学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace28話:戦刃(チャリオッツ)、断つ

 ──俺は白銀耀。デュエマ部の部長を務めるちょっと普通じゃない高校2年生。

 前置きはさておき、連日起こる辻斬り事件で遂にうちの学園の生徒が巻き込まれてしまった。

 そのため剣道部は急遽休部になってしまったのだ。

 被害者は3人。そのうちの2人は辻斬りにやられて気絶していたという。そして、花梨が助けたらしい3人目がこの学校の剣道部女子の1年生だったのだ。

 だが、その代わりと言うべきだろうか。現場に偶然居合わせ、そして不幸なタイミングなすれ違いで辻斬りに襲われたがために──

 

 

 

「燃え尽きた……」

 

 

 

 ──火廣金が大変なことになっていた。

 原因は、辻斬りに不意打ちされて斬られたかららしい。

 その能力は、相手の闘気を奪う事だ、と辻斬りは言っていたという。

 クリーチャーの力を相手が使っている以上、一刻も早く火廣金を元に戻す為に辻斬りを倒さなきゃいけないのだ。

 そんなわけで、昨日起こった事件のおさらいも兼ねて俺達は花梨も合わせてデュエマ部に放課後集まっていた。

 

「火廣金先輩。私の事が分かりますか?」

 

 紫月が火廣金に問いかける。

 帰って来たのは、

 

「燃え尽きた……」

 

 という文言。

 こいつさっきから同じ事しか言ってねえぞ。

 

「私の事は分かるデスか?」

「燃え尽きた……」

 

 ブランの問いかけにもこの有様だ。

 

『ヒイロのアニキィィィーッ!! ううう、オイラが付いていながらこの有様……』

「まあ、そう泣くんじゃねえよ……辻斬りはきっと皆で探したら見つかるさ」

『かくなるうえは、はらをきるっすずびびびっ』

「やめろォォォーッ!! 部室で切腹するんじゃねェ!!」

「とんだ傍迷惑な鼠ですね」

 

 おんおん傍でなくホップ・チュリス。

 兄貴分がこの様子では、嘆きわめくのも無理はないだろう。

 

「ダメですね。完全に無気力になっています」

「というか、こいつ人の話絶対聞いてないだろうな」

「あしたのジョーが流行ってるんデスか?」

「知らねえよ」

 

 ブランの疑問も最もではあるんだけども。

 

『トリス・メギス曰く、これでも症状は人間よりも軽いらしいっス……』

「みてえだな……というかホップ。トリス・メギスは、斬られた人間の特徴について何か言ってたか?」

『まだ調査中みたいっス。何なら、自分らで調べさせろって』

『やれやれ、相変わらず無責任な連中でありますなあ』

「それなら、丁度良いかも」

 

 花梨が言った。

 

「実はね、今日襲われた後輩……1年の太刀川美穂っていうんだけど、辻斬りにやられた2人が検査入院してるみたいでね」

「ってことは……」

「うん。やっぱり、無気力な状態みたい。そういう症状で検査入院させられてる人も居るみたいなんだ。何せ、前例が無いからね」

 

 それもそうだ。

 だって、その症状はクリーチャーによるものなのだから。

 

「それで、あたしに相談したいこともあるみたいだから、病院に来てほしいって」

「そうか。じゃあ、そいつを調べたら辻斬りの能力の全貌が分かるかもしれないってことか」

 

 となると、もう1つは辻斬り自体を特定することだ。

 

「何か手掛かりがあれば良いんデスけどね……」

 

 辻斬りの手掛かり……結局見つかってないんだよな。

 唯一あるとすれば、犯人は花梨に強い恨みを持っている人物と言うことだ。

 

『……ぐす、手掛かりならあるッスよ!』

「!」

 

 声を上げたのはホップ・チュリスだ。

 え。手掛かり、あるのか!?

 

『ヒイロのアニキが、力尽きる前に犯人に魔法の炎で火傷を負わせているのを見たッス!』 

「魔法の炎、デス!? なんか凄そうデス!」

『アニキが消そうと思わないと、一生火傷痕が残る恐怖の魔法っス。まあ、それ以外は普通の火傷と区別が付かないんスけど』

「随分としょぼいですね……火傷だけって」

『本来ならもっと大火力で対象を焼き殺せるっス。跡形無く』

「ひえっ、マジで……」

 

 焼き殺せる!?

 凄く物騒だ。だけど……そうか。

 火廣金は、俺達人間とは違う。体内にマナを生まれつき宿した魔法使い、その中でも選ばれた人間しかなれない魔導司だ。

 

「うっひゃあ……あいつ純戦闘タイプって言われてたのはそういうことか。炎を扱う魔法ってオーソドックスに見えて、よくよく考えたらとても強いし」

『魔導司同士の戦いでは、ほぼ無敵っスよ。だからアニキは、最前線で研究とクリーチャーや犯罪者との戦闘を行うアルカナ研究会に配属されたっス』

「そうなると、犯人の顔には今も火傷痕が残ってるよね……」

「ああ。これなら大分絞り込めるぞ!」

 

 顔に火傷が出来るなんて、そうそう無いだろうし、そうなると絞り込めるかもしれない。

 相手の立場からすると大分痛そうだし痕が残るからちょっと可哀そうに思えてきたが、そもそも辻斬りだし後から消せるんだから問題ないか。

 

「じゃあ、こうしよう。花梨は病院に行って、その後輩と会ってきてくれ」

「そうだね……呼ばれてるし」

「で、花梨だけじゃ、クリーチャーに掛けられた魔法の探知が出来ないだろうが、大勢で押しかけるのも迷惑だ。そこで紫月とシャークウガも病院に行って貰う」

「分かりました。何時に無く先輩が取り仕切ってるのが癪に障りますがまあ良いでしょう」

「覚えとけよお前」

 

 さて、そうなると残る俺とブランは辻斬り探しだ。

 火傷が顔にある剣道家。そして花梨に恨みを持っているであろう人物。

 これだけの証拠があれば犯人はすぐに分かるだろう。

 

「ねえ耀。気を付けてね、辻斬りに出くわすかもしれないし……」

「あったぼうよ。そっちこそ気を付けろよ。まあ紫月も居るし戦闘面じゃあ申し分無いだろ。出来るだけ1人になるなよ」

「う、うん……」

 

 何処か元気が無さそうに彼女は言った。

 紫月も静かに頷く。

 こうして、2人が部室を出て行くと共に俺達は辻斬りの正体を暴くべく調査を始めようとした。

 

「さてブラン。どうするんだ? 犯人の目星は付いてるのか?」

「フフフ……甘くみないで下サイ。この私の情報処理能力を!」

 

 のだが──すぐさまそれは終わりを迎えようとしていたのだった。

 

 

 

「──謎は全て解けた、デース!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おいコラァ!! 何で俺がこんな汚ェ部屋に呼び出されなきゃいけねえんだ!!」

 

 

 

 ──男子剣道部2年・武永士郎。

 部が休みなのに道場の裏で素振りをしていたストイックぶりは感心するが、そんな彼も今では容疑者の1人に過ぎなかった。

 部室の明かりは消され、何処からか持ってきた机に彼は座らされている。

 そして、サングラスを掛けたブラン、そして無理矢理掛けさせられた俺、そして火廣金が床に転がされている中、ブラン曰く「取り調べ」が始まった。

 

「おうおうおう白銀ェ!! 俺様にこんな事して許されると思ってるのか!?」

「あー、えーと、許されないと思うし許されるとも思うし……」

「どっちだボゲェ!!」

「まあまあジミー刑事(デカ)。此処はこのパツキン刑事(デカ)に任せるデス」

「なあ? ジミーってまさか地味から取ってるのか? 俺の事今軽くディスったよな?」

「とゆーわけで、武永クン……今からYouの取り調べを始めるデス」

 

 俺の突っ込みをガンスルーし、彼女は武永の前に立つ。

 

「あ、或瀬さん!? 何でこんなことするんだ! 白銀の奴に騙されてるんじゃないのか!?」

 

 武永は驚いた表情を浮かべる。

 学校では一応美少女で通ってるブランがこんな茶番を始めた事に愕きを隠せないらしい。

 だけど残念だったな、こいつはこういう奴だ。

 

「そうだ!! 剣道部に来ないか!? こんなカビくせぇ所さっさとやめて剣道部入ろうぜ!!」

「私は探偵デース。美少女剣道家はカリンで間に合ってマース」

「刑事と探偵どっちなんだよ!!」

「あと美少女ってテメェで言うかこの迷探偵!!」

「口答え無用デス。ごたごた言ってるとYouのギルティをサッヴァークデース」

「俺が何をしたって言うんだ!!」

 

 美少女に睨まれて泣きそうな武永が叫ぶ。

 ブランは容赦なく突き付けた。

 

「JapanのPoliceにはこういう言葉があるデス。犯罪者捜査の大原則。今回Youが呼ばれたのは、それに則っての事デスよ」

「な、何だ!? 現場百回か!?」

 

 それは今の状況とは違うと思うぞ武永よ。

 

「No,No,No……それよりももっと大事な事デス。武永クンは、この私が”ゲリランチャー刑事人情派”や”月光に吠えろ!”を見てJapanのPoliceを学んだつもりになっているニワカと勘違いしているんじゃないデスか?」

「勘違いしてねえよ!! そもそも何一つ合ってねえじゃねえかよ!」

「私が色んな警察関係の資料を見て、この3日間で学んできたJapanのPoliceの流儀……それは」

 

 チッチッチ、と人差し指を振って言い放つ。

 

 

 

「”疑わしきは罰する”、デース!!」

「それ逆ぅぅぅーっ!!」

 

 

 

 武永と俺は同時に叫んだ。

 おいコラ!! 確かに武永が色々な要素から疑わしいのは確かだが、その言葉は間違ってるぞブラン!!

 正しいのは疑わしきは罰せず、だ。

 そんでもってお前はこの土日入れた3日間何やってたんだ!!

 辻斬りの調査をしろよ辻斬りの調査を!!

 

「さあ、お前の罪を数えろ、デース!」

「刑事と探偵ごっちゃになってるんじゃねえか、いい加減にしろよ」

「ハードボイルドに決まったデス」

「ハーフボイルド未満だよォ!」

 

 途中から俺が突っ込んでいたけど、呆れて言葉も出ない。

 もういい、アホは放っておいてさっさと取り調べを始めるか。

 

「武永。馬鹿はさておき、お前に辻斬りの疑いが掛かっている」

「そんな割に合わねえ事俺がするもんかよ。バレたら大目玉じゃ済まねえぜ」

 

 まあ、普通ならそうだろうな。

 

「辻斬りはカリンの事を恨んでいるという証言がこの間の事件で明らかになったのデスよ。被害者の1人がそう言ってるのデス」

「当たり前だろ!、あいつは入部初日に俺を大勢の前でボコボコにしたんだ! あいつのことを忘れた日はねぇ」

 

 それはお前がいきなり勝負を挑んできたからだ、って当時居合わせた剣道部員全員が言ってるぞ。

 暴れ者だしお調子者だしで評判が悪いってことも合わせて明らかになった。

 何でコイツは自分に不利になりそうな証言を自ら暴露していくんだ? 

 

「だけどそれと辻斬りが刀堂を恨んでいたのと何の関係があるんだ!」

「お前、馬鹿って言われない?」

「大有りデース! Youはその後も度々カリンに勝負を挑んでおり、全敗してるデース! よって、強くなるためにあちこちの剣道家に勝負を挑んでいった! 違うデスか!?」

「知らねえよ! そんな事してねえ!」

「じゃあ何で自分から堀を埋めたんだよ」

「強情デスね……それじゃあもう1つ、言いましょうカ」

 

 ブランは笑みを浮かべる。

 

「辻斬りは、顔に火傷をしているのデスよ」

「顔に、火傷だってェ!?」

「Yes。昨日の事件で、辻斬りは偶然……えーと、あの、その、ライター的なアレを頭に被って炎で顔を火傷しているデース」

「何でそんな事になってんだ!?」

「色々あったんだよ……」

 

 面の下に更に覆面してるから、それは有り得ないが、かと言って火廣金の魔法を此処で証明する事も出来ない。

 当の本人は今も床に転がっているので、猶更どうしようもない。

 しかし。

 

「こほん、武永クン……その顔の傷……一体何があったデスか?」

「なっ!?」

 

 そうだ。

 これがブラン曰く決定的になったという証拠だった。

 彼の頬には──金曜日までは付いていなかったガーゼが当てられていた。

 

「──それは、自分が辻斬りである証拠の火傷痕を隠してるんじゃないデスか?」

「おい!! 馬鹿!! やめろ!! これは火傷じゃねえ!!」

「じゃあ何があったのか、今すぐ吐くデース──」

 

 強情な武永を自白させるべく、ドン、と机の上に何かが置かれた。

 そこにあったのは──

 

 

「──カツドンを食うのデース!!」

 

 

 ──スーパーのカツ丼であった。

 プラスチックの容器に入っているアレだ。

 しかし、ただのカツ丼をブランが持ってくるはずがない。

 

「んあ!? 何だコレ、すっげぇ冷えてるじゃねえか! まだ食ってねえのに冷気を感じるぞ!!」

「そりゃあ今朝買って、今の今までずっと冷蔵庫の中でキンキンに冷やしてましたからネー!」

「部室の冷蔵庫に知らん間に食べ物が……」

「さあ、食うのデース!!」

「嫌だよ冷えたカツ丼なんか食いたかねぇよ!! それに、このカツ丼……科学部の作った自白剤とか入ってねえよな!?」

「……さあ?」

「入ってねえよなあ!?」

 

 この間、俺はもう冷や汗たらたらで行く末を見守るしか無かった。

 こいつが流石にそこまでするとは思えないが……。

 武永は真っ青な顔になり、どう見てもカツ丼を手に付ける様子ではなくなっている。

 

「食べないのなら仕方ないデースね……私で食べるデース」

「ってお前が結局食うんかいいい!!」

 

 と言い終わらないうちに、ブランはカツ丼を掻き込んでいく。

 

「っふぅ……さあ、洗いざらい全部吐くのデース!!」

「吐くかボゲェ!! デュエマ部には頭のおかしい奴しかいねえのか!!」

 

 おい、それは地味に俺の事も言ってるのか?

 

「……燃え尽きた」

 

 転がったままの火廣金が変わらない表情で呟く。

 今まで敢えてスルーしていたのか、ようやく武永が突っ込んだ。

 

「そんでもって、さっきから何で火廣金は床に転がってるんだァ!?」

「貴方がやったんじゃないデスか!」

「知らねえよ!! 犯人認定してんじゃねえよ!」

「仕方ないデース……サッヴァーク、Youの第三の目で武永クンの悪事を見通しちゃってくだサーイ!」

 

 

 

『あー、それは無理じゃのう』

 

 

 

 サッヴァークの呆れた声が響き渡った。

 え? それはどういうことだ?

 ぽかん、とした顔の武永に俺。

 そして焦る顔のブラン。

 

「え? え? どゆことデスか?」

 

 小声で問いかけるブランにサッヴァークは言った。

 

『そやつにクリーチャーは取り付いておらん。よって無罪じゃ、ノットギルティ』

 

 ブランの顔が凍った。

 え? それじゃあ今までの茶番は何だったんだ?

 

「あ、あはははは……何で最初っから言わなかったデース!?」

『ヌシの茶番の合間に儂がこの小童を調べておったのだよ』

「うぐぐぐ!!」

「おいテメェら。何コソコソやってんだ? まさか今更俺が無罪だったとか言いだすんじゃあるめーな?」

 

 どっちにしたってもっと早く言ってやれよ……。

 つまるところ、武永は無罪ってわけだ。ブチ切れてるけど。

 にしても、頬のガーゼは何だったんだろう? 取り合えず平謝りする準備をするとしよう。

 武永の頭に凄く血管が集中してるし。噴火する直前の火山みたいだ。

 そう思っていた時だった。

 

 

 

「士郎くーん? 何で剣道場に居ないのお?」

 

 

 

 普段は滅多に開かないはずのデュエマ部の扉が開く。

 そこから現れたのは、2年生の女子剣道部員・八雲和泉(やくもいずみ)

 確か花梨と仲が良い部活仲間の1人だ。何で彼女がこんなところに居るんだ?

 そんな事を考えぬ間に、武永からとんでもない言葉が飛び出した。

 

「い、いずみん!!」

「いずみん!?」

 

 俺は驚いた。

 この剣道馬鹿からそんな愛称が飛び出してくるなんて。

 

「何でデュエマ部に居るのぉ? 剣道場の裏で待ち合わせって言ったじゃない。人に聞いて回るの大変だったんだからあ」

 

 彼女はぽわぽわした空気を漂わせたまま頬をぷくうと膨らませて言った。

 

「わ、わりぃ……」

「もう。こないだだって、1週間自分1人で突っ走って新技の訓練なんかして……その埋め合わせで今日は一緒に帰るって言ったじゃない」

「す、すまねえ……」

 

 おい、ちょっと待った。

 頭の中で理解が追い付かない。

 何勝手に2人の空間を作ってるんだ? 新手のD2フィールド? 俺達が入り込む余地が感じられねえぞ?

 

「ま、待った!! 2人は付き合ってるのか!?」

「ええ、そうよお。……剣道部の皆には内緒ねえ。或瀬さん、探偵だから口は固いわよねえ?」

「……は、ハイデス。探偵に二言無しデース」

「待て待て、初耳だぞ!?」

 

 そんな話は花梨からも聞いたことが無い。

 ただただ、八雲さんには彼氏が居るって話しか聞いたことがない。

 余りにも一緒に居る所を見た事が無いから、彼氏は別の学校の生徒かと思ったくらいだ。

 まさかこの学校の生徒、それも武永だったなんて。

 

「うふふ、士郎君のガーゼの話をしてたんでしょう? 聞こえてたわよぉ?」

「あ、ああ……辻斬りはこないだの事件で顔に火傷を負ったらしいからな。それに加えて、武永は花梨を恨んでたから……事件の重要参考人として呼んでたんだ」

「デ、デース……それに、最後に起こった事件、カリンも関わってたデスから……」

「あらぁ、それは知らなかったわぁ。無事な子が1人居たって話だからぁ、どうやって逃げたのかと思ったけど刀堂さんが助けてたのねぇ」

「騒ぎになっちゃいけねえから、公には伏せられてたのさ」

「チッ、ヒーロー気取りのつもりかっての」

 

 武永が毒づいた。

 

「と、とりあえず申し訳ないデス……」

 

 決まりが悪そうにブランが目を逸らす。

 うん、後で一緒に謝ろうな。

 

「ケッ、何がじゅーよーさんこーにん、だ! 思いっきり犯人扱いしてたじゃねえか!」

「まあ、士郎君悪人面だし腕白なところがあるからぁ、疑われても仕方ないわよねえ」

「うっ……それはねえよ、いずみん……」

 

 結構辛辣だな、八雲さん……。

 まあそれだけ仲が良いということなのだろうか。お互いの良い所も悪い所も知ってる辺り。

 そんでもって、乱暴な武永も八雲さんには頭が上がらないみたいだ。

 

「でも、このガーゼは火傷のそれじゃないのよお」

「え?」

「彼氏が疑われるのってぇ、流石の私も我慢出来ないからぁ……ごめんねぇ?」

 

 早業だった。

 自分よりも背が高い武永の顔から彼女は一瞬でガーゼを剥がす。

 そこにあったのは──赤い痣だ。

 それも、何かが吸い付いた痕のような……。

 

「……え? ああああ!! いずみんんん!! 何で取るんだよォ!!」

 

 すぐさま彼はそれを手で覆って隠す。

 しかし、中身は八雲さんによってバラされてしまった。

 

「もう、士郎君ったら恥ずかしがりなんだからあ。別に隠さなくても良かったのよぉ」

「や、八雲さん、それって……今の痣って」

「あらあ、決まってるじゃない」

 

 彼女は頬を紅潮させると言った。

 

 

 

「昨晩のお……仲直りのキスよお?」

 

 

 

 胃に砂糖が直撃した。

 胸焼け(ハートバーン)がこみ上げてくる。このままガイNEXTに龍解するかと思ったぞ。

 

「仲直りって……喧嘩してたのデスか?」

「実はねえ、最近ずっと士郎君、1人で新技を磨くとか言って練習ばっかりしてえ……打倒刀堂さんを掲げてるのは私も分かるけどお、私が居るのに1人で突っ走っちゃう所良くないと思うのお」

「ご、ごめんよ、いずみん。刀堂の奴にどうしても勝ちたくって……」

「この間の金曜日、刀堂さんが士郎君を綺麗に負かせてくれて、スカッとしちゃったくらいよお」

「その話はカリンから聞いたデスけど……」

 

 先週の金曜日、新技を磨いていたらしい武永はその成果を試すべく花梨に勝負を挑んでいる。

 そしてあっさり撃沈している。

 その際、八雲さんはわざわざラーメンを奢ると言って花梨を焚き付け、挙句彼が負けた際には「久々にスカッとした」と言ってのけたらしい。

 おまけに伸びた武永を放置してたらしいし。

 だが、そのことについては──

 

「私は私なりに怒ってたのよお?」

 

 ──との事だ。

 

「怒る事もあるんデスね……全然そういうイメージ無かったデスから、他の女子剣と同じように八雲サンも武永クンと仲が悪いのかと思っちゃったデス」

「うふふ、周りからの認識はそれで構わないわあ。どうせ付き合ってるの、他の皆にはヒミツにしてるしい?」

「隠すの大変だろう、そこまでの……その馬鹿ップルっぷりだと」

「あらぁ、私は良いんだけどぉ、士郎君が恥ずかしいって言うからぁ。一部の友達にしか言ってないわぁ。刀堂さんにも詳しい事は言ってないわねぇ。あの子はぁ、純情だものぉ」

 

 確かに、友人のこんな姿見たら、あいつは恥ずかしさで卒倒しそうだな。

 現に俺でも今、見ていて顔が焼けそうだ。

 

「にしても、意外な組み合わせデース……ぽわぽわふわふわの八雲サンとマッスルな武永クンの組み合わせデスし、まさにBeauty&Beast(美女と野獣)デース」

「意外って何だテメェ」

「私は筋肉フェチだからぁ。お料理いっぱい食べてくれる身体の大きな男子が、とっても好みなのお。後々ぉ、私が負けた時とか優しく気遣ってくれるしい……大好き、ううん、愛してるわあ」

「蜂蜜をそのまま飲まされたような気分デス」

「ベタ惚れじゃねえか」

「お前ら、すまん……いずみんが惚気だすといっつもこうなんだ」

 

 これ以上惚気られても困る。

 取り合えず事態を収拾させに行くか。

 

「取り合えず武永。すまんかった、疑って」

「謹んでお詫びを申し上げマス……すみませんデシタ」

 

 頭を下げて平謝りする俺達。

 しかし。

 

「いや、俺も別に良いぜ……何かもう……良いや」

 

 それで良いのか武永。

 もっと怒っても良いんだぜ。

 普通にやれば良いものを、横の馬鹿が茶番をした所為で更におかしなことになったわけだし、それを止められなかったのは部長の俺に責任がある。

 そう思っていたのだが……。

 

「でも、何でこの2人が付き合ってるのデスか? 八雲サンは、カリンの友達デスし……武永クンはカリンをライバル視してるデショ?」

「あらあ、或瀬さん? 何も、刀堂さんをライバル視してるのはあ、士郎君だけじゃないのよお?」

 

 微笑むと、普段は細い目をゆっくりと見開いた。

 

「あの子が超えるべき壁なのはあ……私だって、同じなんだからあ。剣道家なら同じよお」

 

 そう言った彼女の空気は、普段と違って一際凍り付いているように見えた。

 

 

 

「あの子ばっかりちやほやされたりい、鶺鴒学園の剣道部の本体があの子って言われるのはあ、私も気に食わないものお。ただの仲の良い友達ってわけじゃあ無いのよお?」

 

 

 

 普段はおっとりとしていて、競争事とは無縁そうな八雲さんが何故剣道部でやっていけているのか俺はこの時、少しだけ分かった気がした。

 彼女もまた、周囲に負けず劣らずの負けず嫌いであること。

 そして、自らも少しでも花梨に追いつこうと必死だということだ。

 

「それで、前から目標が同じだし好みのタイプの士郎君が気になってたんだけど、向こうから告白してきちゃって」

「オイィ!! バラすなァ!!」

「何というか……今日は災難だな、武永……」

「で、今に至るってわけデスね……」

「でもお、それとあの子と友達ってのは全く別なのよぉ。あの子は可愛くて良い子だものぉ。仲良くさせて貰ってるわぁ」

「俺はちげぇぞ! ぜってーに何時か刀堂の奴を超えてやるからな!! あのいけ好かねえ顔を泣かせてやるからよ!!」

「はいはい、素直じゃないんだからあ」

「……何つーか、本当に悪かった。疑って」

「いや良いぜ。まあ、辻斬りのヤローがいけ好かないのは俺だって同じだ。だけど素人が勝てる相手じゃねえ。面白半分で手を出すのは止めておくんだな」

 

 その言葉は嫌味ではなく、本当の意味での警告だった。

 

「もし俺が本当に辻斬りだったなら、どうするつもりだったんだ? テメェらで辻斬りに勝てるのか?」

「……」

 

 確かにそうだ。

 仮に守護獣が居たとしても、火廣金はこうして辻斬りに斬られてしまっている。

 俺達まで機能停止したら、それは大きな戦力の損失となる。

 武永は普通に、力量の事を言ってるんだろうけど。

 

「俺は超えてぇ奴が居るから剣道やってんだ。刀堂なんぞよりも更に先にな。剣道のルールも分からねえ人外染みた化け物に興味はねぇ。怪我するよか、そういう危ないのからは逃げた方がマシだ」

「武永……」

 

 良かったよ、お前がまともな奴で……。

 てっきり剣道やってるやつは辻斬りにもむしろ襲い掛かっていくバーサーカーばかりだと勘違いする所だったぜ。

 

「それに俺が中途半端に辻斬り逃して、いずみんが危ねぇ目に遇ったらどうするんだ」

「あらぁ、士郎君。素敵ぃ」

 

 おい、こんなところでイチャつくな。

 折角見直していたというのに。

 

「辻斬り……まるで何かを憎むような剣だって言ってたわねぇ」

「憎む剣、デスか。そうデス、どうやらカリンを狙っているみたいなのデス」

「刀堂さんを、か……」

 

 和泉さんは首を傾げた。

 そして、何か思い当たることがあるようだった。

 しかし。

 

「……誰かを憎む剣じゃ、誰も救えやしないわ。あの子じゃないとは思いたいけども……」

「あの子?」

「ううん、何でもないわ。それは私から言う事じゃないしねぇ」

 

 彼女は振り払うように首を振った。

 

「じゃあ、私達は一緒に帰るからこれで。頑張ってねぇ」

「おい頑張れって……テメェら、探偵ごっこも程々にな」

「ああ。すまんかったな、武永」

「デース……」

 

 取り合えず言える事がある。

 この取り調べは失敗だ。

 そして、俺達は再確認出来た。今回俺達が戦っている相手は、あの火廣金が負けた強敵だ。

 油断は出来ない、ということだ。

 俺は少なくとも、そんなことを考えていた。だけど──ブランはもっと深刻そうな顔をしていた。

 バカップル2人が部室を出た後、ブランが呟いた。

 

「……良いデスよね……好きな人と相思相愛って」

「ブラン? どうしたんだ」

「ううん、何でもないデス」

 

 何処か物悲しそうに、彼女は笑う。

 そして立ち上がった。

 

「今は、辻斬り探しが先デスよ!」

「……ああ! 他の手掛かりを見つけねえとな」

 

 そう言った時だった。

 

 

 

「──よう、デュエマ部。大分大変な事になってるじゃねえか」

 

 

 

 思わず来客だった。

 何時、部室に入って来たのか分からない。

 だが、彼女は確かにそこに居た。

 俺達はいきなりの来訪者を前に仰け反った。

 そして、その名を呼ぶ。

 

 

 

「トリス・メギス!?」

 

 

 

 彼女はふてぶてしく挨拶代わりに手を上げると、無気力そうに言った。

 

「大変な事になってるじゃねえか」

「ま、まあな……」

「火廣金が……こんな事になっちゃってるデスから」

 

 彼女は床に転がっている火廣金を見下ろす。

 経緯を知っていた彼女は髪をかき回した。

 

「まあ起こったもんは仕方ねえ。何とかするしかねえよ」

「それより何の用だ?」

「実は、あたし達の方でも鎧の消失事件を調べてたんだ」

「鎧? 今更?」

「ああ」

 

 彼女は言った。

 

「盗まれたという鎧はこういう物なんだ。お前ら実物見た事あるか?」

「まあ、さっとは……」

 

 改めて示された写真に写っていたのは、錆びた当世具足だった。

 原型を留めない程劣化しており、装飾品も分からない。 

 

「だけどな。何か引っかかる所があって、あたし達の方で写真をもとにこれの元の形を復元してみたんだ」

「復元、か」

「ああ。あくまでもイメージだけどな。うちの考古学部のスタッフにやらせたんだ。その結果がこれだ」

 

 彼女は復元図もといイメージ図を俺達に提示した。

 そこにあったのは、真紅の鎧。

 もとい──

 

 

 

「これって……クロスギアじゃねえか!?」

 

 

 

 ──兜に大きな刀身が付いたものだ。

 俺にも大いに見覚えのあるものだった。

 

「流石だ。お前にも分かったのか」

「ああ……カードのイラストで似たようなものを見たことがあるからな。だけど大分形が違うじゃないか」

「何、クロスギアが装着する相手を想定して姿かたちを多少変えるのは良くあることさ」

「え!? ということは、鎧はクロスギアだったってことデスか!?」

「その通りだ。クリーチャーが異世界からやってきたのと一緒に、クロスギアが流れ着いてくる事もある。だけど、多くはマナ不足でそのまま現代に唯の考古物として朽ちている事も多い。だけど、それらはあくまでも魔力不足ってだけで、魔力。そして──」

 

 彼女は言い放つ。

 

 

 

「──十二分な感情のエネルギーがあれば、すぐさま動き出す。モノにもよるが、こいつはそういうタイプだ」

 

 

 

 クロスギアを動かすだけの強いエネルギー。

 思い当たるものは一つしかない。

 エリアフォースカードだ。

 

「そして、エリアフォースカードが次に選ぶのは人間だ。鎧だけじゃ、どうしても不完全になる」

「おい、或瀬ブラン。怪しいのは鎧があった道場の関係者だ」

 

 彼女はパソコンを取り出すと、データを展開した。

 そして、俺の方を向いてリストを見せた。

 

 

 

「女子剣副将の巴サン……もとい木曾 巴サンも此処に所属していたみたいデス」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──中央病院にて。

 肋骨を折って怪我をしたという生徒が入院しているのは、この間までお兄も入院していたこの病院で間違いない。

 にしても相方が紫月ちゃんだからな……この子、良い子だしデュエマに付き合ってくれたこともあるんけど、夏祭りで言われた一言が忘れられない。

 まあ、そんなことを今気にしても仕方がないか。 

 それよりも気掛かりなのは辻斬りの事だ。一体何の目的があって、剣道家達に勝負を挑んでいるのか。

 そして、負けた相手から闘気を奪っているのか。

 あたしに抑え込めるの? あんな恐ろしく強い奴……!

 

「──刀堂先輩」

「ひゃいっ!」

 

 いきなり呼ばれてびっくりしたあたしは、横の方をちらりと見やる。

 いつものジト目で紫月ちゃんが睨んでいた。

 でも怒っているんじゃなくて、上の空のあたしに呆れているみたいだ。

 

「着きましたよ、病院」

「あ、うん……ありがと」

『ったく、剣の姉ちゃんよォ。ボーッとしてたらワイルドカードが出たら襲われちまうぜ?』

「ご、ごめんごめん、シャークウガ」

 

 いけない。あたしがしっかりしないといけないのに……。

 自分を責めるあまり、落ち込んでいく自分を律し、あたしは背筋を伸ばした。

 

「刀堂先輩。気持ちは分かります。しかし、今は一刻も早く事件を解決しなければなりません。被害に遇ったのは火廣金先輩だけではないのですから」

「う、うん。分かってる」

 

 そう返したものの、あたしは自分が如何にちっぽけか思い知らされた気がした。

 そうだ。デュエマ部の皆は、辻斬りに遇った人達の闘気を元に戻す為に一生懸命事件を捜査してるんだ。

 あたしは……自分の剣の道の事ばかりで何も見えてなかった。

 連絡された病室の前に辿り着くと、そこにはこの間の事件で助けた少女・太刀川美穂の姿があった。

 

「……あっ、刀堂先輩。ありがとうございます。それと……しづちゃんまで、何で此処に?」

 

 しづちゃん、と呼んだ辺り同じ1年同士知り合いなのかな。

 紫月ちゃんは友達の事とか話さないけど、ちゃんと居て良かったよ。

 

「いえ、私は……所用で。刀堂先輩に頼まれて、事件の事を調べているのです」

「そ、そっか。刀堂先輩に頼まれたんだ……って、ええ!?」

 

 まあ、そりゃ驚くよね。

 唯の一般人に過ぎず無関係の紫月ちゃんが事件を捜査してるって言ったら。

 

「まあ、デュエマ部の皆にも色々調べて貰ってるのよ。ほら、2年の或瀬ブランっているじゃない? 探偵っぽい子」

「あ……知ってます! あの綺麗なハーフの先輩ですよね! 成程、デュエマ部の実態が探偵部と化しているという噂は本当だったんですか」

 

 間違っては無いかもしれないけど、それ聞いたら耀が泣くぞぉ……。 

 そんなことを考えていると、思いもよらない声が横から飛んできた。

 

「随分と遅かったのね、花梨」

「!」

 

 あたしは驚いた。

 まさか、此処に彼女まで居るなんて。

 

「巴……!」

「ふん、何驚いてんのよ。あたしが居たら何かおかしい?」

「い、いや、何も……」

 

 何時もと違って、髪を降ろしているから気付かなかった。

 こうしてみると、黒髪ロングの唯の美少女なんだよなあ……あたし、髪がくるくる巻いてるから羨ましいよ。

 

「刀堂先輩。横に居るのは確か副将の……」

「うん、木曾 巴(きそ ともえ)。うちの頼れる副将だよ」

「なっ……調子の良い事ばっか言ってんじゃないわよ」

 

 少し恥ずかしそうに彼女は言った。

 

「太刀川が襲われたって聞いてね。そんでもって病院に行くとか言うじゃない。この子1人じゃ、万が一辻斬りに遇ったら危ないでしょ?」

「ああ、太刀川さんの安全の為だったんだ……ありがと、巴ちゃん」

「別に? 元はと言えば、この子らが辻斬りなんぞに手を出すから面倒な事しなきゃいけないのよ」

「あ、あうう、ごめんなさい……」

「まあまあ、無事だったから良かったじゃない。この子もたっぷり絞られただろうし」

「花梨は後輩に甘すぎ!」

 

 キッ、と巴があたしを睨んだ。

 まあ、言ってる事は最もなんだけど怖い目に遇ったのも確かだしさ……。

 とはいえ此処までは割といつものやり取り。

 問題は──金曜日から変わった点だった。

 巴ちゃんの顔、それも頬には褐色の傷バンドが宛がわれていた。

 あたしはこっそり紫月ちゃんを見やった。彼女も頷く。

 まさか、巴ちゃんが辻斬りってことは無いよね。それに今のままじゃ断言はできない。

 魔法の炎による火傷は、経過で治らないという事以外で判別出来ないらしいし……。

 

「ねえ巴。その頬のバンド、どうしたの?」

「え? ああ……怪我よ怪我。だけど変なのよ」

「変?」

「こんな事言ったらさ、笑われるってのは分かってるんだけど……朝起きたら出来てたのよ」

 

 あたしと紫月ちゃんは顔を見合わせた。

 巴は、傷バンドの下にあるであろう傷を火傷とは言わなかった。

 

「えと、木曾先輩。大丈夫なんですか? それって」

「軽いから大丈夫よ。だけど、どうしてなったのか分からなくてね。昨日はちょっと昼寝しちゃって記憶が曖昧だし」

「……そ、それなら良いんだけど」

「最近変な事が続くのよ。日曜に通ってた道場の鎧が無くなったり、疲れて帰ったらすぐ寝ちゃう事が多かったりねえ……」

 

 道場の鎧……ああ、そういえば辻斬り事件が起こる前にデュエマ部がどっかの道場で鎧が盗まれた事件を捜査してたんだっけ。

 あれ、巴ちゃんの道場だったんだ。

 小声で紫月ちゃんがシャークウガに話しかけた。

 

「シャークウガ、木曾先輩を追って下さい」

『駄目だ。クリーチャーの反応は感じられねえ。ワイルドカードが取りついているようには見えない。それよか、今は辻斬りの被害者について、だろ?』

「っ……そう、ですか」

 

 となると、巴ちゃんの怪我も単なる偶然……?

 ……だとしたら、一瞬でも友達を疑った自分をぶん殴りたい。

 あたし、辻斬りの事にいっぱいいっぱいで何も見えてないじゃない。

 

「じゃあ刀堂先輩。病室に来てください。しづちゃんは、どうする?」

「いや、私は別に良いです。2人だけでごゆるりと」

「うん、分かった」

「相談、ねえ……私にはどうせ言えない事でもあるんでしょ」

「巴ちゃん! 駄目だよ、そんな言い方しちゃ……」

 

 彼女は淡々と言い放つ。

 

「別に。あんたが羨ましいだけよ……」

「……巴ちゃん?」

「帰るわ。あんた、主将なら責任もって送って帰りなさいよ」

 

 そう言って、巴ちゃんはすたすたと帰っていった。

 最後に振り向く前の彼女の顔が、どこか寂しそうだったのは私の気の所為だろうか。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 紫月ちゃんは近くの待合室に居るらしい。

 あたしと太刀川さん。

 そして──何事も無かったかのように、シャークウガがスタンドのように着いて来た。

 見えているあたしからしたら、あまりにも白昼堂々と2頭身の鮫魚人が入ってきたので吃驚した。

 

「……」

『大丈夫だぜ。見えてねえよ』

「刀堂先輩? どうしたんですか?」

「いや、大丈夫……」

 

 そんなわけで、私は病室の一番奥にあるベッドにまで連れて来られた。

 そこには──火廣金以上に死んだ目をした少年が何やら呟いていた。

 

「ラムレーズン蒸しパンになりたい……」

「ううう、何でこんなことに……辻斬りに斬られたばっかりに……」

「ねえ、何でラムレーズンパン?」

「ラムレーズン蒸しパンですっ!! 二度と間違えないで下さい!!」

「そこに何で拘るのかなぁっ!?」

 

 分からない、それだけは分からないよ太刀川さん。

 

「彼は、同じ道場の仲間の1人で……後もう1人は今、別の病室に居るんですけども」

「そもそも何で辻斬りなんかに挑もうとしたわけ?」

「……私の兄も、剣道家なんです。今はもう大学生なんですけど」

「!」

 

 何処かで聞いたような話になってきた。

 兄、か。

 

「辻斬りの、最初の被害者だったんです」

「……そう、だったんだ」

「あれ以来兄さんはずっと廃人になってしまってて……私、兄さんの仇を討ちたくって、道場にも通って練習してたんです。その帰りに……」

「辻斬りに出会った、ってことか……」

「とにかく辻斬りをとっ捕まえられればそれで良かったんです。でも、あっという間に2人はやられてしまって、私も全く歯が立たなくって……あんなの、人間業じゃないですよ」

 

 そうか。お兄さんが辻斬りの被害に遇って、その一心で頑張って来たのか。

 にも拘らず、絶望的なまでの戦力差を見せつけられた彼女の心境は想像に難くない。

 ……あたしだって気持ちは分かる。お兄が倒れた時の事を思い出すだけで今も胸が痛む。

 

「……分かるよ、その気持ち。自分の周りの人が傷つけられたら、とても嫌だよね」

「刀堂、先輩……」

「それで無茶して痛い目を見る気持ちもさ、分かるんだ」

「先輩でも上手くいかない事があるんですか?」

「うん。剣の道だけじゃ……どうにもうまく立ち行かなくって」

 

 デュエマだって、クリーチャーとの戦いだって。

 強いだけじゃ上手くいかないんだ。

 あたしは──

 

「私……どうすれば良いんですか。兄さんも、仲間もやられて……私だけ残って……」

「太刀川さん」

 

 ──彼女の肩に手を置いた。

 

「待ってて。絶対に……辻斬りは倒す。あたしだったとしても、あたしじゃない誰かだったとしても、ね!」

「……駄目です!!」

 

 彼女は叫んだ。

 病室の中なのに、それはとても悲痛なものだった。

 

「先輩まで、廃人になって欲しくはありません……!」

「太刀川さん……」

 

 それでも、あたしがやらなきゃいけない理由がある。

 

「太刀川さん。部員に何かあったとき、身体張って守るのが部長の役目なんだよ」

「え?」

 

 耀なら、少なくともそう言うと思う。

 ブランちゃんがロードに捕まった時、必死になって戦っていた彼の姿が脳裏に過る。

 紫月ちゃんがブランちゃんの偽物にやられた時、デュエマ部を繋ぎとめようとして偽物探しに奔走していた事もこの間のようだ。

 今回だってそうだ。耀は、無気力になった火廣金を元に戻す為に辻斬りを探している。

 

「あたしは……頼りない主将だと思うけどさ。あたしにやらせてよ」

「……刀堂、先輩……」

 

 その時だった。

 戦車(チャリオッツ)のカードが熱を帯びる。

 病室を見回すと、シャークウガの姿が無い。何処に行ったんだろう。

 いや、シャークウガが行く場所で思い当たるのは1つしかない。

 こ、これってまさか──

 

 

 

「ごめん、太刀川さん!! 病室でちょっと待ってて!!」

「えっ!? あっ、はいっ!」

 

 

 

 ──嫌な予感がする。

 そういえば、前に辻斬りが出てきた時も戦車(チャリオッツ)が反応したんだ。

 病室を出る。待合室に紫月ちゃんの姿は無い。すると、戦車(チャリオッツ)が飛んでいく。

 あたしは必死でそれを追いかけた。エレベーターではなく、階段を駆け下り、そして遂にエントランスを出る。

 そこには──

 

「紫月ちゃんっ!!」

 

 あの防具を身に着けた辻斬りが病院の玄関に現れていた。

 見ると、柱や壁に大きな傷が出来ており、掲げられた大太刀が切り裂いた痕であることは想像に難くなかった。

 そして、その辻斬りを相手にグロッキー気味だったのは紫月ちゃんだった。

 

「刀堂先輩!! これが、辻斬りなんですかっ!?」

「っ……何、これ!」

 

 既に周囲は大騒ぎ。突如現れた怪人物を前に狼狽えている。

 紫月ちゃんの近くに寄ったシャークウガでさえ、この思わぬ強敵を前に対処しかねているようだった。

 それほどに辻斬りは恐ろしい力を誇っていた。一振りした刀が一瞬で周囲の物を破壊していく。

 

「ヤットキタカァ……刀堂花梨……」

「辻斬り……!!」

 

 最早、それは人間業のそれではない。

 コンクリートの壁や柱に傷をつけるなんて、尋常な事ではない。

 とにかく何があったのか聞かないと!!

 

「これって……! どうなってるの!? 辻斬りは剣道家の前にしか姿を現さないはずじゃ……!」

「あの後、木曾先輩の後を追おうとしたのですが……見失ってしまって」

「巴ちゃんを!?」

「はい……すみません。どうしても気になったんです。すると、すぐにあの辻斬りが出てきて──此処まで退避してからシャークウガを呼び寄せて応戦していたんです」

 

 じゃあ、まさか……やっぱり、辻斬りは巴ちゃんだったの!?

 

「しかし……あの辻斬りが余りにも強過ぎて、エリアフォースカードで戦うまでの距離に近寄れません」

「そんなっ……!」

「このままでは院内に危害が及びます。何度か氷漬けにしているのですが……それでもすぐに動き出してしまうのです」

「ど、どうしよう……!」

 

 あんなの、もう特殊警棒じゃ太刀打ちできない。

 だけど、後輩に大見得切った手前、此処で引き下がれないよ。

 

「刀堂……花梨ンンンッ!! コノ間ハ世話ニナッタナァ!!」

 

 地面を蹴って飛び出す辻斬り。

 だけど、振るわれた大太刀が衝撃波を引き起こし、あたしと紫月ちゃんの身体は重力を失った。

 

「きゃあっ!!」

「っ!!」

 

 あっという間に吹き飛ばされるあたし達。

 しかし、それを大きな両腕が受け止める。

 

『っと、大丈夫か、マスター! 剣の嬢ちゃん!』

「ありがとうございます……シャークウガ」

「危なかったよ……」

『あいつはもう、正攻法では戦えそうにねえな……こいつぁ記録更新だぜ、今まで戦ったどんな敵よりも単純に”強い”……! 強過ぎて手が付けられねえタイプは初めてだ! 何処まで自分の身体を強化したら気が済むんだ!?』

「きょ、強化!?」

『ああ、そうだ! さっき病室で寝てた患者を調べたんだが、コイツは斬った相手から闘気だけ奪うんじゃねえ。そいつの戦うためのエネルギーを全て吸い取っちまうんだ!』

「ええ!? 全部吸い取るってことは……」

『ああ。全部、あの辻斬りの身体に蓄積されてるってこった!!』

 

 そんなのどうやって勝てば良いの!?

 それだけの力をどうやって溜め込んだのか気になるけど、このままじゃあたし達は辻斬りに近づく事すら出来ない。

 しかもアレは真剣だ。もし辻斬りがあたし達の身体を両断しようと思えば、いとも容易くそれは行われるはず。

 それは、大きな刀傷が物語っている。

 

「先輩。こうなったら、私たちが囮になりましょう」

「囮!?」

「ええ。相手は守護獣が居るこちらを最大戦力と認識しているはずです。人間の刀堂先輩とクリーチャーのシャークウガでは脅威度は明らかに後者。こちらが接近すれば、相手は全力で応対するのは目に見えて明らか」

「っ……それ、大丈夫なの!?」

「分かりません。こちらも囮である以上、エリアフォースカードによる決着を狙いに行くように”見せかけ”なければなりませんから。ですが、そこで刀堂先輩の敏捷性が生きる時です。奴をエリアフォースカードで空間に引きずり込んで下さい」

 

 言うと、シャークウガはすぐさま地面に降り、紫月ちゃんも魔術師(マジシャン)片手に飛び出した。

 彼は辻斬りへ突貫する。

 相手もシャークウガを狙って大太刀を振り上げた。しかし、

 

『同じ手は食らわねえよ!!』

 

 次の瞬間、空を覆いつくす程に巨大な海賊船が現れる。

 召喚、という言葉が正しい。

 何もない虚空からそれは突如として現れたのだから。

 

『覇王海賊船・キングシャークの砲撃、食らいやがれェ!!』

「ッ……!!」

 

 鮫の口が描かれ、帆を広げた海賊船の船頭から光線が放たれる。

 

 

 

『シュゥゥゥート!!』

 

 

 

 シャークウガの号令と共に、それは真っ直線に辻斬りを襲った。 

 爆音、轟音が鳴り響き、爆風が巻き起こる。

 シャークウガ君……ちょっとやり過ぎじゃない? 撃った場所にクレーターが出来てるかと思ったけど、出来てなかった。

 本当に魔法ってよく分からないや……。

 

「やりすぎっていうか何というか……辻斬り、無事なの!?」

 

 煙が晴れる。

 そこには、太刀を地面に突いた辻斬りの姿があった。

 ふらふらとしてるけど、未だに動けるみたいだ。クリーチャーの攻撃にまで耐えられるなんて!!

 だけど今なら──エリアフォースカードで空間に引きずり込める!

 

「覚悟ッ!! デュエルエリアフォース!!」

「チイッ……!!」

 

 刹那。

 辻斬りの防具が光った。まさか、また逃げるっていうの!?

 あたしはそれでも怯まずにエリアフォースカードを突き付ける。

 いい加減、往生しなさい!!

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 次の瞬間。

 辻斬りの防具が消えた。

 そして咄嗟にあたしは、エリアフォースカードを降ろし、立ち止まった。

 そこに居たのは──

 

「巴、ちゃんっ……!」

「……!」

 

 ──巴ちゃんだった。 

 あたしはこの時、やっと確信した。

 やっぱり、辻斬りは巴ちゃんだったんだ。

 

「……花梨、あんた、どうしてここに……!」

「!」

「あたし、どうしてたの……!? これって、何!? どうなってんの!?」

 

 パニックになりながら巴ちゃんは頭を抑えた。

 

「巴ちゃん……!?」

「これ、あたしが……やったの!?」

「何も、覚えてないの!?」

「覚えてないの、って、あたしが……!?」

 

 彼女は頷いた。

 そういえば──彼女が辻斬りだとするならば、不自然な点はあったのだ。

 自分が辻斬りだという自覚があるのならば、そもそも分かりやすい火傷を隠さないわけがない。

 それなのに、彼女は真っ先にあたし達に特に怪我を隠しはしなかった。

 そしてもう1つ。彼女は傷が火傷だとは知らなかったし、何時負ったものなのか分かっていなかった──

 

「辻斬りは巴ちゃんだった……でも、辻斬りの意識は──!」

 

 手探りだった。

 手繰り寄せられないかと思った程だ。

 だけど、真実にあたしは辿り着こうとしていた。

 

 

 

「当タラズトモ、遠カラズ、ダナァ……刀堂花梨」

 

 

 

 次の瞬間、あたし達の背後にはあの辻斬りの姿があった。

 

「花梨、危ない!!」

 

 次の瞬間、あたしは巴ちゃんに抱きかかえられた。

 そのまま飛び出すと共に、辻斬りの剣から衝撃波が放たれる。

 アスファルトの地面には、くっきりと刀傷が付いていた。

 

「刀堂先輩!!」

「だ、大丈夫。だけど……!」

 

 紫月ちゃんも驚きを隠せないようだ。

 私の視線も辻斬りに注がれた。

 防具の姿は徐々に鎧のそれへと変貌していく。

 兜には大きな刀身が付いており、全身が紅い。

 これが辻斬りの本当の姿と言わんばかりだった。

 

「ソノ少女ノ、オ前ヘノ強イ憎悪ガ……俺ヲ此処マデ育テタノダ」

「憎悪……!?」

「ソウダトモ。強イ強イ憎シミダ」

「私が、花梨に憎悪を……!?」

「──自覚ガ無カッタカ。マア、元々時ガ経ツニ連レテ、自分デ押シ込メテ隠シテイタ感情ダカラナア」

 

 次の瞬間、鎧から赤い炎が現れ、巴ちゃんに移っていく。

 

「そう、だ。そうだった……!」

 

 彼女は立ち上がって、鎧の方を見据えた。

 

「花梨。あんたさえ居なければ……!」

「巴、ちゃん……?」

「あの日。あの大会の準決勝。勝てばチームは決勝に進めるという試合で──あたしは、負けた」

「!」

 

 それは中学の時の大会。

 言わば、因縁の一戦だった。

 

「試合の結果は惨敗だった。あんたは、あのチームの誰よりも強かった。当時から化け物のそれだったわ」

「……化け物……!」

「鬼、悪魔、羅刹……! 人外染みたあんたなんかに最初から勝てる訳がない。あの一戦の前からあたしは分かっていた。なのに、チームのメンバーも、学校の皆も、家族も、そしてあの人も……あたしに勝手に期待して」

 

 彼女の拳は握り締められた。

 血が流れ、滴る。

 

 

 

「そして、皆、私に失望していった!!」

 

 

 

 刹那、辻斬りの鎧が巴ちゃんに次々と身に着けられていく。

 

「学校の皆も、家族も、私を散々にこき下ろしたわ。でも、あの人だけは……私を裏切らないって信じてたのに。大好きなあの人だけは……!!」

 

 その手に大太刀が浮かび上がる。

 

「……無様に負けた私を容赦なく捨てたのよ……!!」

「っ……!!」

「絶対に許さないんだから……私から全てを奪ったあんたを……!! 忘れていたわ。時間は、あの時の憎悪さえも忘れさせてくれるのねぇ!!」

「そんな……巴ちゃん……あたしは……!」

「あんたなんか、大っ嫌いよ!!」

 

 大太刀を構えた彼女は、言い放つ。

 その言葉があたしに突き刺さった。

 

「巴……ちゃん」

「そう。これがあたしの本心よ……ククク。ソウ。ソウダ、コノ憎悪コソガ我ガエネルギー……!! 彼女ノ秘メタ憎悪ガ我ガチカラトナッタノダァ!!」

 

 間もなく、主導権は辻斬りの本体である鎧に握られたようだった。

 巴ちゃんも、利用されたに過ぎなかったということか。

 翼を広げ、大太刀を広げた鎧の怪人は空に飛び立った。

 

「お前──!!」

「刀堂花梨。決着ヲ付ケヨウカ」

「何ならここで──!」

「此処デハ、イツオ前ノ仲間ニ邪魔サレルカ分カランカラナァ」

 

 彼は指を2本、立てた。

 

 

 

「二時間後ダ。二時間後ニ、鶺鴒学園ノ道場デ会オウ」

「!」

 

 

 

 鶺鴒学園の道場……だって!?

 こいつ、今まで散々卑怯な事をしておいて、今更何を言ってるの!?

 

「……我ハ再ビ現レルダロウ。憎悪ヲ向ケラレテ尚、コノ少女ヲ取リ返シタイナラ、ナア」

「ッ……! ふざけるな!!」

「約束ヲ守ルンダナ。今ノ我カラスレバ、彼女ノ魂ヲ消スナド容易イ」

 

 そう言い残し、鎧はその場から消え去った。

 間もなく、パトカーのサイレンが鳴り響く。

 どうしよう。大変な事になってしまった。

 色々な物が胸にこみ上げてくる。

 

「あたしは……!」

 

 仲が良くなったと勘違いしていたのはあたしだけだった。

 巴ちゃんは、やっぱり私の事が嫌いだった。

 あたしは、巴ちゃんの事を分かろうともしなかったし分かってあげられなかった。

 入学してからずっと近くに居たはずなのに。  

 最初は仲が悪かったけど、だんだん仲良くなっていけたと思ってた。

 だけど、本当は──あたしは、何も分かってなかったんだ。

 巴ちゃんの事を──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 その後、病院前が大騒ぎになっているというニュースが入ったと共に紫月と花梨は帰って来た。

 どうやら辻斬りに出くわして戦闘し、そして目ぼしい戦果は得られなかったのだろうということまでは予想していたが……。

 

「木曾 巴が辻斬り……いや、正確に言えば鎧に憑依されていたのか」

「うん……そして連れ去られちゃったんだ」

 

 となると事態は一刻を争う。

 しかも辻斬りは、今誰も居ないこの学校の剣道場で決着を付けに来た。

 

「つまり、決闘ってことか」

「そう、なるね……」

 

 花梨は浮かない様子だった。

 

「……えと、整理すると木曾サンが辻斬りとして活動していた時は、鎧が意識を乗っ取っていたってことデスよね?」

「ああ。そして、通っていた道場にあったクロスギアが木曾さんの思念に呼応して憑依したってところか」

『本人の感情と魔力を糧に、身体だけ使って辻斬りをやっていたってことでありますなあ』

「クロスギア、ですか」

 

 紫月が意外そうな顔をした。

 そういえば、まだ話して無かったな。

 

「トリス・メギスがやってきてな。前に盗まれた鎧の正体を突き止めてくれて、警戒しろって言ってたからよ」

「鎧事件と今回の辻斬り事件が繋がったのは良いデスけど……」

 

 ブランは心配そうに花梨の手を握った。

 確かに、仲の良い部活仲間の1人が犯人だったとなれば、ショックは隠せなくても無理はない。

 だけど、彼女の心労は別の所にあるようだった。

 

「……ねえ、耀」

「どうした、花梨」

 

 彼女の顔は、とても辛そうだった。

 

 

 

「……あたしさ、剣道続けてて……良いのかな」

 

 

 

 紫月がココアを飲みながらむせそうになった。

 ブランがソファからずり落ちた。

 この様子では、並々ならない理由があるのだろう。

 あの花梨が剣道をやめると言いだしたのだから。

 

「な、何でデスか!?」

「……刀堂先輩。まさか」

「……うん」

 

 紫月は何か知っているような素振りだ。

 そりゃそうだ、その場に居合わせていたんだからな。

 

「……巴は、あたしの事を嫌ってた。憎んでた。あの子がああなっちゃったのは、あたしが2年前の大会であの子に勝った所為なんじゃないか、って」

「……お前」

「分かってるよ! こんなの、剣道家にあるまじき考えだってさ。でも……」

「そういえば気になる噂があったのでまとめてたデスけど……」

 

 パソコンをカタカタ鳴らしながらブランが言った。

 

「木曾サンは進学にあたって、昔住んでいた場所を引っ越したらしいデス」

「引っ越した? 何でだ?」

「……中学3年の頃、巴は出身の中学でエースだったってのは聞いた。それで周囲から掛けられた期待、プレッシャーは想像以上のものだったはず」

「……!」

「大将ってさ、主将ってさ、とても胸が潰れそうになるような圧力の中で戦う事になるんだよ。自分に厳しい人なら猶更。あたしだって大将戦で負けた事が無いわけじゃないからさ。その時は……今思えばあたしは部員に恵まれてたのかな」

 

 彼女は目を伏せた。

 

「当のあたしは、そんな事当時は考えもしなかったけど、今なら分かるんだ。仲間がどれだけ大事か」

「あの日、負けた巴にチームメイトが掛けたのは……辛辣な言葉だった、ということデスね?」

「うん、そうみたい。あの子曰く、仲間だけじゃなくて家族にも」

 

 ブランはすぐさまデータベースを起動させる。

 そして、木曾さんに関する情報が次々に入って来た。

 それは予めブランが彼女について調べていた事らしく、本来ならば門外不出の内容らしい。

 

「まとめた情報によれば……最初は部活仲間だけだった虐めは、クラスメイトへと波紋が広がっていったようデス。親からも、ってことは……引っ越したのは親から離れる為かもデスね」

「そういえば巴、今は親戚と一緒に住んでるとか前に言ってた……」

「……全て合点が行きましたね」

 

 その後。

 調べれば調べる程、彼女が虐められていたのではないかという噂はブランのデータベースから明らかになった。

 それは人伝の噂程度のものではあったが、全てを集合し、尚且つさっきの木曾さんの話を合わせると途端に現実味を帯びて来るのだった。

 最初は部としての悔しさを、負けた原因である木曾さんに押し付けたのが始まりだった。

 親はかけていた期待を裏切られて失望していた。

 外からも内からも追い詰められていった木曾さんは、だんだん居場所を失っていった──そう考えれば、1年の頃、部に入ったばかりの頃、彼女が花梨に食ってかかる程嫌っていたのも分かる気がした。

 

「……成程な。だけどよ、それが自分の所為だから剣道を辞めるって言うんじゃねえだろうな」

 

 彼女は首を縦に振った。

 ……お前。でも、それはお前の所為じゃないだろうが。

 幾ら失望しても、それは人を追い詰めて良い理由にはならない。 

 そして、それはお前がやったことじゃない。

 

「お前はどうなんだ?」

「っ……」

「本心からやめたいって考えてるわけじゃねえだろ? 事件だって、クロスギアが起こしたものだ。今更、お前だけが抱える事じゃねえだろ!?」

「ッ……」

 

 今が辛いなら、俺達が幾らでも手を貸してやる。

 放っておいて欲しいなら、またお前の方からやってくるまで放っておいてやる。

 だけど、それでも──

 

「辛くても、お前が本当にやりたいことから目を背けるな。他人に気を遣って、自分に嘘をつくな」

「自分に嘘を……?」

「引き金はお前が木曾さんに勝った事かもしれない。だけど、それで木曾さんが虐められたのはお前の責任じゃねえだろ」

「だけどっ……この事件はあたしが起こしたようなものかもしれないんだよ!? あたし、もう嫌だ! 剣道で……誰かが傷つくのを見るのは。だって! 幾ら剣道が強くなったって、誰も守れないじゃない!」

 

 ぎゅう、と彼女はスカートを握り締める。

 

「ワイルドカードに取り付かれて、後輩を巻き込んで、同級生の傷にも気付けなかった。火廣金までこんなになっちゃって……」

 

 彼女は床に転がっている火廣金を指さした。

 彼は相も変わらず「燃え尽きた……」とだけ言っている。

 

「幾ら強くたって、強いだけじゃ何も意味が無い!! 誰かを守るのがあたしの剣道なら……あたしは、何を守れたっていうの!?」

「まだ、間に合うデスよ!! 木曾サンを助ける事が出来マス!」

「間に合ってないよ!! 巴ちゃんは……あたしの事を憎んでるって言ったから。もし巴ちゃんが戻ってきても……あたし、あの子にどう接すれば良いか分かんない……! 主将は部員を守るのが使命? あたしは……何を守れるっていうの?」

「……カリン」

「鬼って言われて、悪魔と蔑まれて、羅刹と呼ばれて嫌われて……あたしが剣を振るって結果的に誰かを傷つけるなら、剣道を続ける意味が見出せない!」

 

 彼女は首をもたげた。

 

「あたし、どうすれば良かったのかなぁ……勢いで言っちゃったけど……剣道を続ける事が、これからのあたしの人生に、ううん、誰かの人生にプラスになるって思えないよ……!」

「プラスに、なっていたと思いますよ」

 

 紫月がふと言いだした。

 

「木曾先輩は言っていました。刀堂先輩への憎悪を”今まで忘れていた”って。何か、引っ掛かりませんか?」

「!」

「……そうデス! それってもう、白状したも同然じゃないデスか!」

「え、ええ!? どういうこと?」

 

 忘れていた、か。

 成程な。それならまだ希望はあるかもしれない。

 

「花梨。それだけ辛い思い出を、そして強い憎悪を何が忘れさせてくれたと思う?」

「……え?」

「カリンとの友情デス! カリンを確かに恨んでいたかもしれない。憎んでいたかもしれない。デモ、カリンは木曾サンを馬鹿にしたりしなかった。むしろ、積極的に仲良くしに行こうとしてたじゃないんデスか!?」

「……!」

「あいつはお前の人柄に触れて……お前への憎悪も、過去の辛い思い出も和らいでいったんじゃないか?」

「私も似たような経験があるから分かるデス。自分から歩み寄ってくれる相手がどれ程自分の傷を癒してくれるか。そして、友情が辛い思い出を忘れさせてくれるか!」

「……花梨。お前の剣は、誰かを傷つけるものじゃねえよ。今なら、守れるはずだぜ」

「で、でもっ……」

 

 彼女は躊躇するように言った。

 

「あたしに、出来るかな……」

「……出来るさ」

 

 声が響いた。

 それは俺達の誰でも無く、しがみつくようにしてソファに食らいつく火廣金が呻くように上げた声だった。

 

「……君は、俺の……教え子だ」

「火廣金!? ちょっと、大丈夫なの!?」

「無責任な魔導司で済まんが……信じてる……俺は……燃え、尽き……」

 

 ガタッ、と音が鳴り、彼は再び床に倒れこんだ。

 

「火廣金……!」

「ちょっと、顔打ってるデスよ!?」

「……背中を押されちまったな」

「……うん」

 

 彼女は立ち上がった。

 その顔は、多少なりとも迷いを吹っ切れたようなものだった。

 

「……あたし、やってみても、良いかな」

「……花梨忘れんなよ。俺達が付いてるぜ」

「勿論、名探偵のブランちゃんもデス!」

「私も居ますよ」

 

 紫月はフードを深く被ると言った。

 

「人は忘れる事で生きていける生き物です。それをわざわざ掘り返して利用する、悪質なクロスギアなんてぶっ飛ばしてしまいましょう」

「……皆」

「燃え……尽き……」

「火廣金……待っててね」

 

 彼女は火廣金の手を取る。

 彼の眼は死んでこそいたが、僅かに頷くのが俺にも分かった。

 よし、何とかこれで全部整ったな。

 そろそろ時間だ。約束の時間に、時計の針が指そうとしていた。

 

「!」

「……花梨、どうした?」

「今、戦車(チャリオッツ)が反応した……!」

「ってことは、辻斬りが道場に来たデスか!?」

「うん……!」

 

 相手が木曾さんの魂を人質に取ってる以上、送り出すのは花梨だけになってしまう。

 勿論俺達も万が一の事があってはいけないので、出来る限りの準備をするつもりだが……。

 

「……行ってくるよ。皆」

「花梨」

 

 お前なら、きっと出来るぞ。

 俺達は信じている。

 

 

 

「……あたし、巴ちゃんを助け出して見せる!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 誰も居ないはずの道場。

 静まり返った決戦の場で、紅き鎧は大太刀を地面に突き、厳かに立っていた。

 

 

 

「──お尋ね申す」

 

 

 

 声が暗い道場に響いた。

 月の光だけが差し込んでいた。

 

「──来タカ、刀堂花梨」

 

 袴に胴着を身に着けた姿で、彼女は道場へ足を踏み込む。

 そしてその手には、竹刀ではなく──デッキケースが握られていた。

 

「……返して貰うよ。あたしの仲間を」

「笑ワセルナ、刀堂花梨」

 

 次の瞬間、気配が2つ。

 暗がりで見えないが4つの眼がこちらを睨んでいた。

 ドラゴンのクリーチャーのようだった。

 

「元ヨリ、コノ身体……返スツモリハナイ」

「性根が腐ってるな。何処までも。そこまでして勝ちたいっての」

 

 ある程度予期していたのか、彼女は今更取り乱しはしなかった。

 

「……勝チタイ!? アア、勝チタイトモサ!! ドンナ手段ヲ使ッテデモ、勝チタイ!! ソレガ、オ前達人間ノ本性ダ!!」

「違う!!」

 

 彼女は全力で否定した。

 此処で否定しなければ、それは今まで歩んできた道を否定する事になるから。

 そして何より、一緒に共に戦って切磋琢磨してきた友との記憶を否定する事になるから。

 

「どんな手段を使ってでも勝ちたい? そっちこそお笑い草よ。道を辿らなければ、人は唯の獣になってしまう。畜生以下の鎧の分際じゃあ分からないだろうけど」

「何ダト……!?」

「あたしはあんたのやり方は認めない。あたし達の剣の道は、お前なんかに汚させやしない。お前がどんな手を使ってきても、正面から薙ぎ払う」

 

 それに、と花梨は続けた。

 

「憎まれても、恨まれても、部員を守るのが……主将の、部長の役目なんだッ!!」

「ナラバ、ツマラヌ道ノ為ニ、ココデ死ネ!!」

 

 飛び掛かるクリーチャー達。

 花梨は祈るようにして、エリアフォースカードを握る。

 

戦車(チャリオッツ)……あたしはまだ未熟で、弱虫で、腕っぷしばかりだけど……やっぱり、自分の道は諦めたくない!! それは、仲間と歩んだ道だから!! それだけは、誰にも否定させやしない!!」

『──!!』

「あたしの手で、”切り開く”んだ!!」

 

 刹那。

 閃光が迸った。

 瞬きする間もなく──2体の龍の首が落ちる。

 

 

 

『──斬り捨て御免』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 火の粉が辺りに舞った。

 剣を構えた巨大な龍の姿が、そこにあった。

 不死鳥の如き炎の翼を広げ、二刀を構える。

 あたしは声も出はしなかった。

 

『槿花一日の栄、獣の命の何と儚い事か。これもまた、運命故』

「っ……」

 

 花梨は息を呑んだ。

 間違いない。

 白紙だったはずのカードに、何時の間にか戦車の絵が刻まれていた。

 まるで、夢幻のように突如現れたそれは、ゆらりと揺れる陽炎のように剣を振るう。

 

「キ、貴様……守護獣、ダトォ!?」

『……名乗るのを忘れていたな。これは失敬した』

「ダ、黙レェ!! 貴様ハ、”バルガ”……”バルガ”ノ、アーマード・ドラゴン、ダトォ!?」

 

 辻斬りは驚いているようだった。

 蒼い鎧の龍……そしてバルガの名を持つ龍。

 

「貴方は……一体」

『其方が俺の主か。なかなかの別嬪だな』

「にゃっ!?」

『だが、四の五の言っている暇はない。まずはこの下衆を斬り捨てる。それが先決だ』

「……オ、オッケー!!」

 

 クリーチャーにいきなり褒められちゃったんだけど……。

 まあ、いい。そんな事は後!

 

『切った張ったの大立ち回りは十八番よ。主君、エリアフォースカードに命じるが良い。俺が其方の剣となろう!!』

「……良いよ! 着いて来な!」

 

 あたしは辻斬りを前にして、戦車(チャリオッツ)を掲げた。

 炎が、あたしの周囲を包み込んだ──

 

 

 

戦車(チャリオッツ)……抜刀!!」

Wild(ワイルド)……Draw(ドロー)(セブン)……CHARIOTS(チャリオッツ)!』

 

 

 

 あたしの声に呼応し、無機質な音が道場に木霊する。

 遂に、決着の空間が開かれたのだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あたしのターン……と言っても、このターンはまだ動けないんだよな……」

 

 先攻2ターン目で、辻斬りは何もしてこなかった。

 こっちは、2ターン目に《メンデルスゾーン》が使えればそれで良かったんだけど、なかなかそう上手くはいかない。

 多色が多いこのデッキでは、立ち回るだけでも一苦労だ。

 だけど、これが最も戦車(チャリオッツ)に合っているデッキだと信じて戦うしかない。

 あたしは──勝たなくちゃいけないんだ!

 

「ターンエンド!」

「我ガターン。3マナデ、《エンドラ・パッピー》ヲ召喚! ターンエンドダ」

「っ!」

 

 確かあのカードは……ドラゴンが場に出る度にドローするカードだ。

 だけど、あれってどういうデッキなんだろう。

 火と光のデッキというのは分かったけど、何処でクロスギアを使うんだろう。

 前にお兄に教えて貰ったデッキは……確か違うカラーだった気がするし。

 

「あたしは《メンデルスゾーン》を使用! その効果で、山札の上から2枚を表向きにして、両方ドラゴンだからマナに置くよ! これで次のターンは6マナだ!」

「ホウ……! ヤルナァ、小娘。シカシ……」

 

 辻斬りの兜──鬼の面のように顔を覆っていた部分が開く。

 そこにあったのは、巴ちゃんの顔だった。

 

「──私の憎悪は、その程度じゃ掻き消せない!!」

「っ……巴、ちゃん……!?」

「覚悟しなさい。此処からは、私のターンよ!」

 

 カードを引いた彼女は、4枚のマナをタップする。

 そして──それは現れた。

 戦場を灼炎が包み込む。浮かび上がるのはⅦ。

 戦車(チャリオッツ)を意味する数字だ。

 

 

 

「《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》、ジェネレート!!」

 

 

 

 現れたのは竜の身に纏う鎧。兜に大きな刀身を備えた、紅の鎧。

 そして、今巴ちゃんが纏っているそれに酷似した鎧だった。

 間違いない。あれが今回の黒幕のクロスギアだ!

 

「ってことは……このデッキって……武者ワンショット!?」

「ターンエンドよ。花梨」

「そんな少ない手札でどうやって……まさか……!」

 

 あたしは嫌な予感をさせながら、5枚のマナをタップした。

 今は少しでも守りを固めるしかない!

 

「5マナで《トップ・オブ・ロマネスク》を召喚! 効果でマナを2枚、タップして置くよ! こいつはブロッカーだ!」

「あんた、やっぱり馬鹿なの? 武者ワンショットに、そんな小細工効く訳ないでしょうがよ!」

「馬鹿でもなんでも、今はこれしか出来ることが無いんだから仕方ないでしょ!?」

「やっぱり、バ花梨ね。逆に安心したわ」

 

 彼女は5枚のマナをタップした。

 とうとう、巴ちゃんの切札が現れようとしていた。

 そう、これはあの時の構図と逆だ。

 

「頼むから……抵抗しないで。……凄く、痛いわ」

 

 あたしと耀が初めて、この空間で戦った時の構図。

 あの蒼き鎧を持つ革命龍に酷似した、戦国の龍が現れようとしていた。

 《ザンゲキ・マッハアーマー》の効果でドラゴンとサムライのコストはマイナス1されている。

 5マナで、6コストのクリーチャーが場に出て来る!

 

 

 

「……舞えよ刃、それは煉獄の如く。

例えこの身が焼かれても──《ボルメテウス・武者・ドラゴン》!!」

 

 

 

 現れたのは鎧と兜を身に着けた戦国龍。

 ボロボロの左羽根には刀が下げられていた。

 そして、その瞳は今の巴ちゃんのように憎悪に満ち満ちていた。

 

「まず、《エンドラ・パッピー》の効果で手札を1枚引く」

「そうか、まさか連鎖展開……!?」

「そうよ。そして、《ザンゲキ・マッハアーマー》は《ボルメテウス・武者・ドラゴン》にタダでクロス出来る」

 

 《ボルメテウス・武者・ドラゴン》の身体にあの真紅の鎧が身に着けられる。

 ドラゴンかサムライにクロスされたから、《ザンゲキ・マッハアーマー》の効果で相手のドラゴンは全てスピードアタッカー……!

 

「さあ行くわよ! 場に《ボルメテウス・武者・ドラゴン》が居るので、《バルケリオス・武者・ドラゴン》をG・ゼロで召喚!」

「っ……来た!」

「《エンドラ》の効果で1枚ドロー。そしてアーマード・ドラゴンが2体場に居るので、《バルケリオス・ドラゴン》をG・ゼロで召喚」

 

 現れたのは、G・ゼロを持つ”バルケリオス”の名を冠するドラゴン。

 場にドラゴンが出る度にドローできる《エンドラ・パッピー》が居るので、その展開は途切れはしない。

 

「そして、場にドラゴンが3体以上居るので《バルケリオス・G・カイザー》も召喚!」

「ヤ、ヤバ……これ、皆スピードアタッカー!?」

「さあ、行くわよ花梨。《ボルメテウス・武者・ドラゴン》で攻撃!!」

 

 兜から伸びた刃が、私のシールドを狙う。

 相手の場のクリーチャーは5体。

 1体でも防げれば、まだ勝機はある。だけど──!

 

「攻撃する時の効果で、《ボルメテウス・武者・ドラゴン》は自分のシールドを1枚墓地に置く事で、相手のパワー6000以下のクリーチャーを1体破壊出来る!! 《ロマネスク》を破壊!!」

 

 刃が《トップ・オブ・ロマネスク》の身体諸共、あたしのシールドを薙ぎ払った。

 

「──W・ブレイクッ!!」

 

 そして、一瞬で溶岩の如くはじけ飛ぶ。

 火の粉があたしに降り注いだ。腕で顔を覆う。

 しかし、ジュッ、と焦げた音と共に胴着や袴が所々焼けた。

 

「シールドは残り3枚、か。《バルケリオス・武者・ドラゴン》で攻撃」

「来るっ……でも、1枚でもトリガーが来れば……!」

「1体除去したところじゃあ、止まらないわよ!!」

 

 次の瞬間、巴の最後の手札からカードが飛び出した。

 

「革命チェンジ──光か火のドラゴンをトリガーに発動!」

「……ええ!?」

 

 此処で革命チェンジ!? 何を出してくるんだろう。

 それはさながら彗星の如く。

 戦場に舞い降り立った。

 

 

 

「《武闘世代(カンフー・ジェネレーション) カツキングJr(ジュニア)》!!」

 

 

 

 現れたのは、ヌンチャクを振り回す小さな武闘龍。

 無法の力を持つドラゴンだ。

 

「《カツキングJr(ジュニア)》の効果で、私はシールドを1枚追加する。そして、相手のシールドを1枚ブレイクする!!」

「っ……まさか、この後にまたW・ブレイク!?」

 

 ヌンチャクが振り回され、あたしのシールドが砕かれた。

 追撃と言わんばかりに残る2枚のシールドも狙われる。

 こんなの……実質、T・ブレイカーだよ!

 

「S・トリガー、《無双龍聖 イージスブースト》!! 効果でマナを1枚増やすよ!! そしてこの子はブロッカーだ!! 《カツキングJr(ジュニア)》をブロック!!」

「ダメよ花梨。ブロッカー1体じゃ止められないわ。《バルケリオス・G・カイザー》でシールドをW・ブレイク」

 

 業火と共にあたしのシールドの破片が全て、飛んでくる。

 体中が切り裂かれ、熱に包まれた。

 熱い鉄に押し付けられたような痛みが広がる。

 

「ぐうっ、ああ……!」

「花梨。あんたも大した事無かったわねえ。出来れば剣で決着を付けたかったけど」

「……嫌だよ」

 

 ふらり、と身体が倒れそうになる。

 

「──あたし、そんな決着の付け方、したくない」

「!」

 

 だけど、踏みとどまった。

 あたしの瞳は、巴ちゃんしか見えてなかった。

 

「巴ちゃんが間違ったやり方で強くなるなら、あたしは絶対にそれを止めなきゃいけない。絶対に!!」

「気に食わない……善人ぶってんじゃないわよ、花梨!!」

「善人ぶってるって言われても構わない!! それが、主将の役目……そして、友達の役目、でしょ」

「誰が何時、あんたなんかの……!」

「ねえ、巴ちゃん……全部、嘘じゃなかったはずだよ。一緒に試合で負けて悔しい思いしたり、勝って嬉しかったり、一緒に無茶な事やって先生に怒られたり、さあ」

「っ……全部、嘘よ!! まやかしだ!!」

「まやかしじゃ、ないよ!!」

 

 あたしは、腰に差していた竹刀で無理矢理身体を立てた。

 

「っ……まやかしなんかじゃない……あたしが、それを証明してやるんだ……!!」

「花梨……!」

「今更、否定なんかさせないよ。巴ちゃんが何と言おうと……あたしは、信じてるから!!」

「うるさいっ!!」

 

 巴ちゃんは叫んだ。

 

「あんたに何が分かるんだ!! 私が持ってないモノ、最初から全部持ってた癖に!! 私が欲しかったモノ、最初から全部持ってた癖に!! 勝手に私の理解者気取ってんじゃないわよ!!」

「っ……」

「私はあんたがずっと羨ましかった!! 勝っても負けても英雄扱い、稀代の天才としてちやほやされるあんたが!! 後輩に慕われるあんたが!! 挙句の果てには、あたしから全部奪っていったじゃないのよ!!」

 

 彼女は《バルケリオス・ドラゴン》に手を掛ける。

 

「これで全部、お終いよ!!」

「……させないッ!!」

 

 飛び散ったシールドの破片が収縮した。

 まだ希望の光は──ある!!

 

「S・トリガー発動!! 双極龍装(ツインパクトドラゴン)迎撃(カウンター)、《ホーリー・スパーク》!」

 

 天から降り注ぐ龍装者の光。

 それが、一斉にドラゴン達を地面に縛り付ける。

 

「ッ……首の皮1枚繋がったわね……花梨!!」

 

 あ、危なかった……!

 もう少しで負ける所だった。

 これで巴ちゃんのクリーチャーを全てタップできた。だけど──

 

「でも、どんな小細工をしようが、《ザンゲキ》がある限りあたしのクリーチャーは止められないわ!!」

 

 巴ちゃんのシールドは5枚に回復している。

 対して、あたしのシールドは0。もう、後は無い。

 完全に不利な状況だ。

 

「どう、しよう……!」

『ふむ、どうやら俺の出番のようだ』

「ってか遅い! 今まで何やってたのよ!」

 

 突如聞こえてきた声に、あたしは苛立ちながら返した。

 

『失敬。因縁は当人同士の解決に任せようと思っていたまでよ。このままでは、彼女の心はずっと鎧の力で憎悪に囚われたままだからな』

「そ、そんな……じゃあ、どうすれば良いの!?」

『俺に任せておけ』

「え?」

 

 あたしは困惑しながら、突如実体化した龍の行く末を見守っていた。

 

『そこな剣のお嬢さん』

「!」

 

 龍は、突如巴に呼び掛けた。

 

「な、あんたは何よ……!」

『随分と別嬪じゃあないか。怒った顔をしていると勿体ない』

「黙れ、無礼者!! 私は……剣道家だ!!」

『剣道家、か。卑劣な手段を使って自分に嘘に嘘を重ねて強くなった外道が、剣道家を名乗るとは……この世界の剣も落ちたものよ』

「!」

『外道に落ちて目的を達した所で、所詮後に残るのは空虚のみ。それは、其方も薄々感づいているのではないか?』

「あんたに何が分かる!!」

『分からんよ』

 

 彼は言い放つ。

 

『拒絶してばかりで、ハナから分かろうとしないものの気持ち等、分かってやるものかよ』

「っ……!」

『剣の腕前等、友の前では些事ではないか。剣の腕前よりも、大事なものがあるのではないか。それを、忘れていないか?』

「私は……!」

『そこに、心が無ければ……剣の道等幾ら極めても無意味よ!! 思い出せ!!』

 

 巴は顔を抑える。

 火傷の痕を手でなぞった。

 忘れてしまった何かを探すように。

 

「私、ハ……!!」

『刀堂花梨。彼女の剣が迷っている。憎悪から断ち切れるやもしれん』

「……ありがと」

『節介を焼いただけよ。さあ引け』

「うん! やるよ! 此処でやらなきゃ、女がすたる!」

 

 あたしはカードを引いた。

 そこにあったのは──逆転の一手だった。

 戦車(チャリオッツ)のアルカナが浮かび上がる。

 

「行くよ! 8マナで《竜星 バルガライザー》を召喚!!」

「バルガ……貴様ァ……!! ヨクモ……!!」

「《バルガライザー》でシールドを攻撃。するとき──革命チェンジ発動!!」

 

 あたしのカードから、流星のようにカードが飛び出した。

 そして、《バルガライザー》と入れ替わる。

 

「出てきて、《勇者の1号 ハムカツマン(エース)》!!」

 

 現れたのはハムカツ団の小さき勇者、《ハムカツマン》だ。

 

「何ダ、ソイツハァ!? 弱クナッタ、ダケジャナイカァ!!」

「本当にそう思う? まず登場時効果で、山札の上から5枚を見る。そして、多色クリーチャーを1枚選んで、山札の一番上にセットする」

「!!」

 

 だけどまだ終わらない。

 まだ、《バルガライザー》の効果が解決されていない!

 

「《バルガライザー》の効果で、山札の一番上を表向きに! それがドラゴンなら場に出す!」

「マ、マサカコイツ……!!」

「覚悟は出来た? あたしは出来てる!! 巴ちゃんの事を、全部受け止める覚悟が!!」

 

 浮かび上がるのは戦車(チャリオッツ)を現すⅦの数字。

 夢、幻から遂にその姿を現そうとしていた。

 

 

 

「沙羅双樹の花の色──刃は儚き夢想の如く!! 

抜刀、《無双龍幻(むそうりゅうげん) バルガ・ド・ライバー》!!」

 

 

 

 時空を切り裂き、それは虚ろから現れた。

 揺れる刃は、沸き立つ陽炎のように。

 煌めく瞳は、朧げな月光のように。

 

「……やっと会えた。本当に遅いよ」

『すまんかったなあ、主君よ。だが、此処からは俺に任せて貰おう。全ての龍が集う幻の楽園、龍幻卿より如何なる龍も呼び出してみせよう』

「うん……任せた!!」

 

 バルガ・ド・ライバーは翼を広げて飛び出した。

 辻斬りは顔を強張らせる。

 

「まずは《ハムカツマン(エース)》でシールドをブレイク!」

「オ、オノレ……こんな事、あって堪るもんかぁ!!」

 

 そして、後に続くようにして《バルガ・ド・ライバー》が双剣を振り上げた。

 

『断ち切るとしよう。その幻想から』

「《バルガ・ド・ライバー》で攻撃するとき、山札の一番上を表向きに! それがドラゴンならバトルゾーンに出す!」

『相分かった!!』

 

 振り下ろした剣は空振り。

 しかし、十字に斬れた空間から新たなる龍が現れる。

 

「《百族の王(ミア・モジャ) プチョヘンザ》召喚!!」

「っ……しまった!」

「だけど、これで終わらないよ! 《バルガ・ド・ライバー》からまた革命チェンジ!」

 

 それは煌めく灼熱の太陽のように。

 最後の革命を起こす時だ!

 

 

 

「黄金の夜明けよ、来たれ!! 《龍の極限(ファイナル) ドギラゴールデン》!!」

 

 

 

 それは黄金の鎧を身に纏った守護龍。

 巨大な剣を手に掲げ、翠に輝く翼を広げた龍だ。

 その剣が、《ボルメテウス・武者・ドラゴン》の身体を突き貫く。

 

「まず、登場時効果で相手のクリーチャーを1体選び、マナゾーンに置くよ」

「無駄よ! たかだか1体除去したところデ……!」

 

 巴ちゃんがそう言いかけた矢先、《ドギラゴールデン》の翼があたし達を包み込み──守った。

 

極限(ファイナル)ファイナル革命、発動!! これで次のターン、相手のパワー100万以下のクリーチャーは攻撃出来ない!!」

「パワー100万以下ァ!?」

「そして、後から出て来るドラゴンは《プチョヘンザ》で全てタップして場に出る! さあ、《ドギラゴールデン》でシールドをT・ブレイクだ!!」

「っ……!!」

 

 剣が振るわれた。

 一気に巴ちゃんのシールドが3枚、吹き飛んだ。

 しかし、もうあたしの場には攻撃出来るクリーチャーが居ない。

 

「ターン……エンド。でも、これで次のターン、巴ちゃんのクリーチャーは攻撃出来ない。そして、場に出て来るクリーチャーは《プチョヘンザ》でタップインされるよ」

「な、何で……」

 

 彼女は手を震わせた。

 圧倒的だったはずの戦況は、あっという間にひっくり返ってしまった。

 次のターン、彼女はもう何も出来ないのだ。

 

「どうして……!? 訳が分からないわ……!! 此処までやって、負けるっての!? また、負けるっていうの!?」

 

 酷く彼女は取り乱す。

 

「理解、出来ない!! 何で、あんたはそこまでして私を……!!」

「大好き、だからだよ」

「……!」

「甘ちゃんのあたしの面倒を見てくれたし、あたしと対等に張り合ってくれた。中学まで、部活仲間は何処かであたしの事を敬遠してたから」

「……あんた」

「あたしに出来ない事……部員を厳しく纏めてくれたり、あたしが何か失敗したらフォローまで入れてくれた。道場を出たら、剣の事なんか忘れてあたしと色んな事で競ってくれた」

「……花梨」

「あたしは……いつもみたいに、クールで厳しくて、負けず嫌いで、それでもあたしと一緒に居てくれた巴ちゃんが大好きだからさ。巴ちゃんに何と言われても、巴ちゃんの事は忘れたくないよ」

「っ……」

 

 そう。忘れない。

 忘れさせない。

 否定させたりしない。

 

「私は……捨てられた。大好きって言ってくれた人に捨てられた」

「巴ちゃん……」

「家族も、学校の皆も、私に失望して……居場所が無かった」

「皆、私の剣しか見てなかったから……」

「剣だけが全てじゃないよ。あたしも、まだそう思っちゃう事があるけどさ」

「……そう、よね……私、何勘違いしてたんだろ……」

 

 ぼろぼろ、と兜から涙が零れた。

 しかし。

 その体がびくん、と硬直した。

 そして、その顔に再び面が纏われる。

 

「巴ちゃん!?」

「わ、タシ……ハ……刀堂花梨……貴様……ドコマデ邪魔ヲスルンダァ!!」

「っ……ザンゲキ・マッハアーマー……!!」

「コノ手デ、片付ケテヤルワァ!!」

 

 辻斬り──もとい、ザンゲキ・マッハアーマーは再び巴ちゃんの意識を乗っ取った。

 やっと姿を現したな、この外道!!

 

「……手始メニ、コノ場ヲ更地ニシテヤロウ」

 

 ザンゲキ・マッハアーマーのマナが6枚、タップされた。

 そこから放たれたのは──

 

 

 

「呪文、《アポカリプス・デイ》!! 場ニクリーチャーガ6体以上イレバ、皆諸共ニ破壊ダ!!」

 

 

 

 ──滅亡の光、だった。

 一瞬にしてあたしのクリーチャーも、そしてザンゲキ・マッハアーマーのクリーチャー達も消え去る。

 あたしは思わず目を覆った。折角展開したのに……一瞬で全滅しちゃうなんて!!

 

「コレデ、次ノターンヲ耐エキレバ、再ビ《ボルメテウス・武者・ドラゴン》ヲ召喚シテ我ノ勝チダァ!!」

 

 相手のシールドはまだ1枚残ってる。

 最低でも二連撃を此処で叩き込まないと、あたしに勝機は無い。

 でも、スピードアタッカーのドラゴンを2体も召喚するような余裕なんて無い……!

 だけど、無茶を通す。絶対に通して見せる。

 

『主君。我らがバルガの力を使え!!』

「分かった。貫き通す!!」

「!!」

 

 あたしがマナに置いたのは《バルガ・ド・ライバー》。

 それを見たザンゲキ・マッハアーマーは嘲笑した。

 

「何カト思エバ……!! 自ラノ切札ヲ手放ストハ!」

「もう、これしか手が無いの!!」

 

 あたしは3枚のマナをタップする。

 そう、これはある意味で賭けだ。

 手札に残っているカードでこのターンに勝つ手段は、他にない!

 

「3マナで双極変換(ツインパクトチェンジ)詠唱(ソーサリー)! 《ストンピング・ウィード》!」

「!?」

 

 突如現れた恐竜のようなドラゴン。

 その巨大な足が大地に踏み込まれた時──さらなる豊穣が訪れる!

 

「その効果で山札の上から1枚をマナにおいて……よし、単色カードだ!!」

「ナ、ナニィ!?」

「これで全部整ったよ!! その後、山札の上にマナゾーンのカードを置く! あたしが選ぶのは、《バルガ・ド・ライバー》だ!」

「マ、マサカ……!」

「さっきの革命チェンジで、《バルガライザー》は手札に戻ってる。これで、決められる……二連撃を!!」

 

 丁度残りのマナは8枚。

 行くよ、巴ちゃん。

 行くよ──相棒!

 

「《バルガライザー》召喚!! 攻撃時の効果で、山札の上を表向きにして、それがドラゴンなら場に出す!! 当然、出て来るのは《バルガ・ド・ライバー》!!」

「コノ……小娘如キガァ!!」

「抜刀!!」

 

 《バルガライザー》が切り裂いた虚空から、更に巨大な《バルガ・ド・ライバー》が現れる。

 そのまま、放たれた斬撃が、最後のシールドを切り裂いた。

 

「グッ……バカナ、何モ、無イ……!! オノレ、コンナコトガ……!」

『クロスギアめ。往生際が悪い。大方、長年の間に悪い物が取り付いたのだろうが……祓ってやらねばな』

「ヤ、ヤメロォォォーッ!!」

 

 羽ばたく《バルガ・ド・ライバー》。

 狙う先は、勿論唯一つ。

 あの忌々しい鎧だけだ。

 

 

 

「《無双龍幻 バルガ・ド・ライバー》でダイレクトアタック!!」

『斬像……龍幻弐閃!!』

 

 

 

 最早守るものが何もない辻斬りに、翼を広げた装甲龍が引導を渡す。

 十字に重ねた剣を払い──衝撃波が鎧を切り裂いた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「や、やった……」

 

 あたしはへたり込んでしまった。

 見ると、巴ちゃんの身体から鎧が消えていく。

 これで、終わりか。

 

「バルガ・ド・ライバー……ありがと。あんたのおかげで、あたし……巴ちゃんを助けられたよ」

『礼は不要。それよりも、主君よ。何か妙ではないか?』

「え?」

『さっきのクロスギアの反応が、まだ僅かに残っている。この中にはもう居ないようだが』

「……まさか」

 

 あたし達は急いで道場の外に出た。

 見ると──夜空に今にも飛び立とうとしている赤い閃光。

 そして、万が一の事があってはいけない、と外で待機していた耀達が空間を開いて大量のクリーチャーと戦っている様子であった。

 し、しまった! 耀達はクリーチャーを相手していて、まったくそれに気付いていない。というより気付いていても向かえないんだ。

 まさか、あの赤いのが……ザンゲキ・マッハアーマー!? 自力で脱出したっていうの!?

 

「に、逃げられたぁぁぁーっ!?」

『チッ、仕留められなかったか。往生際の悪い鎧だ!』

「ど、どうしよう! あんな所にまでいけないよ!」

 

 あいつを放っておいたら、また第二第三の犠牲者が出てしまう!

 

『いや、待て!』

 

 その時。

 赤い閃光を追いかけるように、火の玉が飛んでいく。

 肉眼では一体何なのか分からない。しかし──

 

『鳥か!? 飛行機か!?』

「いや、違う……あれって……ロケット!?」

 

 すぐさま火の玉は閃光に追いつき──空中で静止したかと思うと、すぐ近くのアスファルトの地面へ閃光が落ちて来る。

 爆風があたし達を襲った。

 

「ヌッグアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 見ると、墜落してボロボロになった鎧。

 そして、硝煙の中から現れる人影。

 冷徹な靴の音を鳴らし、それはやってくる。

 

「ひ、火廣金!!」

 

 完全に気力がもとに戻ったのか、凄まじい形相を浮かべた赤髪の魔導司が煙の中から姿を現す。

 だけど、あたしの顔を見ると少し安心したように表情を緩めた。

 

「っ……ふぅ。やれやれ。やってくれたな、刀堂花梨」

「あ、あはは……何とかね」

「しかし、こいつもしぶといな。見たところ、大分ダメージを負っていたにも関わらず、まだ動けるのか。アルカクラウン然り、こいつ然り、人間の力を大量に吸ったクリーチャーは唯では消えんということか」

「クリーチャーじゃなくてクロスギアなんだけどね」

「此処まで来るとクリーチャー同然だ。さて、やられた返しはたっぷりしなければな。たっぷり、だ」

 

 呻き声を上げながら手を上げる、中身無き鎧。

 それは最後の力を振り絞るべく、あたしに手を伸ばそうとする。

 が、距離が離れすぎていて届きそうにはなかった。

 

「ギ、ギイ……勝利ィ、勝利ィ……絶対ナル勝利ヲ……」

「”轟轟轟”ブランド!」

 

 音速の拳が兜を砕く。

 絶叫が夜の闇に響き渡った。

 しかし、それでもまだ諦めないのか、執念で鎧は私の方へ飛び掛かって来る。

 だが──

 

「バルガ・ド・ライバー!!」

『御意!』

 

 ──それを、バルガ・ド・ライバーが見逃さなかった。

 双剣を鎧に突き立て──今度こそ、鎧を粉砕する。

 

「ギョエエエエッ」

 

 断末魔の叫びをあげて、ザンゲキ・マッハアーマーは消滅したのだった。

 これでようやくひと段落着いた。

 火廣金はあたしの方に走って来る。

 

「大丈夫か、刀堂花梨」

「……うん。あたしは平気! バルガ・ド・ライバーが居てくれて助かったよ」

 

 あたしの背後に居るドラゴンを前にして、火廣金は安心したように目を閉じた。

 

「そうか……遂に目覚めたか。良かったよ。俺の心配は杞憂だったようだな」

「ううん」

 

 あたしは首を横に振った。

 

「あたし、今回の事件……1人じゃ絶対に解決出来なかったと思うんだ」

「あ、ああ。部長たちが助けてくれたではないか。俺は結局……君に何も出来なかった」

「ううん、火廣金も、だよ!」

 

 彼は驚いたように顔を上げた。

 

「火廣金が背中を押してくれたから……出来たんだと思う。ありがとね!」

「っ……」

 

 彼は少し照れ臭そうに顔を逸らした。

 

「な、なら良い。とにかく、事後処理だ。手伝うぞ」

「……うんっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──つーわけで、今回の事件も終わりってわけだ」

「鎧事件と一緒に解決出来てイッコクニドリデース!」

「それを言うなら、一石二鳥ですブラン先輩」

 

 ある日。

 俺達は、あの辻斬り事件の纏めをしていた。

 結局、裏から色々アルカナ研究会が手引きしてくれて助かったけど……今回の敵も一段と手強かった。

 まあ、火廣金も元に戻ったし、花梨の人間関係もどうにかなったらしい。

 そして──

 

「あの鎧を砕いた所、タチの悪い事にエリアフォースカードも残っていた」

「道理で強いわけだ……」

「ただ、こいつは休眠状態で完全にクロスギアの方が主導権を握っていたらしいな」

 

 対応するアルカナは、どうやら(スター)だったらしい。

 これで集まったエリアフォースカードは、審判、運命の輪、女教皇、塔、そして星。

 逆に俺達が持っているのは、俺の皇帝、ブランの正義、紫月の魔術師、桑原先輩の力、黒鳥さんの死神。

 そして──

 

「今回、花梨の戦車が目覚めた……か」

「おめでたいデース!」

「残りのエリアフォースカードも早い所集められそうですね」

「ああ……そうだな」

 

 火廣金は、何処か呆けた様子で答える。

 何だか声に魂が入っていないようだ。

 もう辻斬りの悪影響は残ってないはずだけど。

 

「ヒイロ。最近、ぼーっとしてる事が多いデスけどどうしたんデスか?」

「俺がぼーっとしているだと?」

「だって、耀がエリアフォースカードの話をするまでプラモを飾る手が止まっていたデース」

「確かに妙ですね。まだ鎧の力が残っているのでしょうか」

「バカな。俺は魔導司だぞ。人間よりも効力の低いあんな魔法にまだ掛かっているとでも」

「……例えばぁ、恋の魔法、とかデスか?」

「なっ!!」

 

 火廣金は目に見えて動揺していた。

 ……おいマジか、こいつ。

 

「そりゃあ、二回も助けられては男の立つ瀬が無いというものデスしねえ」

「あのだなあ、憶測でモノを言うんじゃない。刀堂花梨は唯の教え子のようなものだ」

「誰もカリンの事なんて言ってないデスけど?」

「……!」

 

 あーあ、引っ掛けられちまったな火廣金。らしくもねえ。

 火廣金はプラモデルを決まりが悪そうに慌ただしく飾り始める。

 初めて彼に勝てたと言わんばかりにブランはガッツポーズした。

 

「そういえば先輩。辻斬り事件の事後処理とやらは結局どうなったんですか?」

「あ? それはだな……花梨に聞いた話なんだけど──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──辻斬り事件はこうして幕を閉じた。

 無気力になっていた人たちは皆元に戻り、辻斬りの事件が起こらなくなった事で休部中だった剣道部も活動を再開することになったらしい。

 あの後、結局巴ちゃんはデュエルやクロスギアに関する記憶をアルカナ研究会によって多少処理されたらしい。その内容は敢えて聞かなかったけどね。

 にしても……わざわざ忘れていた憎悪を思い出させて力に変えるクロスギア……とても嫌な奴だったな。

 何より、あたしは友達があんな感情を抱いていただなんて知りたくなかったわけで、巴ちゃんともどうやって接すれば良いのか、事件が終わった直後は少し悩んでたんだけど杞憂だった。

 

「花梨っ」

 

 剣道部の休部が開けたばかりのある日、久しぶりに巴ちゃんの方から走ってあたしの方にやってきた。

 和泉ちゃんと一緒に彼女を待っていたあたしは、あまりの勢いに少し驚いていた。

 

「な、何?」

「べ、別に、大した事じゃないんだけど……言えてなかったから」

「あらぁ、今日は素直なのねえ、巴さん」

「別に何でもないわよっ」

 

 彼女は顔を逸らすと言った。

 

「……私と友達で居てくれて、ありがと」

「ど、どしたの? いきなり」

「こないだの事よ! あたし……素直じゃないから、ちゃんとお礼言えてなかった。というか、此処最近あんたの事で色々もやもや考えてた」

 

 もしかして、断片的に記憶が残っていたりするのかな?

 あたしはデュエルの事とか辻斬りの事とか此処で持ち出されるのかと思って冷や冷やしたけど……。

 

「ほら、この間……私、病院から帰る途中で具合が悪くなって倒れたって言うじゃない。あの時、あんたが介抱してくれたんでしょ?」

「……ああ、そ、そうだったね」

 

 成程、そういう風に記憶を書き換えたのか。

 アルカナ研究会、やっぱり怖いなあ……。まあでもこれも仕方ないのかも。

 これで、彼女は多分……二度とクリーチャーに関わらないで済むのだから。

 

「その時、私が譫言で変な事言ったみたいで……昔の嫌な事とか全部あんたの所為にしたのに……あんたは受け止めてくれた……ような気がする」

「気がする? 随分と曖昧なのねぇ」

「仕方ないでしょ! 私はあんまり覚えてないんだから……まあ、でも、あたしがそう思ってたのは本当だし」

 

 あたしはきゅう、と胸が痛くなった。

 しかし、それを掻き消すように彼女は「だけど」と続けた。

 

「あんたと一緒に居たら、昔の嫌な事とか忘れられるようになったのも本当よ。最近……本当にそう思えるようになったのよね」

「巴ちゃん……」

「……どうしてかな。……あんたが本当に良い奴だから……かなあ。誰かの所為にするのが恥ずかしくなっちゃってねえ」

「ふふっ。刀堂さんのそういう所に惹かれる人って結構居るのよねえ」

「わ、笑うなぁ!」

「まあまあ……」

 

 でも良かった。巴ちゃんが吹っ切れてくれて。

 そしてあたしと友達で居てくれて。

 

「あたしも良かったと思ってるよ。巴ちゃんが友達で」

「っ……花梨」

「副将とか、剣とか関係ないから。そうでしょ?」

「……そう、ね。そうよね。あんたはそういう人だもんね」

 

 彼女の目尻に、少しだけ涙が浮かんでいた。

 あたしも一層頑張らないといけない。

 大事な友達を二度と、あんな暗い場所へ落とさないために。

 

「ね! 3人でこれからラーメン屋、行こう!」

「賛成よ。言っとくけど、大食い勝負は負けないわ」

「うふふ、久々に見られるわねえ、2人の勝負」

「へへっ、負けないよ巴ちゃん!」

「こっちもよ、花梨!」

 

 ラーメン屋まで、この寒い中走りながら、あたし達はすぐ幕を開けるであろう大食い勝負に胸を馳せていた──

 

『主君っ』

「?」

 

 腰に掛けたデッキケースから声が聞こえる。

 あたしは、微笑みかけた。

 

『良かったな。仲直り出来て』

「うんっ」

 

 小声で頷いた。

 目覚めてくれてありがとう、戦車(チャリオッツ)、あたしの相棒。

 ちょっと頼りなくて、甘ちゃんで、未熟なあたしだけど……。

 これからもよろしくね。

 

「巴ちゃんっ!」

「どうしたの、花梨?」

「あたし達、ずっと友達で、そしてライバルで居ようね!」

「……ええ、勿論よ!」

 

 あたし達は……これからも、切磋琢磨して更に高みを目指せる。

 もう、迷ったりなんかしないんだから!

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