「へえ~。じゃあイッセー君はあんまり剣術は得意じゃないんだ」
「うん」
冥界のリアスの館。僕は用意された自分専用の部屋でくつろぎながら、木場と今後のトレーニングについて話し合っていた。
え?列車の中とリアスの家に着くまで何してたかって?
寝てましたけど何か?
僕は一日最低7時間ほど寝ないと体が持たないんだよ。基本立ってでも寝れるけど、やっぱりフカフカなマットの上で寝るのが一番だ。
「それで、次はどうするの?」
「……どうしようかな?」
木場は少し困った顔で言った。
「もう聖剣に復讐は出来たし、これ以上何かをしようって思わないんだよね……」
「本当に君はそれで満足?」
「……え?」
僕の問いに不思議そうに首をかしげる木場。
「あの時君は確かにエクスカリバーよりも自分が優れていると証明した。けどね、本当にそれだけで満足なの?」
「そ、それってどういう意味?」
「言葉通りだよ。聖剣計画の最高責任者であり、君たちを苦しめたバルパーは死んだ。けど本当は彼は使い捨ての駒で、それを使う奴はまだ生きているんだ」
「そ、それってどういう意味!?」
「言葉通りさ。残党もいるだろう。聖剣計画で甘い汁を啜ったクソ聖職者や天使だっている。まだまだ君が報復すべき敵はいっぱいいるんじゃないかな?」
「……」
木場には悪いけど、何故聖剣計画の首謀者や関係者ではなく、聖剣を恨んだのか理解出来ない。
だって聖剣は武器ってだけで、何の関係もないじゃん。
銃で家族を撃ち殺されたからって、銃を恨むなんて人はいない。恨むとすれば撃った本人とその集団である。
まあ、銃の反対運動を行う可能性も考えられるけど、それでもまずは銃を撃った相手から何とかしようとするはずだ。それに木場たちは聖剣で殺されたわけじゃないし。
「……無理だよ。だって相手は一つの権力だよ?部長の権力は悪魔内部なら通じるけど、教会には通じないよ」
「だから忘れるの? 手が出せないからって諦めるの? 君の復讐心は、同志の気持ちはそんな軽いものなの?」
「…………君に何がわかる?」
底冷えするような、冷たい声。初めて木場の口から聞くものだ。
「君みたいになんでも出来て、最初から全て持って、何も失ったことのない君なんかに僕のなにが分かるんだ!!?」
今度は感情的に怒鳴る。
木場佑斗、君のいうことは正しい。僕のような一般家庭で普通の幸せを享受して、親にも友達にも恵まれて、大事な人を理不尽に殺されたことも傷つけられたこともない、普通に幸せな一般人に。今まで大きな挫折も大事な何かを無くしたことも奪われたこともない幸せな奴に。そんな奴に上から目線に言われても腹が立つだけだよね。
けど、ただ怒鳴るだけじゃ何も解決しないよ。
「忘れた?僕は決して出来ないことは言わない。ビッグマウスなんて持ち合わせてないんだよ」
「取引だ。僕がその情報と大義名分を提供しよう。君から全てを奪った教会陣営に復讐する機会を与えてやる」
「……そ、そんなこと出来るわけない!」
「何度も言わせないで。僕は出来ないことを言うビッグマウスじゃない」
「……」
ここで黙る。
常識ではありえない。けど僕なら可能だと、既に彼は理解しているのだ。頭ではなく魂とか勘とかで。
「イッセーくん、君は一体何者だい?」
「フッ。今更何を聞くの?」
僕はそっと、自分の正体を教えてやった。