ころめぐといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ところで恵美の恒常SSRはまだですかね……。


所恵美と放課後デートする5月

 

 

 

「……では、以上をもって会議を終了する」

 

『お疲れ様でしたー!』

 

 会長の一言に、俺を含めた生徒会役員全員が着席したまま頭を下げた。

 

 今日の議題はゴールデンウィークの連休明けに開催される体育祭について。全てが生徒に任されるわけではないものの、我が校の生徒会は学校行事の大半に関わるので、こうして頻繁に会議が行われる。

 

 もっとも既に大半の仕事は終えているので、今日も最終確認を終えたら殆ど世間話だった。

 

「さてと……」

 

「副カイチョー!」

 

「ん?」

 

 今日は残って片付けなければいけない用事もないので帰り支度をしていると、役員の一人である女子生徒に呼び掛けられた。

 

「この後みんなでカラオケにでも行こうかって話をしてたんですけど、副カイチョーもどうですか? あ、カイチョーもよければ」

 

「俺はついでか? えぇ?」

 

「あ、あはは、そんなことないですよー?」

 

 俺よりも後に名前を呼ばれたことが癪に触ったらしい会長に睨まれ、女子生徒は視線を泳がせる。

 

「誘ってくれてありがとう。でも今日はこの後、用事があるんだ」

 

「えぇ~?」

 

 ゴメンと断ると、女子生徒は露骨に残念そうな表情を浮かべた。悪いことをしたかなと少々心が痛むが、それでもこれは譲れない。

 

「用事がないときは、喜んで参加させてもらうよ」

 

「絶対ですよ! 約束しましたからね!」

 

 何度も約束したことを強調する女子生徒に、苦笑しつつ「分かってるよ」と了承する。それで納得してくれたらしく、女子生徒は満足そうに去っていった。

 

「……いいのか?」

 

「何がですか?」

 

 俺と同じく「用事があるから」と言って断った会長がコソコソと小声でそんなことを尋ねてくるが、一体何のことを聞いているのか分からず聞き返す。

 

「いや……他の女の子とカラオケに行く約束して、彼女は怒ったりしないのか?」

 

「……別に怒りはしないと思いますよ」

 

 メグはそこまで狭量ではないはずだ。それに、メグもメグで、よくクラスメイトの男子生徒と一緒(勿論女子生徒も)にカラオケへ行くらしいので、恐らくその辺りは彼女の中のセーフラインの内側なのだろう。

 

「ふーん……そういうことで嫉妬するっていうのは、実際の男女間にはないのかねぇ」

 

「生憎、自分も今の彼女以外に経験が無いのでなんとも言えませんが」

 

 それではこれで自分も失礼します、と会長に頭を下げてから自分も生徒会室を退出する。

 

 ……さて、と。

 

 

 

 

 

 

 ――ねぇねぇアカリ! 制服デートしようよ!

 

 

 

 そんなメグの要望により、今日は学校帰りで制服を着たままメグとデートすることになった。学校を後にした俺はそのまま最寄りの駅から電車に乗り、いつもメグとの待ち合わせに利用している駅で降りる。

 

 普段のデートでは自分が先に待ち合わせ場所で待っているのだが、今日は放課後の会議に出席しなければいけないため、どうしても帰宅部のメグよりも遅くなってしまった。なので既に待っているであろうメグの姿を探す。いつも俺が待っているモニュメントの前にはいない。そこからキョロキョロと周りを見渡してみると、意外と早くその姿を見つけることが出来た。

 

 駅前広場に面したコーヒーショップのチェーン店、そのガラス張りの店内にメグはいた。店の外に向いて座るカウンターに肘を突き、ストローを咥えながらじっとスマホの画面を見ている。どうやら集中しているらしく、すぐ目の前に近付いても俺に気付かなかった。

 

 トントン

 

「――? ――!」

 

 人差し指でメグの目の前のガラスを軽く叩く。それに気付いて顔を上げたメグと視線が合うと、彼女の顔がパアッと明るくなった。パクパクと口が動いているので何かを喋っているみたいだが、生憎ガラス越しではよく聞き取れなかった。

 

 ヒラヒラと軽く手を振ってから、俺も店内に入った。先に注文をして品物を受け取ってから席に着くタイプの店なので、カウンターで適当にアイスコーヒーを注文する。

 

 コーヒーが出てくるのを待ちながら、チラリとメグに視線を向ける。彼女は身体ごとこちらを向いており、再び俺と視線が合うとニコニコと笑いながらヒラヒラと手を振って来た。そんな行動の一つ一つが可愛くて、思わず俺も笑ってしまった。

 

「彼女さんですか?」

 

 カップに氷を入れながら店員さんが尋ねてきた。「そうです」と頷くと、その男性の店員さんは「羨ましいなぁ」と笑った。

 

「可愛い子ですよね。三十分前ぐらいからあそこに座ってたんですけど、何度か男の人に声をかけられてましたよ。中には彼女に声をかけるためにわざわざ店の中に入ってきてくれる人までいたぐらいですから」

 

 「おかげできっと今日の売り上げは三割増しです」と言う店員さんに「いえ、きっと五割は固いですよ」と返すと、ご馳走様ですと再び笑われてしまった。

 

 その後アイスコーヒーを受け取り、そのままメグの下へと向かう。

 

「おっつ! 生徒会のお仕事ご苦労様!」

 

「ありがとう。待たせちゃってごめんね」

 

「んーん! 気にしてないよー」

 

 そのままメグの右側の椅子に腰を下ろすと、彼女はススッとこちらに身体を寄せてきた。えへへと小さく笑うメグは本当に可愛い。

 

「メグ、さっき店員さんに聞いたけど、男の人に声をかけられたんだって?」

 

 大丈夫だったか尋ねると、メグは曖昧な笑みを浮かべた。

 

「うん、大丈夫だったよー。……でも、なんだろうな、声をかけられること自体は前からあったんだけどさ。アカリと付き合ってから、そーいうのが今まで以上に、その……何て言えばいいのかな」

 

 多分「煩わしい」や「鬱陶しい」みたいなニュアンスの言葉を探しているのだろう。そういう言葉を使おうとしない辺り、メグの優しさを感じる。

 

 大変だったねとメグの肩にかかる髪をサラリと撫でると、彼女はそのままコテンと俺の肩に頭を乗せてきた。

 

「勿論アカリ以外の人なんて考えられないけど……それでも、こーやって断り続けるのも心苦しいっていうかさー……」

 

「メグは優しいから、そう考えちゃうんだね」

 

「あーもー。いっそのことプロデューサーの言うとおり、彼氏持ちアイドルでデビューすれば、みんなに分かってもらえるかなー?」

 

「その場合、そもそもアイドルとして分かって貰えるかどうかが問題だけどね」

 

「うーん、やっぱり難しいかな……」

 

 ハァとメグは似合わない溜息を吐いた。

 

 

 

 そういえば、メグはアイドルになることを決めた。

 

 初めてメグと共に765プロの事務所に顔を出した後日、今度はプロデューサーさんに765プロが所有する専用劇場へと俺も一緒に連れて行ってもらったのだが、そこでメグはアイドルになる決意をしたらしい。一体何が決め手になったのか。何故かメグは小さくベーと舌を出して教えてくれなかった。

 

 ともあれ、改めてプロデューサーさんからスカウトを受け、765プロに所属することになったメグ。現在765プロは新たに三十九人ものアイドルをスカウトして『39プロジェクト』という企画を進めているらしく、メグもその企画の一員として活動していくことになるらしい。

 

 ただ、まだその三十九人が揃っていないらしく、本格的な活動はしばらくお預けとのこと。企画が始動するまでは、しばらく基礎レッスンを受けることになったそうだ。

 

「……それ、もしかして『READY!!』?」

 

 先ほどまでメグが熱心に見ていたスマホがテーブルの上に置かれていたのだが、そこに映っている静止状態の動画を見てそう尋ねると、メグは「えっ!?」と目を見開いた。

 

「何で分かったの!? 止まってる状態だよ!? しかもこれ、トレーナーさんが踊ってくれたのを録画したやつだよ!?」

 

「一応、765プロが公開してるPVは全部見たからね。フリに見覚えがあっただけだよ」

 

「全部見たの!? しかも覚えたの!?」

 

 早くない!? と驚くメグ。

 

「あれ、メグはまだ見てなかったの?」

 

「全部は無理だってー……まだレッスンの一環で振付覚えるやつしか見てないよ」

 

「そうだったんだ……メグも頑張ってるだろうからって、張り切りすぎちゃったよ」

 

 少々先走りすぎるのが俺の悪い癖だった。これまでの人生の中で果たして「お前そこまでする必要ないんじゃないか?」と何度言われたことか……全く治っていない。

 

「またやっちゃったか……」

 

「もーそんなことで落ち込まないでよー! ほら、アカリもよくアタシに言ってくれるじゃん」

 

 

 

 ――そ、そーいうところも、大好きだぞっ。

 

 

 

「……な、なーんて……アハハ、結構恥ずかしいねコレ……」

 

 赤くなった顔をパタパタと手で扇ぐメグ。

 

「……ごめん。ありがとうメグ、元気出た」

 

 メグにそう言ってもらえるだけで、自分の抱えている悩みがとても些細なものに思えてくる。いや、勿論少しずつでもいいから直さなければいけないところであることには間違いないのだが、少なくともメグとデートをしている今だけ悩むのは止めておこう。

 

「ん、良かった! もー、いつもはもっと余裕綽々な完璧人間なのに、こーいうときだけ弱気になるんだから」

 

「面目ない。……それでメグ、さっきのやつ凄い可愛かったから、もう一回やってもらっていい? 顎に人差し指当ててウインクするやつ」

 

「具体的に言わないでよっ!? だから恥ずかしいって言ったじゃん!」

 

 更に顔を赤くしたメグが「もーいいから! 行くよ!」と自分が飲んでいたプラスチックカップを手にしながら席を立って俺の腕を引っ張ってきた。

 

「まだ飲んでるんだけど」

 

「外に持ち出しても大丈夫でしょ! ほら早く!」

 

 メグに腕を引かれ、コーヒーを手にしたまま俺たちは店を出ることとなった。その間際、カウンターの向こうで先ほどの店員さんがまた俺たちを見てニコニコと笑っていた。

 

 

 

 右手でコーヒーが入ったプラスチックカップを持ち、左手でメグの右手を握り、当てもなく二人並んでフラフラと駅前を歩く。

 

「それで、今日はどうするの?」

 

「んー、そろそろ夏服を見てもいいかなーって思うんだけど……そういうのはちょっと時間かかりそうだから、またお休みのときにするよ」

 

「……俺に気を遣わなくてもいいよ?」

 

 別にメグの買い物にだったらいくらでも付き合うのだが。

 

「アハハ、ざーんねん! もうそれぐらいだったらアカリは付き合ってくれるって知ってるから、遠慮してあげないよー!」

 

「それは本当に残念だ。そろそろ夏服を着たメグも見たかったんだけどな」

 

「えっ!? だ、だからお休みのときにいくらでも見せてあげるってば!」

 

「うん。だから今日は休日のデートのときには見れないメグの制服姿を堪能することにするよ」

 

 学校終わりに直接デートしているため、当然俺もメグも制服のままである。濃い緑のプリーツスカート、真っ白なブラウスの上には薄茶色のカーディガン。ブラウスのボタンは上の二つが留められておらず、えんじ色のネクタイも緩められている。

 

 一般的に言えば()()()()()着方だ。ウチの校内で見かけたら間違いなく指導していたことだろう。けれど今は放課後で校外、それに相手が他校の生徒の上、自分とデート中の恋人だ。流石にそれを咎めるわけがない。寧ろそういうことを一切抜きに考えたとき、所恵美という少女に一番似合う制服の着方だと思っている。

 

「だから……もー!」

 

 普段気慣れている制服の筈なのに、こうしてマジマジと見られると気恥ずかしいらしかった。誤魔化すように俺と繋いだ手と反対に持っていたカップからストローで中身を吸い上げていたが、既に氷だけとなっていたため、ただズズッという音がするだけだった。

 

「はい、ゴミは俺がもらうよ」

 

「……ありがと」

 

 既に飲み終わっていた俺のカップと重ねておく。後で何処かのゴミ箱に捨てておこう。

 

「それで、結局どうするんだい?」

 

「んー……逆に、アカリは何がしたい?」

 

「俺?」

 

「うんうん。ほら、アカリっていつもアタシのしたいことを優先してくれるじゃん? だから今日はアカリがしたいことしよーよ」

 

 そうだなぁ……。

 

「……メグの歌が聞きたいかな」

 

「……え、私の歌?」

 

 その俺の答えが意外だったらしく、メグは首を傾げた。

 

「別にいいんだけど……カラオケだったらこの間も行ったよ?」

 

 確かに、つい先日のデートの際もカラオケへ行った。

 

「いや……もうすぐメグはアイドルとしてデビューするわけでしょ? そうすると、当然他の人の前で歌うようになる。でも今はまだ()()()()()()()()でいて欲しいんだ」

 

 それはふと思いついてしまった、俺の子供じみた我儘のようなものだった。メグが自分でやりたいと言った以上、俺は全力でメグを応援する。でもいずれアイドルとして有名になれば、こうして時間を取ることも難しくなってしまうだろう。だから今は、今だけは、まだメグを独り占めしていたいのだ。

 

「だから、今のうちにメグの歌をもっと聞いておきたいんだ」

 

 ダメかな? と顔を覗き込みながら尋ねると、メグは耳まで顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。

 

「……慣れろアタシー……いい加減に慣れろー……アカリは天然でこういうこと言うんだから、イチイチ気にしてたら身がもたないぞー……でも慣れたくないー……すっごい嬉しいー……顔がニヤけるー……!」

 

「メグ?」

 

「……分かった。それじゃあ、今からカラオケね。トコトンアタシの歌聞かせてあげる。その代わり、ちゃんとアカリも歌ってよ?」

 

「それは勿論」

 

 どうやら俺の要望を飲んでくれたらしい。

 

 すぐにお礼を言おうと思ったのだが……それはメグによって遮られてしまった。

 

 横に並んでいたメグはタタッと俺の前に回ると、俺の胸に手を当てながら下から見上げるように俺の顔を覗き込んできた。

 

「……でも、これだけは覚えといて。例えこれからアタシがデビューして、他の人にとってもアイドルになったとしても――」

 

 

 

 ――心はいつでも、アカリだけのアイドルだから。

 

 

 

「……メグ」

 

「……あああぁぁぁやっぱり恥ずかしいって! なんでアカリはこーいうセリフ恥ずかしげも無く言えるの!? うわ顔あっつい!」

 

 笑顔で言い切ったと思ったら、途端に真っ赤になった顔を手で覆ってしまった。

 

「……今日はメグに励まされてばっかりだね。本当にありがとう」

 

 

 

 こんなに素敵な女の子が俺の恋人になってくれたばかりか、ここまで俺のことを想ってくれるなんて……本当に俺は幸せ者だ。

 

 

 

「俺もこれからはアイドルの恋人になるわけだから、もっと頑張るよ」

 

「うん……え、アカリは何を頑張るの?」

 

「そうだね……勉強が一番学生として分かりやすく結果が残せるよね。全国模試で一位とれば、アイドルの恋人としては釣り合うかな? あとは……有名大学に進学? となると来年、生徒会長の座を譲ってもらって、生徒たちの学校生活の改善に貢献したっていう実績も作っておいて……」

 

「あ、いや、そこまでしなくてもいーんじゃないかな……」

 

 やっぱりその癖はそう簡単に治らないねーと苦笑しつつ、それでもメグは自身の右腕を俺の左腕に絡めてきた。

 

 

 

 

 

 

 5月2日

 

 明日からゴールデンウィーク! 休みの間もいっぱいアカリと遊ぶ予定だが、今日はアカリと放課後に制服のままデートをした。

 

 帰宅部のアタシと違い生徒会の仕事があるアカリはすぐには来れないので、いつもと違ってアタシがアカリを待つことになった。お茶をしながら待っていたのだが、何回か男の人に声をかけられてしまった。勿論全部断ったが、こんなことなら外からよく見える位置に座るんじゃなかったと少し後悔した。

 

 しかしそんな後悔も、アカリが目の前のガラスをトントンと叩いたことで全部消し飛んでしまった。あーいう何でもない仕草の一つ一つが全部絵になるんだからズルいと思う。

 

 というか本当にアカリはズルい。アタシばっかりこんなにドキドキしてるのに、アカリはいつも余裕綽々といった感じだ。いつか絶対に、アカリにも同じ目に遭わせてやる。

 

 でもそんなアカリにもちゃんと弱点があるのが少しだけ嬉しかったりする。少しだけ先走りすぎる悪い癖だが……それを指摘した後にシュンとなるのが凄い可愛いよ~……!

 

 アカリと合流した後は、珍しくアカリの希望でカラオケに行くことになった。俺だけのアイドルでいて欲しいなんて言われて、凄く嬉し恥ずかしかったが、それだけアタシのことを想っていてくれていることが分かってキュンとしてしまった。……ホント、ズルいなぁ。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、本当に仲の良いカップルだったなぁ……」

 

「あのすみません、ブラックコーヒー一つ……」

 

「俺も……」

 

「……割と本当に、五割増しになったりして」

 

 

 




 名前隠し継続中。ただし『アカリ』という名前から連想ゲームでお姉さんが誰なのか分かる仕様になってたりする。

 ついでに主人公の弱点的なものも追加。

 それにしても、今までに書いたことのないタイプの主人公だから、今までとは違うヒロインとの絡ませ方が出来て楽しい。(ただしネタ出しの労力も二倍)

 時系列の設定としては、更新日は一日ですが、お話はその月の中の何処かのお話という設定です。(たとえば12月だったら24日のお話になったりします)こうした方がお話作りやすいしね。

 というわけで、また次回。

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