学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
──同日同時刻、ドイツ。ウィーンにて。
「──水晶が、広がっていくのか」
音神は、ホームステイ先の家から遠巻きに街に広がっていく水晶を眺めていた。
日本は、そしてクラスメイト達は無事だろうか。
此処もいつ水晶に飲み込まれるか分からない。しかし、逃げ場は何処にも無いのだ。
それは世界の終わりさえも思わせた。
「……ん?」
音神は水晶を睨んだ。
何だ。今まで以上に水晶が妖しく光っている。
刹那。
それは夜空の星と見まがう程に、暗いドイツの街を照らす。
空へ飛び立つ無数の黄金の光を──彼は見た。
「何だ、あれは──!!」
※※※
──同日同時刻。鶺鴒のとある大通りにて。
「畜生ォォォーッ!! 折角、塾帰りだってのに、何でこの俺がこんな目に遭わねばならんのだ!!」
「いやでもアフロハゲ先輩、俺らに会えて良かったじゃないですか、この3人でこぐ電動自転車が役に立つ日が来るなんて」
「そうですよ、俺達これを捨てに行こうと思ってたら巻き込まれちゃって……でもこれ、案外速いし、逃げるのには役に立ちますねハゲ先輩」
「ハゲ言うなぁぁぁぁーっ!! せめてアフロを付けろォーッ!! 畜生!! 俺のセンター試験はどうなっちまうんだァァァ!! 後お前ら、そんな感じで俺が引退した後に発明品処分しまくってるだろ、覚えてろよォォォ!!」
先頭でハンドルを握るアフロハゲ。
かれこれもう、数時間もの間こんな調子で自転車をこいで水晶から逃げているのである、この科学部と元・科学部部長は。
その時。光が空に飛び立つのをアフロハゲは見た。
流れ星と見紛ったが──それを睨んで彼は呟く。
「鳥、か……!? いや、にしては大きすぎないか!?」
「ハゲ先輩、なんかアレ、あの水晶からどんどん出ていきますよ!!」
「ウッソだろぉ!? 世界は、世界はとうとう終わっちまうのかぁぁぁーっ!?」
「先輩!! もっと漕いでェ!! 後ろから水晶がぁぁぁ!!」
「どわあああああ、何でこんな事にぃぃぃ、わっせわっせわっせ!!」
「わっせわっせわっせ!!」
「わっせわっせ……何だこの掛け声」
※※※
「紫月……早く帰ってくれば良いのに」
──暗野翠月は自宅で眠れない夜を明かした。
しかし、この地区ももうじき水晶がやってくる。
だが、なかなか住み慣れた家を離れる事が出来ないのは、人の情なのか。
せめて妹が帰ってから……と思わないことも無い。
手を握り締める。
桑原先輩も一緒らしいが、無事で居てほしい。
「お願い神様……紫月と、先輩を、守って……!」
その時。
空を流れる光。
彼女は目を見開いてそれに見入る。
流れ星か?
いや、違う。
見つめる度に不安を感じるのは──何故だろうか。
※※※
「もう、レンったら……何で早く帰ってこないんだろ……」
起きても、家に彼は帰ってこなかった。連絡をしても全く何も寄越さないのだ。
寂しさ、そして不安は募るばかりだった。
何時も当たり前にいる存在が居ないのは、此処まで不安な気持ちにさせてくれるのか。
いつも邪険に扱っているだけに、その存在の大きさに今更気付き、彼女は胸が苦しくなる。
「……早く帰ってくれば良いのに。いっつも居なくても良い時は居る癖にーっ!!」
空に向かって叫ぶ。
窓からは、山を今にも飲み込もうとしている水晶が見えた。
「……あいつが帰ってきても、どうしようもならないのは分かってるけど」
口を尖らせた。
そして、自分がどうしようもなく不安だということに彼女は気付いたのだ。
いつも超然としていて、何事にも動じない彼がせめて居てくれれば。
もう少し不安も和らいだかもしれない。そう考えて彼女は首を振った。
「ダメダメ!! あたしは大人のレディなんだから!! レンが居なくたって平気だもん。お父さんと、お母さんを、守って……みせるもん」
涙が滲む。
巷では、良く分からない組織が民間人を助けているらしい。
黒鳥もそれに拾われていないだろうか、と切に思った。
「……バカレン」
祈るように、その名を口にした時だった。
空に、光が走った。
何本もの、流れ星よりも眩しい光だった。
※※※
その身体は鉱石の如き紫。
その剣は太陽の如き黄金。
その瞳は炎の如き真紅。
黒き翼を広げ、太陽に向かって咆哮した龍は──地面に降り立った。
「キラゼオス……サッヴァーク……!?」
「遂に、遂に遂に遂に目覚めたぞ! サッヴァーク! 《煌龍 サッヴァーク》! 何て美しいんだ!」
確かに、それは美麗という言葉では表せない程に精巧に造られた龍であった。
生物感が無かったDGとは一線を画す。
「そいつが、お前の言うドラゴン……マスター・ドラゴン……!」
「ああ、これはまだサッヴァークの本領じゃあないよ」
「……何?」
「言っておくけど、今世界中に水晶が広がってるよね?」
何となく、俺はその水晶はサッヴァークが起こしたものなのかと思っていた。
あれ? 待てよ。確かファウストはあれがクリーチャーの一部だって言ってたな。
そうなると、あの水晶は結局サッヴァークと何の関係があるんだ?
「あれは……サッヴァークの一部なんだよ。力の溢れ出した余波って言うべきかな」
「……な、一部!? 余波だと!?」
「ああ。本体から漏れ出した魔力が全世界に広がった結果、具現化したものさ。だからサッヴァーク本体の格は本来よりも薄まっている。まあ、それでも並みのクリーチャーを優に超える力は持っているけどね」
その時。
空に幾筋もの光が飛ぶ。
この光は──今、サッヴァークが放っているものと同じだ。
待てよ。まさか……!
「逆に言えば……全世界中に、このサッヴァークが広がったら、どうなる?」
「……な……!!」
「あの水晶から、無数のサッヴァークが生まれるって言ったら、どうする?」
は、はは……!
嘘だろ。ちょっと待てよ。
ふざけんな。こいつ単体でも、ヤバそうなのに……それが無数に生まれたらどうなるんだ!?
世界は……終わるぞ!?
「やっとわかったみたいだね!! サッヴァークの最大の恐ろしさ。それは不滅ということさ! 世界中に溢れ出る程の魔力を有し、世界中にその分身を拡散させるほどの魔力を、この幽世の扉から吸収してるんだ、当然だけどねえ」
「そんなことして何するんだよ!?」
「何度も言ってるだろう、裁きだよ! 現人類の原罪を裁くことで、全ての人間を罪から解き放つ。と言っても君には分からないだろうから……言ってあげるけど、僕が正義のエリアフォースカードに定義させた正義を元に、サッヴァークが人類の意思を全て統合させるんだ!!」
「と、統合だと──!?」
それって、全部同じ。
サッヴァークと一緒になるって事か!?
そんなことになったら、個人の意思とか考えとか全部無くなってしまう。
いや、元よりロードはそれが狙いだって言うのか!?
全ての人が等しく幸せになるには、まず前提条件を併せるしかない。
それは──全ての人々から個人の感情を排除する事。全てを統一した何かに合わせる事──!!
「サッヴァーク1体では、それは無理だ。だけど、全世界中に増えたサッヴァーク全部を使えば、十分すぎる」
「ははは、く、狂ってやがる……!! そこまでして──!!」
「もう、今からでも全人類の意識の統合は出来る。エリアフォースカードを持つ君たちは流石に今すぐは無理だけど……このデュエルが終わり次第、皆サッヴァークと一緒になって、幸せになれるんだ」
「これが、お前の裁きか……!!」
「違う。裁くのは、あくまでもサッヴァークだ」
あまりの事の壮大さに、俺の身体から力が抜けていった。
は、はは……笑えてきた。人間、本当に強いショックを受けた時は笑いしか出てこないって本当だったんだな。
俺は跪いて地面に拳を打ち付けた。
……畜生。笑ってる場合かよ……畜生畜生畜生!!
勢い勇んでブランを助けに行ったつもりが、まさかこんなことになっちまうなんて!
エリアフォースカードはあくまでもサッヴァークを目覚めさせるための鍵。
本命は、サッヴァークを大量に呼び出すための幽世の門そのものだったのか!
「だからここで、僕の支配を解き放ち、サッヴァークを完全に自律させる。まあもっとも、あれだけ調教されたんだ。正義のエリアフォースカードの命ずるままにサッヴァークは裁きを遂行するだろう。良かったね」
次の瞬間、《サッヴァーク》の周囲から無数の剣が現れた。
それが《ヘルコプ太》を囲い、シールドへ封じ込めてしまう。
「《煌龍 サッヴァーク》の効果発動!! 登場時に相手の場にあるカードを1枚選んで、相手のシールド1枚の上に表向きで重ねる! 《パーリ騎士》を磔にしたシールドを選ぶとしよう」
「嘘だろ……!?」
全滅だ。
完全に。
俺の場にあった3体のクリーチャーは一瞬で無くなってしまった。
くそっ、だけどもう、こんなの慣れっこだ!
「させねえ……此処でお前を倒して、全部終わらせてやる」
「無理だ。既に、裁きは始まった」
「させねえってんだよ! お前のターンはもう終わったんだからな!」
俺はカードを引いた。
まずは、場のクリーチャー達をどうにかして排除しなきゃいけない。
「J・O・E・2で《バーバーパパ》を召喚。そのまま、攻撃するときに《ハヤテノ裁徒》とバトルだ!」
「無駄だね」
《ハヤテノ裁徒》の前に障壁が展開される。
それと同時に、俺のシールドにあった《ヤッタレマン》のカードが焼け落ちていく。
「無駄だって言っただろう。《サッヴァーク》が場にある時に自分のクリーチャーが場を離れる時、代わりにいずれかのシールドゾーンに表向きになっているカードを1枚選んで持ち主の墓地に置く」
……はぁ!? 何なんだその滅茶苦茶な効果は!!
それじゃあ、あいつが裁きの紋章を使う度に、あるいは除去を撃つ度に相手が除去耐性を使える回数は増えていくってことじゃねえか!!
このままでは俺はいつまで経っても《サッヴァーク》をどかせることは出来はしない。
「くそっ、W・ブレイクだ!!」
「トリガーは無し。だけど、もう勝負あったね」
「……!! ターンの終わりに《バーバーパパ》を山札の下に戻してターンエンドだ」
「ククク、そろそろ受け入れたまえ。新しい世界を……!!」
彼はカードを引くと、更にクリーチャーを召喚していく。
「2コスト。《剣参ノ裁キ》で《戦慄のプレリュード》を回収。そしてさらに2コスト。《戦慄のプレリュード》を唱えよう!」
つ、次は何かが来るんだ!?
まだ、これ以上に何かあるってのかよ!?
「1コストで場に出すのは、《DG~ヒトノ造リシモノ~》だ!」
また、DGが出て来やがった!!
増えるってのは、あながち嘘じゃなかったみたいだ……!!
「そして、その能力で互いのシールドを1枚ずつ選んでブレイクする!!」
その瞳から光線が放たれる。
俺のシールドと、ロードのシールドが互いに砕け散った。
トリガーは──
「まず、重ねられている《剣参ノ裁キ》を発動!!」
「そ、それ、トリガーなのか!?」
「ああ。《ヒトノ造リシモノ》の効果で、僕のシールドのメタリカ、または裁きの紋章は全てS・トリガーを得る」
「滅茶苦茶だ……!」
「効果で手札に《隻眼ノ裁キ》を手札に加える。そして、もう1枚。S・トリガー発動だ」
彼の笑みが恍惚とした物に変わった。
その底なしの力に浸るかのように。
「刻め、《命翼ノ裁キ》!! その効果で、僕のシールドを1枚増やす。そして、《断罪スル雷面ノ裁キ》のシールドに《命翼》を重ねる。これで、君はもう勝てなくなったよ」
「なっ!? どういう意味だ!?」
「分からないのかい。《ヒトノ造リシモノ》の効果で、僕のシールドの裁きの紋章は全てトリガーになっているんだ。そして、《命翼ノ裁キ》も同様。この意味が分かるよね?」
「……あっ!」
思わず、声に出てしまった。
そうだ。俺が幾らシールドをブレイクしても、無駄だ。
《命翼ノ裁キ》がある限り、あいつのシールドはずっと回復し続けるじゃないか!!
いや、それだけじゃない。今あいつは、同時に《断罪スル雷面ノ裁キ》のシールドに今のカードを重ねた。
ということは、シールドをブレイクする度に2回の除去も発動するって事だ。文字通り、今の奴の布陣は要塞状態。
下手にブロッカーを並べられるよりも厄介だ。
「もう、君は僕を倒す事は出来ない。大人しく、僕に葬られるが良い」
「……S・トリガー、《ジバボン3兄弟》!! 効果で《DG》と《サッヴァーク》を破壊だ!!」
「無駄だ。《パーリ騎士》と《ヘルコプ太》のシールドを犠牲にする!!」
これで、あと3回か。
あいつが除去耐性を使えるのは……!
今、あいつの場にある裁きの紋章しか表向きのカードは無い。
案外行けるかもしれないな。このまま除去カードを切り続ければ。
そのためには、辛抱強く、耐えきるしかないが……!
「もしかして今、”案外行けるかもしれない、このまま除去カードを使い続ければ”とか思ってるかな?」
「……何!?」
「悪いけど、大体君みたいな暑苦しい奴の考えてる事なんて分かるんだよね。考えが単純で、馬鹿で、無神経で、ヤバンだからさあ。Foolish。クソったれた大馬鹿野郎だ」
こいつ、言わせておけばずけずけと……。
「諦めろって言ってるだろォ、いい加減にさあ!! 《サッヴァーク》で君のシールドをW・ブレイク──するとき、効果発動!!」
「なっ!?」
サッヴァークの剣が雷電で煌いた。
それが何本も、俺のシールドを狙って飛んでいく。
「これが僕の絶対なる正義の剣──跪け、諦めろ!! ドラゴン・W・ブレイク!!」
突き刺さる剣。
その雷鳴が、ロードのシールドの上に刻まれていく。
これは──あいつのシールドの表向きのカードが増えてるってことか!?
「ドラゴン・W・ブレイク。君のシールドを、今僕は吸収した」
「何だと!?」
「相手のシールドをブレイクするとき、その数と同じ枚数のカードを山札の上から裏向きにして新しいシールドにするか、表向きにして今あるシールドの上に重ねるか選べるってことさ」
「……本当に吸収しやがった──あぁッ!!」
言ってる間に紫電が散り、俺の服を、肉を、すうっ、と切り裂いていく。
血が飛び散る。痛みが走る。
もう、残るシールドは2枚しかない……!!
ダメだ。堅牢すぎる。今まで戦ったどの相手よりも、理不尽で、硬く、そして恐ろしく鋭利な切札だ。
こんなの突破する方法、思いつかねえ。
ダメだ、ブラン。
お前を助けるつもりだったのに──!!
「砕けろ」
剣の突き刺さっていたシールドが、砕け散る。
あまりの光で、目が眩んだのか。
俺はそれを避ける事が出来なかった。
腕に。頭に。それは突き刺さる。
激しい紫電が襲い掛かり──俺の頭は、ショートした。
「あ、ああ……!!」
ダメだ。もう何も考えられねえ。
済まねえ、皆。
済まねえ、ブラン。
こんなところで、終われねえのに……!!
はらり、と落ちた皇帝のカード。俺は、辛うじてそれに手を伸ばす。
自分の意識を繋ぐかのように。だが触れた途端に──意識は、途切れた。