆる属性、効果を持つ魔剣を作り出すことができるという、使い勝手の良い代物だ。この神器を使いこなすことができれば、苦手分野なんて存在しねえ。なんせ、自分の手札を好きなように作ることができるんだからな。例えるなら最近の仮面ライダーだ。あんだけ色々フォームチェンジできるなら、使いこなせば敵なしだ」

「そうだね。けど僕は剣の師匠達には恵まれても、神器の師匠には恵まれなかったらしい。おかげで友達と色々考えて開発するしかないんだ」

「いや、相談出来る友達がいるだけで十分だろ。眷属の師匠探しは王の仕事だし。……お前の王ちゃんと仕事してんの?」

「それも友達に言われた!!」

 

 再び剣を交える。今度は爆発機能付きの魔剣。ぶつけるたびに爆発するので体力を消耗するが、彼の筋力不足をカバーすることの出来る武器でもある。

 

「テメエ…!そんな乱暴な使い方してたら武器壊すぞ!」

「使い捨てなりのやり方さ!」

 

 天閃の聖剣を振りかざしながら怒鳴るフリード。使い慣れない武器であるにも関わらず、その太刀筋には迷いの欠片もない。

 

 振り下ろされる聖剣に合わせるよう爆裂の魔剣を掲げ、その刃と刃を真正面からぶつけ合う。

 火花が散り、金属音を立てながら、合わせたままの互いの刃を振り抜く。

 

 瞬間、爆発音が響いた。

 音源は木場の魔剣からだった。

 

 爆発によってフリードは体勢を崩し、つけ入る隙を晒した。

 

「しまッ!」

「(今だ!)」

 

 己の出せるスピードを以って、フリードに刺突を仕掛ける。

 貫くのは喉。こんなチャンスは滅多にない。ここで仕留めて見せる!

 

 

 

 が、木場の目論見みはあっさり潰された。

 

 

 

「焦りすぎだぜ、ボーイ」

「……チッ」

 

 天閃の聖剣の力を使って、木場の魔剣を受け止めた。

 

「ピンチになったらまずは急所を守ろうとするのが人情ってもんだ。レベルが高い斬りあいなら尚更な。よってここは焦らず防ぐのが難しい箇所、手足を貫いてパワーダウンを狙うのがいいんだぜ」

「……ご忠告どうも」

 

 木場は下がりながら自分の得物に目を向ける。

 さっきの爆発と打ち合いのせいで、彼の得物は刃こぼれを起こしていた。

 

 精霊の力によって生み出された聖なる剣と、超常の力を持つとはいえ劣化コピーの魔剣。この差は大きい。

 

 このまま打ち合えば、何時か得物ごと木場が切り裂かれるのは明白である。……このまま打ち合うのであれば。

 

「……なるほど」

 

 木場は脆くなった魔剣をフリードに投擲、新しい魔剣を作りだす。

 

 魔剣創造によって生み出された剣は本物と比べると性能も耐久性も数段劣る。よって本物の聖剣との打ち合いには数歩ほど不利になってしまう。

 その不利をカバーするため、彼はまず自分の武器の認識を変えた。

 

 即席の使い捨て武器を基本としたのだ。投擲武器として扱い、時にはあえて武器を破壊する事で虚を突く攻撃も可能となった。

 

 フリードは爆弾と化した使い捨て魔剣を避ける。瞬間、彼の肩に白い影が飛びかかった。

 

「ふしゃあ!!」

「っと。援軍到来っすか?」

 

 その影は小猫だった。彼女は猫のように爪を立て、フリードに襲い掛かる。

 

「にゃあ!!」

「なるほどねえ。その戦い方、まるで今放送中の猫娘だわ。猫の俊敏性と駒の特性が合わさっていい感じにベストマッチしてやがる!」

 

 猫の俊敏性をフルに活用し、駒の効果によってパワーと防御力を上げている。正直に厄介な相手だった。

 

「……こりゃやべえな」

 

 右には木場、左には小猫。これ以上の戦闘は危険だというのに逃げることは不可能。さて、どうしたらいいものか……。

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで遊んでいる馬鹿者が」

 

 

 

 

 

 

 

 ダンと、フリードと木場、そして小猫の間にそれぞれ光の槍が刺さった。

 それが投げられた方角に三人は同時に目を向ける。そこには、援軍らしき堕天使が集まっていた。

 

 援軍はたった二人だが、二人とも上級堕天使のようであり、相応のオーラを発している。

 

「お、ナイスタイミング。ちょうど援軍が欲しかったんだよね」

「フン、この程度で手こずる雑魚が。いいだろう、俺たちが相手してやる!」

「「!?」」

 

 堕天使は光の槍を携え、木場と小猫に襲い掛かった。二人はそれぞれの敵を向かい打とうと動き出し、得物をぶつけ合う。

 

「さて、俺は聖剣の回収を……あら?」

 

 堕天使が二人の足止めをしている間にゼノヴィア達を回収しようと動き出すが、気絶していたはずのエクソシスト二人組がいない。

 もしかして木場達に集中している間に回復して逃げたのであろうか。いや、あの盲目でバカな狂信者共が目の前に目的のブツがあるのに逃げるなどありえない。

 例えるなら餌を前にした狂犬。何が何でも取りに向かうはずなのだが……。

 

「探し物はこれかな?」

「……あん?」

 

 声のした方向に振り向く。そこには我らが主人公、イッセーが聖剣を両手に武装した状態で廃材の上に座っていた。

 

「……おいそこの赤いメッシュを毛の中に隠してるガキ、それを寄こせ。それはお前みたいなガキが触っていい玩具じゃねえんだ」

「え~。そういう君も僕と同じ年じゃん。それにこれの持ち主も同じくらいだったし」

「バカ。俺はちゃんと使いこなせている。あの狂信者二人と一緒にすんな」

「……そうだね。だったら僕も使いこなしたら文句ないよね?」

「……は?」

 

 フリードは一瞬呆けた顔になった。

 

「笑えねえ冗談だな。正式な聖剣使いと持て囃されてるあのバカでもあんなザマだ。ただの高校生にできるっていうのか?」

「やってみるさ」

 

 イッセーは破壊の聖剣を両手で構える。

 剣を構えると聞いたら、誰もが最初に想像するであろう一般的な構え。イッセーは剣先をフリードに合わせ、いつでも踏み込める状態を取った。

 

「(……なるほど。剣道をベースにした構えか。いかにも日本の高校生って感じだな)」

 

 フリードはイッセーを素人と判断するも、彼は一切油断しない。なにせ、あの二人と比べたら大分マシであり、アマチュアとはいえ完成度の高いものだったからだ。

 

「なに剣先降っちゃってんの?猫じゃらしですか?ニャンニャン!(クソ…。どうにも剣先に目がいって踏み込み辛い。コイツ、有段者か?)」

 

 口ではふざけるもフリードは真面目だった。

 ゆらゆらと動く剣先。どうしてもこの剣先に目が行ってしまい間合いが取りづらい。

 

 それだけではない。これは小刻みに揺らすことで初動を隠しているのだ。

 ボクシングでもカクカク動いて相手に動きを悟らせないようにするシーンがあるだろう。あれと同じである。

 

「(…来た!)」

 

 意外にも、先手を取ったのは天閃の聖剣を持つフリードではなく、破壊の聖剣を持つイッセーだった。

 

 スナップの効いた一撃。狙いは手首だ。

 腰も力も入ってないが、破壊の聖剣はその重量だけですさまじい破壊力を発揮する。

 彼は力ではなく、スピードに。剣を当てることに重点を置いたのだ。

 

「けどな……次元がちげえよ!」

 

 腕に剣が来る前に、とっさに手を引く。そして天閃の聖剣の力で加速しながら、一旦間合いから離脱した。

 

 しかし、聖剣頼りの技術ではイッセーから逃れることは不可能である。

 

「なッ!?」

 

 イッセーは破壊の聖剣を後ろに構え、破壊の力を射出。ジェットのように噴出された力を利用して、フリードに追いついた。

 フリードが間合いに入ったと同時に、聖剣の力を解放しながら振り上げる。

 

 

 本来、破壊の聖剣が天閃の聖剣をスピードで超えることはない。

 二つの聖剣は正反対の性質であり、お互いの特性はお互いにとって天敵でもある。よって二つの聖剣がぶつかりあった瞬間、如何に自分のペースに巻き込むかが勝敗を分ける。

 逆の言い方をすれば、得意分野に巻き込んだ時点で勝敗を決しているということだ。

 

 しかしこの瞬間、イッセーはその概念を覆した。

 ほんの少し変わった使い方をしただけで、鈍重な聖剣が限定的とは言え天閃の聖剣を専売特許であるスピード勝負に勝ったのだ。

 

「面!」

「(バカが!)」

 

 破壊の力によって加速した力が載せられ、更に力を解放した一撃。掛け声と同時に振り上げられ、フリードはそれを避けようと動き出す。

 やはり相手は素人。剣道の癖が抜けなかったらしい。

 わざわざ自分の攻撃を宣言するなど以ての外。警戒した自分が馬鹿らし……。

 

「…!?」

 

 ……と、見せかけて袈裟斬りに変更。

 振り下ろすと思い込んでいたフリードはその攻撃を避けることが出来ず、咄嗟に剣を盾にすることに変更。

 ただ剣を盾にするだけで破壊の聖剣を止めることなど出来ず、衝撃は余すことなくフリードに伝達する。

 まるでホームランでも打たれかのようにフリードは吹っ飛び、何度も地面にリバウンドしながら、コンクリートの欠片をまき散らしながら、転がっていった。

 コンクリートの破片が、そして埃が舞い上がる。

 

「……抜け銅」

「……テメエ、言うの遅すぎだろうが!反則だろ!!」

 

 反則かどうかはともかく、天閃の聖剣によって動体視力も上がっているフリードが何故イッセーの攻撃を防ぐことが出来なかったのか。

 いくらイッセーがマルコシアスの力でスピードを上げているとはいえ、聖剣の力ならば見切れるはず。ならばなぜ?

 

 その答えはイッセーの剣の握り方にある。

 実はイッセー右手と左手には間が空いており、まるで関節のように動かす事が出来るのだ。

 

「(…やべえ、コイツ強え!使う技は一般的だが完全に物にしてるし、しかも思い切りがいい!こりゃなめてかかるとマジでやられる!!)」

 

 やっとイッセーの危険性を理解したフリード。

 

 イッセーは破壊の聖剣を大上段に構える。

 それに対し、フリードは腰を低く、自らの身体で聖剣を隠すような構え。

 

 それは飛びかかる構え。威力こそ劣るが、速度において優る、虎の構え。振り下ろされる破壊の聖剣よりも早く届く。

 対するは迎え撃つ構え。その一撃において、敵を惹きつける、龍の構え。これが最も破壊の聖剣の力を発揮できる。

 

 どこからか破壊の音が響いた。それを合図にしてフリードは駆ける。

 天閃の聖剣によって底上げされたスピード。決して愚鈍な破壊の聖剣などには追いつけない。

 しかしその油断をつい先ほど突かれた。故に今度は油断しない。この一撃に全てを賭ける!!

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 そう考えた瞬間、破壊の聖剣が目の前にあった。フリードは咄嗟に聖剣を盾にする。

 急なことのため聖剣を持つ腕を跳ね飛ばされたが、なんとか命だけは凌げた。

 

 何故だ。あのままいけば俺が奴の首を刎ねていたはず。なのに何故奴の方が速かった?

 一体奴はどんなトリックを使った!? 何故……何故だ!?

 

「テメェ……聖剣を投げやがったな!!」

「チッ。勘のいい奴」

 

 その答えはあっさりと見つかった。

 

 もっと言えば、イッセーは破壊の聖剣にひと工夫入れた。

 ただ投げるだけではフリードから先手を奪うことは出来ない。よって投げた瞬間に破壊の力を解放。爆発の勢いをスピードに、そして回転力に変えることで、破壊の聖剣を高速回転するブーメランに変えたのだ。

 

「けど……今のテメエにはもう武器がねえってことだよな!!?」

 

 そう、ブーメランは本来戻ってこないのだ。

 この技は使った後は武器が手元から離れ、回収しなければならないという欠点がある。故にこの技を使うときは必ず敵を仕留める必要があるのだ。

 しかし倒しそこねてしまった。今のイッセーは無防備……

 

「それで勝ったつもり?」

 

 ……というわけではなかった。

 イッセーはフリードの蹴りを避け、カウンターのパンチをブチ込む。反撃を予想すらしてなかったフリードはモロに喰らい、その場に倒れた。

 

 本物の剣士は剣のみを武器にするのではない。彼らにとって剣とは身体の一部に過ぎず、剣がなくては攻撃できない間抜けではない。故に、無手の心得もちゃんとある。

 剣がなかったら何も出来ないのは剣士などではない。ただ剣に使われるだけの土台だ。

 

「(まだだ……。まだこれがある!)」

 

 フリードは倒れている振りをして、神父服から透明の聖剣を取り出した。

 

 さっき使わなかったのは無手だと思わせるため。もし最初からこれを使えば、あの姑息な男はすぐに対処してしまう。

 一発いいカウンターを入れられたが、これでチャラにしてやる。この一撃でテメエの首を刎ねてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の浅知恵なんてお見通しなんだよ、ばーか」

 

 しかし、イッセーは透明な刃を突如出した盾によって防いだ。

 

「な…なんで……?」

「聖剣は僕にも見えてないよ。けど何か出そうとする動作するし、何か握ってるのは丸分かりだ」

「く、クソが!!」

 

 フリードは聖剣の力で透明になろうとする。

 重い一撃を喰らい、片手を奪われた。その上天閃の聖剣も手放すことになった。これ以上の戦闘は不可能だ。奥の手も見抜かれた以上、逃げるしかない。

 奴は無傷なのだ。しかも2本の聖剣を………2本の聖剣!?

 

「(…待て。あいつ、擬態の聖剣はどうした?)」

 

 その時初めてフリードは違和感に気づいた。いや気づいてしまった。

 あの時たしかに奴は聖剣を2本とも握っていた。なのに何故さっきまでは破壊の聖剣しか振るってない?

 もしかして……もしかして!?

 

 ガチィン!と。盾がトラバサミに変わって透明の聖剣を捕まえた。

 

「……トドメ」

「ぎゃっ」

 

 最後に毒針を刺して、フリードを気絶させた。




もし二人が聖剣を使いこなせるなら、もし木場が神器を使いこなせるなら。これぐらいはいけるのではないだろうか。
そう思って書いてみましたが、皆さんどう思いますでしょうか?

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