学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
俺は白銀耀、デュエマ部の部長をやっているちょっと普通じゃない高校2年生。
だけど、実体化するクリーチャーのカード、ワイルドカードによって俺の日常は本当に普通じゃなくなってしまった。
更に、クリーチャーによって様々な事件が起こる中、それを解決する過程で部活仲間のブラン、後輩の紫月も関わってしまうことに。
危ない事だらけではあるけど、関わっちまったもんは仕方がない。
俺は、ワイルドカードの事件を解決していくことに決めたのだった──
「ねえ、音神君留学の話が出てるんだって」
「凄い! バイオリン、だよね!?」
──クラスでは今、1つの話題で持ちきりだった。隣のクラスの
こいつは前々からバイオリンのコンクールの入賞とかで名前が挙がることが多かったのだが、とうとう留学の話が出たという。
花梨と言い、その音神って奴と言い、高校生の頃から自分のやりたいことを決めて将来に真っ直ぐ進める奴は凄いと思う。
この年になってカードばっかりやってる俺って、本当何なんだろうなって思う。
連日のワイルドカード事件の疲れで机に項垂れていた俺は、そんな雲の上の存在のような奴のことなど正直どうでもいいとその時は思っていた。
「ねえ、耀。知ってる? 最近、この学園で幽霊を見たって人がいるんだよ」
「……幽霊?」
そんな俺に話しかけてくるのは、その雲の上の幼馴染の花梨だった。だが、その話題は珍しく剣道のそれではない。
肝試しには時期的に少々まだ早い気がするのだが、取り合えず話を聞くか。
「何だよ、それ」
「学校の旧校舎で、出たらしくってね」
「はぁ、旧校舎」
「それも、使われていない1階のフロア。暗くてじめじめしてて、めっちゃ怖いって前から皆言ってたんだけどさ」
「ああ」
曖昧に返した俺だが、もう使われていない旧校舎1階の部屋は何処も彼処も物置部屋状態。
鍵が壊れていて入れる部屋もあるが、基本薄気味悪いので好んで近づくものは居なかったのだが――
「最近、放課後にふざけて1階の奥の物置になってる教室に行った子が居てね。そしたら、何か変な音と一緒に変な影が見えたって」
変な音と共に変な影、か。確かに変な話だ。でも、たまたまいた人と間違えたんじゃないかそれ。
普通ならばにわかに信じ難い話だと一蹴するところだが、この時の俺はそういうわけにもいかなかった。
「変な音と変な影?」
「あ、食いついた。めっずらしー」
「別に興味があるわけじゃねえが」
「またまた、そんなこと言って。ねえ、今日あたし部活休みだし、一緒に見に行かない? いや、幽霊なんかいるわけないって分かってるんだけどさ」
わくわくしているのが表情からバレバレだぞ、花梨よ。
お前は昔から、そういう子供っぽいところがあるから困る。此処最近はドギラゴンに取り付かれていたから、そういう面を見せなかったんだろうが今ではすっかり元通りだ。
「……怖いとか思わねーのな」
「あー、怖いんだ耀。あたしはぜんっぜん、怖くないよ? だってもう高校2年生ですし?」
悪いが、昔小学生の頃に目をらんらんとさせて遊園地のお化け屋敷に入って、出る頃にはビービー泣いてたのは、今も覚えているぞ花梨。此奴、怖いのを見たら怖がるくせに、最初は興味津々で近づく悪癖があるからな。
「それにさ、たまにはこういうのも面白そうだと思わない?」
「思わねーよアホ、小学生か」
「やっぱり怖いんじゃないの? 耀」
何でコイツこんなに楽しみそうなんだ。
まあ、良い。丁度俺も気にかかることがあったし……。
「……オーケー。そこまで言われちゃあ仕方ない。お前の肝試しに付き合ってやろうじゃねえか」
「にはは、やった!」
喜ぶ花梨。
つか、本当なら1人でも行けるはずなのに、わざわざ俺を付ける理由ってやっぱり怖いからじゃないんですかね、花梨さん。
仕方ねえ。1つ試してやるとするか。
「おい、所でだな花梨。今お前の肩に真っ白な手が……」
「にはは、嘘でしょそんなの」
笑う花梨。
だが、お前の額にうっすら冷や汗が浮かんでいるのはお見通しだ。
仕方ねえ、こいつ結構単純だしもうひと押しと行くか。
「あ、首掴んだ」
「嫌ァァァ!?」
花梨は顔が真っ青になったかと思うと、俺に飛びついてきた。ほら見たことか!!
当然後ろに何もいるわけは無いのだが、ぎゅううう、と花梨は俺を抱き締めて離さない。
そして痛い。周りの視線も痛いけど、こいつめっちゃ筋力あって……いてぇ!! いだだだだだだだだ!!
「ぐええええ!! よし分かった花梨、居なくなったから!! そもそも何も居ないから!! 俺が悪かった!!」
「……ふぇ?」
硬直する花梨。
そして、俺を力いっぱい抱き締めている自分の醜態に気付いたのか、顔がみるみる真っ赤になっていく。
「……やっぱ、怖いならやめた方が良いんじゃねえ?」
「い、行くもん!! 怖くないし!! 剣道部だし!! 何か出たら、ぶった切るし!! ぶった切り・スクラッパーだし!!」
「めった切り・スクラッパーだ、バ花梨」
「だ、誰がバ花梨だって、馬鹿!! バーカ!!」
ぷるぷる震えている上に涙目だから、全く様になっていないぞ、花梨よ。そういってげらげら笑ってやったら、今度は竹刀が飛んできた。
いやあ、痛かったのなんのって。本当、授業の前にこんなことやるのやめような。俺、次の数学の時間、頭痛でずっと頭抱えてたじゃねえか。
そんなわけで、花梨があんまりにも「良い!? 絶対幽霊とか見てもあたしは怖がったりとかしないんだからねっ!」って言うもんだから、俺はこいつに付き添う形で良い年して肝試しごっこをする羽目になったのだった。
肝試しで済めばいいのだが……。
※※※
「というわけで、私に協力を頼んだわけですか」
「すまん……」
昼休み。
わざわざ1年の教室に駆け込んだ俺は、紫月に旧校舎の1階付近での見回りを頼むことに。
何せ、此処最近の事件を見るに、幽霊の正体が万が一ワイルドカードだったら溜まったもんじゃないからな。
加えて、こんな時に限ってブランの奴は今朝、「Sorry……日頃の無理が祟ったみたいデース……」というLINEを入れて休んでいるから、頼める奴が紫月しかいないというのもある。風邪らしい。日頃の無理って一体何なんですかね、ブランさん。後お前、メールやLINEでもその口調なのか。
そんなことはともかく、どうせ俺が部室に来れない今日は紫月も暇ってことだし、シャークウガもいるから、ある意味ブランに頼むよりもマシだ。
そう思って頼んだのである。ぶっちゃけるとダメ元だった。しかし、くりくり、と自分の髪を弄りながら澄ました態度の紫月は――
「まあ、良いでしょう。私は旧校舎の周りを回って、万が一クリーチャーが出てきたら、花梨先輩に接触する前に沈めれば良いのですね」
「任せときな、白銀の兄ちゃん。もしも出たら俺様が引きずり出してやるぜ」
とのこと。意外と乗り気で何よりだ。
この2人なら何だかんだで、ちゃんとやってくれるだろうと信じたい。
「しかし大丈夫ですか、先輩」
「何がだ」
「花梨先輩、話を聞く限りでは、かなりの怖がりのようですが」
「ああ、そんでもって火の中に飛び込む虫の如く、自分から怖いものに興味津々で突っ込んでいくタチの悪い性格でもある」
「……確かにタチが悪いですね」
同意が得られて何よりだ。ある意味、やたら賑やかだったりアホな所がある女子連中の中で、一番真っ当で気が合うのは紫月なんじゃないかと最近思い始めている。
俺への評価が、やたらと低いのは今も覚えているがな。
「で、もしもワイルドカードがいたときはどうしますか」
「速攻で排除だ。花梨がまた危ない目に遭ったらどうする」
「答えを聞くまでもありませんね。同意です。私としても、みづ姉に危害が及ぶことがあってはいけないので。もしそうなったら、責任もって先輩には身投げしてもらいます、屋上から」
「なんでさ」
悪いが、そうなる前に食い止めるし、身投げはしないからな。
何でこんなにお姉ちゃん大好きっ子になっちゃったんだろ。
うちの周囲の女連中、どっかに問題がねぇといけないジンクスでもあるのだろうか。
「ちなみにチョートッQにシャークウガ。お前たちの今回の件についての意見を聞いておきたい」
「ワイルドカードかどうかは、ぱっと自分が見に行った限りではまだ分からないでありますよ。こちらの気配を察して逃げられたか……でも、発現したのがこの学校なら、近くにいるのは間違いないであります。いずれにせよ、超超超可及的速やかに、原因を突き止めるでありますよ!!」
「ガッハッハッハ!! どっちにしたって、ワイルドカードは俺様達が炙り出しておいてやる。テメェらは安心して肝試しに行くこったな!!」
決定だ。
こうして俺達は、この肝試し作戦を決行することになった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉があるがそうであることを祈ろう。
クリーチャーでもなければ幽霊でもないのが一番なんだが、そうじゃない気がするんだよな……。
「……しかし、クリーチャーはエリアフォースの所持者や一部の人間でないと姿が見えなければ声も聞こえない代物……その幽霊、本当にクリーチャーなのでありましょうか……」
不安そうに呟くチョートッQの言葉を聞いて、俺も気が気ではなかったのだった。
※※※
そんなわけで今日のデュエマ部はちょっとお休みして、放課後の旧校舎1階の旧部室棟。
成程、確かに薄暗くてじめじめしている場所だ。ロクに掃除とかしていねえだろ。あちこちに段ボールが積まれており、どんな使い方をされているのか一瞬で分かる。
「というわけで、幽霊探しにレッツ・ゴー!!」
ところで何で
竹刀は勿論の事、胴着の上に防具まで着こんでおり、今から剣道の試合にでも行くのかと思わせるような恰好であった。
「いや、何やってんだオメー」
「あ、あれ? 知らないの耀。今、肝試しではこうやって剣道の防具を着込むのが女子高生の間でブーム……」
「通らねえよ、バ花梨!! 何ちゅう恰好で来てんだ!! どんだけ怖いんだよ!!」
「う、うるさいな! とにかく、何か出てきたらあたしが速攻でぶった切ってやるんだから!」
「ぶった切る前に逃げるんじゃねえのお前」
「ば、バーカ!! バーカ!! 逃げないし!! 何のための防具だと思ってんの!!」
分かったから竹刀振り回すんじゃねえ!!
俺分かる!! やっぱお前ポンコツだ!! ポンコツ剣士だ!!
剣道やってる時はかっこいいのに、それ以外がポンコツ過ぎだし!!
「剣道をやってきたのは勿論だけど、長刀道、居合い道、銃剣道、フェンシング、ポールアックスにサーベル、スポーツチャンバラ……ありとあらゆる古今東西の剣を齧ってきたあたしに、敵なんかない!」
「説得力皆無なんだよなあ!」
しかもまだ幽霊だと決まったわけではない。
本当こいつ、本来なら連れて来たくなかったんだけどなあ……。
「よし、それじゃあ行くよ耀!」
「あいあいさー……」
のし、のし、と防具姿で歩き回る花梨。
ああ、どうかこんなアホな光景誰かに見つかりませんように。
そう祈りながら俺も進んでいく。
しかし、数歩歩いたところで早速花梨の、
「にゃぎゃあああああああああああああああ!!」
という猫のような金切り声が俺の耳を貫いた。
驚きのあまり、俺が思わず飛びのいてしまった。
どうしたと聞く前に、見てみると彼女の面にでかい蜘蛛がついている。どうやら、天井からぶら下がっていた奴が飛びついたようだ、と俺はすぐに気付いたが、当の花梨は――
「にゃああー!! 今、何か黒いのが!! 悪霊退散、悪霊退散、にゃああー!! にゃああー!!」
と叫んで竹刀を振り回している。
面の所為で彼女の表情は見えないが、正直今どんな顔してんのか容易に想像がつく。
「落ち着け!! クモだよ、蜘蛛!! どんだけ怖いんだよお前!!」
「く、蜘蛛!? 蜘蛛の妖怪!? どこ!? どこにいるの!? ぶった切ってやる!! フーッ!! フーッ!!」
「だから、只の蜘蛛だよ!! 虫!!」
「……え?」
竹刀を振り回すのをぴたり、とやめた花梨は大きく溜息をついた。
そして、さも何も無かったかのように
「ふっ……何てことは無かったね。耀、怪我は無かった?」
「お前、それギャグで言ってんのか?」
「さ、さあ、行こう!! 幽霊退治に!!」
「……もう突っ込まねえぞ」
「マスター……大丈夫でありましょうか」
話しかけてくるチョートッQだが、俺は此奴の考えていることには大方同意であった。
「……無理なんでねーの?」
と一言、返しておく。
只の虫でこの有様では、先が思いやられる。
やれやれ、本当に放っておけないやつだ。此奴が取り乱す度に俺がこうやって助けないといけないのか。既に胃が痛い。
※※※
……しばらくしただろうか。俺達は、開きそうな部屋を全部開けて、幽霊がいないか確かめていた。まあ、俺としては幽霊ではなくクリーチャーを探しているわけだが。居たら居たで困るけど。
それ以降は特に何も無く、いよいよ問題の最奥のフロアに俺達は踏み込むことになった。
元々は保健室があったというこのエリアだが、窓には名前も分からない木々が茂っており、陽当たりは非常に悪い。
そのため、今はまだ日が出ているはずなのに暗い。
だからか、次第に花梨の声があからさまに震えてきているのが分かってくる。
「あ、あああ、あかる、と、と、取り合えずそろそろ帰らない? 幽霊とかいなかったってことで」
「いーやまだだ。まだ全部の教室を見て回ってねえだろ。問題の一番奥の部屋」
「や、で、でも――」
そう言って、近づいた時だった。
花梨の足がぴたり、と本格的に止まる。
「ね、ねえ、耀。何か、聞こえない?」
「んあ? ……」
また花梨の気の所為かと最初は思っていた。
しかし。
何だろう、この耳を撫でるような甲高い音は……廊下を歩くにつれ、大きくなっていくそれは、弦楽器――それもバイオリンやビオラのものであると俺に直感させた。
待て。まさか、クリーチャーが楽器を弾いているとか、そんなことは無いよな――とか思っているうちに、
「にゃ、にゃははははは!! あたしが、あたしが、幽霊をやっつけてやる!! 覚悟ォーッ!!」
一時的狂気。今のでSAN値が直葬されたのか、花梨は防具を着込んでいる癖にめっさ速い足取りで竹刀を振り上げて、扉の方へダッシュしていく。
俺も思わずそれを追いかける。やばい。こいつ、胴着に防具付きでも結構足が速い。とにかく、止めなければ。
ぴたり、と止む音。しかし、構わず花梨は最奥の部屋の扉を乱暴に開けた――
「にゃびゃあああああああああああああああ!!」
「うわあああああああああああああああああ!?」
悲鳴がWで聞こえて来た。
誰か、いるのか!?
見ると――旧校舎1階最奥の元・保健室に巣喰っていた幽霊の正体が、物陰に隠れてぶつぶつと何かつぶやいていた。
「な、なななななに!? 甲冑の幽霊に恨まれる覚えは何にも無いぞ、ない、なななな……」
花梨も流石に相手が人間であると気付いたのか、茫然と立ち尽くしていた。
その脇を潜り、俺は一言声を掛けてやる。
「……お前、音神か?」
留学を勧められている高校生バイオリニストは――何故か、こんな薄暗い部屋でバイオリンを片手に物陰で震えていた。