禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第65話

「それで、昨日の乱入はなんだったんですか?」

「納得のいく答えが欲しいね」

 

 翌日の妖精派の秘密基地。そこでイッセーとディオドラはヴァ―リに問い詰めた。内容はもちろん昨日の宣戦布告についてだ。

 

「決まっているだろ。シャルバが貴様らの試合に乱入するという情報が入ったので俺が直々に参入した。それでついでに自己PRした。

 しかし貴様ら、何をそんなに怒っている。俺がいなければイッセーの正体をばらすことになったんだぞ。むしろ感謝してほしいぐらいだ」

「その割には随分と手際良かったけど?」

 

 怪訝そうな目で言うイッセーに対してヴァーリはフッと笑う。

 

「実は奴が襲撃することは前もって知っていた。だから準備はしていた」

「だったら来る前に止めてくれたっていいじゃないですか。僕の晴れ舞台が台無しですよ」

「それはすまない。俺の力を全ての悪魔に示す絶好のチャンスだったのでな。あんな滅多なチャンスはないんだ。何か埋め合わせをさせてくれ」

「……はあ~。分かりました、僕も妖精派の一員です。リーダーのためなら仕方ありません」

「なんだ、随分あっさり下がるな」

「ええ、なにせ僕のしたいことは出来ましたので」

「したいこと?」

 

 イッセーの質問にディオドラは自信満々の様子で答える。

 

「僕が欲しいのは『勝利』ではありません。僕の作る銃が神器や悪魔の血の力よりも強いと『検証』することです。勝利なんてその手段に過ぎません」

「望むのは勝利よりも証明か。その気持ちよく分かるぞ。俺も求めるのは闘争ではなく勝利、もっと言えば俺が強いということを『証明』するためだからな」

「ああ、分かるよその気持ち。僕も勝利とかそんなのはどうでもよくて、『利益』を優先することが多々あるからね。けど戦いの高揚ってかなり癖になるんだよね」

 

 彼らにとって戦闘とは手段であり、その先に望むものは違う。イッセーは戦いの先にある利益を、ヴァーリは自身が強いという証明を、ディオドラは自身の理論が正しかったという検証を。皆戦いの先にあるものを求めている。

 そもそも争いとは他者と競って何かを手に入れる行為である。闘争本能や戦いの際に発生する高揚感はそのための補助装置に過ぎない。それに溺れるのは強い力を持っただけの弱者だ。

 ……まあ、ドラゴン系の神器は闘争本能も戦闘による昂りも桁が違うので持て余す者が多いのだが。

 

「それはドラゴン系の神器使いあるあるだな。しかし戦闘の高揚感に飲まれて本来の目的を忘れるなど本末転倒だ。故に昂ぶりに乗ることはあっても溺れないようにしなくては意味がない」

「昂ぶりですか…。戦闘になるとみんな感じるものですよね。士気を上げるのにはもってこいなのですが、あまり昂ぶりすぎると指揮が効かなくなるので困りものです。かくいう僕も飲まれかけるのですが」

「ああ、木場との対戦ね。たしかに武器の強さをPRするのが目的はある程度成功しているけど、かなり危ないとこあったからね。PRが目的ならもう少しやり方あったんじゃいかなって思うよ」

「ええ。私はコートの頑丈さと二丁拳銃の威力と耐久性をPRするつもりだったのですが、改めて考えると爆弾食らった時点で下がって遠距離戦でジワジワやるべきだったのかなと……。僕自身は自分の得意な分野で勝負したつもりなのですが」

「たまにあるな。自身の土俵で戦っているつもりが、実は相手の土俵で戦っているということが。俺もそれで何度も痛い目を見たこういうは現場では正しい動きしてるともりだが、思い返してみると良い手がもっとあると反省させられる」

「ああ、たしかにあるよね。僕も戦況をつかんだつもりで逆に飲み込まれたことがあるよ。ほら、僕って猪突猛進なとこあるから引っかかるんだよね。戦闘中に昂ると余計になるよ。周りに目を向けられないっていうか……」

「そうそう。相手が集中しなくちゃ強いときは特に困りますね。相手に集中しなくては死ぬ、かといって周囲の警戒を怠ると死ぬ。……まるでブラック企業です」

「戦いとはそういうものだ。理不尽の塊に抗うことを戦うというんじゃないのか?」

「あ、あの~……」

 

 話ふける三人にアーシアが声をかけた。

 

「そろそろこの三人の話を聞いてもいいんじゃないのでしょうか?」

「……ん? ああ、そうだな。それで、そこにいる三人が新しく俺たちのチームに入るのか?」

「ああ、彼女たちが今日から妖精派に入るぐれもりー眷属だ。といっても眷属から抜けることは出来ないからあまり動けないけどね」

「そうか、俺の名は知ってると思うがあえて名乗らせてもらう」

「……グラ○ム?」

「敢えて名乗らせてもらおう! 俺はヴァーリ・ルシファー。新世界の夜明けを齎す暁の魔王だ」

 

 ヴァーリは小猫の突っ込みを無視して名乗った。

 

「……暁の魔王って、随分思い切ったネーミングだね」

「どれだけ自信あるんですか」

「ここまでくると逆に清々しいよ」

 

 ヴァーリの自信を見て困惑する一同。

 

「それじゃ、説明はする必要はないだろう。ならば早速やってもらうことなんだが……特にないな」

「「「・・・え?」」」

「ないというより出来ることがないといった方がいい。まだ来るべき日が来てないからな。現状では何もできないんだ。……一人はそうでもなさそうだが」

 

 

「だから偶にでもいいから遊びに来てくれ。そこで異種族と触れ合って彼らがどういった存在なのか知ってほしい。それだけだ」

 

 

「「「・・・」」」

 

 更に困惑する一同。スカウトされたかと思ったらいきなり役立たず宣告。たしかに意味が分からない。

 三人はイッセーに助けを求める視線を向ける。しかし彼はただ手を振るだけで何も答えなかった。

 要するに今は話せないということ。まあ何か意味があるのだろうと勝手に納得して聞くことにした。

 

「とまあ、話はこれぐらいだ。次は君たちに合わせたい奴がいる」

 

 パチンと指を鳴らす。すると三人にただならぬ縁のある人物が現れた。

 

「ま……まさか君は生き残りの!?」

「……久しぶりです姉さま」

「………お久しぶりですねお父様」

 思いも寄らぬ人物との再会に二人は戸惑い、小猫は「ああ、やっぱりか」といった顔で姉と向かい合う

 

「では当人たちでゆっくり話し合ってくれ。防音効果のある個室を用意している」


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