ころめぐといっしょ   作:朝霞リョウマ

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地味に今までなかった部屋訪問回。


所恵美の部屋にお邪魔する11月

 

 

 

「副会長、こんちわー! 彼女さんとは最近どうー?」

 

「こんにちは。お陰様で順調だよ。そっちも、彼女さんとはどう? 確か君も他校の子と付き合ってるんだよね?」

 

「さ、最近ちょっとだけ喧嘩してて……」

 

 ちゃんと仲直りしなよ? と挨拶をしてきた生徒に返す。

 

「……なんつーか」

 

 職員室での用事を終え、並んで歩いていた会長がはぁっとため息を吐いた。

 

「あれだけの騒ぎになっても無事に収束するところが、お前の人徳のなせる技だよな」

 

「いえいえ、みんな一時の話題に乗っかっただけで、本当はそこまで興味がなかっただけですよ。……でも、その節はご迷惑をおかけしました」

 

 彼女がいることをカミングアウトしてから、半月と少し。カミングアウト直後は何故か大勢の生徒が生徒会に押し掛けてきてそれなりの騒ぎになってしまったが、会長の助力もありそれもすぐに収まった。

 

(……しょーじき、あの感じだと俺の手助け、本当にいらなかったんだろうけど)

 

 今ではこうしてたまに生徒たちがそのことで軽く声をかけてくる程度で、それ以外は以前となんら変わりなかった。

 

「……まぁいいさ。ある意味、これで騒ぎの種が一つ解消されたってことだからな」

 

「………………そうですね」

 

「……おいちょっと待て、なんだその間は?」

 

「ははっ、冗談ですよ」

 

「お前の冗談は怖すぎるんだよ……」

 

 いずれは明かさないといけないこととはいえ、俺の彼女が『所恵美』だと知られたら、きっと今回以上の騒ぎになることは目に見えていた。

 

 とはいえ、今はまだメグは天海春香さんたちと比べると知名度は低く、今ならばまだそこまで大きな騒ぎにはならないかもしれない。もしかしたら、メグが有名になりきる前に明かした方がいいのではないかとも思ったが……所詮素人判断だ。こういうことは、プロデューサーさんたちに任せよう。

 

「そのときは、またよろしくお願いしますね、生徒会長」

 

「そうなったら人に頼らずに自分で何とかしようとするくせに、よく言うよ」

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな会話を生徒会長とした翌日の土曜日。学校が休みに加えて、メグもアイドルとしての仕事やレッスンが何もない一日オフ。いつも通りデートの予定だったのだが、今日は外に遊びに行くのではなくメグの部屋でのんびりと過ごそうという話になった。

 

 メグの自宅は最寄駅から徒歩十分の距離にある一戸建て。既に何度もお邪魔させてもらっているので、今更迷うことも戸惑うこともなくインターホンを――。

 

「おはよっ! アカリ!」

 

 ――押す前に、玄関が開いてメグが顔を出した。

 

「やぁメグ、おはよう。もしかして待ってたの?」

 

「んーん! でもアカリだったらそろそろ来るだろうなぁって思ったんだ」

 

 そのままいつもの流れでハグをする。これも今では挨拶の一環になっていた。軽くお互いにギュッとしてから、メグと共に家へ上がらせてもらう。

 

 キッチンでメグのお母さんに挨拶をしてから、階段を登りメグの部屋へ。今日もメグはミニスカートを履いていたので、軽く彼女の手を引きながら階段を昇る。

 

「……アタシは、アカリ相手だったら気にしないんだけどなー」

 

「俺が気にしちゃうんだよ。メグに見惚れて、階段を踏み外すかもしれないし」

 

「なにそれー」

 

 ただ、出掛け先で階段を昇るときはメグを隠すように俺が後ろに回らせてもらうのだが、その際に「アカリが後ろにいるからへーきへーき」と言ってスカートを抑えようともしないのはどうかと思う。

 

 階段を昇るとメグの部屋はすぐそこだ。既に見慣れた『めぐみ の へや』というネームプレートが下げられたドアをメグが開ける。

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔されまーす」

 

 「白と黒が好き」というメグの嗜好に合わせて全体的にモノクロな家具が並ぶ中で、ピンクや黄色といったカラフルな小物が並ぶメグの部屋。比較対象が姉しかいないものの、これがきっと女の子らしい部屋なのだろう。

 

「それじゃ、お茶持ってくるねー」

 

「うん、ありがとう」

 

 部屋を出ていったメグを見送ってから鞄を下ろし、何度も訪れているうちにいつの間にか俺専用となっていた青色のクッションに腰を下ろす。

 

 さて、すぐにメグも戻ってくるだろうし、先に準備を始めておこう。

 

 

 

「おまたせー……って、うえっ……」

 

 トレイにカップ二つと紅茶のポットを乗せて持ってきたメグが嫌そうな表情をした。その視線は俺が鞄の中から出して机の上に並べたものに向けられている。

 

「き、昨日のアレって本気だったの……?」

 

「本気だよ。さ、メグも()()出して?」

 

 そう言いながら、俺は筆記用具を筆箱から取り出す。

 

 メグの課題を手伝う。それが今日俺がメグの家へとやって来た理由の一つだった。

 

 アイドルというのは多忙である。それは未だに駆け出しのメグにも適応され、仕事のスケジュールによっては学校を休んだり早退しなければいけないこともしばしば。その際、授業に追いつけなくなったり単位が足りなくなったりしないように、学校側から()()が出るらしい。

 

「ダメだよメグ。忙しいのは分かるけど、課題はキチンとやらないと」

 

 そしてメグはその課題の進みがよくないらしいのだ。

 

 

 

 ――アカリ君、君の方から言ってくれないか?

 

 ――しっかりと恵美の面倒を見てあげて。

 

 

 

「プロデューサーさんと琴葉さんからも言われてるからね。アイドル以前にメグは学生なんだから、学業を疎かにしちゃダメだよ?」

 

 メグの恋人としてだけでなく、他校とはいえ副会長としても見逃せなかった。

 

「せ、せめて紅茶飲んで一息ついてからにしない? ほら、アカリも来てくれたばっかりなんだからさ?」

 

「ありがとう、気を使ってくれて。でも、これは俺のためでもあるんだよ」

 

「……アカリのため?」

 

「うん」

 

 このままメグの成績が下がってしまった場合、彼女はアイドルを続けることが難しくなってしまう。つまりステージに立つメグを見ることが出来なくなってしまうのだ。

 

「『もっとステージに立つメグを見ていたい』っていう俺のワガママなんだ……って、それじゃあ余計にメグのやる気は出ないかな?」

 

「……もう、そんなこと言われちゃったらイヤって言えないじゃん」

 

 はぁっと小さくため息を吐いてから、メグはトレイを床に置いて俺のすぐ隣に腰を下ろした。

 

「アタシも、アカリにアイドルをやってるアタシを見てもらいたいから。……頑張る」

 

「……うん。ありがとう、メグ」

 

「でも紅茶ぐらい淹れさせてよー?」

 

「なんなら、それも俺が淹れようか?」

 

「アタシの部屋でぐらい、アタシにさせてってばー!」

 

 

 

 そんなわけで、カーペットの上に並んで座ってメグとの勉強会開始である。

 

 一から十までメグに教えるというわけではなく、まずはメグに自力で課題を解いてもらい、分からないところを俺が教えるという形だ。

 

 もともとメグは成績が悪いというわけではないのだが……勉強そのものに苦手意識を持ってしまって勉強を疎かにするタイプだ。なのでしっかりと教えてあげるとちゃんと理解するし、応用も出来る。

 

「……飽きたー」

 

「コラコラ」

 

 難点があるとするならば、その姿勢が持続しないことか。集中力を保つためには十五分間隔での休憩を必要とするとは言われているが、それでもせめて学校の授業と同じ四十五分ぐらいは保ってもらいたいものだ。

 

「だって楽しくないんだもん。折角アカリと一緒なのに、おしゃべり出来ないし。……アカリがクラスメイトだったら良かったのにーって思ったことあるけどさ、授業中もすぐにそばにアカリがいるのに見るしか出来ないってのはヤダな~」

 

「授業中は黒板を見ないとダメだよ?」

 

 そういうことじゃなくて~と課題に覆いかぶさるようにして机に突っ伏すメグ。これはこのまま集中してもらうのも辛いだろうし、少し早いけどちゃんとした休憩を挟んだ方がいいかもしれない。

 

 休憩を提案しようとメグの顔にかかっていた髪の毛を指で少し払う。

 

「……あっ、そうだ」

 

「ん?」

 

 ジッと俺の顔を見ていたメグが、突然何か思い付いたようだ。

 

「あのさ……」

 

 

 

「……これでいいの?」

 

「う、うん。……ちょ、ちょっとだけ恥ずかしいけど」

 

 胡坐をかいて座る俺の膝の上に、体を密着させるように背中を預けてくる形でメグが座っていた。

 

 メグの『せめて勉強中もイチャイチャしたい』という提案の元、彼女はこの状態で勉強を続けることを希望したのだ。

 

 ただ積極的に身を寄せてきつつもメグの顔は赤く、少しだけ恥ずかしいのだろう。

 

 かくいう俺も、普段からハグをしているとはいえ、こうして体を預けるように密着される機会は少なくので恥ずかしいというか緊張していた。ベッタリと密着してくるメグの体は触れるところ全てが柔らかく、仄かに香る甘い香りと共に心臓の鼓動を早くする。

 

 メグも俺も、果たしてこの状態で本当に集中力を保つことが出来るのだろうか……?

 

「……このままこーしてたいなー……」

 

「……俺も同じ気持ちだよ。でも」

 

「分かってるよー。……うん、ヤル気出てきた」

 

 机の上に放り出されていた自分のシャーペンを持ち上げると、そのまま課題を再開するメグ。その横顔は真剣そのもの……ではなく、少しだけ口角が上がっていた。

 

「………………」

 

 後ろからメグの肩越しに彼女の手元を覗き込む。現在は数学の課題を進めており、時折手を止めて悩みながらも三次関数を解いていた。

 

「……うーん」

 

 メグは唸りながら右手に持ったシャーペンのノック部分で顎を掻く。そして空いた左手はいつの間にか俺の左手を持ち上げており、スリスリと自分の頬に擦り付けていた。まるでマーキングをしているような動作だが、どうやら無意識的な手遊びの一種らしく、メグはちゃんと問題に集中していた。

 

 ただ左手で触れるメグの頬は滑らかに柔らかく、自分から手を動かして触りたい欲求に駆られてしまう。しかしメグが問題に集中しているのに俺がそれを邪魔するわけにはいかないので、今はグッと我慢しよう。

 

 さて、肝心の問題の方は残念ながら途中の式で計算ミスがあったため、間違った答えへと辿り着いてしまったようだ。

 

「……解けた!」

 

「惜しい」

 

「えっ、間違ってた!?」

 

「うん。途中で計算ミスがあったよ」

 

「え~? だったらそこを解いてるときに言ってよー!」

 

「自分で考えることが大事だからね」

 

 ほらここ、と後ろから手を伸ばして間違っていた場所を示す。

 

「ん~?」

 

 しかしメグは一目でそこの何が間違っていたのかが分からなかったらしく、グッとこちらにもたれかかりながら首を捻っている。

 

「……センセー、このまま解説お願いしまぁす!」

 

 メグはしばらく悩んだ末、結局間違いが分からず後ろから伸ばしている俺の腕にしなだれかかってきた。

 

「はいはい。ここはね……」

 

 本当にこんな状態でまともに解説が頭に入るのか疑問だったが、それでもメグの要望に応え、彼女の体を後ろから抱きしめる姿勢で問題の解説を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……終わった~!」

 

「お疲れさま」

 

 俺の膝に座ったままググッと上体を仰け反るように伸びをするメグの体を、後ろから抱き締める。

 

 途中、メグのお母さんが用意してくれた昼食をいただいてお昼休憩を挟みつつ、三時には無事に全ての課題を終えることが出来た。

 

「って、えっ!? アタシ全部やったの!?」

 

 しかしどうやら本人はそれに気づいていなかったらしく、ホントに!? と驚いていた。

 

「それだけ集中出来てたってことだよ。凄いじゃないか」

 

 やっぱりスイッチが入りづらいだけで、メグは凄い集中力を持っているんだと感心する。

 

「にゃはは。……すぐそばにアカリがいたからかな……それだけですごく嬉しくて、全然課題がイヤじゃなかった」

 

 コテンと首を倒し、見上げるように振り返るメグ。

 

「それにアカリの説明、すっごい丁寧で分かりやすかった! 普段の授業もアカリの説明だったらよかったのに」

 

「普段の授業までは流石に出来ないけど……もしメグが望むんなら、これからもこまめに勉強見てあげるよ?」

 

「ホント!?」

 

「……メグ、ちょっと勉強楽しくなってきた?」

 

「それはないかな」

 

 もしかして、という希望を込めて尋ねたが、バッサリと切り捨てられてしまった。

 

「アタシが好きなのは……アカリとこうして一緒にいる時間。その時間だったら、何があっても楽しいんだよ」

 

「……俺もだよ」

 

 メグの体を抱きしめる力をほんの少しだけ強くすると、メグは甘えるように顔を俺の首元に擦り付けてきた。

 

「………………」

 

 ふと、視線がメグの口元で止まった。

 

 薄いピンク色はグロスではなく、きっと色付きのリップ。『女子のたしなみ!』と言ってメイクは欠かさないメグだが、こうして彼女の部屋を訪れたときはとても薄いメイクになっている。『どちらが好みか』と聞かれても『どちらも好み』としか答えようがない。

 

「……ねぇ、アカリ」

 

「……なに?」

 

 

 

「……チュー……する?」

 

 

 

「………………」

 

 上目遣いにそんなことを尋ねてくるメグに、一瞬目の前が真っ白になったかのような錯覚を覚えた。

 

「……うん。メグとキスしたい」

 

 メグとの交際が始まって半年以上が経つ。

 

 しかし、それはまだ()()()()

 

「……個人的には、もうちょっと思い出に残りそうなシチュエーションとか、ちょっと考えてたんだけどね」

 

 それの理想のタイミングというものは、イマイチよく分からない。小説など物語では、夜景が見える場所のような所謂『ロマンチックな場所』というのが定番だろう。

 

「……アカリってば、そんなにアタシとキスしたかった?」

 

「当たり前だろ。……叶うのであれば、俺は君の全てが欲しい」

 

 しかし、今この瞬間が……きっと俺たちにとっての()()()()()()()

 

「……うん。それじゃあ――」

 

 

 

 ――アカリにあげる。

 

 

 

 

 

 

 11月4日

 

 今日はアカリがウチに遊びに来た。こないだの事務所でのハロウィンパーティーのときの写真でも見せてあげようかな~って思ってたのに、アカリはアタシの部屋に来るなり課題の準備を始めてしまった。

 

 確かに、プロデューサーや琴葉から「やれやれ」ってせっつかれてるけど……恋人の部屋に来て真っ先にすることがそれってのはどーなんだろ?

 

 しょうがないからアカリに見てもらいながら課題を進める。ほんの少しだけわがままを聞いてもらい、アカリの膝の上に座らせてもらったのだが……不思議なことに、この状態だと自分でも信じられないぐらい集中できた。どれぐらい集中できたかというと、山のように出された課題が全部終わっちゃうぐらい!

 

 それでそのあとは――

 

 

 

※ぐちゃぐちゃになっていて読めない

 

 

 

 

 

 

「……にへへ……」

 

「……コトハー! メグミ、どーかしたノ?」

 

「さぁ……朝来たときからずっとあんな感じなの」

 

 

 




 ……ふぅ(別作品でのシリアスのうっぷんを晴らした顔)

 もうちょっとイチャつかせたかったけど、この辺にしといてやろう(メダカ師匠並感)

 次はクリスマスだー!

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