学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第10話:桜花爛漫─やってはいけないこと

※※※

 

 

 

 先ほどまで屋上だった空間は一変。

 これは一体どういう事でしょう。私の手元にはデッキらしきもの、正面には5枚のガラスのようなもの、そして目の前には手札と言わんばかりにカードが舞っています。

 

「何ですかコレ」

「分かんねーのか? 暴れるワイルドカード……即ち、実体化したクリーチャーを止めるにはコレしかねーんだ。お前らで言うデュエマで奴をぶっ倒す。簡単だろ」

「さっきから超展開過ぎて、実はまだ頭が付いて来ていないのですが」

「まあ、良い。説明は後でたっぷりと、嫌ってくらいしてやるぜ」

「……」

 

 仕方がありません。

 どうやらやるしかないようです。デュエマをしろというのならば、何ら普段やってる事とは変わりないだけです。

 

「私のターン。1マナで《貝獣ホタッテ》を召喚します」

 

 次の瞬間、私の眼前にホタテのようなクリーチャーが水文明の紋章と一緒に現れました。

 これは――クリーチャーがこの空間では実体化するということでしょうか。

 

「俺のターン。《桜風妖精 ステップル》を召喚!!」

 

 キャハハハ、という甲高い笑い声と共に桜色の衣服を身に纏った今回の元凶が姿を現します。

 

「マスター。アレが今回の元凶だぜ」

「結局、ワイルドカードって何なんですか」

「人に取り付いて悪さをするクリーチャーって認識で構わねえぜ。俺のように正規のマスターを持っているクリーチャーとは違って、相手の意思を無視して乗っ取り、操る。あの野郎みてーにな」

「あの、私あなたの正規のマスターになった覚えも無ければ、意思を尊重された覚えも無いのですが」

「そこは気にするな。飲み込んでくれ、水だけに」

「しばきますよ」

 

 とにかく、この陽気な喋り口が癪に障りますが仕方ありません。

 妖精の笑い声と共に桑原先輩のマナゾーンのカードが1枚増えました。

 

「こいつがバトルゾーンに出た時、山札から1枚をマナゾーンに置く」

 

 手札を使わずに2コストでマナ加速が出来るカードはこのクリーチャーが初。

 ただし、破壊されれば自分のマナゾーンのカードも墓地に置かなければならないというデメリットを抱えています。

 何とか破壊出来ればいいのですが……。

 

「私のターン、2マナで《一番隊 ザエッサ》を召喚」

 

 この文字通りサザエのようなクリーチャーは、自分のムートピアのコストを1下げる効果を持ちます。

 此処から後続に繋げます。

 

「俺のターン。4マナで《ボントボ》を召喚!」

 

 現れたのは、人型の羽をはやしたトンボのような昆虫兵士。

 私は身構えましたが、攻撃してくるわけではなく――

 

「その効果で山札の上から1枚をマナゾーンへ。そして、それがパワー12000以上のクリーチャーだったなら――」

 

 思わず、マナに置かれたカードを注視しました。

 それは――《マファリッヒ・タンク》。パワー12000のクリーチャーです。

 

「はっ、やったぞ。《ボントボ》の効果で、さらに1枚、マナを加速する!!」

 

 これで桑原先輩のマナのカードは6枚に急増してしまいました。

 正直、この速さはかなりまずいです。新たな昆虫の種族、グランセクト……パワー12000にやたらと拘っている種族かと思いきやマナ加速の速度もかなり速いです。

 

「私のターン、2枚目の《一番隊 ザエッサ》を1コストで召喚。そして《貝獣 ホーラン》をバトルゾーンへ。その効果で1枚ドローします。そして、もう1体《ホーラン》を1マナで召喚し、カードを1枚ドローします」

 

 よし、更に3体のクリーチャーを出せました。手札を切らさずに大量展開できるのは、白銀先輩のジョーカーズだけではないのです。むしろ、本来なら水文明の得意領分のはずなのですが……。

 それはともかく、相手の動きが不穏です。結局、私のデッキには相手のクリーチャーを直接破壊するカードが無いのが痛手です。

 水はバウンスするのは得意ですが、それは登場時能力が強い相手に使っても使いまわされるだけですし……。

 

「そして、《一番隊 ザエッサ》でシールドをブレイク」

「っ……雑魚が、小癪な……!!」

「ターンエンドです」

 

 よし、まずは1枚。割れました。

 場の数もこちらが勝っていますし、おまけにブロッカーまでいます。

 

「俺の芸術を邪魔する、目障りな害虫!! 皆纏めて、狩り尽くしてやるからなァァァ!!」

 

 叫ぶ先輩。

 それと共に、彼のターンに映ります。

 

「俺のターン。7マナをタップして、《パンプパンプ・パンツァー》召喚!!」

 

 次の瞬間、自然文明の紋章と共に巨大なかぼちゃの戦車が姿を現しました。

 確か、グランセクトを構成する野菜戦車――馬鹿げた容姿とは裏腹に、その能力は侮れないものです。

 

「その効果で、山札の上から1枚をマナゾーンへ置き、そのコスト以下の俺のクリーチャーを全てマナゾーンへ置く」

 

 マナゾーンに置かれたカードは、見たところコスト6の《くまくまわり》、ということは――

 

「《パンプパンプ・パンツァー》以外の全てのクリーチャーをマナゾーンへ!!」

 

 3連装主砲の味方を厭わない集中砲火。

 弾に当たったクリーチャーが次々にマナゾーンへ吸い込まれていきます。

 《ステップル》のデメリット効果は、破壊された時にしか発動しません。

 つまり、マナゾーンに自ら送り込むことでデメリットを発動させず、安全にマナを加速できるということ――これで、桑原先輩のマナの枚数は9枚になってしまいました。

 それどころか――私のクリーチャーも全員マナゾーンへ送られてしまいました。

 

「ターンエンドだ」

「っ……まずいです……でも――」

 

 とにかく、殴るついでに手札補充を行うしかありません。

 

「私のターン、1マナで《ホタッテ》を召喚して3マナで進化――《プラチナ・ワルスラS》に」

 

 巨大なスライムのクリーチャーが、《ホタッテ》を取り込んで現れました。

 これで、攻め勝ちます。

 

「《プラチナ・ワルスラS》で攻撃するとき、効果発動です。カードを3枚引き、1枚手札を捨てます。そして、シールドをW・ブレイク」

 

 《プラチナ・ワルスラS》は3コストでパワー6000のW・ブレイカーで進化クリーチャー。しかも、水のクリーチャーならば何からでも進化出来る上に攻撃時にカードを3枚引いて1枚捨てるという強力な手札交換能力も持つ、文字通りのインチキスライムです。

 押し潰されたガラス状のシールドが2枚、まとめて破壊されました。

 しかし――

 

「ターン終了時に、テメェがカードを3枚以上引いたから《ベニジシ・スパイダー》をリベンジ・チャンスで召喚!! その効果で山札の上から1枚をマナゾーンへ!!」

「っ……!!」

「さあ、俺のターン」

 

 カードを引いた桑原先輩。

 まずいです。ターンを渡してしまったどころか、こちらの場は半壊。

 それどころか、このターンで先輩のマナは――既に10枚になっています。

 

「――10マナをタップし、《ベニジシ・スパイダー》を進化元に」

 

 此処は屋上のはずです。

 にも拘らず、地響きが足元に伝わってきました。

 糸が何重にも《ベニジシ・スパイダー》を絡み取り、そのまま繭を作ります。

 そして――

 

 

 

「狩りの時間だ!! 《ハイパー・マスティン》、NEO進化!!」

 

 

 

それを食い破り、現れたのは巨大な蟷螂のNEOクリーチャーでした。進化してもしなくても出せる新世代のタイプ、NEOクリーチャーですが特にこの《ハイパー・マスティン》はフィニッシャーとして十二分過ぎる強さを誇っています。が、そんなゲームでの特徴などどうでもよくなるほどに私は戦慄していました。

 確かにスタイルは人のそれに近く、どこかで見た仮面ライダーとかに似てる気がします。

 ただ、とても巨大でした。風が吹き上げ、肌を撫でると共に言いしれない恐怖を感じました。

 見上げるほどの強大さです。聳え立つというのは、こういうことでしょう。私のような小さな少女など、すぐさま圧し潰されてしまいそうです。巨大な昆虫種族、グランセクトの強大さを目の当たりにした気分でした。

 

「まずは《パンプパンプ・パンツァー》で《プラチナ・ワルスラS》を破壊」

 

 野菜戦車の砲撃が一瞬でうちのインチキスライムを蒸発させてしまいました。

 流石力を司る自然文明と言ったところでしょう。衝撃波が凄まじいですが、これだけでは勿論終わりませんでした。

 

「更に、《ハイパー・マスティン》で攻撃するとき、効果発動!! 山札の上から3枚を捲り、その中からパワー12000以上の進化ではないクリーチャーを好きな数出せる!!」

「やはり、来ましたか……!!」

 

 次の瞬間、大地から3つの繭が現れました。

 パワー12000以上のクリーチャー。安定して出すならば、デッキの殆どを高コストにしなければならない気がしますが、自然のクリーチャーの中には低コストにも関わらずパワーが12000以上あるクリーチャーが少なからず存在するのです。そのためか――

 

「《マファリッヒ・タンク》、《界王類七動目 ジュランネル》、《くまくまわり》をバトルゾーンへ!!」

 

 ――冗談じゃない絵面になりました。どう考えても害虫はこいつらです。特大ブーメランです桑原先輩。

 コスト4でパワー12000、そして他のパワー12000以上のクリーチャーが居なければ攻撃できないT・ブレイカー持ちのグランセクト、《マファリッヒ・タンク》。

 コスト1でパワー24000のワールドブレイカーという恐怖のスペックですが、タップして場に現れる上にマナが7枚無ければアンタップされない《ジュランネル》(ただし、先輩のマナは11枚あるのでとっくにマナは足りてます)。

 コスト6でパワー12000、登場時にマナ加速して、それがクリーチャーでなければマナに置かれる全然可愛くない《くまくまわり》。

 特大パワーのクリーチャーが並んでしまいました。やめてください、しんでしまいます。

 

「《くまくまわり》の効果で山札の上から1枚をマナゾーンに置く。それがクリーチャーでなければこいつはマナに置かれるが、クリーチャーの《ボントボ》だったので場に留まる。そして、《ハイパー・マスティン》でシールドをT・ブレイク!!」

 

 シールドが一気に3枚、割られてしまいました。

 物量で負けているので、次のターンを渡せば私は確実に負けるでしょう。

 このままでは――どうしましょう、みづ姉。先輩達。私は、私は1人じゃ何もできないんです。

 私だけじゃ、何も――

 

「諦めんじゃねぇぞ!!」

 

 声が、しました。

 今手札に加わろうとしているシールドから聞こえてきました。

 その声は今までの中で一番はっきりとしていました。

 

 

 

「自分の姉ちゃんの涙を見て――このまま黙って負けちまうのかよ!!」

 

 

 

 はっ、と私は目の前の相手を見ます。

 そうでした。このまま、引き下がる事は出来ません。

 此処で諦める事は、みづ姉を裏切るということ――そんなこと、私に出来る訳がないのですから。

 

「S・トリガー発動。呪文、《スパイラル・ゲート》。その効果で、《ハイパー・マスティン》をバウンスします」

「何……?」

 

 激流の渦に飲み込まれ、《ハイパー・マスティン》は消滅しました。

 とはいえ、まだ桑原先輩の場にはクリーチャーが4体も残っているのですが――問題はありません。

 

「私のターン、ドロー」

 

 既に私のプランは、決まっています。

 

「ステップル。貴方を見逃そうと思ったんですよ、私は。まあ理由はどうあれ、桜の事や美術室の事、そして先輩に取り付いた事も、私には直接関係無いことです」

 

 マナゾーンのカードを7枚、タップし――自分でも驚くほど冷え切った声で言いました。

 

「でも、駄目です。貴方はたった1つ、たった1つの、やってはいけないことをやってしまいました。”みづ姉を泣かせた”。それが直接的であれ、間接的であれ、関係は無いのです。私は、貴方をみづ姉への害意とみなし、徹底的に排除します」

 

 淡々と紡ぐ私の声は、決して目の前の先輩にもあの妖精にも届かないでしょう。

 それで構いません。

 ですが、同時に思い知らせてやるとしましょう。私は、大事なモノの為ならば冷酷な魔女にさえ成り得るという事を――

 

 

 

「――深き水底へ還りましょう、《深海の覇王 シャークウガ》」

 

 

 

 水文明のマナが集結し、それは虚空に現れました。

 鮫の意匠を身に纏った魚人のクリーチャー。静かなはずの深海に野心の牙を剥き、武力を敷いて異端者を排除する文字通りの覇王。

 耳まで裂けたその口は、召喚されるなり冗長に開きました。

 

「この姿で出てくるのは、初めてだが――まあ良い。ようやく会えたな、マスター」

「シャークウガ……やっぱり、貴方だったのですね」

「お前の姉ちゃんがお前に渡したデッキ。そこに入っていたエリアフォースのカードが、お前を選んだんだ」

「そう、ですか。良いでしょう。この力、存分に借りるとしましょう。まず、貴方の登場時効果で私は2枚ドローします。そして――」

 

 言うなり、私は4枚の手札を捨てました。

 全て、水のカードです。そして、これが《シャークウガ》の力の糧となるのです。

 

「《シャークウガ》の効果発動。こうして今、捨てた手札の数だけ相手のコスト7以下のクリーチャーを1体選び、持ち主の手札にバウンスします。つまり――全員、強制送還です」

「なっ――!! 馬鹿な!!」

 

 そう。確かに全員パワー12000と高いですが、コストが7以下ならば全て《シャークウガ》の餌食になるだけ。

 激流が野菜戦車や昆虫、巨龍を巻き込んで竜巻となり、皆先輩の手札へ押し流されてしまいます。

 形勢逆転。今度は全滅したのは先輩の方になりました。

 

「そして、残る2マナで《異端流し オニカマス》を召喚。このクリーチャーが居れば、相手が召喚以外の方法でクリーチャーをバトルゾーンへ出した時、強制的に手札へ送還します。もう、《マスティン》の効果は使わせませんよ」

「あ、ぐっ……!! くそっ、リベンジ・チャンスで《ベニジシ・スパイダー》を場に出す……!」

 

 どうやら図星だったようです。

 

「くそっ、くそっ!! 俺の、俺の創作の邪魔をするなァァァーッ!! 《ベニジシ》を《ハイパー・マスティン》へNEO進化!!」

 

 デッキにスピードアタッカーの《メガ・ドラゲナイ・ドラゴン》が入っていれば、ダイレクトアタックまで決めることも出来ますが、《オニカマス》がいるのでそれもできない。

 よって――

 

「《ハイパー・マスティン》で攻撃!! その効果で山札の上から《マファリッヒ・タンク》と《デスマッチ・ビートル》を――」

「両方とも、《オニカマス》の効果でバウンスします」

 

 空気を切って飛んだ三つ又の槍が、野菜戦車と巨大な甲虫を貫きました。

 そのまま、カードの姿に戻り、手札へと戻されていきます。

 勿論、私のシールドは全て割られましたが、このターンではもう決められませんね。

 

「ターン、エンド――!! だが、《ハイパー・マスティン》の効果で、相手のパワー3000以下のクリーチャーは攻撃できない!! そっちもそのままじゃ、俺を倒す事は出来ないはずだ!!」

「はぁ、確かにそうですね。困りました」

 

 確かに今の場では、こちらも先輩に勝つことは出来ず、ターンを渡してジ・エンドと言ったところでしょうか。

 言うほどバウンス呪文は積んで無いんですよね、このデッキ。ですが――

 

「では、墓地が6枚以上あるため、G・ゼロで《百万超邪(ミリオネア) クロスファイア》のコストを支払わずに召喚します」

 

 火柱が上がりました。

 そして現れたのは灼炎の無法者。

 100万超えのパワーを持つ、バトルでは敵無しのまさに型破りにして規格外なクリーチャーです。

 

「なっ、《クロスファイア》だと――!?」

「このデッキ、手札を捨てる効果が多いからか割と墓地が溜まりやすいので」

 

 また、此処は《ハイパー・マスティン》を破壊してから《オニカマス》でトドメを刺した方が安全でしょう。

 万が一、S・トリガーが発動してしまった時のリスクが段違いです。

 

「《クロスファイア》。《ハイパー・マスティン》に攻撃です」

 

 《クロスファイア》はパワーアタッカー+100万を持つスピードアタッカー。

 例え、12000だろうが15000だろうが、この圧倒的な力の前では無力。

 正面から、火器が大量に放たれ、《ハイパー・マスティン》を破壊してしまいました。

 

「そして、《シャークウガ》でW・ブレイク」

 

 激流の拳が残るシールドを全て打ち砕いてしまいました。

 

「そ、そんな、馬鹿な、俺の芸術が――クソがァ!! S・トリガー、《ナチュラル・トラップ》――」

「発動するのは良いですが、《オニカマス》は呪文やクリーチャーの効果では選ばれませんよ」

「ぐうっ……!!」

 

 浮かび上がる、妖精の姿。

 でも、今更もう逃がしません。みづ姉を泣かせた罪、万死に値します。

 

 

 

「――沈みなさい。《異端流し オニカマス》でダイレクトアタック」

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