ころめぐといっしょ   作:朝霞リョウマ

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だいぶ早いけど、メリークリスマス!


所恵美と聖夜を過ごす12月

 

 

 

 クリスマス・イヴ。

 

 今日も今日とて、俺はメグのステージを見るためにシアターへとやって来ていた。

 

 

 

『みんなー! 今日は私たちのクリスマス特別公演に来てくれて、ありがとー!』

 

 ステージの上から呼びかける琴葉さんの言葉に、観客席のファンたちが歓声を上げた。俺も周りに合わせて歓声を上げると、それに気付いたらしい琴葉さんは俺に視線を向けながらわずかに苦笑したように見えた。

 

『クリスマスは大切な人と過ごす大事な日だからネー! ワタシもみんなと一緒に過ごせて嬉しいヨー!』

 

 エレナさんがそう言って投げキッスをすると、何人かのファン(男女問わず)が膝から崩れ落ちるのが見えた。アイドルからの投げキッスだ、ファンからしてみればそれだけの破壊力があったということだろう。

 

 余談ではあるが、以前姉のライブを見に行ったときに関係者席にいた俺に向かって姉が普段はあまりしない投げキッスをしてきたことがあった。きっとライブでテンションが上がっていたのだろう。アイドル以前に尊敬する姉からの投げキッスを疎ましく思うつもりはないが、しかしそれでも「そういうのはファンにしてあげるべきだ」と軽くお小言を言ってしまった。

 

 閑話休題。

 

『大切な人と言えばー……メグミは勿論、恋人と一緒なのカナ?』

 

『もっちろん! この後も待ち合わせしてるし!』

 

 エレナさんに話を振られ、デレッと表情を崩すメグ。恋人の存在を明確にするなど普通のアイドルにとってはありえない光景ではあるが、最初から恋人持ちを明言している『所恵美』というアイドルだからこそ出来ることである。そんなメグの様子に観客のみんなは微笑ましく見守る人が八割、悔しげに俯いているのが二割だ。

 

『ちなみに私たちは、この公演が終わった後でシアター組全員でクリスマスパーティーの予定です』

 

『あとでSNSに写真上げてあげるから、待っててネー!』

 

 琴葉さんとエレナさんの言葉にテンションが上がるファンのみんな。アイドル事務所のクリスマスパーティーの様子なのだから、それはもうファンのみんなは期待していることだろう。

 

『さて、それじゃあ最後の曲、行きますか!』

 

『せーの!』

 

 

 

『『『Thank You!』』』

 

 

 

「アカリ君!」

 

「ん?」

 

 今日の公演も無事に終わったところで声をかけられた。彼は765プロシアター組のファンで、メグを観るために劇場へ足を運ぶうちに仲良くなった一人だ。

 

「この後、同好のファンが集まってクリスマス打ち上げをするんだが、君もどうだい?」

 

「楽しそうですね。……でもすみません、この後用事がありまして」

 

「そうか……まぁ、君は我々と違って彼女持ちのイケメンだからな……」

 

「一人で観に来ていた俺に、丁寧にここのことを色々と教えてくれた優しい貴方なら、きっとすぐに理解してくれる女性が現れますよ」

 

「くっそぅ! そういうことをサラッと言える辺り本当に心までイケメンだな! メリークリスマス!」

 

「ハッピーホリデー」

 

 同じく知り合いと一緒に劇場を出ていく彼を見送ってから「さて」と立ち上がる。

 

 先ほどメグが言っていたように、恋人である俺のこの後の予定は彼女との待ち合わせである。

 

 ところで琴葉さんは『シアター組全員でクリスマスパーティー』とも言っていたが、このシアター組には勿論()()()()()()()()()。そして俺はメグと待ち合わせ……つまりどういうことかというと……。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあみんな、今日もお疲れさま! そしてー……!」

 

 

 

『メリークリスマース!!』

 

 

 

 なんと、俺もクリスマスパーティーに参加させてもらうことになっていたのだ。

 

「改めまして、ありがとうございますプロデューサーさん。部外者の俺まで……」

 

 シャンメリーが注がれたグラスで乾杯しながらプロデューサーさんにお礼を言うと、彼は「なんのなんの」と手を振った。

 

「俺は君もこのシアター組の一員だと思ってるよ。雑用を手伝ってもらったこともあるし、頻繁に差し入れをしてくれる。それに今や『所恵美』というアイドルには恋人の存在がつきものだから、君もアイドル『所恵美』の一要素だよ」

 

 「二人で一人のアイドルだな」とプロデューサーさんは笑う。

 

「アカリ! メリークリスマス!」

 

「ハッピーホリデー、メグ」

 

 他のアイドルとの乾杯を終えたメグがこちらへと急ぎ足でやって来た。軽くグラスを合わせると、メグは「えへへ」と笑みを浮かべた。

 

「クリスマスに恋人と過ごせるなんて、夢みたい」

 

「俺もだよ。しかもその恋人がアイドルなんて……幸せすぎて夢じゃないかと怖くなる」

 

「疑ってる? 夢じゃないって証明してあげよっか」

 

 メグはグラスを左手に持ち替えると、えいっと右腕を俺の左腕に絡めてきた。彼女の柔らかな身体に触れ、一瞬ドキリとする。

 

「どう? まだ刺激が足りないかなー?」

 

「十分刺激的で魅力的だよ。ありがとうメグ、大好きだよ」

 

「アタシも大好きだよ、アカリ」

 

「……あーあー、パーティー始まったばかりだっていうのに、早速イチャついてるわよこの二人」

 

「ホント、若いわねぇ……」

 

「莉緒さん、このみさん、お疲れ様です。ハッピーホリデー」

 

「メリークリスマス!」

 

「はいはい、メリークリスマス」

 

 近寄って来た莉緒さんとこのみさんの二人ともグラスを合わせる。既に成人しているのでシャンメリーの俺とメグとは違い、二人のグラスの中身はシャンパンだった。ちなみにプロデューサーさんも同じもので、スーツを着たままではあるが業務は終わりで「今日は飲む!」と息巻いていた。

 

「でもホント、二人を見てると私も恋人が欲しいって思っちゃうのよねぇ」

 

 はぁっ溜息を吐くこのみさんに、うんうんと莉緒さんが同意する。

 

「ねぇプロデューサーくーん。私たちも恋愛解禁してよー」

 

「この二人は特殊なんだからダメって言ってるでしょーが」

 

 「いいじゃないのよー」「ダメですー」と言い合う二人。俺からしてみれば、この二人も十分にイチャついているようにも見える。現にこのみさんも「へっ」とやさぐれた様子でそっぽを向いているし。

 

「ダイジョーブだって! このみにだっていつか素敵な恋人が出来るって!」

 

「アカリ君みたいな?」

 

 このみさんからのその返しに、メグは「えっ?」と固まった。

 

「うーん……」

 

「そこで『アカリと同レベルの男の人が本当にいるのかなぁ』って本気で悩みだすところが、惚気アイドルの面目躍如よね」

 

「このみさん、俺程度でいいのであればいくらでもいますよ。寧ろもっといい男性が見つかりますって」

 

「アカリ君、君が自分を過小評価することは世間の一般男性に対する冒涜にもなるから止めてあげてね」

 

「そうだよアカリ! アカリ以上の男の子なんて、アタシ考えらんないもん!」

 

「違うよメグ、俺は大した男じゃないよ。……何せ俺は、君を幸せにする以上のことは出来そうにないからね」

 

「えっ……」

 

「かーっ! ほんっとやってらんないわよっ!」

 

 理由は分からないがどうやら怒らせてしまったようで、このみさんは未だに莉緒さんと押し問答を繰り広げていたプロデューサーさんの向こう脛を蹴飛ばしてから離れていってしまった。

 

「あ、このみ姉さーん、待ってー」

 

 莉緒さんもそんなこのみさんを追っていってしまったため、蹲りながら脛を押さえるプロデューサーさんだけがその場に残された。

 

「ぐおおおぉぉぉ……な、何を怒ってたんだこのみさんは……!?」

 

「どうやら俺が怒らせてしまったようで……すみません」

 

「あぁ、そういうことか……」

 

 何故か赤くなった顔を手で覆うメグを一瞥しながら、プロデューサーさんは訳知り顔で頷いた。

 

「まぁあれは行き場のない怒りを適当なところで発散させたかっただけだろうから、君が気にすることじゃないよ。どうせお酒を飲めば明日には忘れるって」

 

 それはそれで、あまりアイドルとして褒められたことでもないような気がするが……きっとその辺りは、社会人として彼女たちも節度ある飲酒をするはずだろうから、俺の心配はきっと杞憂だろう。

 

 

 

「風花ちゃん! 歌織ちゃん! 今日はトコトン飲むわよ!」

 

「え、えぇ!? 今日はクリスマスだからもっとしっとり飲むって言ってませんでした!?」

 

「酔っぱらって、こんな気分全部消してくれるわー!」

 

「お、落ちついてこのみさん!?」

 

 

 

 さて、そろそろ何か料理でも貰おうかな。

 

「アタシ取ってきてあげようか?」

 

「いや、一緒に行こう。折角メグとのクリスマスパーティーなんだから、一人で待ってるのは嫌だな」

 

「……うん、そうだね! 分かった!」

 

 しかし腕を組んだままだとお皿が持ちづらいので、一旦離れてもらってから料理が並べられているテーブルに近付く。

 

 テーブルの上には各自アイドルのみんなが持ち寄った料理で埋め尽くされていた。その大半が佐竹飯店の中華料理なのはこの事務所ではよく見かける光景なので、別にクリスマスだからといって違和感を感じることはなかった。

 

 ちなみに、いつものように俺も差し入れとして料理を作って持ってきたのだが……。

 

「あ、アカリー! このお肉おいしいなー!」

 

「いやぁ、ホンマ美味しいわぁ」

 

「あーっ!?」

 

 どうやら昨日の晩から仕込んで作ったローストビーフは好評だったようで、今大神(おおがみ)(たまき)さんと横山(よこやま)奈緒(なお)さんの二人が食べているので最後のようだ。

 

「メグ、どうしたの?」

 

「アタシまだアカリの料理食べてなかったのにー!」

 

「大丈夫だよ」

 

 こんなこともあろうかと、メグの分は別に分けておいた。

 

 はいどうぞとローストビーフを盛りつけた小皿を差し出すと、メグはパァッと顔を輝かせた。

 

「ありがとーアカリ!」

 

「どういたしまして」

 

「はぁ、相変わらず気の利く彼氏君やねぇ。それにラブラブなことで、クリスマスやっちゅうのに見てるこっちが暑くなるわ」

 

 そんな俺たちのやり取りを見た奈緒さんは「はー暑い暑い」と手で顔を仰ぐ仕草を見せた。

 

「えへへ、ラブラブに見える?」

 

「別に褒めたわけちゃうんけど……」

 

 上機嫌なメグに苦笑する奈緒さんだったが、ふと「そーいえば」とメグの肩に腕を回した。

 

「聞きたいことあんねんけど」

 

「へ? なになに?」

 

「……もうチューとかしたん?」

 

「ぶっ!?」

 

 それは思わずメグが吹き出してしまうぐらい唐突な質問だった。

 

「な、何いきなり!?」

 

「いやー、最近妙に浮ついてること多いなーって思っててん。琴葉やエレナもそう思わん?」

 

「あー……そうね、それは私も少し思ってたわ」

 

ははひ(ワタシ)ほもっへはほ(思ってたヨ)ー!」

 

 近くで話を聞いていた琴葉さんと口いっぱいに料理を詰め込んだエレナさんも奈緒さんに同意した。

 

「そうなの?」

 

「そうなのよ。アカリ君の写真を見ながらニコニコしてることは前々からあったんだけど」

 

「前々からあったんだ」

 

「最近ではそれがこう……デレッと」

 

「デレッと」

 

 抽象的な表現ではあったが、とりあえずどんな感じなのかは想像出来た。

 

「それで? どうなんどうなん? もうしたん?」

 

 興味津々といった様子でグイグイとメグに迫る奈緒さんに、メグはじりじりと後退る。

 

「そ、そんなの言えるわけないじゃん!?」

 

「否定しないっちゅーことは、そーいうことなんやな」

 

「奈緒っ!?」

 

 奈緒さんも半ば確信があって聞いている節があるから、これはメグが何を言ってもダメなパターンだな。

 

 幸いなことにこちらへ飛び火してくることはないようだが……それでも恋人が困っているのだから、そろそろ助け舟を出してあげることにしよう。

 

「奈緒さん、その辺で勘弁してあげて」

 

 メグの肩を抱くようにしてこちらへと引き寄せると、メグはこれ幸いとばかりに俺の体の影に身を隠した。

 

「あらら……彼氏君が出てきたんなら、メグ弄るのはこの辺が潮時かな。堪忍な……でも、普段から散々惚気られてるんやから、これぐらいは許してほしいかな」

 

 「別に彼氏が欲しいわけちゃうけど、アレ結構辛いんや」と苦笑する奈緒さん。それは申し訳なかった……。

 

「……それで? 実際どうなん?」

 

「……さぁ、ご想像にお任せしますよ」

 

 もっとも……と奈緒さんの耳に口を寄せる。

 

 

 

 ――想像以上、かもしれませんよ?

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 クリスマスパーティーも終わり、帰り道。自転車を手で押しながら駅までメグを送っているのだが、彼女は少しだけむすっとしていた。どうやら先ほどのクリスマスパーティーの中で、奈緒さんに顔を寄せて耳打ちしたことがお気に召さなかったらしく、さらに奈緒さんが顔を赤くしてしまったことで不機嫌が加速してしまったようだ。

 

「メグに不快な思いをさせたかったわけじゃないんだけど……少し調子に乗りすぎたよ。本当にゴメン」

 

「……ううん、アタシの方こそゴメン。今更アカリのことを疑うなんて……アタシ、チョーダサいね」

 

 苦笑するメグの身体を抱き寄せる。少しだけ歩きづらいが、寒空の下でメグの体温がとても心地よかった。

 

「メグが信じてくれないって思ってるわけじゃないけど……俺はメグのことが大好きだって何度でも言う。これから先もずっとなんて言っても、まだ信じてくれないかもしれないけど……」

 

「……ううん、信じてる。アカリはアタシのことを、ずっと好きでいてくれるって」

 

「ありがとう、メグ」

 

「……そーいえば、まだクリスマスプレゼント渡してなかったね」

 

「そういえばそうだったね」

 

 ようやく二人きりになれたことだし、ここで渡そうかと鞄を開けようとして……グイッと首に腕を回したメグに顔を引き寄せられた。

 

「……プレゼント交換、しよ?」

 

 

 

「……貰いすぎちゃいそうで悪いな」

 

「大丈夫……アタシももっと、貰うから」

 

 

 

 

 

 

 

 12月24日

 

 今日はクリスマスイブ! 劇場でクリスマス特別公演という名のいつも通りの劇場を終えた後、事務所のみんなとクリスマスパーティーをした。今ではすっかり劇場の一員となりつつあるアカリも、勿論一緒だった。

 

 みんなとジュースを飲んだり料理を食べたり。一番美味しかったのは、勿論アカリが作って来てくれたローストビーフ! アタシよりも料理が上手という事実は未だにショックが大きいものがあるが、それでも美味しいものは美味しかった。

 

 そんなパーティーの最中、奈緒から「アカリともうキスはしたのか?」ということを聞かれてしまった。流石に人前ではしたことないし、大っぴらに言えるはずがない。返答に困っているとアカリが助けてくれたのだが……その際、アカリが耳元に口を近づけてぼそぼそと何かを呟くと、奈緒は顔を赤くしてしまった。

 

 それが少しだけイラッとしてしまい、その後少しだけアカリに冷たく当たってしまった。

 

 勿論アカリのことを疑うつもりはなかったのだが……こんな些細なことで嫉妬してしまう自分が少しだけ嫌になった。

 

 それでもアカリは許してくれて、それどころか謝ってくれて……帰り道に素敵なプレゼントまで渡してくれた。

 

 はぁ、本当にアカリはカッコよくて優しくて……大好き。

 

 

 

 

 

 

「それにしても奈緒ちゃん、あの反応はもしかして……?」

 

「んなわけあるかい! ……ど、同年代の男子にあんなことされたら、あぁなるに決まってるやろ!? 自分もされてみたら分かるって!」

 

「いや、恵美が怖いからそういうのはちょっと……」

 

 

 




 十二月といえば勿論クリスマスイベント。時期が早すぎるけど気にしない。

 ちなみに十一月に初めてのキス済ませてからは、頻繁にちゅっちゅしてる模様。もっとイチャつかせてぇな俺もなぁ。

 そしてこちらもだいぶ気が早いですが、これで今年最後の更新になりますので、皆さんよいお年を。
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