禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第39話

「…ヴァーリ、これはどういうことだ」

「見てのとおり謀反だ」

 

 アザゼルは突如天井を破り、空に舞い上がったヴァーリを見上げながら溜息をついた。

 

「ヴァーリ、俺はいくら強い奴と戦いたいからって戦争だけはするなって言ったよな?」

「ああ言ったな。しかし俺はお前が為政者として相応しい者ならばという条件をつけたはずだ」

「・・・つまり俺は為政者にふさわしくないってか?」

「これを見て分からないのか?」

 

 苦い顔で黙るアザゼル。

 

「アザゼル、お前は学者としては素晴らしい。ブラックボックス同然だった神器の研究を進め、人工神器の目途も立ってきた。しかし為政者としては落第点だ」

「な………!テメエかデータ盗んだのは!!?」

 

 ヴァーリはアザゼルを無視して今度は全体に目を向けた。

 

「皆の者聞け!諸君らは今の三大勢力に対して満足しているか!!?今のように下の者から手柄を取り、さも自分の手柄のように振る舞う彼らの下にいたいと思うか!!?」

 

 突如ヴァーリが大声で、校舎どころか校庭にも響く声で問う。

 一瞬、魔王だけでなく熾天使たちも彼を止めようと動くも、なぜか彼の声に聞き入ってしまった。まるで有名歌手の歌に魅了されているかのように。

 

「天使陣営は神の不在のため、システムは 結果、教徒ですら使い捨て同然に扱わねばならなくなった!今まで教会に貢献した聖女アーシアをたった一回の失態で捨て、敬虔な信徒である聖剣使いを処分しようとしたのがその証拠だ!

 そして聖剣計画の生き残りはまだ上層部に残っている!幼い子供たちを実験体に使い、ゴミクズ同然に捨てた天使どもは平然とした顔で今も善人面をしている!!

 美味い汁を絞れるだけ絞ったらすぐに捨てる。これが神のいないセラフのやり方だ!!!」

 

「堕天使陣営は神器狩りによって本来敵に回らなかったはずの神器使いとまで戦わなければならばくなった!ずさんな管理で本来狩らなくてもいい神器使いまで殺し、無用な死体を量産してきた!!グリゴリは無能だ!!」

 

「悪魔陣営は特に悲惨だ!未だに旧魔王派による内乱が続いているにも関わらず、転生悪魔制度を導入したことによってはぐれ悪魔という負の資産を生み出した!転生悪魔は実質奴隷制度だ!無理やり転生させられた悪魔の数は多く、逆らえば即はぐれ認定!!これのどこか奴隷生産道具でないと言い切れる!!?」

 

「ふざけるな!!俺はこんな腐った上司共の下でこき使われ、共に沈むなどまっぴら御免だ!!故に俺は立ち上がる!! 」

 

 

 

 

「我が名はヴァーリ・ルシファー!! 悪魔の王ルシファーの子孫であり、最強の白龍皇である!」

 

 

 

 

「る…ルシファー……ですって…?」

「つまり、旧魔王の家系と同時に……」

「……白龍皇」

 

 旧悪魔の血統であると同時に白龍皇。悪魔とドラゴンのハイブリットであると同時に、サラブレッドでもある至高の存在。その化け物に一部を除いて畏れを抱いた。

 

「既にグリゴリのうち3分の一が俺に賛同して抜け出してくれた!!悪魔も同様だ!魔王を見限った上級悪魔達が続々と俺に続いてきてくれている!!

 三大陣営だけではない!! 歴代最優の赤龍帝、史上最強の鬼神悪路王、五大竜王にも匹敵する神龍である応龍、妖精の王オベロン、最高の錬金術師ホーエンハイム…。様々な強者たちが俺に賛同してくれた!!」

 

 出るわ出るわ高名な化け物や魔術師たちの名前。もしこれが本当ならば旧魔王派よりも新魔王派を倒すことがより現実的に感じられる。

 ・・・まあ赤龍帝本人はヴァーリの軍門に下るなどまっぴらごめんだと思っているのだが。

 

 

「俺は決して差別をしない!俺が見るのはただ一つ、力のみだ!! 武力、知力、魅力!なんでもいい、お前たちの力を俺に見せてくれ!!

 悪魔だろうが天使だろうが人間だろうが!優れたものは誰であろうと歓迎する!!それが俺たち次世代魔王派だ!!」

 

 次世代魔王派。その言葉に多くの悪魔たちが心打たれた。

 なるほど、たしかに。旧魔王の血を引きながらも人間にしか与えられない力である神器を持つ彼は次世代の悪魔だ。

 

「俺は悪魔の駒(こんなもの)など使わない。こんな小道具を使うことでしか首輪を繋げられない無能共とは違うからな。嫌気がさしたらいつでも出ていけ。俺は去る者は追わん。己が俺よりも王に相応しいというのならば、俺から支配権を勝ち取ってみろ。どのみち返り討ちだがな」

 

 ヴァーリは悪魔の駒を砕き、価値のないゴミのように捨てた。いや、事実価値がないのだ。

彼の理想には、そして彼の率いる軍団には、そんな偽物の支配などむしろ邪魔だ。

 それは紛れもない自信。決して己の元から誰も抜け出さないと、自分以上に魔王に相応しい者などいないという自負の現れ。

 故に離反も謀反も許す。どうせ起こらないのだから。たとえ歯向かったとしても王座を揺るがすことなど出来やしないのだから。

 

「既得権に縛られた貴族至上主義社会を打ち破れ! 無能な御上に縛られたグリゴリなど捨ててしまえ!神の名を騙って不当に支配するセラフを滅ぼせ!!

 さあ、この俺に旧悪魔でも新魔王でもない、最大の魔王であり最強の白龍皇でもある、このヴァーリ・ルシファーが新世界の明星を見せてやる!!」

 

 その言葉にあるものは焦り、あるものは心動かされる。

 

 聞けば大抵の者は妄言だの幻想だのと切り捨てるような内容の綺麗事。とても達成できるとは思えない。

 しかし彼ならば。神滅具、しかも二天龍の力を持つルシファーならば可能かもしれない。そんな一抹の希望が彼らの胸を照らし、自然と手を伸ばさせた。

 

 

「さあ、俺はこっちだ!手に入れたかったら付いてこい!!」

「「「うおぉぉぉっぉぉぉぉおおおお!!!!」」」

 

 堕天使が、悪魔が、そして天使が。彼らは雄たけびを挙げてヴァーリについていく。それを見て何人かの三大種族が釣られて彼に向っていった。

 それを見て三大種族のトップたちは焦り、そして動いた。

 このままヴァーリを逃しては後に大きな敵となる。ここで何とかして食い止めなくては。

 

 だが、すでに魔王対策も万全であった。

 

「お…お前ら何を勝手に…!!」

「申し上げます!首都リリスを何者かが攻めてきました!」

「なんだって!?」

「悪魔の領域だけではございません!堕天使領、天界にも襲撃者が出ております!おそらく、最凶の赤龍帝の仕業です!!」

「な…なんてことに!これもまた彼の作戦だというのですか!?」

 

 突然の出来事にサーゼクスだけでなく、その場にいるトップが皆慌て出す。

 現在襲撃されているのは、三大種族にとっての要所中の要所。決して見過ごすわけにはいかない。

 

 彼を見逃すわけにはいかない。しかしだからといって彼に構っていると首都を落とされかねない。どちらを取るか、それを選ぶ猶予はない。

 

「襲撃地点は全部で18か所。一つの種族に6つずつ都市に襲撃をかけています!!どれも大軍で既に陥落寸前という情報です!!」

「クソ!!」

 

 忌々しそうにしながらも彼らがとったのは町の防衛だ。

 なに、相手は神滅具を持つとはいえまだ子供だ。大きな敵に成り得るが、それはまだ先の話。よって今は緊急かつ重要性の高い案件に取り掛かることにした。

 

「……これを狙っていたということか!!?」

「クソ!!ヴァーリの奴、ここまで仕込んでやがったのか!!?」

「……また、僕たちは二天龍によって滅ぼされかけているっていうことか」

 

 三人は捨て台詞を吐きながらも現地に向かう。……それもすでに罠だと知らずに。

 

「……全く、本当にバカな連中だぜい」

 

 報告した男……美候はその場から離れ、人気のいないところで幻視の術を解いた。




ルシファーの子孫であり白龍皇って肩書きは象徴としてかなり大きい 。
だからヴァーリが新しい魔王になるって言ったらめっちゃ人材来そう。

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