禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第52話

「(そろそろ来る頃ですね…‥)」

 

 デパート会場の休憩場。そこはまるで自然公園のように木々や植物が多く、そして隠れる場所も多い絶好の奇襲場所でした。

 私は茂みの中で姿を隠します。普通ならば小さすぎて身体を隠しきれませんが私の体なら……言ってて悲しくなってきました。

 

 何故私は姉様のようにボッキュンボンではないのでしょうか。同じ遺伝子なのに私だけ背が低いちんちくりん。これは不公平です。

 ……やっぱり悲しくなるのでやめにします。自分は大事にしないと。

 

 

 敵の匂いがしたので飛びかかる体勢に入って出方を窺います。

 

 こういったとき悪魔は魔力で敵を感知するらしいのですがが、逆探知される危険性もあります。ですから五感でやった方が都合がいいのです。

 

 今の私は昔とは違います。

 まだ気の制御は出来ませんが、猫としての戦い方を受け入れる程度には成長しました。

 何時か気の制御を覚えてこの力の克服も……。

 

「匂いと音の方向からしてまっすぐ通っているようです。…よし、じゃあ予定通りにやります。準備はいいですか朱乃先輩」

『ええいいですわ』

 

 ペアの朱乃先輩に指示を出して任務をスタートさせます。

 普通なら戦車である私が囮役ですが、今の朱乃さんは駒の力によって戦車の力も使えます。

 

 あの日、イッセーさんは朱乃先輩を全ての駒の力を使える真のクイーン、たしかエンペラーフォーム?……とかにすると言ってました。

 もしここで使いこなせなければお仕置きらしいです。

 

「はぁ……はぁ‥…。是非してください!」

 

 ……正直あの人はそれを楽しんでそうですが。

 

「先輩、興奮してないでさっさと準備してください。じゃないと全裸にひん剥いてオス猫共に回すぞ痴女が」

『……最近毒舌が凄まじくなりましたわね』

 

 うっさいです。私は通信を切って準備に取り掛かりました。

 

 ある程度接近し、獲物が通るのを待ちます。さあ、塔城小猫改め猫しょう白音の狩りの始まりです。

 

 

 ここで飛び出しても奇襲の意味はありません。ただ一度の攻撃が成功すればいいという問題ではないのだ。

 確実に一匹ずつ仕留める。チャンスは最大限に活かしたい。

 

 

「(今だ!)」

 

 ビショップが通り過ぎたと同時に私は音もなくビショップの背後を取り、捕縛して近くの茂みに連れこみました。

 声を出されないように手で口と鼻をハンカチで覆い、気づかれないように最小の動きで。

 

 フフフ。このハンカチにはイッセーさんのしびれ薬が染み込んであります。ほんの軽い効果のクスリですからリタイアにはなりません。

 

「ん?何か妙な音が聞こえなかったか?」

「気のせい気のせい。まだ序盤だよ?いきなり攻撃されることなんてないでしょ」

「そうそう。それに敵が接近したらすぐ気づくわ」

 

 ビショップが攫われたことに気づかず、そのまま素通りする一行。どうやら襲撃の危険性は全く考えてないらしいです。アナウンスされないなら、このままもう何人かいけそうです。

 

 それにしてもなんてのんきな考えでしょうか。

 まるで遠足に行く高校生のよう。現役JKの私が言うのも変ですが、まるで学生気分です。

 私は現役JKです。JCでもましてやJSでもありません。もし間違えたら殺しますから。

 

 その甘さが敗北に繋がるのだ。今日のことを教訓にして、明日に活かしましょうか。

 

 

「(痴女先輩、作戦開始です。暴れましょう!)」

『(了解! 姫島痴女…‥誰が痴女よ!?)』

 

 

 ビショップの首を絞めながら合図を出す。すると痴女が一行の後ろから雷を落としました。

 雷は吸い込まれるかのように一行の一人にヒット……。

 

「いきなり奇襲ですか」

 

 と思いきや、向こうのクイーンによって防がれました。

 

「ひ…姫島!?いつの間にこんな近くに!?」

「騎士の力を使ったのよ!」

 

 そこから始まる魔法戦。朱乃先輩は騎士の力でスピードを上げて雷の弾幕を張ります。

 確実性より手数、威力より牽制。派手な音と光を出して、先輩は牽制及び威嚇しました。

 

 あの人の仕事は戦闘ではありません。先輩の役目はかく乱ですから。

 あとは私の仕事です。さあ、狩り尽くしてやりましょう!

 

『ソーナ様のビショップ、リタイア』

「なに!?さっきので倒したというのか!?」

「なっ!?まだ序盤すら始まってないのに!?」

 

 アナウンスのおかげでさらに混乱が助長された。今のうちに片づける。

 

 私はポーンの首を締め、叫ばれないように手で顔を覆い、木の上に飛び移って隠れました。

 

『ソーナ様のポーンリタイア』

「なッ!?ここに敵がいるのに!?」

「クソ! こいつは囮か!?」

 

 

 やっと敵が別にいることに気づいてさらに混乱する一行。その間に私はもう一匹の獲物を難なく捕獲。すぐさま木の上に飛び上がり、首を両腕で絞めて落としました。

 

「(もう一匹!)」

 

 さっきと同じようにまた一人さらって木の上に連れ込もうと飛びかかる。しかし私の動きは見切られてしまい、反撃されてしまいました。

 

 

「…あぐッ!」

 けど私もただではやられません。お返しにルークのパワーで一発殴っておきました。

 

「……まさかルークが相手なんて……。それであのスピードって冗談でしょ?」

「……」

 

「チッ」

 

 私は黙って構え、敵のルークに飛びかかりました。

 

「「…ぐ!?」」

 

 パワーでは私が僅か上。けど体格は向こうが大きいのでつかみ合いになりました。……こういう時はお姉さまの体が羨ましい。

 けど、私にはとっておきがあります。

 

「にゃあッ!!」

「な……!

 

 私は猫の敏捷性をフルに使って飛び上がり、関節技をかけます。

 これこそイッセーさんの地獄の特訓で手にれた技、猫廻りです。

 猫のように俊敏に飛び、敵に関節技をかける。これは無形の技であり、状況に応じて様々な技を仕掛けます。

 

 これを習得するために酷い目に遭いました。 

 毎日失神するまでの練習と死ぬような特訓のやりとり。

 もう一度言います。失神するまでやります。失神するほどではありません。おかげで何度向こうにいる母さまに会ったことか……。

 

「あぐ…うぐ……」

「…ゆっくり落ちてください」

 

 私がしたのは三角締め。わざと倒れながら飛び上がり、足で首を絞めてやりました。

 他の方達にもやったように、頸動脈だけを抑え、気道を潰さない様にします。

 抵抗しようと私の腕を掴みますが、ある種を仕掛けたお陰でびくともしません。

 頬を赤く染め、息が荒くなり始めました。……これは決まりましたね。

 

『ソーナ様のルーク、クイーン。共にリタイア』

 

 同時にリタイアのアナウンスが流れる。私は先輩の安否を確認するために拘束を解いて先輩を探しに行きました。

 

「どうやらそっちも終わったようですね」

「ええ。最後はルークで接近戦を仕掛けましたわ。

 ……ああ、やっぱり関節技って気持ちいですわね、締めるのも締められるのも……」

「……」

 

 イッセー先輩、この人にとってはあの地獄の特訓も首絞めプレイになり下がるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さっきはよくもやったな!」

 

 だだっ広い場所のど真ん中で木場はソーナ眷属たちを待ち構えていた。

 

「それで、ぼくと戦うのは君たちだけ?」

「……」

 

 ソーナ眷属に目をやる木場。

 彼女たちは答えない。ただ神器や魔法を発動させ木場を迎え撃とうとした。

 

「まずは……小手調べだ!」

「バカが、私も貴様同様ナイトの駒だ! 貴様のスピードなぞ私には……何!?」

 

 木場は会場全体を自慢のスピードで走り回ってソーナ眷属たちを混乱させようとする。

 いくら類稀なスピードとはいえ、同じナイト。付いていくことは出来なくても視認することは出来る。

 

 

 しかし、その幻想はあっさりと否定されることになった。

 

 

「な……なんだその動きは!?」

「これがイッセー君との地獄の特訓で得た技の一つ、歩法・摺り火だ」

 

 緩急をつけ、体全体を揺らすことで距離感覚と攻撃のタイミングなどを奪う。

 そのあり方はまるで揺らめく炎。捉えどころのない移動方法で自らの動きを隠す技である。

 

「この一週間、本当に辛かった……。少しでも間違えたら雷が流れるような鉄板の上でやらされるわ、鉄球付きの鎖を体中に巻かれるわ、本物の槍で突かれるわ……。あの子のほほんとしててめっちゃスパルタなんだよ!」

「そ、それは大変だったな……」

 

 泣きながら揺らめく木場を見て少し同情するソーナの騎士。

 

「けど!おかげで僕は強くなった!その強さをここで見せてやる!」

「…ク!」

 

 その独特な動きでソーナのナイトを攻める。

 スピードでも技術でも武器でも木場が上。その上妙な動きをしてくるのだ。この時点で既にどちらが優勢かなど一目瞭然だ。

 

「今助けるわ!」

「おっと」

 

 ソーナの兵士が援護しようと攻撃する。しかし木場はそれを避けるだけでなく、ソーナの騎士に当てた。

 騎士が怯んだ隙に追撃。木場は見事ソーナの騎士を仕留めた。

 

「そ…そんな!? 貴方何をしたの!?」

「僕は何もしてないよ。ただ攻撃を避けただけ。強いて言うなら、これが摺り火の真髄ってとこかな?」

 

 摺り火はただの歩法ではない。

 動きを隠すだけでなく、多対一では同士打ちを誘うことも出来るのだ。

 

「だったらこれで……キャ!?」

 

 木場が剣を振るう。すると木場の剣はまるで鞭のようにしなり、そして蛇のようにソーナの兵士たちにへと襲いかかった。

 予期しなかった中距離戦用武器。完璧な奇襲。しかし、ソーナの兵士たちは咄嗟に避けることで掠り傷だけに留めた。

 

「残念だったわね。奇襲は……あぐッ!?」

 

 突如体に痛みが襲いかかる。

 何故だ、完全に避け切ったはずなのに何故痛む?こんな掠り傷だけで何故これほど目眩がする!?

 

 後ろを振り返る。彼女たちの傷は自分より浅いはず。なのに彼女たちは自分以上に重症だった。

 

「残念。この伸縮の魔剣には毒が塗ってあるんだ」

「け、けどあいつの罠は禁止になってるんじゃ……」

「そうだね。イッセーくんは罠の設置を禁止にされたけど、武器を配ることは禁止になってない」

「!!?」

 

 そう、運営が禁止したのは罠の設置だけで毒そのものは禁止されてない。

 

「そういうわけで僕たちは何も悪いことしてないよ。……さて、そろそろ時間だね」

「そ‥…そんな……」

 

 倒れるポーン。彼女の体には既に毒が回りきってしまい、もう戦える状態ではない。

 運営がリタイアするには十分。こうして彼女もリタイアした。

 

「さてあとは匙くんだね。彼の担当は……イッセーくんか」


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