学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
結局、
それまで黒鳥さんがどうやって戦うかは未定だったが、彼曰く戦う事を諦めたわけではないとのことだ。
アルカナ研究会側からも今回の件についての謝罪が来たが、彼は自分で決めた事だから、と受け取らなかった。
というわけで、事件の後日。
俺達はまたいつものように部室に集まっていた。
はずだったのだが、今日はまだブランと紫月の姿が見えないので、火廣金と2人で駄弁っていた。
「黒鳥さん……大丈夫かなあ」
「本人が悲観する必要はないと言ってはいるが……」
あの人はあれでナイーブな所があるから、また自分を追い詰めたりしていないか不安だ。
「しかも
「そうだな。あれは危険すぎるとのことだ。また研究の対象にもなるだろうがな」
「それでもまた巡り合うのを信じる、のか……」
「それが彼なりの心構えで、あれだけしぶといクリーチャーだった相棒への敬意ということだろう」
紫月から聞いた。
最後に黒鳥さんは、自分で悲しい人にはなりたくないと言っていたという。
悲観して自分を追い詰めるよりも、未来を信じる事を選んだのはそういうことだろう。
一時的な別れで、人生ではよくあることだ。だから気にする事は無いということだろうか。
俺だったら不安で潰れてしまいそうだ。
「だからきっと、俺らも悲しい顔してたら、ムカデの奴がまた出てきた時に噛まれちまうんだろうな」
「それもそうだ」
「ハイハーイ! 皆サン、遅れたデース!」
そう言って部室に入って来たのは、ブランだった。
部室が重い空気になった時、盛り上げてくれるのは何時も彼女だ。
何やらバッグに何かを入れて持ってきている。
「どうしたんだ? それは」
「遅くなったけどバレンタインのチョコレートデース!」
「バレンタインか。これまた日本で色々変わっている行事だな。そもそもこの日は聖バレンティヌス司教が拷──」
「それ以上はいけない」
「日頃お世話になっているということで。さっき桑原先輩にも渡してきたのデス!」
「成程、部室が教室に近いから、来るついでにってことか」
「そういうことデース! というわけで、私の手作りチョコを二人にもプレゼント・フォー・ユー!」
「有難い。受け取っておく」
「ありがとな、ブラン」
ブランから手作りらしいチョコを受け取る。
何やらカップの中に丸く膨れて表面がカリカリしたようなものだ。
「これって何なんだ?」
「エアインチョコ、デスね!」
「重曹で膨らませるアレだな」
どうやら、なかなか凝ったものを作ってきてくれたらしい。
こういったものがみられるのも、バレンタインチョコの醍醐味ってことか。
「しかしバレンタインチョコを同級生から貰うのって新鮮だな」
「そうなんデスか? カリンから手作りチョコを貰ったりとかは──」
「小学生の頃にチロルチョコを貰ったくらいだ。つか、あいつの料理の話は……しないでくれ」
「過去に何があったんデスか……」
実際そうだから仕方がない。
誰にだって向き不向きがあるのであり、彼女はそれが極端なだけなのだ。
極端すぎて──危うく死人が出かけたのだがな。
「仕方があるまい。そういうこともあるだろう」
「ところで、紫月の奴は何処行ったんだ?」
「さあ。黒鳥サンと電話でもしてるんじゃないデスか?」
「そうか……まあ積もる話も色々あるんだろう」
「ところで部長。君、暗野からチョコクッキーを貰ったか?」
「え? 貰ってないけど」
と言うことは火廣金は貰ったということなのだろうか。
「そうか。俺は今朝渡されたんだ。嫌いではないぞ、クッキーは」
「ふふん、2人で一緒に人数分沢山作ったんデスよ? 私と一緒に他の人には渡して回ってたんデスけど、アカルはまだなんデスかぁ?」
「ええ……ってことは、貰ってないの俺だけ?」
「流石にシヅクに限ってはそれは絶対無いと思いマスよ? 気合入れて作ってマシタし」
にやにやと笑うブラン。
別にチョコレートにそこまで執着は無いが、俺だけハブられるのはショックだぞ。
俺、嫌われる事したかな。
「……心配だからってガッツリ絡み過ぎたかなあ」
「あれ? 結構気にしてるデスか?」
そう言っていた矢先、ガラガラと部室の扉が開く。
現れたのは紫月だった。
彼女は俺の方を見るなり、咳払いを不自然にすると言った。
「白銀先輩。師匠が話したい、とのことです」
「え?」
※※※
「えと、この間の件は……その、お疲れ様でした」
『そちらこそな。大変な事に巻き込んでしまって済まなかった』
受話器越しの黒鳥さんの声色は思っていた以上に落ち着いていた。
『白銀よ。僕の事を心配する必要はない。僕は貴様等の危機があれば、ありとあらゆる手を使ってまた支援するつもりだ』
「あ、ありがとうございます。でも無茶苦茶な事はしないで下さいよ? 病院抜け出したりとか」
『……善処する』
するつもりねぇな絶対に。
『今、アルカナ研究会がまた僕が戦えるように色々研究しているという。だから貴様が心配する事は何もないぞ』
「うーん……」
イマイチ信用しかねる。
とはいえ危険を承知で黒鳥さんに
『まあ、楽しみに待っておけ』
「分かりましたけど……あ、それと怪我。怪我は大丈夫ですか?」
『順調だ。翠月のオウ禍武斗が施してくれた応急処置で自然治癒が早まっている。すぐに傷も目立たなくなるだろう』
「そうですか……後遺症とかも無さそうだったし良かったです」
『ああ。……さて、そろそろ家に着く。ここらで失礼するよ』
「こちらこそ、ありがとうございました」
『では、また会おう──僕の弟子を頼んだぞ』
少しだけ茶化すような口調で彼は言っていた。
あの人の心中は本当に分かりづらい。
スマートフォンを手渡すと、紫月は早速問うてきた。
「何か言ってましたか?」
「心配は要らないってさ。後、弟子を頼んだって言われちまった」
「全く、あの人は余計な事を……」
呆れたように紫月は髪を掻き毟った。
「……今回の件で、私は大事な人を失う恐怖に直面する事になりました。師匠は、私のデュエルを作ってくれた恩人で、掛け替えのない人ですから」
彼女の表情は少しだけ暗くなった。
「大事な人が多いと、それだけ重圧も大きくなるものですが……それだけ支えてくれる人も沢山いる事も実感出来ました」
「師匠とのコンビネーションはバッチリだったみたいだな」
「やはり私達は似た者同士のようです。……美学は未だに分からないですが」
「ははっ、確かに俺もまだよく分かんねえ」
師弟の絆が今回の事件を乗り越えたことは確かだろう。
やはり、この二人は切っても切れない仲なのだ。
例え普段悪態をついていても、未熟者扱いしていても、互いの強さは互いが一番知っているのだから。
「じゃあ部室戻ろうぜ。皆も待ってるだろうし」
「あ、あのっ」
彼女は引き留めるように俺の袖を右手で引っ張る。
「……それと……遅くなってしまったのですけど」
「どうした? 紫月」
彼女の左手を見ると──何やら小包が握られていた。
「バレンタインのチョコレートです。一応……いや、その、渡しておきます」
「ああ、俺にか。ありがとな」
「へ、下手くそだから、気に入ってもらえるか分からないけど、美味しくは……出来たと思います。……その。いつも、ありがとう、です。白銀先輩」
俯きがちに、途切れ途切れに言う彼女。
今日の紫月は何だか変だ。
「お、おう……こっちこそ」
俺も言葉が続かない。
何だか居心地が悪いような良いような、そんな気分だ。
「……これからも、よろしくお願いしますね。先輩」
先に彼女の方から駆け出していってしまう。
俺は追いかけようとしたが、先に小包の中を確認したいような衝動に襲われる。
ピンクのリボンで結ばれた小包の中を覗くと、不格好な手作りチョコが入っていた。
彼女が慣れない手付きで、チョコを湯煎に掛けたり成型している場面を思い浮かべると苦笑する。
初めてだったのだろうか。苦手なりに頑張ったのだろうか。ブランも一緒だったみたいだし──
──あれ?
そういえば、火廣金はチョコクッキーを貰ったって言ってたな。
他の人にもそれを配ってたみたいだし……。
……ということは、俺だけ別に手作りチョコ?
「……初めてだな、こんなのは」
俺は思わず周囲を見回した。誰も居なかった。
今は何でもない振りをしていよう。
というか、していないと部室に戻れる気がしない。
お返し──ちゃんと渡さなきゃ駄目だな、これは……。
※※※
しばらく家を空けていたので大分従妹達には心配を掛けたが、大学で外せない用があったと誤魔化しておいた。
元々遊びに行くような素行ではなく、一応真面目で通っていたのが功を奏したと言えるだろう。
「──ふぅ」
もう死にかけるのは御免だ、と彼は苦笑する。
2月の空に、吐息が白く消えた。
既に辺りは暗くなっており、黒鳥は既に喋らない相棒のカードを電灯にかざした後、デッキケースに仕舞った。
玄関に鍵を刺して回して開ける。
歩き疲れた彼が廊下を歩くと、ぶつかるように人影が現れた。
「……玲奈?」
「……お帰り」
彼女は口を尖らせて言った。
「……何か用か?」
「別にっ。何にも大した用なんて無いんだから」
昨日は疲れていたのか何も言わなかった彼女だったが、もうすっかり何時もの調子に戻っていた。
彼女がもしも、自分に起こった出来事を全て知ってしまったら、と思うと黒鳥はゾッとする。
やはり世の中には知らない方が良い事がある、と改めて続いていく日常を噛み締めた。
「……今日も遅い。お父さんとお母さんに、あんまり心配かけないでよ」
「すまん。立て込んでいたんだ」
「ふんっ、悪いって思ってるように見えないんだから」
こういう顔だから仕方がないだろう、と言いたくなったが言ったら言ったでまたうるさくなりそうなのでやめておく。
しかし今日は妙に絡むな。どうしたのだろう、と思っていると、何かが胸に軽く叩きつけられた。
「……本気で悪いって思ってるなら、これあげる。勿論、義理なんだから」
「わざわざ作ったのか?」
「入院の所為で、その……バレインタイン過ぎちゃって、家族の分だけでも手作りしたんだから。レンのも一応作っておいたんだから」
彼女の手を見ると、調理中に怪我でもしたのか絆創膏が何枚か貼ってあった。
「それと……あたしが倒れた時、助けてくれてありがとう」
「……世話を焼かせる。大事に至らなくて本当に良かった」
ストレートに受け止められたので、玲奈は口ごもってしまう。
何もかもが手に取られているようなのが悔しくて、彼女はデッキケースを彼に突き付けた。
「そんな事より久々にデュエル! 入院中に新しいデッキ考え付いたんだから!」
「貴様も大概デュエル脳だな。何だ? 手術で頭にコンボノミコンでも埋め込まない限り貴様が僕に勝つ確率は万に一つ無いぞ」
「そんなもの無くても勝てるからァーっ!」
黒鳥は漸く実感する。
そうか。帰って来るべき日常は、こういうことだったのか。
──猶更、死ぬわけには……行かなくなったな。貴様のおかげで、何とかそれを思い出せたよ。なあ──
懐かしい名を呼ぶ。
──ヒナタよ。
※※※
「終わったわねえ。色々あったけど」
「みづ姉、お疲れ様でした」
「クリーチャー退治というのは、あんなに大変なものなのねぇ……まさか、こんなに大きな事件になるなんて」
「──結局」
二段ベッドの下段に潜りながら、紫月は問うた。
「何故、みづ姉は私が戦うのを許してくれたのですか? 私が隠し事をしていると知った時、大分怒っているようでしたが、結局私が戦う事に異議を挟まなかったのはどうしてですか?」
「あら。まだしづには言ってなかったかしら」
「説明も何もないのはどうかと」
「ふふっ。良い先輩を持ったわね、しづ」
「え?」
二段ベッドの上から自分の顔を覗き込んで来る双子の姉。
彼女はにやにやしながら言った。
「白銀先輩があの後全部説明してくれてね。本当に真面目な人だわ」
「そう、ですか」
「でもね、隣に居たブラン先輩が言ってたのは──貴女は自分の意思で戦ってるって事ね」
「!」
「カードゲーム以外で、何かに一生懸命に必死に打ち込む貴女を私は見た事が無かったから。私を守る為、そして何より──先輩達との日常を守る為に戦ってる。そうでしょ?」
「……はい。ですが、止めないのですか?」
「止めないわ。私だって人の事は言えないもの」
彼女は机の上に置いた塔のカードを指差した。
「でも、言葉だけじゃ何とでも言える。貴女がどうして戦っているのか、そしてどんなふうに戦ってるのか、この目で見て判断するつもりだったけど……お姉ちゃんの杞憂だったようね」
「……そう、ですか?」
「ええ。師匠が傷つけられた時、私は結局師匠の病室で泣いてるだけで何も出来なかった。でも、しづはずっと活路を開く為に部室に籠ってた」
「そんな事ありません。あの時、みづ姉が居なければ師匠は死んでましたから」
「オウ禍武斗のおかげよ。でも、最終的に解決したのはしづのおかげね」
「あれは魔術師のカードと、師匠の持ってきたパーツが……」
「それを見て一瞬でデッキを組み立てたのは貴女じゃない」
「……そう、ですかね」
「私の知らない所で、貴女は成長していたみたいね」
微笑む翠月。
しかし、顔を逸らす紫月。
未だに、彼女に黙って危ない事をしていたという後ろめたさが残っていた。
「みづ姉。でも、今回の師匠のような事が起こり得るかもしれないんです。私だって、きっと先輩が言ってないだけで、みづ姉が知らない危ない目に何度も遇っています」
「……そうね。それは確かに問題だわ。だけど、今更引き下がれないんでしょう?」
「!」
「薄々感づいていたわよ。貴女が何かやってる事はね。でも、貴女は私の妹であって私の所有物じゃないもの。確かに危ない事だと思うけど……貴女がやる事にきっと意味があると思うから送り出せるの」
「それは……何故?」
「デュエマ部には、しづが必要だからよ。そしてそれはしづも一緒」
だけどね、と彼女は付け加えた。
「師匠も先輩も貴女を助けられない時は、絶対に私がしづを守るわ」
「……!」
「絶対に偽りは無いわよ。何があっても、ね」
紫月は笑みを浮かべた。
ああ、この人の妹で本当に良かった。
そう思えた瞬間だった。
「……はい、みづ姉」
頷く紫月。
翠月も笑みを零した。
「ところでみづ姉。私は遅れながら皆さんにチョコを配りましたが……みづ姉は桑原先輩に渡すチョコはどうなったんですか?」
「え?」
いきなりの質問に硬直する翠月。
彼女の顔が真っ青になっていく。
「……いけない。師匠の怪我の事で完全に忘れてたぁ!」
「……」
ああ、頼もしいのは良いが、やっぱり抜けているな。
紫月はベッドに顔を伏せながら、つくづく思う。
──天然で、ぽやぽやしてて、忘れっぽくて……でも、私がみづ姉から離れられないのは──
──私が囮をやります! しづと師匠の傍にクリーチャーは寄せ付けません!
死神との決戦に赴く前、自ら囮役を進言した翠月の姿を思い出した。
──きっと、私が頼ってしまうくらい、懐が大きいから……でしょうね。
「ねえ! しづはチョコ配ったの!? しづだけずるいわ! 私にも何か言ってくれれば良かったのに!」
「他人の恋路は邪魔しない方が良いと思いまして」
「……ということは、しづは渡したのね!? 白銀先輩への本命チョコ!」
ぼんっ、と紫月の顔が真っ赤になった。
「何で知って──じゃなかった、何言ってるんですかみづ姉!」
「ほーら当たりよ! やっぱり白銀先輩が一番特別なんじゃない! まあ、私は見てたから分かったわ! これが、きゅーいーでぃーってやつね!」
「何を根拠も無しに、簡単な証明問題の一つも解けないみづ姉の癖に……」
「癖にっ、て何よ! 今そっちに降りてきてやるわ!」
「あっ、みづ姉! ベッドに一緒に潜り込むのはやめてください、みづ姉ーっ!?」
ベッドでじゃれながら争う姉妹。
だが、彼女達の絆は固く、決して解けはしない。
二人の見ていた方向は違えど、その視線は確かに交わっていた。
※※※
「──デュエル・マスターズの歴史が……もうすぐ終わる」
彼女は呟いた。
歯を噛み締め、彼らを見渡した。
「何度となく行われた修正……でも、幾度となく歴史は元に戻って来た。エリアフォースカードがある限り──」
ゴムを弾けば、震えながらもいずれは元に戻る。
だけど、と彼女は呟く。
今のままではまだ何も変わりはしない。
22枚の魔法のタロットカードは決して揃いはしない。
大魔導司の力は全てが揃わなければ抑止力足り得はしない。
そして、今のままで待つのは──糸が切れるかのような終わりの始まりだ。
「──早く……会わないと……間に合わない。あたしの、お爺ちゃんに……!」
デュエル・マスターズは消失する。
それも──決して遠くない、”未来”のうちに。
──NEXT、WildCards最終章「デュエル・マスターズ消滅編」へ続く──!