リアスとソーナとのレーティングゲームの前日パーティ。流石に前日に拷も……訓練はないのか、リアス眷属たちは心底嬉しそうな顔でパーティを堪能していた。
長かった、あの赤い獄卒によって虐げられ続けたこの数日間。そんな地獄からようやく解放されるのだ。これを喜ばずしていつ喜ぶ。
「何言ってるの?この試合終わったら次もするからね。あ、君たちそろそろ慣れてきたっぽいから量増やすから」
「「「‥…‥」」」
しかしこの鬼はその夢を嘲笑った。
さて、そんな地獄のような未来を忘れようとリアス眷属たちはせめて食事を楽しもうとする。そこで小猫は黒い猫を見つけた。
「……姉さま!?」
黒い猫を姉さまと呼んでその猫の後を追う。
そう、ただパーティ会場に迷い込んだ猫を追うだけの、かわいらしい光景だ。
『チャオ~。白音ちゃん』
……彼が現れるまでは。
「……何してるんですかイッセーさん?」
『うぇ!?なんで分かったの!!?』
「やっぱり貴方が赤龍帝だったんですね」
『……』
しかし小猫の引っ掛けによって微妙な空気になってしまった。
『良い夜だね白音ちゃん』
「誤魔化しきれると思ってるんですか?」
『良い夜だね白音ちゃん』
「いや、だから……」
『良い夜だね白音ちゃん』
「……ドラクエですか?」
誤魔化しきれないと察したイッセーは下手な演技をやめて素の状態で話すことにした。
顔を手で覆って溜息をつく。まさか気づかれたとは……。一体どこで失敗したというのか。
『……はあ~。いつからわかったの?』
『今日が初めてです。さっきの引っ掛けで初めて知りました」
『完全に僕の失態じゃん!!』
赤龍帝……いやイッセーは頭を抱えて転がりまわる。
なんという失態であろうか。まさかこんなバカみたいなことで正体がバレるなんて思ってもいなかった。
いや、こんなもの誰も予想すらしていなかったであろう。
イッセーは妖精派の幹部であり、様々な分野で活躍して、功績を収めている。戦闘や薬の研究だけでなく、交渉役も務めているやり手である。
そんな彼がこんな幼稚かつ単純な手で正体がバレるなど、任務失敗するなど誰が予想できるのであろうか。
……いや、結構いると思う。
「……前々から思ってしたけど、イッセーさんって何処か抜けてますね」
『う……うるさいうるさい! お前もヴァ―リと同じようなこと言いやがって!!』
「……ヴァ―リ・ルシファーも味方なんですね」
ボロボロと情報を零してしまうイッセー。
さっきアホみたいな失態を犯したというのに、未だに繰り返すというのかこのバカは。
「……それで、イッセーさんは私に何くれるんですか?」
『え?なに言ってるのいきなり?』
「赤龍帝は仲間を引き入れる際にその人がほしいものを提供してくれる。三大勢力の間では常識です」
『そ、そうなの……?』
「ええそうです。だから私の望みも叶えてください」
『……ま、まさか逆に要求されるとは思わなかった』
イッセーは鎧の頭部を解除して素顔を晒す。
もう下手な演技をする必要も正体を隠す必要もない。だから正直に、そして思っていることを話すことにした。
「……僕は君のお姉さんのひみつを知っている。何故君をおいていったのか、何故主を殺したのかもね」
「……え?」
「ここから先は本人に聞いて。……おい痴猫」
パチンと指を鳴らす。すると黒い猫が何処からか現れた。
「誰が痴猫にゃ!?」
「お前以外に誰がいる?この間も人の睡眠を妨害しやがって…‥」
「うっさいにゃ! こんな美女に迫られても反応しないとか、あんた枯れてるんじゃにゃいの!?」
「身体は好みなんだけど中身が気に入らないんだよ。あとにゃーにゃーうるさいよ。年を考えろ年増」
「ふにゃーーー!!」
襲いかかる黒歌を軽くあしらうイッセー。
「……お久しぶりです姉様、お元気そうで何よりです」
「そっちも元気そうで嬉しいわ……白音」
黒歌は一端イッセーに襲いかかるのをやめると、小猫と会話を始めた。
「……意外だわ。てっきり置いていったことを根に持っていると思っていたから………」
「何言ってるんですか…‥。私の肉親は今は姉様だけです。……だから誰がなんと言おうとも、自分で確認するまでは姉様を信じます!」
妹との再会に涙を流す黒歌。それに連れられて小猫も黒歌に抱きつき涙を流す。
それからある程度気持ちが落ち着くと、小猫は抱きつくのをやめ話を始めた
「……強くなったわね白音」
「いえ、これはイッセーさんのおかげです」
「え?あのバカの?」
小猫は涙を拭きながら答えた。
「ええ。イッセーさんが『師匠は弟子の過ちを正すもの、親兄弟は最後まで信じてくれるもの、親友は共に競い合うもの』って教えてくれました。
私はその言葉に従って姉様を信じます」
「(……言ったっけ?)」
近くの木にもたれながら考え耽るも、そんなことを言った覚えはない。
まあこの男は忘れっぽいのだ。ポロッと言ってそのまま忘れたのだろう。
「……姉様、教えてください。姉様がはぐれ悪魔になった原因を。そしてあの事件の真実を」
「……ええ。わかったわ」
黒歌は表情を暗くするも、ゆっくりと話し始めた。
「私を下僕にした悪魔に私はある契約していたの。『私の妹は下僕にはしない』って、ちゃんと契約書も書いて私が保管していたのよ。ちなみに今も持っているわ。
なのにアイツは契約を破ろうとした。それだけに留まらず、貴方を洗脳して自分の都合のいいように動く兵器にしようとした。だからそれを止める為に……」
「姉様は、その悪魔を殺した」
小猫が静かにそう言うと、黒歌は頷き再び泣いた。
おそらく自分の行動が結果的妹を悪魔にしてしまった事を悔やんでいるのだろう。
そんな彼女の間にイッセーが代わりに入って話すことにした。
ちなみに数秒ほど寝てしまったのはお約束である。
「だから彼女は僕たちの門を叩いたんだ。それで僕は彼女をメンバーに引き入れたんだ。まあ僕の部隊じゃないけど」
「そ…そうなのですか………」
今度はイッセーをまっすぐ見る小猫。
「それで、イッセーさんは私に何をさせたいのですか?」
「簡単だ。僕たち妖精派に入ってくれ」
イッセーがそう言うと、小猫は厳しい目をイッセーに向けた。
「私に……部長を裏切れと?」
短い言葉ではあるが、そこには強い怒気が含まれていた。
小猫にとってリアスは恩人。他の悪魔たちは自分を処分しようとしたたり、悪用しようとした。
けど彼女はそんな悪魔共から守ってくれた。もしリアスがいなければ、今頃死んでいたか死んだほうがマシといった目にあっていたである。
だから裏切るわけにはいかない。たとえその愛が偽りだとしても……。
「何もそこまで言ってない。僕たちの敵は他種族を蹂躙する貴族悪魔共だ。比較的温厚なあいつらは対象外だよ」
「………」
それを聞いて安心するも、敵対していることには代わりない。
小猫は厳しい目をやめることはなかった。
「そうだね、君に入って欲しい理由は……あ~、もう話すの面倒だから直接見せてあげるよ」
「え?何言って……きゃあああああああああああああああああああああああ!!!?」
イッセーに腕を掴まれる。瞬間、小猫の脳裏に膨大な情報が流れ込んできた。
情報内容は貴族悪魔が行ってきた悪事。
まるで現場で目撃しているかのように、まるで自分が被害者であるかのように体感した。
「な……なんですかこれは……」
「ちょっとバカドラゴン!白音になにしたのよ!!?」
苦しみのあまり膝をつく小猫。そんな彼女に黒歌は寄り添い、イッセーを攻める。
「……わかったでしょ、僕が妖精派に入った理由が」
「……」
小猫は答えない。ただ身体を震わせているだけだった。
「さあ、答えを聞かせてもらおうか」
小猫に手を伸ばす。彼女はその手を……。
小猫って原作では姉が力におぼれて主を殺したっていう嘘信じちゃったけど、そんな簡単に信じてしまうものなのか?
今まで苦難を共にして何度も守ってもらってきたのに、いきなり力に溺れたといわれても……ねえ?
もっと自分の姉信じてやれよ。唯一の肉親だろ?