学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace14話:女教皇(ハイプリエステス)

 ※※※

 

 

 

「うーん……なんか廊下が騒がしいと思ったけど、もう誰も居ないや」

 

 そんな騒ぎが起こった少し後。

 花梨は、通路をふらふらと歩いていた。

 少し廊下が騒がしかったので、何事かと思って出るが、もう誰も居なかったのでついでにお花を摘みに行っていた。

 しかし、用を済ませて再び通路を出た後、彼女はふと気づく。ロビーへの扉が開いたままになっていることを。

 向かってみると──そこには、火廣金の姿があった。

 大量のカードの束と睨めっこをしているようだ。

 

「火廣金?」

「……む、刀堂花梨か」

 

 彼女は内心申し訳なく思った。彼の邪魔をしてしまったようだ。

 しかし、当の火廣金はそういったそぶりは全く見せずに続けた。

 

「眠れないのか?」

「ちょっとね」

「そうか。まあ座りたまえ。どうせ俺も眠れそうにない」

「あはは……」

「何故笑う」

「いや、ちょっと安心しただけ」

 

 はにかむと彼女は火廣金の向かいに座った。

 彼の真剣そうな眼差しを、より近くで見られた。

 

「火廣金もそういう時、あるんだって」

「……俺は、君が無理をしている事の方が心配だがね」

「え……?」

「気付いていないとでも?」

 

 花梨は口を噤んだ。

 そして、一度腕の中に突っ伏すと、もう1度顔を上げて苦笑いした。

 

「やになっちゃうなあ。火廣金は全部お見通しなんだもん」

「……違うな。君は分かり易過ぎる。部長は君の気丈な所を買っているから、敢えて何も言わなかっただろうが……それならば敢えて俺は言わせて貰うぞ。君は、かなり無理をしている。今日は特にショッキングな出来事が続いたからな。全員同じだと思って、君は途中で堪えたが……無理に堪える必要は無い」

「あたしにそんな事言える資格無いよ」

「……」

「……皆、大変なのに……あたし、何にも出来て無いんだもん」

「何?」

「折角、冬休みまで火廣金に内緒でデュエマのトレーニング、付き合ってもらったのに……エリアフォースカードは結局目覚めなかった」

「刀堂花梨……」

「……みんなはもう、決戦に行く気マンマンなのに、あたしだけこんな状態なんだもん。足を引っ張るって分かってるよ。相手が怖いんじゃない。クリーチャーが居ないと、あたし1人だとあれだけ無力だって今日、思い知った。みんなと一緒に戦うのが、不安になっちゃって。あたしが、足を引っ張るかもって思うと……手が震えるんだ」

「……済まない、刀堂花梨」

「? 何で火廣金が謝るの」

 

 目を伏せたのは火廣金もだった。

 

「まず1つ。君の芽が出ないのは、少なからず教練した側の俺に責任がある」

「ごめん。そういうつもりじゃ……」

「それともう1つ。これは今の君には追い打ちになるかもしれないが……それでも言おう。今回に関しては、取り残されているのは何も君だけではない」

「あっ……」

 

 花梨は申し訳なさそうに口を縛った。

 そうだ。怪物たちに対して、絶対的に不利な火廣金だけではない。

 ファウストにトリス・メギス、ティンダロス。魔導司は全員、有効打を模索し続けており、それが見つかるまでは下手に前線に出られないのだ。

 

「皆と一緒に戦いたいのは分かる。だが、忘れるな。前線に出る時、後方で待ってくれる者の存在がどれほど頼もしいか。無理に君が今、前線に出る必要は無いのだ」

「……でも」

「アルカナ研究会の技術者も、君の戦車(チャリオッツ)を最優先に改修している。後は、君次第だ」

 

 そして彼は花梨の震える右手に手を重ねた。

 

「そして忘れるな。誰も君の事を不要とはしていない。いや、他の誰が何と言おうと……俺は君を見捨てはしない」

「……火廣金……」

「まだ時間はある。その間に俺が責任を持って、君のエリアフォースカードを目覚めさせる為にあらゆる手段を試そう。戦力の逐次投入はよろしくないが……準備が出来次第、彼らに加勢に行く事も出来る。良いか、絶対に自分が不要かもしれないとは思うなよ」

 

 彼は力強く続ける。

 

「だから……今くらいは存分に吐き出せ」

 

 花梨は少し置いた後、ぽつりぽつりと喋りだした。

 

「……何で、そこまでしてくれるの?」

「俺は、君に拾われた身だ。俺も何があっても、君を拾ってやる。人一倍他人に気を遣うお人好しを、俺は放っておけない」

「……火廣金」

「白銀耀のようにはいかないと思うがな」

「……ううん。ちょっとだけ、助かったかも。今日、色々ありすぎて……疲れちゃったから」

「……そうか」

「家は大変な事になってるみたい。本当なら、あたしも早く帰って手伝える事は何でもしてあげたい。だけど……それは出来ないから」

 

 じわり、と彼女の目じりが湿った。

 

「何で……こんな事になっちゃったのかなあ。お母さんも、お父さんも、今ばらばらになってるみたいだし、おじいちゃんもきっと心配してる……あたしが助けてあげたいのに……あたし、こっちに居ても何も出来ないなら、何もしていないのと同じだよ……サイテーだ」

「……」

 

 火廣金は、それを何も言わずに聞いていた。

 

「……いやだぁ……火廣金……嫌だよ……何も出来ない間に、皆が……死んじゃったら……あたしは……」

「……一緒に、戦車(チャリオッツ)を覚醒させよう。だけど、もしも君が家族を助けに行かねばならない時は……責任を持って、俺も一緒に行く」

「……火廣金……」

「だが、今は安心して良い。民間人の救助はひっそりと魔導司の大隊が最優先で行っている。魔導司は……人と魔法使いの調和を司る。人間を守るのも、使命だ」

「……うん」

「後ろめたさはあるかもしれない。だが、君の選択は──君がいつでも決められる。不安ならば、俺で良ければ傍に居よう」

「……うぇえ」

 

 腕に突っ伏して嗚咽が止まらない花梨。

 それが止むまで、ずっと火廣金は付き添っていた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──夜は明けようとしていた。

 朝日はもうすぐ昇る。

 だが、災厄とは突如にして、そして前触れなく現れるものだ。

 それを指し示すかの如く──早速、それは訪れたのだ。

 

「──警告!! 総員、直ちに起床後ロビーへ集合せよ!!」

 

 甲高いサイレンと共に、俺は驚きを持って朝の目覚めを迎えた。

 ベッドから飛び起きると、急いで身なりを整える。

 チョートッQは──技術室に居るのでまだ居ない。

 俺はすぐさま、駆け込むようにしてロビーの扉を開けて飛び込むと、巨大なモニターに映し出された無数の影。

 そして、そこで険しい表情を浮かべたファウスト、ティンダロスの姿があった。

 遅れて、他の皆も集まっていく。

 

「っ……ファウスト、何かあったのか!?」

「見ての通りだ。半径50km圏内に大量の影を認めた。間違いない。クリーチャーの群れだろう」

 

 まくし立てるようにファウストは言った。

 まずいことになった。どよめきが起こる。

 空の上というだけあって閉鎖されたこの空間を攻撃されるのは死に等しい。

 そして、空を自由に駆ける事が出来るクリーチャーは限られる。

 

「つまり、俺の出番って事だろ?」

 

 名乗り出たのは桑原先輩だ。

 ファウストは頷いた。

 

「もう少しで海戸湾に着くというのに……此処で邪魔されるわけにはいかない。全力で排除してくれ」

「わぁーってるよ。俺に任せておけ!」

「ファウスト。あたしも行こう。アルファリオンなら、雑魚を大量に撃破できる」

「ああ」

 

 ダンガンテイオーでは、どうしても空中での機動力に不安が出る。

 それくらいなら、桑原先輩が向かった方が良いとのことだった。

 

「どうしますか、先輩。私達に出来る事は……」

「流石に相手は空を飛んでるクリーチャーだからなあ……」

「何、安心しろよ。俺とゲイルでさっさと片付けてきてやる」

 

 そこに、運ばれてきたのはエリアフォースカードだった。

 

「全力で解析、及び魔力を注入しています。今まで以上の継戦能力が保証できるかと」

『話は聞かせて貰ったよ、マスター! さあ行こうじゃないか!』

 

 鼻高々に言ったゲイル。

 頷いてカードを手に取る桑原先輩。

 彼はトリス・メギスの方を向くと、言い放った。

 

「おい、トリス・メギス。足引っ張んなよ! さっさとやってやろうじゃねえか」

「おま、誰に口きいてんだァ!? あたしを誰だと──」

「トリス。今は良い。健闘を祈る」

「……」

 

 ファウストに窘められて、トリス・メギスの怒鳴り声が収まる。

 

「仕方ねえな。アルファリオンで全力支援を行う! ヤバそうだったら、光の速さで連れ戻すかんな!」

『はははは、頼もしいなマスター!』

「ああ! さあて、寝起きだが一丁やってやるか!」

 

 しかしまあ、よくもあんな大空で生身で戦おうと思ったものだと思うが……一応彼に、空での環境に適応できるように何重にも[[rb:肉体強化魔法 >バフ]]を掛けているという。

 成程、魔法というのはこういう時にも使えるんだな。

 とはいえ、落下したらまずいらしいが、ゲイルが居る以上その心配も無くて良いという。

 

「そんじゃあ、こっちの事は任せるぜ。白銀」

「……先輩……」

 

 大丈夫だろうか。先輩も強くなっている。何だか、特攻に向かう兵士を送り出すような気分になってくるが、実際それも同じだろう。

 言った彼は──遂に空へ飛び立つ。

 ハッチを開けて、そこからゲイル・ヴェスパーに抱えられるようにして。

 そこから一筋の風と、一筋の光が飛び立ったのが見えた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 画して。

 桑原甲とゲイル・ヴェスパー、そしてアルファリオンによるクリーチャーの包囲網打破が始まった。

 しかし、早速飛んで現れた無数の天使龍の群れは、アルファリオンが双剣から放った雷撃に撃ち抜かれ、次々に煙を吐いて墜落していく。

 接近してくる物も、エリアフォースカードに魔力が注ぎ込まれたことで、完全にコンディションを持ち直したゲイル・ヴェスパーの旋風によって次々に切り裂かれていくのだった。

 

「んだよ、大した事はねえじゃねえか。ビビらせやがって」

『油断は出来ないぞマスター。なんせ、これだけのクリーチャーを召喚できるんだ。相手は、相当の魔力を保有していると見ても良い』

「はあ、そんなもんかねえ」

『とはいえ、ボクも冗長なのは好きじゃないんでね。さっさと終わらせてしまいたいんだが』

「ああ、精々華々しく散らせてやろうや」

 

 そう言いながらも、次々に真空の刃で相手を両断していくゲイル・ヴェスパー。

 今日は本当に動きのキレが良いようだった。

 インカムから、通信が入る。音声での無線連絡だ。

 

『桑原甲。周辺空域のクリーチャーの殲滅率が70%を超えた。この調子なら……』

「ああ、任せとけ!」

 

 そう言う間にも、遠巻きには雷撃が迸って無数のクリーチャーを屠り、こちらでは風の刃がクリーチャーを細切れにしていく。

 最早、自分がエリアフォースカードを使う幕も無いか、と桑原は肩を安堵で落としたその時だった。

 

「……?」

 

 桑原は目を疑った。

 今まで、あれほど激しく雷鳴が轟いていたというのに、それが聞こえなくもなったし見えなくなったのだ。

 その代わり──青い光のようなものが向かってくる。

 

『……マスター』

「ああ……」

 

 まさか、とは思いたい。

 しかし、現にそのまさかは起こっていた。

 あまりにも順調に事が進み過ぎる不信感の正体が、ようやくはっきりする。

 

『マスター、二次の方向!! アルファリオンの反応が消失、代わりに妙な魔力の集合体がやってくるぞ!!』

「分かってらァ!!」

 

 ゲイル・ヴェスパーのマフラーが鋭く尖る。

 そこから、更に風が吹き荒れて防護壁となった。

 今まで止まる事無く進み続けていたそれは──足止めを食らって空中に姿を現したのだった。

 

「っ……ひゃうう……」

 

 桑原は目を疑った。

 しかし、同時にファウストから聞いた話を思い出す。

 エリアフォースカードを取り込んだ、水晶の竜。

 だが、目の前に居るのは少女の姿を取っている。

 

「折角……天使さんを堕としたと思ったのに……流石に守護獣は一筋縄ではいかないですね……」

「嘘だろ……今の間にアルファリオンがやられたってのかよ?」

 

 だが、答え合わせと言わんばかりに通信が入る。

 

『大変だ、桑原! アルファリオンがやられたらしい!』

「っ……!」

 

 見上げると、飛行艇の方に迫っていくクリーチャー達。

 だが、今のこの状況で援護に向かう事は出来ない。

 目の前の竜人はそうはさせてはくれない。

 

「テメェが噂のドラゴンか……」

「私は女教皇(ハイプリエステス)の龍。エリアフォースカードによって顕現した、我が主の忠実な僕と自らを定義します」

「ロボットみてーな奴だな……」

「所で、お願いなのですが、ここを通していただけませんか?」

「そいつは無理な話だぜお嬢ちゃん」

「そうですか……戦いは好きではないのですが」

 

 では仕方ないですね、と彼女は言い放ったその時。

 彼女の身体から、黒い蛇のような触手が伸び、ゲイル・ヴェスパーの羽根を狙って一気に突き刺さった──

 

 

 

『その手は食わないよ』

 

 

 

 ──が、それは僅かにゲイル・ヴェスパーの、そして桑原の身体には届かなかった。

 驚愕の表情を竜人は浮かべた。

 

『戦いは得意じゃない? 冗談じゃないよ、随分と華麗な鞭捌きじゃあないか』

「……届かない……!?」

 

 触手はゲイルの身体の周辺を滑るように蠢くだけで、届く気配は無い。

 次の瞬間、鎌鼬が起こり、2本の触手を吹っ飛ばしてしまった。

 

「ゲイル……!? お前、何やったんだ!?」

『確かに、聞いた通りだ。彼女は、あらゆる魔法を溶かせるんだろう──そう、魔法はね。だけど、魔法によって起こる物理的な法則は流石に無視する事は出来ない。彼女、飛び道具を使ってこなかった辺り、反魔法に特化していてその手の攻撃魔法は使えないんじゃないかと思ったけど……予想通り。この”風のバリア”は突破出来なかったようだ』

 

 触手は、この世で最も普遍的でありふれた壁に止められた。

 即ち、”風”によって阻まれていた。

 正確に言えば、空気の壁だ。彼の魔法によって支配された空気の流れによって、反魔法の法則では突破出来ない物理法則で押し込まれている。

 必死の形相で触手を通そうとした彼女だったが、滑るように触手は受け流されてしまった。

 

「うう、おっかないです……こんな事で防がれるなんて」

「つか、やっぱり化け物かコイツ……アレに触れたらクリーチャーも魔導司も溶けちまうんだっけか? すげぇ速さだったし、瞬殺された理由が分からんでもないぜ」

「……流石に、守護獣は賢いです……あうぅ。マスターは、守護獣を見くびりすぎです。流石にそこらのワイルドカードよりは強いに決まってるのに」

「おい嬢ちゃん。テメェらが何考えてるのか知らねえが、俺達はこの先に用がある。馬鹿な俺でも分かるぜ。そっちこそあるんだろ? この先に大事な何かが”」

「あう……仕方ありません」

 

 光が迸る。

 2人の間に、決闘の空間が開かれるのだった。

 

 

 

「あまり戦うのは得意ではないのですが……」

 

 

 

 次の瞬間、女教皇の竜の周囲から蒼いオーラが漏れ出す。

 強烈なエネルギー波が視覚化しているのだ。

 

 

 

「こっちも負けねえ、(ストレングス)、起動だッ!!」

Wild(ワイルド) Draw(ドロー) (エイト)……Strength(ストレングス)!!』

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