学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──あーあー、あの鶺鴒学園の刀堂花梨……ほんっとうに憎たらしいったらありゃしない!」
日もとっくに落ちた、ある河川敷。
女子学生が3人、並んで帰路についていた。
その背中にはゴルフのそれと見紛うような細長いケース──所謂竹刀袋を背負っており、口々に文句を言っていた。
「強過ぎだよねえ……あいつが居る限り、絶対にうちら来年のIHで全国行けないわ」
「ほんとムカつく……鬼、悪魔、羅刹、バーバリアン!! 女子の力じゃないっての!」
「あの細い身体の何処にあんな力が……」
「公村はもっと痩せなさい」
「そろそろあんたの仇名ハム村からボンレスハム村になるよ」
「っせーよ!! テメェらが細すぎるんだよ、魚肉ソーセージ共ァ!!」
同級生とは思えないような辛辣なやり取りをしつつ、彼女たちはこの地区でも屈指の実力者と名高い刀堂花梨を罵っていた。
理由は単純明快、彼女が強過ぎるからである。
鶺鴒学園高校は、以前よりこの地区でもたまに全国に行く程度に剣道部が強かったのだが、昨年度の新人戦の優勝で化け物染みた新入生の獲得を証明してしまった。
それが刀堂花梨である。
彼女の居た中学は、かつて全国大会準優勝を果たしており、幾ら道場の娘とはいえそこらの剣道少女とは格が違う事を知らしめていた。
刀堂花梨は生まれ持っての剣の天才である。それは彼女の血筋も幾らか起因している。
だが、それ以上に刀堂花梨は剣道馬鹿である。馬鹿であるが故に道に向かって真っ直線であり、努力を惜しんだ事は一度も無い。
結果、そのしなやかな肉体に無駄な筋肉は無く、尚且つそこらの男よりも強靭かつ屈強であろう腕力と足腰を備え、天性の敏捷性と動体視力、そして勘の全てを備えた彼女に勝つのは至難の業であった。
言うなればそれは、努力した天才。それを打ち砕くのは至難の業。
そして完成するどころか、未だ成長し続けるその剣は他校の生徒からすれば羨望の的であり、そして試合に出れば確実に自校のエース格を相手に1勝をもぎ取る事からヘイトの対象でもあった。
「こうなったら絶対に、あの刀堂花梨をぶっ倒してやるわ!!」
「どんな手段を使っても!!」
「ぶっ潰す!!」
そんな気概をデカい声で3人組が掲げていた、その時だった。
「──オ尋ネ申ス」
ふと、声が聞こえた。
濁った低い声だ。
彼女たちは視線を正面に合わせた。
見るとそこには──防具に身を包んだ人物の姿があった。
3人組は言い知れない不気味さを感じた。
「──汝ハ剣ノ道ヲ志ス者カ?」
声は低く、濁っている。
また、背丈が高く、男ではないかと彼女たちは思った。
しかし。心当たるものがあったのか、公村が言った。
「あ、ま、まさか、こいつ辻斬り!?」
「あの噂の!?」
3人は狼狽えた。
防具の人物──辻斬りは言い放つ。
「3人デ、掛カッテコイ。防具ヲ付ケル時間モ待ッテヤロウカ?」
「要らないわよ! てか、辻斬り倒せなくて刀堂花梨が倒せるかって話だ!!」
「あんたの正体引っぺがして、名を上げてやるんだから!」
「覚悟しろってのよ! 3人でぶっ叩いてやるわ!」
「笑ワセル」
辻斬りは竹刀を構える。
「──貴様ラ如キデ刀堂花梨ガ倒セルト本気デ思ッテノルカ? 冗談ハ肥ニ肥エ太ッタ腹ダケニシロ」
それが3人組の心に火をつけた。
防具も纏わずに、3人は竹刀を構え──突貫した。
「誰がデブだァ!!」
「デブはハム村だけよ!!」
「誰がハムじゃボケェ!!」
突貫する3人組。
ただし、辻斬りの悪口は途中からほぼ1人にしか向けられていないが、もうそんな事はどうでもよく。
「「「死に曝せ、このボケェェェーッ!!」」」
暗い河川敷に、竹刀と竹刀がぶつかり合う音が、甲高く響き渡った──
※※※
「──で、刃金商業の女子剣道部員3人が辻斬りと戦って、全員負けた、と」
俺は白銀耀。
デュエマ部の部長を務める、ちょっと普通じゃない高校2年生。
最近は、実体化するワイルドカードの事件に振り回されて大変だったが、1月も終わりに近づこうとする今、俺達は連日起こる事件に追われていた。
「そうデス! 辻斬りはここ数週間の間で、ある時は道場帰りの大学生、ある時は剣道部員数人を相手にいずれも勝利してるのデース!」
「竹刀だからまだ良かったけどよ……」
情報通のブランが言う限り、そんな事件が新たに起こっているのだった。
俺は手に取った朝刊を投げ捨て、腕を組む。
辻斬り。それは、2週間ほど前からこの地区を中心に騒がせている防具を身に纏った人物。
背丈は一般的な男子程で、声はボイスチェンジャーで変えているから不明、と如何にも胡散臭い人物なのだが、夜に剣道部員に野良試合を挑んでいくという怪人物で地区の剣道部員には注意が出されていた。だが、皆して血の気が多いからか勝負を挑む者は後を絶たなかったという。
もっとも、この件で大きな怪我を負った者は居ないのが幸いか。辻斬りは必要以上に相手を痛めつけはしないという。
だけど──奇妙な点が1つだけあった。
「負けた人物は、悉く剣道への情熱を失ってしまう、か」
「そうデス。廃人化、というべきデショウか。剣道、いやそれだけではなく物事に無気力になってしまうらしいのデスよ」
都市伝説も此処まで来ると現実味を帯びて来る。
そして、そういった怪奇事件は必然的に俺達の元へ巡り巡って来るものだ。
「やれやれ、今日び辻斬りなんてものが流行るなんて思いませんでした。今は江戸時代じゃなくて21世紀、平成の日本ですし」
部室で平気な顔をしてモンハンをしている紫月が素知らぬ様子で言った。完全に他人事だ。
「本当に法治国家なのやら、だな。そんな事よりやはり、このアングルの方が良いだろうか」
部室で平気な顔をして駆逐艦のプラモデルを並べてジオラマを撮影している火廣金が言った。完全に他人事だ。
「もう!! 2人とも真面目に考えてくだサーイ! クリーチャーの事件かもしれないのデスよ!」
「まあ辻斬りって言っても人は死んでませんし」
「結構深刻な被害だと思うのデスよ!」
珍しく真面目なブランが言った。
もうこのグダりっぷりはいつもの事だから今更なんだけどな。
でもブラン。お前、事件を完全に面白がってるよな? 毎度のことだけど。
「ブラン先輩、ついこないだ起こったどこかの道場の鎧が消えた事件。あれも結局手掛かり無しでしたし、熱心なのは探偵の意地ってやつでしょう」
そう。ついこの間もそんな事件が起こったばかりだ。
この町にある剣道場に飾ってあった鎧が忽然と姿を消したので、俺たちはクリーチャーの仕業ではないかと思ってそれを探していたのだが、結局何も進展が無く、お流れになっていたのだ。
それも考えると、ブランの探偵としての意地が事件を追い求めるのは至極当然の事と言えるだろう。
「事件続きで探偵の血が騒ぐのデース!! それに、ヨロイの件もまだ諦めてないデスよ!!」
「辻斬りは、他にどういう所が異常なんだ?」
「先の噂に加えて、いつも忽然と姿を消す所為で捕まらないみたいなのデス」
「逃げ足が速い辻斬りですね。辻斬りのくせに腰抜けとはお笑い草です」
欠伸をした紫月はソファベッドに寝転がった。
「まあそんな事はどうでもいいです。白銀先輩、冷蔵庫のジュース下さい」
「自分で取れよッ!!」
「部長、追加の箱を頼む。そこに棚に入ってる右から2番目の奴だ」
「お前はお前で後何隻作れば気が済むんだ!!」
こんな事では先が思いやられる。
偽物事件、入れ替わり事件、そして今回の辻斬り事件。
ロードとの戦いもまだ終わったとは言い難いのに、どうしてこうも次から次へと怪事件が起こるのか。
「そもそもこれクリーチャーの仕業なのか?」
『マスター、いい加減に学習するでありますよ。なんか不可解なことが起こったら全部クリーチャーの所為でありますよー』
「お前のその態度も守護獣としてどうなんだ……」
『怪奇事件が起こったら大抵クリーチャーの所為だろ、いい加減に学習しろや白銀耀』
くそっ、チョートッQは勿論だけどシャークウガに言われるのも腹が立つな。
もう1度腕を組んで今回の件について考える。
襲われた場所も、年齢層もバラバラ。
辻斬りの目的が何なのか分からない。いや、単純に己の強さを試したいとかそんな感じの気もするけど。
「……よし」
火廣金が急にジオラマに触れる手を止めた。
そして徐にスマホを取り出す。
「花梨に連絡でもするのか?」
「彼女の事だ。剣に関わる事件なら自分が解決したいだのと言いだしかねん。余計な事をしないように釘を刺しておく」
「うわあ、絶対に言いだしかねない」
「でも、それだけじゃないんデショ?」
「……」
にやにやしながらブランが言った。
むっ、と火廣金はあからさまに機嫌を悪くしたようだった。
「心外だな。俺はあくまでも彼女の
「サッヴァーク、ヒイロの心を見透かせるデスか?」
『可能ではあるのう』
「君には倫理というものが無いのか?」
火廣金が酷く非難した。まあ当然だろう。
いちいち心を見透かされたんじゃ、プライバシーもへったくれもない。
にしても火廣金と花梨か……。
「そうか、お前確か花梨のデュエマを鍛えてたんだっけな」
「……巻き込んだのは俺の責任でもあるからな」
彼は肩を落とす。
クリーチャーに襲われた彼女を助けた事がきっかけで、花梨と火廣金の奇妙な交流は始まった。
その後、俺達とアルカナ研究会が対立していた頃に火廣金が俺に負けて怪我している所を花梨が助けた……と言う経過もあってか、今ではすっかり持ちつ持たれつの関係のようだ。
「せめて、守護獣が目覚めれば……あいつ一人では無茶しかねない」
火廣金の言う通り守護獣が居るか居ないかではクリーチャーを相手にした時の安全度が違う。
守護獣が居れば、相手のクリーチャーの能力を分析して対処する事も出来る。
しかし、幾らエリアフォースカードがあっても守護獣が居なければクリーチャーの能力に阻まれて、そもそも相手を空間の中に引きずり込む事すら出来ないなんてこともあるのだ。
俺たちは守護獣の力を借りることで、ワイルドカードと対等に渡り合えてきたけど、花梨は違う。
彼女が今まで無事だったのは、ひとえに彼女の度胸と運動能力にあると言っても良い程だ。
「もうカリンが戦えば良いんじゃないデスかね?」
「お前、それは無茶苦茶だぞ……」
「とはいえ、明日早速予定を入れる。事件は、まだ手掛かりが少ない。そこは、俺よりも捜査に向いている魔導司に任せて情報を貰うとしよう」
「と言うのは?」
「さっきも言った通り、一度言った手前俺は刀堂花梨のエリアフォースカードを目覚めさせる義務がある。彼女が嫌と言わない限り、な」
義理や徳に厚い火廣金は重々しく言った。
「それが、彼女の身を守る事に繋がる」
「火廣金……」
あくまでも火廣金は自分に任せて欲しいと言った。
まあ実際、こういったことに最も精通しているのは魔導司であるコイツだからな。
ならば、部長として俺はそれを見守るだけだ。敢えて無暗に俺が手を出す事じゃない。頼んだぞ、火廣金。
※※※
「礼!! ありがとうございましたッ!!」
部活の稽古が終わった後の黙想の時間が心地よい。
外はもう、冬というだけあってすっかり暗いし、道場の空気は冷たいけどね。
だけど、今日は胸がざわつく。
主に原因は──
「刀堂さん? 大丈夫? もう黙想終わっちゃったけど」
「にゃあっ!?」
同級生の和泉ちゃんの声であたしは我に返った。
もう、みんな帰る準備してるよ!
「ご、ごめん……ちょっと考え事してた」
あたしは刀堂花梨。鶺鴒高校剣道部の女子主将だ。そして、家は由緒正しい剣道場。
跡継ぎになるため、そしてプロの剣道家になるため、私は日々研鑽を続けている。
「花梨……あんたねえ、主将ならもっとしっかりして頂戴よ」
「え、えへへ……」
様子を見かねてやってきた長い黒髪の少女──巴が呆れたように言った。
巴はしっかり者で、きびきびしてる剃刀のような副将。いつも彼女には心配ばっかりかけちゃうんだよなあ。
ダメだなあ、あたしすぐ体や顔に出ちゃうから。
「……やっぱり、辻斬りの事を気にしてんの?」
「う、うん……うちの剣道部も結構大きいからさ。部員が目を付けられたりしないか心配で」
「刀堂さんらしいわねえ」
ふわふわした牧毛を手で弄りながら、和泉さんが言った。
何だろう、深刻な雰囲気なのに、この牧歌的なオーラで和んじゃうよ。
「絶対、うちの生徒に手を出させたりしないからね。辻斬りなんて、あたしが見つけたらぶった斬ってやるんだから!」
「刀堂さんならやりかねないわねぇ」
「本当脳筋ね、このバ花梨」
「バ花梨ってゆーなし。耀も同じこと言うんだもん、皆してあたしの事脳筋だのバカだの」
「あらあら」
「ま、花梨なら大抵の相手には勝てるとは思うけどね。余計な事をして怪我したら、こっちが困るのよ」
「今の所、うちの部員には被害が無いのが幸いねえ。負けたら剣を手放しちゃうんって話もあるし」
「……そんなの都市伝説だっての」
巴が斬って捨てた。
確かに現実味の無い話だ。
だけど、あたしには思い当たらない点が無いわけじゃなかった。
クリーチャー。もしも辻斬りがクリーチャーの力を受けていたなら、切った相手の気力を奪う事も出来ない事は無いはずだ。
そして和泉さんの言う通り、今の所うちの生徒に被害は出ていない。うちも剣道部結構大きいから、真っ先に狙われてもおかしくないのだけど。
とにかく、今はどうしようもない。
続報が来るまで、私は待つことしかできない。
だけど焦りは禁物。剣道もそれは同じだ。
だから、とにかく話題を変えよう。無用な心配は不安を生むだけだ。警戒はするとして、今は──
「とにかく、ラーメンでも食べに行かない? お腹空いちゃったよ」
──ぎゅう、となったお腹を満たすのが先決かも……。
「刀堂さんは本当にラーメンが好きねえ」
「まあ悪くは無いけど」
部員は基本仲がいいけど、今やってきたこの2人とは特に仲が良くて、放課後に一緒に寄り道することもある。
寒くなってきちゃったし、早く温まる場所に行きたいな。そんなことを考えながら武道場を出ようとすると──
「──刀堂は居るかぁ!!」
バカでかい声が道場に響いた。
男子の低い声だ。
現れたのは──竹刀を掲げた大男。
あー……出てきちゃったかあ。
「武永……懲りないねえ」
「御託は良い!! 刀堂ォ……俺と勝負をしろォ!!」
ある意味同類みたいなものとはいえ、しつこいんだよねえ……まあその執念は嫌いじゃないんだけどさ。
「ちょっと武永ァ! いい加減、迷惑なんだけど!」
飛び出してそれを制したのは巴だった。
しかし、彼は意にも介さず叫ぶ。
「るっせぇぇぇーっ!! あの日、刀堂に負けてから、俺はどんな試合に勝っても”でもあいつ女子に負けたんだよね、野郎のくせに”とか言われるようになっちまったじゃねーか!」
「あったり前でしょ! あんたみたいなバカが勝てる相手じゃないわよ!」
うん、でもさっきその花梨にバ花梨呼ばわりしたの巴だよね……。
「ったく、私闘なんかバレたら先生に大目玉だっつの……」
「別に良いよ? あたしは」
「花梨!?」
ま、昂る思いは理解できない事も無い。
帰る前にもう1回、やってやるとしようか。
「んじゃ、練習の手合わせってことで!」
「いいぞう!! かかってこいぃぃぃーッ!!」
「仕掛けてきたのあんたじゃないの!!」
「刀堂さーん、勝ったらラーメン奢るわよー」
「マジで!? 余計負けられないじゃん! やる気が漲ってきた!」
和泉ちゃん太っ腹!
こりゃあ本格的に負けられなくなってきた!
「刀堂花梨、俺は貴様を絶対に許さん!! 1週間磨いた新技で、今日こそ貴様をぶっ倒す!!」
彼は防具を恐ろしい速さで着込んでいく。
うわあ、あっちも引くほどやる気満々だよ。
だけど、この勝負は絶対に勝つ!!
「くくくっ……今日が、貴様の最期だ刀堂ォ!! 二度と剣道が出来ないようにしてくれるぁぁぁぁぁ!!」
※※※
「──めェェェン!!」
「い、一本!!」
竹刀が叩きつけられる音と共に、空気が震えた。巨体が床の上に転がった。
審判を務めた巴の声が遅れて響き渡る。
残心無し。
完全に勝負がついたことを確信し、私は踵を返して言い放つ。
「盗んだそのままで、身体で覚えてない。付け焼刃で技が身に着くわけがあるか。技を覚えるなら己自身を磨け」
「うごごご……バカな……」
防具を脱ぐと視界が明るくなり、息苦しさが無くなる。
ふう、いい汗かいた。
「ま、それでも1週間で此処まで出来たのはすごいと思うけどね! 武永、また強くなったじゃん」
「お、おお……」
「次はちゃんと己を磨いて身に着けて来る事! 楽しみにしてるからっ」
呻き声を上げる武永。
あー、完全に意気消沈してるなあ、こりゃ……。
ま、ほっといたらまた復活するし放置で良いでしょ。
それに男子というだけあって、いつか絶対あたしに勝ちそうなんだよなあ。
「刀堂さん、相変わらず防具を被ると性格変わるわねえ」
「正確に言うと、竹刀を持って構えた時点でスイッチが入るのよ。オンオフの切り替えが凄まじく速い」
「稽古の時も後輩に厳しいけど、その代わりフォローも後できっちり入れてくれるのよねえ。後輩に慕われるの分かる気がするわあ」
「やっほー! 早くラーメンたーべよっ」
「ほら、もう元通りだわ」
「本当に切り替え速いわね、あんた……」
まあ、確かにそんな事はよく言われる。
だけど一度竹刀を握れば真剣勝負。
一切の手を抜くつもりはない。これでも道場の娘。人一倍剣の道の厳しさは叩きこまれてきたからね。
「新技、全部見切ってたわね……花梨」
「そんなことないよ。武永は確かに強くなっていた。あたしも油断せずに、強くならないとね」
「いやいや、女子で男子とまともな勝負が出来るのあんたくらいなものよ」
「んじゃ、帰ろ! ラーメン奢ってくれるんだよね? 和泉ちゃん」
「ええ、幾らでも奢るわあ。久々にスカッとしたもの」
そう言って帰る支度をする私たち。
結局のところ、私が武永に負けた事は一回も無いのである。
勝負をするのは構わないけど、こっちだって簡単に負けてはあげないよ。
「さて……お腹も空いたし! いつものラーメン屋、行こう!」
「結局色気より食い気なのねえ。刀堂さんらしいけど」
「……あー、私やっぱパス」
突然、巴は言いだした。
どうしたんだろう。さっきは行くって言ってなかったっけ。
「どしたの? 巴ちゃん」
「ちょっと用事思い出したわ」
「あらあ。それは仕方ないわねえ。刀堂さん。2人で行く?」
「そうしよっかあ」
うーん、3人で行けないのは残念だけど仕方がない。
取り合えず、腹ごしらえだ。
たっぷり食べて、続報に備えないと。
事件とか関係なしに、ワイルドカードが突然暴れだすこともあるから、いつでも万全にしておかないとね!
「ぐううう、絶対に、絶対に次は勝ってやるぞ刀堂花梨……どんな手を使っても……」
そう呻く武永を放り、あたし達は道場を出たのだった──
※※※
「っはぁー、食べた食べたあ……」
「あらあら、すごい食べっぷりだったわねえ。もう何も食べられないんじゃないの?」
「あーでも、この後晩御飯も食べるし」
「刀堂さん? 太っても知らないわよ?」
実際の所、あたしの食べる量は常人に比べると半端なく多いという。
あたしはこれで普通なんだけどなあ。
とまあ、そんなこんなでラーメン屋で、和泉さんと一緒にあたしはヘビーな間食を済ませようとしていた。
やっぱり疲れた時はこれに限るよ。寒くて冷えた体に染みるわあ。
「でもごめんね? その場のノリと勢いだったとはいえ」
「良いのよ。刀堂さんが幸せそうにラーメンを啜っているの、彼氏が手料理食べてる時に似てて可愛いもの」
「あ、あはは……そうなんだあ」
彼氏、か。
和泉ちゃん、女子力高いもんなあ。モテるとは聞いた。
たまに惚気るから、巴ちゃんがムッとして注意してるけど。
「……彼氏、かあ。あたしにも何時か出来るのかなあ」
「え? 刀堂さんは竹刀が恋人じゃないの?」
「しっつれいだなぁ! もう! こう見えてあたしにも好きな人の1人や2人……」
恋愛なんてあんまり考えた事は無かった。
だからか、ぱっ、と思いついた顔が浮かぶ。
そして自分が墓穴を掘った事に気付いた。顔が一気に熱くなる。
「……居ない事も、無いけど」
「言っておくけど、刀剣の擬人化とかじゃないわよね?」
「違うってばあ! んもう……あたしは跡継ぎだよ。刀剣なんかを婿に入れたら、刀堂家が笑い者になっちゃうんだから」
「大変ね、名家の娘も」
「分かってくれた?」
「刀剣をどれだけ愛していても、家の圧力で人と結婚しなければいけない運命なんて……」
「ばかぁ!!」
もう、和泉ちゃん……。
本当に冗談が過ぎるよ。まあ、仲が良い証拠と言われればそうなんだけど、変人と勘違いされるのは頂けない。
「まあ心配しなくても、刀堂さんくらい可愛いなら彼氏なんてすぐ出来るわよ」
「か、可愛い? あたしが?」
顔が熱くなった。
そういうこと言われたのは初めてかもしれない。
「ええ、可愛いじゃない。ふわふわの髪に、子供っぽさが残るのに試合の時に見せる凛々しい顔のギャップ」
「そうかな……だって皆してあたしの事、強い、強い、強い、鬼、悪魔、羅刹、バーバリアン、アマゾネスって言うんだもん……」
頬を膨らませて、冗談めかして言った。
流石に普段、そこまで酷い事は言われないけど。
「強くて良いじゃない。女の子だって、守られてるばかりじゃいけないと思うわあ」
「……うん! そうだね、男子に負けてられないもんね!」
「それでこそ刀堂さん。そういう強さに惹かれる人はきっといると思う」
「うん。それに……身近な人を辻斬りから守らなきゃいけないもん。あたし、まだまだ強くならなきゃいけないんだ」
剣で悪さをする奴は許せない。
恋愛なんかに現を抜かしている暇はない。
「最近、物騒よねえ……私は剣道はあくまでもスポーツとして楽しみたいのだけど」
「和泉ちゃん?」
「だって……護身術なんて使う必要の無い世の中の方が良いに決まってるじゃない」
「……そう、だよね」
「だから、刀堂さんみたいにいざという時に本当に胸を張って戦える人って羨ましいのよ」
彼女ははにかんだ。
何処かで和泉ちゃんも、辻斬りに不安を感じていたのかな。
「怖いのよ……どこかの道場で鎧が消えて無くなったって話もあったし」
「盗まれたんじゃないの?」
「そうなんだけど……色々不自然な所があるのよねえ」
うわあ。辻斬りに続いて窃盗事件。
いよいよ鶺鴒の町も末か。
「……なら、猶更強くなる! 皆を守れるくらい、ね!」
「そんな事を聞いたら、巴さんが黙ってられないでしょうねえ」
「巴ちゃんが?」
「うん。2人とも、今では良いライバルだもの。刀堂さんが昂ると、呼応するように巴さんも昂る……2人共、似た者同士だからあ」
「そっかなあ」
巴ちゃんはあたしよりも冷静で、落ち着いている。
だからか、剣の乱れも一瞬で見通せるし、あたしよりも視野が広い。
理屈っぽいところもあるからか、正反対だと思ってたんだけどなあ。
「1年の頃は巴さん、刀堂さんに噛みついてたもの。それが今じゃウソみたいよお」
「確かに」
「もともと中学の全国大会で鎬を削った仲だしねえ」
そうだ。
元々、巴ちゃんとあたしは、中学の頃の全国大会の準決勝で戦った主将同士。
それで負けたのがよっぽど悔しかったのだろう。気持ちは分かるけど、同じ高校に偶然進学して一緒の部活に入ってからというものの、あたし達の仲はよろしいものではなかった。
巴ちゃんは事あるごとにあたしに噛みついてくるので、周囲は冷や冷やしていたらしい。あたしも負けず嫌いだから、それで喧嘩することも多かったんだけど。1年の頃のあたしは、それで結構ピリピリしてたんだよね。
「まあ、今じゃすっかり良いライバル関係よねえ」
「一緒にいると、やっぱり互いに認め合える事って多いと思うんだよねえ。でも、和泉ちゃんのおかげもあるよ。色々迷惑掛けちゃってごめんね?」
「良いのよ。2人共私にとっては大事な友達だもの」
朗らかに笑う和泉さん。
よく、あたし達が喧嘩すると仲裁してくれた。
気が強い巴ちゃんも、和泉さんには頭が上がらなかったみたいだし。
「でも、お願いだから……無茶だけはしないでね?」
「分かってるよ」
まあ、これがクリーチャーの仕業だってんなら、和泉ちゃんの懸念通りになっちゃうんだけどね……。
あんまり彼女を心配させたくはないな。
「ね。3人でまた一緒にラーメン食べに行けたら良いね」
「ええ。勿論。楽しみだわあ。2人が大食い勝負するところも見てみたい」
「それは恥ずかしいからやめてほしいなあ……」
※※※
「っはぁー……疲れたあ」
そんな事があった次の日だった。
……最近は剣道以外にもやることが少し増えて、そのための「修行」もやっていた。
それが、これ。
「刀堂花梨。デッキの調子は掴めたか?」
そう言うのは、同級生の火廣金。
見た目からしてただならぬ雰囲気を漂わせてるけど、人々をクリーチャーから守る役職・魔導司として今は鶺鴒学園高校に潜入しているのだ。
私は、デュエル・マスターズの特訓をやっている。と言っても遊びではなく、クリーチャーと戦うための特訓だ。
そして、火廣金は度々こうしてあたしにデュエマの稽古をつけてくれる。
それは1月も終わりに迫った土曜日の事。あるカードショップの一角で、今日もあたし達は少ない時間を使って特訓をしていた。
だけど、いまだに肝心の
「何とかね。火廣金のおかげだよ。でも……」
「焦らなくても良い。それに、
「そう、だね……」
あれ以来うんともすんとも言わないけど。
「ともかく、だ。犯人が出たら1人で解決しようと思うな。事は君だけの問題ではない」
「分かってるよ」
「……分かってないな。君からは部長と同じものを感じるからな。大方、今回の事件は自分の責任だと思っている。だから、自分の手で決着を付けたいと思っているのではないか?」
「……」
「まあ、危険なことだけは避けてくれ。あの手合い、アルカナ研究会の魔導司の追跡を悉く避けているらしいからな。相手はかなりやり手だ」
「分かってる」
「くれぐれも……そうだな、君1人で辻斬りを追うような事だけは止めてくれよ」
火廣金は、こんなに心配してくれる。
まあ、何かと気にかけてくれるのは嬉しいけど。
「しかし、良いのか?
「あー、うん……そうなんだけど、これじゃあいつまで経っても
「成程な。やはり、エリアフォースカードを覚醒させるには、エリアフォースカードに最大限適合したデッキを使う必要がある、というわけだが……
「どういうこと? 自分で言ってアレだけど、結構ショックなんだよ?」
うう、強いのにそれを使えないってかなりキツい気がするんだけど。
そう思っていたら、火廣金がこんな事を言った。
「空間内のデュエルでは必ずしも強いデッキを使えば良いというものではない」
「そうなのかな?」
「ああ。多少デッキパワーを落としてでも自らのアルカナ属性に合ったものでないといけないからな。自分の属性に合ったデッキを使うか否かが、空間内のデュエルに於いてデッキの動きを支配できるか否かに関わる」
デッキの動きの支配?
ちょっとよく分からないや。
「要するに、分かりやすい例だと引きが良い、引きが悪い、とかだな」
「……ああ! つまり、自分に合ったデッキだと引きがよくなるってことだね!」
「そうだな。ただし、そもそも両者の”魔力”が拮抗している場合はそれでトントンと言ったところだ。お前たちエリアフォースカード使いならば、俺達魔導司が同格だな」
「成程……つまるところ、格下との戦いで絶対に負けないようにするため、ってことなんだ」
そう考えると、耀達がワイルドカード相手にはあまり負けていない理由がよく分かった気がする。
「ああ。ワイルドカード、つまり暴走したクリーチャーとの戦いで負けないようにするためだ。これで運の要素は無くせる。あとは──本人の技量次第だ」
「やっぱ運の支配だけで勝てる程甘くないかー……」
「ともかく、勝つための戦いを心がけるしかない」
「うんっ。耀達、何でいっつもああやって戦えるんだろう……メンタル凄いよ」
そうは言ったが、あたしもすでに何戦か雑魚クリーチャーとの戦いはやっている。
あと、洗脳されてスペックが落ちていたという魔導司達。
ドギラゴン
それなりに経験は積んだとは思ったけど、まだ大物狩りは1回もしたことがないから、これが通用するか分からないしね。
プレッシャーに負けない鋼のメンタル。正直、耀は羨ましい。
「部長の場合は、大抵大事なものを傷つけられてブチ切れてる時が多いからな。負けてたまるかこの野郎、ぶっ飛ばしてやる、って感じだろう」
「ああ……分かる……プレッシャーとか云々じゃなくて、負けられないって感じなんだ」
「そうだな。部長のここぞという時のメンタルの恐ろしさは、この俺が自ら体験している」
「じゃあ火廣金とかはプレッシャーを感じたりしないの?」
「どうだか。俺の場合は、与えられた任務は忠実に遂行できるように鍛えられているからな。慣れきっていると言えばそうだ」
しかし、と彼は付け加えた。
「君達は、この非日常に慣れるべきではない。こっち側に来るということは、人間としての日常を失うということだ」
「……そ、そうか……」
「しかし、今となってはエリアフォースカードと適合者が居なければ、俺達魔法使いはマギアノイドによって全滅も良い所だった。それを考えると、今更こんなことを言うべきではないのだが……俺は、今でも君達が心配だ。エリアフォースカードが人智を逸したモノである事に変わりはない」
そんなことは、前も言っていた気がする。
魔導司は人とクリーチャーの調和を司る。
だからか、火廣金はあたし達人間がこういった事件に巻き込まれることを良しとはしなかったのだろう。
「大丈夫だよ、火廣金。あたし頑張るから」
でも、あたし達は何時か、絶対に日常に戻って見せる。
それまで誰かの日常を守りきってやるんだ。
誰かのために必死に戦う姿は、耀と火廣金が見せてくれたじゃない。
「……だが、出来る限り俺も協力させてくれ。それが俺に出来る唯一の償いなんだ」
「火廣金……」
「それに、俺は君が傷つくのは……心が痛む。責任もって、俺にも君を守らせて欲しい」
言った後、しばらくの間があった。
な、何かちょっと恥ずかしいな。
ちょっと顔が熱くなっちゃう。火廣金って顔が整ってて、平気でそういう事を言うから王子様みたいだ。
だけどね、火廣金。あたしは違うと思うんだ。
「え、えと……ありがと。でも、あたしの事はそんなに心配しなくて良いよ。あたしだって、守られてるだけなのって嫌だから」
「……だろうな。君もそう言うだろうと思っていた。だけど、君は冗談抜きで無茶苦茶をしかねないからな」
「何それ、人を突撃玉みたいに」
「実際そうだろう。君はやりかねない。前科があるからな」
「うっ……ごめんなさい」
あたしは、力が欲しさに
それで危うく死にかけたんだったよ。実感は湧かないんだけど。
うう、反省。どうやら火廣金の言ってる事は合ってるみたいだ。
「……誰しも、助けた命を無碍にされたくはないというものだ。覚えておくんだな」
「……火廣金」
そっか。
火廣金は火廣金なりに、あたしの事気にかけてくれてたんだ。
よし、それじゃあ、あたしも頑張ろう。火廣金がこれだけあたしに真剣に向き合ってくれてるんだ。
あたしも、この熱意にこたえないと。
絶対に、
「……ありがとね、火廣金」
「……礼は良い。それよりも続けるぞ」
「おっけー!」
火廣金は強い。
あたしとは、また別の強さを持った人だ。
人間の枠には収まらない魔導司の力は、あたしの常識を遥かに超えている。
そして何よりデュエマが強い。当の耀でさえ、部室をプラモデルで占拠されてしまうくらいには、なかなか火廣金に勝てないみたい。
その違った強さの方向性は、ただひたすらに今まで剣の道だけを歩んできたあたしに、別の世界を見せようとしていた。
あたしは──彼から何が掴めるだろうか?
※※※
そんなこんなで、火廣金との特訓を終えた後。
流石に頭が疲れたから、道場で素振りでもしてリフレッシュしようかな。
前耀に勉強の後とかは素振りするって言ったら変な顔されたんだけど、どうしてだろ。
まあいっか。今は心無しか気分が軽い。
また一歩前進したからかな。火廣金、色々デッキ使ってくれるから沢山練習が出来るよ。
鼻歌交じりに帰路につく。もう日が暮れそうな中、道場に向かうバス停に急いでいた。
帰ったらまた鍛錬しなきゃ。デュエマしてたら稽古の時間が減る? いやいや、稽古の時間をその分更に増やせば良いだけだよ。
それに剣を振るうと、やっぱり自分と向き合える。
「──!」
その時。
ケースに入れて首からぶら下げていたそれを手繰り寄せて、手に取ったけどとても熱い。
あたしは冷や汗をかきながら辺りを見回した。邪悪な気配を感じる。
「もしかして、クリーチャー!?」
どうしよう。火廣金に知らせるべきかな。
だけど、もうカードショップから大分離れちゃったし……。
あたしが狼狽えている間に、何処からか劈くような悲鳴が響き渡る。
まずい。もしかして、人が襲われているのかもしれない。
もう、あたしは何も考える間も無く走っていた。
それを手で押さえ、あたしは走り、走り、走った。
アスファルトを蹴り続けて足裏が痛くなった頃。路地裏に辿り着く。
そこにあったのは──異様な光景だった。
「こ、来ないでえ……!」
コンクリートの壁で囲まれた路地裏に倒れた男女。
制服を着た学生のようだった。しかし、その手には竹刀が握られている。
そして、その最後の1人が壁際に追い詰められている。
そこにあったのは、竹刀を振り上げた防具姿の人物──直感した。
「待てッ!!」
叫び、振り上げられた竹刀が止まった。
本能でこいつだ、って分かった。
あたしは念のため護身用の特殊警棒を、かばんからすっと取り出した。竹刀は長くて外に出向くには向かないから、剣道以外の用事は護身用に持ち歩いている。
それが初めて役に立つなんて。正直、役に立つ場面に出くわしたくは無かったけど。
「刀堂花梨カ?」
「!」
あたしの名前を、知ってる。
やはり、ただ腕試しをしている人間ではないってことか。
濁ったボイスチェンジャーを通した声。
そりゃそうか。年齢不詳、性別不明。
道理で正体が探られないわけだ。
1対3を圧倒した実力は褒めてやる。
だけど、臆した相手に剣を向けるなんて、恥ずべき事だ。
「あんた。その竹刀から手を離せ。弱って動けないやつ相手に剣を向けるんじゃない」
「甘インダナ。勝負ヲ挑ンデキタノハコイツラダ。3対1ナラバ勝テルト思ッテイタヨウダケド」
「確かにそれは凄い事だ。だけど、巷であんたがやってる事は間違ってる。野良試合は褒められたもんじゃない」
「……甘イ。甘イナ。ソレデモ、天下ノ剣豪・刀堂花梨カ」
「!」
「──ダケド、アンタガ出テキテクレテ好都合。ドンナ手ヲ使ッテデモ勝ッテヤルト、決メタカラナ」
「?」
ん? 今のセリフ、どっかで聞いたような……。
「あ、あばば……!」
「っ!」
あたしは仰け反りそうになった。
今の隙に、壁に追い詰められていた少女がこっちへ駆けてきたのだ。
「あんた、大丈夫!?」
「と、と、と、刀堂花梨先輩!?」
ん?
あたしの事を知ってるのか。
それも声を聴いただけで……もしかして。
「ねえ、あんた! 太刀川さんでしょ! 1年の!」
「は、はいっ……! 刀堂先輩に名前を憶えて頂いて感激です!」
「言ってる場合か!! どうしたのよ!」
髪をお下げに結ったこの少女は後輩だったらしい。
部員は多けれど、その中でも彼女は実力が高い方だ。
「道場帰りでいつもの仲間と帰ってたら、辻斬りが出てきて……男子で強い人もその中に居たし、3人がかりなら勝てると思ったんです」
「野良試合はどんな理由があってもご法度!! だからこんな怖い目に遇うの!!」
「す、すいませんっ! 仲間の中に、知り合いが辻斬りにやられた人が居て……」
まあいい。取り合えず被害に遇ったけど無事だった子がいて何よりだ。
これで辻斬りについて、よーく聞ける。
それに、うちの学校の生徒だったとあらば好都合だ。
「……難しいこと考えるのは後。とにかく逃げて!! んでもって通報!! 相手を見るな、背を向けろ、これは戦略的撤退!!」
「はいいい!!」
一目散に駆けだした少女。
その間、辻斬りはじっ、とこちらを見ているだけだった。
「で。思ったよりも簡単に逃がしたね」
「当然ダ。本命ノ方カラ先ニ来テクレルトハナ」
辻斬りの言葉になど耳も貸さず、あたしはその足元に目をやった。残りは、そこで伸びてる2人か。
どうにかして、この辻斬りを追い払わないと。
通報って言った手前、今ここでこの辻斬りを逃がすと今度はあの子が狙われる可能性がある。此処で足止めしないと。
防具を纏った身で生身の人間に追いつくのは難しいと思うけど、コイツに常識は通用しないはず。
各地で聞く不条理な武勇伝を聞く限りでは、一筋縄ではいかないみたいだからね。
相対した鎧の人物は、面の奥から見通せない表情では笑っているようだった。
ともかく、剣じゃなくてエリアフォースカードで決着を──
「クク、刀堂花梨。丁度良イ……オ前ノ剣ノ道モ奪ッテヤル!!」
「ッ……!」
突風。
そして炸裂弾が弾けた音。
竹刀と特殊警棒が思いっきり鎬を削った。
「剣の道を奪う? だって!?」
薙ぎ払うあたし。
相手の竹刀が弾かれた。
しかし、再び踏み込んだ辻斬りが懐に忍び込む。
それを警棒で牽制しながら、あたしは路地の外へ飛び出した。
リーチはこちらが劣る。だけど、取り回しはこちらが上だ。
距離を取りつつ、相手の竹刀を弾いて、あの面に突きをかましてやるとするか。
……って、何考えてんだあたし! 野良試合はご法度って言ったばっかでしょ!
あの倒れてる人達をどうにかして、助ける方法を探さなきゃ。
と言っても、何時人が来るか分からない状況でエリアフォースカードを使うのは憚られる。どうせもうすぐパトカーとか来るだろうし。
つまるところ、あたしに出来るのはそれまでにこいつを食い止める事!
「ソンナモノハ欲シクハナイ。私ガホシイノハ……オ前ノ”闘気”ソノモノサ」
「はぁ? 何言ってるの」
意味が分からない。
色々ごちゃごちゃ考えてる時に、難しいことぶっこむのやめてくれないかなあ。
そういう哲学的な事は苦手なの!
「……私ノ剣ハ……奪ウ剣ダ。オ前カラ全テヲ奪ウ!!」
次の瞬間、相手の周囲に何かが纏われていく。
防具は、鎧のようなオーラを形容していった。
エネルギーが、見えるように象られていく。
「──!!」
閃光が迸ったかと思った。
警棒を握った手に凄まじい衝撃が走る。いきなりすぎて、あたしは反応に遅れた。速過ぎる。
ビリビリ、と腕が痺れる。受け止めただけで、ここまでだなんて!
うっかり取り落としていたらまずかった!
「序ッ!!」
「!?」
しかもこいつ、本当に素早い。
さっきから間合いの取り方が尋常じゃない。剣道家であることを加味しても生身の人間以上の素早さだ。
「破ァッ!!」
体が重力を失った。弾き飛ばされたのだ。
重い。速い。そして強い。
三拍子揃った連撃があたしを襲った。
宙に浮いたあたしは、そのままアスファルトに叩きつけられてしばらく動けなかった。
「ぐうっ……!」
警棒をアスファルトに突き立てて、身体を起こそうとする。
視界がぐらついた。
これって、クリーチャーの力、ってことだよね。少なくとも人間のそれじゃない。
そろそろコレを使わないとヤバいかもしれない。だけど、少しでも隙を見せたら、あたしは叩き伏せられる。
あの竹刀。とんでもない力が宿ってる。いや、正確に言えば辻斬りの身体全身から感じられる。
このままでは押し負けてしまう。
「急ッッッ!!」
「おあっ!?」
飛びのいて躱す。だけど竹刀が叩きつけられた地面から凄まじい衝撃波が放たれて、あたしはまた態勢を崩してしまった。
こんな攻撃、竹刀の方が耐えられないはずだけど、竹刀の方にも力が宿っているのだろうか。いっこうに折れる気配が見えない。
どうするべきか、と思案した。防具の人物は既に迫りつつあった。
格が違いすぎる。
「ココマデ粘ルトハ思ワナカッタゾ、刀堂花梨」
「!」
竹刀が迫る。あたしは警棒を振り上げた。
間近で見る相手の面の奥底。その表情は、更に仮面に覆われて伺えない。
だけど、獲物相手に舌なめずりしていることだろう。
何より1つ言える事は、さっきの威力だと次は確実に受けきれない──そう思った時。
「──!!」
業火が目の前を覆った。
裏路地に現れた人影。
彼は、燃え盛る炎の中から現れ、竹刀を弾き飛ばした。
裏路地を出た通りで、辻斬りと魔法使いが睨み合った。
「その剣を降ろして貰おうか」
「ッ……!」
そこに居たのは──火廣金だった。
「火廣金!? お、追いついたの!?」
「これだけ強い魔力を近くで感知すれば、俺だって駆け付けざるを得ない。ともあれ、君だけでは手に余るようだな」
「なっ、大丈夫だし!!」
「何を言う。この防具の人物、明らかにクリーチャーの気配を感じる。エリアフォースカードで早く仕留めれば良かったものを」
「うっ、面目ない……」
「まあ良い。それほどの強敵ということか。そして、大分クリーチャーの力に呑まれているようだ。早く引き剥がさねばなるまい」
そう言って火廣金は魔方陣を展開する。
しかし、辻斬りは竹刀を構えると叫んだ。
「邪魔ヲスルナ……オ前ノ闘気モ奪ッテヤル!!」
「!」
溢れ出るオーラから実体化したのは龍の鎧を身に纏った鼠のクリーチャー、《”
恐らく、ワイルドカードの分身・トークンなのだろう。
更にもう1体。あたしの退路を塞ぐようにして、更に戦車のクリーチャーが現れた。
こっちは《龍装車ボル・シデック》だ。完全に挟まれてしまった。
「火廣金、どうしよう!?」
「──止むを得ない。戦闘開始だ!!」
あたし達は背中合わせになり、デッキを手に取った。
「俺の新たな戦法を見せてやろう──戦闘術式、
「あたしも行くよ! デュエルエリアフォース!!」
空間が開く。
そして、それは裏路地を覆って決闘の空間を作り出した。
火廣金の新たな戦法……一体何なんだろ?
とにかくこっちも気を引き締めていかないと!
※※※
──さて、俺・火廣金緋色と”龍装”チュリスのデュエル。
刀堂花梨にあんなことを言った手前、不格好なデュエルを見せるわけにはいかない。
相手は同じビートジョッキー。そして、その中でもドラゴンギルドを併せ持つクリーチャーだ。
油断は大敵と言えるだろう。
《海底鬼面城》を先攻1ターン目に要塞化した俺、対して何もしなかった”龍装”チュリス。
2ターン目の動きで、相手のデッキが大方割れると言っても良いだろう。
相手がどう出て来るか。それが問題だが……。
早速2ターン目が始まった。とはいえ、このターンではまだ攻められないが。
《鬼面城》で互いにカードを引き、俺は1マナをタップした。
「《ホップ・チュリス》を召喚。頼むぞ、ホップ」
『っしゃあ!! 久々に出番ッス!!』
相棒を呼び出した俺は、増えた手札から戦略を組み立てていく。
この手札ならば、問題は無いだろう。相手が想定外の動きをしなければ、だが。
「ターンエンドだ」
「何処のどいつだか知らねえが、俺様に喧嘩売ろうってのかぁ!? ああん!? 同族でも容赦しねぇぞゴルァ!!」
”龍装”チュリスが吠えた。随分と血の気の多い奴だ。
「オルァァァ!! こっちは2マナで《月光電人オボロカゲロウ》を召喚だゴルァ!!」
現れたのは三日月の装飾を身に着けたロボットのクリーチャー。
その能力は、マナゾーンにある文明の数だけ手札を引き、その数だけ山札の下に置くというもの。
つまるところ、手札入れ替えのカードだ。
「マナにある文明は火、自然、水の3つ!! 3枚引いて、3枚を山札の下に戻すぞゴルァ!!」
「……」
成程な。
あのクリーチャーのデッキが把握出来た。
俺の仮説が正しければ、3ターン目に仕掛けてくるはずだ。
そう思っていたら──
「ギャハハハハハ!! 随分とボーッとした顔をしているなァ!? お前ひょっとしてバカだろ!?」
「……」
「バカな人間はぁ……俺様のデッキに轢き殺されちまうんだよ!! 俺様は泣く子も黙る、”龍装”チュリス!! ドラゴンの力を持ったビートジョッキーだ!!」
ああ知っている、と言おうとしたが少々癪に障っていたので敢えて言わなかった。
「俺様の力があれば、ハムカツ団トップの”あのお方”とチェンジなんて容易い!! ギャハハハハハ!! あのお方が誰かなんて、バカな人間には分からねえだろうけどなァ!! 次のターンでお前は終わりだァ!!」
一瞬で分かったのは俺だけだろうか。
否。刀堂花梨でも分かったはずだ。
あのバカ──”龍装”チュリスはコスト5のB・A・D2持ちのドラゴンギルドのビートジョッキー。
おまけに、そのコストは5。故に、3ターン目にスピードアタッカーを持って現れるコスト5の火のドラゴン。
故に、奴が出来る戦略で最も恐ろしいものは最初より予想出来ていたのだ。
『アニキ。あいつがバカなおかげで確信が持てたッスね』
「自軍の機密を漏らす奴は、我が軍に置く事は出来んからな。相手がバカで助かった」
「ああ!? 何だとゴルァ!!」
つまり要約すると──奴はハムカツ団トップこと、《蒼き団長 ドギラゴン剣》に3ターン目で革命チェンジが出来る凶悪なクリーチャーであるということ。
一度、《ドギラゴン》に革命チェンジされれば、このデッキで受けきれるかは怪しい。
そのため、俺がこのデュエルに勝つにはこのターンで相手を仕留める。もしくは──
「ならば話は決まりだ。奴に次の手番を渡さない」
──奴のターンを此処で”奪う”。
このターンでお終いに出来なくても。
奴のターンにさえしなければそれで良い。
ターン開始時。《鬼面城》で互いにカードを引く。そして──
「全軍突撃準備!! フォーメーション
デッキからクリーチャー達の声が響く。
俺は迷わず3枚のマナをタップした。
そこから魔方陣が灼熱に包まれて展開されていく。
「──発動、
「なあ!?」
さあ開始してやろう。無限機動の織り成す、終わりなき強襲を。
「
浮かび上がるのは
灼熱の炎に包まれ、龍の化石に身を包んだ戦車が姿を現した。
「
飛び出したのは強大なる勝利の龍戦車。
ギターを掲げた猿人が指を突き上げ、我が軍の勝利を宣言した。
「な、何だコイツァァァーッ!?」
「さてと。貴様に見せてやるか。この戦車の恐ろしさを、な。《クラッシュ”覇道”》を《
「だ、だが、その程度で!!」
轢き潰した《オボロカゲロウ》には目もくれず、龍戦車は進撃する。
目の前にある全てのものを破壊すべく、止まらない。
「そのままシールドを攻撃。W・ブレイクだ!!」
「ぐおおっ!!」
割られる2枚のシールド。
そして、それに続くようにして《ホップ》が飛び出す。
「追撃だ!!」
『アイアイサー、ッス!!』
ボードに飛び乗った《ホップ》が続いて”龍装”チュリスのシールドを叩き割る。
しかし。
「調子に乗るなよ、人間風情がァ!! S・トリガー、《ゴルチョップ・トラップ》で相手のパワー4000以下のクリーチャーを全員マナ送りだァ!!」
現れたのは両腕が生えたカタツムリのクリーチャー。
そして、その両腕が《コダマンマ》と《ホップ》の脳天にチョップを食らわせてマナに引きずり込んでしまう。
『ぐええ、申し訳ねえッス、ヒイロのアニキィ』
「大丈夫だ。問題は無い。お前は休んでいろ、ホップ」
『恩に着るッス……』
「ハハハハハ!! これで次のターンに、俺様の降臨だァ!!」
高笑いを上げる”龍装”チュリス。
……確かにこのターンの攻撃は既に止められてしまった後だ。
だが──まだ俺には残っている。”次のターン”が。
「まさか、もう終わったと勘違いしているのではないか?」
「何だって? お前のターンは、もう終わりだろう!!」
「ああ。このターンは終わりだ。だが、君のターンはもう来ない」
俺の瞳が燃え盛った。
「ターンの終わりに《
「ハハハハハ!! お前の場のクリーチャーはゼロじゃねえかゴルァ!!」
「何べんも言わせるな。此処からが本番だ。タップされた状態で破壊されたとき──《クラッシュ”覇道”》の効果で、このターンの後で自分のターンをもう一度行う。」
「……ハ?」
これがこのクリーチャーが《勝利》の名を冠する所以。
あの悪名高い勝利宣言の名を持つ龍の力を引き継いでいるのだ。
手札は《鬼面城》のおかげで残っている。
……行くぞ。エクストラターンだ!
「もうお前のターンは来ない。今度こそな」
「なああ!?」
さあ、宣言しよう。
これが俺の新たなる戦法だ!!
「全軍、陣形を変更しろ。オペレーション、
『
俺は1マナ、そして2マナを生成していく。
火のマナが火の粉となって飛び散り、そして戦場へ飛び出した。
「俺のエクストラターン。1マナで《グレイト
「な、何だ、そのビートジョッキーは!!」
現れた2体のビートジョッキーは、いずれも速さに狂った筋金入りのスピード狂。
”龍装”チュリス。お前でさえも追いつけない程の速度を持つ。
故に──速度ではお前を完全に上回る。
「これで俺の手札は残り1枚になった。それにより、
「なあ!? だけど、それでも打点は足りないぞゴルァ!!」
「そう生き急ぐな。残るこの手札でお前は終わりだ」
これで足りる。
全てのピースが当てはまる。
最後の一押しだ!!
「マスター
俺は天に指を突き上げる。
浮かび上がるのは、”MASTER”を銘打たれた金色の紋章。
最早、そこに重力などは存在しない。
成層圏さえも突き抜ける速度で、打ち砕くとしよう。
「──
ロケットの発射音と共に、射出されたのは白き装甲に身を包んだ猿人。
その速度は最早、地上を駆け抜けるには物足りない。
宇宙を駆け抜け、銀河を貫く!!
「《”
「なああ!?」
「これで打点は足りた。《”
殲滅戦の始まりだ。
打ち砕かれる2枚のシールド。
そこから現れたのは──
「S・トリガー、《葉嵐類 ブルトラプス》で相手はアンタップしている自らのクリーチャーを選んでマナに送る……!」
「そうか。それならば《
「うぐぐぐ!!」
だが、それでも1体しか攻撃を防ぐことは出来ない。
これでトドメだ。
「何も出来ぬ間に、何もさせずに勝つ。俺の速攻は、時間を超越する」
「ぐぬうううううう!! こんな人間如きに──!!」
「俺は人間ではない。アルカナ研究会の魔導司、戦を司る者、『
俺は最後の命令を突き付ける。
スピードに狂いに狂ったビートジョッキーが嬉々とした顔で天空へ飛びあがった。
「──《ミサイル
「ぎょええええええ!? こっちに来るなァァァァーッ!!」
猿人がミサイルの出力にものを言わせて高らかな笑い声と共に、”龍装”チュリスを目掛けて飛んでいく。
逃げてもそれは延々と追尾し続けて──間もなく轟音を空間に鳴り響かせ、爆散したのだった。
「戦闘終了。我が軍の勝利だ」
※※※
さて、と。
あの辻斬りの姿が見えないな。
トークンだけ呼び出して逃げてしまったか。
刀堂花梨の姿が見えない辺り、まだ空間の中でクリーチャーと戦っているのだろう。
辺りを見回す。まだ何処かに潜んでいるかもしれない。だが、気配は感じられない。
『アニキ……逃げられたんッスかね?』
「恐らくな」
パトカーのサイレンが響いて来た。
もう、警察も辿り着くだろう。
一先ず、倒れているあの一般人──恐らく高校生くらい──の安否を確認だ。
駆け寄り、脈を測るが命に別状は無いようであった。
しかし。
「もう嫌だぁ……剣道とか面倒くせぇ……」
「というか生きてるのが面倒くせぇ……」
「ラムレーズン蒸しパンになりたい……」
何だコレは。
剣道家というのは辻斬りに切られたらラムレーズン蒸しパンにならなくてはいけないのが日本のしきたりなのか。
否、そんなはずはない。やはりこれが巷で言われていた、辻斬りに負けた剣道家の末路──
「ならば猶更あの辻斬りを──ぶっ」
腹から何かが伸びた。
ぎらぎらと金属光沢を冷たく放つ真剣のそれだ。
しかし、不思議と痛みは感じなかった。剣を引き抜かれても血飛沫1つ飛びはしなかった。
「き、さま……!!」
『アニキィ!!』
ホップが声を上げる。
俺も背後を睨んだ。
あの辻斬りが、膝を突いた俺を見下ろしていた。
どうやって、気配を消した……!?
どうやって、俺の背後から近づいた……!?
「……成程ナァ。オ前ノチカラ。常人ノソレトハ異ナルヨウダ」
「こいつ……!」
「安心シロ。コレハ真剣ノヨウダガ、身体ニ傷ハ付ケハシナイ。斬ッタノハ、オ前ノ”闘気”ダ」
「ぐうっ!!」
身体から力が抜けていく。
倦怠感が俺を襲う。
駄目だ。瞼が重い。
「ホーウ。剣道家デ無イノニ、ココマデトハナア」
「おのれぇ……魔導司を、愚弄するかぁ……!!」
「作戦変更。ヤハリコノ剣デ、ギリギリマデ他ノ奴ノ”闘気”ヲ奪ッテカラ、花梨ヲ痛メツケテヤル」
「さ、させないぞ……刀堂花梨には、指一本……剣の切っ先さえ向けさせてやるものか……!!」
「オ姫様ヲ助ケル王子様ミタイニ見セツケチャッテサア、ドコマデ私ヲ妬カセルノヤラ。ダガ、オ前ガ花梨ヲ守ルコトハ出来ナイ」
何て奴だ。
あくまでも目的は刀堂花梨ということか……!!
「させるかッ!!」
炎を最後の力を振り絞って迸らせた。
相手の身体に、すうっと帯となって赤くそれが走る。
俺が消そうと思わない限り決して火傷が消えない魔法の炎だ。
「……熱ッ、オノレ貴様ァ!!」
「魔法使いの炎も、熱い、だろう……!!」
しかし、もうパトカーのサイレンが間近に迫っていた。
「──覚エテオケヨ……刀堂花梨ハ、必ズ、コノ手デ完膚ナキマデニ……!」
そう言い終わる間もなく辻斬りの姿が消える。
入れ替わるようにして、刀堂花梨が空間から飛び出した。
「ふうっ、勝った勝った……あれ?」
彼女は俺の異常にすぐさま勘付いたのか、俺に駆け寄った。
「火廣金っ!? ちょっと、どうしたの!?」
『剣道女!! アニキが、ヒイロのアニキが……!』
駆け寄る彼女が何かを呼び掛けた。
だが、俺はもう、意識を手放さざるを得なかった──
※※※
「……」
「……」
「……」
「ごめんなさい……」
翌日。
昨日起こった辻斬り事件の事は、耀達にも知らせた通り。
当然、あの後警察がやってきて、あたしは襲われた後輩と一緒に事情聴取を受けたり耀達に連絡していた。
だけど、あたしと火廣金の決着を付ける時間に差があったばかりに起こった最後のトラブルは、想定以上の危難を迎えていた。
「ごめん、耀……あたしの所為で……火廣金が……」
「いや、お前の所為じゃねえよ。何でお前を責めるんだ」
こんな事になるなんて思わなかった。
反省点は幾らでもある。
だけど、まずは今の現状を直視しなければならない。
「成程……ヒイロの異変はそういうことだったんデスか」
「これはまずいですね……今の状態では、確かに戦うのは難しいでしょう」
「ざっけんなよ、何て卑怯な奴なんだ……デュエルで勝ったのに不意打ちされてこんな事になるなんてよ」
むしろ、学校に来れた事自体が凄いと思う。
それくらい、今の火廣金は──
「……俺は……燃え尽きた……やったぜ」
──燃え尽きていた。真っ白に。