学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace22話:正義のサバキ─記憶

 ※※※

 

 

 

 病院ももう危ない。

 何人もの患者が病院から退避していった。

 ある者は救護所へ。ある者はヘリで広域へ。

 安全な場所へと連れ出されていく。

 桑原の姉は、搬送先で一先ずの安全を得た。

 しかし、全てを侵食するような水晶を見ながら、最早先が長くないことを察していた。

 

「……そろそろ覚悟を決める時かね」

 

 このまま皆、水晶に飲み込まれてしまうのだろうか。

 不安で押し潰されそうだった。

 弟の前ではあんなに笑顔になれるのに。1人になった途端、彼女はどうしようもなくなっていた。

 間の悪い事に、この場所からは山越しに水晶が良く見えた。

 

「まだ諦めるには早いんじゃねえか?」

「!」

 

 声がした。

 見ると、病人服の青年が横たわっている自分の前で街を食らう水晶を眺めていた。

 妙な青年だった。黒髪を後ろで括り、前髪は白とのメッシュ。そういえば、少し前からそんな患者が酷い怪我で運ばれたという話を聞いてはいたが……。

 

「……奇特だね。あんたも何でわざわざこんな所に?」

「たまたま此処が一番見えやすいから、ってだけだ」

「そうかい。なら、一緒に世界の終わりでも見届けるかい?」

「真っ平ごめんだぜ」

 

 青年は腕を組む。

 

「オレは、こんな時でも諦めきれない大馬鹿野郎達の事を思い出していたんだ」

「……はっはは!! こんな災害を、自分の手でどうにかしようって思ってるやつがいるなら、そいつは最高に大馬鹿野郎だね。どうしようもできないのにさ」

「だろ? だけど、出来そうな奴を知ってるのさ」

「根拠は?」

「無いけどな。でも、オレは断言できる。そいつならやってくれるって」

「狂ってるねえ、あんたは」

「こんな時だ。ちょっとくらい狂ってても良いだろ」

「それもそうだ」

 

 彼女は瞳を閉じた。

 少しだけ、青年の語り口に力を貰ったのだ。

 

「だけど皆、あの光を見てからいよいよ世界の終わりだって口々に言ってるよ」

「良く見ろよ」

 

 彼は笑みを浮かべる。

 

 

 

「あの光こそ、いよいよ現れた一抹の希望の光だって……考えてみないか?」

 

 

 

 ──頼んだぜ、耀。

 青年は呟くように小さな声で言った。

 その声は消え入るようで、誰にも聞こえる事は無かった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「とゆーわけでさあ、新人クンには悪いんだけど、早速部員集めしてほしいんだよねえ」

「……いや、でも俺まだ体験入部──」

「硬い事言わなぁーい! あたしがやれって言ったんだから、やるよね? やるよね? ねえ?」

「……はあ、まあ1年に声掛けてみます」

「ごめんねー!! 新人クンにコミュ力があって助かったよぉー」

 

 ──あれは、桜がもうすっかり散った頃の事だった。

 デュエマ部なんて奇特な名前の部活動に興味を抱いた俺は、もう3年生しかいないデュエマ部の現状に早速ぶち当たっていた。

 

「おい、あんまり新入生を虐めてやるな」

「そうは言っても今はあたし達がいるからこの部は何とか成り立ってるけど、あたし達が居なくなったら、この子1人だけになっちゃうからさあ」

「あの、何で2年生の先輩はこの部に居ないんですか?」

「流行ってるカードゲームの違いだ。後は、デュエマやってる奴が軒並み他の部に流れている。うちなんぞにやってたまるか、って逸材揃いらしい」

「確か美術部の桑原なんか凄いんだっけ?」

「ああ。美術一筋だ。デュエマも強いと聞いたのだが……勿体ない」

 

 いや、むしろそんな人をこの部に入れる方が勿体ない気もするのだが、こんなところでそんな事を言えるわけも無く。

 

「あのー、それで……俺、どうすれば良いんですか? クラスを回ったりするとか? 宣伝とか?」

「いや、それも手なんだけどね、もう4月も終わりだしさあ。大体の子が入部決めちゃってんのよ。それで、あたしは……こんなリストを作ったわけ」

 

 言った彼女の手には、1年生の生徒の名前が書かれた名簿が掲げられていた。

 何だコレ……帰宅部リスト?

 

「そう! その通り! 此処には、まだ部活に入っていない1年生のリストがあるわけ」

「はあ」

「それで、アタックしてきてほしいわけよ、君に」

「俺に?」

「そう! お願い! あたしらが行っても委縮するだけだしさあ、君にデュエマ部楽しい所だよー、って宣伝してほしいわけ。てか勧誘してほしいわけ。何なら引きずってきてもいーよ」

「この部の悪評を広めるつもりかお前は」

 

 飄々として掴み所のない部長を咎める副部長。

 まあ、デュエマ部が楽しい所なのは確かだ。部員は今は俺を含めて8人。

 一時期はもっと多かったらしい。だけど、別のゲームの流行もあってか今は減ってしまったらしい。

 先輩たちは皆優しいし、良い人ばかりなんだけどな。部長がかなりアクの強い人というか変わり者だ。

 真面目そうな彼は眼鏡を元の位置に戻すと、申し訳なさそうに言った。

 

「済まない白銀君。一先ず、やってみてくれないか? いや、このバカの戯言に付き合うのもアレだろうから断っても僕は全く構わないけどね」

「ちょっと、バカってあたしの事かー?」

「あ、あはは……」

 

 1年生の教室の前で小突き合う2人。そう、今は昼休みだ。一応、多くの生徒の目に付く場所なんですよ恥ずかしい。

 正反対で喧嘩もするけど、実は2人の仲が良いのは此処まで見てきて分かっているのだ。

 まあ、痴話喧嘩は放って置き、俺は渡されたリストをもとに帰宅部の生徒を一人ずつ当たっていく事にする。

 部長はかなり情報収集力が高い人らしい。一説によれば、生徒会やこの学校の重役の弱みまで握っているとのうわさがあるが……流石に嘘だろう。

 廊下を通ると、弁当を食った後であろう女子生徒達の声が聞こえてきた。

 

「ねえ、知ってる? B組の金髪の子……」

「うんうん、知ってる」

「なんかすっごい……だよねえ」

「ねー!」

「いっつも図書室にいるみたいだよ」

 

 金髪、か……。

 まさか入学早々、もう髪を染めて来てる奴がいるとは。いや、でも図書室に毎日居るのは変わってるな。

 割と治安が良いらしいからこの学校を選んだのだが……しかもそんな奴、見た事……見た事……いや、1回だけ入学式で見た事があったような気はするぞ。

 まあいい。取り合えず一人ずつぶつかっていこう。俺も同級生が全く居ないのは厳しい。

 早速の仕事と思ってやるとするか。幸い、先輩の言う通り、最低限のコミュ力は持ち合わせているつもりだ。[newpage]

 

 だ、駄目だ……。

 全く捕まらねえ。どうもこの学年にも、デュエマ以外のカードゲームが流行っているらしい。

 いや、それどころかどっから聞いたのかデュエマ部の変な噂も回っているらしく、それで敬遠する生徒までいるのだ。

 大方理由は分かった。あの部長だ。

 畜生、余計な事しやがってからに。何が部員を探してこいだ、難航してるのほかならぬあんたの所為じゃねえか。

 そんなことになってる間に放課後になってしまったわけだが、俺は先輩に再び命じられて部員探しをやっていた。

 ううう、デュエマがしたい……こんなことやるくらいなら……。

 

「……図書室、か」

 

 まあ、あんまりよろしくは無いんだろうが、アプローチは掛けてみるか。

 あそこにも帰宅部いっぱい居るだろうし、誘ってみる事にする。

 そう意気込んで入ったのは良いのだが……あまりにも静かすぎて勧誘には向いて無さそうだ。

 仕方ない。無理矢理押し付けられたも同然の仕事だし、本の1つ借りていくとしよう。

 生徒の数はぽつぽつ。思っていたよりも少ない。

 俺は、適当に文学のコーナーをぶらぶらすることにする。そして、好きな作家の本を手に取ると、何となく人気の無さそうな席を探していた。

 すると──

 

「ん?」

 

 ──目に付いたのは眩しい金の糸。

 図書館の隅の隅。

 カーテンで何故か隠れてはいるが、はみ出ているのが分かる。

 何だ。何だアレ。新手のUMAか。

 近寄ってみるが……やはり髪のようだ。

 すると、カーテンが捲れた。

 中から、ふらりと影が現れた。

 

「──ん?」

 

 それは、綺麗なブロンドの髪。

 俺と彼女は、そこで初めて対面する事になる。

 カッターシャツの上に、カーディガンを着た少女。

 前髪で顔の半分が隠れた少女。

 色白で──ブロンドで、碧眼の少女。

 本物だ。間違いない。

 

「っ? わ、Whats!? 何!? 何の用!?」

 

 彼女はカーテンに隠れてしまった。

 ああ、やってしまった。怖がらせたかな。

 取り合えず警戒心を解かないと。

 

「あ、すまん! 驚かせるつもりはなかったんだ。静かに本を、その、何だ、読める場所を探してたらたまたま……」

「……そう?」

 

 言葉遣いに英語が出たな。

 ハーフの子か? そういえば、女子たちが廊下で話していたのと一致する。

 もしかして、もしかしなくても、図書館にいつもいる金髪の子ってこの子の事か?

 だ、駄目だ。ナンパか何かって思われてるかな?

 彼女が手に持っていた本に目が行く。

 「緋色の研究」。確か……有名なシャーロック・ホームズシリーズの最初の長編だっけか?

 

「あ、ああ、それシャーロック・ホームズじゃないか」

「……うん」

「好き、なのか? 探偵とか」

「そう、だけど……sorry!」

 

 小走りに彼女は俺の傍を走り去ってしまう。

 あーあ、やっちまったなあ……。 

 そんな事を思いながら、俺は頭を掻きむしる。

 そしてしばらく項垂れた。

 ……何というか、引っ込み思案なんだな、あの子。

 デュエマ部に誘うのは到底無理そうだけど……友達が居ないのか人見知りなのか。

 少し気になるな。ハーフの子への物珍しさや興味も無かったわけじゃないが……何処か引っかかるものがあった。

 取り合えず、俺のクラスの子じゃないと思うから、明日辺りに花梨に聞いてみるとしようかな。あの子の事を。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ああ、知ってる。うちのクラスの子だからね」

「やっぱりか」

 

 人付き合いの多く、快活な花梨は案の定知っているようだった。

 クラスでも噂になっているらしい。

 

「名前は或瀬ブラン」

「何だそりゃ……って見ての通りか」

「うん。どうやら、ハーフらしいんだ。イギリス人とのね」

「ほーん。にしても綺麗な髪と目をしてたな」

「でも、引っ込み思案で全然誰とも話そうとしないの。休み時間もいつの間にか居なくなっていて、いつの間にか教室に戻ってきてる感じ」

「……そうか。まだ馴染めないのかな? クラスに」

「さあ。それとも、中学の時に何かあったのかなあ。学校に通って来てるだけまだいいと思うんだけど」

 

 彼女は溜息をつく。

 

「いやさ、この手の問題ってすっごいデリケートじゃない? ヘンに手を出すのもどうかなあって思って」

「……だよなあ」

「にしても耀。何で、いきなりこんなこと聞いたの? もしかして会ったの?」

「あ、ああ」

「そういえば、デュエマ部が部員集めしてるって話聞いたけど……耀、無理矢理ブランちゃんを誘ったんじゃないよね!?」

「違えよ!! ちょっと図書室でばったり出会っただけだ!!」

「……ふーん」

 

 花梨は怪し気に俺を見た。

 畜生、信用無いんだな俺は。

 お節介なのは自覚している。だが、花梨よ。お前も人の事は言えないんだぞ。

 

「……だけど、たまになんか羨ましそうにあの子、ちらちら見たりしてるんだよね」

「何をだ?」

「あたし達が一緒になって話してたりすると、ね。だけど、そっち向くとすぐ引っ込んじゃうんだ」

 

 彼女は髪を弄りながら言った。

 もしかして、本心では誰かと仲良くなりたいと思っているのだろうか。あのブランって子も。

 

「……折角可愛いのに」

「可愛い、か。確かにそれはその通りだと思うが──」

「ね!? 耀もそう思うでしょ!? だってだってだって、金髪碧眼ってあたしにとってはすっごい新鮮なんだもん!」

 

 花梨はどうも、西洋文化だとかもっと言うと金髪碧眼に憧れている節があるな。

 家が古めかしい道場の血筋だからその反動だろう。

 ……頼むから、明日から金髪に染めて来るとかは言い出さないでくれよ。

 

「しかしどうしたもんか……」

 

 俺は頭を抱えた。

 花梨が首を傾げる。

 

「どしたの?」

「結局部員は1人も集まらず仕舞いじゃねえか」

「安請け合いするからそうなる……とにかく、あたしじゃどうにも出来ないしねえ。剣道部だし」

「……俺だって、中学の時みたいに困ったらお前にすぐ助けを求めようとは思ってねえ。高校生になったんだ。自分一人で何とかしてみせる」

 

 ちなみに、この頃の俺は思ってもいなかった。

 部員集めという課題は、来年度になっても付き纏う長きに渡る問題になることに。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

 

 にしてもシャーロック・ホームズか。

 有名有名とは言われるが、結局今の今まで読んだ事は無かったな。

 俺は一応、根っからの文系の人間ではあるし、文学はそこそこ嗜んでいるつもりだ。

 ……ライトノベルばっかだけど。

 後、デュエマにも推理小説をモチーフにしたカードや、シャーロックの名前をそのまま使ったクリーチャーも居るので、名前の元ネタだけは知っていたりもする。

 だからこの時は、推理小説の元祖であるシャーロック・ホームズの本を読むため、探していたのである。

 純粋な興味で。

 故に、次の日の昼休みに俺は図書室を訪れていたのである。決してボッチだからというわけではない。

 そもそも入学して間もないのに、花梨くらいしか親しい奴はいない。

 

「おー、あったあった……」

 

 で、少し探しただろうか。

 作者名を追っていくと、コナン・ドイルでずらっと並べられる多数の本。

 と、思ったのだがあったのは短編集の「シャーロック・ホームズの冒険」のみで長編作品はごっそりと抜かれている。

 

「あのっ……」

「!」

 

 急に話しかけられたので振り返ると驚いた。

 そこに居たのは、ブランだった。

 引っ込み思案なはずの彼女から声を掛けてくるのも意外だったけど。

 

「或瀬……さん、だよな」

「う、うん」

 

 遠慮がちに彼女は首を縦に振った。

 小動物のようなしぐさで、彼女は髪を弄る。

 

「ご、ごめんね……昨日は、逃げちゃって」

「いや、気にしてないよ。それより、どうしたんだ?」

「あ、あのっ……本は好き、なのかなって」

「あ、ああ。読書は好きだぞ」

 

 普段はラノベばっかだけど、とは言えないけど。

 遠慮がちに聞く彼女に対し、俺も一歩下がった態度で受け答えせざるを得なかった。

 

「え、えと……そう、なんだ……」

「……あー、実は最近推理小説に興味を持ってな」

「? どうして?」

 

 返答に困った。

 その場しのぎの理由だった。

 急場でこしらえたものだった。

 だけど、それが俺があいつを繋ぎとめるきっかけになった。

 俺はあの時、何て返したのか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 今は、思い出せなかった。

 仰け反りそうになった。

 ブランの声が聞こえたかと思ったら、そこにあったのは──死んだと言われた、あの巨大な宝石亀だ。

 

 

 

 

 

 

「──ワンダータートル……!!」 

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