学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace7話:水晶事変─砕

※※※

 

 

 

 ――目を開ける。

 多少だが、まだ手も足も動く。

 まだ火花が散っているし、全身が痛い。

 しかし。まだ、眼前にはロードの姿があった。

 右手には、自分の白紙のエリアフォースカード、そして左手には小さいワンダータートルがぐったりした姿で掴まれていた。

 

「……ロード……! 返して……!」

「ああ、やっと起きたんだ、ブラン。でもごめんね。これは僕が貰っていくよ。あいにく、人類を救済するには正義が必要なんだ。所で――」

 

 彼は低い声で語りかけた。

 

「――大迷宮亀ワンダータートル」

『……貴様……探偵は、ブランはヌシに会うのを楽しみにしておったのだぞ……! ヌシの事をあんなに好いておったのだぞ……! どうしてこんな事が出来る! なぜ、こんな真似が出来る……! 答えろ……!』

「誰がお前に喋ろと言った」

 

 ブランは身の毛がよだった。

 今までの何時よりも、此処まで彼の声を怖いと思ったことは無かった。

 

「お前はブランを戦いに巻き込み、あまつさえ僕に逆らわせた。これは、重罪だよ」

『何を……これは、探偵の意思じゃ』

「黙れって言ってるだろ。僕は、まず君を裁かねばならない。遅かれ早かれ、君の存在は僕の理想にとって邪魔なんだ」

 

 ブランは胸が詰まるような思いがした。

 いけない。ワンダータートルが危ない。

 

「最後に言い残す事があるか?」

『ワシは……ぐぁっ……』

 

 パクパク、と口を動かすのが見えた。だけど、もう彼の声は聞こえない。

 力尽きる寸前だからだろうか。 

 今までの思い出が鮮明に蘇る。

 アスファルトでひっくり返っていて、それを助けた時。

 ワイルドカードの事件の捜査中に途方に暮れて、それを助けてくれた時。

 あの時から2人はコンビになった。

 何度も助けられた。いつの間にか、心の拠り所になっていた。

 彼は、いくつもの謎を見せてくれた。一緒に謎を解くのが楽しくて、当たり前になっていた。

 離れるのが嫌で、イギリスに行く時も一緒に見たことのない世界を見せてあげたくて――

 

「嫌だね。言わせない」

 

 ロードは、宙にワンダータートルを放った。

 湖に浮かぶ水晶の瞳が光る。

 小さい身体は、夜の闇を舞い――

 

 

 

 

「やれ、DG」

 

 

 

 

 裁きの閃光が1発。2発。

 刺し貫いた。

 ジュッ、と蒸発するような音と共に断末魔の叫びが聞こえた。

 そのまま――煙を吹いて、地面に転がった。

 

「ワンダー……タートル……?」

 

 ブランは目を見開いた。

 余りの一瞬の出来事に、考えが追い付かない。

 しかし。目の前で煙を吹き、横たわる相棒に――叫んだ。

 

 

 

「ワンダータートル!!」

 

 

 

 だが、もう――相棒は、答えなかった。

 

「死んだの……? ワンダータートル……?」

 

 恐る恐る、彼女は口を開いた。

 

「ワンダータートル!! 私、まだ貴方といっぱい謎を解きたい……!! 貴方と一緒に、冒険したい!! 私が探偵で、貴方が相棒で……ホームズを超える世界一の名探偵コンビになれるはずなんだよ!? 嫌だ!! 嫌だからね、ワンダータートル!! これまでもそうで、これからもそうだよ!!」

 

 だから、これからも一緒だ。

 そのはずだ。

 ずっとは一緒に居れないかもしれない。

 それは分かっていた。

 だけど――離れる事が、嫌だった。

 

 

 

 

 ――探偵。

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 脳裏に彼の声が届いた。

 

「良かった――まだ、生きてて――」

 

 

 

 

 ――ワシは、嬉しかったぞ……ヌシが、ワシを相棒と認めてくれたのが。

 

 

 

 

「嫌だ……そんなの、お別れみたいじゃないっ……」

 

 

 

 ブランは拳を握り締める。

 こんな事は、有り得ない。

 敗けたとしても。彼が、彼が簡単に死ぬはずはない。

 エリアフォースカードのクリーチャーにも死は、消滅という形で存在する。

 それを目の当たりにしてきたが故に、今目の前で起ころうとしている事実をブランは決して認めようとしなかった。

 だが、事実もうワンダータートルは喋る気力すら無く、抵抗する体力すら無く、今こうしてブランに今際の言葉をテレパスという形で伝えようとしていたのだった。

 

 

 

 ――なあ、探偵。済まなかった。最後の最期で……ヌシを守れなんだ。

 

 

 

 

「嫌だ……!! 聞きたくない……!!」

 

 

 

 無力感。

 何も出来なかったのは自分の方だった、とブランは責めた。

 唇を噛み締めると血の味がした。

 守られてばかりで、助けられてばかりで、自分は肝心な時に何も出来なかった――!!

 

 ――なあ、探偵。ヌシは……ワシにとって、最高の名探偵だ。ワシに、広い世界という真実を見せてくれた。それだけで十分じゃ。

 

 

 

「やめてよ――ワンダータートル……私は……!!」

 

 

 

 ああ、そうか。

 今になってやっと分かった。

 自分は彼を助けられなかったのを悔やんでいるのではない。

 守られてばかりだったことに後ろめたさを感じているのではない。

 

 

 

 

 ――ワシは……ヌシから、それだけで沢山のものを貰った。

 

 

 

 貰ったとか、助けられたとか、そんな事はどうでもよかったのだ。

 

「嫌だぁ……まだ……一緒に居たいよ……居たいのに……!!」

 

 ただただ、一瞬でも長く、この最高の相棒と一緒に居たかっただけなのに。

 

 

 

 

 

 

「ワンダータートル……私は……!」

「何だ。このくたばり損ない、まだ生きてたのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 血液が、凍り付く。

 彼の声は途切れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――さらばだ。”ブラン”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――役立たずのカメが。お前の名は何だ? 僕には全部見えてんだよ。正義。正義、正義、正義!! それでも正義(ジャスティス)を司るエリアフォースカードの守護獣かよ、笑わせるな」

 

 閃光が迸った。

 潰れるような声が響く。

 1発。

 またもう2発、と小さな体を穿つように光が迸った。

 

「ブランを危険に巻き込んだ。戦いに放り込んだ。こうやって僕に歯向かわせた。崇高なるクォーツライトの理想に唾を吐いた!!」

 

 ゆっくりと、その穴だらけになった宝石亀の身体をひっくり返す。

 げほっ、と咳き込むような音と共に小さな首が飛び出した。

 照明に照らされてはっきりと、ブランにもそれが見えた。

 

 

 

 

「消え失せろ。二度とその面をブランに見せるな」

 

 

 

 

 何かが潰れるような音。

 どくどく、と流れ出す魔力の光。

 硬い靴底は、はっきりと大迷宮亀だったものの頭を踏み潰していた。

 今度こそ――それは、光の粒となって、砕け散り、後には何も残らなかった。

 まだ、何があったのか彼女は受け入れられない。

 だけど、もう彼の、相棒の声は聞こえない。

 頭をどんなに抑えても。

 どんなに耳を澄ませても。

 もう、相棒は――

 

「ワンダー、タートル……?」

「ああ。今度こそ死んだよ。今、そっちに行くね、ブラン」

「死――」

 

 

 

 

 

 ――この世には、居ない。

 

「返して……!!」

「ん?」

「返してよっ……!! 返してってば!! 私の……!! 私の……相棒を……!1」

 

 彼女は手を伸ばす。

 しかし。全身が痺れるように電撃が迸り、全く言うことを聞かなかった。

 まだ、まだ生き返るのではないか。

 あのエリアフォースカードさえ取り返せば……そんな淡い期待もあったのかもしれない。

 しかし。

 

「駄目だよ、ブラン。これは僕の物だ。それとも、まさか、まだ彼が生き返るとでも思ってる?」

「……エリアフォースカードを……!!」

「甘いなあ、ブラン。そんな事、あるわけないだろ。一回完全消滅した魔力生命体は、二度と元には戻らないんだよ。絶対にね」

「元に……戻らない?」

「ああ。君達は、ワイルドカードを倒した事があったんだろう? かなり戦い慣れてたみたいだからね。それと同じさ。君、今まで一回でも倒したワイルドカードのクリーチャーが生き返った事があったかい? エリアフォースカードの守護獣も原理は同じでね……所詮は複製品だからかな」

「ふく……せい……ひん……?」

「そうだよ。コピーだ。コピーはオリジナルの劣化品。クリーチャーもそれは例外じゃなくてね……一度消えたら、もう二度と元に戻らない。それは、君も分かってたんじゃないのか?」

「ああ……あああ……」

 

 わなわなと震える手。

 眼球が乾き、雫が零れ、口がぽっかりと開いていく。

 

「だけど、何もおかしい事は無いだろう? だって――君の代わりにワンダータートルは死んだんだよ!! あいつの効果は味方への攻撃の身代わりになって発動するんだろう? だからさあ……最期の最期で君を身代わりにして果てたって事さ!」

「っ……身代わり……!!」

「そうだ。だって、DGの攻撃に、生半可なクリーチャーが、人間が、まして魔導司が、耐えられるわけないじゃないかあ!」

「ああ……あああああ……!!」

「というわけで。要は君が弱かったから、彼は死んだ。シンプルな話じゃないか」

 

 私の、所為?

 私を身代わりにして?

 私が弱かったから?

 死んだ。

 死んだ死んだ死んだ。

 ワンダータートルは――死んだ。

 

「嫌……嫌だ……あああ」

 

 堪えてきたものが全て、決壊するように、少女を狂わせた。

 切れたダムのように、全てを押し流した。

 

 

 

「あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 悲鳴が、夜のハイドパークに響き渡る。

 悲劇をバックに木霊していく。

 喪失を呪うように、己の無力を恨むように。

 ずっとずっと、木霊していく。

 留まる事無く、突如理不尽に奪われた大切な存在を乞うても、もう戻っては来なかった。

 

「っ……」

 

 しかし、泣き叫ぶ彼女の声はそこで途切れる。

 かくん、と糸が切れた人形のように彼女の頭は地面に伏せた。

 かつん、かつん、と鳴る硬い靴の音。

 機械のように感情の無い冷たい声が響く。

 

「黙らせておきました。ロード様」

 

 そこにあったのは、水晶の龍人。

 ヒトガタに角、牙が生え、全身が透き通った異形。

 それが群れを成してロードに付き従っていた。

 

「ご苦労。で、そっちはどう?」

「滞りなく」

「そうか。君達ならやってくれると思ったよ。流石、僕の自慢の人形だ」

 

 言ったロードは倒れ伏せたブランに向き直る。

 

「悲しい思いをさせてごめんね……ブラン。だけど、僕がもっと良い物を見せてあげるよ。僕の近くで」

「それでは、この小娘は……」

「連れていけ。もしかしたら……ブランなら、出来るかもしれないから」

「それは……例の」

 

 彼は髪を後ろに束ねた。

 そして、眼鏡を外す。

 月光が、彼の顔を照らした。

 野望、そして希望に彼の口が三日月を結ぶ。

 

 

 

 

「――そう……裁キノ巫女の役目をね」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「先輩!!」

 

 

 

 倒れ伏せた耀の姿。

 一部始終を見届けた紫月と火廣金は酷く焦燥に駆られていた。

 もう、これで逃げ場も逃げる手段も無くなった。

 まさか、耀は死んでしまったのだろうか。

 あの様子では、只では済まないように思えた。

 仮に生きていたとして――

 

「おい、暗野!!」

 

 飛び出す紫月。

 火廣金は呼び止めようとするが、身体がぐらつき、そのまま地面に手を突く。

 巨龍の前に立ちはだかったのは――紫月だった。

 手を広げ、大男を睨みつける。

 

「これ以上は……私が通しません……!!」

「おっと。だけど、お前の守護獣は――」

「今の彼に迷惑はかけません。私1人で、貴方を食い止めてみせます……!」

 

 恐ろしい。怖い。

 だが、今此処で引き下がれなかった。

 ずっと、守られてきた。その借りは此処で返す。

 今度は自分が守って見せる。彼女はデッキを握りしめた。

 

 

 

 

「……おい……!!」

 

 

 

 ――しかし。

 その声が巨龍と紫月の視線を集めた。

 耀が――確かに上げた声だった。

 それも、あのダメージを受けた状態で――立ち上がっていた。

 

「……貴様。まだ生きてたのか?」

「て、めぇ……俺の後輩に……手は出させねえぞ……!!」

 

 見ると、彼のエリアフォースカードが燃え上がるように炎を放っている。

 その迫力に――巨龍もさも意外だったと言わんばかりの顔で――

 

 

 

「クッ、クカハハハハハハハーッ!! 此処までとは!!」

 

 

 

 ――高笑いを、上げた。

 

「貴様等は素晴らしい逸材だ。我が主が見れば喜ぶ」

「っ……てめ、待て……! 勝ち逃げは……!」

「先輩!!」

 

 ふらつく身体を紫月が受け止める。

 大男の身体が宙に浮いた。

 

「後は、我が主の裁きを待つのみだ。せいぜい抗いたまえ」

「待ちやが……っ!」

 

 言いかけた耀だが、とうとう膝をつく。

 そのまま、炎に包まれたかと思うと――大男の姿は消失したのだった。

 

「……先輩。肩を貸します。一先ず、皆さんがこっちに気付くまで――」

 

 言いかけた紫月。

 しかし、耀が頷く間もなく、水晶が陸橋へ侵食してくる。

 彼女は耀を抱えたまま駆けだそうとする。

 しかし、重くて動けない。

 

「レディ!!」

 

 そんな声と共に、火廣金が駆け寄ってくる。

 汗ぐっしょりで息を切らせていたが、耀の肩をそのまま背負った。

 

「火廣金先輩……!」

「逃げるぞ! 一緒に……! このままでは俺達も水晶の下だ……!」

 

 そう言って駆けだして逃げたも束の間。

 行く先々に水晶は近付いてくる。最早、行先は無い程に。

 

「あっちもこっちも……行き止まりか!」

「こんなの、どうすれば――」

 

 クリーチャーの力は使えない。

 シャークウガは大損害を受け、チョートッQはダウン。

 火廣金は召喚すら、もうできないようだった。

 万事休すと思われたその時。

 

 

 

 

 

「お前たち、今行くゾ!!」

 

 

 

 

 その声と共に、空中から触手が降り注ぐ。

 そして、紫月、火廣金、耀の身体に何重にも巻き付き、空へとひっぱりあげられた。

 

「なっ、これって――!!」

「これは……」

 

 火廣金は引っ張りあげられる中で空を見上げた。

 そこにあったのは――半身が怪物の、巨人の姿だった。

 

「ドルゲユキムラ――!!」

 

 しかし、問題はさらにその先。

 大きな翼を広げて、空に浮かぶものがある。

 紫月はそれを睨むと、呟く。

 

 

 

 

「――飛行……艇……!?」 

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