ころめぐといっしょ   作:朝霞リョウマ

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新年あけましておめでとうございます!

今回も含めてあと四話となってしまいましたが、今年もよろしくお願いします。


所恵美と新年を迎える1月

 

 

 

「「あけましておめでとうございます」」

 

 

 

 新たな年を迎えると同時に目の前のメグと言葉を揃える。

 

「今年もよろしくね、メグ」

 

「うん! よろしく、アカリ!」

 

 ニット帽にマフラー、手袋にダッフルコートという寒さ対策をバッチリで大変暖かそうな格好のメグがニッコリと笑う。

 

「……あけましておめでとう。二人とも、仲が良いのは十分に分かってるから……あんまり目立つようなことはしないでね?」

 

 メグのすぐ後ろで琴葉さんがコホンと咳払いをした。

 

「えー? ただ普通に新年の挨拶してだだけじゃーん」

 

「お願いだから、自分たちがどれだけ周りから目を惹いているかを自覚して……」

 

「そうだよメグ。メグは凄く可愛いんだから」

 

「そーいうアカリも、自覚してないネ」

 

「え?」

 

 琴葉さんの横に並ぶエレナさんからそんなことを言われてしまったが、生憎心当たりはない。

 

「そうだよ、アカリは凄くカッコいいんだから」

 

「……ありがとう。メグにそう言ってもらえるのが、一番嬉しいよ」

 

「……あ、アタシも……アカリに『可愛い』って言ってもらえるのが、すっごく嬉しい」

 

 その耳の赤さは、照れか寒さか。

 

 悪戯心も加わって、手袋のはめた自分の右手で彼女の左耳に触れると、そこにはーっと息をかけた。

 

「きゃっ……もう、アカリってば」

 

「くすぐったかった?」

 

「………………」

 

 さらに赤くなって俯くメグ。ポソポソと何かを言っていたので口元に耳を寄せると、彼女はとても小さな声で「……き、気持ち良かった」と囁くように呟いた。

 

「……ふふっ」

 

「っ! も、もう! なんで笑うのさー!」

 

 思わず笑ってしまったが、それがお気に召さなかったらしいメグがポカポカとオレの胸を殴る。そんなメグが愛おしくて、そっと彼女の背中に腕を回して――。

 

 

 

「だ、だからいい加減にしなさい!」

 

 

 

 

 

 

 日付が変わり、今日は元旦。俺は恋人のメグ、彼女のユニットメンバーである今では共通の友人と言っても過言ではない琴葉さん・エレナさんと共にとある神社に初詣へとやって来た。

 

「全く……」

 

「ゴメンってばー」

 

「恵美もそうだけど、アカリ君も! 君がちゃんとしないとダメじゃない!」

 

「ごめんなさい」

 

 プンプンと怒る琴葉さんに謝罪する。確かに先ほどから、俺たちと同じように初詣に来た参拝客たちに結構見られていた。アイドルである彼女たちに視線が集まるような行為は自重するべきだったと猛省する。

 

 さて、勿論深夜に未成年だけで歩いていると補導の対象になる。そこで保護者として劇場の事務員である青羽(あおば)美咲(みさき)さんにも付いてきてもらっているのだが……。

 

「見つかった?」

 

「全然」

 

 メグの問いかけに首を振るエレナさん。

 

「まさか、到着してそうそう人ごみに流されていくとは思わなかったよ……」

 

「美咲さん、小柄だものね……」

 

 はぁ……と琴葉さんと一緒に思わずため息を吐いてしまった。

 

 それはもうあっという間の出来事だった。境内に足を踏み入れた途端に「た、助けてくださーい!?」という声が聞こえたかと思うと、忽然と青羽さんの姿が消えていたのだ。彼女の身長的に考えても性格的に考えても、人々を押しのけて進むということが出来なかったがゆえに起きてしまった悲劇だろう。

 

 本当はこういうことになってしまった場合を考えて、あらかじめ集合場所を打ち合わせしておくつもりだったのだが、それをする前にはぐれてしまったので無意味だった。

 

 というわけで、少し人ごみから離れたところで作戦会議。

 

「携帯に連絡しても出ないね」

 

「まぁ鳴ってることにも気付けないだろうし」

 

 きっと、そもそも携帯を取り出すことすら不可能な状況なのだろう。だとすると、青羽さんがいずれ携帯を取り出せるような状況になりさえすれば連絡を取って合流することは容易なはずだ。

 

 問題があるとすれば、現在進行形で俺たちに保護者がいない状況なので、場合によっては補導されてしまう可能性があるということか。

 

「うーん……周りにそういう人たち多いから、アタシたちもそれほど気にする必要ないと思うんだけどなぁ」

 

「そういう考えはダメよ。私たちは自分の立場をちゃんと考えないと」

 

「はーい、言ってみただけでーす」

 

 琴葉さんに注意され、反省の言葉を述べつつややふてくされ気味のメグ。

 

「とりあえず事務所の方には連絡を入れておいたよ。プロデューサーさんが『一応何かあるといけないから、成人済みの誰かをこっちに送る』とは言ってたけど」

 

「え、いつの間に……ありがとう、アカリ君。そういう連絡、本当は私たちがやらなくちゃいけないのに……」

 

「アカリがワタシたちのマネージャーみたいだネ!」

 

「ははっ、たまにプロデューサーさんにも言われるよ。『アイドルのマネージャーのバイトをやってみないか?』って」

 

 まぁ、流石に冗談だとは思うけど。いくらなんでも、学生が請け負っていい仕事じゃない。

 

(……プロデューサーさん、多分本気で言ってたんだろうなぁ……)

 

(アカリがマネージャーかぁ……仕事がこれまで以上に楽しくなりそう!)

 

(クンクン……いい匂い~!)

 

「……さて、それはそれとして……どうしようか? 自分たちの携帯に青羽さんからの連絡がこないか注意しつつ、俺たちも参拝を済ませちゃう?」

 

「うんうん! 折角来たんだから、ちゃんと初詣しないと! ね、琴葉?」

 

「……本当は、ここで美咲さんを待ってるのが最善なんでしょうけど……」

 

 俺の提案に賛同するメグが琴葉さんの肩を「ねーねー!」と揺さぶる。

 

 何故か琴葉さんは俺の全身を上から下まで見返した。

 

「まぁ……アカリ君の見た目なら、最悪大学生としても通用するかしら……」

 

「見えたとしても、学生だったらアウトじゃないかな……」

 

「うん、私とエレナはここで待ってるから、二人は参拝して来たら?」

 

「え、いいの!? ……琴葉たちは?」

 

 琴葉さんの提案に飛びついたメグだったが、二人が来ないことにへにょりと眉尻を下げた。

 

「やっぱり動かずに待ってる方が美咲さんも私たちを見付けやすいだろうし。……二人は、私たちよりも神様にお願いごと、あるんじゃないの?」

 

「琴葉……」

 

「……メグ、お言葉に甘えさせてもらおう?」

 

「……うん、分かった」

 

「ありがとう、琴葉さん」

 

「ううん、大丈夫。それじゃあ、私はここでエレナと待ってるから……あれ?」

 

 キョロキョロと周りを見回す琴葉さん。

 

 ……あれ?

 

「……エレナさんは?」

 

 気が付けば、ここには俺とメグと琴葉さんの三人しかいなかった。

 

「どうりでさっきからエレナが静かだと思ったら!?」

 

「えぇ!? エレナまで迷子!?」

 

 メグと琴葉さんが慌てている。確かにこれはあまりよろしくない状況……。

 

「みんなー! お待たせー!」

 

 と思いきや、何やら両手にビニール袋を携えたエレナさんが戻って来た。

 

「もう、エレナ! 勝手にいなくならないで! 迷子になったらどうするの!」

 

「美味しそうなソースの匂いがしたから~……ハイ! 色々買って来たヨー!」

 

 琴葉さんの怒りを意に介する様子もなく、エレナさんはビニール袋から焼きそばやたこ焼きを取り出した。どうやらすぐそこの屋台で買って来たらしい。

 

「メグミとアカリはサンパイしてくるんでしょ? ワタシとコトハで全部食べ切る前に、行ってくるといいヨー!」

 

「……ははっ。そうするよ」

 

「アタシの分のたこ焼きはちゃんと取っておいてよー!」

 

「……はぁ。ほら、早くいってらっしゃい」

 

 琴葉さんとエレナさんの好意に甘えることして、俺とメグは参拝へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「メグ、大丈夫?」

 

「う、うん」

 

 大方の予想通りではあったが、参拝までの道のりは人で溢れかえっていた。はぐれないように手を繋いで歩いているが、このままでは俺たちまではぐれてしまいそうだ。

 

「きゃっ」

 

「メグっ!?」

 

「あ、大丈夫、ちょっと痛かっただけだから……」

 

 それにメグのことも心配だった。

 

「ちょっとゴメン」

 

「わっ」

 

 少々強引にメグの近くによると、彼女の左肩に背中から左腕を回してこちらに引き寄せる。手を繋いでいても離れそうで、腕を組むにもメグの負担が大きい。ならば俺が彼女を抱き留める形をとるのが一番いいだろう。

 

「ちゃんと俺にくっ付いてて。離れないでね」

 

「……うん」

 

 ピタリと俺に頬を寄せるようにくっつくメグ。これならばよっぽどのことがない限り、彼女とはぐれることはないだろう。

 

「……にゃはは、あったかい」

 

「胸ポケットにカイロ入れておいたから。熱かったら出すから言ってね」

 

「……う、うん。……そーいう意味で言ったんじゃなかったのだけどなー」

 

「?」

 

「そ、そういえば、まだ連絡は来てない?」

 

「うん」

 

 先ほどからポケットの中のスマホにも意識を向けていたが、まだ着信はない。

 

「でももしかしたらすぐに青羽さんと琴葉さんたちが合流できるかもしれないから、俺たちも出来るだけ早く済ませちゃおうか。小銭の用意は出来てる? すぐ出ないようなら俺が代わりに出すけど」

 

「それぐらいダイジョーブ! ありがと、アカリ」

 

 しばらく人ごみに押されながら進み、ようやく賽銭箱に辿り着いた。

 

「よし、それじゃあ」

 

「せーの」

 

 二人で同時に五円玉を投げる。まずは二回頭を下げた後、二回手を叩いて瞑目する。

 

 再び一回頭を下げて目を開けると、ちょうどメグも終わったところだった。視線で「行こうか」と促すと、彼女は「うん」と俺の腕に抱き着いてきた。そのまま二人で列を離れ、琴葉さんとエレナさんが待つところまで戻る。

 

「ねぇアカリ。アカリは、何をお願いしたの?」

 

「俺は『今年も一年、メグのアイドル活動が平穏無事に続きますように』ってお願いしたよ」

 

「えぇー?」

 

 何故かメグはその俺の願いに対して不服そうな顔をしていた。

 

「何かダメだった?」

 

「いや、アタシのアイドルとしての活動を応援してくれるのは嬉しいんだけど……」

 

 ギュッと俺の腕を抱きしめ、空いた手の人差し指で俺の頬を突くメグ。

 

「そこは恋人として、アタシたちの関係のこととかさー?」

 

「……うん、確かにそうだね」

 

 でも、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。

 

 そして折角一年に一度の神頼みなのだから……俺にはどうにもできない彼女のアイドル活動のことをお願いしたかった。

 

「これからもメグはちゃんと俺が幸せにするから、心配いらないよ」

 

「………………」

 

 そうしっかりとメグに伝えると、また彼女の顔が赤くなった。

 

「そ、それってさ……ぷ、プロ――」

 

「……あ、琴葉さんから連絡だ」

 

 ポケットの中のスマホが鳴動したので確認してみると、無事に青羽さんと合流できたらしい。

 

「見つかって良かった。俺たちも補導される前に、早く合流しないとね」

 

「う、うん。そうだね」

 

「……それで、メグはどんなお願い事をしたの?」

 

「アタシは……なにもお願い事してない」

 

「え?」

 

「だって――」

 

 

 

 ――アタシのお願いは、アカリが叶えてくれるみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 1月1日

 

 新年あけましておめでとう! ……って、日記に書くのも変かな?

 

 昨日の分からの続きになるけど、日付が変わってからはアカリと一緒にちゃんと参拝しに行けた。アタシたちの代わりに青羽さんを待っていてくれた琴葉とエレナに感謝!

 

 人がぎゅうぎゅう詰めで押しつぶされそうになっちゃったけど、アカリがアタシを抱きしめるようにして守ってくれた。周りから押されているのもあって、まるでアカリが強く抱きしめてくれているようで、ちょっと嬉しかった。

 

 そしてお賽銭を投げて神様に『これからもアカリと一緒に過ごせますように』ってお願いしたんだけど……どうやらそれはアカリが叶えてくれるらしい。

 

 ……こんなことを言っちゃうと罰当たりなのかもしれないけど……アタシにとっては、それが何よりも心強いことだった。

 

 今年も一年……ううん、ずっとずーっと、よろしくね、アカリ。

 

 

 

 

 

 

「美咲さん! よかった、ご無事で……」

 

「ふえ~ん……琴葉ちゃん、エレナちゃん、会えてよかった~……」

 

「泣かないでミサキー。はい、ちーん」

 

 

 




 他作品と更新が被ってしまったためちょっと短いですが、お正月回でした。

 やっぱり甘さが足りないなぁ……まぁ次回は多分、バレンタイン回でそうとう甘くできるはずだから(予定)

 というわけで、残り三話もよろしくお願いします。

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