翌日、僕はソーナ・シトリーと戦うことになった。
「それじゃ行くわよ!」
「「「はい!」」」
「……は~い」
リアスたちが張り切る中、イッセーだけはやる気なさそうな声を出した。
「それじゃあ行くわよ!」
やる気のないイッセーを無視して転移する。転移された先はデパートだった。
そこで今回の説明が放送に流れる。書くのが面倒だから省略するが、以下の通りになる。
①今回行われるにはソーナ・シトリーとリアス・グレモリーのレーティングゲーム
②場所は大手デパートを模した使い捨て空間
③デパートの物を壊したものは失格
④兵藤一誠は罠を仕掛けることを禁じる
……うん、リアスとイッセーに明らか不利なルールである。
しかし滅びの力を放つリアスに、ライザーとその眷属を罠だけで倒し、一騎打ちでは不死鳥であるライザーを一撃で倒す業火を放ったイッセー。このままではあまりにもパワー差がある。よってこのルールを設けた。
これは決して運営側の意地悪ではない。平等にするために設けたルールなのだ。
「まあこんなことになってしまったら仕方ない。……木場、見取り図用意して」
「分かった。……ねえ、なんで僕のこと木場って呼ぶの?」
「だって裕斗より木場の方がカッコいいし呼びやすいじゃん。なんか牙って感じで」
「……そんな理由だったんだ」
イッセーは見取り図を受け取りながら答える。
「……なるほど。じゃあリアスと木場はこの広場に向かって。小猫と朱乃はこの店内に。僕は見晴らしのいいここで確認する」
「あれ?でも屋上がいいんじゃないんですか?」
「ここ狭そうで戦いにくそうなんですが……」
「屋上は見つかりやすいからダメ。君はちっちゃいから大丈……うぐお!!」
「……誰が豆粒ですか」
「……私が王なんだけど……なんで私じゃなくてイッセーが率いてるの?」
「うん、順調だね。……てか僕いらないね」
「……そうね」
高い建物のてっぺん。そこから僕たちは戦いの様子を眺めていた。
本当はリアスと木場で前衛後衛を組ませたかったんだけど、朱乃もリアスも射撃はド下手。援護するつもりが逆に前衛に当てかねないので、別行動させることにした。
「……イッセー。貴方のおかげで私は」
「そうだね」
「なんか……イッセーにずっと頼りっきりね」
「別にいいんじゃない? 誰だって苦手なものは存在する。そういった時は誰かを頼るのが一番だよ」
「……え?」
「餅は餅屋にってよく言うでしょ? こういったのは得意な人に任せるのが一番だよ」
僕だって何でも得意ってわけではない。苦手なことだって山ほどある。例えば情報収集。色々と抜けている僕は情報収集をすると所々大事なとこを取り逃がしてしまう。
だから情報を集めるのは基本使い魔たちやヴァーリに任せている。一応僕も習った話術と詐術で交渉したりするけど、大事な時は人を連れてサポートをお願いしている。
そもそも使役魔術自体人任せの魔術なんだよね。
倍化させた魔力を代金にして魔神や精霊などに働かせるのが僕のやり方だ。マルコシアスの剣術だって、フルフルの雷だって、彼らが僕をサポートしてくれて初めて使える。
裏切りに備えて、能力だけ貸してもらって後は自分でやるのが大多数であり、主流のやり方。僕がしているのは旧式で今は大半が廃れている。何故なら今の使役魔術はあくまでも使役を優先しているから。
だけど僕は敢えてそれに反対した方法を使っている。苦手な分野をサポートしてもらうため。僕一人じゃできないことをしてもらうため。
こう言うとあの白髪に「他力本願」だの、「そんなんだから未だに苦手分野を克服出来ないんだ」とか言われるけど。
僕が言いたいのは、人を頼ることは大事ってこと。
自分でなんとかしようとする精神は尊いし、僕もそういった人を尊敬する。けど、いくら天才だろうと、いくらチート能力を持とうと、いくら努力家でも限界が存在する。そういったときは人に頼ることは恥ではないと思うし、頼ることが正しい判断であり、称賛されるべき行為だと思う。
むしろなんでもかんでも一人で出来る人より、出来ないけど色んな人に助けられて、その人たちに感謝して生きている人の方が好きだ。
だからあの白髪野郎は論外。いつもいつも一人で解決しやがってあのクソ天才野郎!!
「だから君が全部できる必要はないんだよ。余計なプライドを度外視して、自身の出来ることを考えて動いて。それだけで十分だ
余計なことして仕事増やさないで」
「……」
「お上は仕事を部下に丸投げしていればいいいんだ。責任を取るのが上の仕事だからね」
「……そんなのおかしいわよ」
「……そう」
……ああ、やっぱりこの女とは話が合わない。
お前の長所は地位と血統、あとその美貌だけあというのに、何故それらを使わずに出しゃばろうとするんだ。
いや、別に出しゃばろうとするのはまだいい。僕だって何度も出しゃばって痛い目見て、それで経験を積んできたんだからな。
問題なのは、何も学ばないことだ。
この無能は何度も格上に返り討ちされているのにも関わらず、学ぼうとも鍛えようとも強くなろうともしない。だからヴァーリにボロクソ言われるんだよ。
もしかしてこの女、自分に落ち度がないと、今の自分は本当に優秀だと本気で思ってるのか?
……いや、それはないだろうな。あんだけ失態を重ねておいて、まだ自分は優秀で治す点も落ち度もないなんて考えるほどバカじゃないはずだ。
もし本気でそう思ってるならあいつの知能を疑う。本当にそうなら、いくら安いラノベでも擁護されない。
「(これは木場たち苦労するだろうな……)」
これ以上僕は何も言わない。だって言っても無駄だから。なによりも面倒だから。
というわけで、僕は続けて木場たちの試合を眺めることにした。
「……来たようだね」
デパートの広場に通じる狭い廊下。隠れる場所のないほどの窮屈な空間で彼は待機していた。
イッセーの指示ではそろそろ敵が着くと知らされている。よってここに持ち込んだ段ボールで姿を隠していた。
隠れる場所がないならば作ればいい。そう教えられてしたことだ。
「(…今だ!)」
敵の影が見えたと同時に飛び出す。
この位置からはこちらの影が見えないが、こっちからは一方的に見ることができる。絶好の奇襲地点だ。
「きゃあ!?」
『ソーナ様の僧侶、リタイア』
僧侶の不意打ちに成功するとさらに追撃をかける。
彼が握っている得物は二本の剣ではない。一本のレイピアであった。
「……ック!」
この狭い廊下には逃げ道がない。よってリーチの差で一方的に潰すことが出来るのだ。
そして木場の特性はその速さ。目にも止まらないスピードで刺突を繰り返すことで、マシンガン並みの『剣』幕を張ったりすることも可能なのだ。
魔法や神器を使う暇など与えない。スピードでゴリ押ししてやる。
スピードこそ僕の本髄。僕に追いつける者なぞソーナ眷属に存在しない!
「キャ!?」
もう一人アウト。このまま押し切ってやる!
「チッ!」
敵の援護が来たので木場は窓を割って逃げることにした。
大会で禁じられているのは会場の過度な破壊。窓を割る程度など軽い損傷だ。
あのまま追撃をかけるのも魅力的だったが、あまり欲張りすぎると反撃されるリスクがある。よって逃げることにした。
なあに、まだ策はある。ゆっくり攻めればいいだけだ。
というわけで木場はとりあえず逃げることにした。
けどまあ……。
「はいあげる」
置き土産くらいは許されるだろう。
木場は爆発の魔剣を創造し、閃光弾或いは煙幕の代用品として爆発させた。
これで一人リタイアすれば儲け物、少なくとも負傷はしているだろう。
「(順調順調。このままいけば僕の勝利は揺るぎないね)
予め垂らしていたロープに捕まって下の階に降りた。