禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第57話

 ディオドラとリアスのレーティングゲーム前日。そのゲームを一目見ようと貴族悪魔や上級悪魔たちが集まり、パーティを開いた。

 魔王も同様参加している。本来ならば、ヴァーリや旧魔王を中心に禍の団を倒すために色々とやることがあるのだが、何故かそれをサボ……キャンセルしてここにいる。

 

「ディオドラ卿、是非御社の銃を私たちの私兵に売ってくださらんか?」

「そうしたいのは山々ですが、材料や人材が少ないのですよ。これをクリアしない限りは……」

「でしたら私たちの領民をお使いください!」

「(……僕としては共同開発だったり技術交換とかがほしいんだけどな)」

 

 そんな中でディオドラは大忙しだった。

 彼の製造する武具を売ってもらおうと、或いはその技術を吸収するために次々と悪魔たちが集ってくる。

 ディオドラは慣れているのか彼らを捌きながら立食を楽しむ。

 

 しかし、彼の欲するような話は一切こなかった。

 どいつもこいつも金をばらまくか勝ち馬に乗ろうとするか買収しようとするかの思考停止ばかり。誰も共に技術を高めようとしたり、新しいものを開発しようとはしなかった。

 

 彼が欲しいのは金でも人材でもない。自身の銃を更に強くするための技術である。

 権威主義の貴族共など彼には不要。正直、彼にとっては貴族そのものは全く必要としてないのだ。

 

「(しかしそういった技術を支配しているのもまた事実。ここはイッセーを見習って引き出すよう仕向けますか)」

 

 人間界だろうと悪魔社会だろうと。利益がなくては人や社会は動かない。人が動かなくては研究に必要な物資も情報も手に入れらえれない。

 故に情報を引き出そうとする。貴様ら貴族が役立つのは人脈(コネ)だけ。せいぜいいい技術者を引き寄せるための紐代わりになってくれ。

 ディオドラはこのパーティを期にコネを作り、果汁でも絞るかのように情報を集めた。

 

 時間はあっという間に過ぎる。パーティが一区切りついたところで魔王が会場中の悪魔を見下し、手を叩いて視線を向けさせた。

 

「パーティもそろそろいい区切りだし、君たちに聞いておきたい。二人共、ゲームを始める前にまずは目標を語って欲しい。ディオドラくんは不参加だったからね」

「ええ、当日はどうしても外せない用事があったので」

 

 サーゼクスが二人に聞く。ディオドラは口元を少しクイッとさせながら自身の夢を語った。

 

「僕は我が社の作った銃が最強であることを証明したいんですよ」

「なるほど。つまり君は自身の会社で作った銃の性能を証明したいんだね?」

「はい。ですが私にとってそれは一つの目的でしかありません」

「……と、言うと?」

 

 ディオドラは続けて夢を語る。

 

「いつ暴走するか分からないような不安定で使い勝手の悪い神器なんて必要ありません。希少なだけで過剰に守られているような血の力も、ほんの少数いれば十分です」

 

「血の力のみで争う時代はもう終わりです。我が社の製造する武具さえあれば、平民悪魔でも最上級悪魔クラスの力を手に出来ると証明してみせます」

 

 ディオドラが言い切ると、会場は貴族悪魔たちの笑い声に包まれた。

 ソーナの夢を笑った時と同じ笑い。そう、夢を否定する笑いだ。

 そんなことあるはずがない。何を言っているんだ。貴族としてどうかしている。血を軽じるとは愚かな。……様々な言葉をぶつけるが意味は全て同じ。貴族が平民に負けるなどありえない。

 彼やソーナの夢は貴族たちの力を否定し、平民たちを肯定するもの。貴族悪魔至上主義を掲げる門たちにとっては笑いの種でしかない。

 

 たとえディオドラがどんなに素晴らしいPRを行おうとも、耳を貸す貴族は少数。これではちゃんとした説明など出来やしないだろう。

 

「私は口下手でして自社の銃をこの短時間でアピールするような話術を持ち合わせておりません。なので…」

 

 瞬間、発砲音が会場に響く。笑っていた貴族たちの顔スレスレに銃弾が通り過ぎた。

 

「実技でこの力を表現しましょう。……さて、どなたか手合わせしてくれますか?」

「「「……」」」

 

 あまりにも乱暴な手段。とても貴族がするものでも貴族にするものでもない野蛮なやり方。

 しかしこの場ではもっとも有効だった。

 話を聞かない相手に何を言っても無駄。権力なり実力なり行使するして言い聞かせるしかない。

 そういった意味では暴力は有効なのだ。

 

 悪魔の根底にあるものは血統でも地位でもない。暴力(バイオレンス)だ。

 

「リアス、そしてサイラオーグ。貴方たちを倒すことで銃の力を証明してみせます。…バーン」

 

 そう言ってディオドラは人差し指で銃を撃つジェスチャーをした。

 

「随分乱暴な黙らせ方をするようになったね。会社を立ち上げた影響かい?」

「かもしれませんね。けど武力(これ)が一番分かりやすいのではないですか?……貴方の行っているやり方のように」

 

 ディオドラの言葉に一瞬だけサーゼクスの眉を顰める。

 いや、サーゼクスだけではない。ディオドラの発言に不穏な予感を感じ取った貴族たちもまた慌りに似た反応をする。

 

「言葉通りですよ。貴方はその王座を前ルシファーから奪った。つまり貴方は血統ではなく暴力で我らを従えているのですよ」

「それってお兄様が王位を簒奪したっていの!? ふざけないで!」

 

 ディオドラの発言に誰よりも早くリアスが怒りを見せる。

 それを見てディオドラは自分の発言が不適切であると気づき、少し訂正した。

 

「違いますよ。今の王にはただ知って欲しかったのですよ。僕たちが何故魔王についていくのかをね」

「そ、そんなのお兄様が魔王に相応しいからじゃない」

「違いますよ。ホント貴方の脳みそはお花畑ですね。頭に行く栄養が乳に行っているのではないのですか?」

「……なッ!?」

 

 リアスを無視してサーゼクスに向かい合う。

 

「僕たち悪魔が貴方について行く理由は血統でも礼節でも法律でもない。貴方が強いからです」

 

「貴方は悪魔の中で誰よりも強い。旧魔王の誰よりも、そして新世代魔王を名乗るヴァーリよりも。だから僕たちは貴方についていくんですよ」

 

「しかし、もし貴方がヴァーリや旧魔王に負けたり、貴方が僕たちより弱ければ、僕たちは貴方を見限ります」

 

 魔王だけでなく貴族も唖然として聞く。

 

 なんと無礼な言葉の数々であろうか。とても貴族が王相手に話す内容ではない。時代が時代なら即処刑だ。

 しかし貴族の大半は顔には出さないが、内心そのとおりだと、よくぞ言ってくれたと言わんばかりの目を向けた。

 

 この中で魔王に忠誠を誓う貴族悪魔など殆どいない。みんな魔王だから従っている。その程度だ。

 みんなは忠誠を誓うような様子だが、それは形だけ。本当は舐め腐っているのが大半だ。

 

 しかし魔王はなにもしない。……いや、出来ないといった方が正しいかもしれない。

 

「ですから、魔王として君臨したいのでしたらしっかりと力を示してください。グズグズしてると、本当に足元掬われますよ。旧魔王にもヴァーリにも、そして僕たちにも」

 

 ディオドラはそれだけ言って転移用の魔法陣へと向かう。その時、リアスが彼の前に立ちはだかった。

 

「さっきの発言、グレモリー家の敵対行動と認識してよろしいかしら?」

「言葉だけならいくらでも言えますよ。大事なのはそれを結果や態度で表すことでは? 形あるものしてこそ意味があるのでは?」

 

 こうして、険悪ムードでパーティは終わった。


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