ころめぐといっしょ   作:朝霞リョウマ

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なんか長くなった(小並感)


所恵美が文化祭に遊びに来る10月

 

 

 

「本番三分前です。準備お願いします」

 

「ありがとうございます。……ほら会長、座ってください」

 

「……なぁ、やっぱりお前がやんない?」

 

「直前になって何を言い出してるんですか」

 

「ほら、俺ってばこういうの苦手だし……」

 

「普段から生徒集会で全校生徒を前にしている生徒会長が、何を今更。そもそも、昨日もやってるでしょう?」

 

「それにほら、人気の副会長様の方がみんなも喜ぶだろうし」

 

「会長」

 

「分かったよ……はぁ」

 

 ようやく観念してくれた会長は椅子に座ってマイクに向き直った。放送委員の生徒がマイクのスイッチを入れてくれたので、後ろに控える俺も口を閉じる。

 

 同じく口を閉じたままの放送委員が五本の指を順番に追っていきカウントダウンを始める。そしてゼロになると同時に手で合図が出され……会長が口を開いた。

 

『全校生徒の皆さん、おはようございます。生徒会長の――』

 

 マイクに向かって放たれた会長の声がスピーカーを通して学校の敷地内に響き渡る。

 

 簡単な挨拶を一言二言述べた後、会長は「それでは」と溜めを作った。

 

 

 

『――只今より、○○高校文化祭二日目を開始します』

 

 

 

 

 

 

 というわけで、今日は俺の高校の文化祭の二日目だった。初日は在校生たちだけの開催し、二日目の今日は一般開放日。学外からの人間を招いて行う、文字通りのお祭りだ。

 

 そんなお祭りを開催するため、文化祭の実行委員も兼ねている会長以下生徒会役員たちは夏休みの間から準備を続けていたが、それら全てが実を結ぶ日である。いや、一応昨日も開催しているので、これから花を咲かせる……という表現の方がいいかもしれない。

 

「今年も無事、開催出来て良かったですね」

 

 二年生の自分はまだ二度目の文化祭ではあるものの、去年の先輩たちのように盛大な文化祭を開催することが出来てホッとしている。

 

「ホント、今日で仕事が一つ終わると思うと気が楽だよ」

 

 放送を終えた会長に話しかけると、会長は「一仕事終わった」とばかりに椅子に座ったまま大きく伸びをした。

 

「このまま俺たちも文化祭を楽しめれば、言うことないんだが」

 

「でも、こんなところで仕事を投げ出すような会長ではないって、俺は分かってますよ」

 

「……お前その言い方はズルいなぁ……」

 

 最初からそんなつもりは毛頭なかったくせに「そこまで言われちゃしょうがない」と会長は立ち上がった。

 

 この後の会長と俺の仕事は、何か問題が発生したときのために生徒会室で待機すること。たまに交代で見回りという名の休憩に行くこともあるが、基本的に俺たちのうちのどちらかは生徒会室にいなければならない。

 

 放送室を出て、最後の準備に勤しむ生徒たちからの挨拶を返しながら生徒会室へと戻る俺と会長。その道すがら「そういえば」と会長が尋ねてくる。

 

「お前は今日誰か呼んでるのか?」

 

「はい。一応彼女に声をかけました」

 

 わざわざ隠しておく必要もないので、話題の種として俺の高校で文化祭があること、そして二日目は外部の人間も参加できることをメグには話してある。

 

 予想通り、メグは「行きたい!」と目を輝かせていたが……。

 

「予定があるそうなので、来れるかどうか分からないとも言ってましたが」

 

 最近は劇場に留まらず、外での仕事も積極的に行っているアイドル『所恵美』。今日も仕事があるので、来れるかどうか分からないらしい。メグはなんとしてでも来る気満々だったが……まぁ、流石に仕事をすっぽかしてくることはないだろう。メグはそんなにいい加減な性格じゃない。

 

「ふーん……お前の彼女さんを一目見てみたかったから少し残念だが……副会長の恋人が来たらそれはそれでパニックだっただろうな」

 

「ははっ、流石にそれは」

 

 俺の恋人だからどうかというのは別として、確かに最近名前が売れ始めたアイドルだとバレたら、少し騒ぎにはなりそうだ。

 

 

 

「……ん?」

 

 生徒会室へと戻ってきてさて業務開始だという矢先、スマホがメッセージを受信した。普段ならば校内での使用は控えるところだが、今日は役員同士での連絡手段としても活用しているために使用可となっている。

 

 さて早速何か問題が起こったのかと思い、ポケットから取り出してみると……メッセージの送り主はメグのようだ。どうやら画像も一緒に添付されているようだが……。

 

「……えっ」

 

 思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「どうかしたか?」

 

 生徒会室に常備されているポットから急須にお湯を注いでいた会長が首を傾げる。

 

「いや……どうやら既に来てたみたいです」

 

「誰が……って、もしかして彼女さんか?」

 

「はい……」

 

 仕事は一体どうしたんだ……と思ったが、どうやら仕事先のトラブルで一・二時間ほど時間が空いてしまし、そこで時間潰しを兼ねてこちらに来ることにしたらしい。添付された画像はメグがウチの校門をバックにした自撮り写真だった。画像の端に見覚えのあるスーツ姿の足元が写りこんでいるところを見ると、どうやらプロデューサーさんも一緒のようだ。

 

 しかし、残念ながら俺は副会長としての仕事があるため自由に動くことが出来ない。メグたちに校内を案内してあげたいところではあるが、ただの待機とはいえその仕事を放り投げるわけにはいかない。メグには「自分は自由に動けないから、楽しんでいってほしい」という旨のメッセージを送っておくことにしよう。

 

「行ってきていいぞ」

 

「え?」

 

「二人も待機してる必要もないだろ。俺が待機してるから、お前は彼女さんを案内してやれ」

 

 ズズッと入れたばかりの緑茶を啜りながら、会長はヒラヒラと手を振った。

 

「ですが……」

 

「人からの好意は、その人の気が変わらないうちに受け取っておくのが吉だぞ。謙虚な姿勢は美徳だが、貰える好意(もん)はちゃんと貰っておけ」

 

「……分かりました。ありがとうございます、会長」

 

「おう。ついでにたこ焼きでも買ってきてくれ」

 

「はい。二年A組と一年C組、どちらのたこ焼きがいいですか? 前者は三百円、後者は四百円でマヨネーズかけ放題です」

 

「……各クラスの出店のメニューまで完璧に覚えてるのか、お前は……」

 

 何故か呆れた様子で「お前に任せる」と言って会長はシッシッと手を払った。

 

 

 

 

 

 

「メグっ」

 

「あっ! アカリー!」

 

 メッセージで校門のところにいるという連絡を受けてやって来ると、目的の人物はすぐに見付かった。そして向こうもこちらをすぐに見付けたらしく、メグは満面の笑みで手を振ってきた。

 

「恵美、お忍びだってこと忘れるなよ」

 

「あっと……!」

 

 しかしプロデューサーさんに注意され、慌てて口を閉じるメグ。彼女は帽子と伊達メガネなどで変装しているので、幸い周りの人間はメグをアイドルだとは気付いている様子はなかった。

 

「ようこそメグ、我が高校の文化祭へ」

 

「うん! アカリの学校来るの初めてだから、すっごい楽しみにしてたんだ!」

 

 楽しそうにキョロキョロと周りを見渡すメグ。確かに、お互いの高校に行く機会はなかったから、俺もメグの高校がどんな感じなのか知らなかった。

 

「プロデューサーさんも、メグの引率ありがとうございます」

 

「なんのなんの。でもよかったのかい? ここの副会長なんだろ? 仕事とか……」

 

「会長が『行ってこい』って言ってくれましたので、一応見回りという()()で一緒に校内を回ることが出来ます」

 

「やった!」

 

 一緒にいられることに喜んでくれたメグだが、そのままいつものように腕を組んでこようとしたのでやんわりと押し留める。

 

「今はまだアイドルだってバレてないからいいけど、万が一のことを考えて今日はそういうのは無し」

 

「えー!? 折角アカリと文化祭デート出来ると思ったのにー……」

 

 不服そうなメグだが、流石にこれは我慢してもらうしかない。加えて、会長からも以前『恋人がいることを絶対に公言するな』とも言われている。

 

 呼び方に関しては、『アカリ』もメグや劇場の一部の人しか使わない呼称なので校内の人間にはイコール俺だということは気付かれないだろう。ついでに男性のプロデューサーさんも一緒に三人でいれば、少なくとも俺とメグが恋人という構図には見えないはずだ。

 

「そういうわけで、すみませんプロデューサーさん。俺たちの我がままに付き合ってもらうことになって」

 

「いや、俺は気にしてない。恋人同士に見えないように……それでいて、しっかりと文化祭デートを楽しむといいさ。何せ、学生時代は一度しか来ないんだからな」

 

「はい。それじゃあ行こうか、メグ」

 

「うん! アカリ、アタシクレープ食べたい、クレープ!」

 

「ん、分かった」

 

 くっつくギリギリまで近付いてきたメグや、逆に少しだけ離れる位置を歩くプロデューサーさんと共に、一番近場のクレープを売っているクラスの出店へと向かうのだった。

 

 

 

「あっ、副会長! お疲れさまでーす!」

 

「お疲れさま。そっちは順調?」

 

「はい、おかげさまで!」

 

「副会長! 午後から演劇やるから、観に来てください!」

 

「ありがとう。時間が合えば、行かせてもらうよ……コラそこ、走らない。小さいお子様の一般客もいるんだから、いつも以上に気を付けて」

 

「す、すみません!」

 

 道すがら、廊下ですれ違う生徒たちに挨拶をしたり注意をしたり。みんな一様に楽しそうで何よりだが、はしゃぎすぎて問題が起こらないように気を付けてもらいたい。

 

「……はぇ~」

 

「ん?」

 

 素直に頭を下げて謝ってくれた生徒に「ステージでのダンス発表、頑張ってね」と声をかけていると、何故かメグが感心したような声を出した。見るとプロデューサーさんも「おぉ……」と同じような雰囲気。

 

「なんかすごいねアカリ……生徒会長って感じ!」

 

「そう思ってもらえるのは光栄だけど、副会長だよ」

 

「いやいや、まさかこんな絵に描いたような生徒会長像を目の当たりにすることになるとは思わなかったよ」

 

「だから副会長ですって」

 

 会長に対する申し訳なさが沸いてきたところで、クレープを含む軽食を販売している出店を出店しているクラスにまで辿り着いた。

 

「こんにちは。お店の調子はどう?」

 

「副会長! はい、おかげさまで! 副会長も、クレープどうですか?」

 

「ありがたいけど、俺じゃなくてこっちの二人。クレープ二つお願い」

 

 受付兼会計の生徒にクレープを注文しながら、ちょいちょいとメグとプロデューサーさんを示す。

 

「……えっ!? 副会長が女の子を連れて……これはもしや!?」

 

「残念、知り合いのお兄さんとその妹さんだよ」

 

 興味津々といった様子で目を輝かせる男子生徒だったが、予め考えておいた設定で誤魔化す。こうすることで、あくまでも俺の繋がりは男性(プロデューサーさん)の方で、女の子(メグ)との関わりは少ないと思わせることが出来るはずだ。

 

「……ふーん」

 

「勿論、こんなに可愛い子を恋人に出来たら光栄だけどね」

 

 ついでに背後で少々不服そうな雰囲気を出していたメグに対するフォローもしておこう。

 

「……もう、そーいうこと言わなくていいの!」

 

 それに照れたのか、ペチリと軽く背中を叩かれた。

 

「ははっ、副会長は相変わらずですね。サラッと女の子にそういうことが言えるなんて、流石です」

 

「……ふーん、普段からそういうこと言ってるんだ」

 

 先ほどと同じメグの「ふーん」だったが、何やらこちらは冷たい何かを感じた。嫉妬してくれているのは嬉しいが、今はそちらに対するフォローは出来ないので少々勘弁してもらいたい。

 

「お待たせしました! クレープ二つ! ……副会長のお知り合いということで、フルーツとクリーム、こっそり増量しときましたんで!」

 

「わざわざありがとう、この後も頑張ってね」

 

「はいっ! 『副会長も購入済み!』という触れ込みで頑張ります!」

 

「……ほどほどにね?」

 

 一応事実なので咎めづらかった。

 

 とりあえず代金を払ってクレープを受け取り、二人に手渡す。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとー!」

 

「ありがとう……って、自然に払ってもらっちゃってるな。今お金を……」

 

「お気になさらず。普段から俺やメグがお世話になっているので、ほんのささやかなお礼です」

 

 勿論これだけで全てを返せるとは思っていないが。

 

「……っと、そうだった。校内を案内する前に、少しいいですか?」

 

「ん? どったの?」

 

 早速美味しそうにクレープを頬張っていたメグが首を傾げる。

 

「ちょっと生徒会長に頼まれたことがありまして」

 

 そう言って、すぐそこにあったたこ焼きの出店を指さした。

 

 

 

 

 

 

 一通り校内を案内し終え、メグとプロデューサーさんはそろそろ仕事へと戻る時間となった。

 

「………………」

 

「……メグ?」

 

 再び校門までやって来たのだが、メグは寂しそうな顔をしていた。

 

「……文化祭、楽しんでもらえた?」

 

「……うん、楽しかったよ。普段アカリがどんなところで勉強してるのか見れたし、アカリが副会長としてどれだけみんなに好かれてるのかも知れた。……普段から話題に上がってる生徒会長さんが()()()だったのが、予想外だったけどねー……」

 

 わざわざ言う必要もなかったから言ってなかったが……男子生徒だと思っていたのだろうか。

 

「でも、やっぱりちょっとだけ寂しいかな」

 

 にゃははと笑いながら恵美は頬を掻いた。

 

「ここじゃあ、アタシはアカリの恋人じゃないんだなぁ……って思っちゃってさ」

 

「っ!? そんなことは……!」

 

「勿論、アカリがそんなこと思ってないって分ってるよ。……でも、ね?」

 

「………………」

 

 そこでようやく俺は、メグが言いたかったことが分かった。

 

 メグはアイドルでありながら恋人(おれ)の存在を公にしている。勿論名前は出していないものの、普段から「自分には恋人がいる」ということを隠していない。それは本来、アイドルにとっての禁忌(タブー)。しかしメグはそんな世間からの逆風に負けずに頑張っている。

 

 それに対して、俺はどうだろうか。自分に恋人がいることを隠し、メグに寂しい思いをさせてしまっている。会長は「パニックになるから」と言っていたが……『副会長に恋人がいる』が『アイドルに恋人がいる』よりも騒ぎになるとは到底思えなかった。

 

 ならば……。

 

「……ごめん、メグ」

 

「っ、あ、アカリ?」

 

 メグの身体をぎゅっと抱きしめる。だいぶ寒くなってきた秋空の下、メグの身体はとても暖かかった。

 

「い、いいの? 恋人がいるって秘密にしてるんじゃ……」

 

「もう、そういうのはやめにするよ。今度は俺が頑張る番だ」

 

 会長には申し訳ないが、これ以上恋人が頑張っているのに俺が何もしないということは出来なかった。周りがざわついているような気もするが……もう気にしない。

 

 俺も、メグと共に頑張ろうと決めた。

 

 

 

「俺は学校でも胸を張るよ。……メグみたいな素敵な恋人がいるって」

 

「……嬉しいけど、無理だけはしちゃダメだかんね?」

 

 

 

 

 

 

 10月14日

 

 今日はアカリの高校で文化祭があった。本当はアタシはプロデューサーの付き添いでモデルとしての仕事だったけど、その仕事がトラブルで少し時間が変わり、早めに文化祭の方に顔を出すことが出来た。

 

 自分も副会長として忙しいのに、アカリは突然やって来たアタシたちをちゃんと案内してくれた。おかげで、普段アカリがどのような学校生活を送っているのかがなんとなくわかった気がする。

 

 ……ただ、いつも話を聞いていた生徒会長が、まさか女子生徒だとは思わなかった。普段する会話の内容はアカリの口ぶりからして、普通に男性生徒なのだとばかり思っていた。背が低くて可愛くて……思わずもやもやとした気持ちになってしまった。

 

 そして思ったのだが……やっぱり、アカリは人気者だった。

 

 人気者という表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかくアカリは生徒のみんなから慕われている。副会長だからとかそういうのじゃなく……廊下を歩いているだけであれだけ声をかけられるのは、間違いなくアカリの人徳だろう。……そして、男子生徒よりも女子生徒の声が多かったのは、多分気のせいじゃない。

 

 おかしな話だった。アイドルのアタシが、一般人であるアカリの人気に嫉妬しているのだから。

 

 そんなアタシの気持ちに気付いてくれたアカリは、あろうことか校門の目の前でアタシのことを抱きしめたのだ。そこは大勢の人たちのど真ん中で、当然そんなことをすれば変装をしているアタシはともかく、副会長として知られているアカリはすぐにバレてしまう。

 

 でもアカリは「今度は俺が頑張る番だ」と言ってくれた。そんなことをする必要なんてどこにもないのに……アカリは、そう言ってくれたのだ。

 

 これでお揃い、なんて言ったらおかしいかもしれないけど……アタシは大丈夫だと思う。

 

 根拠の無い自信だけど……アタシのときも同じようにそう言ってくれた、アカリの気持ちが手に取るように分かった。

 

 

 

 

 

 

「か、会長! ふ、副会長の恋人がいたって……!?」

 

「あー知ってる知ってる。さっきからそんな報告ばっかりだよ……全く、人の色恋沙汰ぐらい黙って静観できないもんかね、ホントに」

 

「で、でもあの副会長ですよ!? コレ、下手しなくても大騒ぎになりますよ!?」

 

「分かってるって。……はぁ、仕方ない、アイツには散々世話になってるからな……ちょっと手助けしてやるか」

 

 

 




 副会長、ようやく周りに恋人がいることをカミングアウトする。まぁだからなんだって話なんですけどね。

 ……いかんな、最近全然イチャラブしてない……既に限界が見え始めている……。

 果たしてこんな調子で来年の恵美の誕生日まで持つのだろうか……。

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