学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
クリーチャーを倒し、屋上に駆け付けた頃には、既に桑原先輩と思しき人影が膝をついて茫然としていた。
そして、その前に立つ紫月の姿。傍には魚人のクリーチャーが浮かんでいる。
これは――終わったのか? イマイチ俺も状況が呑み込めてねぇけど……。
「紫月!! 大丈夫だったか!?」
「は、はい。私は何とか。無事終わったようです」
どうやら紫月は無事のようだ。
こいつ、エリアフォースを持ってたんだな。何でかは知らないけど……。
「姉貴は……桜が好きなんだ……」
桑原先輩の声に、俺と紫月は思わず振り向いた。
「だけど、入院と退院を繰り返していてもうしばらく外の桜なんざ見ていなかったんだ……」
壊れたオルゴールのように、桑原先輩は言った。
手をつき、コンクリートの地面に涙が落ちるのがこっちからも見えた。
「俺は、姉貴に桜の絵を描いてプレゼントしてやりたかった……他の誰にも描けない最高の、桜の絵を。そんな時、あのクリーチャーが出て来たんだ」
「それが、ステップルだったわけですか」
「おそらく、兄ちゃんの思いに反応して利用しようとしたんだろうな。ワイルドカードの行動理念なんざ、そんなもんだ」
魚人のクリーチャーがそういう。
頷くと、先輩は続けた。
「そして、あいつは”敵”が居ると俺に呼びかけた。白銀耀、お前と部活動仲間の或瀬ブランだ」
「――!」
「ワイルドカードの自衛本能でありましょう。桑原氏のマナを借りて、あのトークンたちを召喚していたでありますよ」
成程、これで全て納得が行った。結局今回も全部、人に取り付いたクリーチャーの仕業だったわけだな。
「で、描けたんですか? 桜の絵は」
「……花びらの散らない満開の桜は、俺にとって最高のスケッチ画になるはずだった。だけど、何かが……何かが足りなくて、ずっともやもやしていたんだ」
「当然ですよ」
言ったのは紫月だった。
「――桜吹雪の無い桜なんて、誰が見ても寂しいに決まってますから」
がくり、と項垂れる桑原先輩。
所詮、クリーチャーの力でずっと満開にした桜なんて、偽りの光景でしかない。
それは、先輩もどこかで気付いていたし分かっていたんだろうな。
「でも、私も姉が居るので先輩の気持ちは分からないでもないです」
「……そう、か。テメェは――暗野の双子の妹、だったか」
「はい。私も、姉が大好きですから。もし、先輩と同じ状況に置かれてたら、分からなかったと思います。だから――お姉さんの為に作品を描こうとした先輩の気持ち、私は間違ってないと思います」
「……ああ、そうかよ」
まだ完成していない桜の絵を眺めながら、先輩は言った。
「その言葉で……ちと、救われた気がするぜ」
その時。風が吹く。
同時に――まるで堰を切ったかのように、ピンク色のハートが、何枚も何枚も飛んでいくのが見える。
マナが還元したことで、桜も本来あるべき状態に戻ったのだろうか。
「結局、ステップルはどうして美術室に悪戯描きなんかしていったんでしょうね」
ぽつり、と呟くように俺に言う紫月。
正直なところ、俺も本当の所は分からない。今までのワイルドカードの事を考えれば、単に実体化したので力を振るいたかった……というのも考えられる。で、彼女の場合は悪戯がしたかったようにも見えるが――
「美術室の悪戯書きは、最初こそ原色で塗られてはいたけど……1つだけ色と色を混ぜた色があった。ピンクだ」
「ピンク、ですか」
「ピンクっつーのは色と色を混ぜなきゃ出来ねえ色だ。最初は、単に色をぶちまけてたのかもしれねえが、だんだん真似したくなったのかもしれねえな。宿主を」
「……感化されてた、ということでしょうか。絵を描くことに」
「ああ。ステップルも、一生懸命頑張ってる先輩を見てるうちに、自分で咲かせてみたくなったんだろうよ、桜をな。ま、結局下手くそだから絵具を混ぜてぶちまけただけだったが……って、考えたらちったぁ可愛げってもんが出てくるんじゃねえか?」
「結局、悪気は無かったんですかね」
「さあな。所詮は全部俺の妄想さ」
そう。結局、クリーチャーの考えていた事なんか、今となっては分からない。
ソメイヨシノとは違うが、カンザクラの花言葉は気まぐれ。そんなもんだろう。
再び、風が吹く。
風に乗って、ピンクのハートが空へ吸い込まれていく。今度は何処へ、この春を運ぶのだろうか。
「……桜……吹雪」
俺も、紫月も、そして桑原先輩も。
いつまでも吸い込まれるように、空に舞う花弁を見つめていた――
※※※
あの後、ブラン曰く美術部や絵画作品を汚していたペンキや塗料が、まるで色水のように溶けて消えてなくなってしまったという。ゲームではステップルが破壊されたとき、彼女が増やしたマナも破壊される。同様に、彼女のやったことも彼女の消滅と共に消えてなくなったということだろう。
一同はびっくりしてしまい、警察まで呼んで新手の悪戯ってことにして調べたらしいが、まあ犯人が出てくるわけがないわな。
そして疲れ切った俺とブランは部室に戻り、紫月にたっぷりとワイルドカードについての説明を求められたのだった。で、後日の事。
「やれやれ。にしても、先輩方がそんなことに足を突っ込んでいたとは……考えただけで眠たくなってきました」
「まあ、そう言うな。関わっちまったもんは仕方ねぇだろ」
「科学部のあの一件も、花梨先輩の異変も全部クリーチャーの所為だったとは。本当、呆れてモノも言えません」
「にしても、シヅクがエリアフォースのカードを持っていたなんて驚きデシタ」
俺がエリアフォースのカードを貰ったのはあのカードショップだ。
もしかしたら、紫月も――と思ったが、結局期待したような結果は得られなかった。
くじ引きってどういうことだ。エリアフォースって結局何なんだよ。
「とにかく、うちのマスターを今後ともよろしく頼むぜ!! そしてマスターもな!!」
「あの、ですからマスターになった覚えはないのですが」
「そう釣れない事言うなよ、魚だけに」
「捌きますよ」
曰く、マナを節約するためとか言って二等身になっているシャークウガが、馴れ馴れしく紫月に言い寄るが、すげなくあしらわれてしまう。
それを見てか、うちの新幹線頭も馴れ馴れしく言い寄ってきた。
「やーれやれ、なかなかの
「お前のマスターになった覚え無いんだけど。お前が勝手にマスターって呼んでるだけだし」
「何ででありますぁ!! ちょっと、マスター殿ォ!! 人でなしでありますゥ!!」
「あはは……一気に賑やかになりまシタネ……」
結局、事件は解決したけどワイルドカードやエリアフォースについての謎はまだ分かっていない。
何であれ、今後ともこうして事件を解決する時がまたありそうだ。
だけど、今度はもうデュエマ部のメンバー3人がクリーチャーに関わっちまっている以上、今まで以上に慎重で大胆な立ち回りをしないといけない。
あのデュエルには、命の危険も伴うからな。
「紫月。お前――これから、ワイルドカードの事件に協力してくれるか?」
「……まあ、この際仕方ありません。それに、みづ姉にもしもの危険がまた及ぶことがあれば、それは私の手で何としても防ぎます」
「そうか」
ありがとう、と俺が言おうとしたその時だった。扉をノックする音。珍しく客人か。でも、花梨は今日部活の練習だったはずだが――そう思ってるうちに、扉が開いた。
「よー、居るじゃねーか」
やってきたのは――桑原先輩だった。それに俺達は驚きはしなかった。先輩は、クリーチャーに取り付かれていた時の頃を自分で覚えていたからな。
でも、やはりクリーチャーに取り付かれていた時とは、やはり目の色が違って見えた。
「……桑原先輩」
「こないだは世話になったな。……目が醒めたみたいだ。本当にありがとよ」
まあ、ブランは先輩の潔白を証明したし、紫月は先輩に取り付いていたクリーチャーと戦ったし――あれ? 俺何もやってないけど、お礼言われて良かったのかな。
「絵の方は順調に進んでいるぜ。クリーチャーの力等借りなくとも、完成させてみせてやっからよ」
「それは良かったデス!」
軽い口調で絵の事を語る桑原先輩は生き生きとしている。きっとこれが、本当の彼のキャラなのだろう。
そして、本来ならば何もないはずの虚空に目をやると言った。
「……にしても、チョートッQに、シャークウガか」
「! 我々が見えているのでありますか!」
「俺はあの一連の記憶が残ってんだよ。同時に、クリーチャーの姿が見えるようになっちまいやがった。この学園には俺のような奴がまだいんのかよ白銀?」
「……いると、思います。それに、これから出てくるかもしれません」
俺は率直に述べる。ワイルドカードの出所が分からない限りは、これが今の俺の見解だ。
紫月も、ブランも大方同意のようだった。
「そうか。それなら、俺もテメェらに協力させてくれ」
「だけど、部活は――」
「まあ、勿論ある。だが、俺も一応見える人間だからな。出来る事があれば、協力させてほしい。頼む! この通りだ!」
どうやら、今回の一件で俺達のワイルドカード事件の調査に加わってくれるメンバーは紫月だけじゃなかったようだ。
「勿論です、桑原先輩! お願いします!」
「3年生、美術部――
「2年生デュエマ部部長、白銀 耀」
「同じく2年生の或瀬 ブラン、デース!」
そして、前に出て来た彼女は――先輩に手を差し伸ばすと、言った。
「1年生の、暗野 紫月です。桑原先輩、よろしくお願いします」
「おうよ、よろしくな暗野」
「それだとみづ姉と被ってしまいます」
「そ、そうかぁ?」
困ったように桑原先輩は言った。
コホン、と咳払いするともう一度気を取り直したように、
「じゃあ紫月。よろしくな」
「ええ。よろしくです」
※※※
「桑原先輩、部にもまた顔を出してくれるようになって、良かったわ」
「それは先輩から聞きました。良かったですね、みづ姉」
「絵も結局無事だったし、本当何だったのかしら」
2人の少女は、同じベッドに潜って他愛の無い話をしていた。事件は無事解決し、桑原も部に顔を出すようになった。翠月もすっかり、いつもの朗らかな笑みを見せていた。
そして──
「それより、ねえ聞いてしづ! 桑原先輩と私、進展したの!」
「……はぁ?」
いきなり突拍子もないことを彼女は言いだす。
まさかあの男、いきなり翠月に手を出したのか、と殺意が沸いた紫月だったが──
「桑原先輩、いきなり私の事を名前で呼ぶようになったんだけど! きっとこれって何かのフラグよ、違いないわ!」
「……」
この少女。
恋の事になるとブレーキがぶっ壊れるのが難点である。
紫月は言えるはずもなかった。
(それ多分、私と区別するためだと思うんですけど……)
悪い事をしてしまったと思いつつ、敢えては言わない。
──桜だけに言わぬが花ってやつですね。はい。