「良いですか~。今から配る紙粘土で好きな物を作ってください。貴方達の脳内のイメージを表現するんです。そんな英語もある」
「ないよ。ついにこの学園の教師まで頭にカビが生えたのですか?」
「ふぐう!」
駒王学園の授業参観。イッセーはツッコミを入れて教師にダメージを与えながらも、言われたとおり紙粘土に手を伸ばした。
授業を馬鹿らしいとは思っても、サボる気はないらしい。
彼はやる気のなさそうな無表情ながら手をテキパキ動かす。終了時間まで見事集中して作品を完成させた。
「……素晴らしい」
イッセーの作品を見た教師は思わず感嘆の声を上げる。
彼が作ったのはドライグ。彼が魔王と熾天使を踏み潰す様を表現したものだ。
「隷属を強要する愚者と、欲に溺れたケダモノを踏み潰す守護竜です」
「なるほど…。右に踏み潰されている天使は天からのルールを強要する侵略者。キリスト教の負の面を表していますね。
対して左の悪魔は欲望を表していると。欲望そのものではなく欲望に溺れたと表しているのが非常に素晴らしい。
そして龍は大いなる自然の力。イギリスの赤い竜は赤土を表し、ウェールズの地を守る正義のドラゴンとされています。
いや~、こんな作品をこの短時間で仕上げるとは……どうですか一緒に世界を目指しませんか!?」
「先生はまず頭の病院を目指しません?」
昼休み、食事を終えて鉢植えをいじっているイッセーにクラスメイトが声をかけてきた。
「……魔法少女のコスプレ? 授業参観で?……バカじゃないの?」
「いや、凄く似合ってんだって。お前も見に行けば?」
「いいよ。僕は今新しい鉢植え育てるから」
「いいから来いって。付き合い悪いな」
イッセーを引っ張ってその場所に連れている。既に何人かの保護者らしき者達が居て、先ほど聞いたコスプレ少女も居た。
「うわ~、本当に居るよ。あの痛い人誰? グレモリー先輩と話ししてるけど……」
「あ、ああ。支取会長のお姉さんだよ」
「私はソーナちゃんのお姉ちゃんのセラフォルーだよ。ヨロシクね☆ も~! 初対面の人に痛いなんて失礼だよ? プンプン!」
魔法少女の格好をした少女はその場でクルッと一回転してポーズを決め、蒼那……いや、ソーナは先程から羞恥心で赤くしていた顔をさらに赤らめる。そしてイッセーは腕を組み考え込んだ。
「あれ? 名前の事は置いとくとして、三年生の会長のお姉さんって事は仮に双子の姉としても18ぐらいだよね? それが校内でコスプレ。しかもあの話し方………」
「普通にキモイんですけど」
その瞬間、場の空気が凍りついた……。
「貴女の趣味をとやかく言うつもりはありません。貴女自身可愛いから似合ってますし。けど、場所は弁えましょうよ」
キモイ。誰も恐ろしくて言えない一言を彼は初対面で言い放ち、周りに居た知り合い達も内心頷く。ソーナなどは心の中でイッセーに『もっと言ってくれ!』と声援を送っていた。
「これが私の正装なの! この格好で魔法少女レヴィアたんって番組だって作ってるんだから!」
溺愛する妹の心中など知る由もないセラフォルーは幼い少女のように頬を膨らませて抗議する。見た目が若いから似合っているが、彼女の実年齢を知る者、特にソーナなどは何とも言えない微妙な気持ちになった。
裏の世界を知り、セラフォルーの実年齢を知っているイッセーはさらに冷たい目で彼女を見下した。
「え?魔法老婆レヴィアさん? …ああ、そういうことか。たしかに腰を曲げたら杖をつけるからね。この杖はそのためにあるんだ。そうですね、ババア」
「ば……ばばば…! ば、ババア!!!?」
「やめたげて!? 会長のライフはもうゼロだ!」
イッセーの容赦ない言葉にセラフォルーと会長が同時限界を迎え、慌てて匙が止めに入る。
「ソーナちゃんなら分かってくれるよね? 私ババアじゃないよね!?」
実の姉であり魔王でもあるセラフォルーの問いにどう答えて良いか困ったソーナは思わず目を逸らす。そしてそれが彼女が出した答えを表していた。見る見る内にセラフォルーは泣き出しそのまま走り去っていってしまった。
「うわ~ん!! ソーナちゃんがお姉ちゃんを虐めるぅぅぅぅ!!」
なお、未だに彼女の服装は魔法少女のコスプレのまま。そしてその服装でソーナの名を叫びながら学園の廊下を走っていく姉の姿に呆然としていたソーナはハッと我に帰った。
「学園内をその格好で私の名を叫びながら走らないでください、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「痛い恰好で走り回らないでくださいババア様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一人余計なことを言っているのがいたが、みんな無視した。
「ということがあったんだ」
「な…なかなかえぐいわね」
僕は今日会ったことを大雑把に報告しながら、鉢植えの世話を開始した。まったくあの野郎途中で邪魔しやがって。
「おや、部室が騒がしいね。何かイベントでもあったのかいリアス?」
リアスの名を呼ぶ男に全員視線が集中する。すると僕以外の部員達はすぐに膝をつき頭を下げた。ちなみに僕は無視して鉢植えの世話を続けている。
「なぜここにおられるのですかお兄様!?」
彼女たちが咄嗟にこのような行動をとった理由、それはリアスの兄であるサーゼクスは魔王、つまり悪魔界の代表だからだ。僕たちの感覚から言うと王よりも神様のようなもの。だからこうなるのも当然だ。
なんで雲の上の存在である彼がここにいるのかは疑問だが。
「何故ってリアス、聞けばもうすぐ授業参観があるそうじゃないか!これはセラフォルーと一緒に公務を…休んででも出席しないといけないじゃないか!」
「(休む?さぼるの間違いだろ)」
自信満々に統治者とは思えない発言をしているサーゼクスに僕は怒りと軽蔑を覚える。
貴族もろくにコントロールできないお飾りの無能王が何をほざいれいるのだ。そんな調子だから貴族共にいい様に使われるんだよ。
ふと、僕はこの無能王を見て、幼くして皇位に就いて利用された皇帝を連想した。まあ、この馬鹿の場合は大分年取っている分際で利用されている時点で同情しないが。本当にお前の人生、戦いだけだったの?
そんなことを考えてると、サーゼクスと目があった。サーゼクスは微笑むが、僕はサーゼクスの目が笑っておらずまるで値踏みしつつこちらを見下しているように見えた。
「ところで今日は泊まる所がないから君の家に寄っていきたいのだが……いいかい?」
「嫌です。泊まりたいならホテルに予約とってください。このサイトで調べられますよ」
この無能を家に上がらせたくない僕はキッパリ断った。
「け…けど今の時期はどこもいっぱいじゃない?」
「なんで?今はGWでもなんでもないのに。近くに大きなイベントもないので大丈夫ですよ。……ほら、早速見つかった」
僕はサイトの検索エンジンに情報を入力して部屋を探す。その中から見つかった部屋を適当にアップしてサーゼクスに見せびらかした。
「け、けどこういうのっていきなりキャンセルとかになるかも……」
「なら野宿でもしたらどうです? 上に立つなら下々の思いを体験するのもいいかと」
「………わかったよ。君の家に泊まるのは諦める」
当たり前だボケ。僕は断じててテメーの支配下に下ったんじゃねえぞ。なのにさも従者相手のようにいきなり命令しやがって。殺すぞ無能王。
「ちょ…ちょっとさっきのはどうなの?」
「なんでです?他人を家に上げたくないって思うのは当然の心理でしょ?」
「そうですけど……相手は魔王様ですよ?」
「それが? 僕は人間であり、リアスとは対等な関係だ。魔王を崇める義務も理由も僕にはない」
何を馬鹿なことを聞くんだこのホースオルフェ○クは。僕は魔王を大事にする気は一切ないよ、むしろ粗大ゴミに出してもいいくらいだ。……まあ、利用できるならするけどね。
「ああそうだ、実はコカビエルの事件をきっかけに三大勢力で話をすることになっててね。会場をこの学校にしようと思っているんだ。今日はその下見さ」
「ざけんな。そんなものは冥界なり天界でやってくれ。なんで人間界でやろうとすんだ。迷惑なんだよ」
「え…? け、けどここは大事な話だから…」
「知るか。人間の町の中でトップが集まるな。襲撃されて町に被害が及んだらどうする。もっと警備がしっかりしたとこでやれ。為政者なんだから思い付きだけで物言うな」
まったく、なんで悪魔ってこうも自分勝手な奴らばかりなのだろうか。本当に共食いして滅びればいいのに。貴族悪魔限定ね。
けど滅ぶなら他所でやれ。なんでどいつもこいつも人間界で喧嘩するんだ。他人の家の中に勝手に上がり込んで喧嘩するようなものだぞ。迷惑にも程がある。
「そ…そういうわけにはいかないんだ。既にここでやることを部下が選んじゃって……」
「チッ。無能が。全然部下コントロール出来てないじゃん」
自然と漏れてしまった僕の罵声。一応声は小さいので聞かれる心配はないだろう。
本当に、なんでこんな無能がトップしてるの?
ヴァーリ「……あのバカ、最近ボロボロ本音とか零し始めたぞ。だからあいつを工作員にするのは反対なんだ」
アルビオン『お前はあまり相手としゃべらないタイプだからな。懐柔には向いてない』