彼女たちは仮初の魔王でしかたなかった。
大戦で活躍し、英雄視された数人の悪魔。彼らは絶大な支持を受けて魔王となった。
しかし、それは表向き。実態はただの神輿だ。
中身のない、ただ担がれるだけの存在。
ヨイショする下々は神輿を内心見下し、むしろ担いでいるソレを便利な道具扱いしている。
奴ら……上級悪魔共の欲望を叶えるだけの都合がいい神輿だ。
必要以上に守られる純血主義、転生悪魔制度という奴隷制度、旧魔王と裏でつながる裏切り者、悪魔至上主義の大王派共。
嫌気がさした。
魔王だの女悪魔最強だと言われているが、そんなものには何の意味もない。
本当は魔王なんてなりたくなかった。
誰がこんな窮屈で面倒臭い仕事なんてしたがる。
けど、家族を守るためにはそんなことは言ってられなかった。
その結果がこれだ。
一体いつまでこんな人生をおくればいい?
まるで牢獄に閉じ込められた囚人のような毎日。
魔法少女なんて道化を演じて自分を誤魔化し、今日も魔王のフリをする……。
『なあ、一緒にやり直さないか?』
そんな時、彼―――先代ルシファーがセラフォルーにコンタクトを取った。
『俺は今まで逃げてきた。魔王として背負うべき責任や罪から逃げだして、他の奴らに押し付け、魔王としても大人としても落第点の屑野郎だ。……けどな、そんな俺に子供が出来たんだ』
『ガキに俺の代の責任を押し付けたくないんだ!! あいつの才能と時間を俺達の放り投げたクソくだらない責任と問題でダメになってほしくない!! 俺の子に生まれたからには、幸せになってほしいんだ!!』
『今更遅いってのは分かってる。俺が逃げ出した事実はなくならないし、それで俺が犠牲にしてきたものが戻ってくるわけじゃない。……けどな、このまま何もしないままって、それでガキたちに誇れるのかよ?』
『もし俺と同じ思いなら一緒に……もう一回ちゃんと魔王として、大人として子供たちに誇れるような自分になってみないか?』
その時の彼、セラフォルーには輝いていた。
だから彼女は聞いた、なんで急にそんな風になれたのかと。
『お前もガキを持ったら分かるさ』
その時の彼は何処か影のある顔をしていた。
彼は本当に心を入れ替えて必死に働いた。
かつてのコネと財産を駆使して政治基盤を築き上げ、離反した元ソロモン72柱の残党を集め、自身の魔力と武力を以てして悪魔たちを率いた。
彼は部下や民を大事にしていた。特に家族を持つものにはまるで自分の事であるかのように受け止めていた。
そんな彼だからこそ悪魔達はついてきた。それはセラフォルーもよく理解している。
なにせ、かくいう彼女もそうだったから。
彼が死んだ後も士気は衰えるどころか、息子が引き継ぐことでより躍起になった。
『俺は父さんの夢と罪を背負う! 俺が魔王になって……天国にいるお父さんを安心させるんだ!!』
彼は父親にそっくりな人間だった。
銀髪にぎらついた眼、膨大かつ変幻自在な魔力。
自分の夢を雄弁に語る姿勢、敵の前で悠然と構える姿、そして部下を家族のように扱う有様は父親譲りだった。
最初は誰もが止めようとしたが、逆に魅了されてしまった。
これは遺産だ。
死んだ彼が自分たちを導くために用意してくれたんだ。
特に、先代のルシファーを慕っていたセラフォルーはヴァーリをこれでもかという程に援助した。
時には溺愛するソーナ以上に愛を注ぎ、時には敢えて厳しい戦場に送り込むなどのスパルタも行った。
『出来る! この子なら………あの人の子なら絶対に出来る!』
結果、最強の英雄と同時に最高の魔王が生まれた。
この子なら出来る。この子ならばこの腐った三大勢力を潰し、新しい時代を作れる!
今こそ偽りの時代を壊す時! ここからは英雄が魔王となる瞬間だ!!
「そういうことで私はこの子を育てたの♪……ありゃ?」
だがサーゼクスはこれで何を勘違いしたのだろうか、確信してしまったようだ。
「ありえない! それこそありえない! 故にコレは夢だ! 君の幻術なんだね!? そうさ、私の自慢の眷属達が殺され、妻が寝返って、しかも親友が最初から敵だなんて!?」
「……ああそう」
ヴァーリは魔力によって強化した腕力でサーゼクスの首を絞める。
「ガぁ! アア……ッ!!?」
「これからお前を依り代に異世界の悪魔を召喚する。幸せだろ? 今からお前はちゃんとした魔王になれるんだからな」
「ば、馬鹿な……そ、そんなことが………!?」
「親父が遺してくれた遺産の一つだ。ありがたいだろ?」
「ふざ……けるなッ!」
眼だけで反抗の意を伝えるサーゼクス。それを見てヴァーリはため息をついた。
「まさか、自分は魔王なんてやりたくなかったて言うつもりか? なら最初からならなければいい家族を連れて逃げればいい。人間界に逃げるなり、他の神話勢力に亡命するなり、他のやり方はいくらでもあったはずだ
けど、お前はやらなかった。他の道を探し、自分の力で解決する努力を怠ったんだ。その癖にやりたくなかった、貧乏くじを引かされたなんて言う資格ねえぞ」
「中途半端で無責任なんだよ。自身の責任や課題から逃げて、趣味娯楽に逃げて、周囲に押し付けて自分は知らん顔。その皺寄せが着ても自分は被害者面して有耶無耶にし、なかったことにする……ふざけるなよ」
「なあ、親父は……父さんは責任を取るために戦って死んだのに、なんで同じ立場のお前は妹と遊び惚けてるのに魔王なんか出来るんだ? 俺たちの代に押し付けないよう頑張った父さんがやられて、なんでお前みたいなのが生きてるんだ?
ふざけんな……ふざけんな!! お前が死ぬべきだったんだ!!」
サーゼクスの首をつかむ逆の手で胸倉を掴み、怒鳴る。
「ぼ、僕以外の奴も……いる……なんで……僕だけ………!?」
「俺は他所の話なんてしてねえ! お前の話をしてるんだ!!」
ヴァーリは激高した様子を見せるも、自身の行動に気づいた瞬間、すぐに冷静さを取り戻した。
「……もういい。論点を変え、別の対象をやり玉に挙げて話を逸らして有耶無耶にする。……お前らがよくする手口だ。そんなことをする時点でお前らにやる気がないのは分かってる。……もういい」
サーゼクスに魔法陣の描かれた掌を向ける。
眷属や同僚の死体と共に少しずつ霞のように消えていく。
サーゼクスは絶望で吠えた。
「こんな……こんなことって…………!!?」
そんなサーゼクスを無様だと鼻で笑って、グレイフィアは吐き捨てた。
「早く消えなさい、偽善者さん」
「…………ッ!?」
サーゼクスは最後に真の絶望を味わった後、生贄となって消えた。
冥界の改革が始まって数ヵ月。三大勢力は劇的な変化を遂げた。
まずは冥界。サーゼクス含む四大魔王たちは今までの不祥事を暴露した後、責任を取る形で辞任。新魔王としてルシファーことヴァーリが就いた。
そこからは粛清の嵐である。
貴族や元老たちの不正を次々と暴き出して処刑、或いは罪を償う形で馬車馬よりも働くよう言い渡された。
最も、貴族の何割かは既に入れ替わっていることは、冥界のごく一部の者しか知らない話である。
既に民衆の多くは新たな魔王を歓迎し、心ある官僚や貴族も少々の怯えはあるものの賛同している。
各領地を収める領主達には、既に武力による鎮圧しか残されていなかった。
しかし、相手は最強の白龍皇であると同時に最高の魔王である。
全ての戦術は見透かされるか正面から突破され、ただそこにいるだけで転生悪魔や平民悪魔達はヴァーリに屈服し、離反する。
逃げようにも周囲は民衆と離反した兵、そしてヴァーリに忠誠を誓う他種族の人外に囲まれている。
新しい魔王に忠誠を誓って罪を償うか、魔王直々に処刑されるしか悪徳領主共には選択肢がない。
もっとも、どちらを選んでも死に変わりないが。
また、魔王ヴァーリの統治する冥界では、国民は種族を問われない。
悪魔だろうが混血だろうが人間だろうが、人外の世界を知り冥界へ行けるものなら誰でも冥界の住民になれるのだ。
無論、審査などは必要だが、それでもかなり開放的なことに変わりない。
そのおかげか、神の不在を知って離反した元天使や、堕天使勢力に所属していた者たちも冥界へと流れることが多々あった。
冥界が再統一され、国家としての体裁を持つまで、あっという間だった。
次に天界。元から神の不在を知った彼らの士気は著しく低下し、ヴァーリ率いる新世代の悪魔軍と、赤龍帝率いる赤軍によって瞬く間に占拠された。
更に驚くべきことに、白龍皇と赤龍帝が同時に協力することで神のシステムを完全に復旧させたのだ。
結果、神の祝福や奇跡は十全に機能するようになり、神器(セイクリッド・ギア)もランダムに振り分けられることがなくなった。
そしてセラフたちは他の神話勢力に対して謝罪や賠償を開始。正式に同盟を結んで独立した勢力と認めさせた。
そこからは冥界と同じく粛清の嵐である。
神の不在をいいことに、好き勝手していた教会の上層部を粛清。
中にはやむを得ない事情でやった者もいたが、そういった者は追放で許されたが、過半数は何かしらの裁きを受ける形となった。
既に天使の多くはシステムを復活させた二天龍を受け入れ、階位の高い天使たちも少々の怯えはあるものの賛同している。
あと、粛清を恐れて教会勢力を離脱した教会上層部もいたが、ヴァーリを恐れている堕天使勢力たちが受け入れることはないので狩られるのは時間の問題である。
最後に堕天使勢力。
神の子を見張る者(グリゴリ)は政策鎖国を開始した。
神器狩りを廃止し、すぐさま人間界に活動する堕天使たちを召集。神器狩り等について各陣営に謝罪と賠償の問題を進ませながら、自身の国に引きこもることにした。
食料問題は従来の科学力で補える。領土も十分であり、内需主導型経済として成立している。
しかしヴァーリの方に流れていく堕天使たちも多いため、以前とは比べられないほど落ち込んでいた。
今は小国としてひっそりと暮らしている。、
こうして三大勢力は二天龍、とくにヴァーリを中心にして変えられた。
三大勢力の中にはヴァーリに逆らい、離反して小国を築いている者もいるが、それが崩れるのも時間の問題である。
「ふ~……」
イッセーは駒王町、駒王学園の旧校舎でコーヒーを飲んで一服ついていた。
やっとだ、やっと夢が叶った
偽りに塗れた古き時代は終わり、新しき時代に突入しようとしている。
物語はここから始まったと言っていい。今は一段落終わったが、本番はここから。
今度は自分たちの手で新しい時代を思い描くのである。
「……こうしてこの学校を見られるのもあと少しか」
『そうだな、あと少しでお前はあの赤乳牛と一緒に冥界へ出荷されるんだな』
屋上から街を見下ろしながら、イッセーはドライグと話す。
もう少しでリアスとソーナは冥界の学園に戻ることになった。
政権が変わった今、彼女たちは日本で贅沢出来るような状況ではなくなってしまった。
なので本来の形に戻ったわけである。
「まさか僕も一緒に行くことになったんだろう?」
『それはお前が余計な真似したからだ』
結局、イッセーは赤龍帝だとバレてしまった。
もちろん最初は色々と揉めた。私を騙してたのかとか、裏切ったのかとか、色々言われた。
しかし、ある事件でその態度はころっと変わってしまった。
サーゼクスが倒れた今、彼に関与する悪魔達の権限は著しく低下した。その結果、今まで抑えられていたサーゼクスに恨みのあるものたちが暴走したのである。
よくある話だ。政権交代することで力を失った元権力者の家族や関係者が恨みを持つものによって攻撃されるのは。
しかし、それは暴走行為であって、決して現政権の望むものではない。むしろ治安を乱すただの八つ当たり行為だ。
そういった行為をイッセーは見逃せるわけがなく、彼はその暴徒を説得、時には鎮圧することで解決した。
そうやって彼は再びリアスとソーナの信頼を取り戻したのだ。
「まさかあの程度で絆されてくれるなんてね……」
『そりゃそうだろ。お前は眷属達だけじゃなくて主たちにもちゃんと行き届いてたということだ』
「は?何言ってるの? 僕は洗脳なんて高度な話術は使えないよ」
『……え~?』
何言ってんだコイツといった様子で困惑するドライグ。
イッセーの言う通り、彼にはそんな高度な話術なんて使えない。ただ対象があまりにも何かに依存しやすかっただけだ。普通ならここまでうまくいかない。
「ちょっと身を張っただけでコロッと信用しちゃうんだから。……どれだけ彼女たちが僕に依存してきたのかわかる。これもこれからの課題の一つだな
『そうだな』
それが終わっても課題はまだまだ山積みである。
ソーナとリアスの教育係が終われば、次は研究者として就任しつつ、赤軍のトップとして色々と動かなくてはならない。
暴徒の鎮圧、悪魔と天使の内部調査、人間界に滞在する領主悪魔や教会たちの監査……やることはマジでいっぱいあるのだ。
いくら政権が変わったといったところで、ソレで三大勢力の信用が一気に回復することはない。
次何かやらかしてしまえば、今度は自分たちが責められるのだ。
サーゼクスの二の舞にならないよう、気を引き締める必要がある。
それに、三大勢力のやってきたことに対する謝罪や賠償、被害の填補も終わってない。
本当に、やることはこれからなのである。
「ん?」
そんな時、イッセーは懐から端を取り出し、内容をサッと見る。
『どうした相棒?』
「反政府の不穏な動きを見つけたらしい。今すぐ調査しろって」
ゴミ箱めがけて空になった缶を投げ捨て、踵を翻す。
「やっとここまで来たんだ。必ず僕の……俺たちの夢を叶えて見せる!」
彼ら二天龍の夢はまだ叶っちゃいない。
ここからが始まりなのだ。
赤い龍は願う、二度と三大勢力が他種族や他の陣営を侵すことがない国になるように。
白い龍は願う、二度と三大勢力が同じ過ちを繰り返さない強く豊かな国になるように。
彼らの夢がどうなるのは―――また別の物語である。
《おしまい》
まずは、二年近く更新を放置して申し訳ありませんでした。
この拙作はマイナスな感情をモチベーションにするため、なかなか長く書くことが出来ませんでした。
そんなものは甘えであることは重々承知しております。
アンチ系の作品を取り扱う他の作者様方がいかにすごいか、思い知らされました。
本当に申し訳ありませんでした。
私は前までは普通にハイスクールD×Dが好きでした。
イッセーもリアスも好きなキャラでしたし、本気で亜原作が「友情熱血勝利」のおっぱいアニメだと思ってました。
しかし、年を取ってもう一度見ると、全然違うように感じてしまったんです。
その時、私は『嘘をつかれた』と思いました。
これのどこが熱血だ、ただ感情に任せて暴れてるだけで、ヒステリックみたいなものじゃないおか。
これのどこが努力だ、ただぎゃぎゃ騒いでポーズ取ってるだけで、中身なんてないじゃないかじゃないか。
これのどこが友情愛情だ、男はイッセーを持ち上げるだけの信徒で、女はただイッセーに盲目的に従ってる奴隷じゃないか。
そう思った瞬間から私はハイスクールD×Dのファンをやめ、アンチになってしまいました。
なんていうか……好きだという感情が一気に嫌悪感に変わった瞬間です。
その感情をぶつけるのがこのssを書くことになった理由の一つです。
それと共感してほしかった。或いは納得できるような理由を誰かに教えてほしかった。
むしろ、これが一番の理由ですね。
とまあこんなノリで書いたのが始まりです。
これで編完結です。ラストは駆け足どころか打ち切りレベルのスーパーダッシュでしたが、ご了承ください。
本当にお世話になりました。
この作品を読んでくれた皆様に多大な感謝を。
私の書いたssでDDのアンチについて知れたことはあったでしょうか?
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うん、アンチ理由について知ることが出来た
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いいや、全然違うことばっかりだった
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改めてアンチ理由を復習できた
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おい、まだ描き切ってないぞ
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元から全部知ってた