禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第46話

 朱乃の部屋。そこで僕は彼女と一緒に生花をしていた。

 

「あらあら。お上手ですわね」

「園芸部だからね。花の世話は得意だよ」

 

 身体を密着させようとするので軽く避ける。

 この女、噂じゃ男嫌いっていうのに僕にはこんなに馴れ馴れしいんだよね。

 ……正直鬱陶しい。

 

『(これは相棒の龍の力に当てられているな。相棒はヴァーリよりも龍の力がデカいからな)』

「(わかってるよ。そのせいでいろんなことに巻き込まれたんだから)」

 

 魔力のない僕は龍の力を活用して今までやってきた。そのせいか、ヴァーリよりも龍の力が強いのだ。

 おかげでよくトラブルに巻き込まれた。女難に強敵に三大勢力に……。本当にロクな目に合わない!

 普通に買い物に行くだけで事件に巻き込まれるし、花街なんか行かなくてもその辺を歩いているだけで美女をハントできる。……龍のオーラって本当にオカルトだね。

 

 ……話が逸れた。

 

「それでね、イッセーくんはどんなお花が好きなのですか?」

「植物は全部好きだよ」

 

 適当に話を進めながらガードする。

 ホントにこの女ボディタッチ激しいな。男嫌いっていう設定生きてないじゃん。

 

 なんていうかアレだね。自分にだけは優しくてエロいけど、他の男には冷たいっていう中学生の妄想の塊みたいだね。

 まるでエロゲーのキャラみたい。男に犯されるために、オナ○タや恋人になるのを妄想するために存在しているかのようだ。

 ……さすがにこの発想は失礼すぎるか。女性の尊厳を無視している。まるで女の胸しか見てない安いラノベみたいだ。

 でも、本当に失礼だけど、そういう風にしか見えない。

 

「……イッセーくん、貴方に話したいことがあるの」

「気づいてるよ、君堕天使でしょ」

「……え?」

 

 僕が指摘すると、朱乃は硬直してしまった。

 

「……気づいてましたのね」

「うん、君からは僕を襲った堕天使と同じ気配がするからね。そういったものには敏感なんだ」

「……そう、貴方には隠し事ができないわね」

 

 朱乃は立ち上がって翼を広げる。しかし片方だけ、悪魔のとは違った。

 それは堕天使の翼。彼女の髪と同じ、濡れ羽色の美しい翼だった。

 

「……綺麗だね。僕って黒色、特に墨のような艷のある色が好きなんだ」

「……そんなこと言ってくれるの、貴方だけよ」

 

 若干顔を赤くして言う朱乃。

 おいおい、こんなホストみたいな言葉、何度も言われてるだろ。それだけで落ちるとか、ますますご都合のニコポで落ちるラノベヒロインじゃないか。

 

 それから朱乃は父親のことを話してくれた。

 彼女の過去は前から知っているが、知らない振りをして聞く。それで話し終えたとこで僕は自分の感想を言うことにした。

 

「君は本当に、お父さんのこと嫌いなの?」

「え?」

 

 僕がそう聞くと、彼女は呆けた顔をした。

 

「もし君の体験が赤の他人のもので、ドラマやニュースで似たようなものを見たら、君は『無関係の家族を殺すなんて、なんてひどい奴らなんだ』って思うでしょ? けど君は襲撃者じゃなくて父親を恨んでいる。それは何故かな?」

「そ…そうだけどあの人のせいで……!」

「本当にそう?僕には君がお父さんに期待を裏切られたからだと思ってるだけど?」

「!!?」

 

 

 

「本当はお前が父親に期待していたからじゃないのか? お父さんなら助けてくれる、けど助けてくれなかった。それで裏切られた気になったんじゃないのかな?」

 

「尊敬していたり、期待していた人間が、そうしてくれなかった。その落胆が母を殺された憎しみと無力感と混じって、父親への憎しみと勘違いしてしまった」

 

「……僕も似たような思いをしたことがあって、その人を傷つけてしまったことがあるだから、お前には同じ思いをしてほしくないんだ。

 ……君には僕みたいに手遅れになって欲しくない」

 

 

 

 僕には尊敬する人がいた。

 僕にとってその人はヒーローのようなものであり、絶対的なものだった。

 

 あの頃の僕はあの人に対して妄信的だった。あの人が正義と言えばどんなに汚いものでも正義だと信じてたと思う。

 これだとあの聖剣使いを強く言えないね。幸い、あの人はたしかにとてもよく出来た人だから間違うことはなかったけど、もし三大勢力みたいなクソだったらどうなってたことか……。

 ま、そんな奴だったら最初から妄信的にならないけど。

 

 

 

 けど、ある日あの人は負けてしまった。

 

 

 

 僕はあの人に失望してしまった。

 嘘つき。なんで勝てなかったんだ。貴方は僕のヒーローじゃないのか。本来なら心配するべきだったのに、僕はそんなことを思ってしまった。

 

 本当に勝手だよね。

 あの人は万能じゃないんだ。弱いのは当然で、汚い部分も当然ある。

 なのに僕は裏切ったなんて思ってしまった。

 勝手に自分の幻想を押し付けて、それで自分の思い通りにいかなかったら失望して見限る。……本当に馬鹿なガキだ。

 

 

 その時は僕の勝手な期待を裏切ったあの人に失望して一時期嫌おうとした 

 けどやっぱり嫌いになれなかった。どんなに嫌いになろうとしても、あの人を嫌うことが出来なかった。

 いや、そもそも最初から嫌ってなんていなかったんだ。失望を嫌悪や憎悪と勘違いして、そう思おうとしてただけなんだ。

 

 それと同じことを彼女もしているんじゃないのか。本当は嫌いじゃないのに嫌いだって勘違いしている、だから彼女の嫌悪感を歪に見えるのではないだろうか。

 

「まだお父さんは生きているんだろ?なら一度、気持ちの整理をしたらどうだ?何を憎んで、何を大事に思っているのか」

「……」

 

 硬直して動けない朱乃にそれだけいって、僕は部屋から出ていった。

 

「……ま、僕もそんなに強く言えないけどね」

 

 今でも僕はガキだ。任務でも途中で気が抜けてボロが出るし、感情的になって暴走することもある。

 何も変わっちゃいない、僕はガキのままだ。

 

 せめてそれだけでも、それだけでも早く気づけたら、こんな思いしなくてもよかったのに……。

 




前回は木場くんの憎悪がよくわからないって思ったけど、朱乃も微妙なんですよね。だから少し事情を捏造しましたが納得してもらえたでしょうか?

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