禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第47話

「つ……疲れた……」

 

 翌日、イッセーは精神的に疲れて倒れてしまった。

 

 冥界に来た初日からグレモリー家の悪魔たちから希少な動物を見るかのような視線を向けられ、特にサーゼクスとその妻グレイフィアの実の子であるミリキャスからは質問攻めにされた。

 しかしそこは三大勢力に恐れられ、一つの組織の幹部である赤き龍の帝王。決して弱みを見せず、毅然とした態度で対応した。

 毅然とした態度とはただ偉ぶっていればいいというわけではない。堂々としながらも、話しやすい雰囲気を作る。そうやって自分の力や性格などをアピールして情報などを行うのだ。

 

 結果いい情報が集まった。中でも特にほしかったものはグレモリー家の内情。お金の動きや人脈の話、中には夫婦間の不和とかも聞いてしまった。

 

 貴族の権力争いではこういったお家の内情が大きな武器となる。例えばスキャンダルや汚職の証拠など。

 それを入手するため、色々なルートで自分のお抱えの使用人をスパイとして送り込むほどに。

 ……原作の悪魔共にそんな頭があるかは疑問だが。

 

 少なくともこうもあっさり家の外の人間に話すあたり、情報に対する教育はされてないのだろうか。

 たしかに全貌を話すことはなかったし、そもそもお家の存亡を揺るがすようなとんでも情報を知る使用人もそんなにいない。だが、イッセーの変態的な脳みそならば欠片でも情報を入手すれば何かしらの推測は立てられるのだ。

 

 中国の古い書籍に「一斑を見て全豹を知る」という言葉がある。物事の一部を見てその全体を推し量るという意味である。

 しかし所詮は推測。よって裏付けするための証拠がいるのでその辺の調査を怠るわけにはいかない。

 

 

 ……話が逸れた。

 このように、イッセーは世間話をしながらもまるで『貴族のように』情報工作をしているのだ。

 中でも特に有用なのが……

 

「(また来る頃だろう。頼むよべリアル)」

『うん、任せて』

「あ、イッセーさんもう一回秘密の悪魔退治のお話してください!」 

「こらこら。これは秘密なんだからそんな大声で言っちゃダメでしょ。……あそこの部屋で話そうか」

 

 ミリキャスのマインドコントロー……情操教育である。

 

「これも秘密なんだけど、僕は悪い貴族を倒したことがあるんだ。その貴族はね、悪魔の駒を悪用して奴隷売買をしてたんだ」

「そ……そんな!お父さんがそんな悪者放っておくわけがない!」

「そうだね、けど君のお父さんは実はそんなに強くないんだ。武力はあるだけど、政治力が低くてね、それで君のお爺さんによく利用されてたんだよ」

 

 こうして悪魔の悪事を幼い次期党首に吹き込み、印象操作をすることだ。

 無論、ただ話すだけじゃ嘘だと思われてしまう。なのでまずはドラマチックに話を盛り上げ、徐々にべリアルの力である真実は嘘に進化する(ファンタジートーク)の効力を強めることで、自身の言葉を信じるよう誘導したのだ。

 

 この子もそう遅くないうちに立派な貴族悪魔となるであろう。リアスよりも未来あるこの子の方がよほど家のためになる。

 よって、リアスが失脚した後の保険のために、抱きかかえることにした。

 

 いや、むしろそっちの方がいいのかもしれない。

 何せこの子はまだ幼い子供。今のうちに調きょ……教育すればリアス以上に有能で賢くて操りやすくなるかもしれない。

 

「ねえイッセーさん、この動物なんていうんですか!?」

「これは綿虫っていうんだ。フワフワで気持ちいでしょ?」

「うん!イッセーさんなんでも知ってるんだね!」

 

 何よりもこの子はイッセーに懐いている。ちょっと珍しい花を見せたり、かわいい動物を触らせたりした程度でこの様子だ。本当にやりやすい。

 いっそのことリアスからミリキャスにシフトチェンジしようかなと、イッセーは本気で悩んだ。

 

「ねえ、今度僕の家に来ない?いっぱい動物や植物がいるよ」

「い……いいんですか!?」

「うんもちろろん」

 

 その代わりたっぷり利用させてもらうけどね。口では出さないが、イッセーはミリキャスに見えない角度で口元を釣り上げた。


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