学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

117 / 316
Ace23話:正義のサバキ─覚悟

 

 

 

 

 だが、それはまごう事無き異形であった。

 首から先は原型をとどめておらず、水晶の仮面に覆われて別物と化している。

 敢えて名前を付けるのならば──ワンダータートルDGと言ったところだ。

 しかも、そこには敵意しか感じない。咆哮し、俺に襲い掛かってくる。

 そうだ。

 此処は、1年半前じゃない。

 過去に遡るなんてことは有り得ない。少なくとも、今この場では。

 そして何より、エリアフォースカードが現代の俺であることを証明している。

 何が俺とブランの出会いを追体験させたかは分からない。

 あるいは、俺自身が死に瀕したことで幻でも見たのか!?

 ……信じたくは、無いな。

 だけど今は──このから逃げるっきゃねえ!

 デッキが見当たらない今、あのクリーチャーをどうにかする術は無い。

 どうして、こんなことに──!!

 

「!?」

 

 見ると、図書館の本棚が崩れていく。

 それも、壊れた立体パズルのピースのように。

 あるいはジェンガのように。

 ぼろぼろと零れるようにして崩れ、そして黒い灰になって消えていく。

 

「……ち、畜生!! こんなところでっ、死んでたまるかよォ!!」

 

 俺は走り出した。

 気が付けば、周囲には誰も居ない。

 俺は図書館を飛び出し、廊下に出た。

 だけど、既に廊下は真っ暗で何も見えない奈落に食われていた。

 ただひたすら、光が残っている方向に俺は逃げる。

 だけど、足が絡んで倒れてしまった。

 

「畜生……!! ブラン……!!」

「saccmmjsdcmkdkxsksmxkslskjdjskneaozkl……」

 

 ノイズのように濁った声が聞こえてくる。 

 背後から追ってくる仮面の亀。

 ワンダータートルDGが発するもので間違いなかった。

 心が怯えている。身体全身が、恐怖を感じている!

 この、亡霊とでも言うべき怪物を前にして──!!

 

「駄目だ、何にも無い、のか……!!」

 

 他に誰も、ましてチョートッQも居ないこの状況下で……!

 俺は、何も出来ないってのか!?

 崩れ落ちていく校舎。

 逃げ場は無い。

 だけど……!!

 

「……上等だ。俺は何処にも逃げねえぞ……!」

 

 こんな所で及び腰になってる場合じゃねえ。

 俺は決めたんだ。何があっても──仲間を救い出す、って!!

 だから、絶対に……最期まであきらめるわけにはいかねえんだ!!

 

「mwjmsklskslaakwleashiroganeakaru……!!」

「っ……掛かって、来やが──!!」

 

 亀は──止まった。

 そのまま俺に襲い掛かる事は無かった。

 ──? 今、一瞬だけ──こいつの言っている事が分かった気がするぞ。

 ……待てよ。

 

「これは……怒り?」

 

 何への、怒りだ?

 このワンダータートルの?

 いや、違う。

 

「……ア……ル……!!」

 

 違う。

 はっきりしてきた。

 まるで、ぶつぶつと、呟くような声。

 水晶の中に潜む赤い光を見て、俺ははっとした。

 何かが、俺を覗き込んでいる。

 

「耀っ……!!」

「……っ」

 

 ようやく、龍が俺を呼んでいると気付いた時。

 俺の手には、皇帝のカードがあった。

 いや、握らされていたというべきか。

 だけど──

 

「う、うおおおおおおおおおおおお!?」

 

 鎖だ。

 丁度、ブランが縛られていたような鎖が俺の身体に巻き付いていく。

 

「畜生……これは──!!」

 

 次の瞬間。

 俺の脳裏に映り込んでいく無数の映像。

 まるで、彼女の苦しみを体現するかのように。俺に、流れ込んでくる。

 そして、砕けた。

 俺の脳裏で。

 あの、宝石亀──ワンダータートルがブランの目の前で砕け散る様が。

 

「いやだよ……!!」

 

 ブランの声が直に響いた。

 

「あんなに、あんなに、一緒に居たのに……!! 相棒だと思ってたのに!! 嫌だあああ!!」

「……ブラン……お前……ワンダータートルが!!」

 

 信じたくは無かった。

 やはり死んでいたのか、ワンダータートルは!

 それも、彼女の目の前で!!

 じゃあ、今目の前にいるのは、やはり幻だというのか!?

 

「ワンダータートルは……あたしの、相棒だったのにっ……!! 居なくなっちゃった!! もう喋らない、もうMeに応えてくれない!! もう、戦えない!! いっつもそうだぁっ!! 仲が良くっても、友達だと思ってても、皆裏切るんだ!! 皆Meの周りから居なくなるんだ!! 消えて、無くなっちゃうんだぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 幼い声。

 俺の知っているブランのものより幾分か高く、そして悲痛さで胸をズタズタにさせていく声。

 ずっと、ずっと、彼女が抱えていたものが吐き出されていく。

 孤独。悲しみ。怒り。憎しみ。

 何よりも──親しい人から受けた裏切り。

 それが、俺の心もずたずたにしていく。

 俺の瞳からも、涙が零れそうだった。

 

「ブラン!!」

 

 叫び散らす亀。

 鎖が俺を引き裂こうとばかりに、強く引っ張られた。

 

「ぐうっあああ!!」

 

 身体中に痛みが迸る。

 みちみち、と音が鳴り出しそうだ。

 関節が抜けてしまいそうだ。

 ダメだ。意識が遠のく。

 このままじゃ──

 

 

 

『マスタァアアアアアアア!!』

 

 

 

 鎖が緩む。

 金属音。

 断ち切られたのか?

 鎖が──!!

 その瞬間、俺は宙に浮いていた。

 そして、すぐさま何かに抱きかかえられた。

 

「チョートッQ……じゃなくてダンガンテイオー!!」

『やれやれ、やっと見つけたでありますよ!!』

「っ……た、助かったぜ」

 

 にしても、何でこいつが此処に?

 

『マスター!! 此処は、恐らく正義(ジャスティス)のエリアフォースカードの内部であります!!』

「……は?」

 

 言ってる意味が分からねえ。

 エリアフォースカードの内部?

 いやいや待て。それじゃあ今の俺の身体はどうなってるんだ?

 小さくなったとでも言いたいのか?

 

『精神世界、とでもいえば良いでありましょうか』

「?」

『つまり、今のマスターは精神体のみであのサッヴァークの中に潜り込んでいる事になるでありますよ……今の我々は何の偶然か、運よく皇帝(エンペラー)の力を行使して正義の中に侵入出来たようであります。そして、サッヴァークに取り込まれたブラン殿の意識も今まさに目の前に……!』

「成程、な。だけど、そうなると……待てよ」

 

 俺は1つの可能性を見出す。

 守護獣は、今までの例を見るにエリアフォースカードと屈強な繋がりで結ばれた存在だった。

 ジョニーは戦車に命じられるがままに動いていたし、シャークウガは魔術師のカードが目覚めた事で自身の感覚も研ぎ澄まされていた。

 逆に考えると……今、俺の目の前にはDGに侵食されたワンダータートルの姿がある。もしも、まだ──ワンダータートルの意識が遺っているのだとすれば?

 

『とはいえ、最早あれは亡霊のようなもの。残留した魔力の見せる幻のようなものでありましょう!』

「そこにワンダータートルの意思は無い、ってことか!?」

「shjkwsajakakeklalsrkanzlrl!!」

 

 次の瞬間、薙ぎ払うようにして閃光が俺達を狙う。

 ダンガンテイオーがそれを刀で弾こうとするが、それが次々に結晶となっていくのを見るや得物を手放した。

 

『くうっ……恐ろしいクリーチャーでありますなあ!』

「どうするんだ!? あの中にはブランが……!」

『叩き壊して破壊するでありますよ!』

「……いや、駄目だ!」

 

 これは推測に過ぎない。

 だけど、此処が精神世界だっていうのなら──

 

「仮にここが精神世界だってんなら、今のあいつの心は、まさに仮面を被った暴れ狂う龍も同じだ」

『何故でありますか?』

「昔のブランは、それだけ塞ぎこんでたんだよ。周囲から自分を閉ざすように! でも、下手に仮面を壊すのは危険だ! それは力づくで解放するってことだからな! そんなことしたら、傷ついちまう! だから──これは命令だぜ、ダンガンテイオー!!」

 

 俺はありったけの魔力を注ぎ込む。

 

「ワンダータートルを抑えつけるんだ!! 暴れる龍を宥めるように……出来るか!?」

『抑えつけるゥ!?』

「ああ!! こっちから歩み寄って、近付かなきゃ、何時まで経ってもブランは……救えねえ!!」

 

 俺は拳を握り締めた。

 

「ダンガンテイオー!!」

『御意でありまァァァァァす!!』

 

 ダンガンテイオーは、身の丈の3倍はあろうかというワンダータートルDGにとびかかる。

 そして、その瞳を塞ぐように仮面に抱き着いた。

 水晶に覆われたの口から光線が放たれた。

 何度も。何度も。何度も。まるで吐き出すかのように。

 心の中の重い物を全て吐き出すかのように。

 悲しみも、憎しみも、怒りも全て。

 だけど──光線は1発も当たることなく、次第に弱くなっていく。

 俺はダンガンテイオーから飛び降りた。そして水晶の頭を掴む。

 

「ブラン!! 聞こえるか!! ブラン!!」

「駄目だよ!! Meじゃあ、何も、守れないっ……Meの正義は、ワンダータートルを……守れなかった……!! あたしが、あたしが弱いから、皆居なくなっちゃうんだああああああ!!」

 

 ヤバい。

 振り落とされそうだ。

 龍は暴れ続ける。ダメか!?

 俺の声は、届かねえのか!!

 

『ブラン殿ォ!! ブラン殿の正義が無力だったなど、我々は思っていないであります!! ブラン殿の正義で、救われた人は確かに居るのでありますよォ!!』

「っ……あああああああああああ!!」

『初めて会ったあの日ィ!! 我は忘れないであります!! マスターが戦えなくなったあの日、マスターの代わりに何も知らない我の話を聞いて、マスターの代わりに戦ってくれたこと!! それが、マスターだけじゃなく、我を助けた事!!』

 

 そうだ。

 あれはデッドゾーンの事件の時だ。

 チョートッQ。ブランに恩を感じていたんだ。

 

『忘れただなんて言わせないでありますよォ!! せめてもの、恩返しくらいさせろでありまぁぁぁぁぁす!!』

 

 泣き叫ぶブラン。

 光線が周囲に水晶を作っていく。

 まずい。このままじゃ、皆飲み込まれちまう!!

 

「やああッッッ!!」

 

 刹那。

 声が響き渡る。

 これは──まさか。

 空間が、割れる。

 そこから光が漏れる。飛び出してきたのは──花梨と、火廣金だ!!

 ”罰怒”ブランドも一緒になってワンダータートルDGを押さえつけているぞ!

 何で2人も此処に!?

 いや、それだけじゃない。

 

「白銀先輩!!」

 

 龍の足が凍結していく。

 それで完全に足止めされたようだ。

 放ったのは──シャークウガだ!

 紫月も一緒だなんて!

 

「やはり、俺達は最後に一緒の所に到達するサダメらしいな。部長」

「お前らも……!?」

「火廣金先輩の主導で、何とかエリアフォースカードを使って無理矢理でも正義(ジャスティス)のカードにアクセスできないか、試していたのです。後1歩、魔力が足りなかったのですが先輩が倒れた途端にいきなり全員アクセス出来て……」

「……あ」

 

 そういえば倒れる直前に、皇帝(エンペラー)のカードだけは掴んでいた気がする。

 もしかして、それでか?

 

『意識を失って、無意識にエリアフォースカードに触れたことでデュエルではなくそちらに魔力が自動的に注がれたってところか。適合率の高さが生んだ僥倖だったってところだろうぜ』

『ともあれ、助太刀感謝であります!!』

「……あたしもブランの友達だからね。出来る事は全部やるつもりだよ」

「私もです。まだ、先輩に勝手に食べられたスイーツを弁償してもらってません……全部は」

 

 おいおい……あいつまだ他にも紫月のスイーツ食ってたのかよ。

 

「それに、ブラン先輩が居ないと……静かすぎますし」

「……そうだな」

 

 火廣金も相槌を打った。

 

「俺も、彼女から学ばねばならぬことが沢山ある。あんな奴に好き勝手されてたまるものか」

「……火廣金」

「……部長。やるぞ。俺の仮説……ロードはワンダータートルを殺害し、無理矢理正義(ジャスティス)の主導権を奪ってサッヴァークを制御しているというところが妥当だろう」

「ああ。だけどどうするんだ? ワンダータートルはもう──」

「いや、ワンダータートルはまだ完全には死んでいないはずだ」

 

 彼は悶える水晶亀を抑え込みながら言った。

 

「或瀬のあの状態。魔導司の世界では、イケニエと呼ばれる物で、人の魂をクリーチャーの幼体に食わせる事で強化するという禁忌の秘術。これを使えば、文字通り人間の意識はクリーチャーに食われ、魔力に変換され、二度と元には戻らん」

「そ、そんなぁ!! 折角来たのに!? 何で今まで黙ってたの!?」

「……人の話は最後まで聞け!! 普通なら、そうだ。だけど、刀堂花梨。俺達は現に此処に入った時感じたはずだ。食われたはずの或瀬の魂の声を!!」

「っ……そういえば、私もです。何故か、ブラン先輩との思い出の中に居て……そうしたらいきなり空が崩れてきて、シャークウガに助けられたんです」

「俺達もだ、暗野」

「俺もだ。ってことは……」

 

 火廣金は頷いた。

 

「或瀬の記憶は、意識は……完全には消えていない」

「ああ。だけど──待てよ。そうなると、だ」

 

 ロードは、もうブランは元の彼女には戻らないと言っていた。

 だけど、それはさっきの火廣金の言った通り、イケニエの魂が完全に食われた場合の話だ。

 どうやらロードの奴は、ブランの魂がとっくに食われたものだと思っていたらしいが、こうなると前提が覆るぞ!?

 

「俺は奪われたというエリアフォースカードに全てを賭けた。簡単にエリアフォースカードが支配に屈する事が無いという可能性に賭けた!!」

「……なら、俺も当たったみてーだな。絶望的だった、賭けが」

 

 実際の所、半ばあきらめていた。

 だけど──

 

「ああやって、幻でもブランの心を守ってたとすれば……ワンダータートルは、生きてる。まだわずかに……!! あいつが、ブランの魂をサッヴァークから守ったのだとすれば!?」

「正義はまだ……折れてないってことだね!!」

「……当たり前です。そうじゃなきゃ、困ります」

正義(ジャスティス)が完全にサッヴァークの言いなりになっていないなら、正義(ジャスティス)に魔力を注ぎ込むしかあるまい」

「つまり、内側からってことか」

「ああ。賭けだが、他に方法は無いだろう」

「ま、待って! 目覚めさせるのは良いけど、あたし達はどうやって脱出するの!?」

 

 あっ、と全員口を噤む。

 まさか、誰も考えていなかったのか?

 俺は何も魔法については知らない。シャークウガに助けを乞うように視線を向ける。

 

 

 

 

『時間は無い。恐らく、すぐに追い出されるだろうな』

 

 

 

 な、なんてこった。

 じゃあもう一刻の猶予も無いってこか。

 

「ま、まさかそれって」

「善は急げと言います。私だって、一刻も早く先輩を助けたいので」

 

 魔術師(マジシャン)を掲げた紫月。

 それが抑えつけられているワンダータートルに魔力を注いでいく。

 

「ブラン先輩。また、明るく笑うブラン先輩が見たいです。帰って、きてください」

「……!!」

 

 サッヴァークの叫びが引いていく。

 仮面を通し、彼女自身の心に響かせるように。

 

「……覚悟は決めたよ! あたしも!」

 

 花梨も戦車(チャリオッツ)をその上に重ねた。

 

「早く戻ってきてよ、ブラン! 本当に世話が焼けるんだから!」

 

 俺も、その上に皇帝(エンペラー)のカードを重ねる。

 頼むぜ。

 ワンダータートル。最期にお前が残してくれたものが──頼りだ!!

 

「ブラン!! 俺は、俺達は此処に居るぞ!! お前の、やったことは間違いじゃなかった!! だから──」

 

 エリアフォースカードを通して、俺達の力が注ぎ込まれていく。

 ワンダータートルDGの身体が光り輝き──

 

 

 

 

「お前が、お前の正義を諦めるんじゃねえええええええええええええええええ!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。