学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace8話:水晶の龍人

 暗く、鬱蒼とした樹海。

 腐った木々、あるいは動物の死骸がもたらす死の匂いが漂う腐の森の最奥。

 魔導司でさえも好き好んで足を踏み入れる者は居ない。

 そんな場所に魔導調査団と呼ばれるこの組織が拠点を築いているのは、この森の奥にあると言われる遺跡の調査であった。

 テントを張ってキャンプを作ったものを拠点にし、加えて第一網、第二網……と呼ばれる警戒部隊を何重にも敷くことで侵入者の接近を警戒していた。

 無論、樹海の上空も飛行能力を有すクリーチャーを従えた魔導司が警備をしており、抜かりはない。

 そして、残りの面子が遺跡の調査を行う本部隊であるということから、この調査が大掛かりであることが分かる。

 

「だから貴様も無駄口を叩くな」

「またまたぁ、実は退屈なの嫌いな癖にぃ」

「任務は任務だ。言われた通りに実行するまでだぞ。それに、魔導司自体が酔狂な馬鹿共の集う役職であるのだから」

「まあ、侵入者が来なければ警備哨戒程楽な仕事も無いしねえ」

「おい、気を抜くんじゃない」

 

 黒いローブの2人組は、拠点付近の一角をペアで警備していた。

 彼女は、溜息をつく。

 相棒たるこの男の軽薄さに。

 悪い人物ではないのだが、お気楽が過ぎる。

 が、流石にこの様子では大した事件も無さそうだという空気が流れつつあった。

 そうなると退屈を紛らわせる為に彼が結局無駄口に走ろうとしても、もう誰も咎めようとはしなかったのだ。

 

「所でよお。あのアルカナ研究会会長のファウストが会長の座を降りたってマジなん?」

「本当だ。どうやら、日本での駐留任務の中で魔力を全てロストしたようだからな。その上、手柄を独り占めしようとしたからか、エリアフォースカード関連の情報を隠していたと来た。責任をとって辞退した形だ。会員からは慕われていただけに残念な事だ」

「俺、ちょっとあいつの事きな臭いって思ってたんだよなあ。わざわざ自分の人口身体(ホムンクルス)にロリ選んでるしよ」

「ふん……何だそれは。しかし、エリアフォースカードについての情報もかなり判明したな。よもや、当事者がファウストの父親とは。まあ、現魔導協会会長以上に高齢のファウストの父が作ったものだ。ざっと1000年も前に作られたものと来た」

「1000年かあ……短いような長いような……俺もホムンクルス使えばそれだけ生きられるのかね」

「人体錬成に至れればな」

「へいへい、俺には無理な話でしたよ」

「でだな。その情報を頼りにすると……愚者(ザ・フール)以外は持ち主が存在するので、彼らに預ける事にしたらしい。他の魔導組織が監視しているようだが」

「良いのか? 人間だろ?」

「詳細は明らかではないが、日本で起こった一連の騒動の解決に一役買ったらしいな。で、下手に引き離して暴走させるよりは預けておいた方が良いという結論に至ってな」

「そうかあ。で、お前的にはどうなん? その人間達」

「別に」

 

 会ってみたい、とは思った。

 魔法使いという種族の宿命か、好奇心には抗えない。

 

「まあ、どっちにしたって面白い奴等だよな!」

「そうだな」

 

 思案する。

 クリーチャーを従え、魔導司と戦う術を持った人間。

 しかし、私欲ではなく仲間を守る為に戦う人間。

 彼らに、興味が湧いたのだ。

 

「――っ」

 

 刹那。

 肌が泡立った。

 腐臭に塗れた森の空気が、木々を揺らす風の流れが確実に変わった。

 

「何だ……!? 第一網、第二網は何をやっている!?」

「緊急結界を張れ! 侵入者確認! 凄まじいスピードで、こっちまで迫ってるぞ!?」

「通信!! 第一網と通信をとれ! なっ、繋がらないだと!?」

 

 現場は突如の侵入者に混乱を極めた。

 明らかに異物ととれる魔力の反応。

 それが、ふらふらとおぼつかない動きでここまで迫ってくるのである。

 馬鹿な。馬鹿な事があるものか。

 何重にも張り巡らせた部隊の警備、おまけに防護結界を展開し、大抵の侵入者は誰も来られないはずなのに。

 だが、油断していたという訳ではない。

 急場でも相手の動きを止めるしのぎの付け方は身に着けているのだ。

 

「別の網の様子を見に行け。その部隊に応援を求む!」

「了解だ!」

「よしッ……! 簡易召喚、緊急Ⅷ式β……(ストレングス)! 《鳴動するギガ・ホーン》!」

 

 咄嗟に魔法陣を展開し、クリーチャーを呼び出す。

 背後からは、巨大な角を携えた猛獣が現れる。

 そして、魔力が迫ってくる向きめがけて咆哮した。

 それと共に木々が揺れる。

 咄嗟の召喚だったため、クリーチャーの姿はすぐさま消えてしまったが、これで大抵の侵入者は咆哮によって姿が炙り出される。

 が、侵入者と思しき姿は見えない。

 探索を司るこのクリーチャーに見つけられない物は無いはずだが――

 

「っ……外した!? 馬鹿な。何処に行った!?」

 

 

 

 

「あぅう……ごめんなさい……急にそんな大きな声出されたら……びっくりしちゃうじゃないですか……」

 

 

 

 

 肌が泡立つ。

 背後。

 振り返り、彼女は飛び退いた。

 すぐさま、周囲の魔導司も駆けつけてくる。

 そして、その姿を目の当たりにしたとき、相手の異様さに彼女は口を噤まざるを得なかった。

 全身が水晶で出来た竜人。

 それが木の影から何体も何体も這い出て来る。

 

「な、何なんだコイツらは──」

「おい、さっさと伸すぞ! こんなもん通したら怒られちまう!」

 

 合図を送った。

 飛び掛かる魔導司数名。

 

「各員、戦闘用意! 奴に思い知らせてやれ!」

 

 次の瞬間、彼女の号令に合わせて魔導司達は、召喚術式を組み立て、クリーチャーを召喚していく。

 直接の戦闘が得意ではない彼女は、再び距離を離し、援護をしようと召喚術式を組み立てる。

 が、次の瞬間だった。

 そこから飛び出す――無数の黒い影。

 飛び出し、宙を舞う。

 

「――待て、止ま――!!」

 

 そして――音も無く、それはうねうねと動き回ると、夥しい量の赤黒い色水が悲鳴、絶叫も無く爆ぜるようにして空気に飛び散り、雨となった。

 

「っ……!!」

 

 何が起こったのか分からなかった。

 どさどさ、と音を立てて次々に地面に落ちていく同胞――否、同胞だったものたち。

 一瞬、視界が真っ白になった。

 が、すぐさま意識を元に戻す。

 彼女は異様な光景が、長い長い生涯の中で最も強烈に焼き付いていた。

 息をするのも忘れていた。

 声も無く、音も無く、一瞬で――

 

「馬鹿な。こんなことが、あるわけがない」

 

 そこにあるのは、未知への恐怖。

 言い知れない、言葉を持たない水晶の怪物への恐怖。

 何より、自分は今その得体のしれない怪物に心臓を握られているも同然だということを思い知る。

 ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が聞こえてくる。

 後ずさっても、もう遅い。

 逃げられない事は分かっていた。

 次の瞬間。

 怪物達から伸びた触手が再びうねうねと動く。

 まだ目の前の凄惨な状況を飲み込めないまま、魔導司はその光景を虚ろな目で見つめている――この世の地獄が、最期に見えたかと思えば――

 

 

 

 ――その視界が、一瞬で真っ赤に染まり、暗転したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「――こいつぁ……何だ!?」

 

 耀達と別れた桑原、黒鳥、花梨。

 そのまま、花梨と黒鳥は風切り羽の如きマフラーで宙を翔ぶゲイル・ヴェスパーに抱えられるように、そして桑原はその巨大な背中に掴まっていた。

 

『一番魔力が強い此処まで来たのは良いけど……』

 

 今まで、ただの水晶が広がるだけだった辺り一帯。

 しかし。

 その水晶地帯の最奥には、確かにこちらを睨むものがあったのである。

 穿つようにして、刻むようにして、ぐりぐり、と動いてこちらを睨む球形の物体が埋め込まれている。

 不気味で、近寄りがたいものであったが――確かにその姿を確認できた。

 

「発生源は此処で間違いないな。僕でも分かるぞ。魔力が此処から広がっているのが」

「だけどどうやって破壊しますか?」

「阿修羅ムカデとゲイル・ヴェスパーで攻撃してみるか。近づきすぎるのは危険だが――」

 

 黒鳥がそう思案した矢先。

 うねうね、と眼を中心にして水晶が蠢きだす。

 ヴェスパーはすぐさま飛んだまま旋回して、そこから離脱する。

 すぐさま桑原の怒号が飛ぶ。

 

「何離れてんだ! あれをぶっ壊すんじゃねえのかよ!?」

『マスター! 駄目だ! 動き出すぞ!』

「はぁ!? 動き出す!?」

 

 ヴェスパーは首を縦に振った。

 はっきり言って、すぐにはヴェスパーの言っている事が信じられない。

 無機物である水晶が、動き出す所など想像も出来ない。

 だが、それを否定するかの如く、次の瞬間には地を裂くような轟音が轟いていた。

 

「っ……!!」

 

 蠢きだした水晶はまるで粘土のように形を変えていく。

 ぐにぐに、と姿かたちを変えて――ガバァッ、と水晶が飛び散るとともにぱっかりと割れていく。

 それはまるで、柱のように突きあがっていった。

 眼球の存在していた、その一帯だけであるが、まるで塔のようにそれは高く高く天を目指して聳え立つ。

 そして、割れた部分からは次々に牙のように水晶が生えていく。

 

「tjjklopolhjjouffrdcbnjfndkmvbt……!!」

 

 言語を成さない声無き叫びが響き渡る。

 顎の如く、べちゃあっ、と液体の滴る音を響かせて、割れた部分が地に伏せた。

 それは、最早――正真正銘、龍の首であった。

 

「abcncxmndnmm……!!」

 

 耳を思わず塞いだ。

 これでは、この水晶が、この水晶そのものがクリーチャーのようではないか。

 

「おい、おいおいおいおい……!!」

「にゃあ!? ドラゴン!? あれって、もしかして、ドラゴンなの!?」

「この街一帯を覆う巨大な水晶……これが全て、あの怪物のものだとして……どうやって倒せば良いんだよ!?」

「倒せないだろうな! 今この3人では、まともに奴に近付く事すら難しいだろう! あのサイズだ、相応の力を持っているだろうよ!」

 

 黒鳥が慄いている。普段からは考えられないほどに。その矢先に雷の如き咆哮が再び轟いた。

 そして――背後が、一瞬だけ光った。

 視界が、全て白く染まっていく。

 

『ウソだろ……!?』

 

 最後に聞こえたのは、ゲイル・ヴェスパーの呻くような狼狽。

 それは、巨大な閃光。全てを無に帰す光。

 すぐ後ろにあった柱が、陸橋が、全て吹き飛び、白に呑まれて消えていく。

 光の速度に追いつけるのは――それこそ微粒子か同じ光のみ。風は追い越せない。

 

 

 

 

「何やってんだテメェら!! 死にてえのかってんだよ!!」

 

 

 

 

 次の瞬間、怒号が轟く。

 そして、ゲイル・ヴェスパーの身体をもう一筋の光が掴み、そのまま上空へ強く引っ張り上げた。

 余りの眩しさに目が眩んでいた。

 が、爆音が、下から轟き――

 

 

 

 

 バキバキバキィッッッッッッ――!!

 

 

 

 

 岩が剥がれるような音が空気を裂いて、天へ突き上がったのだった――

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