禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第55話

「………ゲッ!イッセー!?」

「何お化けを見たような目をしてるんだよ」

 

 イッセーを見た瞬間、ディオドラは怯えた様子で数歩ほど下がった。

 

 ディオドラはイッセーに対して苦手感情というか、トラウマがある。

なにせ、今のディオドラになるきっかけを作ったのはイッセーだからだ。

 

 

 5年ほど前、イッセーがまだ過激な環境団体のような活動を始めていた頃の話。ディオドラがいつものように目星い聖女を探しにアフリカへ向かった時の話だ。

 

 その聖女は小さな村で聖女と崇められていた。なので彼女を絶望させるために疫病を蔓延させ、彼女が魔女だとでっち上げようとした。

 彼女がやってきたせいで病気が蔓延した。彼女だけが無事なのは決して聖女だからではない。彼女が魔女だから、彼女が病気を撒き散らしたのだからと。そうでっち上げようとした。

 

 当時のディオドラの聖女確保手段を一言で言うならマッチポンプだ。

 まずは絶望させて信仰を奪う。権力や金の力を乱用することで、聖女を背信者や魔女だとでっち上げ、『異端』の烙印を教会上層部に押させる。

 本来なら少しの噂や失態だけで聖女の地位を揺るがすことなど不可能だが、彼は欲深い教会の権力者を抱き抱えている。よって金やら女やらを流すことで操ることなど造作もなかった。

 それでいつもどおり工作を行おうとしたのだが……。

 

 

 

 だが、疫病を蔓延させようとした瞬間、奴が現れた。

 

 

 当時のイッセーは大学の研究のため、自然公園の近くにあるキャンパスに留学していた。

 その自然公園の近くで病を撒き散らそうとしたのだからイッセーは大激怒。殺しこそはしなかったが全ての部下悪魔をぶっとばし、ディオドラの顔面がアンパン○ンそっくりになるまで殴り続けた。

 

 それだけでは済まさない。イッセーはディオドラを拘束して三週間ほど自然公園で働かせることで洗の‥…もとい教育をしてやった。

 その甲斐あってディオドラは改心。自分のやったことを反省し、人生を奪った聖女達の責任を取ると決めて彼女たちを大事に養っている。

 

「誰かを思うのは君の勝手だけど、だからって暴走していい理由にはならないよ」

「……し、しかし」

 

 しかし、今ではその責任を取るために躍起になっているのが玉に瑕である。

 

「僕は決めたんだ!彼女たちは何があっても僕が責任を取る!彼女たちの人生をむちゃくちゃにした以上、僕がその罪を背負うと!」

「……その心意気は大事だけどさ、彼女はもう自立してるんだ。君の責任感の押し付けは彼女にとって迷惑なんだ」

「そ、それもそうなんですが……」

 

 アーシアはディオドラを一切恨んでいないし、告白されたときも『あの頃のことは忘れてください』と、某目が腐った間違っている青春ラブコメの主人公みたいなセリフを吐いた。

 もう彼女の中であの事件は終わっているのだ。これ以上ほじくり返されても彼女にとっては迷惑にしかならない。

 

 しかし、ディオドラはそれでは納得できなかった。

 

 自分がしたことに責任を取りたい。許されるのなら、償ってから許されたい。そう望んでいるのだ。

 

「……分かっている、これは僕の自己満足だ。たとえ償っても僕が犯した罪は消えないし、なかったことにも出来ない。僕はただ罰をくらってスッキリしたいだけの欲しがりだ」

「……そっか。でもそれだけじゃないんでしょ?」

「うん、僕は彼女が欲しいんだ!

 僕は彼女の優しさに救われた!だから償いだけじゃない、そのお恩返しを、そして僕の想いを受け取って欲しいんだ!」

 

 あの時は既に改心し、仕事の一環としてあの地に寄った。

 ディオドラが負傷したのは原作と違って事故なのだ。……まあ原作でもアーシアとの切っ掛け作りのために負傷する根性は褒めてもいいと思うのだが。

 

 話を戻す。

 ディオドラは自分を治療したがために魔女と呼ばれたアーシアを申し訳なく思ったと同時に、悪魔である自分を助けてくれた彼女に惚れてしまったのだ。

 

「今なら力もある! 昔みたいに地位と生まれがいいボンボンとは違うんだ!僕は自分の力でお金を稼いで、自分の技術で功績を得ているんだ!」

 

 イッセーに為す術もなくボコられたのがよほど堪えたのか、それとも守るものが出来たせいか。彼は力を求めるようになった。

 しかしただ自分が強くなっても彼女たちを守れるとは限らないし、第一ディオドラには戦う才能がない。よって彼は強さを武器に求めた。

 

 剣や槍は使い手の技量がいる。業物の聖剣や魔槍でもない限り、誰が使っても最強の武器など冥界には存在しなかった。

 それではダメだ。彼女たちのような非力な存在でも使える武器が必要だ。強者の攻撃から守るための鎧や盾が必要だ。

 

 

 そこで目をつけたのが銃である。

 

 

 無論ただの銃では効果などない。よって彼は悪魔の力を持つ『魔銃』の開発を進めた。

 

 魔銃を開発するために彼は様々な技術を学んだ。

 魔弾や魔剣のつくり方、銃の構造、そして効率的な生産方法等等…。彼は全てを習得し、魔銃を開発した。

 

 魔銃を眷属たちに武装することで、彼女たちは自身を守る力を手に入れた。

 彼女たちの銃は全てオーダーメイド。眷属たちに合う銃を作り、それを活用するための訓練メニューを作り、共に欠点を補って長所を生かすための作戦を作り……。ディオドラは彼女たちに上級悪魔に匹敵する力を与えた。

 

 おかげで彼はレーティングゲームでも上位にランクイン。時には貴族共の不正行為をも物としない戦闘力を発揮した。

 レーティングゲームで宣伝したおかげで魔銃は大ヒット。今では生産のが追いつかないほどの人気を誇っている。

 

 こうして彼は自身の手で力も金も功績も手に入れた。故に原作ディオドラやリアスたちのような生まれだけの歪な自信など抱く必要もない。

 

 だから彼は胸を張って生きていくことが出来る。自分はすごいと、堂々と言うことが出来るのだ。

 

「けど…‥好きな女の子の前じゃ……ね?」

「……うん、気持ちはわかる」

 

 しかしどんなに自信があっても、好きな女の子の前では暴走したり緊張したりする。これが男の子というものだ。

 

「…‥じゃあさ、ちょっと気分転換に僕の部屋に来ない?」

「ん?なんだ急に?」

 

 ディドラは一瞬怪しいと邪推するも、ついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想像どおり動物関連の本が多いね。……あ、これはネ○チャー、しかも英語版か」

 

 本棚に手を伸ばす。そこから引き抜かれたのは英語で書かれていたものと、日本の書物だった。

 

「英語読めるんだね」

「ええ、銃器や魔弾の研究をするためにヨーロッパやアメリカへ留学した経験があってね。日本語も呪術を学ぶために覚えました」

 

 自分以外に外国語の本を読む人物を見て少し感心するイッセー。

 彼の組織では話すのは兎も角、外国語を読める人材は少ない。なにせ話すためには苦労しないのだから、わざわざ勉強しようとする謙虚な者がいないからだ。

 例外はヴァーリくらい。あの男、ラテン語やスワヒリ語なども習得しているらしい。

 

「それにしてもイッセーくん、なんで君の部屋にはこんなに動物がいるのかな?」

「うん、動物を集めまくったらこうなっちゃったんだ」

「まあ…想像してましたからあまり疑問に思いませんが」

 

 イッセーの部屋の中。そこは動物だらけのワンダーランド状態だった。

 大体想像がついていた。この動物好きな男ならばこんな部屋になっているであろうなと。

 むしろこの状況を楽しむことにした。

 まずは近くにいた兎から。トテトテと走る兎にガバッと捕まえるかのように手を伸ばす。

 

「いたッ!」

 

 しかし指が当たろうとした瞬間、うさぎはディオドラの指を噛んだ。

 

「な……なんですかアーシアに似てると思って癒されようと思ったのに!」

「ダメだよディオドラ。兎は食物連鎖的に弱者なんだ。常に気を張っている彼らは少しのことでも敏感に反応する。だからいきなり触ろうとしたら反撃するのは当然じゃないか」

「けどこれが僕の愛情表現なんです!僕は自分を知ってもらたくて、好きになってもらいたいんです!」

 

 噛まれた指を抑えながら吠えるディオドラ。そんな彼をイッセーはブーステッド・ギア・ギフトで回復力を上げて治療していた。

 

「ディオドラ、愛情表現は結構だけどそれじゃ一方通行だ。だからまずはその対象を理解することが大事なんじゃないのかな?」

「……では知るまでどうすればいいのですか?」

「待て。向こうから認めてくれるまで待つんだ」

 

 治療を終えたイッセーは寄ってきた兎をゆっくりと撫でる。ディオドラはそれを見て真似ようとするも、さっきの兎に噛まれてしまった。

 

「痛い!でもそれじゃあいつまでたっても僕のこと知ってもらえないじゃないですか!僕は多少傷ついてでも知ってもらいたいんです!」

「馬鹿。その結果自分だけじゃなく相手も傷付けてしまうんだよ」

 

 もう一度噛まれた箇所を治療するイッセー。

 

「自分が良ければ相手のことはお構いなしなの? 相手のことなんてどうでもいいの?」

「そ、それは……」

 

 そう言われてディオドラは言葉を詰まらせてしまった。

 

 もちろん彼はアーシアを傷つける気など毛頭ない。むしろその逆、彼女には幸せになって欲しいのだ。

 同時に思う、自分のことを知ってほしいと。自分の思いを受け取って欲しいと。自分を好きになって欲しいと。

 

 しかし、この男はそのジレンマを否定した。

 

「たしかに知ってもらおうとする姿勢は大事だけど、一方通行じゃ意味ないんだ。」

 

 

「大体短時間のアピールだけで自分を示そうとするのが間違いないんだ。

 本当に知ってほしいのならば態度で示せ。その積み重ねが信頼に繋がるんだ」

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 イッセーの言葉にディオドラは感銘を受けた。

 

 軽いノリの合コンじゃあるまいし、そんな簡単に信頼や愛を得られるわけがない。

 ゆえに態度で語るしかないのだ。

 

「……わかりましたイッセーさん。僕は態度で語れる男になります!」

 

 ディオドラはそう言って部屋から出て行ってしまった。

 

「……信頼は態度で勝ち取れ……か。まるで飼育員みたいだな。お前らしい。さっきのアドバイスはフィールドワークを通して得た経験か?」

「うっさい」

 

 いつの間にか現れたヴァーリをあしらうイッセー。

 

「アーシアは僕に依存している節がある。ディオドラのことを通して僕から独立してほしいんだけど……」

「……確かにな。あの女は神の代わりにお前を崇めているようだ。なんというか……お前のことに関しては妄信的だ」

 

 イッセーは少し困った様子で言う。

 なんというか、アーシアはイッセーに助けられたせいかイッセーの善性しか見ようとせず、悪い点には蓋をしてないように振る舞う。

 そしてイッセーの言葉を全肯定し、相手が正論だというのにアーシアはその相手を睨み付けることが多々ある。

 要するに妄信的なのだ。だからイッセー本人も少し困っていたのだ。

 

 ディオドラが切っ掛けで何か変わってくれたらいいのだが……。

 

 

 

 

 

 

「……イッセーさん、なんかディオドラさんがチラチラ見てうざいんですけど」

「(……態度で示せってそういう意味じゃないんだけどな………)」

 

 

 そうなるのはまだ先らしい。




はい、というわけで私のssではディオドラは味方、しかも武器や物資を提供してくれる上に本人も強いという設定になります。

あと、アーシアは大分逞しい、というか凶暴になってます。というのも、原作アーシアって聖女って感じがしないんです。なんていうか、ただ妄信的に信じてるだけで、その対象が神かイッセーかって感じです。皆さんはどう思います?

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