第67話
酒盛りから一転、屋敷の宴会場は戦場と化してしまった。
イッセーの相手は同じ魔術師タイプのゲオルグと魔獣を生み出すレオナルド。ヴァーリのは聖剣創造のジャンヌと魔剣のジークフリート。酒呑童子のは怪力のヘラクレスそれぞれが相手に合わせて戦闘を開始した。
「ありがたいね。まさか僕たちの得意ジャンルで戦ってくれるなんて!」
指をパチンと鳴らす。すると床からツタが生えて二人を拘束した。
「うん、まずは防御を整えようか。術者タイプが前に出すぎちゃダメだよ」
『ブーメラン刺さってるぞ相棒。お前も前に出すぎるタイプだろ』
「うっさい」
ドライグとのやり取りの間に二人は植物の拘束から脱出した。ゲオルグの絶霧により予め創られた魔獣が食いちぎったのだ。蔦を食いちぎったモンスターたちはイッセーに襲いかかる。
しかしそれを予測していたイッセーは次の手に移った。植物攻撃は足止めに過ぎない、本命はこの攻撃だ。
「いでよ6足2羽の眷属、田畑を食い荒らす悪食なる虫ども。
汝が王たる我が呼びかけに応じ此処に集え。深淵の窓は今開いた!」
『Transfer!』
前方に黒い魔法陣を展開。その中から尾の先に蜂や蠍に似た毒針持つ大量の肉食バッタが創造された魔獣共をその毒針で絶命させ、食い散らかした。
「レオナルド!もっと早く魔獣を創ってください!」
「これが僕の限界だよ!ゲオルグももっと絶霧であの虫をどっかにやってよ!」
「無理です。僕もこれが限界です!」
この部屋全土を覆い尽くさんばかりの大量のバッタ大群。その数に二人共手間取った。
数だけではない。このバッタたちは異世界の魔神であるアバドンの権能によって召喚された悪魔だ。しかも赤龍帝の籠手によって質も量も文字通り倍化されている。
まさしく龍神と魔神のハイブリット。全てのバッタの羽に赤龍帝とアバドンの紋章が刻まれているのがその証拠だ。
だがそれでも神滅具二つによる障壁は突破することは難しい。よってイッセーは次の手を打った。
「おまけだ!受け取れバッタ共!」
『
籠手を天に掲げて真紅に輝かせる。瞬間バッタ達の羽が2枚から6枚に、大きさは少し大きめのバッタからタランチュラ並に、装甲はリオック並からヘラクレスオオカブト並に、毒針はより鋭くなって巨大な注射針のように変化した。
これこそイッセーの数多い技の一つ、
赤龍帝の贈り物はただ力を注ぎ込むだけだが、この技は力を注ぐことで段落上の存在に引き上げることが出来る。例えば安い服にすれば高級の服に、ただのナイフにすればグルガナイフに、雀にすれば鷹に変えることが出来る。
……まあ、色々な制約はあるのだが。
強化された化物バッタ共は魔獣と結界の防壁をその圧倒的な機動力と殺傷力で突破。その牙ならぬ大顎、爪ならぬ毒針をゲオルグ達に向けた。
しかしゲオルグは絶霧による瞬間移動で緊急離脱。レオナルドを残して逃げた。
「フフッ。策士とは最後まで切り札を取っておくものなんだよ」
「君ひどいね。こんな幼い子を残して自分だけ逃げようとするなんて」
「……ッな!?」
「瞬間移動や生物創造が君だけの特権だとは思わないことだね!」
イッセーの服を突き抜けて海月のような触手がゲオルグに襲いかかり、拘束して刺胞を突き刺した。
「おい飼育員!キモいバッタこっちに向けるな!俺たちも食われそうになっただろ!!」
「ほんま気色悪い虫やなぁ。これ鼠より大きいやん。しかも肉を
「どこがだよ!めっちゃカッコいいじゃんこの生物でありながらメカメカしいデザイン!」
「「こっち向けるな!(向けんといて!)」」
……味方たちにはどうやら強化バッタは不評らしい。というか、巨大な虫自体が苦手らしい。
まあ、普通ならばこんな巨大で凶悪な虫がいたら昆虫学者でも恐怖に震えるであろう。それ以前にこんな虫がいたら外出歩けない。
「よそ見をしている余裕があるのか!」
「私たちをなめないで!」
ジークフリートとジャンヌの剣戟を泉の精霊から賜った聖剣、ガラディンとアロンダイトで受け止めた。
「おのれ!何故お前がアロンダイトとガラディンを持っている!?」
「貰ったのさ、キサマらみたいに先祖の七光りではなく、精霊に認められてな」
龍の力を注ぎ込んで出力を、魔力を筋肉に集中させて攻撃力を上げて二人を弾き飛ばした。
聖剣は何も聖なる力でしか動かないというわけではない。人間が本来持つ力、いわゆる霊力や妖怪でも神に近い存在の妖気ならば代用可能である。
そしてアーサー伝説の聖剣は龍、特に
もっとも。ヴァーリの腕ならばそんな小細工なしでも二人を倒せるが。
「どいつもこいつもご立派な剣を力任せにブンブ振るだけか。……つまらない」
「お前!? 剣士である僕の技を侮辱する気か!?」
「侮辱してるのは技じゃない、お前だ。というか技なんてないだろ。……ないものをいったいどうやれば侮辱できる?」
「き……貴様!!?」
二人は意地になって剣を振るう。しかしいくら聖剣や魔剣とはいえそんな雑な攻撃が効くはずもなく、二人はまたヴァーリによって弾かれた。
「白・縛龍波!」
「フン!そんな攻撃効くか!」
双剣を振るって東洋の白い竜を象った二つの斬撃波を放つ。
二人はそれぞれの得物で咄嗟に受け止めるが……。
『
「な……なんだ!?」
「きゅ、急に……力が!?」
突然二人の力が急激に抜けていった。そのせいで受け止め損なってダメージを受ける。
それだけでは止まらない。斬撃波は得物を噛んで封じ、て二人に巻き付く。そしてヴァーリの指パッチンと共に鎖となって二人を拘束した。
故にこれは時間稼ぎ。すぐに次の手に移る。
『
力を半減すると同時に拘束へ送り込む。聖剣ジャンヌの力が魔剣ジークフリートに。その逆も然り。そうして敵の力を少しずつ弱体化さえながら、逆に拘束を強化した。
「これで王手だ」
「「……」」
二人に魔力を注ぎ込んで眠らせる。
「技はポケモンみたいに技マシンで覚えてハイおしまいではない。何度も使って錬度を上げ、ほかの技と組み合わせ、応用して別の技へと昇華させる。それが技の極意だ。貴様らのような能力任せ道具任せではないんだ」
今度は酒呑童子に目を向ける。既に彼女も敵を倒し終えたようで、瓢箪からお椀に酒を注いで飲んでいた。
「ん?喧嘩はもう終いか?」
酒呑童子は倒した巨漢、ヘラクレスを放り投げながら呟く。
そう、喧嘩は終わった。……これが普通の喧嘩ならば。
「があッ!?」
「ぐッ…!?」
突如イッセーとヴァーリに体の中を蝕まられるような痛みが襲った。