禍の団の二天龍たち   作:大枝豆もやし

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第69話

 戦闘を終えた二人は曹操たちを捕らえ、牢獄へと送った。だが、看守は誰もいない。囚人である元英雄たちの前にはヴァーリが堂々と佇み、傍にイッセーが控えていた。

 

「さて、貴様らは俺たちに敗れて捕虜となったが……何か言うことはないか?」

「「「……」」」

 

 何も言わない。ここで何を言っても負け犬の遠吠え以外何物でもないから。彼らにしては賢明な判断だ。

 

「お前! 自分がなにしたのかわかってるのか!?」

 

 しかし、その賢明な判断(?)も感情の波によってあっさり押し流されてしまった。

 

「何をした? 同盟相手を狙う逆賊共を捕らえただけだが?」

「ふざけるな! 俺たちは英雄だ!人類を守る一族だ!俺たちに逆らったお前たちこそが逆賊だ!!」

 

 それを聞いて妖精派幹部の二人は頭を押さえた。

 

「あいつらは妖怪だ!いつかは人間の敵になるかもしれないんだぞ!その脅威を取り除くのが俺たちの使命だ!」

「脅威にならない可能性だってあるのだろ?ならば無用な犠牲ではないのか?」

「黙れ!そんな甘いことをほざいているような奴が何を実現できる!?」

 

 そうだ、英雄とは人を守る存在。そのためならばどんな手段だって許される。

 必要な物資を手に入れるために略奪もした。自分たちに敵対するものはどんな事情があろうとも倒してきた。

 普通ならば悪。だが自分たちは英雄だから許されるのだ。他の者がやれば悪でも、自分たちは特別なのだ。

 

 今までだってそうしてきたのだ。そしてこれからも……。

 

「英雄というものは夢や希望をもたらす存在だろ。自分たちがそれを信じずにどうする?」

「!!?」

 

 その言葉に一瞬曹操はたじろぐ、しかし彼は足を引くことなくヴァーリに反論した。

 

「それは綺麗事だ!そんなものを語るなどただのガキ!英雄とは程遠い存在だ!!」

 

 

 

 

 

 

「バカが。夢や綺麗事とは語るものではない。己の力で貫き通すものだ」

 

 

 

 

 

 

 現実的に生きるのならば、英雄なんて非社会的な存在になる必要などない。冒険なんて馬鹿な博打をするなど愚行のはずだ。

 

 

 

 しかし、それでも英雄とは冒険をする。

 

 

 

 たとえ凡人に笑われようとも、時の権力者の弾圧に遭おうとも、彼らは己の夢を語り、それを実現しようとする。

 

 ああ、なんて馬鹿な連中なんだ。叶うかどうかもわからない、むしろ叶う可能性のない夢を背負うなどマゾヒストではないか。

 夢折れた者の末路は悲惨だ。特に英雄たちの場合、命を賭けることだってある。もし仮に生き残ったとしても、真っ当な人生を謳歌出来ないかもしれない。

 

 しかし英雄とはそういうものなのだ。

 自身の信じた夢や理想や綺麗事を、自身の全てを賭けて貫き通す。そんな愚行を「偉功」に昇華させた愚者が英雄と呼ばれるのだ。

 

「己の夢や綺麗事を信じないなど英雄どろか愚者ですら成りきってない。リスクに怯えて震える臆病者だ! そんな腰抜けが英雄を名乗るなど片腹痛い!」

 

「ああ、怖いだろうな。己の人生を賭けるなど愚者の行為だ。損得計算の出来る凡人ならばまずやろうともしない。客観的に見れば、おそらく釣り合ってないリターンなのだからな」

 

「だが、それでも貫き通す者が英雄のチケットを手に入れる資格を持つ! 賢さを理由に動かない者も、恐怖を理由に震える凡人など無視しろ!」

 

「夢や理想も実現させれば現実となる! 綺麗事も貫き通せば信念となる! 過去の英雄はそうしてきたのだ! キサマらのような英雄ごっこをするガキが汚していい伝統ではない!」

 

 

 力強く語られるヴァーリの言葉。その迫力に、その覇気に。曹操だけでなく後ろにいるヘラクレスやジャンヌまでもが圧倒された。

 いいや、彼らはまだマシだ。後ろに待機している英雄派の組員たちなど既に膝をついている。ヴァーリの言葉に屈服してしまったのだ。

 

「な……ならば貴様は夢を叶えられるというのか!? その綺麗事を貫き通し、理想を実現出来ると保証できるのか!!?」

「当然だ。俺は史上最大のルシファーであり史上最強の白龍皇だ。どこに失敗する要素がある?」

「……!!」

 

 まるで当たり前のことを答えるかのように、ヴァーリは「何当然のこと言ってるんだコイツ?」とでも言いたげな顔で答えた。

 

「俺の夢は初代ルシファーが成し得なかった三大勢力全ての統一し、全ての魔を司る王となること。そして白龍神皇ルシファーとなりグレートレッドと並ぶことだ」

「「「・・・」」」

 

 開いた口が塞がらなかった。

 なんと傲慢な答えだろうか。ここまで自信満々に答えられたらいっそ清々しい。

 まさしく傲慢の悪魔ルシファーに相応しい態度。

 彼こそが大魔王ルシファーであると言われたら納得してしまいそうだ。

 

「‥……クソ!!」

 

 ついに曹操も膝をついてしまった。

 ここまで来てしまえば認めざるを得ない。目の前の強者は明らかに愚者だ。

 ……己の夢を、理想を、そして綺麗事を。全てを実現させることの出来る勇者だ。

 

「「「………」」」

 

 彼に釣られて幹部たちも膝をつく。

 も彼ら彼女らも限界だった。ほんの少しの機会で屈服しそうなほど追い込まれていた。

 そして、最後の支えだった自分たちのリーダーさえも膝をついてしまった。

 

 ……認めざるを得ない。この者こそ英雄であると。

 

「さて、一つ目の要件は終わった。次の議題に移るか」

「……まだあるのか」

 

 自分たちはもう負けた。知恵でも武力でも精神でも。だからこれ以上いじめないでくれ。そんな目で曹操たちはヴァーリを睨んだ。

 

「決まっているだろ。お前たちの勧誘だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たち、俺の下につく気はないか?」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢に向かって走るのが怖いと言うのならば、俺が光となろう。俺が貴様らを照らす星となる」

 

「初代では見られなかった新世界の夜明けを俺が見せてやる。初代が届かなかった王位を俺が簒奪してやる。

 三大勢力まとめて全て俺が支配してやろうではないか」

 

「そのためにはお前たちの力が必要だ。かつての英雄を引き継ぐお前たちと共に暁の光を手に入れたいんだ」

 

「俺と共に新世界を照らす新星となるか、それとも星屑のように華々しく散るか。好きな方を選べ」

 

 曹操たちに手を伸ばすヴァーリ。彼らはその手を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなこともあったな」

 

 懐かしそうにつぶやく曹操。しかし同時に少し恥ずかしそうでもあった。

 

「けど君たちのおかげで大分仕事は進んだよ」

 

 曹操達英雄が来てから妖精派の活動はより勢いを増した。

 特に進んだのが他陣営との交渉だ。ギリシャ神話勢のヘラクレス、北欧神話勢のジークフリート、そして三国志の曹操など。神話やその国の英雄を継ぐ彼らがいたおかげで主に神話勢力と同盟を結ぶことが出来た。

 道を誤らなければ彼はちゃんとした英雄(ヒーロー)になれるのだ。ちゃんとしていれば、何もしてない妖怪を襲い、杜撰な作戦ばかり立てたり、主人公が何もしてないのに自滅するようなかませになどならない。マンセー要員に成り下がったりなどしないのだ。

 

「今日は確かギリシャ神話との面談だな」

「ああ、経過報告だけだが大事な仕事だ」

 

 ただ顔を合わせるだけだと侮るなかれ。少しの失態を犯すだけで同盟関係に響き、最悪崩れる可能性だってあるのだ。故に決して相手を舐めた真似や慣れ慣れしい態度を取るわけにはいかない。少なくとも、某トップたちのように身内贔屓するような真似やコスプレをするような真似は以ての外である。

 

「ヴァーリ、君が代表だ」

「当然の判断だな」

「大丈夫か?ソイツ傲慢だから神の逆鱗に触れないか?」

「ああ、たしかに傲慢だが舐められないためにはコイツの傲慢さが必要だ」

 

 外交には舐められないようにすることも必要だ。むしろ先ほど述べた注意点は舐められないようするという面もある。

 

「では行ってくる」

 

 パサリと、ギリシャ神話勢から賜った金羊の毛皮を羽織り、北欧神話勢から賜った指輪を付ける。インド神話勢から頂いた牛に乗り、腰に日本神話勢からもらった剣を携えて会合の場へと向かった。


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