学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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Ace32話:卍死の獄PARTⅡ

「玲奈が死にそうだ。後、一週間でな」

 

 

 

 仏頂面に反して、軽口を叩く事も多い黒鳥さんだが、俺達は知っている。

 こんな質の悪い冗談は、彼は言わないということを。

 俺達は、ボロボロの状態の彼に駆け寄った。

 

「師匠、どうしたんですか? 怪我だらけじゃないですか、玲奈さんが死にそうってどういうことですか」

 

 紫月が冷静さを失おうとしていた。

 自らの師匠の満身創痍な様子を目の当たりにしているからだろうか。

 

「僕の心配は良い。それよりも、玲奈の方がまずい。此処最近流行っているおかしな病。その多くはクリーチャーが起こしたものだということだ」

 

どうやら、思った以上に事態は広がっているらしい。

 スーパーの中で倒れている人達がむくりと起き上がっていくのを見て、少し彼は安堵したようだった。

 俺もそれは安心している。此処で起こった事件は、黒目黒龍の撃破で収まったのだろう。しかし、玲奈ちゃんは違うようだった。

 

「問題は、クリーチャーによって症状に程度というものがあるようだな」

「ようだ、とは? まるで今見聞きしたような言い方ですね」

「当然だろう。玲奈のそれは、恐らく一番重篤なケースだ」

『それもそのはず彼女を手に掛けたのは、私と同族のクリーチャーの進化系……《牙修羅バット》と《蛇修羅コブラ》なのですからねぇ』

 

 にょろり、と阿修羅ムカデが蜷局を巻いていった。ちょっと待てよ。犯人のクリーチャーまで割れているのか。

 「そこまで分かってるなら何故──」奴らを倒せなかったんですか、と飛び出した言葉を喉元に押しやった。

 にわかには信じがたいが、彼の切羽詰まった様子、そしてボロボロな服装と身体。それから何が起こったのかは容易に察せられた。

 

「仕留められなかった……ということですか。師匠が」

「……!」

 

 紫月の言葉に、黒鳥さんの下瞼が一瞬痙攣した。

 

「いや、手に負えなかった。御覧の通り、デュエルする前に返り討ちだ。悔しいが……それが現実だ」

「嘘だろ……黒鳥さんが」

 

 俺は信じられなかった。

 強豪で、エリアフォースカードを所持している彼が手も足も出ないなんて。

 

『しかし阿修羅ムカデ殿は闇でも相当上位のクリーチャーのはず。その貴殿が敗北を喫する所なんて想像できないでありますよ』

『……2体掛かりとはいえ、やはり同格は手強かったということでしょうよォ。サソリムカデの力が押し負けるなんて、ねェ。丁度蟲の居所が悪いのでェ……新幹線に毒が効くか試してみますかァ?』

『え、遠慮するでありますよ!!』

 

 相当腹が立っているようだ。

 恐らく阿修羅ムカデが味方でなければ、とっくにチョートッQは今此処で串刺しにされているだろう。

 そしてそれは黒鳥さんも同じようだ。ムカデの行動を窘める事はしない。自らの無力さに苛まれている一方で、焦りと苛立ちを隠せていない。

 

「しかし守護獣でも手に負えないワイルドカード、ですか。まだそんな切札を隠し持ってたとは、物騒ですね」

 

 紫月が口に手をやった。 

 シャークウガも頷いて答えた。

 

『……デ・スザークの野郎、翠月の嬢ちゃんに負けてから寝てたわけじゃねえみたいだな』

「ああ。ハインリヒ・ダーマルクも所詮は貴様等の言っていた以前の襲撃の生き残りに過ぎなかったということだろう。現に僕が不意打ちで空間に引きずり込み、たった今まさに仕留めた所だからな」

 

 そう言って彼は、《ハインリヒ・ダーマルク》のカードを目の前に差し出して見せた。

 もう何の気配も宿っては居ない。完全に浄化されたようだ。

 グロッキーな黒鳥さんが不意打ちであのハインリヒを仕留めたことから彼の実力が物語られるが、同時に話の中の2体がどれほど強いかが伺える。

 もし相対することがあるのならば、俺達も真っ当に戦える相手なのだろうか?

 

「それだけに、本体であるデ・スザークの勢力は増している。より強いクリーチャーを生み出しているのだろう。だから貴様等の力を借りに来た」

「黒鳥さん……」

「この件は僕1人の単独行動ではとてもではないが手に負えない。玲奈を助ける為ならば、僕は何だってする。僕1人だけで出来る事など、元からたかが知れているのだからな」

 

 紫月と俺は顔を見合わせる。

 答えは決まっていた。

 俺達は頷き合った。

 

「こちらこそ協力させてください、黒鳥さん」

 

 彼は頷いた。

 紫月も答えるまでもないと言わんばかりに次の段階に話を進めた。

 

「師匠。玲奈さんの病状について詳しくお願いします」

「ああ……」

 

 黒鳥さんは目を伏せた。

 

「大まかな症状は、前触れの無い嘔吐、高熱だ。今の所、病院の診察でもはっきりとした情報は出ていないが、敵の言葉が本当ならば1週間以内に玲奈は絶命するという」

「そ、そんな……」

『そりゃもう病じゃなくて呪いの類だぜ』

『それも、たっぷり苦しませてから殺すタイプのねぇ。奴らは人間の苦しみを糧にして、更に強くなるのですよォ』

 

 ぞっ、とした。

 アルカクラウンの時もそうだったが、自分の身体を維持するためにそこまでするクリーチャーがいる。

 その被害に遭った人々は数えきれない。現に死人も出ているのだ。

 人間とは根本的に相容れない、価値観の違う天敵と言える存在。守護獣たちが俺達と分かり合えているから忘れかけてしまうが、クリーチャーとはそもそもそういった存在のはずなのだ。

 

「畜生……何て連中だ!」

「おまけに被害に遭った人間が1人とは限りません。これはまずいことになりましたよ」

「何だと? まさか、玲奈と同じ目に遇った人間が居るというのか?」

「恐らくは」

 

 心当たりは俺にもある。

 昨日の演劇部の休んでいた部員。

 どうやら彼は急病で入院してしまったという。

 実はそういった話は学園内でも度々聞いており、一件だけではないだろう。

 となると、放置していれば今回の事件は多数の犠牲者を出すことになるはずだ。

 

 

 

「その辺りのリストアップならばブラン先輩が適役でしょう。データは彼女が持っているはずですから」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「データ、ありましたヨ! 今、鶺鴒で入院している生徒は6人。最も早く入院したのは先週の金曜日で1年生の生徒みたいデス」

 

 押しかけるように訪ねた俺達がブランに緊急事態である旨を伝えると、すぐさま彼女はタブレットを持ち出していつもの探偵姿でやってきたのだった。

 そこにあったのは彼女が何処から仕入れたのか分からない情報が集積されているデータベース。主に学園の生徒に関する内容が殆どだ。

 本来なら咎められても仕方ないようなインモラルな行為ではあるが、それでも度々役に立つ。

 

「しかし、そんなデータは本当に何処から集めてきているんだ?」

 

 流石の黒鳥さんも怪訝な顔で尋ねた。

 ブランはそっぽを向くと、髪を弄りながら「秘密は女を女にすると言いマスし……深くは聞かないでくだサイ」と答える。

 

「成程、ブラン先輩。秘密を持つのも女子力というものなのですね」

「そ、そうデス! チョコ作りも秘密も女子力には欠かせないものデス!」

「は? チョコ作り? この期に及んで何言ってんだこの迷探偵」

 

 またまた、いきなり突拍子もないことを言いだしたぞコイツ。

 そう問うた途端、紫月とブランは顔を真っ青にした。

 

「いや、なんでもないデスよ! チョコなんて言ってないデス! アカル、デュエマのしすぎでとうとう耳まで悪くなったんじゃないデスか?」

「何だとこの野郎」

「先輩、バレンタインにチョコが貰える見通しがないので幻聴が聞こえたのですよ、気のせいです、絶対に。ともかく今は入院している生徒について調べるのが先です」

 

 よしお前ら緊急事態だけどいっぺん表に出ろ、いや出てたわ。

 ……こいつら黙っておけば人の事を好き放題言いやがって。

 ともかく話を戻そう。

 

「それも原因不明の風邪か?」

「恐らくは……デモ、学園以外の人間にも被害者が居るはずデスから、犠牲者を出したくないなら一刻も早く行動する必要がありマス」

「とんでもねえ事になっちまったな……」

 

 俺は頭を掻いた。

 やることはいつもと変わらない。

 だけど、胸に今すぐにも失われそうな命がずっしりとのしかかっている。

 それがプレッシャーだ。失敗は許されない。

 

「前回は突然出てきた所為でこっちも対応が遅れた……だけど今回はそうはいかねえぞ」

「どうするのデスか?」

「覚醒したエリアフォースカードが出揃った今、全員が力を合わせればマフィ・ギャング軍団だって怖くは無いはずだ。それだけじゃない。魔導司達の力を借りる事だって出来るしな」

「魔導司……火廣金か」

 

 俺は頷いた。

 クリーチャーの仕業と判明したなら、あいつらの協力を仰がないわけにはいかない。

 いや、聡明な火廣金の事だ。もしかしたら先手を打っているかもしれない。

 そう思っていた矢先、スマホに着信。見ると、鶺鴒の病魔を此処最近魔導司の仲間と一緒に調べていた火廣金だった。

 俺は水を得た魚のようにすぐさま通話に出る。

 

「もしもし、火廣金か! 丁度良かった、今しがた大変な事になってな──」

『済まない部長。その件についてだが、先ほど魔導司協会上層部の方で決定が下された』

 

 早口でまくし立てるようにして彼は言った。

 まるで俺が言わんとしていることを察しているように。

 

『現在、鶺鴒の街の遥か上空にマスター・ドルスザクと思しき影を確認している。高度は凡そ8千m、それこそ普通は飛行機、あるいは飛行艇でなければ行けない高度だ』

「マ、マジかよ……。早速見つけたのか」

『空の上か。道理で儂のサーチでも見つけられなかったはずじゃ』

 

 そうなれば話は早い。

 あの時のように、エアロマギアを使って行くのが良いだろう。

 流石にあんな高さをダンガンテイオーで飛んで行っては先に魔力が切れてしまう。

 

「じゃあ俺達も連れて行ってくれ!」

『それは出来ない。既に別の魔導司の部隊が空へ向かった。俺達は待機だそうだ』

 

 待機!?

 わざわざ火廣金みたいな戦力を腐すっていうのか。

 

「ちょっと待て、どうしてそんな事になってるんだ」

『お咎め、だよ』

「はぁ?」

『俺達が好き勝手にするのを気に食わない者がいるのさ。上層部にね』

 

 共闘を経たのもあって忘れかけていた。

 アルカナ研究会は元々会長のファウストがクリーチャーに取り付かれて、部下の忠義心とトリス・メギスの洗脳を良い事に組織を暴走させたという前科がある。

 処罰は事の重大さに対して寛大だったと聞いた。経緯が経緯だったというのもある。

 それでも俺達が聞いた限りでは、アルカナ研究会は以前のような権威を失い、会長のファウストは全魔力を失ったのもあって失脚するという没落を辿ったという。

 

『この間のロードの事件で、俺達は好き勝手に動き過ぎたと難癖を付けられてな……まあアルカナ研究会を良く思わない者も組織には居るということだ』

「つまり、実質謹慎ってことか?」

『そうなる。俺達は今、飛行艇さえも差し押さえられてしまっている状態だ』

「そんな……!」

『デ・スザークは彼らに任せて俺達は俺達に出来る事をやるしかない』

 

 俺ははっ、とした。

 スマホの向こうの火廣金も悔しさを押し込めているようだった。

 

『街に顕れたクリーチャーを撃滅する。ワイルドカードなら、デ・スザークを倒しても残党が生き残る可能性があるからな』

「……ああ、分かった」

 

 やることは1つだ。

 1体でも多く、クリーチャーを倒す。

 その中に玲奈ちゃんを毒牙に掛けた奴が居るかもしれない。

 

「先輩、どうするのですか?」

「どうやら本体は、魔導司達が叩きに行ってくれているらしい。俺達は街に出たクリーチャーを一刻も早く全滅させる」

「成程な。魔導司達が先手を打ってくれたか」

 

 黒鳥さんが頼もしそうに言った。

 これでやるべきことが見えてきた。

 

「ブラン、サッヴァークにサーチをさせてくれ」

「言われなくても、デス!」

 

 既に頭に小さくなったサッヴァークを乗せているブランが叫ぶ。

 

「鶺鴒の街の中でサーチをお願いするデス!」

『承知した。始めるとするかのう!』

 

 こうして、俺達は事件解決に本格的に乗り出した。

 そしてサッヴァークがヘロヘロになるまで魔力を使って鶺鴒の街に潜んでいた闇のクリーチャー達を炙り出す事に成功する。

 曰く、かなり強いステルスが掛けられていたらしい。だが、一度捕捉してしまえば後は逃げられないように迷宮化で蓋をするのみだ。 

 

「それじゃあ、組み分けはどうする?」

「1人で行くのは危険極まり無いからな。最低でも2人組だろう」

 

 少し話し合った結果、俺は黒鳥さんと組み、ブランは紫月と一緒に行動することになった。

 同族の匂いを察知できる阿修羅ムカデと、索敵最強のサッヴァーク、そしてトークンを散らせるその他で考えて組むと必然的にこうなったのだ。

 そして火廣金を始めとした他の皆も各々見つけ次第クリーチャーを倒してくれるだろう。

 

「クリーチャー殲滅作戦、開始だ!」

 

 こうして、俺達は手分けして彼らを各個撃破していくことになったのだった。

 反撃の狼煙は上がった。

 街を蝕む病魔を滅すために。

 だからこそ、何もかもが上手く行くと思っていたその影で、ほくそ笑んでいる強大な悪意の事などこの時は考えもしなかったのだ──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──へぇ、戻ったゲジよマスター様」

「ゲジゲジゲジ! しかし本当に良いタイミングだったのに、何で呼び戻したゲジ?」

 

 暗流域。

 そう呼ぶのが相応しい程、鶺鴒上空は黒ずんでいた。

 空間に穿かれた大穴に佇む巨大な翼。

 デ・スザークは確かに其処に鎮座していた。

 

「お、前、達、ハ……ヨク、やった……」

「ゲジ? 俺達褒められてるゲジ?」

「そりゃそうだろ! ゲジゲジゲジ! あれだけ多くの人間を苦しみの底に叩き落としてやったゲジからね!!」

 

 喜び合う2体のクリーチャー、牙修羅バットと蛇修羅コブラは自らが集めた多大な魔力をデ・スザークに献上していく。

 その翼は更に巨大になり、嘴は鋭く、そして身体を構成している紫の炎は猛々しく燃え上がる。

 

「それで俺達に何かくれるゲジか?」

「くれるゲジよね?」

「オ、前、達は……」

 

 掠れた声でデ・スザークは呟いた。

 有能な部下2体への報償。

 きっと、更なる力を自分達にくれるに違いない──

 

 

 

「──用済ミダ」

 

 

 

 ──そう、思っていた。

 一瞬だった。 

 牙修羅バットの頭が啄まれたのだ。

 魔力を全身から噴き出させるが、それさえも啜るようにしてデ・スザークは自らの身体に取り込んでいく。

 何があったのか理解出来なかった。

 しかし、兄弟分が咀嚼されているのを見て、ようやく蛇修羅コブラは自らの置かれている状況に気付いた。

 

「ヒ、ヒイイイイイイイイイ、兄だ──」

 

 言葉は続かなかった。

 巨大な嘴に噛みつかれ、無月の炎に身体を溶かされ、コブラも抵抗することが出来ない。

 

「いぎゃあああ!!」

 

 悶絶した。 

 絶叫した。

 だが、もう誰も助けてはくれなかった。

 皮肉な事に、コブラはようやくこれが今まで散々人に与えてきた苦痛というものだということを理解したのである。

 直後に何も感じなくなった。

 彼は何も考える事が出来なくなった。

 

 

 

「ギャオオオオオオオオァァーッ!!」

 

 

 

 死者の絶叫を含んだ咆哮が虚ろの空に消えてゆく。

 「食事」を終えたドルスザクの身体が更なる変貌を遂げていく。 

 翼に刻まれた漆黒の星が、更なる死を刻んでいく──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──《Iam》でダイレクトアタック」

 

 

 

 その一撃でクリーチャーは破砕された。

 エリアフォースカードの魔力次第にはなるが、今日までにどれだけの数のクリーチャーを倒すことが出来るかが問題だ。

 もう最初の戦闘を始めてから大分経つが、クリーチャーの数は多い。

 

「片付きましたが、これで何体目でしょうか」

「10体目デース……」

「ブラン先輩、お疲れ様です」

「この辺りの敵は大体片付いたデス、かね? もう反応が見当たらないデス」

 

 疲労が溜まってきた2人は周辺の警戒をサッヴァークとシャークウガに任せて、クリーチャーが集まっている次のポイントへ徒歩で向かっていた。

 

「これで少しでも快復する人が居れば良いのですが……やはり元凶のデ・スザークを撃破しなければ大本を解決したとは言えません」

「牙修羅バットと蛇修羅コブラは確か、黒鳥サンの話によれば自分達のボスの方へ向かった……のデスよね?」

「”あの方”というのは間違いなくデ・スザークの事でしょう。今、彼らが何処にいるかは分かりませんが……」

 

 大元は間違いなく、あのマスター・ドルスザクに違いない。

 それを倒さない限り、ワイルドカードは無尽蔵に湧いて出て来る。

 今は魔導司達を信じるしかないのである。

 

「しかし火廣金達も大変デスよね……要は前科者はすっこんでろってことじゃないデスか」

「戦力の逐次投入は間違いなく悪手です」

「手柄が欲しい、って意図がスケスケデス」

「それを言うなら見え見え、ですよ先輩」

「あはは……Sorryデス」

 

 ブランの言い間違いを訂正する紫月。

 だが、こうしてみると改めて彼女と肩を並べて戦えるのを嬉しく思っていた。

 やはり、先輩はこうでなければ自分も張り合いが無いというものである。

 

「後、もう1つ聞いて良いデスか?」

「何ですか」

「黒鳥サンと出会った時の話デス。結局あの時、聞きそびれたじゃないデスか」

「ああ、それですか」

 

 次の場所に着くまでもう少し時間が掛かる。

 連戦は自分達にとっても毒であるので、休みがてらもう少し長い雑談をしても良いだろうというのが紫月の判断だった。

 サッヴァークの迷宮化とシャークウガの索敵が決め手だった。街の区画からクリーチャーを逃がさず、尚且つ遠い地点を徘徊するクリーチャーは自分達の元に誘導し、シャークウガがこれを捕捉することで全て撃滅するという成果を上げたのである。

 此処まででは、黒鳥が言っていたような、べらぼうに強いワイルドカードは出現していない。だが、連戦が仇となった。彼女達は勿論、守護獣も魔力の消耗で疲弊しきっていた。エリアフォースカードが魔力を消耗すると、クリーチャーと遭遇しても戦えなくなってしまう。連戦後はクールダウンが必要だ。確かに、魔術師(マジシャン)正義(ジャスティス)カードが覚醒する前と後では継戦能力が飛躍的に上昇しているが、それでも無理は禁物だ。もう少し休ませてもバチは当たらないだろう、と紫月は歩を緩めた。

 

「何処まで話したか……確か師匠が階段で転んで下にあったゴミ箱に頭から突っ込んだ所まででしたか」

「その話を聞きたいのは山々デスけど、シャーカーにカモられそうになった辺りから聞きたいデス」

「ああ……そこからですか」

 

 紫月の瞳は思い出すように何処か遠くを見つめていた。

 

「あの時、シャーカーにカードショップの外で待ち構えられていたのか、私達はいきなり詰め寄られました。交換しないかと持ち掛けられて」

「なんのカードとデスか?」

「確か《残虐覇王デスカール》だったような」

「うわぁ……」

「プレミアム殿堂カードの《スケルトン・バイス》と同じ効果を持っているって言ってまで誘っていた辺り、意地でも私達からカードを回収したかったのでしょう」

「それでどうしたんデスか?」

「まさか。幾ら初心者と言えど、そんな見え透いた罠に私達が簡単に乗る訳が無いでしょう。怪しさ満点でしたし。そしたらその男、今度は対戦を持ちかけてきて自分が勝ったらカードを交換しろ、とまで言ってきたんですよ」

「悪質デスね……まさに文字通りの初心者狩りってことデスか」

「しつこいので、私達もどうするか決めかねていました。その時ですよ」

 

 

 

 ──その勝負、代わりに僕が受けよう。カードなら、僕に勝てば幾らでもくれてやる。

 

 

 

 あの人は、現れたのです。

 

「それで、受けたんデスか? 黒鳥サンがそのデュエルを?」

「笑っちゃうでしょう。本当に漫画かアニメかと思いましたよ」

「そ、それで結果は……」

「言うまでもないでしょう」

 

 瞼を瞑ると、あの時の盤面が今も鮮やかに思い出される。

 

 

 

 ──お終いだ。《悪魔神ドルバロム》の効果で、互いの闇以外のクリーチャーとマナを全て破壊する。

 

 

 

 焦土と化した、相手のバトルゾーンとマナゾーンのカード。

 

 

 

 ──破壊された僕の《大神砕グレイトフル・ライフ》の効果でマナに墓地のカードを好きなだけ置く。

 

 

 

 バトルゾーンのみならず、墓地、マナ、全ての領域を支配する無駄の無いコンボ。

 

 

 

 ──増えたマナで《ロスト・ソウル》を唱える。貴様の手札も全て破壊だ。

 

 

 

 そして、徹底的に相手を追い詰める手札の大量破壊。

 まさに灰も残らなかった。

 暗野姉妹の知らない世界が其処には広がっていた。

 

「何度やってもその男は師匠には勝てませんでした。そして何度か挑んだ後、師匠の顔を見て何かに気付いたのか、そのまま逃げるように走り去ってしまったのです」

「その人、黒鳥サンがかつて世界大会に出たその人って気付いたんデショウね……」

「当時の私達には知る由もありませんでしたがね」

 

 無情でありながらも何処か美しささえ感じさせる彼のプレイングに、情景を覚えたのか。

 紫月を助けたのは、彼自身の高潔な性格によるもので、決して初心者の彼女達に自分の腕を見せつけたかったわけではないだろう。

 しかし、彼のデュエルは間違いなく紫月に衝撃を与えた。

 

「……思えば、あの日まではカードゲームの試合を見てもやっても、自分がどういうプレイングをしたいのか、どう強くなりたいのか、なんて分かりませんでした」

 

 紫月は自分のデッキケースを手に取った。

 

「でも、師匠のスタイルは、私が初めて見た”デュエマに於ける完成されたスタイル”でした。私に二度と忘れられない衝撃を与えたのですよ」

「完成されたスタイル、デスか……」

 

 ブランは思わず唸った。

 何となく紫月のデュエマのルーツを垣間見た気がした。 

 どうやら、そこから先は大方予想通りで、暗野姉妹は根気強く、もといしつこく黒鳥にアプローチを仕掛け、何とかデュエマの教授に預かることとなったのだという。

 

「しかし、頼んで快く引き受けてくれるような人には思えないのデスけど」

「まあそれはそれは我慢比べでした。いっぺん諦めようかとも思いましたが、みづ姉が『でもあの人カッコ良いし絶対に悪い人じゃないわよ!』と言うので……」

「ミヅキ……少女漫画の読みすぎでは」

「先輩は推理小説の読みすぎかと。似たようなものじゃないですか」

「似たようなものかもだけど違うデース!!」

 

 紫月は空を仰ぐ。

 翠月は一瞬で黒鳥に心を奪われたようだった。

 惚れっぽいと彼女の事を揶揄していた紫月だったが、自分もまた彼女と同じだったのかもしれないと思い直す。

 自分のデュエルは間違いなく、あの時のデュエルで決定付けられたものなのだ。

 

「とにかく、私の人生はあの時変えられたも同然かもしれませんね」

「大袈裟……ではないデスね」

 

 紫月は頷く。

 だからこそ、超えられない。

 頭では超えようと思っていても、彼にまだ届かない。

 

「まだ、遠い。遠すぎます。私は──何時になったら師匠に追いつけるのだろう、って。でも、何時の間にか……私の方が追われる側になっていたみたいですね」

「!」

 

 紫月は振り返り、ブランの方を見て笑みを浮かべた。

 

「……大変ですよ。追いつく事を考える以上に、今度は追い抜かれる事も考えなければいけないのですから」

「えへへー、そりゃそうデスよ! 私だって強くなってるデスから!」

「ええ。先輩は……本当に強くなりました」

 

 いきなり後輩に言われて、ブランも恥ずかしくなってしまった。

 

「強くならなきゃ……いけないデス。私は……何時か、またロードに向き合わなきゃいけないデスから」

「先輩……」

「此処で折れてるわけにはいかないデス。ロードに……私の正義が間違ってなかったことを、証明してやるデス」

 

 何処か切ない笑みで彼女は言った。

 ロードは、あの後ずっと魔術師に監禁されている。

 ブランはもう彼に会うつもりはない。

 しかし、それでも一度否定された自分の信念を今度は守るために強くなると誓っているようだった。

 

「だから、前に進むしかないのデスよ」

 

 そうブランが言ったその時だった。

 彼女は突然立ち止まる。

 

「……ねえシヅク」

「どうしましたか、先輩」

「空の方──何か見えないデスか?」

「何か? 何も見えないですが」

 

 空の一点を指差し、ブランはしきりに異常を訴える。

 紫月は早速、休ませていたシャークウガに問いかけた。

 

「シャークウガ。どうですか。何かが見え──」

『まずいマスター、その場から離れろ!!』

「え?」

『何かが、落ちて来るぞ!!』

 

 その時だった。

 紫月にもはっきりと見えた。

 曇った空に浮かぶ黒点が。

 そして、そこから分かれるようにして何かが落ちて来るのが。

 それは凄まじい速度で、こちらを目掛けて迫って来る。

 刹那、轟音と衝撃波が紫月とブランを襲った。

 黒く輝く星が、地面にめり込んでいた。

 

『っ……危なかったぞ』

 

 目を瞑っていたブランと紫月だったが、自分達の身体が無事であることに気付く。

 サッヴァークが仁王立ちしていた。

 周囲には金色のバリアが貼られており、彼に助けられた事が分かった。

 

「た、助かったデース……!」

「でも、一体何なのでしょう。急に空から……」

 

 めき、めき。

 瓦礫が音を立てる。

 それは人型。

 何かで汚れたような黒い翼を広げて起き上がる。

 

「ギュ、ギュ、ルァァァァアアアーッ!!」

 

 悍ましい叫びがその場を包み込む。

 見ると、その足元からどくどくと音を立てて紫色の粘液が染み出している。

 そして、当の本人もそれに汚染されているかのような印象を受けた。

 

「これってドルスザク、デスか!?」

『ドルスザク、か。それにしては……』

 

 サッヴァークが口ごもった。

 正体は不明だ。しかし、凶悪な闇の力を身に纏っている辺り、あのデ・スザークの眷属であることには違いないのだろう。

 そして気掛かりな事があると言わんばかりに怪物の前に立ち塞がった。

 

『暗野紫月。このクリーチャー、儂に任せてくれぬか?』

「え? か、構いませんが……」

『うむ。気になる事があるのだ』

「そうデス! 謎のクリーチャーの正体を解き明かすなら、この名探偵・ブランちゃんの出番デース!」

 

 進み出るブラン、そしてサッヴァーク。

 しかし、大人しく狩られる敵ではない。

 すぐさま飛び掛かり、サッヴァーク目掛けて鋭い爪を突き立てようとする。

 

「シャークウガ! お願いします!」

『おうよ!!』

 

 すぐさま激流がクリーチャーを包み込んだ。

 不意を突かれたからか、動きが一瞬鈍る怪物だったが、すぐさま漆黒の翼で羽ばたき、逃れようとする。

 だが、水の触れた場所から凍り付いていく。

 

『今のうちだ!! こいつ強いぞ!! 早くしねぇと逃げられちまう!!』

『鮫の字──うむ、助太刀、感謝するぞ』

 

 既に、凍り付いた場所が音を立てて割れている。

 恐らく黒鳥が戦ったという牙修羅バットや蛇修羅コブラと同格、否……それ以上だろう。

 こちらが2対1でなければ、空間に引きずり込む前に襲われていた所だ。

 

「先輩! あんなクリーチャー、ささっと倒してしまってくださいよ!」

「分かってマスよ! ……サッヴァーク! 行くデスよ!」

 

 正義(ジャスティス)のエリアフォースカードが光り輝いた。

 黒い翼は、空間に引きずり込まれる。

 

 

 

「さあ、此処から先は大迷宮。未知を解き明かす、楽しい推理の時間デス!!」

Wild(ワイルド)……Draw(ドロー)XI(イレヴン)……Justice(ジャスティス)!!』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──この辺りは大方終わったか」

 

 黒鳥は、腰を落ち着けるとそう言った。

 後ろから、ひぃひぃ肩で息をする耀がやってくる。

 連戦に次ぐ連戦。本来ならへばっていてもおかしくないだけの回数、彼は戦っていた。ついでに耀も。

 

「何処だ……何処に行った? 奴らは……」

「く、黒鳥さん……流石に休みませんか……?」

「む」

 

 膝に手を突く耀。

 黒鳥は顔に手をやった。

 エリアフォースカードの魔力消耗による疲労は避けられない。

 これ以上戦うのはガス欠になりかねないことは、黒鳥も分かっていた。

 

「玲奈ちゃんが心配なのは分かりますよ、命の危機なんですから。でも、それでぶっ倒れたら話になりません! 肝心のデ・スザークを倒せないと……」

「しかし……こうしている間にも玲奈は……」

 

 言いかけてから、彼は首を横に振った。

 自分の身体の事は自分が一番分かっていた。

 桑原の(ストレングス)のカードが無い今、魔力を急速回復する方法がないのである。

 

「いや、済まない。突っ走り過ぎた」

 

 どんな熟練のデュエリストも、魔力の消耗には敵わないのである。それは黒鳥も同様だった。

 黒鳥は、歩を緩める。

 また忘れる事だった。目の前のものに囚われすぎて、大切な事を見落とすところだった。 

 

「……ここらで休むか」

「一応周囲を見回っててくれ、チョートッQ」

「阿修羅ムカデ。貴様も頼む」

『了解であります!』

『勿論ですねぇ!』

 

 飛んでいく相棒を見送ると、耀は地面に座り込む。

 どっ、と疲労が溢れてくる。

 此処までで何体のクリーチャーを倒しただろうか。

 倒しても倒しても、すぐさま黒鳥に引っ張られる形で次の戦闘が始まるので休む間も無かったのである。

 

「……済まなかったな」

「いえ……少し、で良いんです。頭がガンガンしてきて──」

「戦闘の反動だな。辛いだろう」

「はい……」

 

 耀は痛む頭を抑えた。

 気分が悪かった。

 

「……でも、玲奈ちゃんはきっと、もっと辛い思いをしているはずですよね。もっと頑張らなければいけないのに──」

 

 耀も黒鳥が必死であることが分かっている。

 病床に伏せている玲奈の事を思えば、不甲斐なくて仕方なかった。

 しかし、過去の経験からある程度エリアフォースカードを休ませなければ、大事な時に空間が開けなくなる可能性がある。

 

「それで死んだらどうにもならない。必死に足掻くと、それを忘れてしまう時があるが……」

 

 黒鳥の声は何時に無く穏やかだった。

 

「何故忘れてしまうのかを考えた時、きっとそこには恐怖がある。今も僕は怖い」

「怖い? 黒鳥さんが?」

「ああ。誰にだって怖いものはある」

「黒鳥さんでも怖いものがある……何ですか?」

「僕は……これ以上誰かを失うのが怖いのかもしれない」

 

 黒鳥は首をもたげた。

 普段の彼ならば、口にしないような言葉だった。

 しかし、それは耀も同じだった。

 

「俺だってそうです。部活仲間が、クラスメイトの誰かが、大事な人が死んだら……どうなるか分からない」

「そう、か。そうだろうな。しかし、それは”もしも”の話だ。僕は既に経験してしまっている。僕は大切なものを戦いの中で何度も失ってきた。そして、大切なものを失う事で壊れた人間も見てきた」

「それって──」

 

 ノゾム兄の事じゃないか。

 飛び出しそうになった口を押える。

 

「喪失感は、人を殺す。掛け替えのないモノならば猶更だ。僕たちは戦場の兵士ではないのだ。一度味わってしまえば、その恐怖は……克服したと思っても、また襲ってくる」

 

 彼は拳を握り締めた。

 彼を縛り付ける過去が、今を蝕んでいる。 

 掴んだはずのものが消えていく恐怖が。

 

「一度や二度じゃないさ。何度も経験していれば慣れるものじゃない」

 

 二度と繰り返させない?

 そんな事は戯言だ。

 何度も失って、そのたびに死ぬほど悔やんできた。

 

「僕も……ノゾムのように壊れていたかもしれない。いっそ何処かで休まりたかったのかもしれないな」

 

 暗にそれは死を意味していた。

 これ以上苦しむのならば、死んでも構わない。

 黒鳥に、そう思わせるほどの絶望。

 耀には想像も出来なかった。

 

「だがな、僕がそれでも絶望しないのには理由があるんだ」

 

 彼は遠くの太陽を指差す。

 

 

 

「──例え失っても、引きずりながらでも進み続けた男が居た。どんな逆境でも、彼は絶対に負けはしなかった。暗く冷たい夜が来ようとも、太陽のようにまた昇る、そんな男が居る」

 

 

 

 黒鳥は手を広げた。

 

「あいつが居る限り、僕は生きて居られる。まだ、この世界も捨てたものではないと思えるんだ」

「その人って誰なんですか?」

「さあな。今何処に居るのか──」

 

 敢えて彼はぼかしたようだった。

 耀には分からない。

 まだ誰かを永遠に失ったなんてことはない。

 しかし、それでも──傷つくものを目の当たりにしたことはある。

 日常が非日常に変わるのを止められなかった負い目はある。

 それでも──

 

「彼は今も、前に進み続けているだろう。貴様のようにな」

「俺の、ように?」

「彼は貴様に似ているというわけではない。軽薄なちゃらんぽらんだ。しかし、彼を見ていれば……絶望などしているのが馬鹿らしく思える」

「……そう、ですか」

「結局立ち止まっても……僕たちは前にしか進めないのだろうな」

 

 分からない。自分がその”もしも”に遭遇した時、どうなるか耀には分からなかった。

 だが、きっと出来る事は”そうならないように”最善を尽くす事なのだ。

 今はそのために休む。それだけの事だ、と耀は自分に言い聞かせた。

 

「……ん?」

 

 着信音がけたたましく鳴る。

 耀がスマートフォンを取ると、相手は火廣金。

 ひょっとして、魔導司の面々がデ・スザークの討伐に成功したのだろうか。

 大本を絶てば、これ以上のクリーチャーが現れる事は無い。

 戦況が好転することは間違いないだろう。

 

「もしもし火廣金どうした──」

「──大変だ部長」

 

 彼の声は震えていた。

 

 

 

「飛行艇でデ・スザークの討伐に向かった魔導司達の飛行艇が空中分解した。全滅だ」

 

 

 

 耳を疑った。

 飛行艇が空中分解? 全滅?

 一体何が起こったというのだろうか、と耀は問い詰める。

 

「おい、どうなってんだよ!?」

「こっちも分からない! 出て行ったのはそもそも凄腕の魔導司集団だ。事故は有り得ない。しかし、急に消息を絶って、先ほど飛行艇が空中分解したのを確認した」

「嘘だろ……!? 大惨事じゃねえかよ!」

 

 凄腕の魔導司集団が全滅。

 耀は手が震えた。

 電話の向こうの彼の声は無念が隠せない様子だ。

 

「……非常に、残念だ。あれだけの数で負ける理由が見当たらない……! 予測外のイレギュラーが起こったとしか考えられん」

「そんな……!」

「白銀!!」

 

 通話の途中で黒鳥が耀の肩を揺さぶる。

 

「空を見ろ!!」

「え!? 空──」

 

 思わず見上げる。

 黒点だ。

 それが徐々に近づいてくる。

 

『マスター!! 大変でありますよ!!』

『とても巨大なエネルギーの反応が──』

 

 駆けつけてきた守護獣2体。

 しかし、2体の能力ではそれに対抗する事など出来ない。

 黒点はとうとう、恐ろしいスピードでどんどん大きくなっていき──落ちた。

 

「ッ……!!」

 

 アスファルトが捲れた。

 瓦が飛んでいく。

 折れる草木。

 そして、耀と黒鳥は、塵のようにその場から吹き飛ばされた。

 身体が叩きつけられる。

 痛みで言う事を聞かない。

 一体何が起こったのか、分からなかった。

 

「……な、何だ……!」

 

 黒鳥は無理矢理身体を起こす。近くに阿修羅ムカデの姿が無い。

 足元には、傍に血を流して倒れている耀の姿があった。

 怪我をしており、地面に突っ伏している。

 そして、身体を打ち付けたからか、既に彼の意識は無かった。

 

『マ、マスター!!』

「白銀!!」

 

 何とか無事だったらしいチョートッQも駆けつけて耀を揺すり起こす。

 しかし、反応がない。辛うじて息はあるが、完全に気絶しているようだ。

 

「くそっ、白銀を頼む!」

『黒鳥殿! 何処へ行くのでありますか!』

「あの巨大なエネルギーの正体を突き止めに行く!」

 

 駆けだした彼だったが、すぐさまそれらしきものが見えた。

 巨大な黒い球体だ。

 アスファルトにクレーターを作った巨大な何かは火の玉のようだった。

 そして、火の玉に阿修羅ムカデは見入っていた。

 

「阿修羅ムカデ……あれは一体」

『──マスター・ドルスザク、ですねェ』

 

 間髪入れずに守護獣は答えた。 

 あれが、無月の不死鳥、マスター・ドルスザクと言うのだろうか。

 

『しかし、此処まで強大とは──!』

「止めるしかない。今此処で僕らが奴を倒さねば、被害が拡大する」

 

 黒鳥は一歩踏み出した。

 そして、先ほどの耀と火廣金の会話を思い出す。

 飛行艇の空中分解。それだけ甚大な被害を齎したのがあのクリーチャーだというのならば、止めねばならないだろう。

 

『エリアフォースカードの反応……これは、悪魔(デビル)のカードですねぇ』

「もう1枚、隠し持っていたか」

 

 耀からは、ドルスザクを前回倒した際、刑死者のカードを回収したと伝えられていた。

 確かに普通のクリーチャーならば、

 

「最早あれは……生ける災害。言うなれば、人類の敵だ」

『クリーチャーにとっても、ですねぇ……!』

「狩るぞ、阿修羅ムカデ」

『ええ、勿論ですともォ!!』

 

 そう言った矢先、まるで狂喜するように死神(デス)のエリアフォースカードが飛び出す。

 それを見てか、呼応するようにして翼を広げた不死鳥が悍ましい鳴き声を上げた。

 否、最早その姿は不死鳥ですらない。

 誰も知らない、新しい生き物としてそれは目覚めようとしている。

 

「止めるさ。貴様の進化も、悲しみと死と苦痛の連鎖も。全て断ち切ってやる」

 

 護りたい者の顔が浮かぶ。

 

「僕が貴様を斃す──死神(デス)、起動だ!」

Wild(ワイルド)……Draw(ドロー)ⅩⅢ(サーティーン)……DEATH(デス)……HYAHAHAHAHAHAA!!』

 

 甲高い笑い声が決戦を告げる。

 否──既に、罠に嵌っている居る事を告げていた。

 死神が指し示す運命は、禄でもない事など分かっていたはずなのに──

 

 

 

 ※※※

 

 ブランと黒いクリーチャーのデュエル。

 既に、彼女は序盤から《フェアリー・ライフ》によるマナ加速を進めていた。

 一方の相手のクリーチャーも《ダーク・ライフ》を使用してマナと墓地を増やしていた。

 

「呪文、《ライフプラン・チャージャー》! 効果で山札の上から5枚を見て、その中からクリーチャーの《サッヴァークDG》を手札に加えるデス! チャージャーでマナに置いてターンエンドデス!」

「グ、ル、ギャ、ギュ……!」

 

 唸るような声を上げる黒いクリーチャーは、カードを引くと同じく4枚のマナをタップした。

 

「《ホネンビー》……!!」

 

 全く同じ動きだ。

 墓地を掘り進める黒いクリーチャーは、その中から1枚のカードを手に取る。

 《ルソー・モンテス》。呪文面がリアニメイト効果を持つツインパクトカードだった。

 

「墓地に落としたカードをリアニメイトするってことデスか!?」

『落ち着け。何が来ようが儂らのやることは変わらん。次のターン、儂を召喚せよ』

「分かってるデスけど……」

 

 強力な闇に汚染されたクリーチャー。

 その力はデッキのカードにまで及んでいる。

 

「私のターン! 6マナで《サッヴァークDG》を早速召喚しマス!」

『相分かった!!』

 

 水晶に包まれた龍の蛹が姿を現した。

 フィールドは透き通った水晶に包まれていき、迷宮を形成していく。

 

「その効果で手札に加えるのは、《ピクシー・ライフ》、《剣参ノ裁キ》、《青守銀ルヴォワ》デスよ!」

『早速裁きの紋章を使うとするかのう!!』

「ターンの終わりに《剣参ノ裁キ》を唱えるデス! 効果で《断罪スル雷面ノ裁キ》を手札に加えるデスよ!」

「ギギギ……!」

 

 機械のような呻き声を上げるクリーチャーは、カードを引いた。

 そして、今度は5枚のマナをタップする。《法と契約の秤》かと身構えたブランだったが──

 

「《処罰の精霊 ウラヌス》召喚……!」

「《ウラヌス》、デスかぁ!?」

『何を考えておる……!? このデッキ相手に表向きのシールドを増やすのは利敵行為じゃというのに……!』

 

 《ウラヌス》は登場時に、自分の場のクリーチャーの数だけ相手のシールドを1枚選んで表向きにするエンジェル・コマンドだ。

 しかし、ブランの切札である《煌龍 サッヴァーク》はシールドが増えれば増えるほど除去耐性に磨きが掛かるカード。

 しかも、表向きのシールドが3枚以上あれば《サッヴァークDG》の効果によるクリーチャーの踏み倒しが発動するのだ。

 ──何を考えているデスか……!? ひょっとして何も考えてない……否、そんな事は無いデス。あれだけ格の大きいクリーチャーが何の策略も無いはずがありまセン!

 表向きになったのは《ホーリー・スパーク》と《フェアリー・トラップ》のシールド。S・トリガーが割れてしまったのは痛手だ。

 

「ならば、まずはその勝負に乗ってやるデスよ! 私は《ピクシー・ライフ》を唱えてマナを増やすデス! さらに、ターンの終わりに、《サッヴァークDG》の効果発動!!」

 

 バチバチ、と稲光を立てて鋼の仮面が光り輝いた。

 

 

 

Cast&Engrave(裁き、そして刻め)、──《断罪スル雷面ノ裁キ》デス!」

 

 

 

 裁きの鉄槌と共に、《ホネンビー》と《ウラヌス》が磔と化す。

 これで表向きのシールドカードは合計で6枚。

 《サッヴァークDG》の仮面が罅割れていく。

 

 

 

「これが私の銘じる正義……descend to earth(降り立つ時デス)、《煌龍(キラゼオス) サッヴァーク》!!」

 

 

 

 水晶に降り立つ裁きの真龍。

 咆哮を上げ、幾多もの剣を構えてブランを守る為に立ち塞がる。

 

「ターンエンド、デスよ! 《サッヴァーク》を含めた私のクリーチャーは最大4回まで除去から身を護る事が出来るデス!」

「ギュ、ギュ、ルル……ザ、ッヴァ、ク……ザ、……!!」

『む?』

 

 サッヴァークは怪訝な声を上げた。

 

『今、このクリーチャー……儂の名を呼んだ、のか?』

「知り合いなのデスか?」

『少なくとも、守護獣たるこの儂は知らぬ。知っておるのは……オリジナルのサッヴァークじゃろうて』

「となると、あれはサッヴァークに関係のあるクリーチャー?」

 

 黒いクリーチャーが何かを求めるように手を突き出す。

 

「ザ、ヴァ、グ、ザ、マ──!!」

 

 まずは2マナで《ダーク・ライフ》が唱えられる。 

 単色カードがマナに置かれ、これで残るは5マナ。

 

「《法と契約の秤(モンテスケール・サイン)》……!!」

『いかん! 来るぞ!』

「な、何なのデスかぁ!?」

 

 悪意や怨念、負の感情が集積していく。

 闇に堕ちた白き翼が、羽ばたき、水晶のフィールドを濁らせた。

 降り立ったのは、あの黒いクリーチャーそのもの。

 しかし、一度羽ばたくと黒い靄が振り払われ、その真の姿が露になる。

 

 

 

「我ガ名ハ《 絶十(ゼット)》……《堕天ノ黒帝 絶十(ゼット)》……!!」

 

 

 

 その姿はまさに堕天使。

 溢れ出る憎悪のオーラに、ブランは絶句するしかない。

 既存のマフィ・ギャングのどれとも似ても似つかぬ容姿は、むしろメタリカのそれであった。

 

「──《絶十》! サバキスト、デスか!?」

『ああ、やっとわかったぞ。あれは儂の眷属のクリーチャーというわけか。だが、闇の力に完全に汚染されておるわ!』

「どうしよう、助けないとデス!」

『そのためには倒すしかあるまい! 否、気を抜けば……むしろ倒されるのはこっちの方やもしれんのう!』

「ええ!?」

 

 次の瞬間、ブランのシールドの表向きのカードが3枚、腐るようにして朽ち果てた。

 さっき表向きにされた《ホーリー・スパーク》と《フェアリー・トラップ》、そして《断罪スル雷面ノ裁キ》だ。

 

「あのクリーチャー、表向きのシールドカードを3枚も墓地に送れるデス!」

『最初からこうなるのを分かっておったか! 相手の方から一方的にシールドを墓地に送る手段を持っているのは非常にまずいぞ!』

「なら、ドラゴン・W・ブレイクで表向きのシールドの数を稼ぐデス! 3マナで《防鎧》を召喚デス! そして、《サッヴァーク》で攻撃デス!」

 

 剣が幾つも浮かび上がり、絶十のシールドへ飛んでいく。 

 相手のシールドを奪い取るドラゴン・W・ブレイクが炸裂しようとしたその時だった。

 

『《絶十》の効果発動……! 相手のクリーチャーが攻撃またはブロックした時、相手は自身の他のクリーチャーを1体選ビ、破壊スル──!!』

「嘘デショ!?」

 

 防鎧に魔の手が迫る。

 折角出したのに此処でいきなり破壊される謂れは勿論無かった。

 

「《サッヴァーク》の効果で《ウラヌス》のシールドを墓地に送って、《防鎧》は場に留まるデス! シールドをドラゴン・W・ブレイク!!」

 

 砕かれる2枚のシールド。

 それが飛び散ると共に、ブランのシールドの上に新たに2枚の表向きのシールドが現れた。

 《ホーリー・スパーク》に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》だ。

 しかし──

 

「S・トリガー──《シュトゥルム・シェキナー》!!」

「──ええ!?」

 

 次の瞬間、現れたのは無数の矢の嵐。

 それが《防鎧》を狙う。

 

「このターン、我ガクリーチャーノパワーハ+4000サレ、更にバトルに勝テバ相手のシールドヲ1枚選んでブレイクスル」

「って事は──!!」

「《防鎧》と我ヲバトルサセル!!」

「っ……《ホネンビー》のシールドを墓地に送って回避するデス!」

「ダガ、シールドヲ1枚ブレイクだァ!!」

 

 表向きのシールドが無い場所がブレイクされる。

 これで、シールドは残り2つになってしまった。

 攻め込んだはずが逆に追い詰められてしまったのである。

 

「ターン、エンド……!」

 

 相手の場には《絶十》が居る。

 殴られればこちらのシールドは全てブレイクされてしまうだろう。

 しかも、除去耐性はもう2回しか使えない。

 サッヴァークももう持たないのだ。

 しかし、《絶十》は着々とブランを追い詰める準備を進めていた。

 ──サッヴァークさえ──サッヴァークさえ残せれば──!!

 

 

 

「我ガターン──《ジャミング・チャフ》ヲ詠唱スル!」

 

 

 

 《ジャミング・チャフ》は次の相手のターンの終わりまで呪文を唱えられなくする効果を持つ。

 このターンでブランはシールドを全て割られる。

 重ねていた裁きの紋章も全て手札に入る。

 しかし、それらは今全て効力を失ったのだ。

 ──《ジャミング・チャフ》で、もう呪文を唱えられない! つまりサッヴァークで勝つのは、もう無理デス!

 このデッキにスピードアタッカーは存在しない。追加の打点は生成できない。

 そして今、《龍終ノ裁キ》による追加攻撃プランも頓挫した。

 

「終ワリ、ダァッ!!」

 

 《絶十》が残る2枚のシールドを掻き切った。

 砕け散るそれをブランは全身に浴びる。

 S・トリガーの呪文は使えない。

 サッヴァークの除去耐性も、裁きの紋章も、もう使うことが出来ない。

 そして自分のシールドも残されていない。

 ブランに残ったのはサッヴァーク1体のみ──

 

「十分デス」

「何ィ!?」

 

 ──そう。サッヴァークで勝つのはもう無理デス。でも、この勝利にはサッヴァークの力が必要なのデス!

 

 

 

「聞こえなかったデスか? 《サッヴァーク》だけ残っていれば、十分デスよ。次のターンで、Youは終わりデス!」

 

 

 

 確かにサッヴァーク1体のみならば勝てない。

 しかし、割れたシールドの奥で──探偵はこのデュエルの答えを手に入れていた。

 1枚で勝てないならば、2枚に重ね合わせれば良い。

 名探偵も1人だけでは活躍できない。相棒が居て初めて成り立つものだ。

 

「サッヴァーク。此処までよく持ちこたえてくれたデス」

『儂は二度とヌシから離れんと誓った。二度と、ヌシを1人にはさせぬわ』

「1+1は2なんかじゃないデス。私達が組めば∞の可能性があるって、教えてやるデスよ!」

『ああ──任せたぞ!!』

「OK! 絶十、見てるデスよ! 此処からが本領発揮デス!」

 

 ブランは笑みを浮かべる。

 そして、8枚のマナをタップした。

 

「このターンで勝てないなら、次のターンに何もさせなければ良いデス! 裁きの紋章が無くったって──最後の切り札があるデスよ!」

 

 《サッヴァーク》の上に、彼女はカードを重ね合わせる。

 浮かび上がるのは?。正義を表すアルカナの番号。

 今、裁きの刻が刻まれた。

 

「8マナで《煌龍 サッヴァーク》進化!」

 

 時計の針が現れる。

 指し示すのは12時、魔法の時間だ。 

 全てを失ったように見えた彼女が、全てを取り戻そうとしていた。

 

 

 

決起の時間デス(レヴォリューション)、《時の革命 ミラダンテ》!」

 

 

 

 顕現したのは天馬のような天使龍。

 全ての時を停止させる革命の力を持ったこの姿は、逆境で真価を発揮するのだ。

 

「──《ミラダンテ》の効果発動デス! 相手のクリーチャーを全てフリーズさせマス!」

「シ、カシ、ソノ程度デ──」

「もう援軍なんてやってこないデスよ! 《ミラダンテ》の革命ゼロ発動!」

 

 次の瞬間、鎖が何処からか現れ、絶十の身体を縛っていく。

 

「自分のシールドが無い時、相手はクリーチャーを召喚出来ないのデス!」

「ギ、ギュル、ギュアァ……!」

「これでもう、何も怖くないデスよ! 《ミラダンテ》でシールドをT・ブレイク!」

 

 砕け散るシールド。

 そこにはもう、S・トリガーなど無い。

 そして、クリーチャーによる攻撃もクリーチャーの召喚も封じられた絶十はもう何も出来なかった。

 

「ターンエンドデス!」

「バ、カナ……コンナ、コトガァッ」

 

 そこで絶十の身体は完全に停止した。

 この状況をひっくり返す事が出来るカードが無い。

 互いの戦略の裏の掻き合いではあったが、最終的に勝利を収めたのは圧倒的な革命の力で逆境を跳ね返したブランの方だった。

 

 

 

推理終了(リーズニング・オフ)! 《ミラダンテ》でダイレクトアタックデス!」

 

 

 

 裁きの光が絶十を包み込んだ。

 天使龍の稲光が、汚染された身体に染み付いた闇のエネルギー諸共、黒い天使を吹き飛ばす──

 

 

 

 ※※※

 

 

「──ギャオオオオオオオオオオーッ」

 

 

 

 

 

 黒鳥は、今まで戦ってきたどの敵とも桁違いな魔力に気圧されていた。

 数々のワイルドカードを食らい、その力を増していく怪物に死神のカードの反応も強くなっている。

 

死神(デス)が何を考えているかは分かりませんが、少なくともこの脅威を排除するのに協力してくれるようですねぇ』

「好都合。こいつを倒せば……玲奈は救われる」

 

 黒鳥は2枚のマナをタップする。

 先攻は自分だが、相手がドルスザクならば早期に手を打たなければならない。

 無月の門を展開される、その前に。

 

「僕のターン。まず、《エマージェンシー・タイフーン》を唱える。その効果でカードを2枚引き、《阿修羅サソリムカデ》を墓地へ捨てる」

「ギィ……召喚、《ドゥリンリ》……!」

 

 互いに闇のデッキで、優勢を取れるのは先に墓地を溜めた方となる。

 相手の場には、ターンの終わりに墓地のカードを増やす《堕魔 ドゥリンリ》が召喚された。

 

「毎ターン墓地が増えるのか……厄介だ。しかし、闇だけでは狙ったカードを落とせまい」

 

 黒鳥は3枚のマナをタップする。

 水のマナが再び浮かび上がった。

 手札の必要なパーツを墓地へ落とす。闇単には出来ない芸当だ。

 

「──呪文、《サイバー・チューン》。3枚カードを引いて2枚墓地へ落とす。ターンエンドだ」

 

 闇は墓地を増やす事が出来る。

 しかし、その方法は山札から墓地に落とすものが殆どでお世辞にも「上手」とは言えない。

 あくまでも闇の本分は墓地利用にある。

 その闇の欠点を補うのが、水の手札交換なのだ。

 

「《グリギャン》……!」

 

 次に現れたのは燭台の魔導具だった。

 3枚のカードが墓地へ送られる。

 しかもブロッカーで、地味だが面倒だ。

 更に、《ドゥリンリ》の効果でもう1枚墓地にカードが送られる。

 

「僕のターン……そろそろ来るか。此処は《パイレーツ・チャージャー》を使い、山札の上から2枚を見てそのうち1枚を墓地に置き、1枚を手札に加える。ターンエンドだ」

 

 これで墓地も増やしつつマナも増えた。

 次のターン6枚になるマナ。

 準備は整っている。

 

『マスター、これで次のターンに──』

「ああ。仕掛ける事が出来る」

「──死、兆、星ハ、見エテ……イル、カ?」

 

 ぞくり、と肌が泡立った。

 

「……《ラビリピト》」

「ッ……!?」

 

 次の瞬間、手札の1枚にフォークが突き刺さる。

 投げたのはウサギの人形だ。

 《追憶人形 ラビリピト》。登場時に相手の手札を1枚選んで捨てさせるデスパペットだ。

 

「だが、この程度ならまだ──」

「ヤレ、《ドゥリンリ》……」

 

 墓地にカードが落とされる。

 そして、幾つもの魔導具が墓地から現れる。

 

『これは無月の門──!?』

「いや、違う! 確かに無月の門かもしれないが……!」

「我ハ臥セシ龍──サレド、鳳ノ雛ニアラズ」

 

 巨大な魔方陣がバトルゾーンに浮かび上がった。

 そこへ魔導具が堕とされ、次々に砕け散っていく。

 溢れた黒い液体が魔方陣をなぞり──牙を剥き出しにした不気味な門を象った。

 空間に凄まじい瘴気と冷気が集まる。

 死者の祭祀が、闇の儀式が幕を開けようとしていた。

 

 

 

臥龍(ガリュウ)……臥龍(ガリュウ)……(デス)臥龍(ガリュウ)──!!』

 

 

 

  ──ヴァイ……!

 

 

      ──ヴォ……!

 

 

 

 ──グリ……!

 

        ──ドゥ……!

 

 

   ──ザン……!

 

 

 

「──開門(ゼーロ)、無月の門……(ゼツ)!!」

 

 

 

 巨大な肉の門から姿を現し、産み落とされたのは──鳳の怪物。

 最早、不死鳥だとか朱雀の概念を超え、新たな生命体となったマスター・ドルスザクが黒鳥の前に顕現した。

 

 

 

 

(バン)死ニ誘ウハ、漆黒ノ月……《卍月(ばんげつ) ガ・リュザーク卍》!!」

 

 

 

 刻まれるのはMASTERの刻印。その上にDのマークが焼き付けられる。

 空間全てに広がる程の強大な翼。

 そして、全てをむしり取らんとする強大な脚。

 炎の生命体が、全ての命を奪うべく死の侵食を開始する。

 今までこそはっきりしなかったが、無月の門・絶と共に姿を現したガ・リュザークは、まさしく今まで自分が相対していた相手なのだと黒鳥に確信させた。

 

「無月の門・絶……! やはり使ってきたか!」

 

 通常、無月の門は、自分の魔導具を召喚した際に場に2体、墓地に2体の魔導具が居なければ使う事が出来ない。

 しかし、無月の門・絶は各ターンの終わりに魔導具が場と墓地に合計6枚以上あれば発動が可能なのだ。

 つまり、任意のタイミングでコスト8以上のクリーチャーを召喚出来る。

 引き金は引かれた。

 

「《ラビリピト》……知識ヲ奪エ」

 

 ウサギの人形の瞳が不気味に輝く。

 次の瞬間、黒鳥の手札は全て墓地へ落とされた。

 

「まずい……!」

『《ラビリピト》は自分のターン中に、コスト8以上のクリーチャーを召喚した時またはコスト8以上の呪文を唱えた時、相手は自身の手札をすべて捨てるという効果を持ちますよォ!!』

「無月の門は召喚扱いだ。そして、無月の門・絶も同じ──! ターンの終わりに相手の手札を全て排する恐ろしいデッキというわけだ!」

 

 捨てさせられた《戒王の封》を恨めし気に見やる黒鳥。

 これでは蘇生させたいクリーチャーも蘇生出来ない。

 幾ら墓地を肥やしても意味がないのだ。

 更に、ガ・リュザークの身体から炎が放たれて黒鳥のマナゾーンを包み込む。

 

「キサマノ、マナ、ハ……三ツシカ使エナイ……!」

「ぐっ……!」

 

 ガ・リュザークはゲゲゲッ、と不気味なくぐもった笑い声を空間に響かせた。

 次のターンは間違いなく何も出来ない。

 マナは5枚あるが、実質使えるのは3枚だけ。

 しかも手札は無し。完全に1回休みだ。

 

「これが、マスター・ドルスザク……《卍月ガ・リュザーク卍》か……玲奈の奴が使っていたが……」

 

 よもや、その切札が彼女を毒牙に掛けるとは、彼女自身は思いもしなかったのだろう。

 

『知っていたのですか、マスター。しかし、どうするんですかァ!?』

「奴は今のデュエル・マスターズでも最強クラスの制圧力を誇る闇のクリーチャーだ。どのみちこのターンは動きを封じられる。下手に動けばアンタップ出来るマナもアンタップできなくなる」

 

 そう、あくまでもマナを3枚しかアンタップ出来ないというだけで、ずっとマナが3枚しか使えないわけではないのだ。

 

「僕はマナをチャージしてターンエンドだ」

「ギ、リ、ギュリュリリ……!!」

 

 唸るガ・リュザーク。

 何も出来なかったものの、次のターンに巻き返せば良いと黒鳥は考える。

 しかし──

 

「貴様ハ、終ワリ……人ノ子ヲ、残ラズ、始末、スル……《卍月の流星群(パンデモニウム)》!」

 

 破壊される《ガ・リュザーク》

 そうして飛び出した魔導具から2体が場に降り立つ。

 

「自分のクリーチャーを1体破壊して、マフィ・ギャングを2体場に出すカードか!」

「降リ、立テ──《ヴォガイガ》、《ヴォジャワ》……!」

 

 現れた2体の魔導具。

 しかし、この2体もすぐさま魔方陣を描き、無月の門を開いていく。

 

 

 

朱雀(スザク)……朱雀(スザク)……(デス)朱雀(スザク)──!!』

 

 

 

 墓地に落とされた魔導具が再び幽世の門を構成した。

 そこから飛び出したのは──あらゆる生命をひれ伏させる不死鳥だ。

 

「《卍デ・スザーク卍》!!」

「来たか……!」

 

 マナをアンタップさせて動き出す事を予期していた黒鳥に対して、ガ・リュザークが差し向けた刺客は《デ・スザーク》だった。

 これで、クリーチャーを出しても全員タップインすると宣告されたも同然だ。

 更に──

 

「《ヴォガイガ》……《ヴォジャワ》……!!」

 

 《卍月の流星群》で蘇生された2体の効果が解決される。

 《ヴォガイガ》で4枚、《ヴォジャワ》で2枚のカードが墓地に落とされていく。

 しかも2体の効果で、《卍月の流星群》と《グリギャン》がサルベージされてしまった。

 

「これで墓地と場の魔導具は再び合計6枚を超えた……何時でも無月の門・絶が発動できると言っているようなものか」

『実質、《卍デ・スザーク卍》と《卍月 ガ・リュザーク卍》の2体に睨まれているようなものってことですかァ……』

「確かにタップイン効果は厄介だし、奴らは破壊しても破壊しても何度でも蘇る。だが──」

 

 黒鳥の表情に怯えは無かった。

 

 

 

「──それがどうした?」

 

 

 

 睨みつけるは敵の首のみ。

 例えドルスザクが何体束になって掛かってきても──今更彼にとってはさしたる問題では無かった。

 

「……なるほどな。ガ・リュザーク、貴様は確かに強い。それは何体ものクリーチャー、そして人間を踏み躙って手に入れた強さだ。さぞ素晴らしいのだろうよ」

「ギイィッ……!!」

 

 相手は人類全ての天敵になりかねないほどの強大なクリーチャー。

 文字通り、空を支配した生態系の頂点。

 それどころか、更に進化を重ねようとしている。

 しかし。

 

 

 

「だが、僕の方が強い。少なくとも、今、この場に於いては」

 

 

 

 浮かび上がったのは──死神(デス)のエリアフォースカード。

 それが黒い炎に包み込まれて不気味な光を発した。

 

「僕はどんな代償を払おうとも──貴様を殺す。例え貴様が不死だったとしても、死の概念の無き怪物に死を与えるのは、死神の仕事だ」

「ギイイィィヤァァァァーッ!!」

 

 咆哮するマスター・ドルスザク。

 だが、その声に彼は全く臆さなかった。

 

「僕は、ちっぽけで弱い人間だ。しかし、貴様は唯一つ、やってはいけないことをやった。僕の大事な人に、守るべき人に手を出したのは重罪だ」

「オロカナ……ダカラドウシタトイウノダァ!」

「貴様の首を刎ねるのは、僕だ」

 

 黒鳥はカードを引く。

 阿修羅ムカデには、その姿が既に死神と一体化しているようにさえ見えた。

 

「素晴らしい──最高の引きだ」

 

 死神は──嗤っていた。

 

「死を呼ぶ城塞よ。我が手に下僕を。《サタン・キャッスル》、要塞化!」

 

 シールドの1枚に要塞化されるカード。

 それが魔王のような容貌の城塞を出現させる。

 

「貴様には美学等生温い。後悔させてやる。僕の大事な人を傷つけた事をな。そのためになら僕は、悪魔でも、死神にでも、魂を売ってやるさ」

「ギィギィ、オロカナ、人間ダ……!」

「そうだ。僕は愚かだ。大事な人1人守れない──愚かな人間だ」

 

 悪魔の要塞から、二つの眼光が光る。

 

「ターンの終わりに、《サタン・キャッスル》の効果で墓地からコスト8以下の闇のクリーチャーを1体場に出す」

 

 悍ましい声と共に、飛び出した蟲のクリーチャー。

 幾つもの髑髏を携え、遂に戦場へ降り立つ。

 

「蠍の火に導かれし魂よ。(みなごろし)の悪魔の名を借りて命ず。

根絶やせ、死神(デス)のアルカナ──《阿修羅サソリムカデ》!」

 

 呪縛と戒めから解き放たれたのは、全ての命を壊す黒き蟲。

 死と生の堺さえ超越した墓場の番人が主に付き従うようにして姿を現した。

 

『ヒィヒッヒヒャハハハハハァーっ!! さあ、お待ちかねの時間ですよォ!!』

「《サソリムカデ》の登場時効果発動。山札の上から2枚を墓地に置き、そして墓地から2体のマフィ・ギャングを場に出す」

「──!!」

「場に出すのは、《阿修羅ムカデ》2体だ」

 

 《サソリムカデ》に従属する2体の《阿修羅ムカデ》が地獄から這いずり出る。

 そして、不死鳥の炎などモノともせず、《阿修羅ムカデ》は《卍デ・スザーク卍》の身体を一瞬で粉砕してみせる。

 

「そして、《阿修羅サソリムカデ》のターン終了時効果は誘発しない。ターンエンドだ」

「──ソレハ、コチラモ同ジダ。不死身ノ身体ヲ……嘗め、ル、なぁ!!」

 

 再び墓地から大量の魔導具が姿を現した。

 無月の門・絶は相手のターンの終わりでも発動するのである。

 

臥龍(ガリュウ)……臥龍(ガリュウ)……(デス)臥龍(ガリュウ)──!!』

 

 魔方陣が描かれると共に、巨大な幽世の門が現れる。

 

「──開門(ゼーロ)、無月の門……(ゼツ)!!」

 

 再び現れる巨大な門から不死身の怪物が姿を現した。

 幾らデ・スザークを倒しても、今度はガ・リュザークが何度でも出てきてしまう。

 更に──

 

「《ジグス★ガルビ》……!!」

「出てきたか……!」

 

 3体の《堕魔 ジグス★ガルビ》が、無月の門に誘われて現れる。

 こちらのターンの終わりに現れたため、次のターンにはすぐにアンタップして攻撃出来るのだ。

 

「終わり、ダ、黒鳥レェン……!! 《グリギャン》ヲ召喚……ソシテ、貴様の全テヲ奪イツクス!!」

 

 黒鳥に襲い掛かる3体の《ジグス★ガルビ》。

 例え総攻撃に失敗しても、ターンの終わりに無月の門・絶が発動すれば、また《ラビリピト》が現れるのだ。

 シールドを出来るだけ削りきる。さもなくば、今度は黒鳥の不死身の軍団が襲い掛かる──

 

「大方、そう考えているのだろうな。浅い」

「ッ……!?」

 

 次々に砕け散るシールド、そして崩壊する《サタン・キャッスル》。要塞化された城は、そのシールドがブレイクされると墓地に送られてしまうのだ。

 黒鳥も破片で傷を負っていく。

 しかし、彼は痛みなどおくびにも出さない。

 

「誰かの痛みを背負う覚悟。それが貴様と僕の最大の違いだ。大衆の代行者になるつもりは無い。唯、大事な人の為に……貴様は僕の手で絶つ。それだけだ」

 

 2体目の《ジグス★ガルビ》が叩き割ったシールドから光が零れる。

 S・トリガーだった。

 

「呪文、《戒王の封(スカルベント・ガデス)》。効果で墓地から、2体目の《阿修羅サソリムカデ》を場に出す」

「ギイッ……蟲如き、ガァッ……!」

「効果で墓地から、《堕魔 ドゥポイズ》、そして《龍装医 ルギヌス》を場に出す。《ドゥポイズ》の効果で《阿修羅ムカデ》2体を破壊し、貴様のクリーチャーを1体、貴様が選んで破壊する」

「《ジグス★ガルビ》……!」

「これだけでは終わらんぞ。今度は《阿修羅ムカデ》2体が破壊された時の効果でタップして場に出る。登場時効果で《ジグス★ガルビ》と《ラビリピト》のパワーも-9000して破壊だ」

「ギイッ……!!」

「そして最後に、《ルギヌス》の能力で3体目の《ガラムタ》を場に出す」

「ソンナ、馬鹿ナァ……!」

 

 場に出揃ったのは、2体の《阿修羅サソリムカデ》に2体の《阿修羅ムカデ》、《ドゥポイズ》に《ルギヌス》、そして《ガラムタ》だ。

 物量だけを見れば、最早勝てる軍勢の数ではない。

 《ガラムタ》以外は全員W・ブレイカーで、そしてS・トリガーは《ガラムタ》によって封殺されてしまうのである。

 

「そして更にこのターンの終わりに《サソリムカデ》の効果で《阿修羅ムカデ》2体を破壊して即復活させる。残りの《ジグス★ガルビ》もパワーを-9000して破壊」

 

 まあ、どうせまた復活するだろうがな、と黒鳥は付け加える。

 次のターンはガ・リュザークにはもう渡さない。

 

「──終わりだ。不死身の軍勢を前にして圧し潰してやる」

「オ、ノレェェェーッ!!」

 

 無月の門・絶が発動し、現れる《ガ・リュザーク》。そして再び大量に現れる《ジグス★ガルビ》達。

 だが、もう何もかもが遅すぎた。

 

「《ガラムタ》で攻撃。これでこのターンの終わりまで誰も「S・トリガー」は使えない。そして──今度こそ、これが一斉攻撃というものだ!!」

 

 蟲の大群がガ・リュザークに襲い掛かる。

 自らが侮り、そして食い散らかしたムカデ達に──蹂躙されていく。

 全ての逆転手も、全ての切札も封じられたガ・リュザークに──容赦なく黒鳥は死の宣告を突き付けた。

 

 

 

「コノッ……蟲ケラ共ガァァァァーッ!!」

「お終いだ。《サソリムカデ》でダイレクトアタック」

 

 

 

 今度こそ、不死の怪物の身体は概念諸共消滅していく。

 全ての命に等しく死を与える、死神のアルカナの元に──

 

 ※※※

 

 

 ──終わった。

 ようやく、この異変の元凶を撃破出来た。

 黒鳥は思わず消滅していくガ・リュザークを見やる。

 今度こそ完全に倒せたと思いたいが──

 

「ん?」

 

 ──様子が、変だ。

 ガ・リュザークから粒子となって放出されていく魔力が──消えない。

 それどころか、バチバチと音を立ててどんどん集合していく。

 地面に落ちた悪魔(デビル)のエリアフォースカードから、魔力がどんどん溢れているのだ。

 

「これは、どうなっているんだ!?」

『マスター!! 高エネルギー反応ですよォ!! 奴が今までに吸いに吸ったクリーチャーのエネルギーが溢れ出して──!!』

「どうなるんだ!?」

『また、新しいクリーチャーの培養になる可能性がありますねェ!!』

 

 冗談じゃない。折角元凶を倒したというのに。

 そんな事になったら、また最初からやり直しだ。

 

「どうすれば……!」

 

 そう思っていた矢先だった。

 死神(デス)のカードが、いきなり飛び出す。

 そして、エネルギーの塊に向かって突っ込んだ。

 

「なっ!?」

『一体何を──』

 

 瞬く間に、あれほど強力だったエネルギーは薄くなっていく。

 その代わり、死神(デス)に全ての魔力が集積されていく。

 何も成す術がなく、立ち尽くしていた黒鳥と阿修羅ムカデ。

 

『魔力を、全部吸いつくした……!?』

「驚いた。死神(デス)にはこんな力があったのか……!」

 

 

 

『ソノ通リダ、黒鳥レン』

 

 

 

 声がする。

 見ると──死神(デス)の方から響いているようだった。

 何時もの発狂したような声とは打って変わって落ち着いたそれは、何処か黒鳥を却って不安にさせるものだった。

 

死神(デス)よ。助かった」

『礼ハ、良イ。ソレヨリモ、貴様ニ伝エテオカネバナラヌ事ガアル』

「?」

『今更何だと言うんですかねェ? 不可解な行動が多すぎて、イマイチ信頼が無いんですけどねェ』

 

 死神(デス)は意にも介さず続ける。

 

『我ハ……探シ続ケタ。最強ノ、闇ノ力……ソレハ、クリーチャート、ソレヲ使役スル人間ガ合ワサッテ、初メテ成リ立ツ事ダ』

「最強の闇の力、か」

『黒鳥レン……怒リニヨッテ、ヨリ強クナッタ貴様ノデュエル、称賛ニ価スル。ソシテ、ソノ眷属ノ阿修羅ムカデモ──』

「何だ? 褒めているのか貴様は」

 

 何かきな臭いものを感じた。

 死神(デス)は続けた。

 

 

 

『ソシテ、最強ノ闇ノ力……無月ノ門モ』

「──!!」

 

 

 

 黒鳥は身構える。

 やはり、何かがおかしい。

 

『幾ラ最恐ノドルスザクト言エド、野生同然ノ知性デハコノ程度。ソコデ黒鳥レン、ソシテ優秀ナクリーチャーデアル阿修羅ムカデガ必要ダ』

「おい、こいつは何を言っているんだ、阿修羅ムカデ──」

 

 問いかけたものの、阿修羅ムカデは何も言わない。 

 それどころか──次の瞬間、彼の武器が黒鳥に振り下ろされる。

 

「っ……!?」

 

 鮮血が迸った。

 鋭利な刃が、黒鳥の身体を切り裂いていた。

 彼の身体が崩れ落ちる。

 

『貴様ノ権限ハ、失ワレタ。コレカラハ、我ガ──僕が、貴様に成り代わろう」

「っ……ぐう、あああっ……!!」

 

 死神(デス)のカードから煙が噴き出す。

 そこに現れたのは──黒鳥であって、黒鳥ではないものだった。

 

「僕が……目の前に……!」

 

 失血によって体が凍えてくる。

 頭が回らない。

 痛みが鈍く、体中を駆け巡る。

 

「最強のデュエリストに、最強の眷属、そして最強の戦法。これが合わされば、僕は無敵だ。クククッ、ハハハハハハ!!」

 

 騙された。そう思った時には遅かった。

 阿修羅ムカデが付き添うようにして、もう1人の黒鳥に近づく。

 1人と1体は──すぐさま煙のように消えてしまった。

 

「待てっ……阿修羅ムカデ……!! ちく、しょう……阿修羅……ムカ、デ……!!」

 

 消えていく。

 相棒が、また目の前で。

 黒鳥は失意、そして絶望の底に落とされながら、目を閉じた。

 ──僕は、あのエリアフォースカードに、全部騙されていたというのか……畜生!!

 拳を握り締める。

 無念だけが募っていった。

 ──玲奈……すまん、僕は……!

 命あっての物種と言うが、そもそも自分は助かるのだろうか。

 耀は近くに居ない。

 勿論、紫月も、ブランも。

 魔導司達が駆けつけてくるだろうか。

 それでもクリーチャーと戦闘していれば、助けには来る事が出来ない。

 ──此処までか……!! 折角、勝ったのに……玲奈を、助けられたと思ったのに……!

 だが、これで良かったのかもしれない、という考えが浮かぶ。

 もう黒鳥は疲れ切っている。

 ──は、はは……寒い、な……一人で死ぬのは……こんなにも寂しくて……! だが、これでやっと……休めるのか。

 目から光が消えていく。

 何も見えなくなって、霞んでいく。

 痛みも何も感じない。ただ、血のべっとりした感触が残っていた。

 歴戦のデュエリスト・黒鳥レンは、闇の貴公子は──死を目の当たりにしていた。

 

 

 

「師匠!! 師匠ーっ!!」

 

 

 

 絶望の淵で──誰かが、自分を呼んだ気がした。

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