禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

6 / 77
第6話

「ふーふーふー」

 

 あのあと、僕は彼女たちの拠点である旧校舎の一室、オカルト部の部室に連行された。

連行といっても手荒い仕打ちはされてない。僕自身は別に彼女たちに危害を加えてない上、一応命の恩人だ。・・・完全なマッチポンプだけど。

 

「では早速質問させてもらうわ。・・・貴方は何者なの?」

「…随分率直に聞きますね。僕がすぐに話すとでも?」

「この状況でも話さないというの?」

 

 僕の隣には姫島朱乃が座っており、後ろには木場裕斗が立ち、扉の方では塔城小猫が邪魔している。

 たしかに僕は囲まれている。脱出できないわけではないけど、ここで暴れても意味はない。

 

「脅しのつもりですか?折角助けたのに・・・野蛮ですね」

「…そうね。だけどそれとこれは別よ。貴方が私の土地で好き勝手するのを認める理由にはならないわ」

「領地?貴女たち能力者にも縄張りがあるのですか?」

 

 僕が恍けると、リアス・グレモリーは少しいらだちを見せた。

 

「…能力者?何を言っているの?」

「そのままですよ。貴方たちも僕と同じように特殊な力を持っているのでしょう?」

 

 僕は神器を展開させて全員に見せびらかした。

 万一赤龍帝の籠手とバレると面倒だ。だからパワーを一段階落とした状態で出す。あくまでも特殊な神器として認識してもらわねば。

神滅具のような大きすぎる力を持つと動作の一つ一つに気を使わなくてはならなくなる。だからこれぐらいは当然だ。

 

「…貴方の言う特殊能力は神器というの。聖書の神が人間にもたらす祝福の力であり、才能のようなものよ。大半は人間社会にしか影響しないけど、中には私たちのような存在にも影響を与えるほどの力があるものまであるの」

「・・・まるで自分が人間じゃないような言い方ですね」

「そうよ。私たちは悪魔なの」

 

 うん知ってます。けど知ってると気づかれたら面倒だなので僕は惚け続けた。

 

「悪魔?ご冗談を。貴方たちはどこからどう見ても人間じゃないですか。悪魔だというのなら化物みたいな姿になってみてくださいよ」

「・・・本当に何も知らないのね。ならいいわ。私が説明してあげる」

 

 僕は黙ってリアス・グレモリーの話を聞いた。

 大半が知っている話だが、僕の情報はドライグや妖精などの、悪魔たちに敵対する種族の情報だけである。だからあちらの視点ではどういった感じなのか知っておく必要がある。一種の情報収集だ。

 

「(けど大差はないようだね。都合よく捻じ曲げられているとこもあるけど、これも予想通りだ)」

 

 色々と世間一般的に知られてるような悪魔の知識を出して照らし合わせたり、妖精たちから得た情報を色々と濁して質問してみる。

けど有力な情報は得られない。むしろ逆に捻じ曲げ具合が予想通りで段々腹が立ってきた。

 

 何が契約順守だ。他種族を劣等種とみなし、マトモに相手しようとするのは一部だけではないか。一体どれだけの種族が貴様らに踏みにじられたと思っている?

 何が貴族だ。暴力で全て解決する野蛮な生物の癖に。人間の真似事をしても本質は全く隠しきれてない。一体どれほどの種族が貴様らに略奪されたと思っている?

 何が平和を望んでいるだ。他の陣営の陣地を奪い、他種族を奴隷にしているではないか。貴様らは自分で戦争をふっかけているではないか。

 

 しかし僕は耐える。手をきつく握り締め、服にシワを作りながらも、僕はポーカーフェイスを保った。

 怒鳴り散らしたい衝動に狩られるが、ここで彼女に文句を言っても何の意味もない。僕はここで僕自身の目的を果たす。そのために不要な行動や余計な面倒はしない。

 

 幸い彼女自身は他の悪魔みたいでないようで、少し安心している。所々人間を見下している様子はあるが、本人は無意識なのだろう。

 実際に人間は悪魔よりも身体的にも魔力的にも劣っている。そこは認めよう。

 だが、だからといってアグラをかいてると痛い目に遭うぞ。忠告はしないが。

 

「話は以上よ。それで、貴方は何者なの?」

「何者とは?」

「惚けないでちょうだい。ただ偶然神器を手にしただけの人間があそこまで戦えるはずがないでしょ?」

「…そうですね。少し長くなりますが」

 

 僕は知り合いから聞いた話を元にして自身の過去を適当にでっち上げた。

 気がついたら神器の力に目覚めたこと。自己鍛錬でトライアンドエラーを繰り返し、能力の使い方を覚えたこと。そして偶然遭遇したはぐれ悪魔を倒すことで戦い方を覚えたこと。大まかに言えばこんな感じだ。

 一部の真実を入れ、嘘で補強する。禍の団や自分の神器の名前を伏せることで相手を説得させた。

 

「なるほど。つまり独学で神器の使い方と戦い方を学んだってことね。それはすごい才能だわ…それで、どう?」

「どうって、何がです?」

「私の下僕にならない?この駒、イービルピースがあれば貴方を悪魔にすることが出来るの」

 

 ・・・下僕にするだと?貴様ごときがこの僕を?

 本当に僕をイラつかせる才能だけはあるようだね。縄張りは侵入され放題、好き勝手され放題の上に戦闘力も僕以下の癖に。

 

「お断りします。僕は人間のままでいたいんです」

『(・・・お前のどこが人間なんだ?魔王や鬼神の間違いだろ)』

 

 うるさいドライグ!確かに体は悪魔の細胞が入ってるけど心は人間なんだよ!

 

「あら、なんで人間に拘るの? 短い寿命で窮屈な人間より、強靭な体と長い寿命、そして力があればなんでも手に入る、欲望を信条とする悪魔の方が自由で快適よ?」

 

 冗談じゃない。何が欲望を信条とする…だ。欲望に溺れているだけではないか。

 別に欲望を否定する気はないし正直であることに異論はない。僕たっで欲望のままに生きているわけだし。

 けど大半の悪魔共はどいつもこいつも欲望に溺れている。欲に振り回されているのだ。

 そんなんだから人間に騙されたり利用されたり食われたりするんだよ。

 

「いえ、僕にはそんな大層な欲望ないので。それに何年も生きていると疲れそうなので」

 

 愛想笑いをしながら、ありふれた理由で流す。

 いちいち面倒くさい。けどこれから良好な関係を築かなくてはいけない。

 

「お断りします。僕は人並みの生活を過ごしたいんです。度の過ぎた欲望は身を滅ぼすといいますし」

『(どの口が言う。自分以上の大物を幾多も食らったくせに)』

 

 あ~もう。今日のドライグはうるさいな。

 

「そう。それは残念ね。だけど貴方はどの陣営にも所属してないのでしょ?見過ごすわけにはいかないわ」

「…神器使いというものは必ずどの陣営に所属していなければいけないのですか?」

「ええ。ここは私の土地だから当然私が管理するのが筋なの。だからここで生活する以上、私の」

 

 管理と来たか。たかが悪魔風情が随分僕たち人間を舐めているようだね。

 ここは君たち悪魔の街じゃない。僕たち人間の街だ。領地か縄張りかは知らんが、それはそっちの決めたルールだ。僕たちが何故従わなくてはならない。

 本当に自分たちの土地にしたいのならば買い占めて私有地にでもしろ。出来っこないのは分かるが。

 

『(なあ相棒、やはりここは強行突破でいくべきだ。こんな女の下につく必要などない)』

「(言うなドライグ。最初からわかりきっていたことだ。それに僕は下につく気なんて更々ないよ)」

 

 少し頭に血の登ったドライグを落ち着かせる。

 悪魔が人間を便利な動物道具程度にしか思ってないのはわかりきっていたことだ。

この女も同じだ。本当に人間を隣人として尊重しているなら、こんな笊同然の領地警備なんて行わない。

僕が彼女の立場なら、人の命を預かっている身としてもっと必死になるね。

 

 繰り返し言うが、僕は彼女と喧嘩するために接触したのではない。僕には僕の目的があって行動している。

具体的な案はお楽しみだ。だからそれまで待ってくれ、ドライグ。

 

『(・・・相棒がそういうならば任せる)』

 

 そう言ってもらえるなら嬉しいよ。さて、ポーカーフェイスを整えて話を再開させるか。

 

「それは勘弁願いたいですね。僕は小市民ですから、そういった荒事はごめんです。ケンカだってしたことないのに」

『(・・・嘘つけ。お前血生臭い話大好きだろ。この間吸血鬼の国で純血吸血たちを血祭りにしたお前が何を言う?)』

 

 ・・・違うよ。僕はあまりしてないよ。吸血鬼と戦っていたのはヴァーリたちの部隊。僕は裏方で毒殺と虐殺を担当していただけさ。

 それに僕はあまり戦いが得意じゃない。だから戦闘は完全に使い魔や使役している悪霊任せだ。

 

「…それは残念。独学であそこまで戦える貴方には才能があるのに」

「才能があるからって誰もがその分野に進みたいとは限らないでしょ。もしそうなら、スタイルの良い美女は全員グラビアやAVに行っちゃいますよ」

「…な、なかなかおもしろい例えをするのね」

 

 女性相手にするような例え話ではないが、コイツ相手にはいちいち礼儀正しくやる気がおきない。

 第一、これは貴女に言ったようなものですし。戦闘力も低いお前はグラビアの方がよほど向いている。

 

「じゃあ私の傘下に下るってことでいいわね」

「いえ、厳密に言うと違います」

「・・どういうこと?」

 

 僕は少し機嫌を損ねたグレモリーに臆することなく、はっきりと自分の意見を言う。でないと舐められるからね。

 

「僕は貴方の奴隷でも眷属でもない。対等な立場です。よって仕事に釣り合った報酬はもらいますからね」

「なんだ、そんなこと。たしかに貴方は戦闘力は高いようだし自分の力も使いこなしてる。なら私と同等になる資格がある。…いいわ、特別に対等に接してあげる」

 

 やれやれ、まだ上から目線か。あんな雑魚程度で苦戦しておいて、こんな杜撰な管理しかできない分際で、まだ自分たちが上と言うか。

 けどまあいい…。

 

「(どうせ君たちは、僕に支配され、僕に喰われる運命なんだから)」

 

 僕は本心を出さなように気をつけながら、彼女と握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(なあ相棒、リアス・グレモリーと接触するなら変装した方がよかったんじゃないのか?万一トラブルがあっても後腐れなく姿を消すために)』

「(・・・あ)」




稚作のイッセーは原作のように直情型ではありません。笑顔を保ちつつも腹の中では相手を馬鹿にしたり、あれこれと考えて物を言います。
けど感情的なのは相変わらずです。ただ表に出さないだけで、沸点もそんなに高くないし、けっこう血の気が多いです。
違うのはその場で爆発させるのではなく、チャンスを待つ忍耐と演技力が少しあるとこです。その場では流しても、隙あらば背中を刺します。

あと、稚作のイッセーはリアスだけでなく悪魔そのものを見下してます。
原作ではリアスの下僕ポジションですから慕ってましたが、このポジションでは明確な敵です。だから悪いとこに当然目が向きますし、容赦なくこき下ろします。ですのでリアスを嫌ってます。原作ではリアスに助けられたので慕ってますが、ここでは敵対している立場です
だってイッセー、敵には容赦しませんから。原作でも敵対したら烈火のごとく怒りながらボコりますし。・・・サライオーグ事件とかで。
そのうえ付き合いも浅いので好きになりようがないんですよね。これから良好な関係を作る可能性もありますが。
・・・リアスの領地管理不届きのせいで死んだ気はするのでマッチポンプのように私は思いますが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。