学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「……ふぅ、大体これで逆転の可能性は減らせました。でも、もう除去カードではこの状況は逆転出来ないはずです」
「……そうみてえだな……」
「私の場には、《サイクリカ》、《ルギヌス》、そして《ゴクガ・ロイザー》がいます。最後のシールドブレイク後、貴方は《エウル=ブッカ》を引いて勝つ……《ゴクガ・ロイザー》が呪文では選ばれないという効果を持っていなければそれも叶ったでしょうけど、多分無理ですね、ごめんなさい、末期患者に希望を与えるような真似をしてしまって、すみませんでした」
そんな言葉に、最早桑原は耳を貸さなかった。機械に、人の心など理解できるわけがないのだから。
彼女は首を傾げると続けた。
「それにしても理解しかねます。どうしても不幸になりたいのですか? 人類皆が同じ幸福を享受できるのに」
「……何だと」
「かわいそうです。あまりにも。惨めすぎます。何なら、今此処で私達に賛同するなら命だけでも助けてあげないことはないですが……」
「ハッ、何を今更」
「幸せになりたく……ないのですか?」
無機質な、機械の表情だ。
彼女は問いかけた。
「この世には不幸が溢れています。争い、病気、ありとあらゆる災厄。人間は少ない資源を争い、競う。上位階層の人間が富を貪って搾取し、下位階層の人間は搾取されたことで貧窮する……これは人間が抱える原罪……無限の欲望の罪がもたらす呪いです」
桑原は黙っていた。
そんな宗教染みた言葉は覚えられなかった。
「……原罪は人々を不幸にします。人々を断罪することで人々は等しく救われます」
だが、桑原にも許せない言葉があった。
「みんな幸せになれるんですよ? それなのに、幸せになりたくないのですか? このまま不幸なまま死にたいのですか? 貴方たちは、今は生きている限り皆等しく不幸なのに?」
彼女は冷徹に続ける。
「なら、あなた方まとめてゴーレム……DGの素材にしてしまいましょう」
「……何?」
「ついこの間も、魔導司の皆さんをあの臭い森の中で仲良く一緒のDGにしちゃいました。これなら皆さんまとめて幸せになれます。現世の苦痛を全て忘れられるのですから」
DGが何かは分からない。
だが、桑原の脳裏に走った。
ファウストから聞いた腐の森とやらでの事件を。
死体はごっそりと持っていかれていた。
それがどうなったのか──
「貴方たちは死んでも幸せになれますよ? 皆まとめてDGの一部に──」
「うるせぇ」
聞くに、堪えない。
とうとう、桑原は口を開いた。
「え?」
「うるせぇ、っつったんだよ──誰が不幸だって、コラ」
「……え?」
「──今、誰が不幸だって言ったんだ? 俺の事を、”俺達の事を”、そう言ったのか?」
「あ、あの、あの、あの……」
「人間の幸せをよ……勝手に定義してんじゃねえ」
その声は震えていた。
「姉貴の幸せは……病名を宣告された日からぶち壊された。……でも姉貴は、それで自分が不幸だなんて吐いたこたぁねえ」
「いきなり、何ですか? この人……」
「それどころか、俺と一緒にデュエマのパックを剥いて、デッキまで俺が居ねえ間に組んでくれて……その時の姉貴は楽しそうだったって看護師さんが言ってたっけ。姉貴は、いつも楽しそうだったのさ」
「……何を言っているのか理解不能です」
「俺にも分からなかったよ。姉貴が何でそんなに楽しそうなのか。絶対に痛いし苦しいはずなんだよ。先が見えないガン治療の真っ最中なのによ」
彼は、笑いかけた。
人の心を解せぬ怪物に、姉の言葉が理解できるとは思わない。
「こないだ聞いたんだ。辛いはずなのに何がそんなに楽しいんだってな──そしたらあの人はこう言うんだぜ。”辛い中に幸せを探すのが楽しいのさ”ってよ。後から気付いて笑っちまったよ。辛いと幸の漢字ってよく似てんだもんよ」
「……?」
「幸福の定義なんてよ、無数にあるんだ。星の数だけ……そう思えるようになったんだよ」
「理解できない。人類の幸福は唯一つなのに」
「ああ、分かってもらわなくて構わない。だから……俺は、アート流にテメェらでも分かるように、こう表現することにしたぜ」
ギラリと、桑原の目が狩る者へと変貌する。
猛獣の如き犬歯を剥きだしにし、彼は吠えた。
「”邪魔だ……どきやがれ”!! この世にゃ綺麗事や幸せよりも大事で尊い美しいモンがあるんだよ!!」
それが、答えだった。
絶望の中で、暗闇の中で答えを見出した者の咆哮だった。
空間の地面を叩き、足に力を込めて立ち上がる。
敗ける気など、最初から毛頭も無いのだ。
「テメェらを姉貴には一歩も近づけさせねぇ。テメェらを俺の仲間には一歩も近づけさせねぇ。これ以上、これ以上好き勝手やらせるわけにゃいかねぇんだ!!」
「それは出来ません……! こっちにも、命令というものが……!」
「今の俺らが不幸だって言うなら、それは余計なお世話だ。テメェらの言う救済とやらが、こんなに多くの人々から日常を奪って壊していくものなら猶更だ。そんなモンはアートですらねえ。只のクソったれた破壊活動だぜ」
「……幸福の定義は、私のマスターが定めた唯一つだけ。人類がそれを一斉に皆享受すれば厄介な争いごとは無くなるって言ってるのに……!」
「クソ喰らえだ、テメェらで勝手にやってろ!! 俺らを巻き込むんじゃねえ!! 姉貴の、俺らの幸せを、これ以上壊させてたまるかってんだぁぁぁぁぁぁ!!」
その時。
デッキケースから1枚のカードが飛び出す。
今、ゲームでは使ってないカード。
白紙だったそれに、再び絵柄が焼き付けられていく。
『マスター。心を打たれたよ。君の覚悟に。
「……ああ。頼んだぜ、ゲイル!!」
拳を握り締めた。
「あうあう……ごめんなさい、すみません、申し訳ありません、お願いですから、もう黙ってください、あの世で姉弟仲良く幸せになっててください──!! 《ルギヌス》で最後のシールドをブレイク!」
割れるシールド。
しかし。そこから飛び出したのは──
「……来るのがおせーよ。S・トリガー発動!」
「も、もう、1体除去したくらいでは──」
「止めてやるよ嬢ちゃん!! テメェのエリアフォースカードにしかと上書きしやがれ、馬鹿な男の底意地ってやつをなァ!!」
──巨大なるグランセクトの野菜戦車だった。
それが、ドラゴン達の進路を阻む。
「S・トリガー、《タマタンゴ・パンツァー》!!」
「ッ……ひゃうっ!? なんですか!?」
「こいつは登場時にタップして場に出る。そして、相手は攻撃するとき、可能であればこいつに攻撃しなきゃいけねえんだ。意味が分かるか?」
「あ、あう……! そんなぁ……!」
「先に《ニコル・ボーラス》で攻撃しなきゃ勝ってたのに、残念だったな嬢ちゃん。俺達人間を見くびり過ぎだぜ。さあ、お終いにしようか! コイツのパワーは12000、殴れるものなら殴って来な!!」
彼女は泣きそうな声で、ターンエンドを告げる。
桑原のクリーチャーはタップインされる上にコストが増加している。
そう簡単には突破はされないはずだ、焦る回路を必死に回転させ続ける。
「……俺のターン。2マナで、《ジュランネル》を召喚だ」
「だ、大丈夫です……まだ、まだ何も……終わってないです」
「そんでもって、2マナで《デデカブラ》を召喚」
「《ゲイル・ヴェスパー》を出せても──」
「場にはパワー12000のクリーチャーが4体。W・シンパシーでコストを8軽減。そして、3マナをタップ」
力強く、
そこから、一迅の風が誇らしげに大空を舞い、そして──
「──天に描け、俺の
──華麗に、舞い降りる。
2枚の羽根を広げ、鋭利に尖らせると、グランセクトの騎士はその刃を数多のドラゴン達へ向けたのだった。
『この刺突を餞としよう。精々後悔するがいい。ボクのマスターの逆鱗に触れた代償を、身をもって知るが良い!!』
「頼むぜ、ゲイル。テメェの舞台は俺が描く!」
『ああ、頼むよマスター! ボクの効果で、君の手札のクリーチャーは全て、「W・シンパシー:パワー12000以上のクリーチャー」を得る』
「わ、悪あがきが過ぎます……!」
「本当に悪あがきかどうか、試してみようじゃねえか。残りの3マナをタップ。W・シンパシーで10コスト軽減」
桑原は拳を握り締める。
この状況をひっくり返す選択肢は、1つしかない。
無限に、場のクリーチャーを展開するしかないのだ。
「叩きつけろ
舞い降りたのは純白の蛾のクリーチャー。
果てなき水晶の蔓延る空に、翼を広げ鱗粉を零す。
《ゲイル・ヴェスパー》と並び立ち、互いを認め合うかの如く視線を交わした。
「なっ、そのクリーチャーは……!?」
「こいつが俺の新しい切札だ! 《ナハトファルター》の効果発動! このクリーチャーまたは自分の他のパワー12000以上のクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から2枚をマナゾーンに置く。そうしたら、クリーチャーを1体、自分のマナゾーンから手札に戻すぜッ!」
「っ……!?」
「俺のマナはこれで3枚に増える!」
《ナハトファルター》の手からこぼれた鱗粉が、再び大地を活性化させていく。
そして、膨大なるマナから桑原はカードを手に取り、更にクリーチャーを展開していく。
「W・シンパシーで10コスト軽減! 今度はこいつだ、《スペリオル・シルキード》!」
「っ……ああ、ああ……! しまった……!」
「コイツの効果は分かるよなあ? 登場時に、パワー12000より小さいクリーチャーを全てマナゾーンにぶち込むのさ!」
羽ばたいてくるのは、今度は蚕蛾のようなクリーチャーだった。
その羽ばたきは、大地から無数の樹木を呼び出し、一瞬で、サフィーのドラゴン達は皆、大地に呑まれていく。
「そ、それでもまだ──」
「終わりだっつってんだろ。《ナハトファルター》の効果で2マナ増やして《モアイランド》を回収。そして、1マナで《モアイランド》を場に出すぜ。相手はD2フィールドも呪文も使えない」
「あ、ああ……そんな……!」
「今度は2マナ増やして、《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》を回収だ。そして1マナで《ワルド・ブラッキオ》を場に出す。これで相手のクリーチャーの登場時効果は全て無効化された。そして、2マナをチャージして《タマタンゴ・パンツァー》を回収だ! そして、1マナでタップして場に出す!」
最早、この無限に等しい展開はサフィーには止められなかった。
「ぐだぐだは続けねえ。ターンエンドだ。これが、本当に、”何も出来ない”ってことだぜ!!」
「あ、ああ……呪文は唱えられない、クリーチャーの登場時効果は使えない、《リュウセイ・カイザー》を出しても2体目の《タマタンゴ・パンツァー》で止められる……!」
彼女は最早何もしなかった。
何も、出来なかったのだ。攻め手も、行動も、全て封じられた彼女には──
「こんなことは……認められません……ごめんなさい、すみません、私が悪かったです……!!」
「は。謝っても、もうおせぇよ。人形に掛ける、情け無しだ!!」
『やれやれ。これが本当に惨め、って言うんだろうねえ。皮肉だ』
必死に懇願しても、最早時既に遅し。
それに冷たく視線を注ぎ、桑原は最後のターンを迎える。
「《ワルド・ブラッキオ》でシールドをワールドブレイク。トリガーも、何も、使えないはずだぜ」
「あ、あうう、やめて、近付かないで、もう、嫌だ、ごめんなさい、来ないでぇぇぇ!!」
「精々最期は、華やかに散りやがれェ!!」
彼は天高く指を突き上げる。
これで終わりだ。
無数の真空の刃。
それが怪物を切り裂いた。
「《天風のゲイル・ヴェスパー》でダイレクトアタック!!」