禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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あっさりコカピー退場します


第32話

「せ……赤龍帝!!?」

「三大種族に戦争を吹っ掛け、貴族悪魔を皆殺しにした最悪の存在……」

「あ…あいつが教会を襲撃した不届き者!?」

 

 赤龍帝の登場に全員が驚き、悪魔たちは恐怖と驚愕の目を、エクソシスト達は怒りの目を向ける。

 

 最凶の赤龍帝。それは、三大種族にとって反逆の恐怖を体現したような存在だった。

 教会、悪魔、そして堕天使。三大種族の重役たちに襲撃した挙句、彼らの悪行を暴露。いくら防御を固めようと、悪事を隠蔽しようと、いくら強かろうとも。彼はあざ笑うかのようにすり抜け、悪事をかぎ分け、証拠を見つけ、今までの悪事を公表してきた。

 彼によって幾多の貴族悪魔や上級悪魔が失脚した。彼の策略によって幾多の教会上層部が潰されてきた。彼の軍隊によって幾多の堕天使が破れてきた。

 彼は三大種族にとって正に天敵。彼に目をつけられた三大種族は決して無事では済まされない。よって三大種族は彼をこう呼ぶ、最凶の赤龍帝(アポカリプス)と。

 

 

「それで、今回は遂にこの俺まで破滅させる気になったというのか?」

『そうだ。だがお前の相手は俺じゃない。もっといい奴を紹介してやろう。……檮杌(とうこつ)!』

 

 赤龍帝が指を鳴らす。瞬間、コカビエルに一匹の巨大な虎が襲い掛かった。

 いや、それは虎ではなかった。体は虎だが、顔は人間の髑髏、口元からは猪の牙が生えていた。

 

「四凶が一柱檮コツ!!さあ、俺と戦う愚か者は誰だ?」

「ほう…。お前があの悪名高き四凶の一匹か。まさかこんな田舎町で戦えるとは……!」

 

 コカビエルは歓喜しながら、数百の光の矢を創り出し、一瞬ですべて檮杌へと放った。

 しかし檮コツは神話に登場する古き魔獣。これきしの矢など、少し強い雨程度にしか感じなかった。

 

『どうした?その程度か最上級堕天使!?』

「無論否だ!この程度のは序の口……いや、序にも入らぬわ!!」

 

 光の剣を瞬時に二振り創り出し、魔獣と打ち合う。

 堕天使の力が凝縮された剣が、そして多大な妖力を帯びた爪がぶつかり合う。それらが振り降ろされる度に空気は避け、大地に亀裂が生まれた。

 

「す…すごい……」

「これが……聖書に記載される戦いか……!!」

 

 エクソシスト二人だけでなく、後ろに控えていた小猫と木場もその戦いに見惚れていた。

 片や最上級堕天使、もう片方は三大悪魔に敵対する赤龍帝の手下。どちらが勝っても、勝ったほうが自分たちの敵となってしまう。

 つまりは敵同士の殺し合い。どちらも応援など、とてもできやしない。……だというのに、その戦いから目を背けることが出来なかった。

 

『同じ戦闘狂同士、仲良く殺し合いをしていろ。既にこの地域一帯は空間から隔離している。存分に暴れていいぞ。そして両方くたばれ』

「ぐわっはっはっはっは!!流石我が将!俺の扱いを心得ている!戦いで朽ちるならば本望よ!!」

『じゃあさっさと死ね使い捨ての駒』

「この小童めが。いつかお前の頚も引き裂いてくれる」

 

 檮コツはコカビエルに食らいつきながら赤龍帝と会話する。それをなめられていると捉えたのか、コカビエルは憤慨した。

 

「この俺との戦いにおしゃべりとはずいぶん余裕だな!!」

「余裕なのだよ、バカ者が」

 

 コカビエルの槍の雨を避けながら答える。

 どの槍も聖剣や聖槍と見違えるほどの逸材。しかし魔獣にとってはただ少し痛いだけの雨にすぎない。

 彼はすべての攻撃を避けることなく、突進して突き抜けた。

 

「どうした?最上級堕天使ならば強者と期待していたのだが、名ばかりの雑魚なのか?」

「ふん!この程度だと思うなよ!!」

 

 今度は10メートルはある巨大な槍を創り出し、それを振り下ろす。

 並みの悪魔ならば余波の力のみで吹き飛ぶほどの威力。直撃すれば、上級悪魔とて一瞬で無に還る破壊力。だというのに、魔獣はそれを真正面から受け止めて見せた。

 魔獣は妖力を練り上げ、腕に纏うことで巨大な爪を振るう。それが槍とぶつかり合い、破壊力を相殺した。

 

「カカカ…!これほど上手い痛み、うけとめなくては勿体ない。……さあ、俺の妖力とお前の光力、どっちが上が力比べだ!!」

「嬉しいことを……!言ってくれるではないか!!」

 

 力と力。狂気と狂気がぶつかり合う。

 

『お前ら、あの戦闘バカ共に巻き込まれないように隅へ行くぞ。お前らはあんな下品な殺し合いに関わっちゃいけねえ』

「お…お前は赤龍帝!?神に逆らい偽の情報をばら撒くことで混乱を招く異端者め!!誰がお前なんかのいうことなど……」

『うっさい』

「「ガハっ!!」」

 

 赤龍帝は二人を殴って気絶させた。

 

『ほら、何してる?今のうちにいくぞ』

「「は……はい」」

 

 二人は黙って従った。相手はあの赤龍帝。決して善意だけで助けたわけでないのは明白だ。しかし抵抗したところで何の利益にもならないので今はついていくことにした。

 赤龍帝の言うとおりに避難して化け物同士の戦いが終わるのを待つ。しかし、その終わりは呆気いほどすぐに近づいた。

 

『……チッ。どうやらもう終わりみたいだ』

 

 一瞬赤龍帝の言葉の意味が分からなかったが、二人はその訳にすぐ気づく。

 空間が軋みだしたのだ。どうやらもう隔離することが出来なくなり、元の世界に戻りかけているらしい。

 

「なんだ、もう終わりか。……仕方ない。では続きは明日の午前0時。駒王学園の校庭で待っているぞ」

「おうよ。今度ばかりは将の封印も命令も無視してでも戦いに行ってやる。こんな中途半端じゃ終わらせねえぜ」

 

 化け物二人は勝手に決闘の約束をする。その後コカビエルは翼を広げて空間の割れ目に飛んで行った。

 

「ではこの勝負預けたぞ!!次会った時こそ、お前たちを殺す!!!」

『二度と来るんじゃねえ!!』

 

 コカビエルは赤龍帝を無視して飛び立つ。それを見送ると今度は檮コツに振り返って忌々しそうに舌打ちした。

 

『……チッ。またお前が生き残りやがったか』

「カカカ。憎まれっ子世に憚るとよく言うではないか。そして、憎き怨敵を使うお前は何だ?」

『うっさい。俺は使えるものなら悪人だろうが敵だろうが何だって使う。大事に使うかどうかは俺の気分次第だがな』

「言うではないか小童。将とは清濁併せて飲み込むもの。しかし臭い物に蓋をするのではない。不要なものや害のあるものは改善、あるいは切り捨てる。その年でよく理解している」

『お前に褒められても嬉かねえよジジイ。大体お前から見れば10年20年なんてあっという間だろうが』

「カカカ。老人の賞賛は素直に受け取っておけ。……しかし既にこんな時間だ。俺はもう寝る」

 

 檮コツが何か呪文を唱える。すると沼のようなものが現れ、その中に潜り込んでいった。

 それを見送った赤龍帝は自分も帰ろうとする。しかしその時、突然影が彼の前に現れた。

 

「現れたわね最凶の赤龍帝!!貴族悪魔を虐殺した罪、ここで償ってもらうわ!!」

「我ら悪魔に敵対する道を選んだ以上、ここで覚悟してもらいます!!」

『邪魔だ無能共!!』

「「きゃあ!!?」」

 

 赤龍帝は龍の息吹を放つ。ノーモーションで打ち出された一撃。威力はないが完全な不意をついたその技によってリアス達は呆気なく吹き飛ばされた。

 

『全く、僕が来て焦る気持ちは分かるけど、この僕相手に無防備に突っ込みすぎじゃない?……いや、あのバカの後先考えない特攻は今更か』

 

 赤龍帝イッセーはリアス達に聞かれないような声で愚痴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最凶の赤龍帝?」

「ええ。今まで幾多の同胞を葬ってきた忌むべき敵よ」

 

 戦闘狂に戦闘狂をぶつけた帰り、部室で僕はリアスからの報告を黙って聞いていた。

 まあ聞く意味ないけど一応ね。だって当事者だとバレると面倒じゃん。

 それに、これはリアスが正しく報告できるかのテストも兼ねている。ちゃんと感情を省いて冷静に、そして客観に情報収集出来るかどうかの。……結果はご存知のとおりだけど。

 

「それで、君はその赤いドラゴンをどうする気?」

「決まってるわ! 次会ったら消し炭にしてあげる!!」

 

 僕は頭を抱えた。本人だからという理由もあるけど、それ以上にリアスの馬鹿さ加減にいい加減呆れてしまった。いつものことだけどね。

 

「……不意打ちとはいえ、加減された一撃でふっとばされて戦闘不能になったんだよね。その上赤龍帝とやらはコカビエルと互角に戦える手下がいる。しかも君の話を聞く限り、他にも部下がいるって話じゃん。……本当に勝てると思ってるの?」

「勝てるかてないじゃないの。勝つのよ」

「…………そうだね」

 

 反論するのも面倒なので僕は頷くことにした。

 正直、この女相手なら倍化だけで勝てる自信がある。いや、リスクはあるけど素の状態でもいけるかもしれない。

 だってこの女全く力使いこなしてないし、ライザーの件以来訓練も練習もしてないもん。あんだけボコられたのに悔しくないらしい。それどころか、未だに自分が強者だと思っているらしい。……本当に救えない。

 

 あの時勝てたのは僕の拙い策があったからだ。断じてお前の実力ではない。むしろあんな策に頼るしかなかった己の実力を恥じるべきなのだ。

 なのになぜ何もしてないのに、こんだけ自信満々なのか……。

 

「いや、赤龍帝は放っておこう。むしろこれはチャンスだ」

「……漁夫の利を狙う気ですか?」

「お、よくわかったね」

「顔に書いてます。思いっきり悪い顔してました」

 

 そんなに僕は悪い顔してましたかね、小猫さんや。けど今の僕の立場に居るなら誰でもこんな顔してるよ。

 

「当然だ。人手に困ってるとこで向こうから転がり込んでくれたんだ。むしろ利用しなきゃ失礼だと思わない?」

「…たしかにそうね。敵と手を組んでいるみたいで嫌だけどやってみようかしら」

 

 賛成してくれるリアス。よかった、この女なら否定するとヒヤヒヤしてたけど、どうやらそこまでバカじゃないらしい。

 

「じゃあ予定変更だ。赤龍帝と戦わせるようセッティングするぞ。交渉は僕が担当する。……いいね?」

「「「はい所長!!」」」

 

 今更だけどその所長って何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったな」

「……ええ」

 

 結論から言う。檮コツは見事コカビエルを倒し、悠々と帰って行きやがった。結局あの虎じじいは生き残りやがったのだ。今度こそ相打ちで死ぬと思ったのにしぶとい魔獣だ。

 経緯はこうだ。赤龍帝の鎧を纏った分身を作り、本体である僕は分身とそれらしい交渉ごっこすることでアリバイを作った。戦うのは僕ではなくあの戦闘狂だ。だから強い分身を作る必要などない。

 その後檮コツを召喚し、校庭の空間をこの世界から遮断してリングを作る。あとはバカ二人が殺し合いして終了だ。

 檮コツは見事コカビエルを打ち取り、その首を見せびらかすように口に咥えながら帰って行った。首集めが趣味とか、相変わらず頭おかしい奴だ。

 あとは事後処理だけだ。さあ、片付けもがんばるぞい。

 

『あの傲慢で頭の中お花畑なアホ龍帝は何処に行った?』

 

 ……その前にこのクソ野郎なんとかしないと。

 

「……まさか貴方は白龍皇!!?」

『如何にも。俺は過去未来最強で最高の白龍皇ヴァーリだ。出来るならこの鎧越しで会うようなことがないことを願うぞ。……ところでアホでボケな赤龍帝は何処にいる?』

 

 …おいクソ野郎、何をいきなり言い出すんだい?

 

「……彼ならどこかへ消えたわ」

『フン、この俺を恐れて消えたか。相変わらず臆病なチキン野郎だ。チキンカレーにするためとっ捕まえたコカトリスの方がよほど勇ましい』

 

 ここにいますよ赤龍帝。分かってて言ってるでしょお前。てかコカトリスでチキンカレー作るようなゲテモノ料理家はお前だけだよ。

 

『いつもこうだ。自分じゃ何もできないからすぐにご都合的な力の覚醒に頼るガキ、そのくせ口だけはイッチョ前だからタチが悪い。本当に口だけだからな』

 

 …何好き勝手言い出すのあいつ? 今の僕は龍の手の亜種しか持ってない、少しだけ特殊な高校生演じてるんだよ。赤龍帝ってバレちゃいけない立場なんだよ。なのになんであそこまで好き勝手言っちゃくれてるの?

 

『あいつは通称おっぱいドラゴンと呼ばれるほどの変態だ。女を胸だけで判断して、自分に靡かない女には容赦しない。……本当に自分勝手な奴だ』

 

 ねえドライグ、あいつぶっ殺していい?殺していいよね。ていうか自分勝手うんぬんはテメーに言われたかねえ!!

 

『(落ち着け相棒!お前も何か言ったらどうなんだアルビオン!!)』

『(知るか!このバカ、言い返せないことをいい気になって好き勝手言ってやがる!!)』

 

 あいつは好き勝手言って満足したのか、どこかへ消えていった。

 あいついつか絶対殺す。改めてヴァーリへの殺意を僕は認識した。


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