学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第五章:Ace・漆黒のドルスザク編
Ace25話:戻って来たもの、戻って来ないもの


 全ての水晶は間違いなく消失したらしく、魔導司はロードの身柄を確保したらしい。彼がどうなるかはまだ分からない。だけど、然るべき裁きを受けるのだという。

 水晶の事件は全世界の権力と繋がった魔導司が色々根回しして人々の記憶から薄れさせていったらしく、無かったことになりつつあった。

 最初は騒ぎ立てていたのがウソのように、日が経つ事に、徐々に記憶から消えていき、冬休みが終わるころにはすっかり水晶事変は世界中から「なかったこと」になりつつあった。

 あまりにも波乱と怒濤の2日間に、俺達は既に冬休みで使うはずだった気力を全て使い切っており、ブランの心配をしつつも一先ずは繕われた日常へ戻っていくことになった。

 ──こうして、俺達のあまりにも忙しすぎる冬休みは終わりを告げたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──デュエマ部の活動、今日から早速始めるのですか?」

「……ああ」

 

 俯いて言った紫月に、俺は頷いた。

 戸のガラスに掛けられた「デュエマ部」と書かれた段ボール紙を手で撫でる。

 

「部員、今日来てるの私達2人だけですよ」

「だからこそだ。デュエマ部という日常を守らなきゃいけない。お前達部員が帰ってくる場所にしておきたいんだ」

 

 そうですか、と紫月はトーンの落ちた声で言った。

 まるで疲れているようだった。あの一件をまだ引きずっているのだろうか。

 

『怒涛の2週間でありましたな。と言っても本当に怒涛だったのは3日くらいでありますが』

「俺にとっちゃ、さっさと学校始まってくれって感じだったよ」

 

 当然だ。俺でさえ街を覆う水晶が未だに目に焼き付いて離れない。災害も良い所だ。

 こうして普通に学校に登校できるのがおかしいと思えるほどだ。

 それなのに──

 

「……今日、久々に学校に来てゾッとした事があるんです。あんなに、あんなに凄い事件だったのに……もう、皆忘れているんです。何も、無かったみたいに」

「……」

 

 ──魔導司がそれだけ世界中で根回ししたという事なのだろう。

 未曾有の事態で人々に混乱を与えないために、印象操作、記憶操作、メディア・ネットからの情報の痕跡削除、あらゆる国家の暗部と手を組んで動き回ったようだった。

 結果的に、この災害での犠牲者は居なかった。水晶に飲み込まれた人も水晶が消滅するとともに元に戻ったという。 

 いや、いずれはこうなったというのだろうか。どんなに大きな災害も、事件も、最後には皆忘れてしまう。風化、というやつだ。魔導司達の根回しは、それを速めただけに過ぎないのだろうか。

 それが良いのか悪いのかはともかく、俺達は──守った事になるのだろうか。日常というものを。

 

「私は、今回の件で重々感じました。日常というのは、本当に守るのが大変なんだ、って。必死に、必死に誰かが守り通さないと、ああも容易く崩れてしまうものなのだと」

 

 そうだ。今でも考えただけで手が震える。

 後一手遅かったら? あの場で切札が引けていなければ?

 俺は──負けるどころか、全世界を滅ぼしていたのかもしれない。

 二度とやりたくない、と思えるほどに重すぎるプレッシャーだった。

 それでも運命は、誰かがやらなければならないことを決定づけた。

 それが今回は──俺だった。それだけのことなのかもしれない。

 だからこそ、二度とあんな災厄を起こしてはいけないのだ。

 

「ブラン先輩、始業式に来ませんでしたね」

「火廣金もな。あいつも魔導司の仕事で忙しいんだろう。二人だけだが、また営業開始といこうぜ」

 

 俺は鍵を開けた。

 スライド式の戸をずらし、教室の中に入ろうとする。

 だが、紫月は入ってこない。どうしたのだろう、と振り返ると、

 

 

 

「先輩、2人っきりに乗じて変な事をするつもりじゃないですよね」

「おい、紫月ーッ!!」

 

 

 

 何でだァ!! 何で今になってそんな事を言われなきゃいけないんだァ!!

 

「今更じゃねーか!!」

「だってみづ姉以外は信用できませんし、男なんて皆狼です」

「信用ねえんだな!!」

 

 はぁ、はぁ、と俺は肺に空気を取り込む。

 久々に全力で突っ込んだ気がする。

 クスクス笑う紫月。呆れる俺。

 彼女なりに──また、”平常運転”に戻してくれようとしたのだろうか。

 

「ウソですよ。さっさとデュエルを始めましょう。待つのはつまらないので」

「……釈然としねえ」

「それに先輩は僧ですから何も心配はいらないって分かってますよ。一々冗談を真に受けないでください」

「僧って何? 俺ひょっとして馬鹿にされてる?」

「とにかく、強化に強化を重ねたこのデッキで──」

 

 

 

「済まないが、それは俺も聞き逃せんな」

 

 

 

 俺達は再び振り返る。

 そこには、気障に手を振る火廣金の姿があった。

 

「火廣金!? お前、今までどうしてたんだよ!?」

「済まない。アルカナ研究会の方の仕事が山積みでな」

「それはまた……大変でしたね、先輩」

「レディ、心配には及ばないよ。魔法使いの身体は人間以上に頑丈だ。この程度では何てことはない」

 

 良かった。ロードの事件が終わった後、激務に追われているだろうとは聞いていて、俺達に出来る事は無いかと聞いても「大丈夫だ」の一点張りだからむしろ心配していたけど何とかなっていたようだ。

 「人間の君たちは手伝っても過労死待ったなしだが?」と脅されたから、俺らには何も出来なかったわけで。

 最も、当の火廣金も薄っすらと顔に疲労が見られてはいたが。

 

「火廣金。部室で休んでて良いぞ」

「そうだな。プラモデルでも久々に作るとしようか」

 

 ざっ、と彼が何処からか取り出したのはプラモの箱。

 そこにはアメリカ戦艦・ウェストバージニアと書かれていた。 

 やる気満々じゃねえか、デュエマに少しは熱意を向けてくれよとは思うが……。

 

「……換気はしとけよ。教室中が接着剤のシンナー臭で充満するからな」

「もう止めるの諦めたんですね、白銀先輩」

「止めて止まるタマかよ……それと火廣金、聞いておきたいんだけど」

「何だ?」

「ブランの事だ」

 

 火廣金は「ああ」と軽く返すと、床に新聞紙を広げて箱からプラモのキットを一式取り出し始める。

 

「無事だ。保護した後、精密検査したが異常は無し。あの場でのエリアフォースカードへの処置が良く働いたと言っても良いだろう。すまんな、詳しい経緯を連絡出来なくて」

「良かったです、ブラン先輩」

「だが、少々衰弱していたのでイギリスの病院で処置を受けさせ、数日経って両親の下に送り返しておいた。だから、とっくに日本へ帰国しているはずなんだが」」

「エリアフォースカードは?」

「こちらで精密検査したが、今はすっかり魔力を放出しきって休眠状態だ。今は俺が保管している」

 

 火廣金曰く、ロードを倒した際に水晶の龍達は皆消え去ったらしい。

 その中で、運命の輪、女教皇、審判のカードを回収する事こそ出来たが、ロードが持っていた幾つかのカードを未だに発見出来ていないという。

 

「俺達のやるべきことは、残るエリアフォースカードの回収だ。しかし……或瀬があの状態では……とてもじゃないが、そんな事を頼めない」

 

 俺は首を捻った。 

 流石の火廣金も心配なのか、ニッパーを置いてしまった。

 

「……あいつ、やっぱり弱ってるんじゃねえかな」

 

 ワンダータートルを失った事、そんでもって幼馴染が世界規模のヤベー事をやらかした上に自分がそれに利用された、正義感の強いあいつが……そんでもってワンダータートルを相棒だって何時も言ってたあいつが、ショックじゃない訳がない。

 

「……塞ぎこんでてもおかしくないですね」

「……ああ。心配だ」

 

 俺はブランの心の中を覗いた時を思い出す。

 心の支えを失っていく彼女の嘆き。そして叫び。

 あの時、あまりの悲痛さに俺は立っているのがやっとだった。

 

「簡単には……立ち直れねえだろーよ」

 

 

 

「皆サン! 遅れてSorry! ブランちゃん、華麗なる復活デース!」

 

 

 

 俺達は飛び退いた。

 デュエマ部の部室にやってきたのは──しばらく聞いていなくて、尚且つ恐らくもうしばらく聞かないだろうと思っていた、あの溌剌明朗とした声だった。

 

「ブラン!?」

「いやー、ちょっと色々あって始業式には出られなかったデスけど、せめて部活には出ようと思ってデスね? 皆サンに心配かけてはいけないと思って!」

「さっきの火廣金先輩みたいなこと言ってますね」

「どういう意味だレディ」

「え、えと、お前……もう大丈夫なのか?」

 

 あからさまに努めて明るく振る舞うブラン。

 彼女は高らかに笑いながら「問題Nothing!」と答える。

 

「もう大丈夫デスよ! 皆サンに助けてもらったおかげデース!」

「軽いですね、それにしては」

「ほらほら、新しくデッキも組んで来たんデスよ! ね? 早くデュエマするデスよ!」

 

 そう言って、彼女は部屋に入ろうとする。

 にこにこ、と笑顔を崩さない彼女は久々の部室のソファに座り、そのまま鞄からデッキを取り出したのだった。

 

「ね? 早く始めマショ?」

「……なら良いんだけどよぉ」

 

 本当に、吹っ切れたのならば良いのだが……俺にはどうもそうには思えない。

 ブランがカードを広げようとすると、ばらばら、とデッキケースからカードが飛び散った。

 

 

 ※※※

 

 

 

「くーわばーらせーんぱいっ」

 

 

 

 弾むような声で呼びかける。

 反応なし。こうも無視されると、流石に少し傷つくというのが乙女心というものだ。

 もう、とっくに引退したはずの美術部部員・桑原甲だったが、それでも惰性か受験が終わった後は度々こうして屋上に足を運び、油絵を描いていた。

 

「……んー、おお。紫月か」

 

 まるで夢現半分で彼は振り向きもせずに言ってのける。

 彼女はいよいよ憤慨して、桑原の右耳を引っ張り上げて叫んだ。

 

「みーづーき!! 翠月です!! 間違えないで、って言ってるでしょ!」

「……んー、そういやちと胸が小せぇような」

 

 振り向きもせずに桑原は言った。

 適当である。

 翠月の頭に血が昇った。

 

「……くーわーばーらぁー先輩ッ!」

 

 げしっ、と思わず彼の座っている椅子を蹴飛ばすと彼はコンクリートの地面に思いっきり尻餅をつく。

 だが、それでも尚燃え尽きたようにぼーっとしていたのだった。

 

「もう、先輩ったら! 部活を引退して、受験もさっさと終わらせちゃったからって燃え尽きすぎです! おまけに今みたいなストレートなセクハラ! 次はしづに言いつけますからね!」

「隙あらば妹のおっぱい揉みに行ってる甘えん坊が……俺の事ァ言えんのかよ」

「うぐっ……それは否定しませんよ、でもしづが可愛いのがいけないんです。だって、私の妹、ですからね!」

「……テメェ、だんだん隠さなくなって来たな」

 

 少し前の白銀耀も紫月に同様の事を言っていたりする。

 半ば取り乱しているからか、色々とおかしい事を口走っている翠月にまともに取り合う事もせずに再び桑原は絵筆をとってキャンバスに向かい合った。

 燃え尽き症候群は強ち間違っていなかった。

 余りにも怒涛の2日間、今までとは別次元ともいえる敵とそれを巻き込んだ戦いは、少年の心を摩耗させるには十分過ぎた。

 戦っている時は、(ストレングス)の魔力供給もあってかハイになっており、なりふり構わずに集中出来た。

 だけど、いざ終わってしまうと──まだ何も解決していないという消化不良感、そして擦り切れた精神が情熱という情熱をこそぎ落としていった。

 だが、そんなものは始めの二日ですぐに終わった。

 その後は──ひたすら、思索に耽っていた。もう、美術部にも受験にも縛られることはない。冬休み中はワイルドカードの出現も結局見られなかった。

 桑原は、あの戦いを絵にしようとしていた。

 だけど、余りにも鮮烈で強烈な光景の数々は、結局絵にすることなどとてもではないが出来なかった。

 ロードとの戦いは終わった。しかし、行方が掴めない未だにエリアフォースカードが存在しているという。

 だからこそ桑原が下した決断は──

 

 

 

「そんでもって、先輩! 何でキャンバスにデッキレシピ書いてるんですかァ!?」

 

 

 

 ──ひたすら次の戦いに備える事であった。

 キャンバスに描かれていたのは無数のデッキレシピで、まさに異様の一言。

 上から順にカードの名前と投入枚数が筆でつらつらと書かれていたのだった。

 

「やべ、気がついたらつい」

「じゃないですよ、何やってるんですか!」

 

 バシンッ、と背中を叩かれた。

 それで桑原の意識は一気に戻された。

 

「いってぇ!!」

「らしくありませんよ、先輩。本当にどうしたんですか。そんなんじゃ、先輩が卒業した後が大変です」

「……テッメ……加減しろ加減!! つか、何の用だよ? わざわざ……テメェも課題があるだろうが」

「うっ……それは、先輩が冬休み中、学校が開いてる間にずっと屋上でこんな様子だったからに決まってるじゃないですか」

「うぐぐ……」

 

 桑原は溜息をついた。

 精神的な疲れは、後輩にも見抜かれていたようだった。

 

「俺はもう美術部員じゃねーぞ」

「卒業するまでは一応この学校の生徒ですし、しかも未練たらしく屋上で絵を描いてるじゃないですか」

「……チッ、テメー……最初は真面目だと思ったが、こんなに減らず口叩く奴とは思わなかったぜ」

「だって、心配だからです」

 

 翠月は目を伏せた。

 

「私は先輩の絵を見て、この学校に入ろうって思ったんです。自分の心を動かした絵を描いた人がそんな状態で……気に掛けるのはおかしいですか?」

「……」

 

 ぷい、と翠月は目を逸らした。

 照れ隠しだろうか。こうしてみると、やはりあの妹あってこの姉か。

 考えているだけなのは、やはり性には合わないということだろうか。

 桑原は立ち上がる。

 そして、言った。

 

「あんがとよ」

「!」

「ちょっと色々あってな……だけど、やっぱ馬鹿な俺には考えているのは似合わねーわ」

「先輩……!」

「さて、と。せめて卒業までに軽く1枚、仕上げてやりましょうかね」

 

 ──ま、こいつは元気そうで良いんだけどよ。

 桑原は溜息をつく。

 自分はまだいい。やるべきことは決まっている。

 そもそもぼーっとしっぱなしもそろそろ飽きていたところだ。

 だが、そうではない人物が周囲に居る。

 放っておけない大事な後輩が居る。

 ──或瀬の方が俺ァ……心配だぜ。

 

「……ン?」

 

 桑原はふと空を見上げた。

 一瞬、すぅーっと薄い影が空を覆ったような気がした。

 

「気の所為か……?」

『いや、魔力の反応だ。だけどすぐに消えてしまったよ』

「……そうか」

「どうしたんですか? 桑原先輩?」

「……何でもねえ」

 

 桑原は首を横に振った。

 何でもなければ、それで良いのだが──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……《プラチナ・ワルスラS》でダイレクトアタック。また私の勝ちです」

「あ、あれー? お、おかしいデスね」

 

 つまらなさそうにする紫月に、とぼけたように困惑するブラン。 

 見たところ、ここ数戦ずっと紫月の勝ちっぱなしだった。

 まあ、地力ではブランの方が上なのだから、紫月の勝率が高いのは目に見えているのだが、どうも勝った彼女はと言うと不満そうだった。

 

「まあ、デュエルはこれくらいにしてデスね」

「先輩。今回のデュエル、どう考えてもおかしかったです」

「お、おい、紫月……」

 

 不服そうに、彼女は言った。

 

「ラビリンスを狙っていたはずなのに、シールドを割りに行かない。かと思えば殴らなくて良い場面で殴りに行く。さっきだって《ミクセル》を出して《バーナイン》を出し、ドローを稼ぐのではなくて《ジャミング・チャフ》を使うべき場面だったはずです」

「……」

「どれも、いつもの先輩ならしないミスです」

 

 駄目だ紫月。それ以上言うんじゃない。

 そんな事は、俺だって、火廣金だって分かっていたことなんだ。

 ぎゅう、とスカートの裾を握り締めて紫月は絞り出した。

 

「先輩は、本当に大丈夫なんですか。まだ……引きずっててもおかしくないのに。私には、先輩が無理して笑ってるようで──」

「紫月」

「……」

 

 俺の声で彼女は言葉を止めた。

 しばらくその場に沈黙が流れる。

 彼女は微笑んだ。

 

「Sorry、シヅク。そして心配してくれてThanksデス!」

「……ブラン先輩……」

「お前……」

「デモ、このままじゃいけないって私が一番理解してるんデスよ。私が泣いたり悲しい顔してたら、ワンダータートルが悲しむデショ?」

「……」

 

 駄目だよブラン。

 そんな風に押し込めたら、ノゾム兄みたいになっちまうぞ。

 そう言いたくて仕方なかった。だけど、言えるわけが無いじゃないか。

 本当にブランが大事な相棒を失った悲しみから立ち直ろうとしているのだとしたら、その言葉は只の水差しだ。

 だって、結局悲しみから立ち直る事が出来るのは自分の力でなければいけないのだから。

 

「だから心配しないでくだサイ! 私は、もう大丈夫デスから!」

「……まあ、お前がそう言うなら……俺からは何もねえよ。だけどっ」

 

 念を押すように俺は言った。

 

「何かあったら、相談でも何でも言いに来いよ。俺に言いにくくても紫月や火廣金に言いやすい事もあるだろう。それでも良い。何でも言ってくれ。俺達はお前の味方だからな」

「ああ、何でも言えよレディ。部長には言いにくい事も山ほどあるだろう」

「今失礼な事言ったよな?」

「そうですね。先輩には言いにくい事も山ほどあるでしょうし」

「なあ、失礼だよな?」

「ふふっ、部長は頼もしいデス!」

「部長じゃなくてもだ」

 

 その言葉に、少しブランは戸惑ったようだった。

 だけど、再びまた笑みを返したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「或瀬ェ。どうしたぁ? 今回の小テスト珍しくミスばっかじゃないか」

「あ、あははー。いつもならもうちょい取れるんデスけどねー?」

 

 ある日の英語の授業の事である。

 そこには、普段のブランならしないような、いやしでかそうと思っても出来ないような綴りのミスで点を刎ねられた小テストがあった。

 10問中正当は3問。勿論、ハーフならだれでも英語が得意というわけではないが、ブランは典型的な英語が得意な部類に入る。日本に来てからも母国語を忘れようとはしなかったからだろうか。

 

「おーい、ブラーン。ハーフのアイデンティティだろー?」

「何言ってるデスか! それは別にハーフのアイデンティティじゃないデスよ!」

「それもそーか!」

「ブランちゃんでもこういう時があるなんてね」

「あははー、こういう時もあるデースよ!」

「もう、しっかりしてよブラン。正月ボケ?」

「みたいデスねー? あはははー、まあ亀も木から落ちるって言いマスし!」

「それを言うなら猿だろ!」

「はははー、あんまり英語の授業でふざけるようなら後で職員室に来て貰うぞー?」

「Sorry,先生!」

 

 クラスが笑いに包み込まれる。

 クラスにすっかり馴染んだからこそ、当たり前のように普通に行われるやり取り。

 もう、すっかりブランも慣れていた。溶け込んでいると思っていた。

 

「ッ……」

 

 寒気が走る。

 クラスのみんなの視線が怖い。

 皆が自分を指差して笑っている。

 仲良くしてくれると思っていたのに。

 皆私を遠ざけていくんだ。

 

「金髪だ」

「染めてるんじゃない?」

「英語喋れねえのかよ」

「早くどっか行きなさいよ」

「死ねよ」

「くたばれ」

「はははっ、きったねえ!! 泥で茶色になったぞ!!」

「あははは!!」

「消えろ!!」

「消えろ!!」

「消えろ!!」

 

 

 

「ブラン。これで分かっただろう? 僕だけが君の味方なんだ」

 

 

 

「──ブランちゃん?」

 

 

 

 そこで、ふと意識が戻った。

 目には薄っすら涙が浮かんでいることに気付き、涙を拭きとる。

 

「どうしたブラン? お前、具合悪いのか?」

「ひょっとして気にしてた? 小テストの点が悪かったの」

「そ、そんなわけないじゃないデスか! 大袈裟デス!」

 

 そう否定して見せる。

 虚勢だった。

 もう、クラスの皆と目を合わせるのも次の瞬間には嫌になっていた。

 そして、皆の善意すら素直に受け取れない自分が嫌になっていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 金髪が揺れ、汗が跳ねる。

 少女の渾身のジャンプが、地面を抉った──

 

 

 

「せえええええいいいああああーっ!?」

 

 

 

 ぱこーん、と小気味の良い音と共にブランは思いっきりバーを巻き込んで頭からマットへダイブした。

 クラスの面々が心配になって駆け付けて来る。

 

「きゃあああ!! ブランちゃんが犬神家のスケキヨみたいな恰好でマットに逆立ちしてるゥ!!」

「ちょっと、大丈夫!?」

 

 時間は変わり、体育の授業の走り高跳びの時間にて。

 今度は、最初からいつも飛んでいるよりも高い位置にバーを設定したブランは、ものの見事にマットへ撃沈した。以上である。

 一緒の選択種目──陸上競技──を選択していた花梨は、無惨な姿で目を回している友人を見ていられなくなり、肩に担ぐ。

 

「Sorry……カリン」

「もーう! だから辞めとけって言ったんだよ!? 何でこんな無茶するの!? てかフォームからもう色々おかしかったよ!?」

「そ、そーデースか?」

「そうだよ! アイキャンフライじゃなくてアイアムフライって感じだったんだから! さながら油に大分する天ぷらの如し! それくらい綺麗な落下だったんだからね、自慢して良いよ!」

 

 呆れ半分で説教する花梨。

 

「Todayのカリンは……語彙力がホーフデスね……?」

「言ってる場合かぁーっ!」

 

 そう言って彼女は無理矢理日陰にブランを連れていったのだった。

 彼女は少しくらくらしているようだった。まだ、10分も経っていないのに、ブランはもう疲れているように見えた。

 

「ねえ、ブラン。もしかして、辛い……?」

「……どうしてそんな事言うのデスか?」

「……無理はしないでよ、ブラン」

 

 ブランは首を振った。

 

「大丈夫デス。それに、皆と同じことが出来ない方が……よっぽど嫌デス。逃げたくは、ないデスから」

「……」

 

 花梨はそれ以上は何も言えなかった。

 此処最近のブランの異様な不調は、花梨も感じ取っていた。

 自分にもっと力があれば、ブランをもっと早く助けられただろうか?

 自問自答を繰り返す。だが、不可能だった。

 何度問うても、どうにも出来なかった、という答えしか返ってこない。

 後悔して自分を責める事すら許されないのだ。

 

「……あたしに出来る事があったら、何でも言ってよ」

「ふふっ、アカル達にも同じこと言われたデス」

「そりゃ言うよ……耀、ブランのことずっと気にかけてたんだもん。紫月ちゃんだってそうだよ。冬休み中、ずっとブランの事を気にしてて……火廣金も、あんたの様子を見てすっごい悔しそうにしてた。何でこうなってしまったんだ、って」

「……」

「……とにかく、あたし測定があるから行くね。ブランも……程々にね」

「分かったデス!」

 

 溌剌と答えるブラン。

 駆けていく花梨の姿を目で追う。

 追っていき──視界から消した。

 

 

 

「……駄目だなあ、カリンにまで迷惑……掛けちゃった」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『マスター。授業をほっぽりだして良いのかい!?』

「アホか! もう全員自習状態だ! それよか、やっぱり気になるんだよ。変なモンがこの学校に居やがる!」

『クリーチャーだろうけど、捕まえられるかな?』

「さあな!」

 

 校舎を駆ける桑原。

 やはり、先日感じた気配が気の所為ではない。

 そして──とうとう追い詰めた。此処は袋小路。

 旧校舎の旧保健室前だ。

 

「ゲイル!!」

『勿論!! 輝かせて貰うよ!!』

 

 風の刃を放つゲイル・ヴェスパー。

 しかし、その攻撃は全て吸い込まれるようにして虚空へ消えてしまった。

 それどころか、先ほどまで居たはずのクリーチャーらしき影はもう居ない。

 だが、流石天風の名を冠すグランセクトというだけあって、ゲイルは只では終わらなかった。

 それこそ桑原を差し置いて目にも留まらぬ速さで敵を猛追していく。

 あっと言う間にゲイルの姿は桑原に見えなくなった。

 ……しばらくしただろうか。露骨に肩を落としてゲイルは帰ってきた。

 どうやらこれでも駄目だったらしい。

 

『やられたね。何を使ったのか知らないが、撒かれた』

「畜生! マジかよ! どこまで追えた?」

『ああ。流石に女子トイレの中までは追えなかったよ。そこで見失ってね』

「はあ。なら仕方ねえな……ん?」

 

 桑原は今の話で何かがおかしい事に気付いた。

 そして──すかさずゲイルに掴みかかる。

 

「ってアホかァ!! お前クリーチャーで誰にも見えないんだから別に女子便に入っても良かっただろうがァ!!」

『ヒーローとは! モラルを遵守してこそヒーローではないのかなあ!?』

「学校と俺の命令を先に守れェ!!」

『それに仕方なかったんだ。見慣れた顔がトイレから出ていくようだったし、流石に窓からとはいえ僕も入るのは憚られた。どの道そこで反応は消失したしね』

「見慣れた顔?」

『おっと、誰かは言わないよ。レディに対するマナーだ』

「チッ」

 

 桑原は舌打ちする。

 まあ、もっともあれだけ魔力が薄いのだ。

 例えワイルドカードだったとしても、格は低いとみても良いだろうと予測する。

 

「……ワイルドカードだとすると、何か起こってからじゃねえと対処は難しいんだっけか」

『そうだね。その通りだ。まだ人間にも憑依してないとなると、今みたいに捕らえるのは難しい』

「……難儀だな」

 

 桑原は腕を組んだ。

 この件。どうにか耀達にも伝えるべきだろうか。

 と思ったその時。スマホのブザー音が鳴った。

 何だろう、と思ってみてみるとメールのようだった。

 

『どうしたんだい?』

「……甲へ、唐突にマスティンのデッキ組みたくなったから貸してくれ……? 学校終わってすぐ……!?」

『あー成程、完全に理解したよ』

 

 ゲイルは頷く。

 完全に他人事と思っている顔で、桑原に協力する気は微塵も無い事を示していた。

 右手でそんな相棒をどつこうとするが、手を届かないので、更に苛立ちを加速させつつ桑原は叫んだ。

 

「やべえ! これすぐに行かねえと機嫌悪くなる奴だ!! 畜生!! 病人なんだから少しは大人しくしてくれェェェーッ!!」

 

 次から次へと降りかかる難題。

 何のもんだいと振り払うには、余りにも多すぎて、虚しく桑原の絶叫が校舎に響いたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 呪詛は続く。

 止まる事はない。

 ロードから解放された後、裏切りの記憶はブランの心を深く深く抉っていた。

 ある時は髪を掴まれて泥水に身体を叩きつけられた。アスファルトで肘の肉が削げた。

 ある時は黒板の粉を付けられた。汚いと言われた。

 ある時は墨汁を髪に掛けられた。黒く染めろと呪いのように刻みつけられた。本当に染めてしまおうかと思ったが、親譲りの綺麗なブロンドだけは譲れなかった。

 群衆が怖い。

 人に嗤われるのが怖い。

 だから避けた。

 囲いの中を抜け出して、飛び出そうとして──躓いた。

 

 かごめかごめ

 かごのなかのとりは

 いついつ出やる

 鶴と亀が滑った

 後ろの正面だあれ?

 

 ……籠の中の鳥とは、自分の事だったか?

 

「……部活行くの、やめようかなあ」

 

 気付けば声に出ていた。

 デュエマをすればするだけ、皆に心配をかけてしまう。

 いや、そもそももう顔を合わせるのも嫌だった。

 

「新しいデッキ、組んで来たんデスけどね……」

 

 耀達がどう、というよりも──人の顔を見るのが、もう億劫だった。

 ぼろぼろ、と涙が零れて止まらない。

 最近、そんな事が増えた気がする。

 今だってそうだ。何の気なしに部室に行こうとしたら、これだ。

 止まらない涙を、誰も居ない女子トイレの中で抑えた。

 また、呪いが1つ蘇った。

 女子トイレの個室の上からバケツで汚水を掛けられたことだった。

 ブランはその日、部室に行くのをやめた。

 

 

 

「……」

 

 

 

 昏い彼女の目。

 何時にも無く、生きる気力を失った彼女の瞳は、光を失っていた。

 

 

 

「こんな顔、見せられないよ」

 

 

 

 泣き崩れたブランに誰も答える者は居ない。

 その背後は薄暗い影が巣食っていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ブラン先輩、結局部活に来ませんでしたね」

「……しつこくし過ぎたかなあ」

 

 部室には曇天のような空気が重くのしかかっていた。

 火廣金はプラモデルをパチッ、パチッ、と組み立てながらフォローを入れる。

 

「仕方がない。俺達に出来るのは、見守る事だ。彼女は俺達が味方だって分かっている。彼女がもしも躓きそうになったら、何度でも手を差し伸べる。それだけだ」

「……そうですが、心配です」

『亀の爺さんを失った悲しみに、幼馴染に裏切られた事。ダブルパンチだからな』

 

 シャークウガが言った。

 その眼は物悲しそうだった。

 

『……朗らかな爺さんだった。嬢ちゃんの支えになっていたのは容易に想像できる』

「……シャークウガ」

『しかし、どうするでありますか?』

 

 チョートッQが無責任に振ってきた。

 

「どうするもこうするもねぇよ」

 

 失った誰かを忘れろなんて言うのは残酷すぎる。

 だから、また積み重ねていけばいいじゃないか。

 

「このまま引きこもってもらっても困るからな。今度はみんなでまた、おじゃんになったデュエマの大会でも、そうじゃなくても出かけるとしようぜ」

「……そうですね、白銀先輩」

「ああ。純粋に楽しめることが増えていければ、あいつも……」

 

 考えれば考えるほどに、溝にはまり込みそうだった。

 難しい。難しすぎる。

 どこまで気を遣えば良いのか、どこまで普段通りに振る舞えば良いのかが分からない。

 深い悲しみを抱えた友人を前に、俺にやろうとしている事はあくまでも自己満足でしかないのかもしれない。

 それでも──やらないよりは、遥かにマシだと思えるのだった。

 

「ということで、今日は解散。具体的な計画はまた立てようや」

「了解だ、部長。何なら俺が色々調べておこう。これは部全体の問題だ」

「こっちでもやっておきましょう」

「ああ、任せたぜ」

 

 とは言ったが、発案の俺が何もしないわけにはいかないので、当然こっちでも行けそうな場所を調べておくつもりだ。

 近くのレジャー施設、遊園地、皆で楽しめそうな場所全般だ。

 部室の鍵を閉めた。

 明日は、彼女が来てくれると信じようとした。

 ──でも、部活なんかこの際良い。お前が、お前の傷が少しでも癒えてくれるなら……。

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

 

 

 

 暗野紫月は1年生の下駄箱の前で立ちすくんだ。

 そこには、今日部活に来ていないはずのブランの姿があった。

 何故、彼女が此処に居るのだろうか。部活に来ていないのならば、今まで何をしていたのだろうか。

 立ち塞がるようにして佇む彼女に、思わず声を掛けたのは紫月の方だった。

 

「先輩。どうしたんですか。こんなところで……」

「あはは……いやあ、部活に行こうと思ったんデスけど……今日は気分が乗らなくて」

「……ごめんなさい、先輩」

 

 紫月は謝った。

 昨日、自分がプレイングミスから彼女のストレスを指摘するようなことをしたからだろう、と推測する。

 見ていられなかったとはいえ、焦りから来た先走った行いだと反省していた。

 

「昨日は責めるような言い方してしまって」

「いやいや、気にしなくていいデスよ。私も、あんなミス何度もシヅクの前でしてしまったのがいけないデスし」

「でも先輩。無理は、無理はしないでくださいね。ミスなんて、ミスなんてこの際どうでもいいんです。失敗しても、皆に迷惑かけてるだなんて、思わないでくださいね」

 

 紫月は絞り出すように言った。

 ブランはにこにこ、と笑みを浮かべると言った。

 

「そうデスね……シヅク。ありがとうデス」

「……先輩」

「ねえ、シヅク。1つお願いがあるんデスけど」

「?」

「デュエルしてほしいデス。私と」

 

 何だ、そんな事か、と紫月は胸を撫で下ろす。

 デュエルくらい幾らでもしよう。それが彼女の望みならば。

 

 

 

「──本気で」

 

 

 

 ぼそっ、とそれは最後に付け加えられたようだった。

 彼女はポケットから1枚のカードを取り出す。

 白紙に戻った、エリアフォースカードだった。

 一体何なのだろう、と紫月は首を傾げたその時だった。

 

 

 

『マスター!! 気を付けろ!!』

 

 

 

 シャークウガの叫び声がその場に轟き、紫月は思わず飛び退いた。

 エリアフォースカードに、光が灯っている。

 そして、それは紫月を飲み込もうとする──

 

「先輩!? 何考えてるんですか!? 空間でのデュエルは、どちらかが傷つくんですよ!?」

「言ったデショ?」

 

 ブランの口角がきゅぅっ、と更に釣り上がった。

 

 

 

「デュエルしてくだサイ、って……本気の、ね」

 

 

 

 不意を突かれたからか、逃れる事も出来ない。

 紫月はブランの解放したデュエル空間に飲み込まれていった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 突如、始まってしまったブランと紫月のデュエル。

 望まぬ形で始まってしまったデュエルに、紫月は戸惑いを隠せない。

 

「ブラン先輩、何で……! シャークウガ、何か分からないんですか!?」

『駄目だ。エリアフォースカードから、妙な気配が出ていやがる。完全にこっちが見透かそうとしてることが全てシャットアウトされてらァ!!』

「もしかして、目覚めていないとはいえ、それがジャスティス(正義)の能力……?」

『かもな!! 本当かは分かんねえけどよ!!』

 

 これは、どんなに薄い魔力でも判別する事が出来るマジシャン(魔術師)とは非常に相性が悪い能力だった。

 これでは、ブランの真意も、またはブランが何かのワイルドカードに侵されているという可能性も探る事が出来ない。

 それならば、紫月に出来る事は唯一つだった。

 

「……先輩を此処で倒します」

『紫月……!』

「何かを言って聞く人ではありませんからね。ブラン先輩が一度行動に移したからには、そういうことです。だから、勝って先輩を問い質します。でも──」

 

 紫月は歯を食いしばった。

 

「──こんな事、本当にブラン先輩の望んでいる事なんですか!?」

「シヅク。行くデスよ! 2マナで《タイム1 ドレミ》を召喚デス!」

 

 現れた星型の小さなクリーチャー。

 その能力でブランの手札に1枚カードが加わる。

 ──やはり、メタリカではありませんね。意図的にそれを避けているというべきでしょう。何を使って来てもおかしくはありません。

 

「……目を覚まして下さい、先輩。私が貴女を倒す前に……!」

 

 魔術師(マジシャン)のカードが光り輝く。

 その光を握り締め、彼女は突きつけるようにブランに言った。

 

魔術師(マジシャン)のカードは、強力な宝具の宝庫。生み出されるありとあらゆる魔術や魔法が私の味方です」

 

 2マナをタップし、紫月はクリーチャーを呼び出す。

 

「《【問2】 ノロン?》召喚。その能力で、カードを2枚引いて2枚捨てます。ターン終了です」

「……私のターンデス! こっちは3マナで《絶対の畏れ 防鎧》を召喚デスよ!」

「《防鎧》……! 厄介所が出てきましたね」

 

 紫月は歯噛みした。

 ハンデスもコスト踏み倒しも封じる凶悪なメタカードだ。光の低コスト帯には相手の動きを縛るカードが多い。これは、その中の筆頭ともいえるカード。

 しかし、彼女の雁字搦めのようなロック戦法はまだまだ続く。

 

「そして《ドレミ》で攻撃するとき……革命Changeデス!」

「やはり来ますか……!」

「シヅク。貴女の呪文を手札に封じ込めてやりマス! 《タイム3 シド》召喚デス!」

 

 紫月の盾へ突貫した《ドレミ》はブランの手札から飛び出した一筋の光とバトンタッチ。

 現れたのは星型の宇宙船に乗った丸々太った天使龍だった。

 

「シールドをブレイクデス!」

「ッ……!」

 

 踏み倒しどころか、呪文のコストを2増やすメタクリーチャー、《シド》の存在は紫月を青褪めさせるには十分だった。

 しかし。

 

「……その程度なら、何も問題はありませんね」

「?」

「先輩。貴女は本気で私とやりたいと言ったのです。そんなに見たいなら、見せてやろうじゃありませんか」

 

 薄っすらと笑みを浮かべる紫月。

 それこそが、彼女の根底にあった余裕だった。

 

「まず、《埋葬の守護者 ドルル・フィン》を召喚です」

 

 髑髏に身体を覆われた守護者が彼女の周囲を飛び回る。

 そして、それは間もなく──爆散した。

 驚いたように目を見開くブラン。

 

「そんなに見入ってもらっては困ります。《暗黒鎧 ダースシスK》の能力を使っただけじゃないですか」

「そ、それは……!」

「《ダースシスK》の効果で、自分のクリーチャー、そして手札、山札の上から1枚を墓地に送り、コストを踏み倒して召喚します」

「でも、《防鎧》の能力で山札の下に行って貰うデスよ!」

「問題はそっちではありませんよ、ブラン先輩。まず、《ドルル・フィン》が破壊された時の効果を使い、山札の上から6枚を墓地に送ります」

 

 大量に墓地へ送られていく山札。

 そして、そこからどす黒いオーラが湧き出た。

 

「そ・し・て」

 

 紫月は痛む胸を抑えて、墓地へ送られた2機の霊魂を操った。

 それが、ブランの場を一瞬で蹂躙する。

 絶え間ない絨毯爆撃が襲い掛かった。

 

「手札から1枚、《爆撃男》が墓地へ落とされました。何処からでも墓地へ行ったので、《防鎧》のパワーをマイナス2000」

「ぎっ……!」

「更に《一なる部隊 イワシン》が山札から墓地に落ちたので1枚ドローして──来ましたね。《爆撃男》を捨てて更にパワーマイナス2000。パワーがゼロになった《防鎧》は破壊されます」

 

 絨毯爆撃をカバって爆散する《防鎧》。

 墓地を大量に増やすデッキだから出来るギミックだ。

 

「これで私はターン終了です」

「……シヅク……!」

「先輩。これでもまだ続けますか? これ以上続けるなら、本気で先輩を蹂躙するということですよ。私の持ってる中で一番強いデッキが何か、忘れたわけではないでしょう」

「……」

「……おまけに、それは今、魔術師(マジシャン)の適合を得てこの空間でのデュエルに適応しているのです。言ったはずですよ。あらゆる魔術が私の味方だと」

 

 全部アルカナ研究会の魔導司の受け売りではあるが、大方その通りであった。

 以前、トリスやティンダロスが言ったように、只強いデッキではなく、エリアフォースカードのアルカナ属性に適応したカードでなければデュエリストは最大の力を発揮できない。

 つまり、エリアフォースカードや守護獣に関連するカードやデッキでなければ空間でのデュエルを制するのは難しいのだ。

 しかし。

 

魔術師(マジシャン)はどうも、あらゆる魔術の宝庫という性質上、その制約が他のエリアフォースカードよりも軽いのです。つまり、このデッキの総合力はどっかの鮫を使うよかよっぽどいい」

『オイこら。それは俺の魔力供給があってこそ成り立つんだろうが。それに、言っておくがムートピアの方が魔術師(マジシャン)の適合による恩恵は受けられるんだぞ?』

「そういうことです。連携、というやつですよ」

『まあ、そういうことにしてやるよ』

 

 しかし、ブランは紫月の言葉に怖気づいた様子は無かった。

 それどころか──

 

「……ふふふっ」

 

 紫月は身構えた。

 

「……良いデスよねえ、シヅク。そうやってシヅクには相棒が居るんデスから」

「……先輩?」

「私の相棒は、もう居ないデスよ」

 

 ゆらり、とブランの影がぶれる。

 

 

 

「何でシヅクの相棒だけ生き残ってるデスか」

 

 

 

 ぞくり、と紫月の背筋が凍った。

 胸が痛む。

 腹の中でそんな事を考えていたのか、ブランは。

 

「な、何でそんな事言うんですか……!」

「ズルいデスよ。シヅクの相棒だけ、シャークウガだけ生き残ってるのは」

「……そ、それは……せ、先輩でも言って良い事と悪い事が……!」

「……なら、此処で全部リセットすれば解決よ」

 

 紫月の中でちらつく。

 シャークウガを失いそうになった、あの瞬間を。

 マギアノイドに胸を抉られたシャークウガの姿を。

 

「私だって……!!」

「私のターン。4マナで《スパーク・チャージャー》! 《ノロン》をタップして1枚ドロー! チャージャー効果でマナに送り、ターンエンド!」

 

 冷淡にカードを走らせていくブラン。

 その姿に紫月は息を詰まらせながら反駁した。

 

「私だって……もう少しで……シャークウガを失うところだった……のに!」

「私が弱いからワンダータートルを失った、とでも言いたげデスね」

「……いい加減にしてください! 幾らブラン先輩でも怒りますよ!!」

 

 瞳に涙を浮かべて紫月は3枚のマナをタップする。

 彼女は張り裂けそうな喉笛から力一杯に叫ぶ。

 

「3マナで《ノロン》を進化! 現れなさい、《プラチナ・ワルスラS》!」

 

 現れたのは巨大な王冠を被ったスライムのクリーチャー。

 紫月の主力クリーチャーの1体だった。

 

「枯れ果てた手札は無理矢理にでも供給するのみ。《ワルスラ》で攻撃するとき、カードを3枚引いて1枚捨てます! そして、シールドをW・ブレイクです!!」

 

 割れるシールド。

 しかし。そこから光が差し込む。

 紫月の怒りさえも阻むように。

 

「ターンエンド……!」

「私のターンデスね?」

 

 彼女は笑みを浮かべた。

 そして──静寂を告げる5枚のマナがタップされた。

 

「5マナで《太陽の精霊龍 ルルフェンズ》を召喚」

「……そ、そのクリーチャーは……!」

「効果で手札からコスト6以下の光のクリーチャーをバトルゾーンに!」

 

 太陽の杖を掲げる精霊龍に光が降り注ぐ。

 それは膨張し──天使の羽根を広げ、辺りに散らばせた。

 

 

 

「──進化、《聖霊龍王 アルカディアスD》!!」

 

 

 

 現れたのは、《アルカディアス》の名を継ぐ聖霊の龍王。

 沈黙させるのは、全ての光以外の呪文。

 最早、誰もその正義に異議を挟むことは出来ない。

 

「これで、終わりデス! 《アルカディアスD》で《ワルスラ》を破壊!」」

「……そんなっ……!」

「ふふふっ、ターンエンドデス。シヅク」

 

 紫月は沈黙した。

 呪文を封じられた。

 その上、《アルカディアスD》はパワー12500の進化クリーチャーだ。

 

「……させないですよ。此処で勝たせたりなんか……!」

 

 だが、彼女の執念は未だ燃え上がるのみだった。

 今のブランを勝たせてはいけない。

 それは、自分の仲間を否定すること。

 そして──自分が信じたブランを否定する事になる。

 

「墓地に落ちた13枚のクリーチャーでコストを軽減し、1マナで召喚……!」

 

 それは深淵なる闇。

 全てを破壊する漆黒の闇。

 師匠から受け継いだものとは思わない。

 これは、自分のオリジナルだ。

 そして──目の前にギラつく光を食い破る為の刃だ。

 

 

 

「それは全てを滅ぼす終焉の夜明け──双極変換(ツインパクト・チェンジ)召喚(サモン)、《龍装鬼 オブザ08号》!!」

 

 

 

 その炎は全ての罪を焼き尽くす。

 彼女の怒りと共に打ち滅ぼす。

 龍骨を纏いし偽りの龍が、天使龍を一瞬で薙いだ。

 

「《オブザ08号》は、登場時に相手のクリーチャー1体を墓地のクリーチャー1枚につきパワーをマイナス1000します! 《アルカディアスD》をパワーマイナス13000して破壊!」

「あははっ、シヅク、《アルカディアスD》を倒した程度で──!」

「終わりませんよ。G・ゼロで《盗掘人形モールス》を召喚して、墓地からクリーチャーを回収します」

「!」

「これで決めるとしましょうか!」

 

 彼女は残った1マナをタップした。

 

「墓地のクリーチャー13枚でコストをマイナス11軽減──さあ、出番です」

 

 それは全てを焼き尽くす無法者。

 黒き翼も、黄金の太陽も、全てこの手で撃ち落とす。

 大地を食らい、屍を踏みにじり、越えてゆく。

 敗北したあの日からそう決めた。絶対に負けないと決めたのだ。

 

 

 

「数多の屍を乗り越えて暴走する──《暴走龍(ライオット) 5000GT》!!」

 

 

 

 翼を広げ、重火器をありったけに展開し、咆哮する暴走龍。

 シャークウガも、その猛々しさに最早口を噤むしかなかった。

 

「それだけでは終わりませんよ。G・ゼロで、墓地にクリーチャーが6体以上いるので《百万超邪(ミリオネア) クロスファイア》をタダで召喚!」

『しゃあっ!! やったぜマスター!! 完全にキル圏内だ!!』

「ええ、行きますよシャークウガ!」

 

 遂に並び立つ無法龍達。

 そして──無法龍は咆哮した。

 

「終わりです。《5000GT》の効果で、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊。そして、《5000GT》で残るシールドをTブレイク!」

 

 だが、彼女がS・トリガーを発動する様子は無い。

 ならば、もう叩き込むのみだ。邪魔なクリーチャーも、もう何もいない。

 

 

 

「《クロスファイア》でダイレクトアタック──!」

 

 

 無法龍の放つ重火器の一斉射。

 それがブランを薙ぎ払う──

 

 

 

「──革命ゼロトリガー発動」

 

 

 

 ──その前に、一筋の光が戦場に舞い降りる。

 

「しまっ……!」

「《ミラクル・ミラダンテ》!! その効果で山札の上から1枚を捲り、それが光の進化ではないクリーチャーならそのまま重ねて場に出す! 捲れたのは《龍覇 セイントローズ》! まずは登場時能力から解決するデスよ!」

 

 現れたのは天器を呼び寄せるドラグナー。

 超次元の門が開き、そこから強大なる光の要塞が姿を現した。

 

 

 

「──《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》!!」

 

 

 

 それは、傲慢なる正義の聖堂。

 全てを圧し、全てを制する天命の監獄と化す。

 そして、さらに《セイントローズ》に光が降り注ぎ、瞬く間に聖なる龍へと変貌した。

 

「《ミラクル・ミラダンテ》で《クロスファイア》をブロック!」

「でも、パワーアタッカー+100万です! そのままバトルで破壊します!」

 

 危ない、パワーアタッカーが役に立ったか、と紫月は額の汗を拭った。

 どのみち、長引く事を見越して《アルカディアスD》を排除していて正解だったのだ。

 返されはしたが、場には3体のクリーチャー。対して、ブランのクリーチャーは全滅。

 有利な事には変わりない。しかし。

 

「私のターン。5マナでもう1度《ルルフェンズ》を召喚デス──そしてその効果で《コマンデュオ》を召喚。効果で《エメラルーダ》も場に出し、シールドを追加するデス」

『まだ展開するのかよ!? 何てガッツだ!』

「割ったシールドが仇になりましたか。ですが、無駄な足掻きです。押し切れますよ、シャークウガ」

 

 未だに、ブランは諦めていないようだった。

 髪で隠れてその瞳は見えない。

 だが、見えていたら、もう戦えなかったかもしれない。

 

「そして、ターンの終わりに手札から《ヘブンズ・ヘブン》の能力でこのクリーチャーを場に出すデス」

 

 彼女の顔は、もう見えなかった。

 

 

 

「──《ルルフェンズ》進化、《聖霊龍王 バラディオス》」

 

 

 

 その時、全てが凍った。

 《5000GT》も、《クロスファイア》も、《オブザ》も、全て須臾の間に時間を奪われる。

 静止し、沈黙した時間の中で、ブランは語りだす。

 

「《バラディオス》の効果で、シヅクのクリーチャーを全てフリーズしたデス」

「そんなっ……一瞬であっさりと……!!」

「勝ったと思ったデショ? シヅク。でも、これが現実デス。そして、これが──裏切られる、って事デスよ! あははっ!」

 

 何に裏切られたのだろう。

 紫月は唇を噛んだ。血の味が、徐々に、徐々に舌に染み込んでいく。

 まさに勝とうとしていた盤面?

 違う。

 決められなかったデッキのクリーチャー達?

 違う。

 

「ブラン、先輩……!」

 

 紫月はもう、何も出来なかった。

 引いたカードでは、ターンを無駄に過ごすだけだったのだ。

 彼女の顔は、やつれていた。

 

「……貴方も相棒を失ってから、気付くデスよ。深い、絶望を」

 

 ブランは淡々と、感情無き声で言い放つ。

 最早、長引かせるのは無用。  

 一瞬で終わらせるのみだった。

 

 

 

「──《侵略者 フェイスレス》、召喚デス」

 

 

 

 現れたのは異様なクリーチャー。

 目も無ければ顔も無い。

 全ての慈悲を捨て去った、光の侵略者。

 羽根を広げ、頭に光の輪が浮かぶ。

 

「《バラディオス》でシールドをT・ブレイク」

「っ……ああ!!」

 

 シールドの破片が紫月に降り注ぐ。

 肉を裂かれながらも、血を迸らせながらも、紫月はブランを睨んだ。

 

「く、ま、まだ……!」

「《コマンデュオ》でシールドをW・ブレイク」

 

 無情にも二撃目が紫月を抉った。

 そして、彼女は──地面に倒れ伏せた。

 割れたシールドがじゃらじゃらと音を立てて散らばった。

 

「……ブラン先輩……やれば……出来るじゃないですか……」

「……」

「……こんなに、強いなんて……」

 

 紫月は虫の息で笑みを浮かべた。

 

『マスター!! くそっ、起き上がれ!!』

「……シャークウガ……!」

『此処で寝てたら、本当に死んじまうぞ……! あの嬢ちゃん、俺達を本気で殺すつもりだ……!』

「で、でも……」

『それにまだ、希望は残ってるぜ!!』

 

 シールドが収束する。

 それも、力強い鼓動だ。

 彼女はそれを手に取った。

 

「……S・トリガー!!」

「! まだやるつもりデスか。でも、《クロック》は《5000GT》で出せないはずデス!」

「分かってますよ! だからすべて殲滅するんです!」

 

 次の瞬間、その場は明けない夜が訪れた。

 地獄の番人が現れ、全ての命を刈り取る──

 

 

 

「スーパー・S・トリガー、《闇夜の番人(ヘルヘイム・グロンゴ)》!!」

 

 

 

 次の瞬間、全ては破壊された。

 味方諸共に巻き込み、それは全てを飲み込んでいく。

 二度と這い上がれない、漆黒の闇へ──

 ──でも、次のターンでもう1度《クロスファイア》と《5000GT》を出せれば、まだチャンスはあります。手札には《本日のラッキーナンバー!》まである。あれがS・トリガーだったとしても、まだ──!

 しかし。

 ──あれ?

 何かがおかしい。

 飲み込まれていくのは紫月のクリーチャーばかり。

 ブランのクリーチャーは、飲み込まれるどころか──無傷だ。

 

「な、何で……!?」

「《フェイスレス》の能力発動」

 

 抑揚のない声だった。

 

「相手のシールドが2枚以下の時──自分のクリーチャーが場を離れる時、パワーが0以下でなければ代わりに場に留まる」

「なっ……! そんな!」

 

 失念していた。

 あまり見ないカードだから、効果を忘れていたのだ。

 最早、これでは反撃どころではない。ブランの場には、まだ攻撃できるクリーチャーが居るのだから──

 

 

 

「じゃあね、紫月。《ルルフェンズ》で──ダイレクトアタック」

 

 

 

 次の瞬間、光の弓矢が紫月を貫いた。

 一瞬の出来事に、紫月は最後まで自分に何が起こったのか、理解できなかった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 さて。どうしようか。

 転がる暗野紫月と、シャークウガ。

 このまま両方とも殺し、エリアフォースカード諸共奪ってしまおうか。

 その次は白銀耀、その次は火廣金。

 裏切りという物の恐ろしさを彼らにも刻み付けて──いや、待て。

 近付いてくるか。

 仕方ない。この場は去ろう。

 だけど──彼らが暗野紫月を見て何と言うかが楽しみだ。

 見てるが良い。このまま諸共に皆、崩壊させてやるとしよう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「紫月!!」

 

 

 

 俺に抱きかかえられていることに、紫月は気付いたようだった。

 力が入らないのか、手を上げて俺の顔へ伸ばそうとするが、腕がもう持ち上がらないようだった。

 全身が傷だらけだ。青いパーカーが赤く迸った血飛沫で染まっていた。

 

「今、今火廣金が救急箱持ってくるからな!! しっかりしろよ!!」

「せん、ぱい……」

「魔術で治療すれば、クリーチャーにやられた怪我もすぐ治る!! だから、そのまま気をしっかり持て!! な!!」

 

 くそっ、くそっ、くそっ!!

 何でこんなことになっちまったんだ!!

 1年と2年の下駄箱が離れていたばっかりに、駆け付けるのが遅れるなんて!!

 まさか、紫月が襲われてしまうなんて!!

 チョートッQが、誰かが空間を開いた事に気付いていなければ、もっと遅れていたかもしれない。

 紫月は死んでいたかもしれないんだ。

 

『シャークウガ!! 無事でありますか!! 魔力をすぐさま補給するでありますよ!!』

『……ぁ、あ』

 

 シャークウガも、今にも息絶えそうだ。

 一体、何処のどいつがこんな事を……!

 少し紫月から目を離した間だったのに……!

 

「せん……ぱい……」

「紫月!! 大丈夫じゃねんだ、あんまり喋るんじゃねえ!!」

「ブラ……ン、せんぱい、が……!」

「ブランがどうしたって!?」

 

 ブランはこの場には居ないはずだ。

 とにかく、黙っててほしい。出血がひどくなるかもしれない。

 

 

 

「わた……し、……ブランせんぱいに……襲われて」

 

 

 

 俺は、紫月を取り落とす所だった。

 

「……な、おい、嘘だろ。錯乱してるんだ。しっかりしてくれ!!」

「ウソじゃ、ないです……」

 

 息も絶え絶えに、涙さえ零しながら紫月は続けた。

 

 

 

「わたしは……ブランせんぱいに……まけて……!!」

 

 

 

 嘘だ。

 そんなはずない。

 だけど、外ならぬ紫月が言っている言葉だ。

 火廣金の駆ける音が近づいてくる。

 でも、俺は──何も考える事が出来なかった。

 俺は、俺は、こんな時……どうすれば良いっていうんだ?

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