学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
近付く。
おぼつかない足取りで、一歩ずつ近付く。
「ブラン、なのか……!?」
「……何だい、君は。儀式のジャマだよ」
俺の声が聞こえたのか、少年が振り返る。
ついに目が遭った。
おぼつかないが、日本語が喋れるのか。
「……ああ。通じてるようだな。やはり日本人か」
「……テメェは、何だ?」
「彼女の……ブランの知り合いかい? フフッ」
俺は睨みつけた。
表情も何もない。
眼球をカッ、と開いてただただ小さく何かを呟いている。
「ブラン? 何で、お前が……!」
『ブラン殿の反応……間違いないであります。でも、意識を失っているようでありますよ』
じゃあ、本当にブランなのか。
だとしても、だ。
何であいつが此処に居るんだよ?
「何でだよ!? ブランが何でこんなところに!?」
「何だい? 彼女の知り合いかい?」
少年は、にたにたと笑みを浮かべた。
「残念だけど……彼女はもう、二度と君の知っている彼女には戻れないよ」
一瞬で俺は沸騰した。
「テメェかッッッ!!」
地面を蹴った。
拳を握り締める。
それは驚くホドに冷静な相手の少年に受け止メられ、俺はそのマま流されて地面へ倒れ込んだ。
だけど、負けじと起き上がり、胸倉をツかム。
止まラなイ。
煮えたギるよウな怒リが。
頭ガ、沸騰したまま音を立テて止まらナイ──!!
「ッ……!」
「……不躾だな。いきなり殴りかかるとは。世界を救う男、ロード・クォーツライトに対し──」
黙レ。
黙レ黙レ黙レ──
「──!!」
「っと、もう1発見舞ってくるとは……!!」
「ッ……!!」
「彼女はもうブランであって、ブランじゃない。僕が今復活させるドラゴン……サッヴァークの最後の生贄──」
”知 ら ね え よ”!!
最後まで聞かずに俺は頬にありったけの拳を叩き込む。
倒れ込む相手の身体。今までの人生で、一番重い一撃。
そこで我に返る。
ブランは!? あいつを助けないと……!!
咆哮し続けるドラゴンとブランに駆け寄る。
「聞こえるか、俺だ、耀だっ、今助けるぞ!」
「無駄だよ……何を言っても聞こえやしないさ」
次の瞬間だった。
ドラゴンの仮面が光る。
俺の身体は宙に浮くと──吹き飛ばされた。
再び立ち上がり、俺はロードにとびかかる。しかし。今度は見えない壁のようなものにぶつかって弾かれてしまった。
「ッくそぉ……!」
「エリアフォースカード2枚だけじゃあ、この障壁は突破出来ない。残念だったとしか言いようがないね」
「っ……この……!」
俺に、おびえた様子の紫月が駆け寄ってきた。
「先輩……!!」
「あの野郎ッ、ブランをどうするつもりだッ!」
「っ……先輩」
「許さねえ……絶対ェに、許してたまるもんかよ! ブランが、あいつがこれ以上傷ついて良い理由なんて何処にもねぇんだよ!」
ぶっ飛ばす。
絶対にぶっ飛ばしてやるぞ。
ブランが……どうして、ブランがこんな目に遭わなきゃいけねえんだよ!
「さっきも言った通りだけど? 僕は全世界の人類を救うために、今こうして立っているんだ」
「ああ!?」
「そのためには、人類の原罪を裁く必要があるんだ。分かるかい?」
意味が分からない。
何言ってんだコイツ。
「そんな訳の分からねえ事のために、ブランを──!!」
「そうだ。人間には生まれ持った罪を一生抱えているからね。それがある限り、人間は一生幸せになれやしない。だから、僕が人類を裁いて原罪から解き放つのさ」
「知ったこっちゃねえよ!!」
そんなふざけた理想、俺には届きやしねえ。
譲らねえよ。絶対に。
「仲間は絶対に譲らねえ!! ブランを、ブランを返しやがれってんだ!!」
「……先輩を、返してもらいます。私達の、ブラン先輩を」
「馬鹿だねえ。君達も僕の救済の対象だというのにさあ」
彼は肩をすくめた。
「まあ、どうせ無駄だけど? 儀式が終わるまでもうすぐだから、それまで待っていてよ」
「待てるかよ!! ダンガンテイオー!!」
「壊しなさい、シャークウガ」
ともに戦線を張る事が多いダンガンテイオーとシャークウガの相性は最高だ。
シャークウガが魔法陣を生み出し、無数の弾幕を障壁にぶち当てる。
そして、弱ったであろうその障壁に、ダンガンテイオーが大上段に振りかぶって刀を叩きつけた。が──
『びくともしないであります!?』
『ウッソだろオイ!?』
「ははははははは!! サッヴァークの力は、覚醒前なのに凄まじいなあ!! 全てを通さない絶対なる盾!! まさに、全てを裁く審判の龍に相応しいよ!!」
高笑いを上げるロード。
俺達は歯を食いしばる。
どうする白銀耀。どうする白銀耀。
このままじゃブランが危ない。あんな頭のおかしい奴の好き勝手にこれ以上させてたまるか!
「おらあああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺達は上空を見上げた。
そして、それはズドォン、と洒落にならない速度で落下する。
その場に煙が舞った。
何かが降ってきたのだ。またクリーチャーか? と思い、臨戦態勢に入る。
こんな時に──と思った矢先。
「ゲホッ、ゲホッ、エホッ……」
煙の中から聞こえたのは……咳き込む音だった。
見ると、”罰怒”ブランドのボードらしきものが地面に突き刺さっている。そこに倒れ込んでいる2つの影。
「もぉーっ!! 何でこうなるのかなぁーっ!!」
「仕方がないだろう……重量オーバーだ」
「あたしが太ってるって言いたいの!?」
「そういうわけではない! ……しかし、此処が祭壇という場所か?」
砂煙が晴れた。
地面に膝をついてはいたが、そこにあったのは火廣金と花梨の姿だった。
「火廣金!? 花梨!?」
「すまん部長、遅れた。空中から妙な祭壇が見えたから、此処を狙って着陸しようとしていたのだ。幸い、クリーチャーと遭遇しなかったのでな、まだ全力で行けるぞ」
「……すみません、先輩方。それよりブラン先輩が──」
火廣金とブランが祭壇の奥にある光を睨む。
「そんな……!? 何でブランが!?」
「イギリスから此処まで連れてこられたのか? とんだトンボ帰りだが……あの男が黒幕のようだな」
「っ……まさか、まだ増援が居たとはね。このロード・クォーツライトの断罪の裁判を傍聴に来たのかい?」
零すロード。
ブランが捕らえられていると知るや否や、2人は身構えた。
最早火廣金も花梨も手加減をするつもりはないらしい。
「……嬉しいだろうねえ、彼女も。こんなに仲良くしてくれるオトモダチが居るんだもの。だけど、駄目だよ。彼は、僕の理想の下でしか幸福になれない」
「……あんたは許さない。絶対に」
「レディの扱いがなっていないな。少し躾が必要なようだ」
”罰怒”ブランドが実体化する。
守護獣が目覚めていない花梨だったが──それに、戦車のカードをあてがった。
彼の周囲の炎が、加速する。
「”罰怒”ブランド!!」
「シャークウガ」
「ダンガンテイオー!!」
飛び掛かる3体。
エリアフォースカード2枚でダメなら、3枚ならどうだ!!
叩きつけられる一撃。
同時攻撃が、障壁を叩き割る。
斬撃。砲撃。打撃。全てが合わさり、決定打となったのだ。
しかし──
「邪魔だって言ってんだよ」
──鳴り響く雷鳴。
それにシャークウガと”罰怒”ブランドが打ちのめされた。
吹き飛ばされたのは、紫月や火廣金、花梨も同じだったようで、閃光が晴れた頃には皆横たわっていた。
「皆……!!」
「だ、大丈夫……!」
「白銀先輩! 前を! あのドラゴン、普通ではありません!」
『尋常ではないであります!! 殺そうと思えば、此処に居る全員、今すぐ皆殺しに出来るであります!!』
『咄嗟に張った障壁が完全にぶっ壊れやがった……次はねえぞ』
「っこのぉっ……!! 化け物……!! どんだけ強いの!?」
『マスター。それに、嫌な予感は的中したでありますよ!!』
ダンガンテイオーが刀を掲げた。
雷鳴に打ち砕かれ、ボロボロになった刀を、だ。
凄まじい威力であることが伺える。
だが、それ以上に彼は嫌な予感とやらに衝撃を隠せないようだった。
「何だと……!?」
『やはりこの気配、あのドラゴンの体内には……ブラン殿のエリアフォースカードを感じるであります』
「嘘だろ!? じゃあ、どうして!? ワンダータートルは何やってんだよ!?」
『……ワンダータートルの気配は、全く感じないであります』
ぽつり、と言ったダンガンテイオーの言葉。
俺はハンマーで殴られたようだった。
「おい、どういうことだよ……!?」
『エリアフォースカードの魔力のリソースは、全てあのドラゴンに注ぎ込まれているであります。これは……我々守護獣というストッパーが居る場合、起こりえない事なのでありますよ』
「……なあ、まさか。そんな事は無いはずだ。あのワンダータートルだぜ!? あいつが、そうそうやられるわけがないだろ!?」
『我も、そうは考えたくないでありますよ!! 我だって、ワンダータートルの強さは嫌という程知っているであります!! 死ぬなんて、有り得ないであります!!』
「殺したよ」
彼は淡々と言い放つ。
煙の中から現れたロード。
そして、サッヴァーク。
その仮面からは、雷鳴が迸っていた。
「……殺した……!?」
「ああ。その守護獣の言っている事は正しい。サッヴァークを制御するための理性を司るのがブランの
「……何で」
ワンダータートル。
ブランの助手として、相棒として。
そして俺達の爺ちゃんみたいな存在で。
厳しさの中に朗らかさのあったあいつが。
いつも、俺達を影ながら支えてくれたあいつが。
俺は一歩踏み出した。
そして思い返した。
俺は知っている。昔、1人っきりだったあいつの事を──
「ワンダータートルが、簡単に死ぬわけねえだろ!!」
俺は言い切る。
言い切らなければ、最早立つ事など出来なかった。
今の俺に、ワンダータートルの死まで受け入れる事など、出来る訳が無かった。
ふざけんな。ふざけんなよ。
こんな目に遭って、心の支えも失う。
俺達の見てない所で、何で──!!
「いずれ、全ての人間は救われる。彼女が幾ら悲しもうが、もう些細な問題なんだ」
「そんな事、出来る訳がありません」
「出来るさ。サッヴァークの力は、人間を断罪する力だ。その本質は、全ての人間の意識をサッヴァークと統合すること」
『有り得ないでありますよ。幾らドラゴンでも、たかだか1体で全世界の人間の意識を統合させるなんて無理であります!』
「……ああ。サッヴァーク1体ならね」
彼は笑みを浮かべた。
あたかも、まだ何か残しているかのような言い方だ。
「魔女狩りめ……ふざけるなよ……!!」
火廣金が振り絞るように言った。
「俺達の同士を……魔導司を何人も殺した罪。償っても償いきれんぞ」
「残念だが……既存の倫理観は全てサッヴァークの下に白紙になる。世界中全ての法は、僕とサッヴァークの前では無力だ」
「……そんなに、大層な事なのか。お前の断罪は」
「君達は、実に馬鹿だな。この世は悪意と欲望で満ち溢れている」
サッヴァークが吼えた。
雷鳴が迸る。
「搾取だらけの世の中じゃあ、一生人類は幸福になれない!! 僕達は数百年かけて、理想の世界を目指してきたんだ!」
彼はほくそ笑んだ。
そのためには、あらゆることは些細な犠牲に過ぎないと吐き捨てた。
「何で、ブランを……!!」
「彼女が僕の幼馴染だからさ」
「──んだと」
「そう……僕に警戒せずに近付いてきた、”幼馴染の”ブランはとても都合が良かった……どうせ彼女も幸せになるんだ。この程度、些細な事だよ」
幼馴染。
その言葉にぎょっ、としたのは花梨だ。
「……うぅ」
今にも、泣き出しそうになっている。
紫月の目の色が変わっている。火廣金が今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
拳を握り締めた。
今までになく強く、強く、強く握り締めた。
唇が渇く。頭の内側が焼け付く。
髪が逆立つような苛立ち、胸の奥底から絶叫したくなるような燻り。
「二度と、あいつの事を幼馴染だなんて言うんじゃねえ」
「ん? 何度でも言うよ。彼女は僕の幼馴染だ。昔イギリスに居た時、よく遊んだものだよ。彼女は僕の事をイギリスでの親友だと思っていたんだろうが……僕の理想には同調してくれなかったね。残念だ」
「裏切ったのかよ。人をなかなか信用しなかったあいつが、親友とまでお前を呼んだ……なのに、何で裏切ったんだよ」
「今も昔も、僕は彼女の味方なんだけどねえ」
「どの口が、抜かすんだ。よくも……!」
もう一度俺は踏み込んだ。
サッヴァークの電撃の圏内だと分かっていても、俺はもう1度あいつを殴って、殴って、殴らなければ気が済まナカった。
皇帝のカードも熱を帯びた。
「……部長、”戦え”!」
火廣金が、起き上がっていた。息も絶え絶えに彼は絶叫した。
「”戦わなければ”、或瀬を救う事など出来やしないぞ!」
腸が煮えたぎる。
歯を食いしばって、怒りに耐えた。
そうだ──此処で突っ込んでもダメだ。
俺は、俺に出来る何時もの事をやるだけだ。
「言われなくても、分かってらァ」
エリアフォースカードを掲げる。
そうだ。拳を握り締めても仕方ない。
俺が出来ることは唯一つ。デュエルしかないんだ。
「ロード。今のお前がどんなに理想を語ろうが、関係ねえんだよ。お前は俺達の大事なものを奪った。俺の仲間の大事なものを奪った。そんな奴の吐く夢物語、俺には届かねえ」
彼は目を細めた。
「……ブランの友達……って言ったね。最後に名前を聞いておこうか」
「俺は白銀耀……鶺鴒高校2年生、デュエマ部部長。ブランは……俺の部員だ」
彼の手から、1枚のカードが掲げられる。
エリアフォースカードだ。
「じゃあ、白銀耀。最後に君の力を借りるとするよ。サッヴァークは、デュエルという正当な手段を踏んで最後の覚醒を行う」
「させねぇよ。テメェも一緒に叩き潰す」
サッヴァークが吼えた。
「……
『Wild ……Draw……ⅩⅩ……JUDGEMENT!』
空間が開かれる。
浮かび上がるのは、審判のアルカナ。
だが、俺も遅れは取らない。ダンガンテイオーが頷き、刀を構えた。
俺は振り返る。横たわる花梨と紫月。ボロボロな火廣金。
今、俺達の為に戦ってくれている黒鳥さんに桑原先輩。
そして……今も目の前でサッヴァークに取り込まれようとしているブラン。
『マスター!! ……あいつ、許さないであります!!』
そして──隣で戦ってくれる相棒。
ロードは孤独な奴だ。恐らく目的の為なら、何もかもを躊躇なく切り捨てるだろう。
だけど……俺は違う。
俺の戦いは、いつも俺1人の戦いじゃなかった!!
「頼むぜ、ダンガンテイオーッ!!
『Wild draw Ⅳ――EMPEROR!!』
空間が開かれる。
今から行われるのは、全ての当たり前を賭けた戦い。
そして──俺の大事な仲間を取り戻すための戦いだ!!
「──ブラン、待ってろ。今助けだすからな!」
※※※
「ねえ、どうする……あたし達……!」
言い出したのは花梨だった。
このまま見ている事は出来ない。
しかし、耀とロードは愚か、囚われているブランもサッヴァーク諸共空間に入ってしまった今、こちらに出来る事は無いように思えた。
「どうにかして……ブランを助けなきゃ……あたし達に出来る事、無いの!?」
「あれば今までもやっています」
「……いや、出来るかもしれない」
火廣金の言葉に、花梨と紫月が驚いたように振り向いた。
「実は、エリアフォースカードには、とある仕様があることが分かった」
「仕様ですか」
「な、何なの!?」
「不法にその支配が解かれた時のために、エリアフォースカード同士である程度干渉できるようになっているとのことだ」
「そんなことできるの?」
「思い出せ。今までもエリアフォースカードが、エリアフォースカードに対して反応したり、共鳴したことがあったはずだ」
「あっ……!」
花梨は思い当たった事を率直に口にした。
「あたしの戦車……!」
「そうだ。皇帝は、戦車の暴走に対して少なからず共鳴していた。エリアフォースカードの強い働きをエリアフォースカードが感知出来るのであれば、同様に俺達が強く働きかければ、或瀬のエリアフォースカード……正義に何か干渉出来るのではないかということだ」
「出来ると思いますか、シャークウガ」
『やったことがねえから何とも言えねえ。だけど……やってみる価値はあると思うぜ』
紫月も、花梨も、頷いた。
火廣金は顔を険しくした。働きかけが出来る。
それだけのことだ。だが、それでも何もしないよりはましに思えた。
その証拠に──
『もし、亀の爺さんが死んだとしても……エリアフォースカードは少なからずブランを認めていたんだ。俺らじゃなくて、俺らの主たるエリアフォースカードが呼びかければ、まだ何か応えが出るかもしれねえんだよ。だって、守護獣が死ぬなんて不義理……正義が簡単に認めるのかってな』
「出来そうですか」
『今なら……エリアフォースカードに、十二分な力が働いている今なら出来るはずだ。特に、俺と魔術師ならな』
「つまり、鍵はシャークウガということか」
「……分かりました。任せます」
紫月はエリアフォースカードを握った。
「ブラン先輩は……私にとって、初めて仲良くしてくれた先輩でした」
「紫月ちゃん……うん。あたしにとっても、高校に入って色々あったけど大事な友達だもん。このままにしたくない」
「……魔力は、俺が補充する。ロードが、デュエルに集中している今がチャンスだ。行くぞ」
「……うん!」
「はい、やりましょう」
魔術師と戦車が光り輝く。
その背後で、魔導司が魔法陣を展開した。
全ては、掛け替えのない友を救うため。
出来る事をやるのみだ。